2020/08/10 のログ
ご案内:「常夜寮/女子寮 XXX号室(御白)」に御白 夕花さんが現れました。<補足:肩まである白い髪、紅い瞳>
御白 夕花 >  
今日も取りたてて変わったことのない、平穏な一日だった。
この前やった異能検査の結果は特に異常なし。引き続き経過を見るとのこと。
ああいう時でもなきゃ使わないんだから、変化がないのは当然だと思うけれど……
そもそも普通の異能じゃないし、何が起こるか分からないっていうのも分かる。
私にできるのは、この力で他人に迷惑をかけないよう細心の注意を払うことだけ。

お風呂場の脱衣所に入って服を脱いでいく。
今日も暑かったし、ちょっと出かけただけですぐ汗まみれ。シャワーを浴びてさっぱりしたい。
そういえば、風紀委員は泊まりで温泉旅行に出かけてるって小耳に挟んだっけ。
私もほんの一時期だけ風紀委員───正確にはその下位組織的なもの───に所属していたけれど、本当に一時期だけ。
特に風紀のためになる活動もしてなかったし、今は辞めちゃったから関係のない話だ。
それに、あの顔ぶれの中に混ざっていく勇気はとてもない。
特にあの……凛霞さん辺りと並んだら、自信とか色々なものを粉々に打ち砕かれそうだ。
脱いだ服の下、貧相という言葉がお似合いな自分の体を見下ろして、深く溜息を吐いた。

御白 夕花 >  
一人部屋で誰も見てないのをいいことに、服や下着は大雑把に洗濯かごに放り込む。
生まれたままの姿にタオルだけ持って浴室へ。まぁ、生まれた頃の姿なんて思い出せないけれど。
少なくとも髪は白くなかったと思う───なんて。

タオルを隅に置いて、冷たいままのシャワーを手で軽く体にかけてから頭の上に持っていく。
お風呂というよりプールのシャワーを浴びているような清涼感。
そのまま髪全体を湿らせて、シャンプーとリンスを泡立てる。
自分の髪、あまり好きじゃないけれど……お手入れは欠かさない。
新雪のように白い髪と鮮血のように紅い瞳は、私たち異能兵士に共通する特徴。
異能や身体の改造を繰り返される内にこうなってしまった、言うなれば苦しい記憶の象徴。
だからって違う色に染めるのは、皆との繋がりを断ってしまうような気がして、できなかった。

御白 夕花 >  
無心でコンディショナーまで済ませたら、今度は温かいシャワーでしっかりと洗い流す。
いくら夏だからって、冷えた体をそのままにしてたら風邪を引いちゃう。
流し終えたら今度はボディソープを泡立てて、自分で言うのも何だけど、肉付きの少ない体を洗っていく。
昔はあちこち傷だらけだったのに、今では綺麗さっぱり完治している。
どうも並の人より傷の治りが早いらしい。きっと、これも改造の影響だと思う。
こんな体で役に立つことなんて、柔軟なおかげで背中に手が届くくらいだ。
泡を流してさっぱりしたところで、用意しておいたタオルを頭に巻いて髪をまとめた。

「ふぅ……」

シャワーだけで済まそうかとも思ったけれど、お湯も張っちゃったから折角だしと湯船に浸かる。
温泉なんて行けなくても、一人で落ち着けるお風呂の方が私には心地よかった。
一日の疲れが熱めのお湯に溶けるように消えていく気がする。

御白 夕花 >  
「シリウス、カノープス、それからえっと……ベテルギウス……」

肩から上を出した半身浴の状態で防水カバー付きのスマホを取り出して、星の名前を検索。
ナナちゃんと読んだ本によると、星の中でも一際明るいものを一等星と呼ぶらしい。
夏の大三角を形作っているデネブとアルタイル、ベガもそう。
どうしてそんな一等星の名前を調べているのかというと、例の宿題───
私の『ヴィランネーム』を、その中から決めようと思ったから。

「うーん……星の名前なんてかっこ付けすぎかなぁ……」

そうは言っても、他に候補なんて思い浮かばなくて。
いい加減な名前を付けるくらいなら、私が"御白 夕花"としてはじめて好きになれたものから選びたい。
真剣な目でスマホの画面とにらめっこを続ける。

御白 夕花 >  
一等星のリストをスクロールする指が、とある星のところで止まった。

「…………"スピカ"」

またの名を"真珠星"。おとめ座の一等星らしい。
私の誕生日───正確に言うと、私が"御白 夕花"と名付けられたのは8月23日。
12星座のうち、おとめ座にあたるってことは前にテレビの星座占いを見て知っていた。
おとめ座だから"スピカ"……安直かもしれないけれど、いい響き。

「スピカ……うん、スピカ。スピカにしよう!」

誰にともなく言いながら、ぱしゃっと音を立てて勢いよく立ち上がる。
軽い立ちくらみにふらつきつつ、浴槽から出て体を拭く。
疲れと一緒に悩み事が解消したおかげで、いつになくスッキリとした気持ちだ。

太陽のように笑うあの子のことも、月のように優しいあの子のことも忘れない。
私は私として、星のように自分の輝きを誰かの記憶に残したい。
そんな決意を胸に、お風呂を終えた私は寝る支度に取り掛かった。

ご案内:「常夜寮/女子寮 XXX号室(御白)」から御白 夕花さんが去りました。<補足:肩まである白い髪、紅い瞳>