2020/09/04 のログ
ご案内:「違反部活群/違反組織群」に葛木 一郎さんが現れました。<補足:中肉中背の男子学生。暗い茶髪のミディアムヘア。瞳は黄金色。制服着用、右腕には風紀委員会の腕章。>
葛木 一郎 >
――人が、死んでいた。
“あの晩”に、いくらでも人が死ぬところは見た。
だから、俺は別になんてことないと思っていた。苦しいけれど。
人はいつか死ぬから、遅かれ早かれだって思っていたはずなのに。
「うっ、うえ……」
胃の内容物が迫り上がってくる。
目の前の現実を現実として受け入れたくないと身体が叫んでいる。
叫びたくなるほどの現実を目の前にして、俺は声が出なかった。
金髪。
俺と同じくらいの背丈。
そして、右腕には風紀委員会の腕章。
その喉から、どんな言葉と声が出るかを俺は知っている相手。
命の重さに人は貴賤はないというけれど、俺はこいつを特別扱いしている。
埃っぽい、かつて違反部活の本拠地だったという建物。
ここに、俺以外の人間はいない。俺以外全員が見ていなかったか。
もしくは。
・・・・・
見ないふりをしていた現実が、目の前に現れた。
「……九重ッ!!!!」
触れることはできなかった。
つんと鼻につく腐臭は、もう『どういうことか』を示している。
ただ、夜半に叫ぶことしかできない。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」に羽月 柊さんが現れました。<補足:待合済:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。黒のスーツに竜を模した仮面をつけている。小さな白い竜を2匹連れている。>
羽月 柊 >
落第街の古い知り合いが、『お前の探しているモノが居る』と言っていたのが先ほど。
状況を教えられることは無かった。
しかし、楽しそうに笑っていた意味を、今知る。
──葛木 一郎。
とある事件の最中で羽月 柊と出逢った彼。
『トゥルーバイツ』事件と呼ばれたそれは、
『欠損』と『願い』を持ったモノ達が、
『真理』というたった1%の願いの成就と、99%の死を求めた事件。
青年と男が対峙した時、彼はその1%を求めていた。
しかし、柊と言葉を交わし、その1%をあの時は諦めた。
そうして、『教師をやってくれ』と、
『共に歩む』と言った写し鏡たちは、
ここから、物語を始める。
「──…葛木!」
友人のヨキから、彼が探し人をしていると聞き探していたが、
見つけたのは新学期が始まってからとなった。
それも…あぁ、彼が……『取りこぼした』場面に逢うだなんて、誰が想像できるだろう。
叫び声を追いかけるように、その名前を呼んだ。
彼の後ろで仮面を外して。
葛木 一郎 >
「……羽月せん、」
声で誰かはわかった。
自分が探していた人物の片割れは生きていることが今わかって。
もう片方はすでに息をしていない。二度と自分の名前を呼ぶことはない。
喉を焼くように上がってきた吐瀉物を必死に飲み込み。
震える手をどうしようもなく抑えながら、携帯端末を操作する。
――あれ?
どうやったらいいんだっけ?
風紀委員への連絡って、どうやってやるんだっけ?
番号。そうだ。番号を、入力して、ああ、でも、直通回線が。
……あったはず、なんだけど。
振り返ることもできない。
ぎりぎりのところで端末を取りこぼしていないだけ。
これを落としたら、俺の理性も多分糸を切ってしまうことだろうと思う。
だから、落とせない。
落とさない。でも、ここから一歩も動けない。
死因は? コンクリートに付着した血液は赤黒い。
昨日今日で死んだわけじゃない。絶対に。夏休みの終わり際から、今日まで。
行方不明になっていた時間は途方もない。
その間に殺そうってったって、アリバイなんてつくりたい放題だ。
じゃあ、俺は何ができるんだ?
「……おひさし、ぶりですね」
出てきたものが、夕飯の台湾ラーメンじゃなくてよかった。
ちゃんと、言葉を選ぶことができて。よかったな、と、少しだけ安堵した。
羽月 柊 >
彼の様相に息を呑んだ。
いくら風紀委員とはいえ、…いくら"あの時"死の近くにあったとはいえ、
やはり……彼は、一郎は子供なのだ。
男の片耳のピアスが揺れる。
この痛みを、自分は良く知っている。
けれど、それは彼だけの痛みだ。
「あぁ、ああ…葛木。」
久しぶりだなという返事よりも先に、動けない彼に駆け寄る。
あの日間近にあった紫髪を揺らして…桃眼を心配するように細めて。
対峙ではなく隣に。
可能ならば、彼に触れようとする。
可能ならば、彼の肩に手を置いて、しっかりしろと写し鏡に呼びかける。
「…そうだな。……君をずっと探していた。
まさかこんな状態で逢うとは思っても見なかったが…。」
『大丈夫か』などと聞ける訳がない。
「…吐き出してくれて構わん。…俺が、ここにいる。」
そう、言葉をかける。
重荷は、一緒に背負うと、そう誓ったのだから。
葛木 一郎 >
「すいません、連絡を、入れてもらえますか」
弱音よりも先に、自分の背負った看板を支えた。
自分が一人の人間である以上に、風紀委員会の一員でもある。
この腕章はその『覚悟』の証であるし、これをしている以上は。
この何百倍もの人数の死体を見ている委員もいるかもしれない。
だから、たった一人の死を目の前に動揺しすぎるわけにはいかない。
……とはいえ、もう、連絡を入れられなかった以上、その職務は果たせていないが。
「風紀に。
行方不明になっていた学生を発見したって、
ここのポイント情報と一緒に、それから、委員を呼んでもらえますか」
静かな夜に、いやに落ち着いた声が出た。
泣き喚きたかった。泣き叫びたかった。それでも、そうできなかった。
俺は悲しいはずなのに、気持ちの一定ラインより先にいかないように、
なんだかストッパーのようなものがかかっているかのような気持ちだった。
「……大丈夫です。
俺は、いいんです。俺は、生きてますから。
だから、今は、……九重を、見つけたって、言わなきゃ」
深呼吸を二、三度繰り返す。
ある程度言葉も出てくるようにはなってきた。
落ち着いてはいるのだろう。今は、『九重』にはもう見えていない。
『九重だったもの』でしかない。
だから、死者に生者ができることなどそう多くない。
だから、次に目を向けなければならない。それが風紀委員の職務なのだから。
羽月に肩を置かれたまま。端末をそっと差し出した。
羽月 柊 >
「………。」
今は触れることが出来る。
自分たち自身から死が遠ざかったとはいえ、
やはりそれは自分たちの隣に常にあるモノには違いがなかった。
自分だって死体そのものは見慣れたモノだ。
裏の世界を歩く以上、それはよく眼にすることであるし、
己が魔術師や研究者である以上、それは身近ではある。
しかし、だからといって……今はそれを"雑踏"として無視出来なくなっていたが。
一郎から端末を受け取る。
流石に元学生であったとしても、
風紀委員だった訳ではないし、使い方は分からない。
「…とりあえず、使い方を教えてくれるか。」
彼の指示通りに委員に連絡を取る。
応答してくれるモノが己の知っているモノであれば…話も楽だが。
風紀委員のオペレーターであるならば、説明もしなければ。
一定のリズムで彼の肩を軽く叩く。
「……今は、無理に大丈夫と言わなくていい。
男だから気を張りたい気持ちは…わからんでもないが……。」
思えば随分と自分の態度も軟化したモノだ。
これは恐らく…友人のおかげかもしれないのだが。
葛木 一郎 >
「……いえ」
首を軽く左右に振った。
ここをこうして、と、ある程度の端末の使い方を指示し。
自分の気持ちとは裏腹に大笑いしている自分の膝を睨みつけながら。
「これで、多分、数分以内に近くにいる委員へ連絡がいくはずです。
すいません。……これで、多分大丈夫、です。
……現場の引き継ぎをするまでは、男だからとか、そういうのじゃなくて」
誰かを特別扱いするわけにはいかない。
あくまで、風紀委員として。もう一度失敗している以上はミスできない。
だから、風紀委員の仕事はやり通さなければならない。今、ここにいる委員は自分だけだ。
常世島を守る警察機構が、ここで折れてはいけない。
自分一人だったら折れることはなかったかもしれないが、今は。
現状を見ている“島民”の羽月だっている。
だから、“ヒーロー”は、“正義の味方”は、折れるわけにはいかない。
甘ったれるわけにはいかない。自分がやることは決まっている。
水城九重を殺した犯人を、この手で捕まえることだ。
遠くから、サイレンの音が聞こえてくる。聞き慣れたバイクの排気音が聞こえる。
“風紀委員会”が、事件現場にやってくる。
安心している自分がいた。
安心している自分を嘲笑っている自分がいた。
「……先生は、なんでこんなところに」
現場にいる人間は二人。自分と、羽月。
そのどちらもが、“風紀委員会”から見れば被疑者の一人だ。
第一発見者が一番最初に捜査の目を向けられるのは当然のことだから。
葛木という風紀委員も、現場にやってきた男に、そう静かに問うた。
羽月 柊 >
「……そうか。」
己の責務を果たそうとする彼を隣で見る。
端末での連絡に応答してくれたオペレーターに、一郎の指示通りに話した。
この島で生活するならば、彼ら風紀委員は、警察と同じ。
誰だって世話になる存在であるし、誰だって彼らと厄介事を起こしたくはない。
それでも、…こんな状況に居合わせるとしても、
男は写し鏡の彼を無視することは最早出来なかったのだ。
……己にとっては、葛木一郎は…最早、掛け替えのない人物なのだ。
「…知り合いから、俺の探しているモノがここに居ると聞いた。
元々、『教師になった』時から、探してはいたんだ。
君に逢った"あの時"は、まだ俺は教師ではなかったからな…。
…本当なら、もう少し平穏に逢いたかったモノだが……起きてしまったことは仕方が無い。」
『トゥルーバイツ』から"風紀委員"に戻る際に、
恐らく、どういう事があったかは聴取されているだろう。
日ノ岡あかねとは違い、早くに懲罰房や地下教室から解放されたとはいえ、
風紀委員とて、馬鹿の集まりでは無いはずだ。
ならば、"葛木一郎"と"羽月柊"の関係性は、ある程度知られているのではなかろうか。
そうして、男がここに、裏の世界を歩いていることは、
あの日二人が出逢った事がそれを証明している。
「……葛木、"独り"で無理はせんようにな…。」
それで消えた愛するヒトが居た。
それで倒れた己が居た。
だから、彼もそうならないようにと、風紀委員が駆け付けるまでに声をかける。
葛木 一郎 >
「知り合いが」
黙り込んだ。探しているものがここにいると言われて。
少なくとも、目の前の相手が明るみだけを歩く人物でないとわかった。
それは、少なからず思うところもあるけれど。
……ひとまずは、いまはその来訪に感謝した。自分一人では処理しきれなかった。
「……慰めですか」
口をついて出たのはそんな言葉で。
労ってくれているのも十分にわかっていた。
それでも、なぜ自分を見つけるよりも先に九重を見つけてくれなかったのかと。
こんなことをしでかした犯人を見ていないのだ、と。
誰にぶつけるでもない怒りが、ふ、と滲んでしまった。
すみません、ともう一度だけ謝れば、サイレンの音は徐々に大きくなってくる。
『葛木くん』
聞き慣れた委員の声が聞こえる。
馴染みのある委員の声が聞こえる。
自分はこの声を聞いているが、目の前の九重は聞いていない。
「……はい。ええ。わかりました。
あとは、はい。現場は触ってないです。動かしても。
周囲に人間がいたかどうかは、端末のログを追ってもらって、……」
きっとこの後、羽月にもいくらかの調査が行われるだろう。
現場にいた人間二人が、この事件の俎上に上げられる。
「……先生も、また、もう少し、……落ち着いたあとに」
軽く頭を下げてから、委員会の車両に乗り込んでいく。
ようやく張り詰めていた気が抜ける、と少しだけ安堵した自分がいた。
同時に。
九重よりも、自分ばかりを見ていた羽月という男に対して。
ほんの少し、心の片隅で――小さく、違和感を覚えていた。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」から葛木 一郎さんが去りました。<補足:中肉中背の男子学生。暗い茶髪のミディアムヘア。瞳は黄金色。制服着用、右腕には風紀委員会の腕章。>
羽月 柊 >
……男は、この死んでいる誰かを知らない。
『九重』と、彼が言ったからこそ、
この死んでから何日も経っている腐乱死体が誰かを伺い知れただけ。
死体が彼の探し人だと言う事すら、男は知らないのだ。
伝言ゲームのように男に伝わっているのは、
友人から聞いた、『葛木一郎が人捜しをしている』ということだけ。
だから自然と天秤は知っているモノに傾く。
時間があるならば、死体を見ることは出来たかもしれない。
しかし、それ以上に一郎の動揺を、慟哭を、
欠片でも知っている側からすれば、放ってはおけなかったのだ。
男が生にしがみついていること自体は、変わってはいない。
八つ当たりのような言葉を受けて、それでも……男は一郎の隣に居た。
「……あぁ、また今度、…必ず、話をさせてくれ。」
男の激動の人生は、未だ静かになることは無い。
柊が聴取で何を喋ったのかは…また別の話。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」から羽月 柊さんが去りました。<補足:待合済:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。黒のスーツに竜を模した仮面をつけている。小さな白い竜を2匹連れている。>