ご案内:「裏常世渋谷」に御堂京一さんが現れました。<補足:21歳/188cm72kg/緩くウェーブした暗い赤毛/黒のジャケット、白のパーカー、黒のスキニー。チョーカー>
御堂京一 > 「……ああ、こりゃ異界だわ……」

裏の噂を追いかけ街を歩き回る事数分。
普段ならなんとなく嫌な予感がする、と囁き避けていた場所にあえて踏み込んだ瞬間にがらりと世界の色が変わった。
夜というわけではないのに空は灰色で
光はないはずだというのに視界は通り、けれどどこか霧がかかったように遠くの景色に焦点が結べない。

お前は異物だと言うかのように何かの圧力が身体にかかっている。
長居は出来ない、と聞いては居たがなるほど、これは経験してみれば一発で理解出来る。

御堂京一 > 呼吸を整える。
ゆっくりと吸い込み体内でプラーナを練り上げめぐらせていく。
体内に小世界をイメージし、そこを運行させる事で練り上げる事で外と内の区切りを明確にして外からの侵食を食い止める。
全身を薄っすらと青い燐光が包めば圧迫感もだいぶマシになった。

「けど、長居出来るようなもんじゃねえな……」
普段から慣らすように鍛錬は欠かしてはいないが常にめぐらせ続ける、というのはなかなか難しい。
出力を上げれば遠からず息切れしてしまう。
うっすらとめぐらせたまま維持するのは神経を使う。
今日は浅い場所を軽く探索して済ませよう。

御堂京一 > 歩を進めるのは歩き慣れたはずの街並み。
しかしそっくりなはずの通りも細かな差異が積み重なり、迷宮のように惑わそうとする。
道を忘れないように、辻といった境界を示す場所を踏まないようにと拙い知識を総動員して霧に包まれた街を行く。

「あん?」
ふと、気を惹かれた。
周囲を警戒するように無意識のうちに視界全体を把握するように巡らされた感覚が引っかかりに向かう。
そこには本来なら路地になっているでろう建物の間を埋めるような古びたガラス張りの扉。

そこにはこう書かれていた。
『何処堂書店』

御堂京一 > 「普通の古本屋だな……」

ガタ付く戸を開け中に入るとふわりと古い紙の匂いが鼻をくすぐる。
金のないガキの頃、安い値段で漫画を買いたくて通った古本屋の匂い。

周囲に視線をめぐらせると壁一面を本棚が埋め、狭い店内を更に本棚が区切り通路を作り出していた。
雑多に並んだ本は五十音どころかジャンルすら統一されていない。
漫画本の隣には専門書があり、その隣には紐で紙を綴じた古書が置いてある。

「いや、普通とは違うか……」
そうして奥へと視線をやれば本棚で区切られた通路の果ては黒くかすんで消えていた。
薄暗い店内で先が見通せないだけにも見えるが、こんな店の奥行きがそれほどあるという時点でおかしい。

御堂京一 > 明らかに怪異。
それも街中で出会うおぼろげな霊障とは違う、むしろ現実に紛れるほどの確かなもの。
少しばかり抜けていた気を引き締めなおし、本棚の間へと歩き進める。

裏渋谷には危険もあるが珍しい物が手に入る事もあり高値で取引される。
さて稀覯本の類でもない物かと雑多に並ぶ背表紙の上を視線が撫でて行き……。

「あん?」
強烈な違和感に引き止められ、足を止めて本棚をもう一度眺めなおす。

御堂京一 > 「これ……確か作者が……」

そこにあったのは中学生の頃に好んで読んでいた漫画の単行本。
しかし作者は事故で急死してしまい、20巻の時点で打ち切りエンドを描かれる事すらなく終わってしまった。
物語はまさに山場といったところでとても残念に思ったのを覚えている。

しかしそこにあったのは21巻、22巻と出るはずのなかった続きが並んでいた。

一気に気温が下がったような感覚。
それとは裏腹にふき出す汗。
引き締めたはずの気持ちはまだ現実を認識出来ていなかったと突きつけられる。

御堂京一 > 本棚から抜き取り本を開く。
折り返しの作者コメントは見慣れたのんびりとしたもの。
読み進めれば記憶が多少おぼろげになっているとはいえ確かに続きだと断言できるもの。
作者の死で断絶されたはずの続きがそこにあった。

「帰ろう」
こいつを持ち帰れば成果も十分といったところだろう。
売り払えばいい金になるだろうが手元に置いておくのもいい。
初めての探索で成果物が手に入るとは幸先のいい事だ。

六冊ばかりあった単行本を掴むと何かから逃げるように足早に店を後にし……。

「は?」
消えていた。
確かに掴んでいた本がまるで初めから無かったかのように手元から消え去っていた。

もう一度戻る、というのは非常に抵抗があったがこのままではもやもやが残ると引き返し……。
そうして先ほど眺めていた場所に取り出したはずの本がしっかりと納まっていた。

御堂京一 > 「……持ち出せない?買ってないからか?」

ここは古本屋だ、なら買うという手順を経れば持ち出せるのだろうか?
しかし入り口近くに会計をするような場所は見当たらず、奥は暗くかすんで何も見えない。
奥にあるとしても足を踏み入れたいとはとてもではないが思えない。
プラーナは今しばらくもちそうだがここで読み耽るというのはさすがに選べない。

どうしたものか……と悩むうちふと思い浮かぶ。
スマホで撮っちまえばいいんじゃね?と。

ためしにページを開き、カメラを起動。
パシャリと音が響き………。

「!?」
思わずあとずさり、ガタン!と背中が本棚を打つ音が響く。

御堂京一 > そこに映し出されていたのは漫画のページではなく男の顔。
生気の失われたそれは死に顔に他ならなかった。

御堂京一 > 本を叩き付けるようにして本棚に戻すと店から飛び出すようにして駆け出す。
アレは見覚えがある。ネットで見た事がある。
あの漫画を描いた、作者の顔だった。

あそこはヤバい。
何も危険は感じなかったがそれこそがおかしい。
思えばバラバラに並んで居るように思えた本はどれも途中からだった。
他の専門書や論文のようなものもきっと……世に出る事がなかった本だったのだろう。

元来た辻を通り、肌に触れる熱い空気が心地よく。
帰ってきたという実感を肺いっぱいに吸い込むのだった。

ご案内:「裏常世渋谷」から御堂京一さんが去りました。<補足:21歳/188cm72kg/緩くウェーブした暗い赤毛/黒のジャケット、白のパーカー、黒のスキニー。チョーカー>