2020/08/05 のログ
ご案内:「常世寮/男子寮 部屋」に水無月 斬鬼丸さんが現れました。<補足:普通の男子学生>
水無月 斬鬼丸 > 水無月斬鬼丸の部屋。
今の所ルームメイトはいない。
だから今も一人でゴロゴロとしているわけだ。
スマホなんぞをいじりつつ。

バイトがない日というものはどうしても暇になる。
出かける理由がないし、生きたいところが特にあるというわけでもないし…

ご案内:「常世寮/男子寮 部屋」に水無月 沙羅さんが現れました。<補足:身長:156cm 体重:40kg 不死身少女>
水無月 沙羅 > 男子寮のとある部屋の前。
何だかんだ料理の腕前を上げるために通っているこの場所も随分と久しぶりに思える。
ここ数日は来れていなかったから、斬鬼丸も心配しているかもしれない。
そんなことを考えながら、さて何と言い訳したものかとと思いつつ。

インターホンを鳴らす。

「兄さん、居ますか? 沙羅です。」

今日は料理というよりも、いろいろな事の報告に。
同棲したとか、事件に巻き込まれたとか、いろいろな事を話に。
なんとなく怒られそうな気がしている。
悲しませそうな気もする。
あの人はきっとまだ引きづっているのだろうから。

水無月 斬鬼丸 > 「はぁい」

けだるげに返事。
声が聞こえれば、少し身だしなみを確認。
まぁ、ズボンも履いてるしシャツも着てる。もんだいはない…はずだ。

疑うことなく玄関のドアを開ける。

「沙羅ちゃん…?修業期間は終わったのかと思った。
どうかした?」

まあ上がりなよと声をかけつつ。

水無月 沙羅 > 「いえ、料理の修行はまだまだ続けますけど、ここ最近はいろいろあったので。
 えっと、ひょっとしてネットとか見てませんか?
 風紀委員では結構な問題になってたんですけど。」

それだったら一言いれます、と少し拗ねたように頬を膨らませる。

「まぁ、いろいろな報告とか。 あとは、聴きたいことも、在ったので。」

聴きたいことは、まぁおいおい、後でもいい。
スラムに行けばもう一人の方に聞けるだろうし。

とりあえず靴を脱いで部屋に上がる。
今日は制服ではなく私服であった。
家族として会いに来るならこちらの方が自然だろう。

水無月 斬鬼丸 > 「ネットはやってたけど…なんかあった?
風紀とかそのへんは別に興味とかなかったから…」

学校からおしらせなんかがある場合はメールでも来るだろう。
そうでもない…ましてや自分の関与しない組織の情報に興味を示せるわけもない。
沙羅はその組織にいることは分かっているが
何かあった場合は本人から連絡があるだろうと思っていた。
拗ねている彼女が言うように。

「え、なんかあったっけ…。
料理のこととか聴かれても流石に…
まぁいいや、えっと、てきとうに座って」

なんか少し明るくなったかな?なんておもいつつ
麦茶を注ぎ

水無月 沙羅 > 「……えっと。
 とりあえず兄さん、落ち着いて聞いてくださいね?
 いや、もうとっくに感づいているとは思うんですけど。

 彼氏、できました。
 
 今一緒に住んでるんですけど。」

こほん、わざとらしく咳をして少し間をおいてからの、事後報告。
別に言いたくなかったわけではない、いろいろな事件に巻き込まれた挙句に機会を見失っていただけとも言える。
すこしだけ、ほんの少しだけ後ろめたさがあったが、それは隠しておきたい。

この人とフェイエンは未だくっつかないのだろうか、と少し邪推しながら。 

水無月 斬鬼丸 > 「…えーと…?」

突然何を言い出すと思えば。
少しの間、宇宙を背負ったような表情。
そして麦茶を一口。
彼氏?え?あー?

「…あの、お世話になってるってい先輩…だったり?」

努めて冷静に…前に聞いたことのある人物と言ったらこれくらいだ。
これで違う人って言われたらそれこそどうしていいかわからない。

水無月 沙羅 > 「あ、全然気づいてなかったって顔ですね……流石、相変わらず鈍い……。
 えっと、はい。
 神代理央、という風紀の先輩です。
 上司って言ってもいいんですけど、まぁそれは置いておいて。」

こくり、と頷いて肯定する。
昔、あの実験場で一緒だった頃も、この場所で再開した時も。
やはり鈍かったなと思いだす。

「……なんだか、変な顔してますけど、どうかしました?」

そこまでおかしなことを言っただろうか、と顔を覗き込んだ。
どこか別の場所に意識を飛ばしてないか?

水無月 斬鬼丸 > 「あ、いや…うん…沙羅ちゃんに恋人かぁって…ね?
ちょっと色々と感慨深いというか…
料理もたぶんそのためだろうなーとは薄々…

あー、えっと、ともあれ…
おめでとう…でいいのかな?」

妹のように思ってただけあって複雑な心境。
だが、彼女が幸せになるならばそれはむしろ祝福すべきだろう。
彼女の前にも麦茶をそっと差し出して

水無月 沙羅 > 「……おめでとう……で、良いのかどうか。
 私も正直分かってなくて。
 料理もそのため、ではあるんですけど。」

少しだけ、重苦しい空気になる。
言ってもいい物かどうか、少し悩む。
彼はきっと、怒るだろうか、悲しむだろうか。
それとも……。

「それを知るためにもとりあえず、これを見てください。」

取り出したのは携帯用端末、沙羅が普段情報収集用に仕事道具として持ち歩いているデバイス。
風紀委員専用というわけではないが、頑丈に作ってあるものを愛用していた。
それに映し出されている、とあるアップロードされた動画。

『神代理央』が、『殺し屋』に殺害予告をされ、発砲した現場。
沙羅の名前も途中で飛び出すし、何ならすこし別のページを開けば、続報のように沙羅自身にも殺害予告がされていると書かれている。

無関係の人間を無暗に巻き込みたくはない、が。
彼は無関係とも言えないだろう、何しろ自分の身内なのだから。

水無月 斬鬼丸 > 「いいんだって。
沙羅ちゃん、なんか表情柔らかくなったっていうか…
前に来たときよりずっとこう…」

かわいくなった…というのもあれか。
だが、それを言う前に空気の濃度が増したような。
どういっていいものかもわからないのでとりあえずそこで黙っておいた。

「え…知るって…なに…?」

恋人の某を知るためとか一体何を見せられるというのか…
色々アレな動画だったら兄さん立ち直れないかも知れない。
しかし見せられたものは、何やら不穏な…どういう状況かわからないが…
『神代理央』という男の姿…。だが、内情を知らない以上
何を糾弾されていて、どうしてそうなっているのかわからない。

「え?なに…?え?沙羅ちゃんも?えぇ……っと…ぇぇ…」

なんだこれは…どうすればいいのだ…。

水無月 沙羅 > 「そういう事件があって、いま少しバタバタしてる、という報告です。
 兄さんなら私の心配はいらないってわかってるとは思いますけど……。
 それでも何かあった時に困るので、教えておこうと思って。」

予想より斜め上の反応が返ってくるが、まぁそれもそうかと思い直す。
彼にとっては関係ない世界の話なのだ、そう、関係ない話。
縁もゆかりもない世界の話。

少し寂しくなったのはどうしてだろう。

「もしかしたら、斬兄さんも、私の身内だからって狙われるかもしれないから、風紀に保護してもらうのも手かと思って。」

今回訪れた本当の目的はそっちだ。
この人は、そういう世界とは無縁でいてほしいという、自分の我儘。
この人自身、そう言ったモノを望んでいないこともわかっている。

平和に暮らしてほしい、できれば平穏な学園生活を過ごしてほしい。

そう考えると、自分から手を引いた方がいいといっそ突き放した方がいい気もする。

「いきなりで混乱しますよね、ごめんなさい。」

隠し事が多いとこういう時は困るのだな、と頬を掻いて苦笑いする。

水無月 斬鬼丸 > 「そっかぁ……」

まさかそんな事になっているとは。
この島がそんなに平和なところであるとは今更思っていない。
Nullsectorにつれられてスラムに立ち入って
あるいは二級学生であるフェイとであって…それは分かっていた。
そして、風紀に属している以上、彼女がそれとは無関係ではいられないことも。

「あ、うん、いや、大丈夫だよ。
流石に渋谷の奥くらいにでもならないと、こんな派手なことはされないでしょたぶん。
俺ヘタレだからそういう所行かないし…」

心配してくれているのはわかるが…
とはいえ、自分を狙ったところでそれほど相手に旨味があるようには見えない。
目的的にも。
だが、それより、そんなことよりも。

「俺のことよりも…沙羅ちゃんは大丈夫なの?」

守ってくれる恋人がいるとはいえ…その恋人もろともこうなっているのだ。
安全の保証はないだろう。

水無月 沙羅 > 「大丈夫か……って聞かれたら、まぁ。」

なんというべきか、迷う。
大丈夫だ、と言うべきなんだろう。
この場はきっとそれで解決する。
彼は安心を得て、私は報告が終わって、それでこの話はおしまいだ。
只、お互いの日常に戻っていくだけ。

それだけじゃないか。

しばらく沈黙が開く、口を開いては、何も言えずに閉じてを何回か繰り返して。

「……大丈夫なわけ、無いじゃないですか。」

誰かが蓋を開けてしまった感情は、それを閉じ込める事を許さなかった。

「大丈夫じゃないですよ。 私、結構頑張ってきたんです。
 兄さんは知らないでしょうけど、特殊領域コキュトスとか、不死身の化け物とか、日ノ岡あかねとか、いろいろ、いろいろあったんです。
 私は不死身ですから、死ぬ事は無いけど。
 死ぬ事は無いけど……。」

言いたいことが積もりすぎて、言葉に窮した。
突然言われても混乱することは分かっているけれど。

「……流石に、しんどいですよ。
 過去を思い出して、恋人が死にそうになって。
 いろんな人たちが死ぬのを黙ってみているのは。
 辛いんです。」

どうしてこんなことを彼に話しているのかは、自分でもわからなかった。
だから、如何してほしいとかではなく、ただ知っていてほしかった。
自分は辛いのだと、聴いてほしかっただけなのかもしれない。

水無月 斬鬼丸 > 何気なく。
確認のために聞いただけだった。
大丈夫ですと応えてほしいというわけではなかったし
辛いなら辛いと言ってほしくはあった。
あったが…
彼女の感情の本流はそれにとどまらなかった。

それを受けてしまえば目を丸くしてしまう。
当然。

「ご、ごめん……」

苦々しい表情を見せる。
自分が平和な所でのうのうと暮らしている間
彼女は死ぬほど苦しい目に何度も何度も何度もあってきて
それを自分には伝えることなく、頑張って、頑張って、頑張って、切り抜けてきたのだ。
死ななくてもそりゃ辛いだろう。しんどいだろう。
あたりまえだ。そんなこと。

「うん…そう、だね…。大丈夫なわけ無いか。
ごめんね。何も知らなくて…」

でも、それは…知らなかった。
知らなかったから、何もできなかった。
あのときと同じだ。
昔と同じだ。

「今回は、しんどくならないうちに俺に言いに来てくれたのかな…ありがと」

言われたからと言って…だから、どうすればいいのか。
話を聞くかぎり、自分が何ができるか。
下手に首を突っ込めばむしろ邪魔どころか、本当に殺されて彼女の傷になる。
そして、命を狙われている彼女に休めなどと…簡単に言えるわけがない。

「ん、、、っとさ…俺には正直良くわかんないし、ピンとこないんだけど……それでもその
沙羅ちゃん…、沙羅ちゃんが人が死ぬのを黙ってみてるのが辛いってのと同じでさ…
家族がしんどい、辛いっていって、そんな目にあってるのを見てるのは…俺も辛い」

少女の体を軽く抱き寄せて背中を撫でる。

水無月 沙羅 > 「……。」

やはり、言うべきではなかったな、と少し後悔する。
この人を傷つけるだけ。
私の感情のぶつけ先を押し付けただけだ。
エゴを押し付けて、また傷つけた。

あの時と一緒。

「……謝らないでください。 兄さんが悪い訳じゃないです。
 だって、貴方は……。」

首を振った。 これ以上は言うべきじゃない。
どれもこれも、沙羅という人間のエゴでしかない。

彼は『あの時の彼』ではない。

「……そうですね。 兄さんが辛いのも、分かってる、つもりです。
 だから、ごめんなさい。」
 
なんといえばいいのかわからなくて、口を閉ざす。
聴きたいことは、在った。

「兄さん、兄さんは……。」

『助けてはくれないのか。』

でも、そんな言葉は言えるはずもなかった。

「いえ、何でもないです。
 とにかく、兄さんも気を付けてください。
 確かにここは治安は良い方ですし、きっと兄さんなら大丈夫だとは思うけど。
 せめて、自分と彼女くらいは守ってくださいね。」

抱き寄せられることに、罪悪感すら感じている。
背中を撫でる手は、残酷なほど暖かい。
これもまた、自分が守るべきものだと自分に言い聞かせる。

水無月 斬鬼丸 > 「沙羅ちゃんこそ、あやまんないでよ…
俺、なんていうのか……その、ずっとさ…おもってて…
俺、なんかできたんじゃないかって…昔から…
沙羅ちゃんが、ああなったときも…、この島であったときもずっと…」

彼女の背中をなでながら
拙い言葉で、少しずつつまりながらも言葉をつづける。

「辛いのはそうさ。そりゃそう。
沙羅ちゃんと同じだよ。
そうなる沙羅ちゃんをみて…見てるだけで
何もできないっていうのが一番つらいんだ」

絞り出す言葉とはいえ、何ができる?
自分に何が?つか、この子なんて言った?
彼女?え?なに?

「なんでもないわけないだろ!
自分で大丈夫じゃないって言ったくせに!!
教えてくれてもいいじゃないか…助けてほしいときに…察して動けなんて言われてもわかんないからさ…
辛いときは教えてよ。何か、俺にもできるかも知れないじゃないか。
助けられる、かも知れないじゃないか…
あの日…なにもしらずに…沙羅ちゃんの手を引けなかったときみたいに…助けられないまま
沙羅ちゃんが…また、ひどい目にあうのが…一番嫌だよ。
カノ、女かどうかはわかんないけど…すきな人と…家族くらいの心配は…俺にだって…」

つい先程まで感情を吐き出していた少女。
だからこそ分かった。
すぐにそれに蓋をしようとしていることくらい。
だからこの手は離せない。

水無月 沙羅 > 何もできないことは辛いこと。
それは、沙羅自身が一番分かっている。
目の前で苦しんでいる理央を、過去をずっと悔やんでいる目の前の少年を、視ていることしか出来なかった自分がよく知っている。

「だったら……。」

その先は言ってはいけない。

――ダメだ。

「だったら……兄さんに。」

――――ダメだよ。

「あなたに。」

――――――ダメ。

「何ができるっていうんですか!!」

小さい自分の『過去』は、『現在』を止めることは出来なかった。
もう、お互いに小さいままではいられない。
何も知らない、力のない子供ではいられない。
少なくとも、沙羅はその生き方は許されなかった。

「私が助けてって言って貴方に何ができるんですか!?
 怖がって、一歩も動けずにいる兄さんに!
 私が居る場所だって知ってて、どんな場所かだってわかってて
 それでも見て見ぬふりをしてきたのは兄さんじゃない!!
 本当に、本当に心配なら……!!」

一瞬だけ、過去の少女と現在の少女は重なって。

「私をちゃんと見てよ!!」

調べることだってできたはずだ。
電話をかけるくらいできたはずだ。
一緒に居たのだから、此処で出会っていたのだから。
教えてくれなかったから、そう言われるのは。
悲しいというのは我儘だろうか。

思わず大きな声を上げてしまった自分に、大きくのしかかる後悔。

過去を引きずっているのは、自分ではないか。
 

水無月 斬鬼丸 > 頭を思いっきりぶん殴られたような衝撃。
目がチカチカする。
言葉にも物理的なダメージが有るのだなとよく分かる。
心臓だって痛いくらい。
少女の言うことは正しい。

彼女が言うことは何一つ間違っていない。
何ができるか。
何もできない。
見て見ぬ振りをした。
そのとおり。守ってくれる先輩というものに丸投げしていた。
ちゃんと見てよ。
そうだ、見ていなかった。

所詮口だけ。
所詮ポーズだけ。
何もしなかった自分は…そういうものだった。
彼女はそれを知っていた。それだけのことだ。

言葉に詰まる。
視線を落とす。
手が、落ちそうになる。

「ごめん……」

それ以上、何が言えるんだ。
立ち止まった人間の…
安全な場所で、ポーズだけの心配をして
今も言い訳しながら結局何もできない人間の
言葉になんの力があるというんだ。

水無月 沙羅 > 「……もう、帰ります。」

項垂れる少年の手を振り切って立ち上がる。
取り返しのつかない言葉を向けた、言葉の刃が自分にも突き刺さる。
もう、戻れない。

「せめて……フェイエンさんが危なくなった時ぐらい、助けてあげてくださいね。」

今すぐにでも逃げ出したくなる衝動を抑えて、それだけは伝える。
いつかの自分の様な事にはしてくれるなと。
惚れた女位は見ていてやれと。
そう言うしかなかった。

「……さよなら、斬お兄ちゃん。」

抑えられずに駆けだして、扉のドアを開ける。

水無月 斬鬼丸 > 深々と彼女の言葉は刺さった。
自分の不甲斐なさ
情けなさ
弱さ
そのすべてを突きつけられた
平和の中で生きたいと望むことすらもはやできない。
そこから一歩危険へと踏み出すのが彼女の日常だというのなら
自分がそこから出たくないと願うことは悪だった。

自分はただ、平和に生きたかっただけなのに
学生として、日常を過ごしたかっただけなのに
なんで、自分の知らないところで、自分の知らない問題のせいで
すなおに過去に助けられなかった彼女を助けたいと願うことすらできないんだ

体は硬直する。
動けるはずがない。
もう、顔を上げることだってままならない。
だけど

少女の手を掴んでいた。

水無月 沙羅 > 「なんで……」

掴まれる腕に、振り向く。
自分の罪に押しつぶされそうになる。
平和の中を望んでいた少年に突き付けたナイフは確かに刺さった筈で。
これで、さようならになる筈なのに。

「なんで掴んでるんですか……。」

この少年は、それを許してはくれなかった。

「また見なかった振りをすればいいじゃないですか。
 聞かなかった振りをすればいいじゃないですか。
 そうすれば、貴方は平和な日常に戻れます。
 異能も異形も、知ったことかって、目を逸らせるのに。」

貴方はそれを望んでいたのに。
私がぶち壊した。
それなのに。

「どうして引き留めるんですか。」

どうして、諦めさせてくれないのか。
幼い頃の幻想を、捨てさせてくれない。

水無月 斬鬼丸 > なんで掴んだのか
なんで動いたのか
なんで引き止めたのか…

そんなことは…決まっているんだ。

「嫌………だから…」

声が出た。
なんだか、本当に自分の喉を通ってでている音なのかあやしい。
でも彼女の感情が堰を切ったように
自分の思いが溢れているのはわかった。

「沙羅ちゃんを…見ていたいから…
もう、見失いたくないから…
ちゃんと、見せて…ほしいから…」

顔を上げる。
涙は、でない。
そんなもので彼女に掛ける言葉を覆い隠したくない。

「やっと、沙羅ちゃんの助けてって声が聞こえたのに!
無視して戻って…それが平和だなんて…知ったことかなんて…
いえるわけないだろ!!!!」

自分には想像もつかない世界。
自分には想像もできない生き方。
自分には想像も至らない人生。
彼女はそこに生きていて…自分はその苛烈さを理解できていなかった。
だから、ずっと…ずっと聞きたかったのだ。
自分でもわかる合図。彼女の声を。
見ていなかった確かにそうかも知れない。
だが、わからなかったのだ。単純に。
だからこそまっていた。
何年も前から…。
その言葉を。
それを聞いたのだ。

「…やっと、なんだ…
なんもできないかもしれない…でも、あの時から…
やっと、なんかできるかもなんだ…離せるわけ、ないだろ…」

水無月 沙羅 > 「今更……遅いですよ。」

分かっているはずだ、子供には何もできなかったなんてこと。

「もうとっくにあなたの知る沙羅はいないんですよ?」

分かっているはずだ、彼と私では見ている世界が違うってことぐらい。

だから、誰もあなたを責める資格なんてない。

「もう、花畑で遊んでいる私達じゃないんです。」

あなたの可愛い妹は、あの時に燃えて死んだから。

「本当は、助けてほしかった、連れ出してほしかった。
 護ってほしかった。 一緒に居たかった!!」

たった一人の家族に。

「私のヒーローで居てほしかった……。」

颯爽と駆けつけて、大丈夫だよって、いつかのように。
撫でてほしかっただけなのに。

「でも、もうそんな甘いものじゃないんです。
 生き死にの世界なんです。
 私たちの異能は、危険なものなんです。」

だから。

「もう、子供のヒーローじゃいられないんですよ?」

沙羅が憧れた、英雄は現れたりしない。
誰にでも優しい英雄なんて、存在しない。

「それでも、貴方は此方に手を伸ばすんですか?
 彼女と、私と同じ舞台に。」

フェイエンや、沙羅のいる場所に。

「上ってこれるの? お兄ちゃん。 ううん。」

『チェイン・リッパー』

「私たちの最高傑作。」

水無月の呪いから逃げるなら、最後のチャンスだと。
暗に告げる。

力の代償は、余りにも大きい。

水無月 斬鬼丸 > 「なんも…わかってないじゃないか」

少しおかしくなって
思わず笑ってしまった。
彼女の手を掴んだまま、その深刻な言葉を受け止めながらも
懐かしそうな目で。

「いるよ。だから、この手を、掴んだんだ」

少し拗ねたような顔も泣きそうな顔も
我慢強いところだって
昔の面影を残しているのに…この子は何を言っているのか。
この子があの頃とは完全に別人なら、自分の家族と違う何かになってしまっていたのなら
この手を取りはしなかっただろう。
彼女が水無月沙羅だったから、自分の体は勝手に動いた。

「ヒーローなんて、立派なもんには…なれないかも知れないけど…」

あの頃だって、今だって
自分はそんな大層なもんじゃない。
だけど

掴んだ手を引き寄せてただ一人の家族を抱きしめる。
最高傑作、水無月の呪い…そんな事も知りはしない。
それでも…

「俺は、沙羅ちゃんの…お兄ちゃんだからさ」

ヒーローにはなれないかもしれない。
英雄なんて器じゃない。
でも、泣いている妹がそこにいるんだから
手を伸ばさなきゃ嘘になる。
伸ばしたては彼女の髪に触れ優しく撫でた。

水無月 沙羅 > 「兄さんのバカ……ほんと、バカなんだから……。」

抱き寄せられる手に、髪をなでる暖かさに。
小さい頃の幻を見る。

あの小さな花畑の中で、優しく撫でてくれた少年が。

今まさに目の前に立っている。

「遅いよ、バカにぃ。」

「斬お兄ちゃん……私のヒーロー。」

互いの温もりを確かめてから、そっと一歩だけ距離を取った。
これ以上は、彼女に悪い気がする。
自分の彼氏にも。

家族だから、問題ないと言えばないのだけど。
それでも一応節度は守るべきだ。

「今度こそ、守ってくれますか?
 私と、私の大好きな人たちを。」

少しだけ涙ぐんで、それでも微笑んだ。
自分の声にこたえてくれる、その姿が誇らしい。

水無月 斬鬼丸 > 「ごめんな」

あの頃の少女に、そしていま目の前のいる少女に
一言だけ謝って、一度、強く抱きしめた。
そして、自然と力を緩めた。

涙ぐんで、それでも必死に頑張って
今日、今、ここまで…
自分と自分の大好きな人々のために
命も心も削ってきた少女。
最愛の妹。
いじらしく、強く、儚い少女の涙を指で拭って

「守るよ。沙羅ちゃんを…
フェイも…えーと、彼氏さん?も?
あと…ナインと…えーと…」

少し首を傾げ…頭を振って

「沙羅ちゃんが望むものをさ
俺の手が届くなら…守る。
届かないなら走るし、手をのばす」

水無月 沙羅 > 「……そっか。」

「なら、いろいろ教えないといけないね。
 異能の使い方、水無月の家の事。
 今起きている事件について。
 私と、斬お兄ちゃんの本当の関係。」

「ながい、話になるよ。」

沙羅は語るだろう、これまでの過去と、これからの未来。
それは残酷で、悲劇に満ちて、それでも明日を欲する少女の物語。
明日を守るために、全てを捨てた少女の末路。

それでも、最後の最後に希望があると、何処かで信じていたから。

『彼女の英雄』に、最初のプロローグを送ろう。

「……あと、フェイさんのこともいろいろ教えてよね。 お兄ちゃんっ。」

最後にちょっぴり悪戯心と好奇心を込めて。

水無月 斬鬼丸 > 「わかった…整理できるかわかんないけど
とりあえず、全部聞くよ」

話すことのラインナップがあまりにも重たい。
だが、きめたことだ。
長くても、重くても
それを聞く必要がある。自分には。

だが、それを聞くより
まず最初に聞くべきことがあった。
最大の謎とも言える。

「……むしろなんでフェイの事しってんの…沙羅ちゃん…」

プロローグを送るその前に
その悪戯心と好奇心と謎に振り回されるのであった。
そしてそれは、これから先も
立場そのものは今までと変わらなそうだなと思わせるには十分だった。

ご案内:「常世寮/男子寮 部屋」から水無月 沙羅さんが去りました。<補足:身長:156cm 体重:40kg 不死身少女>