2020/09/06 のログ
ご案内:「宗教施設群-修道院」にマルレーネさんが現れました。<補足:165cm/金髪碧眼修道服/おひとまち>
ご案内:「宗教施設群-修道院」に松葉 雷覇さんが現れました。<補足:白い背広の眼鏡をかけた男性。青いバンダナと眼鏡が特徴的>
マルレーネ > しとり、しとりと雨の降る日だった。
激しく叩きつけるようではなく、それでいて走ればなんとかなる、といったレベルのそれでもなく。
人が丁度外に出たくないなと思えるような、そんな雨。

「今日は流石に誰もいらっしゃいませんかね。」

窓を見ても灰色の世界で、自分の顔が映るばかり。
うーん、それはそれでまた退屈でもあり。

ああ、今日はそういう趣向の神の試練。成程。
バリエーション豊かぁ。

一人で掌を合わせて何かに納得して、箒を取り出して掃除を始めるシスター。


表には看板は掲げてはいるが、どうやら開店休業になるだろう。
少しばかり気を抜いて、ふぁあ、なんて欠伸を一つ。

松葉 雷覇 >  
欠伸を一つし終えたところでそれはやってきた。
しとりと降りしきる雨音とは別に、それはゆったりとした足音だった。
修道院へと訪れたのは、白い背広姿の男だった。
融和な笑顔を浮かべ、眼鏡のレンズの奥の青い瞳。
穏やかな眼差しがシスターを見据え、小さく頭を下げて会釈だ。

「どうも、シスター。生憎の雨ですが、ご機嫌は如何でしょうか?」

もし、其方の記憶力に自信があれば見覚えがあるかもしれない。
医療施設に、山本英治の見舞いに来た男。
退院直前にやってきた男だ。あの時もシスターに軽い会釈をしたはずだ。

「山本君のお世話をしていただき、感謝しています。
 そのお礼……と言う訳ではありませんが、どうでしょうか?
 私と少し、お話していただけませんか?」

その手に提げられているのは、バスケットに入ったフルーツの盛り合わせ。

マルレーネ > おや、と欠伸で開いた口を掌で押さえて。
目をぱちりぱちりと。

「ええ、少々暗くなってしまう天気ですけれど。
 外に出る用事もないので、少し退屈な程度ですかね。
 お久しぶりです。」

頭をぺこり、と下げる。
風紀の関係者か何かかな、なんて首を傾げながら。
いちいちあの通った人はどんな人ですか、なんて尋ねたりはしないので。

「ええ、勿論構いませんよ。
 お話を何でも聞くのがお仕事みたいなところ、ありますし。
 ええっと、風紀委員会の関係者の方でしょうか?

 今から、他の方のお見舞いですか?」

首を傾げて、思ったままのことを聞く。
ついでにフルーツは、どこかの病院への途中だと考える。

松葉 雷覇 >  
「いえいえ、それでもお時間を割いて頂きありがとうございます。
 お仕事とはいえ、人と直に関わり、その人なり事態を受け止めるともなれば
 その苦労はお察しいたします。それでいて、医療施設として人を受け入れる体勢。」

「貴女は立派な人間ですよ、シスター」

仕事といようとも、仕事と割り切ってやるにしろそこには善意が必要だ。
人と対面する仕事、人と関わる仕事。ビジネスだけの関係ではあるが
直接的にかかわる人間に善意なければ、長続きしないもの。
雷覇はそれを知っている。故に、シスターの善意には賞賛を惜しまない。

「退屈しているのであれば、私は運がいいですね。
 丁度、貴女とは腰を据えてお話をしたかった」

パチン、と指を慣らせば丸テーブルに二対の椅子。
左右に置かれた暖かな紅茶の入ったティーカップと
あっという間にそこはお茶会の空気。転移魔法のちょっとした応用だ。
バスケットを丸テーブルの中央に置けば、シスターへと向き直る。

「改めまして、私は松葉 雷覇(まつば らいは)と申します。
 異能学会に所属する科学者です。技術提供、と言う点では
 風紀委員会の方々のお手伝いもさせて頂いております」

マルレーネ > 「あはは、そんなことありませんよ。
 逆にできないことも多くて。 毎日勉強勉強です。」

ストレートに褒められれば、視線を少しだけ彷徨わせる。
頬をちょびっと染めて、頬をぽりぽり。

「あら、そうなんですか?
 お話ならなんでも。 雑談から相談、愚痴まで聞くって言っちゃってますからね。

 ……っと!?」

指を慣らされてすぐに表れる椅子とテーブル。
慣れていないのか分かりやすく驚いて一歩後ろに下がって。

「あ、ああ、すみません。 マルレーネ、と申します。
 ……学者さんですか。 異能というものがあまりにも厄介であることは、しばらく過ごしただけでよくわかりました。
 きっと、大変なんでしょう。」

複数人の姿を思い出す。 どの子の能力も、唐突に持たされるにしては重いものだ。

松葉 雷覇 >  
「勤勉であるというのは、それだけで素晴らしい姿勢だと思います。
 シスター、勉強とは"理解"を深める事です。学問そのもの、ではなく
 私は知識を高める行為は、人と対話するために必要なものだと思っております」

「同じ土俵に立つ、視線に立つ、と言うのではなく
 その人が何を求めるのかを的確に答える事の出来る。
 それだけで、人は"安心"するでしょう」

「勿論、それだけではいけません。貴女のように、善意溢れる人間が持ってこそでしょう」

時にそれは、悪意を持つものに悪用されることもあるだろう。
仰々しい、大袈裟。そんな言い回しにも聞こえるかもしれないが
知の探究者としては、正しく"知識"の意味合いを、"人"として理解しなければいけない。
例え謙遜であろうと、シスターの態度は雷覇にとって大変好感が持てた。

「ああ、驚かせて申し訳ございません。転移魔術をご存じですか?
 指定した物体を特定の場所まで転移させる魔術。その応用です」

詳細は秘密ですけどね、と人差し指を自身の口元に立てて小首を傾げた。
金色の髪が僅かに揺れる。

「シスター・マルレーネ、ご丁寧にありがとうございます。」

どうぞ、レディーファーストです。と、まずは座る事を促した。
言葉通り、マルレーネが腰を下ろせば雷覇も対面に腰を下ろすだろう。

「成る程……」

マルレーネの口ぶりから何かを理解したらしく、顎に指を添えて彼女から視線を離さない。
視線は何処までも穏やかで、温和な微笑みは崩れる事はない。

「シスター、貴女から見て"異能"とは、なんと見えますか?
 ええ、所感で構いません。貴女の御意見をお聞きしたい」

マルレーネ > 「そう、かもしれません。
 善意が溢れているかは、正直、自信はありませんが。」

少しだけ、困った顔で笑う。
彼女が努力を続けているのは、ただただ善意ももちろんある。ないわけじゃない。
ただ、そう"あるべき"だと考えて、その自分の思う理想に殉じている側面もある。
いわゆる、究極な自己満足だ。

だからこそ、最善を尽くしている側面もある。
素直にその言葉を受け止めることはできずに、椅子に座ったシスターはちょびっとばかり困り顔。

「そう、なんですね。 魔法に関しては知っていますが、これだけのサイズの転移となると、私の知っている魔術では、魔法陣を描いたりといった準備が必要でしたから。」

………

「何と見えるか、ですか。
 ………正直、まだ何も知らないですし、何も分からないのですが。
 朝起きたら唐突に、自分の手が鋼鉄になっていたかのような。

 与えられた、……押し付けられたと言ってもいい。
 不意な天稟。」

それは一つの側面から見れば明らかな才能だろう。
子供だけで島が運営できていることからも、それは分かる。

でも、それは歪みだ。

松葉 雷覇 >  
雷覇は微笑みを崩さない。
その深い青は何処までもマルレーネを見ている。

「────世の為、人の為、因果応報。善意も悪意も、最後は己に結果をもたらすもの。」

「貴女の行いに、間違いではありませんよ。シスター」


──────何処までも"底"を見透かすような、深い青だ。


「成る程、つまりは"歪み"とも捉えていると。
 中々良い"眼"をお持ちの様だ」

ほう、と感心の声が漏れた。
雷覇の笑みがまた、深まる。

「事実、この異能を"病気"として見る場合もあります。
 我々は、これを『異能疾患』と呼んでいます。
 あるものは『あらゆる音を失い』、あるものは『己の見る真実と結果が逆しまへと変わる』
 シスター、貴女の言うように"日常"を過ごす上での妨げへと成り得るでしょう」

事実、それに苦しめられた者たちがいた。
現代技術ではどうしようもなく、己の『生』を求めて
あらゆる者へと手を伸ばした。
その先が例え『禁忌』であれど、手を伸ばさなければ『生』は無い。
だからこそ、手を伸ばす。雷覇はそれを否定しない。

「私は、"異能"を『才能』、或いは人間が持つべき『器官』
 "進化の過程"とも捉えていますが……如何にも、此れが難しく
 世間的にも、評価は著しくありません。
 この学園でも、異能一つで多くの問題が存在しています」

「シスター、貴女ならご存じかも知れませんがね」

それを才能としようにも、才能に苦しめられる。
或いは、才能の有無で人間関係に"溝"が生まれる。
此れもまた歪みだろう。人間、人より『変わっている』というのは
大多数にとっては、マイナス印象のようだ。
雷覇は苦い笑みを浮かべ、肩を竦めた。

「私はこれらを、科学の力で何とかしてあげたい。
 私の持つべき力で、人々に安心を与えたい。
 それが私の、科学者である理由です。全ての人間に、『安心』を与えたい……」

「それは、勿論。"異世界"から来たものでもです。────シスター」

マルレーネ > 「そんなに分かりやすいです?」

頬に手を当てて、ちょっと恥ずかしそうにする。
うーん、そんなつもりは無かったんだけれど。
とはいえ、そういった人も見てきたのだろう、と推測する。

彼女自身が、様々な人を見た結果の経験則に頼っている。だからこそ、相手が見透かすようなことを言っても、同様に納得してしまう。

こちらの青い瞳も、じ、っとその青を見つめる。


「………それは分かる気がします。
 疾患として、分かりやすい影響を及ぼすのならもちろんです。」

うん、と頷きながらも、まだ少しばかり迷うような声。


「もし………、空を飛べるなり、人より速く走れるなり。
 一般的に見てプラスの作用であっても、普通できないことが突然できるようになってしまうということは、人間の形成に大きな影響が出る、ような気がします。

 進化と言っても、その進化はあまりにも不意で。
 その子は、まだそれを受け入れるほど成熟していない。

 他人にできないことができる、は才能です。
 でも、"果物ナイフ"で指を切った経験も無いまま、"名剣"を握らされても、それは使い手を殺してしまう。」

穏やかに語る。
ずっと感じていたこの島の歪み。 異能を持つ人間の歪み。 この島の歪み。
たくさん、たくさん感じてきた。

「………科学の力、というものが正直よく分からないんですけれど。
 そういう目的は、とても大切で、必要だと思います。」

「……っていっても、私は困ってないですけどね。 とっても良くしてもらってますし。」

えへへ、と頬を掻く。

松葉 雷覇 >  
マルレーネの言葉に静かに首を横に振った。

「大よそは勘です。私も職業柄、多くの人間と接するので」

本当に心を見透かせているわけではない。
それを口に出すことは無いが、ただ端々に自信の無さ。
謂わば"ナイーブ"な雰囲気を感じれただけに過ぎない。
そこから推察されて出された言葉。言葉遊び気分だ。
的を射ても外そうとも、雷覇は笑って対応する。

「…………」

そして、黙ってシスターの言葉に耳を傾けた。
見てきたものに対する解釈、その感じ方。
雷覇にとっては実に、似たような考えを持っていた。
穏やかな声音が実に耳に心地良い。

「……素晴らしい」

故に、自然と口から賞賛が漏れた。

「シスター・マルレーネ。貴女は想像以上に素晴らしい人だ。
 山本君が貴女を慕う理由がよくわかる……。」

実によく、物を見ている。
それでいて慈悲深い。神の信徒であればこそ、とは言わない。
これが彼女の人柄なのだろう。故に、素直に賞賛し
雨音を上書きするように、ゆっくりと、大きめの拍手が送られた。

「素晴らしい、シスター。貴女の憂いも、私の考えるものと似ています。
 ええ、ええ。その通り。だからこそ私は、この島にいる。
 己の領分で、"世界"を助けたい。そう思っています」

だからこそ技術の集まる、異能の集まるこの島に来た。
雷覇もまた、善性に富み人々を助けたい慈悲を以て此処にいる。
此処迄の言葉に一切の偽りはない。
笑うマルレーネの姿に、言葉に、小首を傾げた。

「成る程、シスター。お困りはない、と……」

「そうでしょうか?地球<コチラ>にきて、何かと不便と思う所もないですか?」

マルレーネ > 「あは、あはは、そうですよね。
 そんなに顔に出てるかなーって少し心配になっちゃって。」

頬を赤くしながら手で押さえて、へへ、と少し恥ずかしそうに笑う。
おおよそ思っていた通りの答えだからこそ、特に考えずに納得をして。


「………えー、っと。流石にちょっとくすぐったいですよ。
 そんなことはありません、まだまだきたばかりですから分からないことが多くて。
 それだからこそ、粗が見えないだけですよ。」

頬を抑えながら、照れる。
もー、やめてください。 なんて笑って見せて。

「なるほど………ええと、松葉さん、とお呼びすればよいでしょうか。
 私はそういった力に関して、人を助けるようなものは持ち合わせていません。
 そんな自分にできること、を、ちょっとだけ考えてはいます、けど。」

「不便に思うこと、でしょうか。」

相手の言葉に、少しだけ考える。

「ええと、そうですね。
 こちらの世界に技術にはまだまだ疎いですけど、それは友人が教えてくれますし。」

「まあ。
 ………今まで当たり前だった神が、こちらの世界では名前すら無いものだから。
 何処に向かって祈ればいいのか、時々分からなくなることが、ちょっとだけ困ります、かね。」

頬をぽり、とかいて。
何処に向かって、が、単なる方角の問題ではないことは、すぐに伝わるだろう。

松葉 雷覇 >  
「分かりやすい人物と言う意味では、何方かと言えばそうと私は答えますけどね」

「恥ずかしがる貴女も、照れる貴女も可愛らしいですよ。シスター」

くすり、楽しげに、冗談めかしに言ってのけた。
そう言った冗談を言える位の人間性はあるようだ。

「いいえ、シスター。未熟ならば未熟なりに学ぼうとし
 そして、人と成り、隣人として親身に寄り添う姿勢。
 貴女は素晴らしい人物ですよ、シスター」

「山本君も、『227番』も、浦原さんも、そして、貴女も。
 私は、多くの人間と縁を無全て感動しています」

その心底はかくも、賞賛に値するからこそ口にしただけの事。
雷覇は決して、嘘は吐かない。彼の言動の全ては
端々から溢れる善意で成り立っている。だからこそ、嘘を吐く事はない。

「お気軽に雷覇、とお呼びください。人によっては博士、と呼びます。
 其方の世界に存在するかは知りませんが、その分野の先達者の称号です」

お好きな様にどうぞ、と雷覇は静かに立ち上がる。
彼女は、信徒だ。雷覇は宗教は門外漢だ。
だが、"理解"はしている。だからこそ、彼女に聞きたかった。

「……それは……」

しとりと滴る雨音に合わせるような足音だ。
静かに、ゆっくり、マルレーネへと近づいてくる。

「──────今、地球<コチラ>側にあるものでは、埋めれないものでしょうか?」

友人、物、思い出。
人を成り立たせるあらゆる要素を彼女も知っているはずだ。
時にそれは、人の不足たる部分を補う事は出来る。
彼女にとっての"神"とは如何なるものか。
その顔を覗き込み、訪ねた。

マルレーネ > 「もー。 わかりやすいとか言わないでくださいよ。
 褒めたってなーんにも出ませんよ。」

もう、と少しばかり困った顔で怒る仕草を見せて。

「雷覇博士、ですね。
 いえ、なんとなく伝わります。 学者様の中で、似たような敬称を聞いたことがあります。」

縁か。
縁に関しては感謝はしているし、とても幸せを感じている。
もちろん………。それを口にはしない。 彼女はどこに飛んでいくか分からない異邦人。

相手が立ち上がるのを眺め、少しだけ首を傾げて。


「………私が今まで見た中では、特には。
 それでも、他の方とたくさんお話して、たくさん関わり合って。
 自分が必要とされているんだ、って感じられれば、少しだけ………埋める、ではないですけれど、救われている部分は、ありますね。」

求められることが、僅かな救い。 そう言って微笑んだ。

松葉 雷覇 >  
「貴女の可愛い姿、褒めれば出てきますとも」

クスクス。動じることなく、からかう事を止めはしない。

「そうですか。是非とも交流してみたいですね?
 貴女の世界の、学者の方々と……」

雷覇は知識に貴賤を持たない。
異界の知識であろうと何であろうと
それを学びたい姿勢は何時でも持っている。
何時でも雷覇は、先達者であり、挑戦者である。

「……成る程」

マルレーネの言葉を聞き、目を細めた。
深く、青く、慈しむ眼差し。

「ええ、多くの人々が貴女自身の人柄に頼り、惚れ込み、頼りに来る。
 貴女は必要とさせるべき事をされている。……ただ……」

「貴女自身は、"救われていない"……と、言い切るのは
 貴女自身の言葉も加味すれば、言い過ぎですね。失礼しました」

少なくとも、縁に救われている部分なのは確かなのだろう。
彼女の弁を借りれば、そう言う事になる。
雷覇は、微笑みを崩さない。その声音は、何処までも穏やかで……。

「────……ですが、貴女自身の"孤独"は埋めらるには至らない、と?」

その深い青は何処までもマルレーネを見ている────。

マルレーネ > もう、と頬を膨らませながら見上げて。

「ああ、………博士のような方もいらっしゃったような気もします。
 とても高い理想を持って、それだけを見て全力を尽くしているかのような。」

「あはは、そこまで言われるとそんなことないっていうか………。
 この島の環境が、こういう場所を求めているのかな、と思ったりします、よ?
 相談したり、困った人が困ったことを口にできる、そんな場所が欲しい、だけで。」

自分の力ではないと思うんですが、と、自分の指を合わせて。


「………ええ、救われていないというわけではないですし。
 何より、私は今は大丈夫ですから。」

穏やかな言葉を受け止めながら、目を少しだけ細めて。


「………。私は、いつの間にかこちらの世界に来ていた異邦人。
 この島にある穴が原因であれば、この島の人も次々と他の世界へと消えていくはずです。

 でも、0ではないにしろ、そうはなっていません。人は増えていく方が多い。」

「それは即ち、穴に引き込まれやすい人と、そうではない人がいる、ということではないかな、って思ってます。」

「そうなると、私だって、明日にどこにいってしまうか分からないじゃないですか。」


孤独について言及すれば、穏やかに微笑んだままそう答える。


「ですから、特にまあ、埋めなければいけないものではないのかな、って。」

寂しい内容を、優しい声で告げる。

松葉 雷覇 >  
「そう言って下さるのならば、光栄です。理想に届くにはまだまですが
 いずれ、皆さんの手助けに成れればいい、と思っています」

何処までもそこに妥協はない。
高い理想と言うのも、間違いではない。
困ったように眉を下げ、静かに首を振った。
 
「…………それは」

松葉 雷覇 >  
 
        「──────本当に、真に"大丈夫"と、思った上での言葉ですか?」
 
 

松葉 雷覇 > ────……優しさの音色を包むような、穏やかさが、問いかける。
マルレーネ > 「そうそう簡単に届かないから理想なんです。
 いずれ。 ………もっと遠い先の話に、実現できれば良いですよね。」

相手の言葉を聞きながら、目を細めた。



「………悲しみの多寡で言うならば、悲しい、とは思いますよ。
 悲しいことを一つも許容できないのならば、それは"大丈夫ではない"と言えるでしょう。
 でも、そうなるものだと思っていれば、大丈夫。」

「むしろ、この島の人たち………私の友人の方が、幾許か心配が強いですね。

 疲れていたり、困っていたり、縋る人がまだ必要だったり。
 そんな人たちがいるので、まだしばらくはここにいたいな、って。
 私が何とかできる、というわけではないんですけれど、助けにはなるかなって。」

ふふ、と少しばかり目を細めて笑う。
目の裏に浮かぶ友人らは、誰もがまだまだ心配の残る人ばかり。

問いかけに答える最中で己が消えていく。

松葉 雷覇 >  
白い手袋を身に着けた右手が伸ばされた。
抵抗しなければその頬に添えられることになるだろう。
何処までも優しく、どうしようもなく暖かな、一個人。
人としての温もりを持った、ありふれた人間の手。

「……いけませんよ、"マルレーネ"さん」

雷覇の穏やかさは、何処までも変わりはしない。

「貴女は自分から、"明日には何処かへ行ってしまう旅人"だと言いました。
 異邦人の方々はきっと、同じ悩みを抱えているのでしょう。或いは
 地球<コチラ>側に未だ馴染むことなく、唯々、喪失を嘆き、世界を呪う事を厭わないでしょう」

今でも根強く残る問題だ。この島では今でもよく問題に上がる。
哀しみの隣人。高き理想のうちには、それさえどうにか出来ないものかと思い悩む。
彼女の言うように、簡単に届かないから理想と言うのは間違いではない。
己の口元に人差し指を立て、しぃ、と静かに息を吐いた。

「だが、ただ許容すればいいというものではありませんよ。
 確かに、貴女が寄り添ってきたご友人の方々は
 貴女が受け入れてくれたからこそ、"今"があるのでしょう」

「ですが、受け入れたものは何時か自らの中で乗り越えるか、思い出に変えなければならない。
 どれだけ許容しようと、"悲しみ"は"悲しみ"のままです。それでは、何時までも涙は枯れないでしょう。」

「"大丈夫"と言えるのであれば、私としてはそこで"大丈夫"だと思います」

「マルレーネさん。貴女の志はとても慈しみに溢れ、気高い志と言えるでしょう。
 誰かの助けになりたい、と言うのは簡単です。ですが、実際に助けになるのは難しい。
 それは、シスターと言う"役割"に縋る方もいるかもしれません。ですが……」

「貴女と言う個人に、縋り、助けを求める事もあるでしょう。
 そしてそれは、逆もあります。マルレーネさん」

「貴女が人を救うように、貴女自身が救われて欲しいと願う人がいる。
 私もまた、その一人……。無論、貴女の"孤独"は簡単な問題ではないでしょう」

「ですから、どうか。他人の為に己を押しつぶすのはしないでください。それは、感心できませんね?」

雷覇もまた、多くの人間を救うために行動している。
そして、その技術力に救われた人間もいるだろう。
だが、雷覇自身も語らない苦悩もあるだろう。
それを許容するだけでなく、彼なりに昇華をしたからこそ、今を、前を見ている。
故に、シスターではなく、マルレーネ個人として彼女を諫めた。
その温もりは、消え行く女性を僅かでも繋ぎとめようとする。
ほんの少しの、人としての我儘だ。

マルレーネ > 「………そうですね。」

相手の言葉を、ゆっくりと反芻する。

自分の運命を。 自分の行く末を。 正直なところを言えば、どうでもいいと思っていた。
それは旅を続けてきたままの、リアルな感情。
生きるために全力を尽くすが、死ぬときは死ぬ。
それが明日かもしれないし、一生来ないかもしれない。
だから、自分に執心しない。

でも、それは。
自分の周りにいる友人の願いを無視していること。

それが他人のためであっても、自分をもうちょっと大切にする必要を、改めて思い知らされる。

「……そう、ですね。」

「そうですね。 願いはあります。
 まだもう少し、ここから離れたくない。

 ………こうやって一つのところで、決まった友人と過ごすのが、久しぶりで。
 本当は、楽しくて。」

ぽそり、ぽそりと言葉が漏れる。
久々の、シスターとしての言葉ではない、彼女としての言葉。

松葉 雷覇 >  
雷覇は微笑みを崩さない。
ただ、他ならぬ"彼女"の言葉に、満足げに数度頷いた。

「私は貴女の世界も知りません。
 地球<ココ>以外の世界も、数える程度しか見ていません。
 ですが、今の大変容が起きたこの世界は、非常に残酷な世界に値するでしょう」

元より、この世界は《大変容》以前より残酷だった。
人類の歴史に争いが常に刻まれる程に、大局的にものを見れば
それは、他の異世界と比べれば醜い歴史だったのかもしれない。
そして、《大変容》によって、文字通り世界の全てが変わった。
この世界は、大きな混沌に呑まれ、安定期に入った今でも
この島同様、多数の問題を抱えている。
多くの生命が悩み、儚く散っていく。悩ましく、残酷な世界。

「……私は貴女も、彼等も、この世界も何とかしてあげたいですね?」

それら全てを救いたいという理想は、余りにも高いものかもしれない。
それでも雷覇は、それを諦めない。そして、確実に一歩ずつ、上り詰めている。

「ですが、世界は残酷でも、誰もが生きるべき権利を持っています。マルレーネさん」

頬に添えた手をそっと離した。
ただ、差し伸べた手はそのまま。
マルレーネ個人に、差し伸べられた手。

「そして、願いは叶えられるべきと思っています。
 マルレーネさん、貴女の願いも、叶えられるべきでしょう」

「貴女が此処に留まりたいと言うのであれば、是非ともお手伝いさせてください」

「お力添えをさせて、いただけませんか?マルレーネさん。
 貴女の願いを、ご友人たちと過ごすこの島の生活を、そして……」

「────……どうか、貴女自身を此処に繋ぎ留めれるように、お力添えをさせて頂けませんか?」

マルレーネ > 「………こちらの世界は、ただ残酷な、厳しい世界ではないと思います。
 強い力で曲がってしまっただけ。
 ですから、それを元に戻すことは、とても大切。

 それに全力を注いでもらえれば、私としては。」

そっと頬から離された手が自分に向けられていることに気が付いて、少しだけ、目をぱちぱち、と。

「私の願い、ですか。
 ………ええと、力添えと言っても、私、本当に何もできませんよ?
 できることって言えば、荷物運びとかくらいで。

 後は………荒事でしょうか。 最近はここの能力を持ってる人には敵わないんですけど。

 ……でも、もしも分かったら教えてほしい、とは思っていますし、何か協力できることがあるならば協力したい、とは思いますが。」

苦笑しながら、てへ、と舌を出す。

松葉 雷覇 >  
「……ええ、私もそう思います。
 ですので、そう言って頂けるのであればとても心強いです」

そう、ねじ曲がってしまっただけ。
だが、敢えて否定はしなかった。
確かに厳しいだけの世界ではない。
世界では無いが……その本質自体は、何も変わらない事を。

「いえいえ、出来る事と能力など些細な事。重要視する程ではありません。
 私は、貴女自身に"興味"があります。だからこそ、貴女のお力添えをしたい」

「私の力で、貴女を繋ぎとめる事が出来れば、と……その為に、貴女の協力が欲しい」

「是非とも、貴女の手を貸して頂きたいのです」

彼女だからこそ出来る事がある。
異能など魔術などと、そんなものがあるからと言って区別も差別も必要ではない。
差し伸べられた手は、善意によって差し伸べられたものだ。
雷覇はただ、彼女の返事を、行動を、待つ。

マルレーネ > 世界については、彼女はまだ分からないことも多い。
だから、否定をされなければ気が付くことも無い。

「………はあ。 何か……私にできること、ありますかね?」

興味がある、と言われれば、首を傾げながらもその手を取る。
どちらにしろ、………ここにいたい、という気持ちだけは、変わらない。

「……それでいいならば、協力、ですか?
 もちろん、させてもらいますよ。」

微笑みながら、その善意を受け取って。
彼女もまた、心の底から善意を見せ。

松葉 雷覇 >  
とられたシスターの手を、優しく握り返した。
何処までも優しく変わらない、お互いの生命の温もりが交差する。

「ええ、勿論です。マルレーネさん」

松葉 雷覇 >  
 
       「─────……ご協力に、感謝致します」
 
 

松葉 雷覇 >  
僅かに雷覇の握った手が、その手を擦った。
瞬間、その手袋に仕込まれた"針"が飛び出す。
それは髪の毛よりも細く、微細部がのこぎり状になった針だ。
人の痛点を掠る事も無く、皮膚を突き破り侵入する。
蚊の口を再現し、更に雷覇自身の技術よりより細く、繊細に。
文字通り、"蚊に刺された程度"にも感じない。
彼女が知らない、発展した地球の科学の力。
注入されたのは、睡眠薬。
即効性はなく、実に、ごく自然に、数分で"抗えない眠気"がやってくる。

マルレーネ > 「あはは、協力できること、そんなにありますかねー?」

苦笑を浮かべる。 自分にできることって何だろう。
壊れた建物をコツコツ直したり、怪我人を運んで手当したり。
後は、人の話をゆっくりと聞いたり。

それくらいしかできない、と常に思っていたからこそ、それを素直に受け止めて。

「後は、なんだかんだで、こう………。
 施療院も行かなきゃですし、勉強もしないとですしね。」

あはは、と少しばかり恥ずかしそうに笑って、す、っと立ち上がり。

「紅茶のお代わり、入れてきますね。」

笑顔で背中を向け。…………しばらくして。
がちゃん、っと音が響き渡る。

カップを取り落としたのだろう、割れたティーカップの隣に倒れ伏す、修道服の女性。

松葉 雷覇 >  
雷覇の言動は全て善意だ。
そこに一切の嘘も偽りも無い。



─────……だが、善意で差し伸べられた手が、地獄に繋がっている事があるのも、確かだ



「……おやすみなさい、マルレーネさん」

人差し指を口元に立てて、静かな声音が雨音にかき消された。
気づけば、雨音も随分と激しくなっていた。
暗雲は未だ晴れず、太陽は昇らない。
倒れ伏したマルレーネへと近づき、優しく、割れ物を扱うように抱きかかえた。

「さぁ、行きましょう。マルレーネさん」

貴女の願いを、叶えるために。
教会の中、一切の光を失くしたかのような黒い円がそこに現れた。
光無き、宇宙の先、その先に続くものは……。
静かな歩みと共に、科学者の姿は消えていく。

松葉 雷覇 >  
 
       ────────……その日、聖女の輝きは雨に消えた。
 
 

マルレーネ > しとり、しとりと雨の降る日だった。


修道院の扉だけは、開け放たれて。

ご案内:「宗教施設群-修道院」から松葉 雷覇さんが去りました。<補足:白い背広の眼鏡をかけた男性。青いバンダナと眼鏡が特徴的>
ご案内:「宗教施設群-修道院」からマルレーネさんが去りました。<補足:165cm/金髪碧眼修道服>