2020/08/16 のログ
ご案内:「訓練施設」に伊都波 凛霞さんが現れました。<補足:風紀委員。焦茶の長いポニーテールに焦茶の瞳。制服姿>
ご案内:「訓練施設」にレイチェルさんが現れました。<補足:金髪の長耳少女。眼帯と風紀委員の制服を着用。>
レイチェル >  
訓練施設に備え付けられた、サンドバッグ。
最新技術を取り入れたトレーニングが数多く用意されている中で
それでもこういった昔ながらのトレーニング方法は、
未だに人気がある。


レイチェルは一人、サンドバッグに向けて拳と蹴りを放っていた。
華霧との会話。これから、どうすべきか。
自身と、彼女と、どう向き合っていくべきか。

ずっと悩んでうじうじしているのは、性に合わない。
だから、身体を動かしながら思考を切り替える。

今日は、凛霞とのトレーニングの約束もあった。
思考の切り替えには、丁度よかったのは事実だ。

しかし無論、それだけではない。
先輩として友として、彼女の戦闘訓練に付き合うことは、
レイチェルにとって、願ったり叶ったりだった。


さて、そろそろ待ち合わせの時間だ。

伊都波 凛霞 >  
きゅ、と髪の結び目を正して訓練施設を歩む少女
制服姿のその佇まいは凛として尚、優しくも薄い刃のように研ぎ澄まされている

「ふふ、熱が入ってますねー。レイチェルさん」

以前の先輩呼びではない
それはやや距離が縮まった証
尊敬と、親しみを込めてそう名前を呼ぶ

「模擬戦の快諾、ありがとうございます」

あえて普段風紀委員として活動するこの服装で模擬戦に臨むことにした

その手その身には一見何も帯びていないが、
まったくの非武装でないことは少女の風紀委員としての戦力の情報があれば明らかだ、が…

「今日はどんな感じにします?」

にこりと笑顔を浮かべて、そう問いかけた

レイチェル >  
制服姿なのは、レイチェルも同じ。
風紀委員にとっては、制服を身に纏って戦闘に入ることの方が
多い。
故に実戦的考慮を踏まえた上で、
レイチェルは殆どいつでも制服のまま訓練を行っていた。

「……そうか? ま、そうだな」

本人に自覚はないらしかった。
それでも、凛霞から見ればきっとそう見えた筈だ。
真剣な表情で、まっすぐ前を見て、ただ撃ち込むことだけに
集中する姿は、『熱が入っている』と言っていい筈だ。


「構わねぇさ。先輩としても友人としても、
 模擬戦、特訓に付き合うのは当然だ。
 それに、こっちとしても嬉しいんだ。
 お前からそう言って、誘って貰えるのはさ」

歯切れの悪かった昨夜の自分を思い出す。
未だ胸中には曇りがあるまま。
だから。

「今日は、ちょいと気合入れたくてな――本気で頼む。
 殺しに来るつもりで、良い」

そう口にして、サンドバッグの前から移動すると、
凛霞の目の前に立つ。

――殺しに来るつもりで、良い。

佇む彼女のその瞳には、口にした言葉そのものといった、
強い意志が宿っていた。

伊都波 凛霞 >  
そうだな。と肯定する彼女
この数週間で、彼女の周辺の状況は大きく変わった
その一因には自分も大きく関わっている

目の前に立つ彼女は、自分よりは一回りくらいは小さな体格
それでも威風堂々、経験の厚さを感じる佇まい
そんな彼女が言うのだ
"殺しに来るつもりで来い"

「…では、想定は特Sクラスの凶悪違反生徒。
 異能の危険度も最大。戦闘状況は最悪…といった感じで」

これで行きますね。と立てた片手の指をくるくると

強い意志を孕むレイチェルの視線に、穏やかながらも強い光を宿した視線で返す

「あ、そうそうレイチェルさん」

──とポケットから何かを取り出して見せる
丸い金属の筒状のなにかを手のひらにのせて軽い金属音音とともにピンが抜かれた
それがフラッシュバンだ。と気づいた次の瞬間には強烈な音と閃光が放たれる

彼女は殺す気で来いといった
ならばそれに応えられるようにしなければ

レイチェル >  
「ああ。お前なら任せられるな、そのレギュレーションは。
 オレもお前も、しっかり腕を振るえるって訳だ」

片手の指をくるくると回す凛霞に、レイチェルは
口の端を吊り上げる。
穏やかな表情をしているが、その実、彼女の戦闘能力は
並大抵のそれではない。

レイチェルは気付いている。『いつだって』、気付いていた。
対面するだけで心に凛と響く、研ぎ澄まされた刃。
その切れ味に。

「……ッ!」

閃光が部屋を覆うその前に。
瞬時に反応し、外套で視界を覆う。

――そうだ、それで良い。
  殺しに来るなら、甘えた握手なんざ、要らねぇ。

ああ、本当に。
凛霞の模擬戦の申し込みを受け入れて良かったと、
そう感じながら。

視界を奪ったその先に来るのは、きっと間髪入れぬ追撃。
狼狽えたり、その場から一度後退するのが普通だろう。

目も耳も、最早まともに機能してなどいない。

しかしレイチェル・ラムレイは退かない。
目と耳を奪われたくらいで、退くような。
そんな甘えた戦場は、くぐり抜けてきていない。

使えぬ目ならば。
敢えて、目を閉じる。

使えぬ耳ならば。
敢えて、続く音を意識から遮断する。


レイチェルの意識は、真の暗闇の中に立っていた。

しかし、それでも感じる。
凛霞を、感じる。

間髪入れずに襲い来るであろう
『凛霞という存在が持つ意志の刃』を、感じる。


純粋な暗闇の中で、意志を迎え撃つように――


――空気を巻き込んで抉る、鋭い蹴りを、ただ一つ放つ。

伊都波 凛霞 >  
視界を閉じる、口は少しだけ大きくあけて、音の衝撃に備える
それでも全く影響が出ないわけではないが…"慣れている"

さて、エルフのような長い耳を持つ彼女はどうだろうか
効果の程は?咄嗟に体を丸めたりしていない様子はさすが、といったところ

この状況で反射的に出来ることは防御行動以外はほとんどない
相手が身を屈めれば背後に周り組み付く、そうでなければ正面から、とプランを立てていたが──

鋭い蹴りが、交差した
互いに衝撃をその脚に伝える

「──!」

この状況で攻撃を放つ。その豪胆さに感動すら覚える
しかもしっかりと体重の乗った、やぶれかぶれではない"明確な攻撃"
凛霞の表情に少々の驚き、そして…口元に小さな笑みが浮かぶ

「──さすがです。それでこそ」

時空圧壊のレイチェル──、今は、その賞賛も聞こえはしないだろうが

「(気配を読んでる?それとも単なる経験測。もしくは、そのどちらとも)」

──視界と聴覚を一時的に奪ったことには変わらないことを確認すれば一足飛びに後方へと転身
どこからともなく手元に細い鎖が握られ、制服の奥から金鳴りを起こしながら引っ張り出される

薙ぎ払うように繰り出されたチェーンは鞭のようにレイチェルを襲う
打ち据え、絡みついて捉えようと

レイチェル >  

二つの影が、交差する。
その衝撃を感じながら、レイチェルの頭を過る言葉。

――ああ、やっぱりこいつは強ぇな。

フラッシュバンなどという『搦手に頼っている』のではない。
この凛霞という刃は、
『効率的に、道具を用いて戦場を支配する術を知っている』。

実戦に重きを置いた訓練を、死線を潜る経験を、
彼女は重ねてきている。
レイチェルも根本はまた、同じ。

だからこそ、互いに向かい合った状態から
繰り出したこの一撃は、交差したのだ。

気配を読む。それだけではない。
気配だけでは、不確定な要素が多すぎる。
異能や、魔術、あるいは特殊な戦闘技能。
そういったもので、『気配』などいくらでも偽ることができるだろう。

だから、気配『のみ』には、頼らない。
暗闇の中の『刃』の気配と、間髪入れずに行われるであろう正面からの攻撃の予測。
気配と実戦的経験を、同時に頼ったものだ。

そして、結果――両者の一撃は、交差した。

凛霞がその豊かな武術経験の中で導き出した、
突くのに効果的なポイント。

レイチェルが察知と経験から導き出した、
守るのに効果的なポイント。

その二つのポイントが、重なったのだ。

戦場のスタートライン。
この交差は、必然だった。


「お前こそ、やるじゃねぇか」

未だ、瞳に明かりは灯らず。
されど、音はその彩を取り戻しつつある。

耳鳴りの中で、微かに聞こえる鎖の音。
そのまま跳躍し、暗闇を見据えたまま、
今度は拳を振り下ろす。

今度は気配と、音を頼りに。

伊都波 凛霞 >  
自身の聴覚も影響を受けている以上、その言葉は聞こえない
が──言葉が互いに通らずともおそらく感じていることは同じ

強い

どこまで引き出しを開けるべきか、悩んでいる隙なんて与えてくれそうにもない
それだけの覚悟を持たなければ、殺す気でなんて言葉を軽々しく使う人ではないのだから

中距離を薙ぎ払ったチェーンは跳躍にすかされる
向こうの視界は──、まだ戻っていないか
それでも正確に、こちらに拳を振り下ろすその様に感嘆する
今は距離があったこともあってこの差し込みには対応可能だが、クロスレンジでこの"当て勘"を発揮されたなら…なかなかの驚異だ

振り下ろされる拳にするりと、蛇のように凛霞の左手が絡みつく
勢い、そして力の指向性を緩やかにズラしながら、自身の背後へ向けてその身体を叩きつけるように、片手でいなす──

したたかにその身体を打ち付けるか、それとも受け身をとるか…
成立にせよ不成立にせよ。再び距離は開けるはずだ

即座に手元の鎖を縦横無尽に回転させ、姿勢を作る

振り回すその先端が消えて見えるほどの速度。空気を裂く轟音と共に球形を描くそれは攻防一体の得物にすら見えるだろう

「──拳しか使わないんですか?」

そろそろ聴覚も回復するだろうか
その耳に届く言葉は冷静で淡々とした
目の前の相手が臨んだ通りの、"殺意"を孕んだ声

レイチェル >  
真っ直ぐに打ち下ろされる拳に、絡みつく凛霞の左手。
凛霞を打つべく撃たれたその拳《ちから》は、
彼女の持つ武術によって、いなされる。

「……っと」

咄嗟に受け身をとり、衝撃を軽減。
彼女との距離を空ける。
視覚も聴覚も、既に殆ど正常なそれに戻っていた。


見やれば、既に鎖を振り回している凛霞の姿。
『球形』を『線』と見据えるべく目を細める。
最早線ではなく面を覆い、球形となっている凛霞の防御網。
その隙間を、狙う。

そして殺意を込めた、その言葉が終わらぬか、終わらぬか。
その刹那の内に。

次元外套《ディメンジョンクローク》から銃を抜き放つ。
ゴム弾ではあるが、それでも当たれば最悪、
死に至ることもある。

それを、躊躇なく。
一瞬の内に6発。

彼女が言葉を紡ぎ終わるちょうどその瞬間には
『既に』、撃ち尽くしていた。

狙うは心臓と、脳天。
明確な殺意を湛えた瞳の見据えた先に、放たれた。

伊都波 凛霞 >  
──そうこなきゃ、嘘だよね

徒手なんて彼女の戦力の一分にもなりはしない
まっすぐと視界に捉えた彼女の動作、抜き放った銃の向きから斜線を即時に割り出す
頭と心臓に向けて6発、発射した瞬間は、目に見えなかった
──何らかの力が働いていることを想定する

明らかに球形の軌道の隙間を狙い撃つ動き
裏を返せば、隙間を作っているのは自身の動きに他ならない
即座に、僅かにズラせば隙間は埋まる

「(ひとつ、ふたつ……)」

1発、2発、吹き荒ぶ鎖に触れゴム弾が弾け飛ぶ。着弾はほぼ同時
3発目は、間に合わない。頭部を逸し躱す。髪に触れ、衝撃が伝う──

4発、5発、狙いすまし全く同時に鎖で撃ち落とし、
まるで居合の達人が如く、最後の6発目は振り抜いた鎖でレイチェルの頭部目掛け、"撃ち返し"た

本身の弾頭ならば出来なかった芸当だろうが、ゴム弾とわかっていればこういう真似もできますよ。と
そう伝えるような"まだまだ底を見せない"動き

風紀委員会には、いくつかの武器が扱える技能があること
そして護身術程度の武術が使えます、としか伝えていない

しかし戦闘用の異能を持たない凛霞が異能者を相手どり圧倒するには、
相応以上の何かを持っていなければならない

とっくに、目の前の相手には看破されていたんだろうな…なんて、嬉しくなる

レイチェル >  
――くだらねぇ嘘は、つかねぇさ

互いに、言葉を発していないのに。
今、仮初の戦場に立つ二人の間では、確かな会話が紡がれていた。
それは音にはならずとも、確かに感じる二人の、魂の言葉。

互いに殺すつもりで居るからこそ、分かり合えるものがある。
互いの力量を信頼しているからこそ、殺し合える。


頭部へ弾き返されるゴム弾。
当たれば無論、ただでは済まない。


反射的に姿勢を低く。
躱しながら、次の一撃の為に構える。
金色の髪が数本、宙に舞う。

それでも、眼帯は怯まない。

次元外套から新たに抜き放つ、ゴム弾。
空いた右手は、次元外套の中へ。

文字通りの超人的速度で放たれるその6度の銃声はしかし、
常人が聞けばただ1度の銃声にしか聞こえぬであろう。
しかし、確かに6発が放たれている。
そして伊都波 凛霞はそれを確かに『6発』であると認識し、
対応して見せているのだ。
思わず、嬉しくなってしまう。

ただその場で静止して、銃を撃っている訳では、ない。
ゴム弾を抜き放ちながら、既にレイチェルの身体は動いていた。

一度地を蹴れば、常人の目には決して留まらぬ速度で、凛霞の
目の前へと接近。

次元外套から、居合斬りの形で左下から、右上へ。
鎖の防御網ごと断ち切る、否。叩き潰すように、鉄の塊――彼女の愛する魔剣、
切札《イレギュラー》を振り上げる。

伊都波 凛霞 >  
互いの装備、互いの身体能力、互いの経験、互いの戦闘勘
それらを擦り合わせるような感覚

いかに凛霞が"基本的に奥ゆかしい性格"であったとしても
研ぎ澄まされた技術、身に帯びた武装、鍛えられた力
それらを心置きなく使って良い

身につけたそれらは、発揮する場所があってはじめて日の目を見るのだ
武人としての凛霞の精神性の一部は、確かな喜びをそこに感じていた

視界に、剣を抜き放つレイチェルの姿を捉える
直感的に感じる。それが普通の刃物ではないという感覚

ならば、と振り回す鎖の軌道を変える
球から円へ、その長さ、射程も僅かに伸びればその制空権がやや広がる
牽制のゴム弾がその"エリア"へと到達する瞬間、同時に踏み込んでいるレイチェルの剣の間合いに入る前

チリッ…

ちょっとした、手元の操作
即座に、円を描く鎖の先端に火花が散る──

"爆導索"

瞬間、人間一人を覆うくらいの規模の爆発が巻き起こる
それは円を描くように連鎖的に起爆し、衝撃でゴム弾を吹き飛ばし、レイチェルを爆炎へと巻き込み、白煙を舞い上げ視界を塞ぐ

鎖から既に手を離した凛霞は白煙の中、地を蹴り自らもレイチェルへと距離を詰める
予測した地点に彼女が到達していれば、その背へと回り込んで組み付こうと

レイチェル >  
連鎖的に爆発する鎖。
爆発を躱そうにも、こちらから間合いへ突入している形。
ならば、異能《きせき》を以て、この状況を脱するまで。

唱える。
己が異能の名を。
時の法則を破壊する、大それた奇跡の名を。


「――時空圧壊《バレットタイム》」

その異能の名を口にすれば。
時はその刻み方を忘れたかのように。
緩やかに、その速度を落とす。



その、筈だった。


しかし、違った。
何かが、明らかに違った。


時空は罅割れず。
ただ現実時間《リアルタイム》がそこにあった。

時空圧壊《バレットタイム》は、発動していない。
彼女の内にある奇跡の力は、沈黙したまま。

――何故。

当然。
爆発はその勢いを殺さぬまま、
レイチェルを巻き込んでいく。

――応えてくれない?

爆発の直撃は。手にしていた切札《イレギュラー》で何とか防ぐも、
完全には防ぎ切れず。

レイチェルの身体は大きく吹っ飛ぶ。
凛霞が予想していたよりも、ずっと遠くまで。

レイチェルの左腕の制服は破れ、そこからは煙が上がっていた。

伊都波 凛霞 >  
「───!?」

キッ、とブレーキを踏む
白煙の中に在るはずの気配がそこに、ない

彼女ならば、この程度はなんなく凌ぐ
多少の隙をつくるだけに過ぎない──筈だった

だから

「──レイチェルさんっ!!」

叫んでいた
殺す気で、ならチャンスだろ。なんて怒られるだろうか
けれど、明らかに今の彼女の挙動は、結果は、彼女の実力の上では考えられない
それも"本気"で立ち会っている最中にも関わらず、だ
なにか…事故のようなものが起こったしか考えられなかった

一足飛び、白煙の覆うエリアから、
遠くまで吹き飛んだレイチェルの側へと、状態を把握しようとする

レイチェル >  
「……殺す気なら、仕留めに来いよ」

口から血を吐きながら、レイチェルは凛霞を見上げる。
不敵な笑みを見せるその口端からは、今も流れる血の筋が
見えることだろう。

「……馬鹿野郎」

火傷を負った左腕を右手で押さえながら、
レイチェルはそう口にした。


――何で。

胸の内の、己自身《バレットタイム》は、沈黙したまま。
既にその輝きを見せず。
初めから無かったかのように、彼女の内からその力の波が、
消え去っていた。


――どうして、応えてくれなかったんだよ、ド畜生。



――お前《オレ》は。
 
 
 
――お前は。

伊都波 凛霞 >  
「巫山戯たこと言わないでください!!」

返すのは、怒気を孕んだ声
──この場で処置できる程度の傷じゃない
授業で習った程度の初級魔術を咄嗟に腕の回復に使おうとするも、効果の程は微妙だろう

彼女は、炸裂する爆炎へと飛び込んだ
それは…そこを抜ける算段があったからに他ならない
彼女のもつ力、それを知る上で、彼女がとろうとした行動を探るなら…異能の発動
彼女の通り名の通りの力
で、あればこの事故は……

「…前線への復帰を渋っていたのは……」

見下ろす表情に陰を落とす
──あの時彼女は、断るという言葉のみを伝えた
歯に衣着せぬ彼女が、その理由を明らかにしないまま、拒否した

「…そういうこと、なんですね」

立ち上がり、救急の要請をする
保健科は優秀だ。訓練施設にも常勤の者はいるはず
──程なくして、到着するだろう、が……

「それで殺す気で、なんて…もっとひどいことになってたらどうするんですか…本当に」

馬鹿野郎、である
レイチェルの横へと膝を降ろし、覗き込む表情は先程までとは打って変わって
心からその状態を心配するような、居た堪れない表情だった

レイチェル >  
「……ああ」

咳き込む。同時に、口から出る血が一気に吐き出された。
口の中に、鉄の味が広がった。

前線への復帰を拒否した理由を問われれば。
静かに、肯定の言葉を口にする。
レイチェルの視界は、意識は、少しずつぼやけ始めていた。

今なら分かる。
何故、時空圧壊《バレットタイム》が発動しなかったのか、

医師から伝えられていた、致命的なまでの肉体的損傷。
度重なる異能の使用によるダメージ。
しかしそれだけではない。

それは――

「……はっ。
 後輩に怒られてちゃ……世話ねぇな。
 すまねぇな、凛霞。
 『馬鹿』な、先輩……で……さ……」

笑うその口から、再び血が流れ始める。
意識を、保てない。足掻こうとしても、足を掴んで
引きずり込まれるような、感覚。

そうして。
レイチェル・ラムレイの目は静かに、閉じられた。


――応えてやらなきゃいけねぇのに、な……

それは、誰に対しての、何に対しての言葉だったろうか。

頼れる先輩の姿を見せるべき、目の前の凛霞か。
特別な居場所になりたいと想う、大切な華霧か。
ずっと共に在った己の内にある力へ向けてか。

或いは、その全てに向けての想いだったか。



薄れゆく意識の中で、
その言葉だけが頭に何度も過ぎっていた。

伊都波 凛霞 >  
「……っ、もう。しゃべらなくていいですから…」

こちらに応えようとする様に、少し慌てる
普通なら肉体がバラバラに吹き飛んでもおかしくない爆破規模
このダメージで済んでいるのも、彼女が咄嗟に防御手段を講じた上で、鍛えた身体だったからに他ならないだろう

「馬鹿でも何でもいいです!」

貴方にはもっと、たくさんの…

「レイチェルさん、気を…──」

その口から、赤い血と共に漏れ出る謝罪の言葉
そんなこと…今言われてもどうしようもないというのに

懸命に付け焼き刃の治癒魔術を行う中、程なくして保健課の生徒が到着
表の専用車両の中へと凛霞も同行し、病院に直行──

その車両の中においても凛霞の胸中は、定かではなかった
この模擬戦闘での事故。何かそれが、大きな出来事の最初の亀裂であるような…

そんな不安を隠せなかった──

ご案内:「訓練施設」から伊都波 凛霞さんが去りました。<補足:風紀委員。焦茶の長いポニーテールに焦茶の瞳。制服姿>
ご案内:「訓練施設」からレイチェルさんが去りました。<補足:金髪の長耳少女。眼帯と風紀委員の制服を着用。>