2020/09/08 のログ
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」に伊都波 凛霞さんが現れました。<補足:風紀委員。焦茶の長いポニーテールに焦茶の瞳。制服姿>
伊都波 凛霞 >  
「んんんああ~~~~…っ、…つかれた」

デスクでぐぐぅーっと伸びをして、肩をトントン
そろそろ夕方
学園の講義をお昼で切り上げ、風紀委員の事務仕事
夏の終りにかけて色々大変だった現場も元通り、皆が戻ってきて…

まだ問題が残っていないわけでもないけれど、いつもどおりといった感じになってきた

デスクの上のコーヒーカップを口元に、デスクワークも一段落といったところ
あとは、ここ数日に起こった事件や報告をチェックして、帰宅だ

伊都波 凛霞 >  
珈琲と、売店で買ってきたパンで遅めのコーヒーブレイク

書類は汚さないように気をつけながら、ここ最近のものに目を通してゆく
新学期早々に色々と起こってはいるけれど、気になるモノは数点くらい

あとは、日常の中で起こったちょっとした揉め事や、不備。そんなところ

ちらりと時計を見ると、まだ時間はそんなでもなかった
陽の傾くのが早くなったなあ、なんて思う

ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」にレイチェルさんが現れました。<補足:金髪の長耳少女。眼帯と風紀委員の制服を着用。>
レイチェル >  
「ほーんと、暗くなんの、早くなったよなぁ……」

凛霞から前線に出ることを頼まれたあの日から、少し経って。
彼女とは同じ部屋で仕事をしている。
以前はレイチェル以外、新人が多かったこの部屋。
故に結構な量の書類をレイチェル一人で片付けたり、フォローしたり
していたのだが、優秀な凛霞がそこに入ったことで、
書類の山が随分と早く片付くようになっていた。

更に、レイチェルの方で仕事を――新人の負担にならない程度に――
ある程度均等に再分配、きっちりと整理をしたことで、業務終わりも随分と早くなった。
整理する時間は、ベッドの上だからこそ作れたと考えると、なかなか皮肉のであったが。
現場から離れてみれば、色々と見えてくるものもあることに改めて気付いたのだった。

「おつかれさん。プリンも食べるか? 冷蔵庫にお前の分もあるぜ」

彼女の分も、昼休憩の時に買ってきていた。
椅子に深くもたれ掛かり、両腕を後頭部に回しながら、
レイチェルは横目で凛霞にそう投げかけた。

伊都波 凛霞 >  
「ホントですね。秋の夜長は~なんてよく言ったもので」

暗くなるのが早くなると、当然危険な事件なんかも起きやすくなる
暗闇は人の不安を増大させ、悪意を招きやすくなる…なんてことも言われる
風紀委員としては、少し気になる時期に差し掛かったのかもしれない

「先月の半ばまでなら、この時間にお仕事を終わらせれば明るい内に帰れたんですけどねえ」

プリンの話を聞けば「あ!いただきます!」と笑顔でお返事
パンを咥えたまま、ほんのちょっと行儀悪く冷蔵庫へと
向かう姿はタダの優等生の真面目ちゃんからは少し外れたイメージ
愛嬌、と言い換えることもできるかもしれない

「レイチェルさんももうじき上がりですか?」

パタン、と冷蔵庫のドアを閉め、プリンを片手にデスクへと戻ってくる
新人さんたちは次々に自分の持ち分を終えて、お先に失礼しますと一人、また一人と減っていって
更に日が傾く頃には、部屋には二人を残すのみとなっていた

レイチェル >  
「そうだな、秋の夜長……。
 もう少しすりゃ、風が気持ちよくなってくる頃かな。
 オレが元いた世界も、同じように4つの季節があったからさ。
 遠く離れてもそこが変わらねぇって、感慨深いもんだぜ」

くるりと椅子を一回転させて、レイチェルはそんなことを呟いて
窓の外を見やる。まだまだ暑さは残るが、これから涼しくなってくる
のだろう。

「……ま、オレ達の仕事が増える時期でもあるが。
 皆で、協力してこなしていこうぜ。オレも、無茶しない程度に
 手を貸すからさ」
 
その言葉の裏にある不安を見抜いたか、或いは風紀の共通認識として
彼女も持っていたのか、いずれにせよ、レイチェルの言葉は彼女の心の
曇りに応える形となった。

「ああ、オレも終わり。
 もうちょいやれるっちゃやれるんだが……ま、後は明日のオレに任せるさ」

そんな言葉が彼女から出ることは、今までなかった。
やれるだけを詰め込んで、仕事に打ち込む。それが、前線を退いてからの
彼女の常であった。

しかし、その考えもここ1週間ほどで仕事をする内に随分と改まったものだ。
レイチェルは自身の口から出た言葉に自分でも少しばかり驚いたのだった。


「ま、帰る前に……ちょっと話すか、凛霞。
 時間、いいかな?」

穏やかに笑いながら、レイチェルはプリンを運んできた凛霞へ
声をかけた。

伊都波 凛霞 >  
「そうなんですね。四季があるのはこちらでも珍しいみたいなんですけど」

そんな希少なものが遠い地で同じである、というのは彼女が言う通り、感慨深いものがありそうだ

「…ですね。これからの時期は、落第街方面以外でも危険な場所が増えてきますし
 ──ええ、無茶せず、身体が資本ですから、怪我や病気に気をつけて…体調管理も仕事の内ですね。本当に」

傍から見て、遅くまで残り仕事をきっちりこなしきる先輩というイメージだったレイチェル
そんな彼女の行動も、ここ最近は余裕が見えるようになったような気がする

──デスクについて、プリンの蓋をあけてさっそくいただきます
スプーンで掬って口にいえれば、甘くふわっととろける味わい、珈琲との相性が最高に近い
十分に消費した脳のエネルギーを糖分がしっかりと補ってくれる

そして、話したいと切り出すレイチェルに、凛霞は屈託のない笑みで答える

「私ももうあとは整理して終わりですから、構いませんよ」

レイチェル >  
「この国の昔の奴らは、季節を短い歌に詠んだんだろ。
 オレの住んでたとこじゃ、詩だった。
 面白ぇもんだよな、ほんと。
 時間や場所を超えて、同じようなもん共有してるっつーのは」

月を見上げて、レイチェルはそんなことを呟いた。
仕事終わりだ。こんな風に、忙しない日々から思考をちょっと
風に乗せて、そんな話をするのも悪くないと思った。

――ああ。昔は、詩が好きだった。

月を見上げて、レイチェルは静かに目を細めた。

「ま、最近は凛霞やキッド……他にも沢山。皆のおかげで、随分と
 快復してきたぜ。前線で剣を振り回す訳にゃいかねぇが……
 後衛サポートくらいなら、まぁできる」

後衛サポート。
通信によるバックアップ、必要とあらば後衛からの物理的な遠距離支援も含む。

「後輩ばっか、頑張らせる訳にはいかねぇからさ」

その為に、少しずつ身体を調整してきた。
焦らず、一歩ずつ、訓練室でのトレーニングを一日のスケジュール
の中に少しだけ入れて。

「お前にも、随分と『穴埋め』させちまったみたいだしな」

落第街の『穴埋め』の件だ。
上がってきている資料には全て、目を通している。
そして一件一件、彼女の不利には決してならぬように配慮した
コメントを書き加え、上に提出してあるのだ。
それは、彼女に穴埋めをさせてしまった先輩としての、当然の義務だった。

伊都波 凛霞 >  
「そこに生きる人の魂は変わらない。…ということかもしれませんね」

なんだかロマンチックなことを言うレイチェルに、ふふ、と小さく笑う

「レイチェルさんの過去の実績を見れば万全というには程遠い…ですけど、
 私もどちらかといえば後援、サポート役でしたけど前線に出ることにしましたから。
 背中を預けられる相手としては、この上なく頼もしいですからね」

それだけ言い終わって、プリンを一口
カラメルソースの香ばしさ、口に広がる甘さを苦い珈琲で…素敵なブレークタイム

「レイチェルさんこそ、細々と手をまわしていただけたみたいで、ありがとうございます。
 現場に穴があいたら誰かが埋めないと、特に警察機構を担う委員会ですから、穴はそのまま隙に繋がっちゃいますからね」

「やれることをやらせていただいたまでです」

そう言い終わり、にっこりと笑みを浮かべた

レイチェル >  
「そういうこった。場所が違っても時代が違っても、
 根底にあるもんはきっと変わらねぇ。文化や環境の違いが
 あっても、価値観の違いがあっても、オレ達の……
 本当の、根っこにあるもんは……きっと同じだと信じたいもんだ」

その根っこを信じて、手を伸ばす。
傷つけ合うことも、死ぬまで分かり合えないことも、必ずある。
実際にそういう類の者達とも、会ってきたし、別れてきた。
時には、手を下すことだって、あった。
様々なことを思い返すレイチェルの脳裏に、青い紙切れがちらつく。


それでも、更生を信じて、受け皿となれることを信じて、
いつだって手を伸ばす。
少なくともレイチェルは、そうやって風紀を背負っていきたいと、
そう感じていた。甘い考えだと分かっていても、それでも。
信じることをやめたら、きっと歩けない。自分も、道を過った者も。
そんな気がしているのだ。

「そこんとこは、お前から学ぶことも多いだろうな。
 オレはここに来てからは、ずっと前線でやってたからな。
 ま、前線張ってたからこそ分かる、
 後衛に必要な動きってのもあるだろうが……それでも、
 慣れるまでは経験豊富なお前に頼らせて貰うかもな」

照れくさそうに笑って、腕を組むレイチェル。
引き出しからコンビニで買ってきたチョココロネを取り出して、
机の上に出す。凛霞が食べているのを見たら、レイチェルもお腹が
空いてきてしまったのだ。そう、こちらもブレークタイムだ。

「ああ、オレ達一人ひとりは何事も完璧にやれる訳じゃねぇが……
 数揃えて協力すりゃ、穴は埋まっていく。
 そんな簡単なことに、改めて気が付かされたぜ」

やれやれ、と頭を振りながらチョココロネの袋をびりっと開ける。
『超濃厚! クリームチョココロネ』。どうやら最近人気の商品
らしいが、それ以上にレイチェルの狙いは、その袋に貼られた
シールだったのだ。
『ネコマニャングッズ、あたる!』と書かれたその円形のシールを
丁寧に剥がすと、レイチェルは引き出しを開き、
その中にしまったメモ帳にペタリとそれを貼っておくのだった。

伊都波 凛霞 >  
「みんなきっと、むしょくとうめいの心を最初に持っていて
 異邦人の人も、スラムで育った人も、色が違うだけ、その色をちゃんと見て、理解することが大事、ですね」

決して混ざらない色もある
塗りつぶしてしまう色もあれば、その逆もまた
生まれた世界、価値観、倫理観、あらゆる違う色の混在するこの島だからこそ、持っておきたい意識だ

「もちろん、ノウハウはポジション毎にあって然りですからね。
 協力指南なんでも出来ることならご相談に乗りますよ♪」

逆の立場も当然あるのだから、と
空になったプリンの器と、レイチェルに、ごちそうさまでした、と

デスクの上の資料をさっと整理して仕舞い込めば、本日の業務自体は終わりだろう
半分ほどカップに残ったコーヒーを口に運びながら、同じくブレークタイムに入ったレイチェルを見て

「ふふ、そのシール集めてるんですね。
 コンビニ買い物する時に、シール、レイチェルさんにあげますね」

いつまでのキャンペーンだったかなあ、なんて思いながら
本当にネコマニャンが好きなんだなとわかるムーブに思わず口元が緩んでしまう

レイチェル >  
「何故そいつがそういう色をしているのか、そこに意識を向けること。
 理解をする努力を、したいもんだな、いつだって。
 多くの事件に追われて、そこを蔑ろにしちゃ、
 オレ達の存在意義がねぇ……こいつは、自戒も含めてだけどな」

レイチェル自身、一人ひとりを見ることができている気はしない。
特に最近は、書類仕事が多かった。書類の上で知ることができる
個人の情報など、たかが知れている。


人を語る書類には、あまりに余白が多すぎる。


だからこそ、後衛だろうが現場に立って、常世学園を見守る。
その必要があると、レイチェルはここに来て改めて認識している。
だからこその、後衛サポートだ。

現場の風の中でなければ、
聞こえぬ音がある。
見ることのできない色がある。
感じることのできない心の叫びがある。
だからこそ、レイチェルはこれから現場に立つ。

「はっ、頼もしい後輩に恵まれたもんだぜ」

ふふん、と胸の下で腕を組んだままレイチェルは口の端を緩める。
全く、頼りになるやつだ。オレも、負けてられねぇけどな、と。

「っと!? あぁ、まぁな……集めてるぜ。
 ……その、うん……さんきゅー……」

しれっと引き出しを開けたつもりだったが、やれやれバレていたか、
と。レイチェルは頬を掻きながら凛霞に感謝の言葉を述べた。

「で、だ。凛霞。
 お前、あっちの『穴埋め』はいつまで続けるつもりだ?」

伊都波 凛霞 >  
「そして時には全てを塗り潰す黒が必要なこともある。ですね」

相手の事情を鑑みていては被害を広げることもある
そうなった時に、何もかもを塗り潰し風紀を守る、そんな色も持っているのだという、覚悟だ

「ふふふ、見逃しませんよー?
 こう見えて目敏いんですから」

きらんっ、と眼を光らせた…ように見えた
コンビニはよく利用するし、妹が欲しがるものでもない、それだったらいくらも協力しよう

そして、話が現場のことへと向かえば、やや表情を引き締めて

「あっち、と言いますと。スラム周辺での睨み…
 要するに風紀委員の保つ戦力に寄る抑止力の部分…という認識で良いですか?」

まず確認のために、そう言葉を区切って

「それについては神代くんから、その手の抑止力は多いほうが良い…と意見がありました。
 概ね同意する部分もあると共に、周辺住人には抑圧を生む可能性もあります。
 なので、その存在を匂わせる頻度は減らしていこうかな…と」

レイチェル >  
「そういうことだ」

レイチェルは腕を伸ばし、白く細い銃口《ゆび》の先を、
ピンと立てて凛霞へと向けた。

「そこに関しちゃ、風紀をやって来た中で随分と
 悩まされてきたところだがな」

手を翳《のば》す。
塗りつぶす。
どちらかにのみ偏ることは、組織として許されないことだろう。

「そう、包み隠さず言やぁ、落第街に対する抑止力の話だ。
 お前が示している『風紀の力』の話だ」

腰を下ろしていた椅子から、レイチェルは立ち上がる。
椅子を片手でデスクの下にしまうと、数歩、凛霞の所へ
近寄って立ち止まる。

「抑止力は、必要だ。風紀という組織として、
 それは欠かせない。寄り添ってばかりじゃ、解決できねぇ
 こともある。
 だがな。『抑止力』とて人の身だ。いくら肉体が、精神が、
 強靭だとしても……『力』の象徴として在ることに限界はある」

それは、落第街で日々風紀活動を行っていたかつての
レイチェルがそうであったように。

「だからこそ、数が多い方が良い、という意見にはオレもまぁ……同意だ。
 無論、過度な刺激は逆効果だが、負担を分散できるメリットがある。
 その考えは頷ける。理解できる」

――だけどな。

小さく呟いて、椅子に座る凛霞を見下ろす。
そうして、少しばかり垂れた右耳を人差し指と中指で挟みながら、
少しだけ視線を逸して口にする。
 
「……心配、なんだよ。オレは。
 
 凛霞のことが、神代のことが。
 
 ちょっと前までぶっ倒れてたオレが、
 言えるようなもんじゃねぇかもしれねぇけど、それでもさ。
 
 特にお前は……突然開いた『穴』を埋める為に動いてくれた。
 ごめんな、でもって、ありがとうな。
 
 ……本当に、嬉しいし、ありがたい気持ちはあるんだ。
 あるんだけどさ。ただ、これだけは改めて言わせて欲しい。
 お前も無茶、すんなよな」

頻度を減らすって聞いて、安心したよ、と。
レイチェルは一言だけ付け加えた。

自分自身も背負ってきた日々があったからこそ、彼女に贈りたい言葉だった。

伊都波 凛霞 >  
塗り潰す色
それが白でも黒でも、大差はない
そしてまさに今言及されている、抑止力として働くそれは、そういった力だ

「そうですねえ。神代くんは"まっすぐ"ですから」

そう言って、クスリと笑う

「"鉄火の支配者"は、真っ直ぐで律儀で、やや不器用です。
 レイチェルさんの心配するように、多分誰も釘を刺さなかったら、
 身体が万全じゃない状態でも現場に復帰してたんじゃないかなあ…」

うん、うん。と頷きながら、一つひとつ、言葉を返していく

「仰る通り人間の身では限界があるんです。実態が必要ですから」

そう言葉を続けると、やや得意げに微笑みながら口元に指をあてる

「なので私が今回穴埋めとして用意した抑止力は、噂の流布です。
 実体がある程度不透明かつ、わかりやすい…そうですね例えば、日が沈むと現れて0時きっかりにいなくなる──とか。
 そういったリアルが混じった噂は非現実と現実の間で恐怖の対象になる…まぁ言ってしまえば怪談と大差ないんですけど
 私自身が動かなくても、噂が動き続ければそれで抑止力の一つになるという寸法ですね」

「無茶は、トゥルーバイツの一件で十分懲りました。
 直情的に動きすぎると身体に無理がかかってでも動こうとしちゃいますからね。
 …レイチェルさんもそういう部分あったりしたんじゃないですか?」

動いているように見えてその実、最低限の動きでしか穴埋めを果たしていない──
無論、普段よりは圧倒的に動く時間が増えたものの、そういった絡繰りを用意した上でのものだったと白状する

「大丈夫ですよ」
「誰かが無理をすれば、周りも無理をするんです。
 よーく、承知していますから」

立ち上がり、こちらに歩み寄るレイチェルを見上げながら、もう一度笑うのだった

レイチェル >  
「ああ、不器用でまっすぐだからこそ心配なんだ」

その点は、他人の気がしない。
自分のことは自分がよく分かっていた。
困ったようにレイチェルは笑った。

「噂の流布は、上手くいけば効果絶大だな」

かつて噂によって強力になる怪異が現れた時に、
レイチェル自身も新たな噂を流布することによってその怪異を
打ち破ることを、風紀の会議で提案した。

人々が集まる社会において、噂の力は絶大だ。
それは時に闇を招き、或いは――闇を打ち払う。
利用することができれば、大きな抑止力となる。
シンプルだが、間違いなく確かな効果がある。

だからこそふっと、レイチェルは柔らかく微笑んで言葉を返した。

「……塩梅は難しい。
 実体と非実態の狭間に在るっつーのは。
 その点でも、頻度を減らすのは得策だな。
 ただ噂をばら撒くのだってノーリスクとはいかねぇ。
 だから心配してんのさ。無茶すんな、って。
 
 結局動く時間は増えてんだろーが。
 効率的に回そうとしてるんだろうが、
 一人で背負いすぎるなよ。オレみたいにぶっ倒れるぜ」

ふぅ、と一息ついて冗談っぽく笑う。


「直情的に動くのは、昔の話だと思ったんだがな。
 まぁ、未だに燃えるもんは残ってるらしい。
 厄介なもんだが……ま、そいつが大事なこともある。
 心がなきゃ、守れねぇ風紀もあるってこった」

ここ最近は、システム側に寄り過ぎた。
それによって得たものもあったが、見失ったものもまた多かった。
しかし今は、その見落としていた大切なものを、見ることができている。

もう二度と見落としたくないからこそ、スケジュールを調整し、自身の、そして
同じ部屋の人間の負担をまずは軽減するために力を尽くした。

「そーだろうな。ま、先輩の失敗からよーく学んどけ」

小さく、しかし笑い飛ばすように、レイチェルはそう返すのだった。

伊都波 凛霞 >  
「心配をかけるようでは、まだまだだっていう自覚はありますよ」

そう言って、やや眉を下げた

「特に私には、風紀に入る前のちょっとした話もありますから、
 みんな、優しいんだなー、って、ちょっと感動しちゃいますよ、ホント」

その頃からの風紀委員であれば、学園内での強制的な淫行騒ぎを含めた一連の話は知っているだろう
けれど未だに、その話で詰られたことも、抉られたこともない
触れないようにしてくれている、というのがありありとわかるのだ

「一人で背負い込めるほどこの島が小さいとは思ってないです。
 でも身体を張らなきゃいけない時は張りますよ。風紀委員として」

そう、風紀委員を続けることに決めたのだから

「結局は、ハートですよ。さっきの話も、そう…心ありきのもの」

そう言って、自分の胸へと手を当てる

「話もできない、感情もないロボットに助けられたって、人は感謝の心を忘れるだけ。
 人が人を支えて、人が人を助けて、人が人を守るから、意味があるんだって……」

「私は──」

「レイチェルさんは、生きている限り燃え続けちゃう人だと思ってますよ?
 そこに燃える理由が在るかないか、それだけだと思います」

私の分析では、ですけど、と
小さく笑みを浮かべて、そう述べる

「でも、だから──」

「心配は、やっぱりそちらにも」

本当は聞こうかどうか、悩んでいた
けれど、今は二人きり
あの時、訓練施設で感じたこと、思ったこと、気付いたこと
予感は確信に変わっていったから問わざるを得なかった

「──あの時、異能が発動しなかったんですよね?」

だから、これは確認するだけの言葉だ

レイチェル >  
「……気にすんな」

彼女の出す話題に、少しばかり目を見開くレイチェル。

凛霞に向けて言葉を贈るその裏には、
彼女が風紀に入る前の事件が全く関係していないといえば、
嘘になるだろう。
ただ、直接口にはして来なかった。
それは、彼女にとって気持ちのいい話題ではないことは、明らかだ。
しかし、彼女からその話が出れば、別。
ただ小さく、重くなりすぎないように。
感動してしまう、という彼女の言葉に対して、
レイチェルは静かに言葉を返した。

「そういうこった。オレ達はシステムの側に立っているが、
 システムそのものにはなれねぇからさ」

少し前、キッドに同じような言葉を送ったことを思い出す。
凛霞もまた同じ考えを持っているのであれば、それは僥倖だった。

人であるから、人に寄り添える。
人であるから、手を伸ばせる。

しかし、それと同時に。

人であるから、選択に迷う。
人であるから、在り方に悩む。

だから、苦しみながら、足掻きながら、それでも
手を翳《のば》し続けるしかない。
人として、風紀委員として。心でもって。
信じて歩き続けるしか、ない。

心で以て、人としての風紀を行う。

両者の根底にあるものはきっと、同じだった。
だからこそ、この話し合いはどこまでも心地よかった。
価値観の違う者と話すのも学びを得るには良いが、
同じ価値観を持つ者と語り合うことで、客観的に自分の考えを
改めて整理することもできる。
レイチェルは立ちながら、胸の下で腕を組んだ。


そうして、彼女が訓練施設での話を切り出せば、
レイチェルは少しだけ視線を逸らす。
それでも、目の前の相手にはしっかり話すと決めたのだ。
だからこそ、答えた。

「そうだ。オレの異能は発動しなかった。
 疲労。それも確かに要因の1つだ。
 そして、度重なる異能の使用と、人工血液で誤魔化してきた
 皺寄せも、要因ではある。
 だが、一番の要因は、心の問題だ。
 どうやら、オレの異能は精神に依存していたらしい。
 だから……あの時の、オレの心の在り方が。
 大きな要因の一つだったんだ」

包み隠さず、レイチェルは後輩へと真実を伝えた。
心の迷いから来る異能の不発、規格外の反動《バックファイア》。
それこそが、あの状況を招いたのだ。

伊都波 凛霞 >  
そう、警察機構という位置づけであるからこその、システム
法の駒と言い換えることもできるだろう
それに求められるものは機械的なものだけである

しかし求められるもの以上の働きができるのもまた人であることの利点だ
レイチェルの言うように、人であるからこその+αは、確実に存在する
そしてそれが重要である局面というのは…きっと少なくは、なかった

──会話の中で、その心の機微や、こちらに気を使っていてくれるのが伝わって来る
彼女を英雄としてしか知らない風紀委員達に自慢してまわりたいほど、距離感の近い彼女は、心地よかった

だからこそ…不慮の出来事で失うことはしたくない
以前の事故は…一際危なかったのだ

「異能の性質が精神に依存する、っていうのはそれなりに聞く話だから、驚かないです、けど」

「──じゃあ、あの時『殺すつもりで来い』と、言ったのは……」

どうしてだったのか…
心の在り方に問題があった、という彼女にとってそれは
何かに迷っていて、それを断ち切りたかった故か、それとも──

レイチェル >  
「ま、それくらいでなきゃお前の訓練にならねぇし……ってのは
 1つ本心でもあるが、あの時はどちらかと言えば。
 そうだな……断ち切る為だった、オレ自身の甘えを」

勿論、迷いもだ。
しかし、それだけではない。
システムに甘えてしまっていた己を。
持っていても良いのか分からなかったその気持ちを。
誰かの気持ちに応えられなかった自分自身を。
諸々の迷いを、甘えを、一度断って、整理するために。

それは、本来の自分を本当の意味で取り戻す為の在る種の、
儀式のようなものであったろうか。

「ま、それで倒れてちゃどうしようもねーがな」

これまで自身の異能が失敗に終わったことなど、一度もなかった。
当たり前にあると思っていたものは、簡単に消えてなくなる。
そのことを、改めて認識させられた。

――当たり前なんて、とんだ甘えた考えだよな。

自らの胸に手を置く。そうして少しの間、目を閉じたのだった。

伊都波 凛霞 >  
その答えを聞いて、小さく息を吐いた
それは胸を撫で下ろすようにも、見えたかもしれない

「風紀委員のレイチェル・ラムレイ、といえば明確な格上」
「そんな貴方に殺す気で来い、と言われれば…それも当然の覚悟」

その言葉振りからは、既に彼女は自分の、伊都波凛霞の持つ戦力を見抜いて…
もしくは、風紀委員に報告してあるだけの戦力ではないと想定していたのか

「レイチェルさんの異能と、戦術及び使用可能武器種を想定しての"選び"だったんですけど、裏目に出ちゃいましたね」

爆薬の使用は浅はかだった
殺すつもりでといっても、本当に殺害できるわけが、するわけがない
だとしたら、手元を離れた時点で一切加減の効かない類のものは使用すべきではなかった

「──と、言うのも結果論なので何なんですけどね」

苦笑する
彼女の本気を鑑みれば、あの程度は牽制にしかならないのだから

「…実際のところ、どうなんですか?
 私は、時空圧壊《バレットタイム》なしでもレイチェルさんの戦力は前線の維持に足り得るものとして認識しています、
 でも、それはそれとして、別の問題として残りますよね
 ───もう、使えないんですか?」

不躾な問いかけ、だろうか
傷口に塩を塗るような言葉だろうか…
けれど、その口から聞かなければならない──あの事故の当事者として
何よりも、背を預け、預かる風紀委員の仲間として、である

レイチェル >  
その言葉を聞いて、レイチェルは頬を掻きつつ
小さくため息をついた。

伊達に、数多の者達と刃を交えて生きてきてはいない。
凛霞の持つ力を、見抜くくらいのことはできていた。

「オレが殺す気で来いと言ったんだ。
 爆薬を使う選択自体は間違いじゃなかった。
 オレもそのくらいは対応するつもりで居たからな」

だが、想定外の事態が起こった。
寄り添っていた筈の奇跡は胸の内になく、
その輝きを失っていた。

「時空圧壊《バレットタイム》は――今はもう、使えない。
 オレの内側から、もうあの力を感じねぇ。
 医者も、力の波動が消えてる、沈黙してるって……
 そう言ってたな」

確かに傷口に塩を塗る言葉だったかもしれない。
しかしレイチェルは、動じずにその事実を伝えた。
ただ静かにまっすぐに、凛霞を見据えて。
伝える義務があると、そう感じていた。
互いに背中を預ける仲間であれば。

伊都波 凛霞 >  
「そう、ですか──」

実のところ、異能の力を失ったところでこのレイチェルという人物の戦力が使いもにならない、などということはない
異界においても歴戦と呼べるだけの経験、鍛え上げられた洞察力、銃器火器、刀剣の扱い…
あらゆるものを総合した場合、異能の力はその一端に過ぎない…と、凛霞は判断していた
しかし……

「──後衛でのサポートに専念するというのも、納得いきましたよ」

そう言って小さく肩をあげる

「慣れた動作や直感的な部分から、『突然できなくなったもの』は簡単には抜けてくれませんから」

今後彼女がどうするのであれ、現場に赴く以上はそれに慣れないことにははじまらないのだ
頼ってきたもの、いざという時の芯となる部分、それが抜け落ちたとなれば…
それを補正する作業は計り知れない

「私も、浅はかだったなあ…」

視線を外し、デスクに頬杖をついて…

「身体のこととか、風紀委員の権限でちゃんと調べれば病院での診断結果含んで見つかった筈なのに、
 レイチェルさんってほら、私達後輩からするとなんか無敵感あるじゃないですか?
 ……言い訳がましいですけど、そう思っちゃってましたから」

理由を言わずに前線復帰をNOと断ったあの時に、気づくべき部分でもあった

「でも、そう聞いた以上は、私もより心構えができるってものです」

再び、向き直って

「古流武術・伊都波…次期継承者。伊都波凛霞。
 その力、隠し立てすることなく前線で発揮させてもらいます。
 遡ること戦国創世、数多の戦術・武器術を吸収し練り上げたそれが、
 異能犯罪に一切遅れを取らぬこと…我が背にてお見せします」

鈍色の瞳が、力強く、まっすぐ射抜くように…見据えていた

レイチェル >  
「納得して貰えたなら、何よりだ」

だからこその、後衛サポート。
自らの異能を失ったこと。
身体の損傷。

――そして、大切な人との約束。

それら全てを踏まえた上で、
風紀を支える為に彼女が選んだ道だ。

「そうだな、この学園に来てからオレの胸の内にあった力だ。
 失った中で立ち回ることに慣れるまで、まだ時間はかかるだろさ」

それでも、慣れるしかない。
元々、異能を持たぬ中で死線をくぐり抜けてきたのだ。
ただ元に、戻るだけ。そう考えることで、心の負担は随分と軽くなっていた。

「無敵、ね。そう在れたらどれほど楽だったか。
 悪ぃな、完全無敵の先輩なんかじゃない、情けない奴でさ。
 でも、そうだとしても――」

無敵。完璧。そんなものは、きっと存在しない。
でも、だからこそ支え合って、今よりもっと強くなれる。
成長が、できる。
凛霞の視線をまっすぐに受けて、レイチェルもまた視線を返す。
そしてその宣言を聞けば、レイチェルは静かに口を開いた。

「――オレは、レイチェル・ラムレイだ。
 異能がなくとも、戦場での経験は消えることなく刻まれてる。
 お前達の背中《いのち》は、オレが必ず守り抜く。
 魔狩人レイチェル・ラムレイの本領は前線のみで発揮される訳
 じゃねぇ。そのことを、見せてやるさ」

紫色の瞳が、返すように見据える。

伊都波 凛霞 >  
「"無敵"でなくっても…」
「頼りになることには、全く変わりありません」

椅子から立ち上がって

「──嬉しいですね。
 やっぱり貴方は私達、後輩にとっての"英雄"です」

鈍と紫が交差し、互いにその意思を確認すれば…
凛霞は自然と右の掌を掲げ、構える

握手?否、それは友情を確かめるサインである
これは、仲間意識…チームメイトの信頼を確かめ、互いの健闘を讃え、
称賛や祝勝を分かち合うことを約束する──

『ハイタッチ』

そんな動作である

レイチェル >  
「ははっ、そいつはまた……重いもん背負わされちまったな――」

英雄。その言葉に、レイチェルは力なく笑う。
でも、それも一瞬のこと。


「――だが、確かに受け取った」

真剣な眼差しで、笑みを浮かべる。
レイチェルはその在り方を、受け入れる。

向こう見ずに突っ込んで人を救おうとする在り方そのものが
レイチェル・ラムレイという英雄像を作り出している、と。

かつて、レイチェルを導いた五代という男から、
そのようなことを言われたものだ。

その時は、否定した。英雄なんかじゃねぇ、と感情的に否定した。

今でも、自分は英雄なんかじゃないと思う。
そんな大それた存在には、なれない。
手の届く場所だけを守ることしか、自分にはできない。
格好悪く足掻く、ただの一人のレイチェル・ラムレイだ。

それでも。

その気持ちは確かに受け取って、向き合っていく。
それが、先輩としての義務だと、そう感じたから。
皆にとっての英雄にはなれなくても、後輩たちの英雄として在れるように。
彼らの心の支えとなれるように。
気持ちに、応えられるように。

凛霞の右掌へ向けて、自らの右手を伸ばす。
それは最も分かりやすくて、確かな証。
互いの在り方を認めて、それを互いに受け取った証。


――信頼の、証。


乾いた音が、風紀委員会の一室に響いた。

「へへっ」

照れくさそうに、それでも視線は逸らさずに。
レイチェルは凛霞へ向けて笑って見せた。

伊都波 凛霞 >  
そう、英雄やヒーローなどという言葉は…呪いである
その他大勢のために存在しなければならない、何よりも個人を無視した…都合の良い偶像
それが本質である

しかしそれでもあえてその言葉を使ったのは…
レイチェル・ラムレイという存在が新米の風紀委員達の憧れであり
自分たちもまたそう在るべくと目指すべき存在であるが故
それに憧れ育つ者が成り代わり、更に新しい力を育ててゆく──

ぱちんと乾いた、軽い音が響く
その掌に確かに感じた、彼女の存在と、強さ…
それを単なる憧れにとどめてはいけない
それこそが、英雄を殺す意思となる

故に、『呪い』と言い換えて差し支えないだろう
しかし人が覚悟をするには、道を違えぬと決心するには、往々にしてそういった"楔"が必要なのだ

「ふふっ」

笑い返す
彼女の在り方は自分達の誇りである
英雄視こそすれど、英雄として死なせるわけには断じていけない
彼女が自分達を死なせないとするなら、こちらも同じなのだ

「──すっかり話し込んじゃいましたね」

窓の外を見る、陽が落ち、星が瞬きはじめていた

レイチェル >  
重さを持つ言葉は人を蝕む呪いともなるが、確かな支えともなる。

どうしようもない程の『重荷』が、
荒波に流されぬ為の『錨』となるように。

送られた言葉。
飲み込み方一つで、考え方一つで、その在り方は変えられるのだ。
レイチェルは後輩からの重荷と錨、
その表裏をどちらも呑み込んだ。

「ああ、大分……話し込んじまったな」

そろそろ帰るか、と。
くぅ、と声をあげて大きく伸びをすれば、レイチェルは凛霞へと
ひらひらと手を振って見せた。

「じゃあな。色々話せて、良かった。
 明日は楽しもうな」

現地集合なー! と。
心底楽しそうに笑いながらレイチェルは去っていくだろう。

伊都波 凛霞 >  
明日、そう明日だ
オンとオフの差をはっきりさせるためにも、今日この話が出来てよかった

「はい、私もすぐ!」

手をひらひらと振り返して
忘れ物はないかなとテスクをチェック
ついでに見渡してみんな忘れ物はしてないかなと余計なお世話を終えれば
自分もまたバッグを担いで

パチン、と部屋の証明を落とす

最後に見せてくれた彼女のあのどこまでも楽しそうな笑み
ああいう表情を見るのはやっぱり、幸せな気持ちになれる
できるだけ多くの、ああいった笑顔を
改めて思うそんな気持ちを胸に、灯りの消えた部屋を後にするのでした

ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」からレイチェルさんが去りました。<補足:金髪の長耳少女。眼帯と風紀委員の制服を着用。>
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」から伊都波 凛霞さんが去りました。<補足:風紀委員。焦茶の長いポニーテールに焦茶の瞳。制服姿>