2020/08/11 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」にヨキさんが現れました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/白Tシャツ、黒アンクルパンツ、黒スニーカー、黒リュック、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング、バングル、腕時計>
ヨキ > 夏である。
夏休みなのである。
休日と言えば常世渋谷に繰り出したいのである。

コーヒーショップで買い求めたコーヒー片手に街歩き。
今日は服のサマーセール目当てだったはずだが、気付けば普段使いにピッタリの角皿を購入していた。
怖い。買い物怖い。

そんなわけで、足取り軽くご機嫌――

ではあるのだが、さすがに日中の炎天下。
ビルの日陰に立ち止まって、小休憩。

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に園刃 華霧さんが現れました。<補足:着崩した風紀の制服、手入れの悪いボサボサの髪、首には黒いチョーカー>
園刃 華霧 >  
なんだか最近湧いて出てきたんだかなんだか知らないけれど、
妙なところがあると聞いた。
まあ、面白そうだと思ってろくな前情報もなしにつっこんでみたのだが……

「……うッワ、場違い感ッパないナぁ……」

立ち並ぶ、なんというか……こう、女子っぽい店。
ファッションだ、ネイルだ、アクセサリーだ、なんだかんだ。
かろうじて、スイーツって辺りくらいは自分の圏内に引っかかるんだけど……

「いヤ、無理。マジで、無理。」

思わずボヤいた。
其の上、とても暑い。
赤い制服なせいか、尚更暑い気がする。

なつはあつい
あつはなつい

何言ってるのかわからなくなってきた。

「ァー……どっカできゅーけー……しナい、と……死ぬ、ナ……
 マジで……」

どうしよう。
此処で干からびで死にました、とかなったらとんだ笑いものだ。
省吾くんとかに顔向けも出来ない。

きょろきょろとまさにお上りさん状態であちこち見回す。
あ、そうか。
日陰、日陰だよ!

思わず手近で行けそうな日陰に飛び込んだ。

「……ンぁ?」

そこには先客の姿。
そして、以前に見た記憶のある……それは……

「……ヨッキー?」

思わず、間抜けな声を上げる。

ヨキ > よく冷えたコーヒーがうまい。
汗ばみつつも、日陰はやはり心地よい。

日陰で休憩したい人間は他にもちらりほらり。
都会らしい距離を取りつつ、待ち合わせ、スマホ、水分補給と各々の時間を過ごしている。

そこで新たにやって来た少女の顔に、ふと目を留めて――

「ソノバ君?」

こちらも思わず、声を上げた。

「――おお! これは偶然だ。
あはッ、思ったよりも早く会えたな」

“また会えると思わなかった”ではなく、“思ったよりも早かった”と。
快活な笑顔で華霧を見下ろす。

園刃 華霧 >  
ほんのしばらくぶりにあった其の相手は。その教師は。
“思ったよりも早かった”ときた。
“また会えると思わなかった”じゃなくて、だ。

……まったく、ほんと敵わんなあ。
思わず、頬をかいて少し視線をそらしてしまう。


「いヤ……アタシも…… 会うつモりじゃ居たけド。
 まさか、こンな偶然ばったり、とは思わんカったヨ。」

なんとも言えない微妙な表情。
笑っているような、照れているような。

「そッカ。ヨッキーも夏休みか。
 そりゃソうか。そうダよナぁ……」

そしてようやく落ちてついて相手の様子を見れば、コーヒー片手のリラックス状態。
ああ、そういえば。夏休みってやつだった。
かくいう自分も今日は非番でオヤスミ。
でも私服なんて持ち合わせもないし、いつもの着たきりスズメの制服だ。

「……ンー……ヨッキー。
 時間もらッテもいイ? こノ間の"報告"しようカなってサ」

少し考えてから、口にした。

ヨキ > 「よかった。ヨキもな、あの後ずっと気にしておったのだよ。
ふふ、巡り合わせだな」

恥ずかしげもなく口にする。
先日の報告と聞けば、快く頷いて。

「もちろん良いとも。
買い物は終わったし、ぶらついて帰ろうと思っていたところなのだ。

そうだな、カフェでも入ろうか。
今にも暑くて死にそうな顔をしてる」

飲み掛けのコーヒーをぐっと飲み干して、手近なゴミ箱にきちんと分別して入れる。

「そこの坂を少し下ったところに、レトロで静かな店があってね。
話すには丁度いいだろう」

言って、華霧を促す。
案内するのは、古き良き純喫茶を模したカフェ。
細い路地に面しているとあって、客足は控えめだ。
知る人ぞ知る店、といったところ。

園刃 華霧 >  
素直に案内されてついて行った先。
レトロ、という言葉も存在もろくに知らないが、とにかくなんとなく古い感じの喫茶店。
中に入ってみれば、内部は全体的に茶。
建物もテーブルも椅子も、全て木製で重厚感のあるものだった。

「ハー……」

静かな音楽が、邪魔にならない程度に流れている店内。
思わず、キョロキョロと見回してしまう。
いや、こんなところまた場違いでは?
と、つい思ってしまう。

「……ま、人も少ナいし。
 静かで、いっか。」

いつものしつけの悪さは何処へやら。
思わず神妙に椅子に座り込んでしまった。
なんというか、肩身が狭いというか。
どう振る舞ったものか、見当がつかない。

ヨキ > 通されたのは、窓際の二人用テーブル。
建物の屋根で程よく遮られた光が明るく、空調が利いた店内はとても涼しい。

二人分の水とおしぼりを供された後、メニューを開きながら話を続ける。

「表には他にも『美味しいカフェ』は沢山あるがね。
そちらは何とも賑やかだから、真面目な話には勿体ないと思って。
せっかく、君の大事な話が聞けるんだもの」

大事な、と言いつつも、語調は軽やか。
強張る華霧に反して、何とも寛いだ調子。

「今日は『お疲れ様』の記念だ、ご馳走するよ。
好きなものを頼んで」

メニューに並んだ品は、こだわりが感じられつつもオーソドックスなもの。
コーヒーに紅茶、涼やかなクリームソーダ。
洋食にケーキ、プリンアラモードと、さまざまな種類が揃っている。

少し考えたのち、紅茶とチーズケーキのセットにしようかな、と笑う。

園刃 華霧 >  
「ンー……なるホど、ナぁ。
 って、ウは。そんな大シた話じゃナいよ、ヨッキー?」

『大事な話』なんて言われてしまった。
いやいや、そんなだいそれたもんじゃない、と思わず手をふる。
本当に、ただただこっ恥ずかしいだけの、馬鹿な話。

それでも、そこに"導いた"目の前のこの相手には。
伝えておかねばならない、そう想ったから。それだけの話なのに。

「ァー……うー……ンじゃ、えと……」

借りてきた猫のよう、という言葉がある。
今、まさにそんな感じの状態だった。
いつもであれば、遠慮なく山のような注文を出しただろう。

けれど、今は思案する。
なにを……なにが、相応しいのか

「『オムライス』……」

注文したのはたった一つだった。

「……デ。えと。
 どうシよっか。アレから、を話せバいい?」

注文を終えれば、なんとなく上目遣いに相手を見て聞いた。

ヨキ > 「やあ、あまりハードルを上げてしまっては、君が話しづらいな。
ふふ、済まん済まん」

急かすこともなく、華霧がメニューを選ぶ様子をのんびりと見守る。
そして彼女が選んだのは――

「…………」

目を伏せて、微笑む。
忘れもしない。

「判った」

短く答えて、店員を呼ぶ。

そうして、注文を終えたのち。
店員が下がってゆくと、華霧に向き直って。

「そうだな。あれからどうなったか、知りたい。
順序立ててなくたって構わない。君が話したいように話して」

水で喉を潤し、にこりと笑い掛ける。

園刃 華霧 >  
「ァー……うン。ありがト……
 あレから、色々あっテさ。」

特に何もコメントを差し挟むこともなく、注文は成された。
自分も特にそこにコメントをすることはなく……
次の話をすすめる。

「アん時さ……ヨッキーは
『今、もう一度会えるなら。いちばん会いたい人は、誰だい』
 そう、聞いたヨな。」

自分でも思い出しながら、少しずつ口にする。
あの時の会話は、昨日のように思い出すことができる。
できてしまう。
思い出せば、ものすごく恥ずかしくもあるのだけれど。

「……で、その……あの時、いッタの。聞こエてたカ、はわかンないけド。
 その……レイチェルちゃんに、あの後、割とすグに会った。
 ……いヤ、出逢った」

そう、あの時、ああ言われて。大丈夫といって別れたくせに。
自分から会う度胸は、自信はなかった。
そんな自分に彼女は"会い"にきた。

「全身、ボロボロんなっテさ。 落第街走りマわッテさ。
 あン時のヨッキーみたいに、必死になッテさ……
 そんナんなって……アタシに、さ」

できるだけ、表情を抑える。
平静に、平静にだ。

「そレなのに、アタシは…… デバイスを盾にシて、話、セまってサ。
 ヨッキーに大丈夫って言ったクセに、情けナいったラ……」

自嘲するように笑った。

ヨキ > テーブルの上で指を組み合わせて置き、華霧の話に耳を傾ける。
穏やかな相槌と共に。

「ああ。……名前は判らずとも、君が強く会いたがっていたことはよく判った。
レイチェル君、と言うのだな。

……そうか。
その彼女は、君に会いに来てくれた、のだな」

華霧の自嘲に、小さく二三頷いて。

「――あれは、命にも関わるような日々だった。

そこで、君を丸ごと引っ繰り返すような話になったのだから。
咄嗟に思わぬ行動を取ってしまうことも、さもありなん、だ」

目線はずっと、柔らかに正面の華霧を見守っている。

「続けて?」

園刃 華霧 >  
「うン」

素直に返事を返す。
そう、ここからだ。

「レイチェルちゃんハ、言った。
 『――オレとお前の間違いを、正す為に来た』って」

そう。
お互いにすれ違って、お互いに誤ってしまった。
その、間違いを。

「ヨッキーはさ、『少しくらい、言い合いになったっていい。』ナーんて、言ってタけどサ。
 もー、そっかラひどイの。」

自嘲は恥ずかしがるような笑いに変わる。

「レイチェルちゃんは、『送り出した』のが間違いダって。
 アタシを『止める』なンて『我儘』言えナかったッテさ?
 で、思わズさ。『そんな半端な考えで送り出したの?』って。
 で、そっカら子どもの喧嘩。マ……」

今思い出しても恥ずかしい。

「アタシが、一方的に、アレこれ、言ったンだけど……」

思わず頭をかいた。

「で……まア、うン……
 そレから、ナカナオリ……ね。」

思わず、視線をそらす。

「……『友達』は。
 ……『居心地の良さ』は。
 ……そこニ、あった、ヨ」

ぼそぼそと、口にした。

ヨキ > その後の顛末に、微笑みが少しずつ深まってゆく。
嬉しさに目を細め、はにかんで、唇を噛み締める。

「そうか。子どもの喧嘩、か。ふふ……ふふふ。
そこまでぶつかり合ったのは、恐らく初めてだったろうな?

……素直になれないのは、みな同じ。
相手のためを思うあまり、結果的に誤ってしまう。

『自分のため』と『相手のため』のつり合いが取れてこそ、すとんと納得できるはずなのにな」

くすくすと笑う。

「……よかった。本当によかった。
それを聞けて、ヨキも嬉しくなれる。

おめでとう。それに、お疲れ様。
君は――『見出す』ことが出来たのだな」

ややあって、オムライスと紅茶のセットが運ばれてくる。
それぞれの前に料理が置かれると、食器を手に取って。

「……さあ、『お腹いっぱい』になるといい。
今ならきっと、すごく美味しい」

オムライス。ささやかで、日常的で、それでも叶わなかった夢の料理。
いただきます、と手を合わせる。

園刃 華霧 >  
「うン。そういう喧嘩……初めテ……だっタ。
 泣いタ、のモ……初メて……」

何かのために泣いたことなどなかった。
それはまだ誰にも言っていない話。
気がついたら、素直に言ってしまっていた。

「ンー……そウ、だね。そレは思い知っタ。
 お互い遠慮シて結局、いっちバん大事なとこ逃すとカさァ。
 あかねちんが『オハナシ』を大事にシてタのって、そウいウ意味もアったンかなッテ。
 今はそう想ってル。」

頭をかきながら、なんとも言えない笑いを浮かべる。
照れたような、困ったような。

「うン、ありがと……
 アタシも、まだマだ、だけど……
 ひとまずは、うン。『見出』せタ、かナ」

ついで浮かんだのは、はにかむような笑いだった。
これから……そう、これからだ。

「ン、そウ……だ、ネ。
 いただキ、ます。ダ」

オムライスに手を合わせる。
そして、口に運ぶ。

「ン……うマい。はは」

朗らかに笑う。
花が咲いたかのようだった。

「ァ、そレから。
 そノ後もサ。結構、色々あッテさ。
 『……君には、『接続』すべきものが他にあると思う。』って。
 アレも、確かに……そうダってナって」

行儀悪く、スプーンを片手に報告の続き。

ヨキ > 「そうか。――『泣けた』のだね。
君はそうして、素直になれた。
ヨキが願ったことは、みな君自身が成し遂げられたんだ」

“その場限り”の名を持つ少女が。
大事なもののために泣いたこと。
その話は、ヨキを感嘆させるには十二分だった。

「日ノ岡君は――彼女は、常に対話を大事にしていたからね。
ヨキが彼女の先生だってこと、改めてよく判るだろう」

ポットから紅茶を注いで一口。

「そうか、美味いか。よかった。
ヨキも今晩の夕食はオムライスにしようかな。
美味しそうに食べている人には、ついつい釣られる」

初めて目の当たりにした華霧の明るい笑顔に、満足げな表情。
幸せそうにオムライスを食べる様子が、嬉しくて、嬉しくて。
静かに、穏やかにその様子を眺める。

「ああ。
ふふ、君はよくヨキの言葉を覚えていてくれたのだね。嬉しいよ」

それで? と、話の続きを促す。

園刃 華霧 >  
「ヨッキー、どコまで欲張りに願ってタんだヨ……
 まったくサぁ」

思わず困ったように笑う。
本当に、色々見透かされているみたいで怖い。
怖いけれど、安心もする。
本当に不思議だ。

「いヤ、ほんと……本当に、そウだよ。
 あかねちんのセンセーだナ」

ああ、本当に。
どちらも手強くて……とても、心底、信頼できてしまう。

「はハ。ヨッキー、話によれバさ。
 『オムライス』は『めちゃうめぇ』やつで、『世界だって、取れる』らしイよ?
 勝負食だ。」

オムライスを食べたい、と言う目の前の男に笑って応じる。
そう。勝負食。
だから、アタシはこれを選んだんだ。

「ン……流石に何も無し、はなくテね。アレからしバらくサ、留置所に入ってタの。
 そうシたラさー……こレが、想像以上にお客がきてネ?」

数人は、予想していた。
それぞれの理由で来るだろうことを。

でも、それだけではなかった。
まったく予想もしていなかった人物が何人も訪れてきた。

「本当に……アタシは何も見えてナかったンだなあって……想った。
 『友達』は……一杯、イたのに、さ……
 本当に『馬鹿』ナこと、シてた。」

恥ずかしそうにそれを口にする。
ただ、今度は目をそらさない。
自分の過ちは認めないといけない。

「デ……ま、ようやくこの間、釈放されて。今ってワケ。
 ……ァ」

そこまで言って、一個だけ気がかりなことを思い出す。
でも、これは……うん。口にしたものか。

「ヨッキー、さ。一個だけ。一個だけ。
 アタシの、相談……ってイうカ。判断、聞いてもラって、いい?
 合ってるか、間違っテるかとか。そウいうの、なくテもいいンだ。
 たダ、聞いてクれるダケ、でもいい。
 勿論、なンか言ってもラっても、いい。」

他の誰にも言えない。
だからこそ、目の前の……教師に頼んでみた。

ヨキ > 「ははは。ヨキは我侭で、貪欲で、底なしだとも。
『生徒諸君が、みな己に素直に生きられるように』。

……斯様な、大変さばかりの島だもの。
そう願わずにはおれないのだよ」

悪びれもせず、大らかに笑ってみせる。

「ああ。君の友人が――『彼』が、最後に願ったほどの料理、だものな。
これで君は負けない。これからの困難にも……それから、夏バテにも」

冗談めかして付け加え、楽しげに笑う。

「ほう、留置所か。それはまたご苦労だったな。
……君を訪ねた者はみな、それぞれ君を案じていたのだろうよ。心から。

それを気付けたんだ。
君はあの日会った夜から、ぐっと変わった。
さまざまな経験を経て、揺るぎない“芯”が出来たのだよ」

ケーキを口へ運ぶ。
しっとりとした甘みに、思わず顔が緩む。
見るからにスイーツが好きなのだと判る顔。

けれど、華霧からの頼み事には、真面目な顔をして。

「……『判断』? ああ。ヨキでよければ、聞こう。
それこそ、大事な話だろうから」

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に修世 光奈さんが現れました。<補足:少し茶色に寄った黒髪 同じく色素が薄い黒目 緩いツリ目 制服姿>
園刃 華霧 >  
「まッタく……『真理』に『全部』ナんて願おウとシたアタシよか
 よっぽド貪欲ダな、ヨッキー」

愉快そうに笑う。
本当にスケールの大きなことで頭が下がる。
『一杯あっても、どうせ使わねぇ』……そういった奴が居たけど、
ヨッキーは全部を抱えていくんだろうなあ。

「揺るぎない"芯"……か。
 "空っぽ"なアタシに、芯ができたなら……ソイツは、幸せ、ダな」

照れたように笑う。
まだまだ不安定な気もするけれど……それはこれからの話。

そして――
オムライスを再度口にして……よく咀嚼した。
美味しい。うん、美味しいな……

飲み込む。

「……アタシも、あの時、何人かトゥルーバイツに勧誘した。
 した連中は、結局全員、デバイスを起動したらしい。
 死亡リストに名前が名前が載っていた。」

大事な話を始める。
もう一つの顛末。
もう一つの後始末。

「そレは、アイツラが本当に望ンで挑んダから……アタシも後悔は、なイ。
 けれど……」

思い出す。
一人の少年の姿。

「一人だけ。アタシが勧誘して。でも、ソイツは死にたがってたみたいで。
 だから、結局、アタシから否定して。仲間に入れなかった。
 ……それだけならよかったんだ。でも。
 アタシはその時、本当はソイツと"ちゃんと話してなかった"。
 上っ面だけで勧誘して、"切り捨てた"。
 "失う"ことが、怖かった……アタシが……」

今もまだ続く後悔。
今の悩み。

「だから、もし……と思ってソイツを探したら。たまたま見つけてね。
 話をしてみたら……その時、捨てられたように感じたのか、すごく、傷ついていて。
 そして……色々なことが、アタシに、よく、似ていた。」

色々なところが、まさに鏡写し。
あちらはすべてを失い。
こちらはすべてが無かった。

だから

「アタシは、アタシの人生、全部ソイツにつっこんででも……
 どうにか、してやろうと、思った……
 それが、迷惑だろうと……
 だから、まあ……そんな感じの話をした。」

未だに、それが正しいのか間違っているのか、わからない。
わからないけれど、自分はそうしようと、思った。
そうしなければ、と思った。

「……ン。そういう、話。
 ごめん、なんか何をいいたかったのか、アタシにもよくわかんなくてさ。
 ただ、誰かに聞いてほしかった。」

でも、こんな話は友達には聞かせられない。
これは自分の問題だ。
……こういう気遣いが、ダメなのかもしれないけれど。
でも、自分でけじめをつけたくて……
ああ、頭がぐちゃぐちゃする。

ヨキ > 悪戯めかして、ふふん、とウィンクしてみせる。
それが、ヨキの“芯”。決して変わらないもの。

「芽生えたものは、まだまだ頼りないやも知れん。
これから育ててゆくのだよ、少しずつ。
大らかで居られることは、君の喜びと余裕を増やしてくれる」

笑って――それから、口を結んで。
紅茶を一口飲んでから、ティーカップを置く。

「…………、」

真っ直ぐに、華霧を見る。

「そうか」

ゆったりと、微笑む。包み込むように。

「……その判断が、正しいかどうか。
今はまだ、ヨキにも、君にも、判るはずもない。
もしかすると、一生判らないまま終わるかも知れない。

だがね、一つだけ言えることは――
『続けるしかない』んだ。一度、始めてしまったことは。

もう二度と、“切り捨てる”などということのないように。
続けていくしか、ない」

判じない。断じない。まだ、何も判るはずもない。
それでも、確かなことがある。

「そういう風に、迷ってもいい。悩んでもいいよ。
自信がなくたって、構わない。

そういうときにこそ――他の、周囲の『友達』や『頼れる人』が効いてくるんだ。
君が今こうして、ヨキに吐き出してくれたみたいに。

続けるしかないことには、不安が付き纏う。

だからこそこうして、“分かち合う”んだ」

微笑んで、頷く。

「『ただ誰かに聞いてほしい』――いいんだよ、それで」

園刃 華霧 >  
「……『続けるしかない』」

ぽつり、と言われた言葉を繰り返す。
そうか。
もう二度と、失敗しないように……

そうか。
それだけのことか。

ああ、あの時と同じ。
本当にシンプルで、確かな一言。

「……“分かち合う”」

同じく、繰り返した。
あの時はできなかったこと。
ようやく覚えることができたこと。

少しは、わかってきたのかな……アタシも。

「……そっカ。
 それで、いいンだ。
 それで……」

笑った。
小さく笑った。
ほんの小さく咲き誇る花のように。

「……うン。ヨッキー。
 聞いてくれて、ありがと。
 すっきりしタ。」

晴れやかな顔をしていた。

「はハ。分かち合う、カ。
 ヨッキーは『友達』、『頼れる人』……どっちカね?」

悪戯っぽく笑ってみせた。
そのどちらも、などと心のなかでは贅沢に思ったりはするが……
そこまでは口にしない。

それから

「……なンか、聞いテもらってバッかダな。
 悪い……どう返せバ、いいカな?」

最後に……そう付け足した。
貰ってばかりは気持ち悪い。
それに……これも対話、だ。

ヨキ > 「そうだよ。
君はもう、笑うことも、泣くことも、喧嘩することも出来る。
失敗したって、やり直すことだって出来る。

あとはもう、『続けるだけ』。

続けていくために――こんな語らいのひとときを過ごすために。
友達の家や、喫茶店や、憩いの場があるんだよ」

友達か、頼れる人か。
そのどちらかと問われれば――

「――ヨキは我侭で、貪欲で、底なしだと言ったろう?
『そのどちらも』だよ」

それは奇しくも、華霧が思った通りに。
ヨキ自身の欲望のままに、にやりと笑ってみせる。

「ふふ。お返しなら、もうたくさん貰っているよ。

『友達と仲直りが出来た』。
『人生を懸けてでも、どうにかしたい相手が出来た』。

そういった結果を聞かせてもらうだけで、ヨキは大満足なんだ。

『ヨキの答えを聞き入れてくれること』
『その答えを踏まえて、君が行動してくれること』。
そんなの、他の誰にも手に入らない、ヨキだけの贅沢ではないか」

まるで眩しいものを見るように、目を細める。

「だから――ヨキの前では、そのままの素直な君で居てくれ。
それがヨキからの、頼み事」

園刃 華霧 >  
「あァ……うン。わかッタよ。
 わかったサ、ヨッキー。
 はハ。そッカ。こういウとこも、ただ飯クったリするダケ、じゃ……
 ないンだなぁ……」

いつかのように、目に力が宿っていた。
なんとなく、よくわからない力が湧いてくるようだった。
本当に。あの時の再現のようだ。

「『そのどちらも』……か。マジで貪欲なのネ。
 ひひ。なら……『友達』リスト……載せトくナ」

嬉しそうに、嬉しそうに笑う。
最高に素敵な友達じゃないか。

「ふぅン……やっぱリ、ヨッキー変わりモん、なンだナ……
 そッカ……そういウのが好きなんダな。」

眩しいものを見るような目。
本当に、この相手は『人間』を楽しんでいる。
成長し、進んでいく人間を。

なら、アタシも進んでいかないと……なのかな。
と、思ったところで――

<素直な君で居てくれ>

「……ゥ……」

ひねくれ者で、あまり行儀の良いとも言えない自分。
人をからかってばかりで、本音をはぐらかす自分。
そんな自分が、この相手だと色々なものをつい、さらけ出してしまう。

それも全て、見越されているんだろうか。
恐ろしく恥ずかしいし……やっぱりちょっと怖い。

けれど

「うー……わカった……よォ……」

照れながら、『素直に』答えた。

ヨキ > 「ふふ。よくよく考えてみれば、空恐ろしいものだろう?
こんな数えきれないほどの営みが交じり合って、『街』というものが成り立っているのさ」

笑う。

周囲を見れば、さまざまな人びとが、それぞれのペースで和やかに語り合っている。
自分たちの知らない人生を、生きている。

「ありがとう。
良いリストには、どんどん載っていきたいものだね」

変わり者、だなんて評も平然と笑い飛ばす。
まるきり光栄だと言わんばかりに。

「あはは。そうだよ。ヨキはきっと、変わっているのだろうよ。
そうでなくては、この常世学園の教師を続けてなど居られないさ」

ケーキと紅茶を楽しみながら、照れる華霧へにやりと不敵に笑む。

「無論のこと、ヨキが間違っていると思ったときには、反論してくれていい。
それでこそ、よりよい考えが導き出せるだろうから。

――ふふッ。
『教え子』であることも、『友達』であることも。
ずっとずっと、長続きしてくれればいいね」

そうして――ケーキの最後の一口を、ぱくりと頬張った。

「ヨキは君のことを、ずっと見ておるよ。
だから安心して、君の道を進みたまえ。

不安なときや、話し相手が欲しいときには――いつでも振り返ってくれ。
そこには絶対に、ヨキが居るから」

園刃 華霧 >  
「ン……考えテも、みなかッタな」

たかだか島一つ。
それでも無数の人間が居て、無数の人生がある。
その一つ一つが、関わったり、すれ違ったりして、
世界ができあがっていく。

なるほど、確かに恐ろしいかもしれない。
けれど……面白くもある。

そして……
照れに任せて、残ったオムライスを行儀悪くかきこんだ。
もともと大食いなので、これくらいサラッと食べられる。

「ン……そダね。
 アタシもサ、ひねくれモンだから……気に入らンかったラ、教師だっテ噛み付くカんな?
 そンときハよろしク。
 『オハナシ』って大事だモンな」

ほっぺたにライスの欠片をつけたまま。
がお、と尖った歯を見せつけて、それから笑う。
彼にかみつける日は、さて本当にくるだろうか。
それはそれで楽しみだ。

「まッタく。
 『ヨキがついてい』たり、『ヨキが居』たり。
 ヨッキーは忙しいね。」

けらけらと笑ってみせた。
ああ、うん。色々とスッキリした。

ヨキ > 「噛み付いてくれる胆力のある方が、ずっとずっと面白い。

ヨキだって、君にはたくさん噛み付いているようなものさ。
一度噛み付いたら、ずっと付き纏って離れない」

にやりと笑う。
華霧に似た、獣めいて尖った歯並び。

「ふふ。
ヨキはこの島のどこにでも居る。誰の傍にもついてる。
それはそれは、悪霊のようにね。
後悔したって、もう遅いぞ。
人に取り憑いて回るのも、暇ではないのさ」

肩を竦めて、おどけた調子。
晴れ渡った様子の華霧に、最後の紅茶を飲み干して。

「さて、ご馳走様でした、と……。
君も食べ終えたようだし、そろそろ行こうか。
この後、何か用事はあるのかい?」

園刃 華霧 >  
「はははは、そッカ。
 アタシ、噛みつカれてタのカ!
 納得ダ、ひひ、ひひははは。
 悪霊ね。はは、すっごイ、わカる!」

けらけらけらけらと。
楽しそうに笑った。

ああ、なるほど。悪霊に噛みつかれたわけだ。
この不思議さも、この怖さも、この温かさも。
なるほど、バケモノの仕業なら、納得も行く。

面白くてしょうがなかった。

「ン、そダね。時間とらせテごめん、ヨッキー。
 で、アー……別に、暇だッタから街を見に来たダけデ。
 何かこれスるって用事はないヨ?」

『素直』に答える。
そう。それでたまたまヨッキーに出逢った。
ひょっとしたら、今日の用事は『ヨッキーと会うこと』だったのかもしれない。

ヨキ > 「はははは。よーく判ったろう?
そうさ、ヨキは長いことこうして、皆に噛み付いて回ってる。
ヨキと仲良く出来る者も、離れていく者も居て当たり前なのさ。

面白かろう? こんな教師、滅多に居らんぞ」

それはそれは、傲岸不遜に。
自信たっぷりに、胸を張ってみせた。

「いいや。君のいい話が聞けたのだから、有意義な時間だったとも。

もし用事がないのなら――君さえよければ、少し散歩をしようか。
暑い中、そのまま帰るのでは味気がない。
涼しいお店を冷やかしながら、ゆっくり帰ろう」

そう言って、席を立つ。
長財布を取り出して、会計へ。

そのあとは、気ままに話しながらに、明るく笑いながらに。
『友達同士』の二人らしく、常世渋谷の街を満喫することだろう。

慣れない街だって大丈夫。
華霧の隣には、どこだって楽しんでしまう『悪霊が憑いている』のだから。

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」からヨキさんが去りました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/白Tシャツ、黒アンクルパンツ、黒スニーカー、黒リュック、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング、バングル、腕時計>
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から園刃 華霧さんが去りました。<補足:着崩した風紀の制服、手入れの悪いボサボサの髪、首には黒いチョーカー>