大図書館群(常世大図書館とも)の閲覧室の一つ。
巨大な書架がいくつも並び、自習用の机などが大量に用意されている。
それぞれの席に電源があるのでパソコンなども持ち込める。試験期間中は混み合う。

2020/08/09 のログ
ご案内:「図書館 閲覧室」に羽月 柊さんが現れました。<補足:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。くたびれた白衣。小さな白い竜を2匹連れている。>
羽月 柊 >  
懐かしいな、と内心独り言ちる。

教師になってから数日。
講義の内容を考え、手元の資料だけでは足りずに
学園内の図書館へと男は足を運んだ。

書架に整列した本の背表紙を、指でなぞり、
箔押しを爪で引っ掻かないようにして、必要な本を手持ちに入れる。

デジタル化が進んでいるとはいえ、やはり紙の本は良い。

そこに確かなヒトの歩みを、歴史を感じるのだから。
時に指すら刻む、薄い白に、大勢の人が関わるのだから。

双肩に小竜を乗せ、一緒に本を選ぶ。
彼らの立場が保証されて良かった。
1人で選ぶよりも、彼らの意見がある方が間違いなく良い。

羽月 柊 >  
息子を連れて職員室へ行ったり、
魔術授業に卸す竜の端素材の取引で訪れたりなどは
大人になってからも良くあったのだが、
学園内をこうして歩くのは、生徒として通っていた頃以来だ。

今では彼が通っていた当時の教師も少なくなったし、
己の過去を知っているモノも少ないだろう。


まぁ、卒業アルバムが残っているなら、
茶髪茶眼だった頃の羽月柊の姿が見れるかもしれないのだが。

研究職に就くからと、嫌でも本の虫になったモノだし、
先に卒業した"彼女"を追いかけて、机に齧りついた。

ここで沢山本を読んだ。

羽月 柊 >  
…生徒としての学園での生活を、あまり仔細には"思い出せない"

ここで知識をひたすら詰め込んでいたことは覚えている。
当時どの本が自分にとって役に立ったかはよく覚えている。
必要な資料の為の書架も大体は検討がつく。

――ただ、ここでの日常がどうだったかを"思い出したくない"

当時のクラスメイトとどう交流していたのだろう。
当時の教師とどういう会話をしただろう。


…当時の幼馴染であった彼女と、自分は何を話して、どう生活していたのだろう。


少し前に強制的に思い出すことになって、あれよあれよという間にここに居るのだが。
今でも夢のようだと感じたり、どこか現実味が無かったりもする。

嬉しいこともあった、何年越しに心から笑うこともあった。
こうして教師として一歩を踏み出しもした。

それでも、男は――未だ、過去に囚われたままなのは、そう変わることが出来ない。

羽月 柊 >  
人間が変われる最終段階に近いのは20代だ。
その段階でも、自覚して己を変えることには非常に苦労する。
だが確実に変わっていくことは出来るだろう。

では、30代になるとどうなるのか。
ほぼほぼ固まってしまった人格と性格が自分の中に棲みついてしまっている。

そこから己を変えることは、まるで地獄を歩くようだ。


それでも、男は、一歩を踏み出した。

 幾つも幾つも取りこぼして、
 誰かを諦められず、
 万物に解を出すことなんてできずに。

それでも、ひとつづきの地獄を、走り出した。


今まで、学園に近い場所で、近くに居ながら逃げ続けてきた。
目を逸らし、己を罪人とし、自分で灯を消して。

きっと彼は、これからも苦悩するだろう。
きっと彼は、これからも己の運命に翻弄され続けるだろう。

何度も過去に絶望し、未来に僅かな希望を抱き、そうして生きるだろう。


ただこれまでと違うのは、決して"独り"では無いということだ。

あるいは同じ過去を持ち、あるいは助言をもらい、
あるいは互いに支え合って、男は生きていくのだろう。

そう、祈ろう。

 

羽月 柊 >  
柊は本を何冊か持ち、書架の群れから出ようとした。
その目の前を、二人の男女の生徒が通り過ぎて行った。

それ眩しげに桃眼を細め、靴音を鳴らして出てくる。

そのまま閲覧スペースで軽く読み、必要な本を借りる手続きをした。
そして、夏季休暇中の人気の少ない学園から帰っていく。

廊下の窓から差し込む夏の日差しに、影を作りながら。

ご案内:「図書館 閲覧室」から羽月 柊さんが去りました。<補足:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。くたびれた白衣。小さな白い竜を2匹連れている。>