2020/08/14 のログ
ご案内:「図書館 閲覧室」にヨキさんが現れました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/黒半袖Tシャツ、細身の濃灰デニムジーンズ、黒革ハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
ヨキ > 夕刻の図書館。
勉強を終えた生徒が引き揚げ始め、ちょうど人の少ない時刻。

閲覧席で魔術書やノートを広げ、勉強に打ち込むヨキの姿がある。
ノートや手持ちの辞書は付箋やメモが山ほど添えられて、その厚みを増していた。

「……………………、」

黙々とシャープペンを動かす。
写し取り、要約し、新たな考えをまとめ、手を止めて、黙考。
教師といえども、勉強に打ち込む姿はひとりの学生と変わらない。

ご案内:「図書館 閲覧室」にサクヤさんが現れました。<補足:祭祀局の巫女/緋袴、巫女服の小柄で中性的な子供>
ヨキ > 腕時計を見る。
予め決めていた休憩時間に差し掛かったらしく、筆記具を置いてうんと伸びをする。

首や肩を、軽く回してストレッチ。
一度打ち込むと過集中のきらいがあるヨキは、時折こうして意識を引き戻すことを己に課していた。

目下勉強中の、“空を飛ぶ魔術”。
自分以外の魔力を使わないこと。友人が提唱する魔術学のみを使うこと。
ヨキにも、友人にも、果ては誰にでも扱えるようになること――
そうでなければ、叶えたって意味がないのだ。

ノートの書き込みを見るに、“勉強”はまだしばらく終わりそうにない。
それでも、ヨキの顔は何とも晴れ渡っている。
先の見えない探究を、楽しんでいる顔だ。

サクヤ > 今日のサクヤは「臨時図書委員」である。
簡易の腕章をつけて、図書委員の蔵書の整理などお手伝いをしていたのだが
そろそろ閉館支度をするので館内の見回りと利用者に呼びかけ、忘れ物がないかどうかなど
確認するように言われて見回っている最中であった。

閲覧室に差し掛かったところで、誰かの気配を感じて声をかけようとしたところで
その男性の熱心な勉強姿に思わず目を見張った。
あまりに集中しているし、たくさんの書物やノートに囲まれている姿は
夕焼けの光景もあってちょっとした絵になっていた。
思わず声をかけそびれてぼんやり見とれていたら、
男性の方が先に伸びをして、身動ぎしたものだからハッと我に返る。

「あああああの、そろそろ閉館になります……」

上ずった声でそろそろと声をかけた。

ヨキ > 「おお」

背後から掛けられた声に、はっと我に返る。
どうやら閉館間近まで集中しきっていたらしい。

「ありがとう、そろそろ帰――」

振り返って、その顔に目を留める。

「……し、……」

目を瞠る。
サクヤのものではない、“誰か”の名前を呼び掛ける。
けれどそれをみなまで言うことはなく、柔らかく笑った。

「――いや、失敬。
以前卒業した教え子に、どことなく面立ちが似ていたものだから」

ノートや本を閉じて、荷物を纏め始める。
立ち上がると、サクヤよりも随分と背が高い。

「美術を教えているヨキだよ。
その腕章は、夏休みのお手伝いさんだね? お疲れ様」

サクヤ > 「?」

呼びかけられた声に首を傾げた。
だがサクヤは珍しく思うことはない、時々こういったことがあるのだ。
そう、サクヤの”オリジナル”を知る相手なら、――数は少ないけれどあることはある。

ヨキが自己紹介すればぺこりと頭を下げて、
すぐさま頭にある教師陣のデータベースを参照する。
ネットに繋がってるとか、特別頭がいいとかではないが
常世学園の多くの教師陣のデータは一応叩き込まれている。

「……はい、ヨキ先生。学園草創期から美術教師として教えていらっしゃる……。
 存じておりましたが、こうしてお会いするのは初めてです。
 はじめまして、祭祀局のサクヤと申します。
 今日は臨時の図書委員として務めております」

荷物をまとめるヨキを手伝って机の上を片付け、他の席に忘れ物がないかどうか確かめる。

「はい、忘れ物はありません。大丈夫ですよ。

 あの……、不躾な質問ですがヨキ先生はサクヤの”オリジナル”をご存知なのでしょうか……?」

もじもじと手元をいじりながら、小さな声で尋ねてみる。

ヨキ > 「祭祀局の、サクヤ君だね。
やあ、片付けまで手伝ってくれて済まないな。
次からは、時間に余裕を持っておかねばな」

照れ臭そうに笑うと、ぺこりと会釈して礼を告げる。

「……オリジナル?」

サクヤが発した語に、不思議そうに瞬きして。

「もしかして、君は……その『オリジナル』から産まれたとか、そういったものなのかな」

見当違いであったら済まないが、と前置きして。

「ヨキが思い浮かべたのは……。
――かつて式典委員会に所属していた、“神宮司ちはや君”という少年だよ」

サクヤを通して、懐かしい姿を浮かべたように目を細める。

サクヤ > 「はい、サクヤは祭祀局の研究所で生まれたクローンです。
 サクヤの”オリジナル”に関する情報は個人情報になるのと倫理的な問題で
 あまり教えられていませんが――」

自分の胸に右手を当てて、そう伝える。

「”神宮司ちはや”――、それがサクヤのオリジナル……」

感慨深そうに名前をつぶやく。それがどういった少年であるのかは
依然として曖昧模糊なままだが、名前を知れたというのは大きなことだった。

「そう、でしたか。
 その少年も、かつてはヨキ先生の教え子だったのでしょうか?」

興味津々といった様子でヨキにオリジナルの話を聞きたそうにしてみるが
それは倫理的にあまり勧められた行為ではないのでちょっと後ろめたさもある。

ヨキ > 「そう、だったのか。クローン……。
……はは。教えてしまって、よかったのだろうかな。

だから君の顔を一目見たときも、不思議と“初めまして”の気持ちが薄かった。
急に懐かしい顔を見たような、そんな気分になったよ」

微笑みながら、言葉を続ける。
“神宮司ちはや”について問われると、和やかに頷いて。

「ああ。年月を重ねて言葉を交わした訳ではなかったが――
大人しくも芯のある、真面目な少年だった。

けれど、ヨキは“君自身”のことも知りたいな。
産まれてから、どんな風に過ごしてきたのか。どんな学園生活を送っているのか、とね」

笑う。その視線は、紛れもないサクヤ自身へと向けられている。

サクヤ > 「……あまり褒められることではないので、ないしょにしておきましょう。
 本当は祭祀局へ報告義務があるかもしれませんが……
 サクヤはまだ生まれたてなので、時々”忘れることもあります”。」

ふふ、といたずらっぽい笑みを浮かべて唇の前に人差し指を立ててないしょのポーズ。
それから”神宮司ちはや”の情報にはきらきらと目を輝かせて、
同時に少しホッとした様子も見せて聞き入った。

「……そうでしたか。
 もしも”オリジナル”が悪い子でしたら、サクヤは気が気ではなかったと思います。
 きっとそう思うから、”オリジナル”の情報はなるべく伏せられるのかもしれませんね。

 サクヤのこと、ですか……?
 お話のできるほど大した経験はありません……。
 数年前に研究所で生まれて、今までは刷り込みによる学習を経て
 一般社会の常識と常世学園の情報を覚えただけに過ぎません。
 祭祀局員に扱いが変わったのも最近ですし、学園生活は正式な学生ではありませんから
 ご報告できるようなことは、何も……」

少々申し訳無さそうな顔をして恥ずかしそうに頬を赤らめた。

ヨキ > 「そうだな。それがいい」

内緒を分かち合う。
サクヤと同じ、人差し指を立てたポーズ。

「オリジナルはオリジナル、君は君。
とは言え、心が気になってしまうのは避けようがない。
安心したまえ、神宮司君は“いい子”であったよ」

頬を紅潮させるサクヤの様子に、いいや、と首を振る。

「それはそれで、素晴らしいことだよ。
この毎日が大騒ぎの常世学園を、まっさらな気持ちで楽しんでゆけるのだから。
これから、良いことも、ちょっぴり悪いことも、たくさんだ。

そうやって君は、『オリジナル』とは違う――ひとりの『サクヤ君』として成長してゆくのさ」

サクヤ > オリジナルが”いい子”であったことをヨキに保証されれば
ぱぁっと顔が満面の笑みを浮かべた。

「よかった……。サクヤは、そんな素敵な人から生まれたのですね。
 誇らしく、喜ばしいことです……。安心しました」

ついで、ヨキの言葉にぱちぱちと瞬きする。

「……そう、でしょうか?
 サクヤは常世学園のシステムに組み込まれることに異論は有りません。
 祭祀局のお仕事についても疑問はありませんし、自身の役割にも疑問はありません。
 この学園で楽しみ、成長していくことはサクヤに必要なことでしょうか……?」

首を傾げてヨキを見上げて見つめた。

ヨキ > 輝かしい笑顔を見ると、ヨキも一緒に笑う。
そんなサクヤが己を見上げて問うと、そうか、と低く唸った。
それでも、相手を慈しむ表情は変わらない。

「――決して必要ではなかったとしても。
ヨキはそれを、不要なものとは切り捨てたくないんだ。

異を唱えたり、疑問を抱くことはない。
この学園は、大きな変革はなくとも、日々小さな出来事が山とある。
君にはそれを味わい、『人間として』成長していってくれたら嬉しい。

もちろん、君が生まれ育った研究所の方針がいちばんではあるだろうし――
ヨキの愛校精神が強すぎるだけ、という可能性もあるけれどね」

小さな小さなサクヤを見下ろす。
膝を曲げて、顔の高さを合わせる。

「今はまだ、判らなくたって構わない。
こういう意見の先生が居る、と覚えていてくれたら、それだけでいい。
いろんな人の話を聞いて、それから考えてみて」

サクヤ > ヨキの言葉には実感――のようなものがこもっているように聞こえた。
ただ、サクヤがそれを理解するまでにはまだまだ彼の言う『人間として』の経験が圧倒的に足りないのだろう。
長身のヨキを見上げたまま、なんとか言葉を噛み砕いて消化しようとするかのように
ぼんやりと考え込む。

「……サクヤが『人間として』成長することが、ひいては常世学園の利益と
 モデルケースとしての成功に繋がるのならば、それは努力するべき項目です。
 再度、研究所及び所長や主治医と相談して確認してみます」

飲み込みきれなかったことをシステム的な反応で返事する。
目線を合わせたヨキに、不思議な感慨を覚え

「ヨキ、先生。
 ぼくは、正規の学生ではありませんがまた先生の教えを請いたいです。
 それは先生にとって迷惑ではありませんでしょうか?」

恐る恐るといった調子で尋ねる。

ヨキ > 言葉を急かすことはない。
サクヤの中に考えが染み渡り、サクヤの言葉として返事が発されるのを待つ。
その沈黙は、ヨキにとって好ましかった。

「よろしく頼むよ。
研究所の人たちと、気が合うといいんだがね。
常世学園の発展を願っていることは、ヨキもまた同じだ」

かたちは違えど、志はある。
そんな教師のひとりとして、ヨキは胸を張ってみせた。

そうしてサクヤに恐々と尋ねられると、迷わず快活に答える。

「ああ、勿論だとも。迷惑などということはないさ。
ヨキはいつでも、生徒の皆がやって来るのを楽しみに待っておる。

もしかすると君の上の人たちには、苦い顔をされるかも知れないがね。
そのときはそのときだ。ヨキと一緒に、“ないしょのはなし”にすればいい」

再び冗談めかした“ないしょのポーズ”で、な、と笑い掛ける。

サクヤ > 「はい、ヨキ先生も志が一緒なのはとても心強く思います」

ふんわりと笑みを見せて、頷いた。
ヨキもまた、自分を受け入れてくれる教師であるとわかると
安心したように笑みを深める。

「ありがとうございます。教師ヨキ。
 ふふ、ないしょのはなしばかりが増えてはサクヤの報告書が
 書けないことだらけになってしまいます。
 でも、これは最終的に常世学園の発展のため、必要な勉強でしょうから
 所長も主治医も納得してくれると思います」

”ないしょのポーズ”をとるヨキにくすくすと笑って、
それから壁掛け時計に視線をやればもう閉館時間もすぐそこに迫っていた。

「あああ、たいへんです先生!急いででないと閉められちゃいますっ。
 忘れ物は、……えっと、なかったでしたから、行きましょう!
 駆け足……はだめですね、小走りくらいで行きましょう~」

そうして長身の教師を急かすと受付を通って図書館の出入り口へ向かう。

ヨキ > 「ヨキはずっとずうっと、願ってきた。
常世島の末永い繁栄と、生徒たちの成長をね。
だから君が如何に堅固な“システム”であろうとも……、成長を願わずには居られないんだ。

やあ、報告書を書かねばならぬ身は大変だな。
そうすると、ヨキほど悪い先生は居らぬやも知れん。
ヨキは教え子たちと、内緒や秘密を分かち合うのが大好きなのさ」

悪戯めかしてウィンクする。

けれどサクヤが時刻に気付くと、ふは、と噴き出して出口へ足を向けた。

「これは大変だ、図書館で寝泊まりする羽目になってしまう。ああ、行こう。

ふふ。今日は君に会えてよかったよ。
不意に懐かしい顔を思い出すことが出来たし……、君という教え子も増えた」

笑いながら、サクヤの隣を小走りで進む。
道すがら、鞄から名刺を一枚取り出して。

「よかったら、これがヨキの連絡先だ。
普段は学内で仕事をしているし、街中ならどこへでも行く。
またたくさん話そう、サクヤ君」

図書館を出ると、お疲れ様、と大きく手を振って、自宅の方角へと帰ってゆく。

ご案内:「図書館 閲覧室」からヨキさんが去りました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/黒半袖Tシャツ、細身の濃灰デニムジーンズ、黒革ハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
サクヤ > 図書館の出入り口で名刺を受け取ると、「ありがとうございます」と頭を下げた。

「はい、またお時間がありましたらぜひお話させてください。
 今日はありがとうございました。
 まだ暑いですから気をつけてお帰りくださいね」

そう言って、去っていくヨキを手を振って見送った。
サクヤは残りの片付けをして、それから帰宅した――。

ご案内:「図書館 閲覧室」からサクヤさんが去りました。<補足:祭祀局の巫女/緋袴、巫女服の小柄で中性的な子供>