2020/08/21 のログ
ご案内:「常世渋谷 夜街近く」に羽月 柊さんが現れました。<補足:待合済:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。黒のスーツ姿。>
羽月 柊 >
常世渋谷。そこは表と裏の交差点。
昼と夜の交わる所。
うっかり入り込み過ぎると……。
「…興味が無いと言っているだろう。」
渋谷の空もそろそろ夜に喰われるかという頃、
聞き覚えのある声がヨキの耳に届く。
辺りは常夜街が近い。
中央街と完全に境界線が存在するという訳でもなく、
近ければぽつりぽつりと、夜の街の店が点在するようになってくる。
客引きの声もちらほら、ちゃんとしたお店から、違法の店、ブラックなお店まで。
聞き覚えのある男の声と、女性の声。どうやら客引きを断っているようだ。
しばらく押し問答が繰り返されたが…次第に女性に声が大きくなる。
最後にはとうとうヒステリックな声と共に、水音。
それから甘ったるい香りが漂ってくる。
ただの大衆の一場面。
雑踏の一部の、当事者たちの間だけの事件。
ご案内:「常世渋谷 夜街近く」にヨキさんが現れました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/黒七分袖カットソー、細身の濃灰デニムジーンズ、黒革ハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
ヨキ > 普段どおりの街歩き。
のらりくらりと、知らぬ道すら自由気ままに。
そうして、不意に耳に届いた男女の声。
「今のは……」
足を止める。
声のした路地へと、方角を変えて。
見知った相手――柊の後方から、声を掛ける。
「やあ。一体どうしたのだね、羽月?」
羽月 柊 >
女性の方がにやぁと歪な笑みを浮かべていたのだが、
ヨキの姿を目に留め、表情が戻る。
慌てて手元の小瓶を後ろ手に。
声をかけられたのはヨキの友人、羽月柊であった。
ぽたりと、髪から水滴を落とし振り返る。
そこから香る甘ったるい匂い。
大分広範囲に浴びたらしく、頬に張り付く髪を指で退ける。
今日は小竜の姿も付近には見えず。何らかの理由で連れていないようだった。
「…ん? …あぁ、君か、
少し通り抜けようとしたら客引きに捕まってしまってな。
丁重に断らせて貰ってたんだが、何分しつこくてな…。」
ヨキ > 濡れた様子の柊に、可笑しげにふっと笑って。
「何だ、随分派手にやられたな。ほれ、これで拭いておけ」
鞄の中からタオル地のハンカチを取り出して、柊に差し出す。
女性が笑んでいたことなど気付く由もなく、にこやかに笑い掛ける。
「……して、断られたのは君か。
済まんな、彼はご覧のとおり初心でならん。
今宵は他の男を当たっておくれ」
羽月 柊 >
暫く女性は恨めしそうに見ていたが、
ヨキに窘められると、バツが悪そうに、
身体で不機嫌を体現するかのように歩き去っていく。
後ろ手にすっかり空になった小瓶を捨てて。
「初心扱いされると心外なんだが…まぁ、助かった。」
ハンカチを素直に受け取って滴るそれを拭う。
陽が落ちたとはいえ暑さも手伝えばすぐに乾くだろう…とはいえ、
甘ったるい匂いはそう消えないが。
飲み物ともまた違う、香水よりも甘い。
柊本人もううむと困り顔になる程度には。
ヨキ > 女性が立ち去ると、ほっと胸を撫で下ろした。
「なに、ものは言いようという奴だ。
根っから夜遊びに慣れているようにも見えんし。
何にせよ、解放されてよかったな」
小さく鼻を鳴らし、羽月が纏った匂いを物珍しそうに嗅ぐ。
まるで大型犬だ。
「これはこれは……また夏には向かぬ香りだな。
これだけ強いと、むしろ人除けになるやも知らんぞ。
大手を振って歩けそうだ」
羽月 柊 >
「悪目立ちしてしまいそうだ…。
セイルとフェリアが居ないからと横着して、
"あちら側"の道を通らなかった代償がスーツ一着分とはな…。」
はぁ、と溜息を吐く。
ご丁寧に、液体には甘さらしくピンク色が付いているモノだから、
スーツのシャツの部分に染みてしまっていた。
「……しかし、こうも纏わりつくような甘い匂いだと、
暑さが増す感覚がするな……。」
そう言って眉を顰めた。
……徐々に、息が上がっているのを知らぬまま。
ヨキ > 「君の髪に紛れそうな色でよかったのではないか?
髪をこう、肩の前に垂らしてだな……」
シャツに染みた色味をどうにか誤魔化せやしないものかと、真面目に考え込む。
「運が悪かったと思って、着替えでも買いに行くか。
今ならまだ、そこいらの服屋でも開いておろう。
君は今日は、何をしにここまで出てきたのだね?」
苦い顔の柊を労うよう、軽い調子で笑う。
彼の異変に気付く様子はなく、気侭に会話を続けている。
羽月 柊 >
「今日は…まぁ、あちら側の用事でな…。」
そう言って視線で行先を指し示す。
常世街は歓楽街に繋がり、そして落第街へ繋がる。
この道を通れば比較的そこが近い。
視線を戻す。はぁと熱の籠る息。
ええいなんだ、さっきから暑い。
「冬場は良いんだが、この時期に髪を前にやるのは、な…。」
手首で顎を拭うようにするのだが、
汗というよりは、顔そのものが熱い。
ヨキ > 「はは、そうだったか。
“連れ”が居れば、もう少しましだったろうにな」
柊の小竜たちを、人間と変わらぬ呼称で連れと呼ぶ。
どこか手近に似たような衣服でも買える店はないものかと視線を巡らせながら――
そこでようやく、柊の異状に気が付いた。
「羽月?」
口を引き結ぶ。
蒸すとは言え、炎天下の時間帯はとうに過ぎた。
目を細めて、様子を窺う。
「……どうした?」
羽月 柊 >
「そう、だな………。」
心臓の鼓動が聞こえる。
雑踏の音は間違いなく近くにあるのに、
胸を揺らさんばかりに、頭の中で早鐘を打つ。
「……いや、さっきから、暑い……と、いうか…。
君は、暑く、ないか……?」
熱帯夜なのは確かだ。
しかしこれはどうにも、別のナニカ。
燻るような熱が、じわりじわりと身体に宿り、食まれる感覚。
経験したことがない困惑。
中身が空になった小瓶は、誰かに蹴られて転がる。
カランカランと音を立てた。
ヨキ > 柊の様子を注視しながら、訝しげに首を傾ぐ。
「暑い?
確かに暑いとは思うが……恐らく、君ほどではないぞ。
未だ体調が戻りきっておらんのではないか?」
つい先日倒れて入院したという彼のこと、不思議はない。
そこで、彼の胸元に染みた液体の色か、転げた小瓶の音か。
ふとした拍子に、思い至る。
「…………。
君が先ほど浴びせかけられた“アレ”の仕業か?
よもや毒ではあるまいな。
早いところどこかで洗い流すか、着替えるかした方がよさそうだ」
手洗いでも借りられそうな店舗を捜して、路地の左右を見遣る。
羽月 柊 >
「熱の……頭が重い、感覚とは、また、違う……。」
ふ、ふ、と短い呼吸を続ける。
歯を食いしばっていないとまともな思考が崩れそうだ。
眼を細めれば視界が滲む。
瞬きをすれば、僅かにまつ毛が濡れる。桃眼が揺れる。
「ど、く…? あぁ、ッこんな、浅い、所で……。」
油断大敵とはまさにこのことで、自分の気の緩みを恨んだ。
だが確かに今までの変化を考えれば、原因はかけられた小瓶の中身と考えるのが無難だ。
ぼやける思考の中、震えた手で手提げ鞄から何かを出そうとする。
僅かに動くことすら熱が加速する感覚がする。
膝が、笑う。
ヨキ > 徐々に調子を掻き乱す柊を、歯痒い顔で見守る。
「おい、大丈夫か?
救急車を手配する手もあるが……。
どこかで少し、休んだ方がいいのではないか?」
柊が不安定そうに漁る鞄を、傍らから軽く支える。
もう片方の手で、スマートフォンを取り出す。
これで、いつでも病院に連絡は取れる。
羽月 柊 >
「休む……場所を、……つく、ンッ」
ヨキに触れられると、びくと肩が跳ねた。
思わず相手を掴みたくなる。それを必死に足で押し込めるようにして、
無意識に近いまま、指すら熱い中、鞄から目的のモノを引っ張り出してくる。
小さな鍵にねじ巻きの付いた小箱のストラップ。
震える手でそれのねじを巻くと、
箱から燐光の羽根が生え、ぱたぱたとヨキと柊の周りを旋回し、
招くように一つの路地との間を行き来する。
柊はといえば、ゆるゆるとそれを指差している。
ヨキ > 「休む場所を? ……判った」
こくりと頷いて、スマートフォンを仕舞い込む。
柊の手元から舞い上がった小箱を見上げ、それが飛ぶ先を見遣る。
彼が指を差しているのを横目に、あれだな、と念を押す。
「もう少し歩けるか、羽月?
捕まってくれて構わない。肩を貸そう」
言うなり、柊の背中に腕を回す。
相手の二の腕を軽く掴んで支えるようにしながら、箱の行き先に向かおうとする。
羽月 柊 >
「……ッすま、ない…、ヨキ…。」
他人の触れる面積が増えると、
それだけで頭の霞みがかった部分が大きくなる。
頭を振り、力なく相手に掴まると、完全に笑っている膝を叱咤して歩き出す。
鍵に導かれるまま路地に入り、ネオンから遠ざかる。
路地のつきあたりまでたどり着くと、
店の裏口のような扉の鍵穴へと吸い込まれるように鍵が入り込み、
カチャリと鍵の外れる音がした。
「……つな、がって、る………。」
歩いている間にも熱い呼吸が止むことは無い。
その扉を開けるなら、建物の内部ではなく、
どこかの家のワンルームと思わしき光景が広がっていた。
ソファとベッド、簡素な家具。
一通り生活できそうな場所。
遠くに見える窓の外の光景は……落第街の一部だ。
ヨキ > 「気にするな」
短く応え、柊の歩調に合わせて歩く。
時間を掛けて、路地の最奥へ。
繋がっている、という彼の言葉に促されるまま、扉を開く――
「――おお」
目の前に広がる光景に感心して、声を漏らす。
「そうか。別の建物か。
これは何とも……便利なものだ」
相手の様子を重く見て、ベッドへ腰掛けさせようと導く。
「気をしっかり持て、羽月。
熱っぽいことの他に、異状はないか? どこか痛むとか、苦しいとか」
羽月 柊 >
ヨキと柊が部屋に入れば、後ろで勝手に鍵が閉まる音がした。
振り向けば普通の内鍵で出ようと思えばいつでも出れるだろう。
部屋を進めば、照明がぱっとついて。
明かりに照らされれば、頬を上気させた柊がよく分かる。
ベッドまで導かれる。
休まなければと思う思考とは裏腹に、
己の手は、ヨキの七分丈の袖を掴んだまま。
痛みや苦しみは無いかという問いに、緩慢に頭を横に振る。
「痛く、ッは……熱く、て……、
おか、……しく、なりそう………ッだ…。」
いつだって思考を続けているはずの自分の頭が、全くままならない。
口を開いていれば何かとんでもないことを言ってしまいそうだ。
歯を食いしばっていたいのに、カチリ、カチリ、と震えて音が鳴る。
ヨキ > 見るからに尋常でない柊の様子に、思わず唇を噛む。
「全く、あの娘と来たら。
一体何をしてくれたというのだ……。
少し待っておれ、水でも飲んだ方がいい。……」
掴まれたままの袖口を見下ろす。
「…………、」
どこか困ったような顔で跪いて、柊の顔を覗き込む。
「羽月、とりあえず上着を脱いで、衿元を楽にしろ。
その間に、ヨキは水を淹れてくるから……、な?」
尋ねる声は小さく、囁くように。
今の柊は、恐らく気が動転していると踏んでのこと。
羽月 柊 >
離したい、離したいのだ。
手を離したいと、自分だってヨキの提案を飲みたい。
ただ、身体が言う事を聞いてくれないのだ。
訳も分からず布越しに感じる相手の体温が、手だけだと言うのに、
堪らなく"悦い"と頭に焼き付けられて、弱めるどころか、縋ってしまう。
「は……ぁッ……、……ッ…。」
視界が揺れる、熱で瞳が潤む。
友人に、何をしているんだと頭のどこかで警鐘が鳴り続けている。
けれど熱がそれを全て塗りつぶしていく。
ヨキ > 「な、……」
掴まれて、思わず手元に目を落とす。
「羽月……」
名を呼ぶ声に、困惑が交じる。
けれど、その手を無理に引き剥がすことはしなかった。
「大丈夫だ。ヨキはここに居るから。
居なくなったりせんよ。
……何か、ヨキに出来ることはあるか?」
言葉の限りを尽くして、語り掛ける。
朦朧とする柊を、繋ぎ止めようとするかのように。
空いている手のひらで、己を掴む羽月の手の甲を、優しく叩く。
羽月 柊 >
「ッ~~……ァ、はぁ……っ、よ、きぃ……ッ」
困惑の声と手を叩かれ、びくりと身体を震わせる。
今は他人からの接触が酷く熱を煽る。
――なんなんだ、どうにかしてくれ、この熱を。
――見ないでくれ、こんな友人の俺を。
これ以上醜態を晒したくないというのに、
口から出る音は、浴びせられた液体のように甘ったるい。
自分でもその音に驚くように呼吸を飲み込む。
問われれば更に縋ってしまいそうになるのを必死に首を横に振る。
けれども手が離せない。身体が他人を求める。
熱が身体の中で暴れている。腰の奥が特に熱い。
ヨキ > 耳を擽る甘い声に、目を白黒させる。
薄く開いた唇が、何かを言おうとして、けれど言葉にならなかった。
まるで睦言めいた響きに、目を伏せて、床を見て、反対側の壁を見て、柊へ目を戻す。
「…………。羽月」
そっと、囁き掛ける。
「情けない話だが、ヨキは君が何を欲しているかが判らぬ。
ヨキが出来ることなら、何でもしてやるから。
安心しろ。大概のことで、ヨキは怒りはせん。何でも言ってみろ」
腕を掴まれたまま、よいせ、と立ち上がる。
そのまま、彼のすぐ隣に腰を下ろす。
羽月 柊 >
最早なけなしの意地で、男の自分が友人に、相手の性別すら無視して縋るなど、と
カチカチと噛み合わない歯を食いしばるのだが、
身動ぎで身体に這う服の摩擦すら、背筋を這いあがる。
「すま、……なぃ……ッ……。」
最早謝罪の言葉が何の意味を成すというのか。
自分でも意味すら分からず何度かすまないと繰り返す。
相手の名前を繰り返す。まるで譫言のように。
座ってもヨキの方が座高が高い。
すぐ隣に他人が来れば、理性の最後の糸を刃が斬りに来る。
「―― 、 、 ……。」
「 、 、 、 ……。」
間違っている、こんなことは。
羽月 柊→ヨキ >
「――助けて、くれ、ヨキ……。」
「熱くて、どうにか、して、くれ……。」
ヨキ > 傍らの声に、耳を澄ます。
囁かれたその言葉に、目を伏せて、長く長く息を吐く。
「…………、判った」
瞼を開いて、隣の柊を見遣る。
「言葉を変えよう」
辛うじて空いている、柊の片手を取る。
その腕を導いて己の肩口へ回し、自ずから相手の腕の中へ潜り込む。
「“好きにしてみろよ”」
互いの顔しか目に入らないような距離で、そう囁く。
「初心ではないのだろ?」
小さく笑う。泰然と。
柊を包む甘い香に、ヨキの肌の匂いと、香水の淡い匂いとが交じり合う。
柊の腕の中で、長い指が相手の太腿を這い上ってゆく。
彼の中に残った最後の理性を、優しく穏やかに、解きほぐすかのように。
羽月 柊 >
突き放してくれたら。
放り出して帰ってくれたらという思い。
他人が欲しくて仕方が無いという思い。
それらがないまぜになって相手に囁いた言葉は、酷く曖昧で、稚拙だった。
それへの答えは――触れ合う熱。
「っは………、……――ッ!」
密着してしまえば、相手に熱が、甘い香りが伝わる。
拭ったとて、それは相手をも僅かに巻き込む。
離せる訳が無い。やめろと言う自分に答えられない。
ただでさえどうにかなってしまいそうだというに、
熱を貯め込んでいる近くをなぞられれば、
ぷっつりと、理性が飛んだ。
後頭部へ手を回して、
噛みつくように唇へ唇を重ねようとする。
ヨキ > 息を。
大きく吸い込んで、不敵に。
「あはッ」
唇を塞がれる直前、そう短く笑ったのは聞き間違いではない。
首を軽く傾ぐようにして、柊の唇を受け止める。
後頭部を抑え付けられたとて、膂力の差は判り切ったこと。
それでも、ヨキは逃げなかった。
唇を食む。
牙の先が、唇の粘膜を柔く刺激する。
唇と唇の合間から零れる息継ぎ。
舌先が相手の口腔を侵し、水音を立てる。
指先が、手のひらが、内股にするりと入り込む。
衣服に手を掛けることも、足の付け根より奥へ立ち入ることもせず。
相手の熱を、引き出し、弄び、煽る。
羽月 柊 >
後頭部を弱く撫でる。
手にはめられた様々な装飾が、撫でる度独特な感覚を生む。
かつての獣に縋るのは、なんの力も持たぬ人間で。
彼らは同じ性別を持っている。
最後にキスをしたのは、この右耳のピアスの対が居た時。
これは変化なのか、それとも。
急くように、相手の熱を感じるように口付けを交わす。
最早そうなってしまうと理性の枷はなんの意味も持つ事はなく、
舌が絡み、音に煽られて自分より大きな彼を抱く腕が、肩が跳ねる。
口付けで軽く意識が飛んですらいるのか、相手が煽るのにつられ腰がひくんと痙攣する。
「っは、……んン、ッァ……は………ッ。」
ヨキ > 唇を離すと、唾液が細い糸を引く。
長く息を吐き、己の唇をべろりと舐めた。
「全部吐き出してしまえば、楽になれるものを」
言うなり、再び唇を重ねる。
太腿を焦らしていた指先が、内股を滑り、その奥まで入り込む。
やがて――柊が隠そうとする熱の源を、布地越しに撫で上げ、擽って、ゆっくりと擦り上げる。
重ね合う唇の柔らかさと、柊の内から沸き上がる熱を結び付けるかのように。
唇を離し、耳元で囁く。
「――それで? 女だってもう少し貪欲だぞ」
笑い掛ける。
「君がやりたいこと、してみろよ」
羽月 柊 >
同性を相手にしたことなんてもちろん無い。
熱に浮かされたまま、耳元で響く低い声が鼓膜を擽る。
理性が焼き切れているとはいえ、惑いは多くあった。
それを欲と熱が手と手を取るように、
黒のスーツ越しでも照明に照らされて張り詰めている箇所に触れられれば、
そこは口付けのせいもあってか、酷く熱かった。
力の無い身体が、相手ごとベッドに倒れ込む。
自分より大きな彼を下に敷いて、上着を脱いで。
普段の思慮深い羽月柊はそこには居ない。
「……っは、……っ」
煩わしそうに、熱で動かない手で己のネクタイを解く。
ボタンを外そうとして力加減が上手くいかず、最上段のそれが一つ糸を切って飛んで行った。
フローリングの床を転がる音なんて、もう耳には届かない。
人間とて、結局は獣だ。
ヨキ > ベッドの柔らかな感触。
普段は見下ろしている柊が、己を見下ろしている。
「………………、」
その呼吸は緩やかだった。
息を殺し、抑え込んで、柊を見つめる。
「……もっとだ」
手を伸ばし、柊の頬を包み込む。
煽り立てるように、笑う。
「君が楽になれるまで、好きにしろ」
それは詰まるところ――荒療治だ。
「ヨキは」
笑っている。
ずっと笑っている。
不敵に笑う、その唇が。
微かに震える。
「どうなってもいいから」
どこまでも、友人としての言葉。
大きく息を吸い込む。何度でも。
柊を苛む香りを、己の内にも取り入れるかのように。
羽月 柊 >
止めたい。
シャツの前をはだけさせて。
筋肉もあまりついていない魔術師の身体が露わになる。
止めたい。
相手の服を脱がせようとして手が震えて出来ず、
それでも狂った熱に突き動かされるまま、相手の上に覆いかぶさって、熱を相手に擦りつける。
長い髪がヨキを撫でる。
やめろ。
「ァ……ッ、ぃや……だ………ッ」
友人にこんなことをするのは、嫌だ。
頬を涙が伝う。
けれど言葉と身体は完全に分離していて、
何度も口付けを繰り返しては、片手をヨキの真横について身体を支え、
ズボンの前を寛げようとする。
やめさせてくれ。
ヨキ > ヨキの脈はいつもより早かった。
口付けを重ねるたび吐息が零れて、組み敷かれた肢体がもぞりと身動ぎする。
けれど。
不敵で不遜な笑みが固まったのは、相手の口から、いやだ、という言葉が漏れたから。
その頬を伝った涙が、自分の頬へと零れ落ちたから。
「な……」
腕を持ち上げる。
「……んだよ、……」
下衣に手を掛けた柊をそのまま抱き寄せ、身体を密着させる。
「無理は、するな……」
長い髪の影から、耳打ちする。
柊の耳に掛かる吐息は、少なからず熱を帯びていた。
羽月 柊 >
「……っおまえ、に……こん、な…っ…ッ」
今、一番近い友人に。
手の届く相手に。
何故自分はこんなことをしているんだ。
まるで乱暴を働くような行為を、
受け入れてくれたからと、甘えて。
身体が擦り合えば、ヨキの上で背筋が反る。
涙を零したまま、首筋に擦りつくように抱き締める。
ずるずると密着すれば、半端に頭を出した下肢の熱が相手を擦る。
「ァ、…う、んン………ッ」
それだけで、男の低い声が跳ねる。
ヨキ > 「泣くなよ」
柊を抱き締めたまま、ぼそぼそと呟く。
触れ合った体温が移ったかのように、ヨキの下半身もまた熱を孕んでいる。
「ヨキが苛めたみたいではないか……」
か細く笑う。
「不可抗力だ。寝て起きたら、きっと忘れる。
……そう祈れ」
微笑む。背中を片腕で抱き締めたまま、もう一度問う。
「……君は。どうしたい?」
もう片方の手が、再び二人の身体の間に潜り込む。
肌と肌の間を探る指先が、晒された熱の先端にちらりと触れた。
「これ以上は、嫌か?」
羽月 柊 >
「………ン、ぅっ…~~~。」
散々に香りに冒されたそこは、
触れるだけでだらしなく涎を垂らしていた。
熱を出したいという欲に苛まれ続けているのは変わらない。
時折波のように戻る正気が、嫌だと訴える。
それでも、身体が相手を求めて止まず、掻き抱くようにすると、熱同士が僅かに擦れる。
決定打に足りる訳も無いが、びくびくと身体が痙攣する。
「あ……つぃ………。」
再び欲望が口をついて出て、首を横に振る。
「だし、た、……ぁッ……っく…。」
ヨキ > 「…………、ふふ」
欲望とその否定とが綯い交ぜになった様子に、小さく笑う。
「最初で最後だ。いつまでも苦しがる君を見るのは、ヨキも本意ではないから」
ごろり。
相手を力任せに引っ繰り返して、今度は自分が組み敷く側。
ベッドに倒れ込む折に放り出した鞄を引き寄せ、中を探る。
取り出したのは、避妊具がひとつ。
「直接出すよりは、こちらの方がましだろう」
開封して、柊の熱に覆い被せる。
ヨキが己のために買い求めたそれは、少しだけサイズが余ってしまう。
それでも、構わずに。
ヨキの大きな手が、柊の熱を上下に責め立てる。
緩急を付けて、心地よい速度を探るように。
羽月 柊 >
体調を崩した状態でさえ、ここまで思考が落ちてはいなかった。
崩れると脆いのは確かなのだが、柊のこんな姿は、
後にも先にももう見れはしないだろう。
そのままなら、またどうにかしようと動いていたかもしれなかったが、
ただでさえ撫でられるだけで跳ねる身体は容易に視界が周る。
「ヨ、き……ッぁ、ぐ……んン…っ!」
一般的な日本人男性のそれ。
避妊具を被せる為に露出すれば、確かに誰かを抱いたことのあるもので、
はち切れそうな熱を抱え、腹の方を向いて反っていた。
ゴム越しとはいえ、漸く欲していた刺激が直接与えられれば、唇を思い切り噛んで仰け反った。
同性にこんなことをされるなど、経験があるものか。
一度目はすぐに訪れる。それでも、熱は治まらない。
すぐに高められて、そのうち探り当てられた反復行動に口が開く。噛んで血の滲む唇が。
「っぁ、は……ッぁ、ぃ、……ッ!!」
熱のまま、相手の腕を引く。
相手と密着する箇所が増える程、啼く。
ヨキ > 相手の顔を見下ろしながら、手元は淫猥な音を立てて優しく搾り取るように上下している。
「……ヨキだって」
その語調は、さながら世間話のように。
「男と口付ける機会が、“また”来るとは思わなかったよ」
ぽつり、ぽつりと。相手が聞いていようといまいと、構わない風に。
「他人の一物を扱くなど、以ての外だった」
規則的な上下動。
やがて己の手のうちで柊が脈打ち、果てる。
避妊具の口から白濁を溢れさせながらも、手を止めることはない。
腕を引かれ、再び距離を縮める。
「……もしも、忘れられないとしたら。
ヨキの手を見るたびに、唇を目にするたびに、思い出すのかな。
まったく君は、苦労が絶えんな」
他人事のように、小さく笑って。
下半身への刺激を続けながらに、今一度唇を重ねる。
蹂躙めいた口付けと、相手を突き上げる快感とを結び付けるために。
羽月 柊 >
先程まで時折戻って来ていた正気は完全に消え去り、
熱に呻くように啼き、口付けで零れる唾液が、
涙が頬を伝ってベッドシーツに落ちる。
交わした唇は、僅かに血の味がした。
何も思考出来ない。何も言葉らしい言葉が紡げない。
ただ、その瞳の色と同じ、甘い色の香りに任せるまま、
相手を掻き抱いて悦いと訴えた。
熱が尽きるまで、その意識が疲弊に奪われるまで。
「ぁ、んん、ンッ……ふ、ンんッ!」
だらしなく、情けなく、蕩けた表情で。
数度、熱が避妊具を満たした。
しばらく続けていれば、そのうち勢いが衰え、
ヨキを掴んでいる手にも、縋ることすら力が無くなって来る。
ヨキ > 竿を絞るように。先端を弄ぶように。
繰り返し繰り返し、果てても果てのない刺激を与える。
そこにもはや言葉はなく、熱っぽい吐息が交わされるだけ。
静かな空間に、体液の音と柊の声だけが響いて――
――それから後。
やがて力尽きる柊の傍らで。
避妊具の口を縛って処分し、汚れの後始末をして手を洗うヨキの姿がある。
「…………、」
柊の横に、ごろりと転がる。
「……………………」
長い長い、長い息を吐いて目を閉じる。
「……落ち着いたか、羽月?」
目を閉じたまま、寝言のような小声で尋ねて。
眼鏡を外し、その顔を拭った。
羽月 柊 >
「……、………。」
漸く熱が治まった。
余韻から、静かながらも震える呼吸を繰り返す。
自分は何をした?
友人に縋って何をしていた?
「………、あぁ……。
あぁ……すまなかった………ヨキ…。」
一度ゆっくりと頷いて。
最早謝るしかない、薬のせいとはいえ。
「ヒトとして……、最低な………あぁ、
…自己嫌悪で…死にたいやら消えたいやらはこういう……。」
疲弊して重い隻手の掌で顔を覆う。
全く今まで死にたいと思ったことは無かったのだが、
羞恥やら情けなさやら覚えているやらで消えてしまいたくなった。
ヨキ > 顔を拭ったのち、目元に腕を押し当てたまま話す。
「気にするな。仕方のないことだ。
……ああする他に、仕方がなかった」
そう繰り返す。
「全く、ヨキも中てられたものだ。
下手をすればあのままヨキまでおかしくなっていたかと思うと、ぞっとしないな」
ヨキは今、裸足になってベッドの上で両膝を立てている。
下肢に残ったわずかな熱のやり場を失くして、ただそのようにじっとしていた。
「ここでもう少し、休ませてくれ。
君も疲れたろう? ……とりあえず、休んでおくといい。
どうやら君の自己嫌悪は、しばらく消えなさそうだがね」
顔から腕を下ろす。
隣の羽月を見遣って、可笑しげに小さく笑う。
羽月 柊 >
「……本当に、すまなかった…。
放って、置いて帰っても……良かったというのに。
君には……その力が、あったろうに…。
…男の……相手をさせる、羽目になってしまって…。」
言葉にすると余計に自分が罪深いことをした気分になってしまった。
ベッドに身体を投げ出して、隣のヨキを重い頭で見やる。
「……服やらは弁償する……。
この部屋は、こっちでの拠点みたいな、モノで………。
好きに、休んでくれて、構わんから………。」
一通りの家具も、ユニットバスだが風呂もある。
「……動けるように、なったら、君の着替えを…買ってくる……。」
ヨキ > 「友人が苦しそうにしているところを、放っておけなかっただけだ。
気にするほどのことではない。次にヨキが困るときがあれば、助けてくれればいい」
服の弁償と言われると、頭だけを起こし、自分の服を見る。
「君はともかく、ヨキの方は平気だろう。
ゴムを被せておったし……、ああ、手を濡らしたのが少しだけ着いたか。
ふ……、ふふ。よりによって、黒い服を着た日にな」
くすくすと笑う。
「…………。
あとのことは、眠ってから考えよう。
安心したら、何だか眠くなってきた。……」
気が付けば、時刻は深夜。
声が少しずつ、眠たげに弱まってくる。
それからそのまま、ひどく無防備な体勢で眠りに落ちてゆく。
甘い香と、噎せ返るような精の匂いと。
それらに包まれて尚、眠気に抗うことは出来なかった。
ご案内:「常世渋谷 夜街近く」からヨキさんが去りました。<補足:29歳+α/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/黒七分袖カットソー、細身の濃灰デニムジーンズ、黒革ハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
羽月 柊 >
「………あぁ、……必ず…。」
世話になりっぱなしだというのに、
どれほどのことをすれば、恩が返せるというのだろう。
隣から聞こえる言葉を聞いて、寝息を聞いて、
拒絶されていないことに安心感を覚える自分が愚かしくてならない。
ヨキの黒い服についている自分の飛沫に眉を顰め、
本当に起きたらせめて上着なりを買ってこなければ、と思う。
思うのだが、普段ろくに処理もしていない男にとっては、疲弊が大きかった。
「…………ねむ、ぃ…。」
考えがあやふやになっていく。
もう疲れが限界だ。
友人とはいえ、息子や小竜以外の、こんなに近くで……。
そうして、いつの間にかヨキの隣で、柊も寝息を立てていた。
目が覚めた後の彼らの会話は、彼らだけの話。
ご案内:「常世渋谷 夜街近く」から羽月 柊さんが去りました。<補足:待合済:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。黒のスーツ姿。>