2020/07/10 のログ
ご案内:「浜辺」に園刃 華霧さんが現れました。<補足:きっちり着込んだ風紀の制服>
ご案内:「浜辺」にレイチェルさんが現れました。<補足:金髪長耳の元魔狩人。風紀委員の制服を着用。>
園刃 華霧 >  
「アー……」

ちょっと早めに約束の場に座り込む。
相手のことを考えれば、これくらいしておかないと油断ならない。

「ゥー……ャ、しゃーナいな……ウん」

座り込んだまま、ブツブツとつぶやいた。
時間はそろそろ――

レイチェル > 「よう、華霧」

風紀委員の制服に、次元外套《ディメンジョンクローク》を
靡かせながら、現れたのはレイチェル・ラムレイだ。

一体こうしてここに来るのは、何年ぶりだろうか。
前に来た時は、『五代先輩』と一緒だったか。
そして、最初に来た時は、『佐伯貴子』、そして
目の前の少女――『園刃華霧』と一緒だった。


「なーに、ブツブツ呟いてんだよ」

呆れたように、そう口にして腰をちょいと曲げて覗き込むように
華霧の方を見やるレイチェル。
旧友に語りかけるその声はどこまでも穏やかで。

かつて此処で、ビーチボールをぶつけ合っていた時の
激しくも愉快な応酬の名残は、最早感じられない。
それくらいに、時が経ったのだ。経ってしまったのだ。

園刃 華霧 >  
「アっは……来たカー」

顔を向けた先には、見知った顔
来ちゃったか……なんて、流石にそれは言葉にしない
いや、呼んだんだから来るに決まってるんだけれど
決まっているんだけれど

「ひひ、マーちょっトね。
 いヤしかシ……仕事以外デ会うノ、おっそロしく久しブりじゃン?
 ひょっトして貴子チャン以来……?」

もはや、此処を出てしまい今や居ない
そんな二人の友人を思い出しながら……
おどけたように口にする

レイチェル > 「そうだな、貴子と華霧とオレ。
3人で、浜辺で遊んで以来かもな。
 まー、あれから色々忙しくなっちまったからな……」

珍しく、くすくすと笑う。まるで少女のように。
しかしてその瞳は、遠い過去の『あの日』を見ている。
ここ数年は、じっくりと過去を懐かしむ暇もなかった。
だから、今だけは。

「ほれ、ずっと部屋に飾ってた写真。
 懐かしがるだろうと思って、持ってきてやったぜ」

ほらよ、と華霧の前にその1枚の写真を取り出す。
その写真は、風紀の3人で笑い合っている、『あの日』の
写真だ。

園刃 華霧 >  
「……………」

くすくすと少女のように笑う相手
穏やかな声
見つめる先は、遠い『過去』

………ああ
………やっぱりだ

「う、ワ……」

そして、目の前に差し出された『過去』
今でも、ありありと思い出せる「ソレ」
一瞬だけ、『何か』が……揺れる

「ァー……確かニ、なっつカしーナー。
 貴子チャンがくっソ真面目しテさ。生活をシメてサ。
 レイチェルちゃんが無茶ニ突っ込んデって、アホをシメて……
 んデ、アタシは"ドブさらい"、ト。
 意外と分担でキてたヨねー」

へらへらと、薄い笑いを浮かべる

レイチェル > ふっと笑えば写真を次元外套へしまい込む。
『あの日』は、暗闇の中へ吸い込まれていった。

「ドブさらいなんかじゃねーだろ。
 確かにオレの知ってる華霧って奴は、適当な奴だ。
 めちゃくちゃ適当だぜ。
 サボりがちで真面目に働かねぇこともあったし、
 面白けりゃなんでもいいってあちこち走り回ってたし、
 どうしようもねぇ奴だけどさ――」

返すレイチェルは、散々悪態をつく。
その声はどこまでも穏やかで、

「――だからこそ、一緒に同僚《ふうき》やれてんだよ。
 オレも、似たようなもんだからさ」

そう口にして、レイチェルは華霧から視線を外し、海の向こうを見やる。
遠くを見ているようで、どこまでも近くを見ているその瞳は、どこまでも遠くへ
飛んでいくカモメに目を細めた。

 「レイチェルって奴は、乱暴な奴さ。
 書類仕事を嫌って特訓に走ってサボったこともあったし、
 気に食わなけりゃぶん殴るってあちこち走り回ってたし、
 どうしようもねぇ奴さ」

薄い笑いを浮かべる華霧に、両腰に手をやり、そう答える
レイチェル。
ま、お前は似てるって言っても認めねーだろうがな、と付け加え
て、小さく笑い飛ばす。

それは初めての、友人「華霧」への告白だった。

華霧だけではない。背中を、前線を預ける同僚《ふうき》は
いつだって。誰だって。大好きで仕方ないのだ。
そして目の前の華霧は付き合いが長い分、また特別だった。

園刃 華霧 >  
「……」

『過去』はあっさりと、暗闇に消えていった
なら、これからは……

「ひひ、そーハ言うケどサー、レイチェルちゃん。
 確かニ、アウトローってンだっケ?
 そーユー意味じゃ、似てンのかもだケド。
 ヤ、そう考えット貴子ちゃん異質すギっけドさ……」

だからこそ、彼女と、彼女たちは友人となれたのだろう、とも思う
似た者同士と――似てない者同士

「でもやッパ、アタシとレイチェルちゃん、似てないヨ。
 ほラ、レイチェルちゃん最近丸クなッテなイ?」

じっと、一点を見つめる
冗談めかせて
皮肉めかせて

笑う

レイチェル > 「……同性間でもセクシャルハラスメントは成立するんだぜ、ぶっ飛ばされてーか?」

右手を腰にやり、軽く頭を左右に振れば、じとっとした目をするレイチェル。
その顔色もすぐに拭い去られ、穏やかな笑みを浮かべる。
いや、浮かべてしまう。この相手が、この場所が。

「ま、そういうこと……言いたいんじゃ、ねーんだろうよ」

そう口にすれば、華霧の右隣に座る。
右膝を立てて、左足を海へ向けてぐっと伸ばして、リラックスした姿勢だ。

「確かに……お前の言う通りだ、華霧。
 オレは随分と変わっちまったよ。
 オレにとっての『あの日』は文字通りの――」

手元の砂をぎゅっと掬って、海へ勢いよく投げるレイチェル。
放たれた砂は空を落ち、一面に広がる青へと落ちれば何処かへと溶けて消え去ってしまう。
押して返す波に、幾度も揺れながら。
それでも砂粒が同じ場所へと帰ってくることは無い。

二度とは。

園刃 華霧 > 「ひひ、セクハラは昔っかラだロー」

けけけ、と笑う
昔から意外とそういう発言は多かったりした
怒られないのは人徳なのかなんなのか

「……ソうダね。
 でも『あの日』は、帰ってコない。
 二度と、ダ」

流れて 消えていく砂粒をしばし見つめる
…………
そう、『あの日』がアタシの

「で。結局、だ。
 貴子ちゃんは卒業してサ。
 レイチェルちゃんハ、ちょっと引いテ事務仕事。
 ンでもサ。」

そう

「アタシは、結局、ドブさらいのマまだッタ」

変わらないままいたのは
変われないままいたのは
自分だけ

それは――

「よースるに、アタシだケが『どうしようもねぇ奴』のまま、ナのさ。
 ネぇ、レイチェルちゃん?」

そういって、虚空から腕章を取り出す。
風紀の中ではもう、噂は鳴り響いているであろう
『林檎に噛み付いた蛇が絡みついているエンブレム』の―ー

園刃 華霧 > 「だから、こんなこともしちまう」
レイチェル >  
「ああ、『あの日』は帰ってこねぇさ。
 二度と、な」

水底で流され続ける砂粒。
共に眺めて、眺め続けて。
そして、華霧の言葉にはっとさせられるレイチェル。
彼女は静かに、華霧の方へと向き直る。

そうして、目にするのは林檎に噛み付いた蛇。
トゥルーバイツの腕章。
レイチェルとて風紀委員だ。
寧ろ、前線に出ている時よりも裏方に回った分、
その手の情報は逐一、そして素早く手元に届くようになっている。
だからこそ、その腕章を見た時、レイチェルは目を見開いた。


「ドブさらいかどうかは知らねーけどさ、華霧。
 オレも、そしてきっと島を出た貴子も、変わっちまった。
 『変わるしか』なかったんだ」


変わらないままでいたのは
変わらないままでいられたのは
華霧《かのじょ》だけ


「変わらないままで居られるのは。
 自分らしいままで居られるのは。
 それは、一つの強さだろうよ、華霧。
 お前は強かった。少なくとも、オレよりずっと。
 オレは、そうなれなかった」

砂を放り投げた手を、もう一度ぎゅっと握りしめる。
そうして顔の横へと持ってくれば、少しばかり指を離し、
拳を緩める。
砂は零れ落ちて、僅かな白だけがレイチェルの指に残される。
島の情勢は変わる。年月は経つ。
そんな中で、変わるしかない。変わらざるを得ない。
流れに呑まれざるを得ない。重力には抗えない。
時の法則を破壊せしめる彼女ですら、例外ではないのだ。

「なれなかったんだ」

立ち上がるレイチェル。
金色の髪が、潮風に靡いて、透明な青に沿って輝く。

「お前まで、そんな風に変わっちまってどうするよ、華霧……」

海は見ない。『あの日』も見ない。腕章も見ない。
今、この瞬間を生きる2つの輝きに、レイチェルは己の視線を真正面から合わせる。

園刃 華霧 >  
「違うんだなぁ、レイチェルちゃん。
 アタシは『どうしようもねぇ奴』だったから。
 『真理』なんてモンを掴むのも面白かろう、と思っちゃったのさ。
 『他にやることもない』からね。
 強いとか、強くないとか、そういうのでもない。」

へらり、と笑う。
いつもの笑い
いつもどおりの笑い

「変わっちゃいないんだよ、あの頃と。
 アタシは『面白けりゃなんでもいいってあちこち走り回ってた』。
 そういうやつだったろ?」

面白いことは、綺麗な宝石のようで――
だから、走り回っていた。
けれど

結局、スタート地点に戻っただけなのだ
無いものを手に入れようとしていた日々に

「何も言わなかったのは悪かったよ。
 けど、どうにも止めらんなかったんだ。」

『どうしようもねぇ奴』だからさ

レイチェル > 「……なーんだ――」

風に靡く金髪が、彼女の瞳を、表情を、覆って隠す。
しかしそれも一瞬のことで。

「――そういうことかよ」

レイチェルは再び笑う。
口の端を上げて、かつて同僚だった彼女へと、
笑顔を送ってみせる。
それは先のような『あの日』を見た穏やかな笑みではない。
今を生きる彼女へ向けた、彼女なりの笑みだ。
精一杯の、笑みだ。

「珍しく『らしくねぇ呼び出し』をして、
 会って早々『らしくねぇ顔』見せて、
『似合ってねぇ腕章』なんか見せだすから、
 心配したじゃねぇか。なんだよ、いつも通りかよ」

ああ、この少女は変わっていない。
属する組織が変わっても、レイチェルとの関係が変わっても、
何も変わっていない。
ただ面白い、という理由だけで真理を掴もうとしているのだ。
本当に、ただそんな理由で、この少女は。

「同僚として、言いたいことは山程あるさ。
 沢山あるぜ。忠告だってしてぇさ。その『真理』についても、色々とな。
 けど、お前がお前らしく、その道走るってんなら、止められねぇよ。
 止めたいけど、止められねぇ。だって、それがお前の選択なら、
 お前のしたいことなら……」

静かに笑うレイチェル。
その表情は、彼女の背中をそっと押すような、柔らかさを持った笑みだ。

「オレは誰かの人生にケチつけるほど、偉い奴じゃねーからよ」

次元外套を翻して。
レイチェルは、華霧の横を通り過ぎる。

園刃 華霧 >  
目の前に笑顔が咲く
穏やかというだけではない
その笑顔
慈母とも悲哀ともなんともつかない……その笑顔

「そっカ……」

全ての気持ちを一言に込めて、吐き出す。
ああ、もう
どいつもこいつも……

どいつもこいつも……っ

「はぁ……バッかみて …」

ぼそり、とつぶやく
本当に、クソッタレのお人好し共だ
なんて丸くなっちゃったことだろう
なんてぬるくなってしまったことだろう

ああ、もう……

「アー……ちょっと待っタ。
 あトちょっとダケ、いいカい?」

通り過ぎるレイチェルに
背中越しに声をかける。

レイチェル >  
海を背に。

華霧を背に。

『あの日』を背に。

振り返らず。

歩き始めていたレイチェルは、彼女の声を聞けば立ち止まる。

「……何だよ?」

流れる金は、黒のリボンは、静かに揺れる。
静かな筈の波の音が、耳障りなくらいに辺りを包み込んだ。

園刃 華霧 >  
「こレで最後。
 レイチェルちゃん、『あの日』から割ト無理シてルっしょ。
 貴子ちゃん居なクなってサ。
 ……足りテないダろ?」

長い付き合いだからわかる、変化
詳細は知らない
知るわけがない

けれど、付き合いで想像もつくというもの

そして、それが意味するものも、よくわかっている。
だからこれは、蛇足
いや、たぶん冒涜といえるだろう

でも、それでも――


きっちりと着込んだ制服を緩める
無防備な肌が露出される

「……吸ってク?」

レイチェル >  
「ありがとな、華霧。本当に、ありがとな――」

空を見上げる。雲一つない青空が、そこには在った。
何の曇りも、そこにはありはしない。
ただ、風が吹き抜けるだけだ。
そこに、『あの日』の風は、吹いていない。
新しい風が、流れ行くだけだ。


背後では、着込んだ制服を緩める音がする。
ダンピールのレイチェルにとって、血は必要なものだ。
あれから何度意識を失いかけたか、分からない。


真剣な表情で、レイチェルに向かって言葉を放った医者の顔が脳裏を過る。
『あんた、何に成り果てるつもりかね……?』
男は、そう言っていた。


吸ってしまえば、楽になる。
吸ってしまえば、力も戻る。
吸ってしまえば、寿命だって伸びる。

甘えてしまえば。誘いに乗ってしまえば。
あの柔肌に、牙を突き立てさえすれば――


「――要らねぇや」

レイチェルは、振り向かない。
ただ、曇りも翳りもない透明な風だけが、二人の間を吹き抜けるだけだ。

園刃 華霧 >  
答えは、一言
ただ一言

それは、曇りなき空間に静かに響いた

「……そか。
 うん。わかった」

二人の間を吹き抜けていく風は――

それは二人を分かつようでもあり
それは二人を包み込むかのようであり

ただ静かに流れていく

「じゃあな、レイチェルちゃん。
 また」

見つめていた背中は振り返らない
振り返らないその背に、こちらも背を向けて
見ていようがいまいが
手をあげて、ひらひらと振る

………
……

ご案内:「浜辺」からレイチェルさんが去りました。<補足:金髪長耳の元魔狩人。風紀委員の制服を着用。>
園刃 華霧 >  
 


「ァ―、クソ。
 処分、しそコねた……」

悪態をつき、手元のカードを眺める。

――親愛なる友へ 佐伯貴子


「……クソ」


あぐり、と口を開けて

カードねじ込んだ。

ご案内:「浜辺」から園刃 華霧さんが去りました。<補足:きっちり着込んだ風紀の制服>