2020/09/07 のログ
ご案内:「落第街『リバティストリート』」に山本 英治さんが現れました。<補足:アフロ/風紀委員の腕章/草臥れたシャツ/緩めのネクタイ/スラックス>
山本 英治 >
輝ちゃんからメールが来た。
最初は何かと思ったけど。
文面を読めば、マリーさんがいなくなったということ。
不安だ。言い知れず、不安だ。
あの雷覇の野郎か? いや、わからない。
マリーさんを目の上のたんこぶくらいに思っているヤツは結構いるだろう。
確信は持てない疑いは持たない。
先入観は真実から最も遠い視点だからだ。
絶対にマリーさんの行方を。その手がかりを。
掴んで見せる。
路地裏で情報通に話を聞く。
アレックス・ハウンド。ケモミミがチャーミングなナイスガイだ。
「ハァイ、アレックス! 今日は気持ち良いくらいの晴れだねぇ」
「別にガサ入れとかじゃないってー、ただ聞きたいことがあってさー」
「この写真のシスター、今朝くらいから見てなぁい?」
「わかんないか、そだねー、すまないすまない。なんでもないんだ」
ダイムノヴェルのダークヒーローみたいに。
相手の指を折って情報でも吐かせれば早いのかもしれない。
でも、そんな方法で手に入る情報に意味はない。信憑性も。
だったら……焦らず少しずつ。足を使うしかない。
ご案内:「落第街『リバティストリート』」に羽月 柊さんが現れました。<補足:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。黒のスーツに竜を模した仮面をつけている。小さな白い竜を2匹連れている。>
羽月 柊 >
路地裏の雑踏に混ざる。
黒いスーツに竜の仮面を被って。
表の世界に出たとて、男の行動はそう変わらない。
仮面を被ったとて、その長い黒紫の髪と、連れている小竜たちは隠していない。
それはただ、表情を読み取られ辛くする為の、
裏の世界に立つ為のシンボルのようなモノである。
──聞き覚えのある声がした。
裏のモノ達の流れの中で立ち止まると、
そこには聞き込みをしている友人の1人が居た。
声をかけるかかけまいか。
今、自分は裏を歩く姿故に。
山本 英治 >
「ああ、そこのアンタ、時間は取らない! 15秒俺にくれ」
「この写真の女性に……そうそう、人間の、メスの…」
「竜人以外は見分けがつかないってぇ? そりゃ失礼…」
「ハァイ、ケリィ。今日もイカした魚鱗してるねぇ」
「この写真のシスターに見覚えは……そうか、ありがとう、またなケリィ」
「よぉ! そこの綺麗な君ぃ、いやナンパじゃないんだ、探し人……」
「そうだ、この写真の人だよ。どうだい? 見覚え……」
「見た!? 一昨日か……それ以降は? ああ、すまない…またなジュンヌ・フィーユ」
フラフラとあちこち聞いて周りながら歩く。
そして黒いスーツに竜の仮面を被った男性に。
「どうも、ミスター。残暑厳しい折、如何お過ごしでしょうか」
「この写真の女性に見覚えが………」
ふと、何かを感じ取る。この香り。
以前、どこかで嗅いだパルファンだ。
「……どこかでお会いしましたぁ? ミスター」
羽月 柊 >
眼の端に彼を捉えながら、裏を歩く。
こちらが目的にしていた知り合いの顔が見えたが、
唇に人差し指を当てて、一度引っ込むようにと指示をする。
流石に風紀委員が居るところで、堂々と情報やらのやり取りはしたくない。
来るならば対応を、来ないならば一度彼から離れよう。
そして運命は、彼を手繰り寄せる。
「……さぁ、人違いではないかな。"風紀委員"。」
男はそう話す。
山本英治。風紀委員の腕章をしているモノと親し気にここでは話せない。
「このような所で、安易に知らぬモノに話しかけるモノじゃあない。
……いくら『取りこぼしたくない』とはいえ、な。
俺と君が『共通の認識』を持っているとも限らない。
常識の違いで、ここで君が刺されても、そう助けは来ないぞ?」
それは、ほんの少しの合言葉。
英治、君がこの男との会話を覚えているならば、
この言葉は別の意味に聞こえるかもしれない。
山本 英治 >
「ああ………そうかい、そういうことかいミスター」
あからさまに表情を歪めて両手を広げて一歩下がる。
「アンタと俺は『同じ』だと思ったんだけどな……人種とかぁ?」
「文化が違うなら仕方ない……別に当たるよ…」
アフロを弄ってリバティストリートを漫ろ歩き出す。
そして物陰に行って。
羽月さんに電話をかけた。
コール。2回。3回。
まさか、そういうことか。
こりゃ俺が空気を読めませんでしたなぁ、センセ!
ここで羽月さんに当たっておきたいのもある。
彼から万が一、情報を得られたら。
それは信頼できる情報だからだ。
羽月柊という男の言葉を。俺は信じている。
羽月 柊 >
「…賢明な判断だ。」
短くそう言い残し、その場を後にする。
見た目が同じでも、異邦のモノはいる。
同じ地球のモノでさえ、常識の違いの元に齟齬を起こす。
ここでは警戒しろと、暗に促す。
ポケットに入れていたスマホが鳴り、歩きながらちらりとそれを見やる。
相手を確認すると、一度切る。
『少し待て』とメールを飛ばしてから、鞄から一つ鍵を取り出した。
その鍵は、小さな箱にねじ巻きがついた玩具のようなモノが、ストラップについている。
ねじ巻きを回せば、箱から小さな羽根が生えて、近くの扉に飛んでいく。
扉を開き、そこから"繋がった"裏の拠点の中に入る。
元々防音やら結界魔法やらを張り巡らせたアパートのワンルーム。
そこで柊側から、英治に電話をかける。
『……で、何でまた聞き込みなんてしてたんだ君は。
まだ往来なら、相手が"俺だと分からないように"話せ。』
山本 英治 >
掛けた通話が切れて。メールが来て。
そこでようやく自分が焦りから貧乏揺すりをしていたことに気付く。
煙草に火をつけて。
「おお、シモーヌ! ようやく繋がったのか!」
大仰に身振り手振りをしながら笑って女性相手にそうするように電話をする。
嬉しそうに。楽しそうに。心と、反するように。
「シモーヌ、聞いてくれよ。シスター・マルレーネと今朝からまるで連絡がつかないんだぁ~」
「彼女のことが心配でさぁ………何かあったら聞きたいんだけど」
おどけながら。焦る心の火を踏み消すように。
「もう、彼女のこと知ーらなーいー? ねぇ……シモーヌ」
羽月 柊 >
『……なるほど。まぁ、これはあくまで往来側に聞こえない為のモノだが。
君の電話自体から声が拾われていたり、聴覚系の異能や魔法にはどうもできん。』
あくまで応急措置的な対処だ。
だから、誰かがこのやり取りの正確な内容を知っていてもおかしくはない。
こちらは聞き取られない為の策は講じた。
前述のことが無ければ、好き勝手には言えるはずだ。
部屋に鞄を置いてベッドに腰かける。
小竜たちは両肩に留まり、電話の内容を聞いている。
『マルレーネ? あぁ、君が入院していた所の責任者の女性か。
君がマリーと呼んでいた女性のことで間違いはないか?
俺としては、君を見舞いに行った日に逢ったのが最後だ。
……それで、なんでまた"こちら側"で聞き込みをしているんだ。』
山本 英治 >
「そうかい? 気をつけるよぉシモーヌぅ~」
紫煙を深く吐き出して。
メンソールの香りが周囲に満ちる。
「ああ、そうそうマリーさーん。あの人がねぇ……ちょっとわかんなくてなぁ…」
「ここだけじゃないよぉ? 学生通りも異邦人街も行くつもり~」
「探し人だからね……根気よく足を使うのが大事なのさ、ジュンヌ・フィーユ?」
コツ、コツと神経質に指で携帯デバイスを叩く。
良くない。焦りがただ、心を蝕んでいる。
「そっちでもなんか情報掴んだらさぁ、一報入れてくんなぁい?」
「お礼はしちゃうからさー、ね? ね?」
もし、マリーさんに何かあったら。
もし、マリーさんに何かをする奴がいたら。
俺の心はどう成り果てるかわからない。
羽月 柊 >
──何かが起きている。
何かが起きている時は大体、連鎖的に何かが起きる。
それは経験上でもあるし、何かしらの予感でもある。
『…そうか。君がこんなところまで来て情報を集めねばならぬほど、
あの女性は君にとって重要な人物か。』
精一杯声を張っているのが分かる。
『同じ』だからこそ、無理をしている時の焦りはなんとはなしに感じられる。
『山本、前提を置いておく。
……これはそちらの件に関係あるかは分からん。
大抵何かが起きる時は、連鎖的なことが多いからだ。』
自分が知っている限りを応えよう。
しかし、これが該当の情報かは分からない。
『風紀委員が死ぬことは、珍しくは無いことか?』
山本 英治 >
「大事なヒトさ、ジュンヌ・フィーユ……キミと同じくらいにね」
煙草の灰を携帯灰皿に落として。
どこまでも憂鬱な青空を見上げる。
秋の空は高い。
こんなクソッタレの空の下の…どこにいる。マリーさん。
「なんでもいいから話してくれよシモーヌ? 俺とキミとの仲だろ?」
その言葉に嘘はない。
俺は羽月さんを信頼している。
羽月さんと信頼関係を築けていると思っているからこそ。
彼の言葉がただのフェイクである可能性を排除できる。
「風紀委員が? そりゃー困ったな、シモーヌ」
「イエスでもあり、ノーでもある……バチバチに違反部活潰してる奴は珍しくないって言うし」
「穏健派で書類書いてる人はそんなこと滅多に無いって言うんじゃあないか?」
「それがどうしたんだい、シモーヌ」
羽月 柊 >
『ああ、俺からも情報は集めてみよう。
…大人の立場からすれば、また別の情報が集まるのかもしれんしな。』
近年の気象で短くなったりいなくなったりするとはいえ、
秋は人間が過ごしやすい季節の一つだ。
春と同じく楽しいことが沢山ある季節のはずだというのに、
こんな季節に哀しいことは起きて欲しくはない。
『そうか、いや……先日、『九重』という風紀委員の腐乱死体を発見してな。
死んでから何日か放置されていたようには見えたんだが…。
…俺と、葛木……葛木一郎が発見したんだ。
彼の知り合いのようだったんだが…。』
フェイクを使う気は無い。
大衆向けに先ほどのような誤魔化しはしたって、
伝えたいことを伝えられる"演技"は出来ると自分では思っている。
『教師に成ったからと葛木を探してはいたんだが、
まさかの再会現場になってしまってな…。
それで、季節的なモノを考えても、
死体が腐るほど風紀委員会は放置するのかと思ってな…。
駆け付けた他の風紀委員に聴取を受けたが、
俺が葛木の知り合いを殺すメリットは全くないしな…。』
山本 英治 >
「ありがてぇなぁ、ジュンヌ・フィーユ! それじゃよろしくぅ」
はぁ、と溜息と共に紫煙を吐き出す。
一つ一つ、積み重ねていこう。
もし、事件性がなければそれでいい。
事件性があるとしたら。俺は。
「………葛木が? 九重……知らない風紀委員だ…」
「そりゃシモーヌ、災難だったな………」
「数日も帰らない風紀委員がいたら」
「探すとは思うが………場所がよっぽど辺鄙なら『見つけられない』だろうな」
「葛木は? 何か言っていたかい、シモーヌ」
謎が積み重なっていく。
いや、少し表現が違う。
謎は膨れ上がっているんだ。
風船のように。
限界まで膨らめば、弾けて……どうしようもなくなる。
そんな気がした。
羽月 柊 >
『葛木自体は随分と動揺していてな…。
何か聞くという状況じゃなかったから、落ち着かせようとは努めたんだが。
とにかく風紀委員の応援をということになって、詳しくは…。
別日に逢えば落ち着いて聞けるだろう、という状態で一旦別れた。』
何が何に繋がっているかは分からない。
故に、情報を集めることは第一だ。
そこから情報が精査出来るならば、どんな情報でも必要だ。
もしそれが出来ない性分ならば、雑多な情報は与えるべきではない。
……彼が、『自分と同じ』く情報の精査が出来る友人だと、
そう信じているからこそ、話している。
『……あぁ、そうだ。『行方不明になっていた学生を発見した』とは…。
行方不明として風紀委員の捜査上に上がっていたのかもしれん。』
羽月柊は、風紀委員とは縁遠い存在だ。
知り合いが多いからとはいえ、『部外者』には変わりない。
山本 英治 >
「……そうか、葛木が…………」
人の死に直面して動揺すること。
その意味は痛いほどよくわかる。
その相手を知っていればいるほど。
喪失は深度を増す。
今度、葛木に会ったら話をしなければならない。
それも含めて、調査をしよう。
死と喪失から始まる、この物語を。
「それだけ聞ければこっちでも動いてみるさ、ジュンヌ・フィーユ」
「俺もホラ、風紀委員だからさ」
根本まで灰になった煙草を携帯灰皿に放り込んで。
腕章をぱんと叩いて笑った。
焦燥感に追われた。空虚な笑いを。
羽月 柊 >
そうだ、自分たちは良く知っている。
大切なヒトを失うことの空白と痛みを…。
故に、互いをある程度信頼している。
あの"領域"で、共闘し、
あの夢のような場所で、まるで契約を結ぶように、彼の力を使って見せたからこそ。
『あぁ、すまないな……。
教師も大人も、ここ常世島では君たちを頼らざるを得ないことがあるのは、
少しばかり苦しい話ではあるな。
…とにかく、ある程度は連携して動こう。
同じでも、君に出来ないことが俺には出来るし、その逆もあるはずだ。』
そう言葉を結ぶ。
山本 英治 >
羽月さんも。俺も。喪ったから。
葛木が何を喪ったのか。
少しでもわかりたいのかも知れない。
その結果、何がどうなるということでもない。
何もかも俺たちの手で解決できるのなら、俺達は痛みなんて抱いていない。
それでも。
「いいのさ、シモーヌ」
「俺とキミが力を合わせれば、4、5人力さ」
冗談めかして言うが。それくらいのパフォーマンスは発揮できる。
俺と、羽月さんなら。
「切るぜ、ジュンヌ・フィーユ。この空の下のどこかでまた会おう」
羽月 柊 >
『ああ、"またどこかで"な…山本。』
英治の言葉に否は唱えない。
彼ならば、己に熱意を思い出させてくれた彼ならば、
互いに協力すれば出来ることは多くあるはずだ。
例え何もかもが思い通りにならない…この世界であったとしても。
自分たちは独りではないと思えるだけで、走り出せるのだ。
通話を自分の方から切る。
ベッドにごろりと寝転がって天井を見ながら、
男はしばらく思案を巡らせていて…。
そうしてフォーカスは、山本英治に戻る。
ご案内:「落第街『リバティストリート』」から羽月 柊さんが去りました。<補足:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。黒のスーツに竜を模した仮面をつけている。小さな白い竜を2匹連れている。>
山本 英治 >
また、この島が動いている。
そんな気がした。
切れた携帯デバイスを握ってポケットに手を突っ込む。
もう、メンソールの匂いは消え果てていて。
青空を睨んで、放り捨てるように溜息を吐き。
「おう、そこの君ぃ時間ある? この写真のシスターを……」
聞き込みを再開する。
マリーさんに無事でいてほしいという願い。
葛木に何かできることがあればいいという祈り。
俺は両のポケットにそれを突っ込んで、この街を漫ろ往く。
ご案内:「落第街『リバティストリート』」から山本 英治さんが去りました。<補足:アフロ/風紀委員の腕章/草臥れたシャツ/緩めのネクタイ/スラックス>