2020/07/25 のログ
ご案内:「輝く星の下、罅割れた路地の上で」にレイチェルさんが現れました。<補足:金髪の長耳少女。制服に外套、風紀の腕章を着用。>
レイチェル >  
友を探して、どれだけの時間が経ったことだろうか。
息をきらしながら、レイチェルは走り続けた。
昨日から、走り通しだ。
それでも彼女は足を止めることがない。


捲れた路地に、足が引っかかって、大きくバランスを崩す。
転んで、汚れた地面に倒れ込む。
身体を大きく震わせながら、大きく息を吐いて。
無様に転がる彼女のその拳は、それでも勢いよく地面に突き立てられる。
路地を割る勢いで。めり込む勢いで。

「オレは……伝えなきゃならねぇ……」

俯いたまま、レイチェルはゆっくり立ち上がる。
何度でも立ち上がる。

それはただ、己の過ちを正す為に。

それはただ、友の過ちを正す為に。

自分勝手な我儘を、振り回す為に。

自分勝手な彼女を、取り戻す為に。

「何処に居るんだよ、華霧……っ!」

レイチェル > 「……そう簡単に、会わせちゃくれねぇか」

これはドラマではなければ、御伽噺でもない。
手に届く場所にあるものは守り抜く為に走ると決めた。

しかし。
走ったその先に、
守りたいものが居てくれると。
取り戻したいものが居てくれると。

誰が決めた。


「畜生――」

体力の限界など、とうの昔に通り越して、
屍のような身体に鞭打って、走って、転んで、求めて。


「――会いてぇよ、もう一度……」

壁に背を預ける。
俯いたその表情は、影に隠れて。
震える肩を押さえる腕も、また弱々しく。
そのか細い声は、路地裏に響いて、消えていく。

ご案内:「輝く星の下、罅割れた路地の上で」に園刃 華霧さんが現れました。<補足:風紀の制服 手入れの悪い髪 左腕に腕章。腕章のエンブレムは林檎に噛み付いて絡みつく蛇。>
園刃 華霧 >  
物陰に姿を潜ませて佇んでいる。
落第街は古巣。
逃げも隠れも自由自在。

「……ハァ。」

小さくため息。

戻って話せ

端的に言えば、そんな話をされたわけで
そんな話を受け入れたわけで
だがしかし

「……やっぱ、こウ……切り替え、むっつカしーナぁ……」

ぼやく。
気持ちの整理はついたつもりでいた。
しかし、まだこの中に渦巻くものは自分でも理解できていない。

実際にあってしまったら……
何が飛び出してしまうのか、自分でもわからない。

それは――怖い

だから、隠れてしまう。

レイチェル >  
距離は近い。
二人を隔てているのは、
ほんの小さな曲がり角。ほんの小さな心の隔たり。

双方が、胸に思いを込めながら、それでもあと一歩が踏み出せないでいる。
もうあとほんの少しで、手が届きそうな場所に求めるものがあるというのに。


「……謝らなきゃ、いけねぇのにな」

ぽつり、とレイチェルが呟く。
それは、ただの独り言だった。
すぐ近くに、相手が居ることなど全く知らない。


「あいつは、その場に居ただけだった。
 オレは……あいつを置いていっちまった」

そう、それは浜辺で見送ったあの日もそうだ。
背を向けて、彼女から離れていったのは、レイチェルからだった。
彼女は、ただそこに居続けていたのに。
そこで、その背中を見送っていたのに。

「……あいつの空っぽな心を、オレが、オレ達が、
 満たしてやるべきだったのに。手を差し伸べて、
 一歩踏み込んでやるべきだったのに……
 見送るなんてこと、しちゃいけなかったってのに……」

腕を押さえる手に、力が籠もる。
ただでさえ白い指が、更に白さを増して。


「……すまねぇ、華霧」

ぽつり、と。
こぼしたその言葉と共に流れたのは何だったか。
それはレイチェルの足元で弾けて、薄汚れた路地の底を
仄かに輝かせる。


――答える者など、居ないとわかっているのに。

園刃 華霧 >  
「……………」

ああ……聞こえた
聞こえてしまった
聞きたくなかった
聞きたかった

その、言葉

足が、勝手に動く
動いてしまう

踏み出してしまえば
届いて、しまうのに


「……」


手にデバイスを呼び出す
あかねちゃんは まだ健在

なら――

足を、踏み出した

レイチェル > その姿を認める――園刃 華霧。

驚愕。
困惑。
後悔。
そして、幸福。
その全部をひっくるめて、
レイチェルはぎこちない笑みを浮かべる。


「……なんだよ、居たんじゃねぇか」

こんな近くに。
こんな、手の届く場所に。
そしてその手に、デバイスがあることを確認すれば、
レイチェルは問いかける。

「……端末。真理、まだ掴む気で居るのか?」

責めるような口調ではない。
ふっと笑って、それでも悲しそうな瞳を見せて。
ただただ、穏やかな調子で、レイチェルはその語を紡いだ。

「それでもオレに姿を見せてくれたってことは……
 まだ、迷ってるのか、華霧」

園刃 華霧 >  
「……アタシは、聞きに、来た。
 レイチェルちゃんの言葉を。
 こいつを使うかどうかは、それから決める」

デバイスをこれみよがしに持って
起動スイッチを見せつける

そんなつもりは、毛頭ないのに
そんな言葉が出てしまう
そんな行動を見せてしまう

まだ――怖い

こんなものを使わなければ、まともに質問もできない
まったく、情けない
いつものアタシはどうした


「聞かせて、くれ。
 レイチェルちゃんが、なんでこんなトコまで、来たのか」

本当は、自分から言わなければいけないことが、あるのに
紡ぐのは、そんな言葉ばかり

レイチェル >  
「……分かったよ」

深く頷く。
彼女とは真正面から、ぶつかりたかった。

だからこそ、一歩近づいて、距離を寄せる。


「オレが、ここまで来た理由か……」

その言葉を、繰り返す。噛みしめるように、繰り返す。

「オレは――」

友達だから。
命を失わせたくなかったから。
取り戻したかったから。
もう一度会いたかったから。
一緒に浜辺に行きたかったから。
謝りたかったから。
許したかったから。
本当の気持ちを聞きたかったから。
そして、そして、そして。

砂埃に塗れた制服はそのままに、
レイチェルは彼女のいつになく真剣な、
そしてどこまでも弱々しいその眼差しに、真正面から応える。

「――オレとお前の間違いを、正す為に来た」

そう口にすると、レイチェルは頭を小さく振って、
思い切り袖で目を擦った。

園刃 華霧 >  
「へぇ……?」

・・ ・・
オレとお前の間違い
そう、か……
そう、だな

お互いに、間違ってたんだよな
あの時に


「面白い、じゃん。
 続き、聞かせてよ?」

へら、と……
いつもの笑いを浮かべる
浮かべた、つもりだ

レイチェル >  
「本当なら、止めるべきだったんだ。最初から、お前のことを」

ため息をつくレイチェル。そうして目を閉じれば、そのまま語を継いでいく。

「友達が死ぬかも知れねぇってのに……オレは、お前を見送っちまった」

そこで目を開き、再び華霧を正面から見つめる。
そうして、次の言葉は紡ぐのに少しばかり躊躇して、
それでもと、口を動かして、ぽつりと呟く。

「我儘を言うのが、怖かったんだ」

それは、己の弱さの吐露だった。
己の醜さを曝け出す言葉だった。

「オレは、お前と一緒に居たかった。これからも、ずっと一緒に居たいと
 思ってた。なのにオレは、そんな簡単な気持ちすら、口にできなかった」

ただ、求めればいいだけ。大切な人なら、ただ、一緒に居たいと
口にすればいいだけなのに。それが、できなかった。

「自分の我儘で、お前の覚悟に立ち向かうなんてできないって、
 諦めてた。それは失礼だって、申し訳ないって、そんな権利はないって。
 勝手に、思い違いをしてたんだ」

歯ぎしりの音が周囲に聞こえるような勢いで、レイチェルは奥歯を噛みしめる。それは、自らへの怒り。
心を殺して、己を殺して、偽りの強さに甘えていた、自分への憤怒。

「諦めてばかりだった。ここ最近は、何もかも。
 立場が上になる度、大人になる度、
 自分を表に出すってことが、自分が自分で居続けるってことが、難しくなってきて。
 それが、正しい姿だと思ってて」

『あの時』、浜辺で掬った白い砂を思い出す。
掬った砂は、浜辺に落ちて、他の砂と一緒になって、やがて見失われた。


「今までは、簡単に否定してきたんだ。誰もかれも。
 『違反部活』。『犯罪者』。
 目についたものは何だって首を突っ込んで。
 気に食わねぇ、気に食わねぇってな。
 それで結局最後は、『己』すら否定して……
 その結果、本当に大切なものを失いかけていたんだ」

それが、オレの過ちだ、と。
レイチェルははっきりとした口調で告げる。
その上で再び、告げる。

「だが、オレはもう迷わねぇ。親友のお前に、オレは我儘を言ってやる。
 バカみたいだろうが、幼稚だろうが、構わねぇ。
 格好悪くたって、形振り構わず言ってやる。
 お前の覚悟に対して、精一杯足掻いてやる。思いっきりぶつけてやる。
 オレの我儘は――」

そこで、レイチェルは深呼吸をして、華霧に伝える言葉を紡ぎ出す。
それは見送ったあの時から、彼女にずっと、ずっと、伝えたかった言葉。

「――華霧。お前と一緒に未来を生きたいって、我儘だ」

オレは、お前と一緒に居たい。
たった一言の為に長い時間を要したが、それでも。
レイチェルは目の前の少女へ向けて、そう、口にした。

園刃 華霧 >  
「……」

静かに、言葉を受け止める
全てを聞いた
ああ、もう……本当に……っ
本当に、この……っ

「……ふざけんな!
 じゃあ、あの時のアレはなんだったんだよ!
 つまり、本気じゃなかったってーことか?!

 なーにが、怖かっただ!
 なーにが、思い違いだよ!

 そんなヌルいきもちでアタシを送り出したのかよ!
 そんな、そんな……変わっちまうような気持ちで……!
 あの時の、アタシがどんな気持ちで……ッ」

デバイスを落とした
幼稚に、醜く叫ぶ
渦巻くものが吹き出してくる

「その上、今度はわがまま?
 好き放題いっちゃってさ! 

 だいたい、なんだよ!
 それなら、アタシは間違ってないじゃん!
 間違いを正す、はどこいっちゃったのさ!」

子どものような論理
子どものような言い草
子どものような……

レイチェル >  
「そうだ、お前を止めてやれなかったオレの責任だ。
 大事な友だちを見捨てようとしたんだ。……いや、一度見捨てたも
 同然だ。でも、でもな」

その叫びを、感情の奔流を、レイチェルもまた、全て受け止める。
その上で、続く言葉を目の前の彼女にぶつける。

「間違ってたのは本当にオレだけか?
 真理を掴みに行ったお前は正しかったのか?
 オレは、そうは思わねぇ」

頭を振るレイチェル。その言葉には、確かな意志と『感情』が宿っていた。

「お前の間違いは、華霧」

静かに、重たく。その言葉は、華霧の言葉の奔流に数こそ
負けていたが、それでもしっかりと打ち付けられた柱の如く、
そこに立っていた。

「自分なんか、独りぼっちだって思い込んでたことだ」

もう一歩、詰め寄る。もはや、レイチェルと華霧の距離は目と鼻の先。
手を伸ばせば、触れられる距離にある。


「そしてオレ達を頼らなかったことだ。
 全部、勝手に解決しようとしやがって。
 全部、一人で背負い込みやがって。
 挙句の果てに、真理なんていうものに、乗っかりやがって……」

――ああ、もう本当に。
――本当に、この。

「お前は独りなんかじゃねぇ!
 だから、もっと頼れよ!
 死ぬか死なねぇか、そんな所まで迷ったんなら!
 オレ達に、オレに頼れよ!
 面白いから乗る? ふざけんじゃねぇ!
 困ってた癖に! どうしようもなく追い詰められてた癖に!
 とんでもねぇ賭けに乗っちまうくらい、救われたかった癖に!」

感情の激流。それはどこまでも、我儘で、幼稚で。
ひたすらにまっすぐな。
それは、かつてと変わらぬレイチェルの姿だった。
誰かを否定するレイチェルの在り方だった。

しかし、今のレイチェルは違う。
今の彼女ができることは、否定だけでは決してない。
それは、あたたかくて、穏やかで、包み込むような――


――レイチェルは腕を伸ばす。
感情を剥き出しにした言葉を吐いた後で、自ら腕を伸ばす。
それは、しっかりと抱きしめられる距離で。

園刃 華霧 >  
「なん、だよ……なんだよ、それ……
 なんだよぉ……
 あた、アタシ、だって……
 アタシだって、なぁ……ッ
 アタシだって、頼り、たくて……
 別れを、つげに、いったんだ、ぞっ
 この、ばかっっっ!!!」

差し出された腕に
あと僅かのところで止まり
初めて口にする罵倒を投げつける

それはあまりに稚拙で
どうしようもなく醜く

「いま、いま、さら……物分り、いい、顔、しちゃってさ。
 期限、ギリギリだぞ、あほぉ……っ」

子どものような叫びだった

レイチェル > 僅かの所で止まるその腕を取る。
そして、そのまま――しっかりと、抱き寄せる。

子どものように喚く華霧を、独りじゃないと伝える為に。
鼓動と鼓動をあわせて、確かな生がここに繋がっていることを
確かめる為に。

「悪かった、悪かったよ。
 ごめんな、寂しい思いさせちちまって……
 怖い思いもさせちまって……ごめんな」


なだめながら、大事な存在を二度と手放さぬよう、
その意志を固めるように、確かめるように、

園刃 華霧 >  
 
「あたしは、ただ……
 ぜったい、なくならない、ものが……
 ほしかった……」
 
 

園刃 華霧 >  
眼から、今まで零したことのないものが零れる
あとから、あとから溢れ出てきて、止まらなかった

レイチェル > 「じゃあ、与えてやるよ」

絶対になくならないもの。
真理に頼らなくたって。
奇跡に頼らなくたって。
きっと。

「オレが、お前の居場所になってやる。
 絶対に、もうお前を見捨てたりしねぇ!
 するもんか! だから、だから――」

再び熱い煌めきが、目から溢れて路地に落ちる。
罅割れに染み込み、それを濡らしてゆく。


「――こんなオレで良かったらもう一度、そしてこれからずっと。
 『親友』で、居てくれないか?」

園刃 華霧 >  
「……」

ああ……本当に、欲しかったものは
やっぱり此処にあった

ただ、見落としていただけ
ただ、諦めていただけ
ただ、怖かっただけ

だから逃げてしまった
本当に……
『どうしようもねぇ奴』

園刃 華霧 >  
 
「……うん」
 
 

園刃 華霧 >  
ただ一言、それだけを口にした。

レイチェル >   

「……ありがと」
 
 

レイチェル > 彼女もまた、一言、それだけを口にした。
レイチェル > 不器用な少女達は、ようやく真っ直ぐに、心からの言葉を交わした。

どこまでも続く暗い道。
先など分からぬ道。
いつか、どこかで途切れてしまうかもしれないその道。

それでも。

暗い道は照らせばいい。
先が分からなくても前にだけは進めばいい。
途切れてしまっても、また繋げばいい。

そうすればきっと、道は続いていく筈だ。

見上げれば星空は二人を祝福するように、
こんなにも美しく輝いているのだから。

ご案内:「輝く星の下、罅割れた路地の上で」からレイチェルさんが去りました。<補足:金髪の長耳少女。制服に外套、風紀の腕章を着用。>
ご案内:「輝く星の下、罅割れた路地の上で」から園刃 華霧さんが去りました。<補足:風紀の制服 手入れの悪い髪 左腕に腕章。腕章のエンブレムは林檎に噛み付いて絡みつく蛇。>