2020/08/02 のログ
ご案内:「浜辺」にヨキさんが現れました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/生成り色中折れハット、某有名オンラインRPGのロゴ入り黒Tシャツ、グレーのつなぎ、焦茶の革サンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
ヨキ > ヨキは常世島のイベントというイベントに首を突っ込む。
掲示板で釣り大会の案内を見かけて、当日を楽しみにしてきたのだ。

そして今日は、絶好の釣り日和!

いや。
実際のところ、釣り日和かどうかは分からない。
ヨキは釣りに関して全くの素人である。
おかずの一品程度に釣れたらいいな、の気持ちで、小さめのクーラーボックスは持参した。

でも男の子たるもの、往年の少年漫画よろしく「フィーッシュ!」と叫んでみたい気持ちはある。

借り受けた道具一式のレクチャを受けながら、紺碧の目がきらきらと輝いていた。

ヨキ > 手にした釣竿を握り締める。
この一本に命運が掛かっているのだ。

「……………………、」

キリッとした顔。

これが漫画なら格好よく投げ入れるところだが、他の糸と絡まっては大変だ。
「とうっ」という控えめな一声と共に、海面へ投げ入れる。

「はてさて、どうなるかのう……」

クーラーボックス同様に持参した、小型のアウトドアチェアに腰を下ろす。

こうして、ヨキの孤独な戦いが始まっ――

「おや、君も来ておったのか。互いに頑張ろうな!」

――他の参加者と和気藹々である。
[1d6→1=1]
ヨキ > そわそわとしながら、海面を見つめる。
“#釣り大会参加中”のコメントと共に、写真をSNSにアップする。

「…………」

もし釣れたら、今夜の夕飯は何にしようかな。

「……………………」

もしかしてとんでもない大物が釣れたりなんかしちゃったりして!?

「………………………………」

そしたらとっておきの白ワインを開けよう。

「…………………………………………」

そういえば、常世渋谷のサマーセールにも行かないと……。

「……………………………………………………」

初めは真剣そのものの顔でウキの様子を見つめていたが、だんだん視線と思考が逸れてきた。
時々見知った参加者に声を掛けられたりして、とても緩い雰囲気が漂っている。

ご案内:「浜辺」に羽月 柊さんが現れました。<補足:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。髪をひとまとめにして紺色のTシャツに灰色ズボン。小さな白い竜を2匹連れている。>
ヨキ > そして、いざ獲物が掛かると「フィーッシュ!」どころではないことも思い知った。

「あっ! わっおっ、えっ! 糸!」

竿に突然引っ掛かった手ごたえに、びっくりして椅子から尻がちょっと浮く。

教え子たちが後ろから見守る中、懸命に糸を巻き上げる――

そうして、ぴょこん、と小魚が飛び出してくる。

「うおおおおお!」

歓声。

まるで大物でも釣り上げたかのような興奮ぶりだ。

羽月 柊 >  
正直、釣りなどしたことがない。

『トゥルーバイツ』との対話・交戦から、怪我が治ったのは良かったのだが、
気分転換にと息子や小竜たちに勧められてここである。
肌を焼く気も無かったので、陰で気分だけ楽しもうと思ったのだが――。

今、釣り竿やらを借りて何故自分はここにいるのか。
小竜に袖を引っ張られて看板を見たばかりにこんなことに。
まぁ、彼らも随分と自分の我儘に付き合ってもらったのだから、
今日ぐらいは…余暇を…。

と、それでも夏の日差しが苦手な男は、
釣り場をのそのそと歩いていた。

今日ばかりは魔術の冷気もセイルから禁止令が出てしまっている。暑い。




歩く途中、大賑わいの歓声に思わず視線が行った。

顔見知りであった。
子供のように無邪気に、純粋にこのイベントを楽しんでいる彼がいた。

ヨキ > 堤防の上で、小魚を手にはしゃいでいるヨキの姿がある。
教え子からの歓声と爆笑に包まれて、何とも楽しげだ。

自分の顔よりも小さな魚と、並んで自撮りする。
SNSにアップするときのコメントはもちろん「#爆釣」である。だって男の子だもの。

教え子たちとひとしきり騒いだのち、各々が自分の釣り場へと戻っていく。
独りになったところで、遠目にもう一人、知り合いの姿を見つけて。

「おお――羽月!」

よく通る声。
大きく手を振って呼び掛ける。

羽月 柊 >  
ヨキの朗らかに響く声に、
周囲の彼の教え子や知り合い達が、誰だろう? という視線を投げる。
きっと彼はそれも気にすることは無いのだろう。

照りつける太陽も相まって、眩しく思える。

いや実際眩しい? まぁ、それはそれ。

若干目立ってしまった事に視線を泳がせたが、
名を呼ばれて無視するような男では流石になかった。


「あぁ、貴方か。よくよく楽しんでいるようだな。」

水場用の穴の開いた軽い靴でそちらへ近づく。
なだらかな波の音が近くのテトラポッドに当たり、押しては引いていく。

ヨキ > この教師が大声で知り合いを呼び込むのは、教え子たちも慣れっこ。
じゃあ先生頑張ってね、などという応援の声とともに、岩場や他の堤防へ散っていく。

ルール通り、丁重に魚の口から針を外してやり、リリースする。

「痛かったのう、済まんな。また大きくなってから、ヨキに釣られておくれよ」

まだまだ諦める様子なく、針の先に餌を括り付けて海へ投げ込みながら。

やって来た羽月へ、改めて手を掲げて挨拶する。

「ああ、今ちょうど一匹釣れたところでな。
これから二匹目を狙うところだよ」

ハットの下の表情はにこにことして朗らか。
ペットボトルの麦茶を飲んで、再びアウトドアチェアに座り直す。

「初めてなのだが、楽しいな、釣り。
こんなにのんびりできる時間はそうそうない」

羽月 柊 >  
ぽちゃんと小さな音を立て、魚は海へ帰っていく。

「あぁ、どうも…"人生"を謳歌しているのが伝わってくるとも。
 こちらは今来たばかりでな。俺も初めてだ。」

ヨキの楽しみっぷりに、内心なるほどなと頷く。
釣りをするより魔術を使えばすぐ手に入るのにと、一瞬でも考えた自分が無粋過ぎた。

目の前で釣りを楽しむ彼に、言いたいことはあったのだが、
まぁ今すぐでなくても良いだろう。

くいくいと袖口を口で小竜に引っ張られ、分かった分かったと釣りの準備をする。


「息子や竜たちに気分転換にと言われてな、
 彼ら(小竜たち)を遊ばせるだけと思っていたが、催しがあるとはな。」

ヨキ > 「企画してもらったイベントには、乗らねば損だからのう。

ふふ、確かに君もどう見たって釣りに慣れては居なさそうだ。
互いに、ビギナーズラックというものに期待しよう」

柊が連れたいつもの小竜たちにも、友人のような親しさでちらちらと指を振ってみせる。

「気分転換、良いことだ。
少し前に見た君は随分と、気張っておったものだから」

何気なくそう口にして、にんまり。

「慰労と思って、夏を楽しもうではないか。なあ?」

羽月 柊 >  
「……あの時は本当に、余裕が無かったからな…。
 思い返しても子供のようだったと反省している。
 貴方にも随分と、迷惑をかけてしまった。」

小竜たちは何度か逢ったヨキに慣れたようで、
紅い一角を持った方がそちらに近づく。撫でようと思えば空中で長い尾に触れられるだろう。

柊は少々バツが悪そうにしながら、近くに借りた簡易椅子を展開させて座った。
スラムの時のような、溢れそうなコップでは無かった。
普段通りの起伏の少ない声と表情、しかしそれでも、機微は伝わるかもしれない。

「大概のモノはビギナーズラックで成果が出るとハマるというが…どうだろうな。」

そう言いながら、釣り竿の先をぽいと投げた。
結構適当に。
[1d6→5=5]
羽月 柊 >  
何も考えていなかった。
とりあえず岩陰とかそういう所が狙い目だったようなとか、
そんな齧った知識は一応あるのだが、机上の空論である。

しかしまぁ、時にはそんなモノも当たるモノで、
唐突に竿が引っ張られる。

「……そう釣れ……??」

ヨキ > 「いいや。大人とて、時には余裕を失くすもの。
人生いつ何時も冷静で居られる者など、在りはしない」

近付いてきた小竜――フェリアへ、手を伸べる。
やあやあこんにちは、などと笑いながら、尾にハイタッチ。

「ふふふ。こういうときにこそ、日頃の行いが出ると言うではないか。
釣れても報い、釣れなくとも楽しめれば報い。……」

のんびりと当たりを待っていたヨキの竿の横で、柊の竿が揺れる。

「おお! 羽月、言っておる傍から! 頑張れ羽月!」

やいのやいの。
まるで自分のことのように手に汗握っている。

羽月 柊 >  
ヨキの言葉に返事を返したかった。

返したかったのだが、竿が、いや、これはちょっと。


「こ、これ、……まって、くれ、1人で引けないぞ……ッ。」


ぐいぐいと竿を引っ張られる。

羽月 柊は、魔術が無ければただの三十路の人間だ。
しかも普段魔術に頼っているので、筋力は人並みかそこらだ。

そもそも焦ると言霊で魔術も発動できない。

椅子から立ち上がって歯を食いしばり、竿とリールを回すのだが、
海に引っ張られそうな勢いで振られる。


相手はなんなんだ化物か???


尾を撫でられたフェリアも柊の近くに居たセイルも、周りを飛んで鳴いて応援。
声援は嬉しいのだが…。

ヨキ > 「そんなに!?」

これはもう、自分の釣果を待っている場合ではなかった。
借り受けていた竿受けに釣竿を固定して、椅子から立つ。

「ほれ、羽月! 竿は押さえておいてやるから、巻け巻け!」

地面にしっかりと足を踏ん張って、柊の釣竿を掴む。

二人掛かりで竿を持つ大人。
ヨキははらはらとしながらも、興奮した様子で水面と柊とを見遣っている。

「ははは! 小竜たちも応援してくれておるではないか。
逃してはならんぞ!」

羽月 柊 >  
魚も大物となると、大人二人がかりでも振り回されたりは良くあること。


「あ、あぁ、ありがとう……っ」


人間となったヨキの現在の膂力はいかがなモノか分からない。
ただ柊が言うように、人間では竿が持って行かれそうな程強かった。

リールをぐっと巻けば、少し遠くで大きくバチャンと水が跳ねる。

濡れるとかは最早頭から飛んで行っていた。


暫く格闘は続く。

二人の様子に周りが気付き、集まって来る。

ヨキ > 素人とは言え、ヨキの腕力は魔力仕掛け。
独りで支えるときよりも、いくらか楽にはなるはずだ。

「あっ! 今向こうで跳ねたの見たか? でかかったぞ!」

でかいと言ってみたかったこともあるが、これは確かに自分の小魚よりもずっと大きな気配があった。

柊からも、水面を凝視するヨキの横顔が期待に輝いていることがはっきりと判る。

「ふ、ははは! その調子だ羽月、負けるなよ!」

一心に竿と格闘する柊の様子が、楽しくて、嬉しくて。
周りに集まってきたギャラリに向かって、笑い掛ける。

「すごいぞこれ! ヨキらが魚に負けて海に落ちたら笑ってくれ!」

羽月 柊 >  
何故こんなことに必死になっているのかと、
そんなことすら考える暇が無かった。
普段なら興味の無いことと思っていたはずだ。


ヨキが心から楽しんでいるのにつられ、歯を食いしばっているのに、
どうしてこうも口角が上がってしまうのだろう?

「もう……すこ、し……っ…!」


やがて足元の海水まで魚影が上がってくれば、
周りの生徒たちも網を持ったりして大盛り上がりで引き上げてくれた。

掬い網の中で大きい魚がビチビチと元気に暴れていた。



 どうも、僕カンパチ。 ヒレが現代のより大きい!!


トビウオのような、だがカンパチである。
現代では一般的に40~100cm 大きいモノは2m近くもある大型魚である。
一年通して美味しい魚だ。

ヨキ > 大盛り上がり、大笑いの大歓声。どよめきと感嘆。

「ははっ――あははは! すごいぞ! 正真正銘の大物だ!」

網の中で暴れる魚を見下ろし、羽月の背中を叩く。

「これ、もしかすると優勝争いも狙えるのではないか?
よもや斯様な現場に立ち会えるとはのう……!」

まるでチーム戦みたいに、どうもどうも、ありがとうありがとうと周囲の声援に答える。
けれどそこはヨキのこと、釣ったのは彼だ、と羽月を示すことも忘れない。

興奮冷めやらぬ様子で、スマートフォンを取り出してカンパチを写真に収める。

「なあ羽月。これ、SNSにアップしてもよいか? 友人の大捕り物だからな!」

羽月 柊 >  
陽の当たる場所。表の世界。
自分がもう二度と、戻ることが無いと思っていた――。


 「は……はは…っ、ははは……ッ」


周りの歓声と笑顔に囲まれ、気付けば、男も破顔していた。
心から、そう、一切何も考えず。
少しして気付いたように笑みを仕舞いこむ。少々恥ずかしい。
こんなに笑ったのは……いつぶりだろうか。

「……あ、あぁ…。
 全く、よくよく不意に考えると現実になるのか分からんが、驚いた…。」

SNSにアップしても良いかと言われればますます気恥ずかしい。
しかし、止めてくれというのもなんだか違う気がして、頬を掻きながら頷いた。

「……友人、友人か。
 ………、そういえば、貴方に言うことがあるのを忘れていた…。」

カンパチは釣り具を貸してくれた所に持って行けば捌いてもらえたりするのだろうか。
それともここはキャッチアンドリリースが原則だろうか?

ヨキ > 笑顔に恥じ入る柊とは裏腹に、ヨキはずっと笑っている。
気兼ねなく。屈託なく。心のうちから。腹の底から。

「大丈夫大丈夫、どうせ魚しか写っておらんでのう。
いやはや、良いものを見た。縁起がいい」

柊の了承に、にっこりと笑って写真をアップロードする。
いわゆるリア充御用達の、写真で交流するSNSサイトだ。
添えたコメントは「#友人すごい」「#実は名人だったのでは」「#これがほんとの爆釣」。

満足して、スマートフォンを仕舞い込む。

「どうやら、会場の向こうに調理用の設備が用意されているらしいな。
それとも持ち帰るかね? 君の好きにしてよいのだぞ。

……うん?
ヨキに言うこと?」

隣の自分の釣竿へ戻ってみると、投げ入れたときのまま音沙汰はゼロ。
何やら思い出した様子の羽月へ、首を傾ぐ。

羽月 柊 >  
「……そうだな、魚は後で貴方と分けよう。
 周りが言うように食べれる種のようだからな…。」

営業用の愛想笑い以外、本当にここ数年、心から笑ってはいなかった。
自分でも驚いたのだ、まだ自分にこんな表情が残っていたのかと。

調理場やスタッフが捌いてくれるサービスもあるようだ。
ならば、帰り際に手伝ってくれたヨキと半分にしよう。
自分1人では、釣りあげる事は出来なかったのだから。

スタッフが持ってきてくれた大き目のクーラーボックスに魚を突っ込み、
とりあえずは一息。そして口を開く。


「…あぁ、……『全て取りこぼした』……。」


ヨキはその言葉が、何であるか理解できるだろう。
だが、その言葉には、続きがある。

羽月 柊 >  



 「………そうなると、思っていた。
  もしそう、だったならば…俺は、貴方の前に現れることがもう出来なかったかもしれん。」



 

ヨキ > 「あはは、気にせずとも良いのに。君とカラス君と小竜たちで……。
ああ、でも、折角の機会だ。お言葉に甘えよう。
ヨキも、二匹目が来たら君に分けてやりたいな」

厚意を素直に受け取って、美味そうだな、と笑みを深める。
いかにも頭上に雲めいた吹き出しを浮かべて食卓を想像しているところが、ありありと見て取れる。

アウトドアチェアに座り直す。
柊の言葉に、ぱちぱちと瞬きする。疑うべくもない、あの狂騒の日々の話。

――その続きを聞いて。

ヨキは、不敵に笑った。

「ほう? ……ほう、ほう! それはそれは。
ふはッ、どうやら、釣り以外にも成果があったようだな。
詳しく聞かせてもらっても?」

羽月 柊 >  
「元々礼はしたいと考えていたからな。
 あぁ、受け取ってくれると嬉しいとも。」

突発的な産物だが、礼の一部にでもなればと思う。
正直、目の前の彼には感謝してもしきれない。

一連の賑やかさが終わり、他は笑いながら自分の持ち場へと戻っていく。


…そうだ、自分の言いたいこと。
『トゥルーバイツ』に、彼らと相対すると決めた日から先のこと。
ヨキが、走れと、背中を押した後のこと。


「あぁ、正直、貴方の言うように何度も失敗した。戦闘にもなった。
 治癒魔術では追いつかないぐらい怪我もした。
 ……己の言葉が引き金になったかもしれないと抱くこともあった。
 名も知らず、いくつも取りこぼした。」

椅子に座り直し、そう告げる。
万事が万事、上手く行くなんてことはない。

上手く行くと自分でも、思っていなかった。

奇跡など起こり得ないと。

「………最後だ、本当に最後。『穴』の所に居た子が居た。
 名前は…貴方なら知ってるかもしれん。『葛木 一郎』という子だ。」

もしかすれば、ヨキは彼を、知っているかもしれない。
もしかすれば、ヨキは学園で尋ねられたかもしれない。

 『羽月 柊という先生を知らないか』と。

ヨキ > 「これは何とも、思わぬ収穫だ。
ふふ、これは酒が美味くなるぞ」

機嫌よく、自分たちの竿へ戻っていく人々を見送って。

再び、羽月と二人で並ぶ。

波音、潮風、二人の声。

「葛木――ああ、」

ふは、と噴き出す。

「彼……そうだったのか。
ああ、これはこれは、もう少し彼の話を聞いてやれば良かったな。

先日、『羽月柊という先生を知らないか』と問われてね。
確かに知った名だが、教師ではない、と答えた。

君を訪ねてくるなど珍しいと思っていたが――
そうか、そういうことだったのだな」

得心がいった顔で、空を仰いで笑う。

「彼、随分と熱心に人捜しをしておったからな。
それで――君は『先生』になることにしたのかね?」

羽月 柊 >  
「あぁ、やはり勘違いされたままなのか俺は…。」

今でも思い出すと、自分の無謀さに驚くぐらいだ。

「…彼の『願い』は、『彼ら全員を救いたい』だった。
 俺と同じで、既にもう手遅れで、取りこぼして、
 どうにもならず、『真理』で彼らを救おうとした。」

話ながら途中、竿を引き上げて、
餌が喰われていたのを苦心して付け替え、また海の中へと投げ入れる。

「貴方は言っただろう、『ひとりひとりの彼、彼女と語れ』と。
 失敗を繰り返し、まずは名を問うた。穴に落ちるかもしれずとも彼に近づいて、姿を見た。」

……あの時は、本当に、己の命すら投げ出しかねないほど、必死だった。

「『自分は何も成せない』、『諦めたくない』と言う彼に、
 ……正直、俺は必死だった…。

  あかね
 『彼女』に認められ、彼らの近くに立つほど、
 俺や彼らと同じ喪失や空白を抱くほどの葛木に、俺は――自分を見た。
 葛木もまた、俺に、自身も見た。俺と葛木はまさに写し鏡だった。」

思い出し、記憶をなぞり、話は続く。

葛木 一郎。彼が抱えたのは、『仲間はずれ』
彼が抱えた願いは、『トゥルーバイツ"全員"を救いたい』というモノ。

眼前で煌めく金眼を、黄泉の穴からの風でなびくショートカットの髪を、よく覚えている。

ヨキ > 「ああ。君は駆け回ってくれるだろうと――ヨキは信じておった。
君ならきっと、己の役割を最後まで果たすだろうとな」

堤防に打ち寄せる、規則正しい波の音。
自分もまた試しに釣竿を引き上げてはみるものの、餌は食い付かれた様子もなくそこにある。

「そうか。写し鏡……。
それでいて尚、君は一人の人間である彼と、向き合うことが出来たか」

先ほどより遥かに落ち着いた声音ではあったけれども、嬉しげな調子は変わらない。

「『トゥルーバイツ』は、壊滅を免れた。
君や葛木君の願いは――叶わずとも、全くの無為には終わらなかった。

完璧ではなくとも。
それは間違いなく、君が救った大事な一人だ」

おめでとう羽月、と、語り掛ける。

大きな魚が釣れたときとは打って変わって、静かな声。
隣の柊へ笑い掛ける顔は優しい。

羽月 柊 >  
「恐らく彼だったから拾い上げられたというのは、大きいとは思う。
 ああ、たった一人。けれど、他の誰でもない彼だ。
 ……それで、俺は。」

思い出すにも少々クサイ台詞だと、自分でも思うのだが。
時折むず痒そうに唇がもごもごとする。

「彼は、俺よりも深い場所、彼らと近い場所にいた。
 実際に彼らの隣に立って、一つとして同じではない彼らの空白と、願いを見ただろうと。

 最初は俺は葛木に、"彼らの物語を綴る"ことを求めた。
 だがそれでは自分が成せないと言った…。だから、

 『俺の前にいる事で"葛木 一郎は成している"』
 『物語に自分が登場してはいけないというルールがどこにあるのか』
 『物語を綴り、君自身の物語を』
 『例えエゴかもしれずとも、誰にも物語を知られなければそれこそ"救われない"』

 ……そう、話した。
 俺の考えつく限りの"対話"で、同じだからこそ…1人が重荷なら、"共に背負う"と。」


葛木 一郎。かずら。
フウセンカズラの花言葉は、『あなたと共に』


「そうすればだ。『貴方の物語を誇ってください』と。
 『たった一人でも救えるモノがあった』、
 失敗するのが初めてだから、『あなたが先生をやってくれ』と。
 『先生の話で救われる学生、少なくないと思います』……という感じで、勘違いされた訳だ。」

海風で纏められた紫髪の先が揺れる。
語り口は、普段の淡々とした口調と少し違う。
少々自信が無さげで、葛木一郎が言ったように誇ろうと努力しているような。

ヨキ > まるで信じられない話を聞いたかのように、しばし目を丸くしていた。
だがそれは、無論のこと柊を嗤うための顔ではない。

「く……、ふふふ。
それは全く、大したものだ。
以前の君からすると、目覚ましい変わりようだとも。

それを昔の君に言っても、まさか自分から出た台詞だとは信じられんだろうな」

柊が尽くした言葉の数々を、またヨキ自身のなかにも染み渡らせるように、じっくりと聞き入る。

「確かに、『先生』と思われても仕方がなかろうな。
それだけ君は、己のうちから言葉を引き出し、また葛木君の話にも耳を傾けることが出来たのだ。

そうだ、羽月。
君はきちんと、誇っていい。己のことを。

たとえ道理から外れた生き方だという自覚があったとしても――
確固たる己を築いていること。それが誇りだ」

気が付けば、釣り大会も間もなく終わりを迎えようとする時刻。
自分の竿で魚は一匹しか連れずとも、良い釣果を目の当たりにした。
一片の悔いもなく、その顔は晴れ渡っている。

「勘違いを、『本当のこと』にしたって良いのではないか。
いずれ君とヨキとが、本物の同僚になるやも知れん」

同僚。過日にも口にした語――つまり、教師のこと。

羽月 柊 >  
「全くだ……今まで、ここまで奔走し言葉を尽くしたことが無い。
 言霊として操る言葉すら、ここまで難しく無い。
 他人を動かす言葉…というのはな。」

あれは、7月25日だから届いた言葉。
全ての言葉と物語に、祝福を。


「…同僚…なるほど。……"日下部"にも教鞭を執れると言われたが、
 この島の職員以上のことを考えたことがなかったからな…。
 正直、どうしたら良いのか俺には分からん。」

そう男はヨキの知る教え子の1人の名を口にする。


もし、その為の一歩の踏み出し方が分かるのなら、
ヨキと彼は同僚になれるのかもしれない。


うみねこが、遠くで鳴いている。

スタッフが寄って来て、先ほどのカンパチをどうするか聞いてきた。
捌いて二等分にしてくれるかと頼む。

ヨキ > 「君の中に、新たに芽吹いたのだよ。
いかなる者にも、真の頭打ちなどない。

君はいつだって、変わってゆける――知らず知らずのうち、変わっていってしまうのさ。
他人と関わり合う以上、否応なしに」

日下部。その名を聞いて、ほう、と目を細める。

「もしかして……日下部理沙か。白い翼のある。
ふふ。彼なら君の教え子にはピッタリだろうよ。

……そうだな、学園の事務にでも尋ねてみては如何かね。
教師はいつでも手が足りておらんからな。さぞや歓迎されるだろうよ」

何とも楽しげに。くくく、と小さく笑った。

「ヨキはいつでも、君を見守っておるよ。教え子と同じように……友の一人としてな。
もしも君が、教師としてヨキに並び立ってくれたなら――次は『崑崙』で酒かな」

崑崙。ヨキ行きつけの、歓楽街の飲み屋。
椅子から立つと、うんと伸びをする。

それから。

道具の片付けをして、山分けにしたカンパチを土産に。
別れる間際、最後の最後まできっと話は尽きなかったろう。

「また、君の話を聞かせてくれ。君の姿を、ヨキに見せてくれ」

そう笑って。それぞれの場所へ、帰ってゆく。

ご案内:「浜辺」からヨキさんが去りました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/生成り色中折れハット、某有名オンラインRPGのロゴ入り黒Tシャツ、グレーのつなぎ、焦茶の革サンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
羽月 柊 >  
「本当に貴方はよくよく知っている。
 夏季休暇中にうちでバイトをしてもらっていてな。
 彼は良い子だ。真面目過ぎるぐらいにな。
 
 …あぁ…仕事の合間にぐらいしか出来ないが、な。」

常世学園。
卒業した後はただの取引先だったのに、
またこうして、男はその場に戻るのかもしれない。今度は、己の物語を語る為に。

あくまで研究者と魔術師の顔はそのままだ。
そうでなければ、ならない。
自分に、どこまで出来るモノがあるのか。
自分が犯した失敗を、他のモノが繰り返さない為に。

「……ああ、また。ヨキ。」


小竜たちに捌いたばかりのそれを一口ずつやり、
自分もまた片付けをして帰路につく。

表情はいつもと同じに戻っていたが、男は確かに、変わっていく。


蝶が彼らの知らない所、小さな薄紅色の花に留まった。


ヒトは皆、独りではない。

ご案内:「浜辺」から羽月 柊さんが去りました。<補足:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。髪をひとまとめにして紺色のTシャツに灰色ズボン。小さな白い竜を2匹連れている。>