2020/08/10 のログ
ご案内:「裏常世渋谷」にエコーさんが現れました。<補足:白髪金眼。麦わら帽子。真っ白なワンピースドレス。サンダル。ドローン三基で投影中。>
エコー > 気付くと己は森の中にいた。
ドローンを利用した立体投影技術で三次元的出力を行ったのが原因なのか、無機物によるアクセスが祟ったのか。渋谷を小型機で動き回っていたら『こちら』に引き寄せられてしまった。
ドローン三基による解像度の荒い、一昔前のビデオ再生のようにノイズ交じりのエコーははたと瞬きしながら周囲を見渡す。
森、森、どこまで見ても森ばかり。

「おーい、誰かいな~い?」

己の声の反響ばかり響いて、答える声は非ず。
ちょっとしたホラーゲームの導入のようだと非現実的な空間に巻き込まれて実感する。

エコー > 獣も鳥も虫もいない。木を叩けばその形と違って随分鋼鉄めいた音が帰ってくることだろう。叩く真似だけしてみるが、己は非実在的な存在だから実際に触れられるわけでもない、あくまでも真似だけ。

手を後ろに組んで足を伸ばし、ぐっと伸びをする。膨らんだ胸は不安を抱えるよりも期待感に寄せられていた。

「ここ裏渋ってトコロだよね!? うっわー本当にあったんだ!!
 動画投稿サイトは繋がらない?! あ、繋がらない」

己の存在だけでも表示しようとインターネットにアクセスを試みるが、この場所からは届かないらしい。
まあ森だし、圏外かもだし。
ドローンの内一基に積んだカメラでビデオ撮影を試みつつ、ザラついた解像度のエコーは森の中を進んでいく。随分と霧が濃くて前が見えづらい。
足場の悪い獣道だが、歩いているフリをするだけのエコーには無関係。さくさくとサンダルで進んでいく。

エコー > 「電話はダメ? アナログは? モールスは……」

ごごっご……ごごごっ、ごごっ、ごごんごん。
木をドンドンと叩いてみる。硬い金属音が森の中に響き渡る。
無駄に音が良いのがどことなく腹が立つ。この木を伐採して持ち帰れないだろうか。研究所に売り渡せばお小遣いにはなりそうだのに。

「なんてこと! ネットに繋がらないんじゃ私はおしまいじゃない!」

ネットに依存する弱者、ここに至る。自分の等身大の分身を作り出して、手を繋いで抱き合いながら、おーいおいと泣く動作。

エコー > 「なんとかなるかなぁ……なるといいなぁ」

泣くエモートもそこそこに。裏渋谷をドローンが行く。
深淵をより回帰する為、エコーが霧をかき分ける。
泣き言なんて口にしている場合ではない。彼女はそのまま前へと進み――。

出力された上半身の映像が、ぞっ、と大きな何かに一閃されて掻き消された。
後にはドローンが一基、無残に破壊された残骸が残っていた。

ご案内:「裏常世渋谷」からエコーさんが去りました。<補足:白髪金眼。麦わら帽子。真っ白なワンピースドレス。サンダル。ドローン三基で投影中。>