2020/08/06 のログ
ご案内:「風紀委員会の一室」にレイチェルさんが現れました。<補足:金髪の長耳少女。眼帯と風紀委員の制服を着用。>
ご案内:「風紀委員会の一室」に伊都波 凛霞さんが現れました。<補足:茶の長いポニーテールに焦茶の瞳。制服姿>
レイチェル > 風紀委員本庁の中にある、狭い一室。
ここへは、今日も数多の書類が舞い込んでくる。

デスクに置かれた書類の山の向こう側。
そこにレイチェル・ラムレイは居た。
すっかり慣れきった、いつも通りの光景である。

各種申請書類の山を崩しながら、
一人作業を続けて何時間になっただろうか。

既に、他の者は帰っている。
この部屋で一緒に働いているのは、自分よりも年下の委員達。
『いいから先に帰れよ』と伝えて、
レイチェルは一人でここへ残ることが多かった。
故に今、この狭い一室で働いているのはレイチェルのみだ。

書類の不備を見つけては付箋をつけていく。
今日はそんな作業であった。
デジタルで入力が済ませられるものであれば良いのだが、
技術や時代が進んでいるとはいえ、未だ全てを電子上で処理するには至っていない。
記入漏れ、誤字脱字。一つひとつを丁寧に見て、種類ごとに並べていく事務作業が延々と続いていく。

実のところ、レイチェルはこういった事務作業が嫌いではなかった。
確かに肩は凝ってしかたないが、
書類を一枚片付けるごとに、自分の気持ちも少しずつ整理されている。
そんな気持ちになるのだ。

特に、近頃はまた色々思いを巡らせたくなることがあった。
トゥルーバイツのこと。華霧のこと。彼女とのこれからのこと。
様々な思いを巡らせながら、レイチェルは紙の山をてきぱきと捌いていく。

「――やっと、終わったか」

全ての山を崩してデスクの端へと追いやれば、大きく伸びをする。
一仕事終えた後に、ぐいと背を伸ばすこの瞬間の開放感。
一時の暇に浸りながら、レイチェルは窓の外を見やる。
既に、辺りは暗くなり始めていた。

伊都波 凛霞 >  
コンコン、と小さく軽いノックの音
部屋の入口のドアから発せられるそれの後、入室許可が降りれば一呼吸おいて

「失礼します」

やや緊張している声色の、凛とした声が響く

──比較的くだけた印象で会話しやすい先輩だけど、こういう場所で改まって…となると緊張するもので
ドアを締めて、小さく頭を下げる
下げた頭を戻せば、部屋には一人、一方的によく知った、先輩の顔

「お時間、都合いただいてすみません。ありがとうございます」

忙しい彼女のこと、こうした時間を割いてもらうのもなかなかだろう

レイチェル > さてそろそろ時間の筈だ、と。
視線を窓の外から時計へと移してから数秒の後、
響き渡ったのは小さなノックの音だった。

「入れよ」

ノックへの反応は迅速に。
椅子から立ち上がって、既に帰った委員の椅子を
ころころとキャスターを転がして自らのデスクの前へと運べば、
部屋に入ってきた凛霞に対してにこりと笑いかける。

「そーんな緊張しなくて良いっての。
 リラックスしろよ、別に取って食うようなことはしねぇからさ」

運んできたキャスター付きの椅子の背をぽんぽんと叩いて、
座るように促せば、自らもデスクの裏側へと戻って、椅子へと座る。

「で、凛霞。相談、だったよな? 何か、あったのか?」

視線を合わせれば、とても真剣な眼差しで。
しかし、どこまでも穏やかな声色で。
レイチェルは凛霞に向かい合う。

伊都波 凛霞 >  
ありがたい、この先輩はいつも距離感を縮めてくれる
自分も無闇に近いほうだが真面目さも相まって目上の人にはつい敬語で接してしまう
それ自体が悪いことではないのだろうけど、こういう言葉をかけられるといい感じに力が抜けてくれるのだ

「吸血鬼のレイチェル先輩が言うとなかなか洒落になりませんねえ」

あははと冗談めかして笑って、容易された椅子へとちょこんと座る

向けられる真剣な眼差し
同僚として、後輩として、真摯に対応してくれるこの先輩は風紀委員からの信頼も厚い
だからこそ、色々考えきった末、最後の決断をこの人の前でしようと思ったのだ
けれど、まず言いたいことは……

「そうですね…実は相談の前に…ありがとうございました」

座ったまま、ぺこりと頭を下げる
先程よりも深く、長く

言うまでもなく、トゥルーバイツの一件、それについての話
何人もが手を伸ばした結果、彼らは明日を迎えて…そう、一部の人は救われた、はずだ

「かぎりんとお友達になりました。
 …レイチェル先輩が手を伸ばしてくれなかったら、私の未来のお友達は一人失われていたわけです」

頭を起こすと、そう言って柔らかな笑みを称える
それが心から嬉しいのだと、表情にすべてを表して

レイチェル >  
「はっ、確かにそうかもな。ちょいとこの手の冗談は考えもんだ」

小さく笑い飛ばしながら両腕を頭の後ろへやる。
伊都波 凛霞。あまり言葉を交わしたことはないが、その噂は
遠くに居ても耳に入ってくる。
学園では成績優秀、風紀委員会内での働きも素晴らしいと聞く。
今回のトゥルーバイツの件でも、裏で仲間の為に動いていたと
いう話を聞いていた。


「……あ?」

相談を受ける姿勢だったものだから、突然のお礼の言葉に思わず
気の抜けた声が出てしまう。次いで感心を表す言葉が、
深い頷きと共に、若干の可笑しさを隠さず放たれる。

「話には聞いてたけど、ほんっと真面目なんだなぁ」

お礼。
そんなものを言われるほど、自分が大きなことをしたとは
思っていない。
今回の件は、本当に多くの人間が関わって、何とか手に入れた奇跡。
レイチェルは、皆が積み上げた山を、後ろから背中を押して貰いながら
登って、ひたすら登って、最後にちょっと彼女を引き寄せた程度。

それでも。
このように真正面からお礼を言ってくれる彼女の言葉を
拒否するような無粋な真似をするレイチェルではない。

「ああ、そいつは良かった。華霧にはきっと、多くの友達が必要だからさ。
 何もない状況を生きてきたあいつの空白を埋めるには、オレ一人じゃ
 とてもじゃねぇが、足りやしねぇ。
 だからさ、凛霞。オレからもお礼を言わせてくれ。
 まー……なんつーか、こんな言い方も変かもしれねぇけどさ。
 あいつの友達になってくれて、ありがとう。
 あと……色々、動いてくれたみたいだしな。感謝だぜ」

レイチェルは、心底嬉しそうな顔を見せる。
事件を振り返りながら、両者共に、穏やかな笑みを向け合う。
もしほんのちょっとでも歯車が狂っていたならば、
このような光景は訪れなかった。

それでも、皆で奇跡を掴み取ったから今、この瞬間がある。
レイチェルは、その事実を大切に、改めて胸に刻み込むのであった。

伊都波 凛霞 >  
冗談を冗談と受け取って、笑ってくれる。気さくな先輩である
後輩にとっては頼りになると同時に、安心できるような…人気があるのも納得だ

「ふふ。真面目なのはどうにも性分なもので…。
 
 ──きっと、誰が欠けても今回の結果には繋がらなかったと思います。
 おかげで気づけたことも、沢山。
 風紀委員の仲間だ、ってだけで終わってた関係がそれはもう沢山。
 時には衝突する意見を出し合ったり、時には死地に共に立ったり…
 そんな素敵な人達と、委員会抜きにしても友達になりたいなぁ…って、思いました」

言い終わるとやや照れくさそうに頬を爪先で掻きながら、視線を戻す
そう、目の前の先輩も、そのうちの一人である──

「えと…ここから相談…というか私が行き当たった問題です。
 レイチェル先輩。今回のトゥルーバイツの件に関する"私達みんな"の行動、
 それは風紀委員として正しいものだった、と思いますか…?」

表情を引き締め、問いかける

レイチェル > 「オレだって、気づいたことは多かったさ」

その凛霞の言葉には、レイチェルは大きく頷いた。
本当に、その通りだと感じていた。
だからこそ、目の前の少女がそのことを口にした時には、
レイチェルは心底感心していたのだった。

「正しい、正しくない……ねぇ。
 白黒はっきり決めなきゃ気がすまねぇタイプか?」

ふ、と笑う。高圧的な言葉にもとれる表現だが、
彼女の包み込むような声色はその色を滲ませていない。
寧ろ、真面目の過ぎる相手を気遣うような言葉の柔らかさであった。

組織に属している以上、白黒つけなければいけない場面は多い。
しかしながら、全てを割り切ることは無論、難しい。

では、その一言で放置しておいて問題無いかといえば、
決してそうではない。
常に、向き合う必要がある。
だからこそ、その疑問に行き当たった凛霞という少女の考えを、
聞いてみたい、聞かせて欲しいと。
レイチェルはそう感じていた。

「ま、いいさ。
 どういう思いでその疑問にぶち当たったのか……
 凛霞の考えを、オレに聞かせてくれ」

だからこそ、彼女の話を聞く姿勢を今一度、改めてとる。
椅子に深く腰掛けて、揺るぎのない表情で彼女の言葉を待つ。
質問にはその上で答えようと、瞳に意志を宿して。

伊都波 凛霞 >  
「人の気持ちと行動に白か黒か、0か1か…はないって思ってます。
 でもこの『風紀委員』という組織の行動理念と判断基準には、それが必要ですよね?」

こちらの話を聞く姿勢を見せてくれる先輩の姿に、安心する
それは違う、こうだからこうだ、と突っぱねる姿勢をとらない
心底、この人を選んで良かったと思えた

「私達は今回、所謂『個人の我儘』を押し通しました。
 風紀委員での会議の結果は、トゥルーバイツの件に関してノータッチという結論だったはず。
 勿論全ての人がそうではありませんが、多くの風紀委員が個人の感情で動いた事件だったと思います。
 その時、私が思ったのは……

 私が救いたい、助けたい、守りたい人達、
 風紀委員が救うべき、助けるべき、守るべき人達は、
 必ずしも同じじゃない…っていうことでした」

「風紀委員として在ることで自分が本当に助けたい誰かを、
 見殺しにしなきゃいけない時がいずれ来るんじゃないかって、思ったんです」

──先輩へと向ける、少女が紡ぐ言葉
その端々には小さいながらも迷いや葛藤、恐れというものが混ざっていた

レイチェル > 「ああ、その通りだ。
 だからオレ達は、向き合い続ける必要がある」

レイチェルは内心で納得する。
『完璧超人』などと呼ばれているらしい目の前のこの少女も、
やはり不安を抱いているのだな、と。


「思うに、風紀委員は学園の機械《システム》の一つだ。
 風紀を守る……治安を維持する為の、システムの一つだ。
 オレ達風紀委員という多くの部品によって、機械は動かされている。
 その機械をどのように動かすか……そいつを決めるのは、
 上層部だ」

トゥルーバイツの件で、『風紀委員会としてはノータッチ』という
結論が会議で出たことは、風紀委員に属する多くの者が知るところである。

「機械と風紀の違いは、オレ達部品に、心があるってことだ。
 各々の我儘《エゴ》があって、信念《ねがい》があって。
 それが、当然の形だよな。
 そして、個々の部品が好き勝手に暴走すれば……
 歪になった機械は組織としての体をなさず、機能を失ってしまう」

秩序なき組織は、いずれ壊れる。
歪な歯車を回す、機械のように。

そうして次に放つ言葉を、胸いっぱいの苦しみと共にレイチェルは放つ。
それは、今回の件で自分が見失いかけていたことだからだ。
システムに埋もれて、ただの歯車になりかけて、大切なものを失いかけて
いたのは自分だったからだ。
しかし、だからこそ気づけた。気づけたからこそ、後輩に伝えたい。
そう感じたレイチェルは、真正面から言葉を放つ。

「でも、だ。部品《ひとのこころ》あってこその風紀委員だ。
 そして、目の前で助けを求めている奴が居て、
 それを放っておくのが正しい在り方かといえば、
 見殺しにするのが正しい在り方かといえば、
 それは違う筈だと思う。
 少なくとも、オレは、助けを求める奴を切り捨てること……
 そいつは『オレ』の在り方として違うんじゃねぇかって」

あくまでも『オレ』の意見だがな、と付け足しつつ、
レイチェルは語を継いでいく。

「組織と個人の摺合せは、いつだって課題だ。
 オレだって悩んださ。
 お前の言う通り、風紀委員会は動かねぇって、
 会議で決まってた。
 そのことに加えて、友達の覚悟を否定するだけの勇気がなかった
 オレは、走り出すのに随分と時間がかかっちまったよ」

今回、取りこぼしかけた命があった。
もし、あそこで機械《システム》から飛び出していなければ、
一生の後悔となっただろう、と。

 「結果論かもしれねぇ。
  でも、もしあの時動かなかったら。
 『オレ達みんな』が、動いていなければ。
 本当に大事な仲間を失っちまうところだったんだ。
 だからオレは、友達を助けたい、
 ただ一人のレイチェル・ラムレイとして走ったんだ。
 凛霞も山本も、皆もきっと……同じ気持ちで動いたんじゃねぇかって、
 オレはそう思ってるよ」

そこまで口にして、レイチェルは首を振った。

「人生はいつだって選択と葛藤の連続だよな。
 怖いことだってある。オレもよく分かるよ、凛霞」

それは安すぎた言葉かもしれない。
それでも、レイチェルは少しでも目の前の少女の苦しみをこの場で
分かち合いたかった。それは先輩としてというよりは、
同じ風紀に属する一人の仲間として、だ。

伊都波 凛霞 >  
システムであり、パーツである
故にそこに心の介在する余地は、本来ない
歪に動き始めたなら、それは目の前の彼女の言う通り…システムの不備を招く

「貴女に打ち明けて良かった」

苦笑しながら、そう零す
先輩のような、長くこの組織に在籍した人ですら、そういった葛藤と戦ってきたのだ
まだまだ新米とも言える自分が、同じ問題に立ち塞がられるのは当然なのだと

「『その時』には…やっぱり取捨選択の覚悟が必要ですよね」

「大のために小を切り捨てる覚悟」

「若しくは」

「…小のために大…委員会を切り捨てる覚悟が」

覚悟…彼女の言うように勇気と言い換えることもできるだろう

「…自分で言っててなんですけど、いざそのトキが来るまでわかんないですよね。
 どっちを優先しようか、なんて」

眉を下げ、へにゃっとした笑い
考えてもわからないことはわからない、不甲斐なさや力不足を感じてしまう

「その時その時の自分の感情に任せるのも無責任な気がして…
 色んな人と話して、頼られて、風紀委員を続けよう、って決めたけれど」

「この悩みには、なかなか、こう!っていう感じの解決が見えなくって…。
 ──レイチェル先輩みたいな人でも悩むんだ、っていう…安心感が欲しかったのかもしれません」

レイチェル >  
「あぁ、悩むさ。オレだってただの個人だからな。
 だがな。先輩として難しい問題だの何だの言って、それで終わりじゃ
 幾らなんでも無責任だからな。オレが大事にしている考え方を一つ、
 教えておくぜ。そしてこいつが、お前が最初にオレに聞いた、
 正しかったかって質問への、オレなりの答えだ」

そう口にして、レイチェルはまっすぐに凛霞の目を見つめて、ゆっくりと
言葉を紡いでいく。

「何を取るか、何を捨てるか。
 右の道か、左の道か。
 大をとるか、小をとるか。
 選択の連続の中で、自分の選んだ道が間違ってるんじゃねぇかって
 思うかもしれねぇ。
 正しい道を選ばなきゃ選ばなきゃって、怖くなっちまうことだって、
 あるだろうさ。今後、いくらだって。何度だって。
 でもな、オレはやっぱり、それは違うと思うんだ。
 大事なのは、『今歩いているこの道を正解にする』こと。
 そして、そうする為の努力を惜しまないことなんじゃねぇかってな」

そこまで語って、レイチェルは本当に心の底から、優しい笑顔を浮かべる。
困った笑顔を浮かべる凛霞に対して、それでもまっすぐな笑顔を向ける。


「その意味で、凛霞。今回のお前の働きは、本当に大きかったと思ってるぜ。
 お前は間違いなく、『オレ達が選んだ道を正解にする』為に努力してくれた。
 だから――」

レイチェルはその場で立ち上がり、凛霞へと近寄れば
握手を求めて手を伸ばす。

「――自信持って、風紀やってけよ、凛霞。お前なら、大丈夫だからさ。
 もし、本当に大きな選択が来た時は……また、一緒に悩もうぜ。
 遠慮すんなよ?
 後輩の悩みを一緒に抱えるのが、先輩ってもんだからさ」

伊都波 凛霞 >  
「今、歩いている道を正解にする……──」

思わず、目を丸くする
最初からどちらが正しいか、正しくないか…なんてことはそこまで思っていなかった
でも間違えてしまうのは怖い、責任をもって、自分なりの正解を選ばないといけない…
そんな風に考えていた中への、一石だった

選んだ後で、選んだほうを正解にするために頑張る?なんて
あまりにも単純といえば単純すぎて、全く思いつかなかった

「…っふ、あははっ!
 なんだ、そんなことでも良かったのかな…」

これまでも、たくさん選んできた上で、やってきたじゃないかと
思わず笑ってしまった、思えば足元に転がっていたかも知れない答え
優しく微笑んで、手を差し伸べてくる先輩へと、笑顔を向けながらその手を握り返す

「──ありがとうございます!
 風紀委員も私が選んだ道。それを正解にするため。
 伊都波凛霞、ただひたすらに邁進させていただきます」

ぐっと握手の手に力と、熱を込める
もうきっと大丈夫だ。迷わず歩める。悩みに囚われたなら、こんなにも頼れる先輩や仲間達がいる
そして──

互いが手を離し、姿勢を元に正すと、小さく堰払い

「ところでレイチェル先輩。最近の風紀委員の現場の活動を見てるとわかると思うんですけど…」

机の上に山積みの書類を眺めて、言葉を続ける
そう、足りていない…人手も、広い視野と発言力を持った風紀委員も

「私の、後輩からのお願いです。
 レイチェル先輩、風紀委員活動の現場へ復帰していただけませんか」

力強く、視線を交わしながら言い切った

レイチェル >  
「ちったぁ肩の力抜けただろ?
 だが、『そんなこと』が難しくなることは、いくらだってある。
 だからオレ達には、仲間が必要なんだ。

 だから、頼れ。オレが支えてやるから。
 でもって、オレが困った時は、お前の力を貸してくれ」

そうして、もう一言、本当に彼女に告げたかったことを伝える。
それは、レイチェル自身がこの一件で痛いほど思い知ったことだった。

「凛霞、お前は立派に風紀委員をしてくれてるよ。
 でもな、絶対に忘れるな。
 風紀委員であると同時に……『伊都波 凛霞』であることを
 絶対に、忘れるなよ」

システムを回す力になりつつ、その中に呑まれずに生きる。
レイチェル自身も今後乗り越えていかねばならない課題だ。
だからこそ、彼女へそう伝えるその言葉は、自らへの戒めであり、
この一件への彼女の内での締めくくりでもあった。


そうして一つの話題が終わり、次に切り出されたのは意外な話題。

「それは、オレにまた前線に出ろってことか……」

流れる金の髪を細指で弄りながら、レイチェルは困ったように一瞬
視線を落とす。

「ま……時が来たら、な。必要な時は、オレだって出るつもりさ」

伊都波 凛霞 >  
「そうです。
 レイチェル先輩がそう言うってことは、薄々気づいてるんじゃないですか?
 こんな頻度で事件や問題が起こってる状態が、似てる…って」

もう一度、無数の書類へと視線を投げる
大きなモノだけでもトゥルーバイツ関連に留まらないいくつも事件があった
小さなものであれば、更にその数は多くなるだろう
そして落第街で静かに息づき、活発化しつつある動き

「落第街から消えたロストサイン、
 炎の巨人事件と、クロノス事変、
 そして違反部活フェニーチェの一件…

 その頃私は風紀委員じゃなかったけど、十分に調べてあるつもりです。
 もし…ううん、既に…何か大事が起こってからでは対処しきれない可能性があるんです」

言い終わると、立ち上がって深く深く、頭を垂れる

「今、現場を仕切る風紀委員はまだ未熟です。
 大きな事件を経験していない風紀委員が多く目立つ…私も含めて若輩です。
 レイチェル先輩のような人が、必要なんです」

レイチェル > 「……ああ」

無論、レイチェルは察している。
書類に目を通していれば、嫌でもこの島の状況は入ってくるからだ。
現状既にいつ、大きな事件が起きてもおかしくない。

「だからこそ、後進の育成をしているんだ」

風紀委員に入ってきている新たな力。
彼らの中には、十二分な素質を持った者達が居る。
だからこそ、彼らを磨き上げて来たるべき時に立ち向かえるだけの
力を備えておく必要がある、と。
それが、今のレイチェルの考えだった。
自分とて、いつまでここにこうして居られるか分からないのだから、と。

「お前は、それじゃ不十分だと……そう言いたいんだな」

静かに、淡々と。そこには喜びも怒りも感心も呆れなく。
先の話題の時の声色とは打って変わって、色を見せない声が向けられる。

伊都波 凛霞 >  
「──足りません。
 先輩が経験してきた数々の大きな事件は、
 才能や鍛錬だけで乗り切れるようなものでしたか」

頭をあげ、視線を真っ直ぐに

「想定した訓練や実地の警邏も、経験として数えるに十分なものだとは私は思いません。
 先程お話した通り、そういった事件では得てして選択を迫られます
 風紀委員も人…なれば大きな事件に不慣れな者は迷い、僅かながらも足を止めます。
 …そしてそれは、致命的なのだと思っています。
 故に私達にはすぐに道を選べる、先に立つ背中が…共に困難を乗り越える先達が欠かせない」

「だから、今日はこうして頭を下げに来ました」

もちろん悩みを聞いて欲しかったこともある
けれど風紀委員を続けるなら、その道を選択するのならば…
努力を惜しむなと彼女は言った、自分もそう思った
だからこそするべきことは惜しまず行動する
今の風紀委員に必要なピース……それは経験者だ
それもただの年長者ではない、生え抜きの、叩き上げの経験者
そう考えたならば…レイチェル・ラムレイの現役復帰以外の解答はありえなかった
 レイチェル > 「断る」

まずは鋭く、そう言い放つ。


凛麗の言葉を受けたレイチェルは、数多くの戦いを思い返していた。
炎の巨人事件、フェニーチェとの死闘。
紛れ込んだ島外の犯罪組織との激突。

他にも、様々な戦いを経験してきた。
彼女の銃と魔剣、そして。
時を法則を破壊する異能――時空圧壊《バレットタイム》と共に。
そしてその異能は、彼女の身体に大きなダメージを与えていた。

健康診断の結果。彼女の身体が、致命的なダメージを負っていることが判明したのは
1年前のことだ。
既に、前のように前線に立ち続ければ、命を落とす危険性が高いのだと、
医者の男からは忠告されていた。

だからこそ、このポジションに収まったのだ。
陰ながら、この島の人々を守る為に。


「と、言いたいところだが……」

その為に頭を下げに来たのだ、という凛麗を前に、
レイチェルはため息をつく。そして、観念したように首を落とすと、言葉を続ける。

「現実問題、お前の言う通り、まだまだ経験の浅い風紀委員は多い。
 オレとしても悩んでいるのは事実だ。
 そして、後輩に頭を下げられちゃ頭ごなしに拒否する訳にも
 いかねぇ……。
 前みたいにあちこち首を突っ込む訳にはいかねぇが、
 今後に向けて、前向きに動きを考えてみるさ」

今言えるのは、ここまでだ。
ここが彼女にとって、譲歩できる限界の地点だった。
譲歩といっても、ただ譲るのみではない。
『レイチェル』が『レイチェル』である為には、
それは必要なことに違いはなかった。

故にただ消極的に受け入れるのではなく、
ある種の積極性を持って彼女は凛麗の言葉を受け入れたのだった。

伊都波 凛霞 >  
「…そう、ですか」

肩を落とす凛霞

──思いつく限りの言葉は尽くした
風紀委員の中では新顔でもある凛霞はレイチェルの事情を知らない
事件のことを調べ尽くしたとしても、個人の診断やカルテなんかまでは出てくるわけもなく

彼女…レイチェル・ラムレイの身体のことを、知る由もなかった

けれど、彼女の言葉は続く
それは『断る』というはっきりとした拒絶の言葉を和らげるに十分なものだった

「そう言ってくれる…ということは、やっぱり理由があるんですね」

自分が並べ立てた言葉や情報なんて、彼女は全て知っているしわかっているはずだ
それでもなお前線に出てこないというのは、相応の理由があるのだと、これではっきりした

「──わかりました。今はそれで十分です。ありがとうございます。こんな後輩の我儘にまで耳を貸していただいて。
 迷惑ついで、といってはなんですが」

「このお部屋に私のこと、推薦しておいていただけませんか?
 どうせ貴女の背中を見るのなら、特等席が良いですから」

言い終わると、にっこりと微笑む
後輩としての立場も、この会話の機会も、躊躇することなく利用する
選んだ道を正解とするために、という言葉はどうやら凛霞に在る種の開き直りを与えたようだった

レイチェル >  
「まぁ、な」

理由があると聞かれれば、ぼかした言葉のみを返すしかない。
自分の身体など、どうとでもなれば良いと思っていたいつかの日とは、
変わってしまった。
本当に大切な物が出来た時、人とは弱くなるものだ。

再び前線へ出る。
それは、愚かな選択と言われるかもしれない。
もし貴子がまだ風紀残っていて、自分の身体のことを知っていたら、
間違いなく止めるだろう。
しかし、それでも前に出るのが、
考えてみれば『レイチェル・ラムレイ』だったのではないか。

後輩が願ったこの選択は、きっと間違いではない。
間違いになどしてやるものか、と。
レイチェルは、決意を新たにしたのであった。


「そうかよ。こっちも、お前みたいな優秀な奴が来てくれれば願ったり
 叶ったりだが……忙しくなるぜ? だが、お前が選んだんだからな。
 責任持って、正解にしていけよ」

ここに来て、再びレイチェルはにこやかな笑みを浮かべて凛麗の方を
見やる。

伊都波 凛霞 >  
「当然、背中を見るからには頑張って追いかけさせていただきますから。
 仕事も多そうですしね、やりがいがあるに越したことはありませんよー」

忙しいのは苦にならない、凛霞はよく働く
それでいて最前列で彼女、レイチェル・ラムレイを見ることが出来るのだ
こちらこそ願ったり叶ったり、なのである

「デスクワークなんかも得意ですし、少しでもレイチェル先輩のフリーな時間を作ることにも貢献したいですねえ…。
 ほら、かぎりんなんかとも一緒に遊んだり、したいじゃないですか」

それは風紀委員とはまた別の話ですけどー、と笑って…そういえば立ったままだった。
それでも話したいことはほとんど話せたし、大満足とはいかないまでも答えはしっかりと貰った
今後の話もできた、とあれば十分得るものがあったと言えよう

「それではレイチェル先輩。改めて宜しくお願いしますね。
 出過ぎたことを沢山言っちゃってすいません。ありがとうございました。
 今日はこのへんで失礼します」

迷いや、悩みなんてもう感じさせないようなすっきりとした表情で、
部屋に入ってきた時と同じく小さく頭を下げて、踵を返して部屋の出口へと向かう
呼び止める言葉がなければ、そのまま静かにドアへと手をかけ、退室するだろう

レイチェル > 「華霧との時間ね、そいつは助かるぜ。
 じゃあ今度凛霞も一緒に、スイキンでも行くか。
 なに、ちゃんと奢ってやるからさ」

そう口にして、からりと笑うと、レイチェルは頷いた。
彼女が満足の行く答えを示せたかどうかは分からない。
だがしかし、本当に満足のいく答えを導き出せるのは結局、
自分自身だ。ならば先輩としてできることは、その答えを
見つける手助けをすることだけだ。自分の答えは、示した。
後は伊都波 凛霞という一人の人間が、自らの答えを見つけ
ていくのみ。

大事な後輩、そして一人の大切な仲間が
これからの道を不安なく歩いていけるように、精一杯背中を
押して、一緒に悩んでいきたいと、レイチェルはそう感じていた。
彼女の真っ直ぐな心と葛藤に今回、深く共感を覚えたからだ。

「気にすんな。今日は話せて良かったと思ってるぜ。
 じゃ、気をつけてな」

去っていく凛霞を見送った後。
レイチェルも大きく伸びをして、深く息を吐く。

「オレも掃除だけして、帰るか……」

凛霞をこの部屋へと推薦する書類は、明日にでも作っておこう。
そう考えてPCの電源を切り、書類をあるべき場所へと片付けると、
レイチェルも部屋を出ていくのだった。

ご案内:「風紀委員会の一室」から伊都波 凛霞さんが去りました。<補足:茶の長いポニーテールに焦茶の瞳。制服姿>
ご案内:「風紀委員会の一室」からレイチェルさんが去りました。<補足:金髪の長耳少女。眼帯と風紀委員の制服を着用。>