2020/08/24 のログ
ご案内:「レイチェルの病室」にレイチェルさんが現れました。<補足:病衣を纏った金髪の長耳少女。>
ご案内:「レイチェルの病室」に園刃 華霧さんが現れました。<補足:黒いチョーカー すかれた髪 きっちりと着た制服 ほんのり薄化粧>
レイチェル >  
どこまでも静かな、白の病室。
レイチェルは、ベッドの上で仰向けになっていた。
意識が回復してからチューブなどは外れたが、それでも
安静にしているように言われた。
本当ならばすぐにでも帰って仕事に復帰したいところだが、
医者に『1週間は必ず居て貰います』と凄い剣幕で迫られた
ものだから、渋々了承するしかない。

「……ま、確かに今のままじゃ、まともに仕事なんかできねーけどな」

未だに身体が重い。色々と投与されたらしい薬の影響もあってか、
身体に力が入らず、時折強い眠気に襲われる。

「それにしても騒がしかったな、今日は……」

意識が戻ってからは、大変だった。
医者が来て、何やら慌てていた。
どうやら、一度死にかけていたらしい。
思い当たる所はあった。
だから、
思わず困ったように笑ってしまったのだった。

「それにしても……」

送信済みのメッセージを確認する。

――来てくれるかな、あいつ……

この虚無の白の中で、一番楽しみにしているのは、
彼女の顔を見ることだった。

天井を見ながら、レイチェルは物思いにふけっている――

園刃 華霧 >  
「……………」

色々な思いを抱えながら病院の中を進む。
手には、生花とクッキー。
これは託されたもの。

「……」

手には包帯。
額には大きな絆創膏。

痛みは……まだ、残っている。

「……」

まず最初に何を言ってやろうか。
何が言いたいのか。
色々と考えているが、なかなかまとまらない。

まとまらないうちに、目的地についてしまう。

「……は、ぁ……」

一つ、息をつく。
もう一つ……深呼吸。

「……入るよ」

静かに病室の扉を開けた。

レイチェル >  
廊下から足音がする度、心にふっと色が灯る。
その度に待ち人が来たのかと顔をそちらへ向けるも、
隣の病室への見舞客だったり、看護師だったり。
そんなことを1日中繰り返していた。

だから、その足音が近づいてきた時にはもう、
期待なんてしていなかった。

でも、それは待ちわびていた人間。
扉の向こうから感じる息遣いで、それと分かる。
レイチェルは、静かに微笑んだ。

――今日こそは、オレも向き合おう。

目を閉じる。


あいつが来たら、何と言ってやろうか。
まずはやっぱり『ごめんね』だろうか。
それとも、『すまなかった』だろうか。

実のところ、1日頭を悩ませてもその答えは見つからなかった。
けれど今、この瞬間を迎えたオレの心は、思っていたよりもずっと
複雑だったみたいだ。

どうしようと俯いて、なかなか返事を返せなくて。
それでも、扉を開けたそいつに、オレはこう返した。

「……ありがとう、来てくれて」

多分、くしゃっとした変な笑顔だったと思う。
上手く、笑えなかった。
そして、謝罪よりも、思わず嬉しさを先に言葉にしてしまった。

続く謝罪の言葉を告げようとした時、
オレの目に入ったのは包帯と絆創膏だった。

あいつ、オレがこうしてる間に一体何してたんだ?
まさか、オレのせいで危ない目にあってた……のだろうか。
だとしたら、そんなの。

「お、おい……何だよそれ……どうしたんだ?」

心配して、思わず声をかけた。
自分がベッドの上に寝てる怪我人だなんてことは、
その時はすっかり頭から離れてた。

園刃 華霧 >  
「……」

ああ、起きている。
眠り姫はそこにはもう居ない。
その事実だけで心は浮き立つ。


――……ありがとう、来てくれて


ああ、もう……それだけで、全てを許してしまいそうになる。
けれど、今日はそう簡単な話ではない。
笑顔と言うには、あんまりにもぎこちない其の顔を見ながら。
挫けそうになりながら。

「……良いから、少し落ち着けって。
 怪我人病人、その他色々。」

病室にずかずかと入り込んで、手近な椅子を引き寄せてベッドの傍に座った。

レイチェル >  
「……」

ああ、来てくれている。
空回りする想いはそこにはない。
その事実だけで胸は高鳴る。


「痛っ……」

華霧が言い終わるか言い終わらないかの内に、
ズキリと胸が痛む。
ボロボロの身体ってのは思ったように動いてくれねぇな。
本当に情けない話だ。

ちょっと俯いて、こほんと小さくありもしない咳をして。
オレはベッドへと戻る。顔、赤くなってねーだろうな? 畜生。


「……分かったよ」

オレが近くまで行かなくても、華霧は傍に座ってくれた。
だからオレもちょっとだけ、小さく息を吐いて彼女を隣に迎える。
未だ胸に残るあの泥の冷たさを、拭い去ってくれるようなあたたかみが
そこにはあった。

「……ごめん」

さっき、こいつに言いかけてた言葉だ。
色んな意味を込めて、まずはその言葉を放つ。

園刃 華霧 >  
「ほら見ろ」

再会を喜ぶにはいささか冷めた調子。
いや、こんなことをしたいわけじゃない。
したいわけじゃないけれど……

「まったくさぁ……
 無茶、しすぎなんだよ。
 なんだよ、その怪我。」

出てくるのは責めるような言葉。
今日はどうしてこんな言葉ばかりスラスラ出てしまうのか。

「……」

――ごめん

ごめん、ときた。
そうだよ。本当に。
わかって……分かってるのか、本当に……
ダメだ、これ以上はいけない。
そう思って

「……」

言葉に詰まる。

レイチェル >  
「……お前の言う通りだ。
 無茶しちまった。いや、無茶してきちまった、か」

華霧からは冷たい言葉が浴びせられる。
そんなことくらい、分かってた。
こんな馬鹿に浴びせるには、優しすぎるくらいの言葉だ。


「……皆に……そして」

一度天井に目をやる。
風紀の、皆の顔が思い浮かぶ。
ったく、ほんと申し訳ねーな。みんな。
けど、何よりも。

「何よりも、お前に心配……かけちまったと、思ってさ」

あの日、なくならないものがほしかった、と彼女は呟いていた。
なら、オレがこんなザマになったことで、
大事な人の心を、傷つけてしまったに違いない。

そのことに気付いた時、胸が痛かった。
その痛みは、身体を蝕む痛みよりもずっと、ずっと苦しくて。
別に、その痛みから解放されたいから口にする訳じゃない。
逃れたいから、伝える訳じゃない。
ただ、本当に。
目の前のこいつに辛い思いをさせちまってたなら、
それを少しでも和らげることはできないかと、そう思った。

だから、こう口にする。

「……だから、本当に、ごめんな。華霧――」

もう一度、謝る。
謝ったって、簡単に許されることじゃないことくらい、百も承知だ。
許されたいから、口にするんじゃない。

オレはただ、伝えたいんだ。

「――独りぼっちに、しちまった」

華霧の包帯と絆創膏を見る。とても痛々しかった。

園刃 華霧 >  
――ごめんな
――独りぼっちに、しちまった

目の前の相手から伝えられた言葉を受け止める。


「……」

そんな言葉を、出させたかったわけじゃない。
ああ、何をしているんだ。
違う。
ただ、自分は……


「……馬鹿チェル……良いんだよ、そんなこと……!」

ふつふつとこみあげてくるもの

「心配とか! 独りぼっちとか……! そんな……ッ」


――オレだって馬鹿じゃねぇ。どうしようもなくなる前に、
――きっと頼れる友達に相談するさ

かつて、聞いた言葉。

「死んじまうかと、思ったじゃ……ないか……ッッ!!
 どうしようもなく、なって、ないの……かよっっ!!」

レイチェル >  
「そ、それは……」

困った。
正直、その先にある出すべき答えまで想定して、
大分困った。
でも、考えてみればそうだ。
オレはそう、相談するって言っちまったんだから。
聞かれるに決まってる。

嘘をつくつもりはない。けれど、その先に答えなきゃいけないものは、
あまりに重かった。華霧自身を、傷つけてしまうかもしれない。

それだけは、絶対に嫌だ。
華霧が傷つく所なんて絶対に見たくない。
だけど、でも、どうしたらいいんだ。
嘘だって、つけないじゃないか。
オレはこいつを裏切ることも、したくない。もう二度と。

どうしたら……一体。
どうしたらいいんだ。

長い長い沈黙の後、オレは口にした。

「……どうしようも……どうしようも……なくなってた、ことに、
 気が付か、なかった……」

落第街を走っていたあの日から、いやもしかしたら、もっと前から。
自分の内にあったもの。それに、気がついていなかったんだ。

園刃 華霧 >  
「ば、か……おまえ……」

聞いていた結果。
今更それは覆らないのかもしれない。

それでも。
それでも、何か。
何か、解決方法はあるのではと思っていたのに。

でも、もし……それが。
それが、本当だったとしたら。

もう、本当にどうしようもないとしたら。

一瞬、脳裏によぎったものを振り捨てる。
それは、ダメだ。。

「……気が、つかなかった、て……
 ほんと……ばか、チェルぅ……
 馬鹿は、アタシの……役割、だろぉ……」

思わず胸ぐらをつかみそうになり……
すんでのところでやめる。
その行動すらも、恐ろしい。

それでも踏み出さねば、ならない。

「……なぁ……どう、する……つもり、なんだ、よ」

耳をふさぎたくなるような。
しかし、聞いておかねばならない、そのこと。

レイチェル >  
「ちがう……お前も馬鹿なら……オレも馬鹿だ……いや、オレが本当の馬鹿だ。
 お前は……自分を勝手に馬鹿だって言って……
 適当なフリして……決めつけてるだけだ……」

華霧が、迫ってくる。

違う。
駄目なんだ、それは言っちゃ駄目なんだ。

つたえたい。
つたえたいことだけど、そうじゃない。
いいたくない。
つたえたくない。

きずつけたく、ない。
きずつきたく、ない。

でも、うそはつきたくない。


なら。
オレは。

オレが、言うべきことは。


「……初めに言っとく。お前は、何も悪かねぇ。
 オレがこんなザマになったのは……オレ自身が原因だ。
 オレが悪いんだ。そのことは、まず分かった上で、
 聞いておいてほしいことが……ある」

何でこんなにズキズキ胸が痛むんだろう。
これは、伝えたかったことじゃないのか。
それでも、目の前の華霧の様子を見ると、言わなくちゃいけない気になる。
本当は、伝えずに取っておこうとおもったのに。

園刃 華霧 >  
「うるっさい、馬鹿ッチェル!
 アタシもオマエも馬鹿なんだよっ!」

思わず声を荒げる。
馬鹿は自分だ。
  ・・
自分だけで十分だ。

なんで、みんな馬鹿をするんだ。
自分よりよほど賢い連中のくせに……ッ


「アタシが、悪いとか!悪くない、とか!
 そういう……問題……じゃっ……ッ?」

それに、たとえそうだとしても。
わかっていても、もっと早く気づいていれば。
もっと早く声をかけていれば。
そういう後悔は消えることはない。


「……なん、だよ……?」

それでも、何か、言おうと言うなら
それは、きかないと だ

レイチェル >  
 

「好きだ」
 
 

レイチェル >  
 
「華霧のことが、好きに……なっち……ま、ってた……」 

胸の内の想いを、正直にそう伝えた。
飾らずに、抑えて。
 
 

レイチェル >  
 
「友達としてでもなく、親友としてでもなく、もっと特別な存在として……
 ずっとずっと、一緒に居たいって……
 寂しい思いをさせたく、ねぇって……
 そう、思っち、まって……た……」

少しずつ、胸の内の思いを明かす。

園刃 華霧 >  
「ぅ……え、ぁ……?」

レイチェル >  
 
そして。 

 

レイチェル >  
続く、胸の内の想い。溢れんばかりの想いは、しまって。
黙る。
黙るしか、なかった。

恥ずかしさで、耳まで真っ赤になっていたことだろう。

「……ごめん」

それだけ、口にした。
自分でも、びっくりするくらいか細い声だった。

園刃 華霧 > 絞り出された言葉。
それが、ひどく空虚に耳から入って抜けていく。


「あやまんなくて、いい、よ」

まず絞り出せたのは、そんな言葉。

それは、大事な友人からの大事な告白。

――もっと特別な存在

きっと、それは喜ばしいこと、なのだろう。
だけれども


「……悪い……レイチェル」

続いて口から出たのは謝罪の言葉。
自分には、それしか言えない。

そして、いいたくない
その ことば

でも それは いわないと
こうへいでは ない

「アタシは……アタシは……
 そういう、気持ち、が……わから、ない……
 わから、ない……んだ……」

此処最近、なぜかそういう言葉をもらう機会があった。
それに、だいぶ昔にも。
それぞれに、それぞれの思いがあるのだろう。
それぞれに、それぞれの重さがあるはずだろう。

けれど、そのどれもが……自分には、わからなかった。
実感が、わかなかった。

まるで、他人事。
いや――
・・・・・・・・・・・
他人のほうがまだわかる

「だか、ら……ご、めん……
 アタシ、なんて、いって……いい、か……」

嫌なわけではない、けれど。
どう応えていいのか、が。
自分には、分からない。

レイチェル >  
「良い、今は分からなくてもいい。それでいい。 
 悪いことなんか、全然ねぇさ」

それで、良い。
焦る必要なんて何処にもない。
だって、自分だってこの気持ちに気付いたばかりなんだ。

笑う。
今度こそ、くしゃっとした笑顔じゃない……かな。


「オレだって、完全にこの気持ちを理解しきれてる訳じゃねぇ。
 だから、ここで答える必要は、ねぇ。
 
 だから――」

笑顔を送る。
それでいいんだ、と。

レイチェル >  
 
 
 
「――もしよかったら、オレと一緒にその気持ちを、探して欲しい。
 オレは、華霧と一緒にその気持ちを探したい」
 
 
わからないことを、一緒に探そう。
悩んだって、いい。
困ったって、いい。
一緒にいればきっと。

今のオレが伝えられる、精一杯の言葉だ。
そして紛うことなき、本心だった。

園刃 華霧 >  
「…………」

ああ……
探す?

探して、見つかるもの……なのか?
最初から、無いのかもしれない。
それすらも、自分にはわからない。

それなら。ダメ元でも探すのも悪くはない、のかもしれない。

しかし―ー
脳裏によぎる声

――考え直す気はない、この気持ちも言葉も引っ込める気はない

「……あぁ。
 多分、それがいい……ん、だろう、な。
 けど、多分……公平、じゃ……ない。」

不義理だから、と。
自分の秘密を明かしてくれて、
そして結局は別れてしまった相手がいる。

自分を見失いそうになりながら、
共に道を歩んでくれ、と言ってきた相手が居た。
あれから、彼も見ることはない。

それでも、まだ居るものは、居る。

「……アタシにさ。
 こんな欠陥品みたいなアタシを好きだって、言ってる馬鹿が……
 レイチェルみたいな、馬鹿が、いるんだ。」

恋とか愛とか、自分に関わってきた途端になんだかわからなくなる。
ただの欠陥品ではないのか。
正直、自信はない。ろくなことにならないのではないか、と。

だから、拒絶した。
拒絶したのに、まだ食いついてくる馬鹿。

それを"捨てる"ことは、自分には出来ない。

「だから……それ、ごめん。
 いいよって……簡単には、言えない」

レイチェル >  
「そっか。他にも居たか、華霧に好きって伝えた奴が」

なるほど、まぁ華霧は可愛いからな。
引く手あまたかもしれない。

「でもまぁ……オレ、馬鹿だからさ。我儘、通すわ。
 オレだって、譲る気はねぇ。関係ねぇ。だって――」

それがどうしたっていうんだ。
関係ねぇだろ。

「――オレ、華霧のことじゃ絶対負けねぇからさ」

笑う。
ああ、良かった。
本当に伝えたかった気持ちはこれだ。
自分が一番、華霧のことを抱きしめてやりたいんだって。
惨めにベッドの上なんかに居るけれど。
それでも。

「大好きだから」

もう一度、言ってやる。何度だって、言ってやる。
クソ、ぜってー耳まで赤い。
でも、不思議と胸は清々しいんだ。

「しかしまぁ、欠陥……ねぇ。
 確かに欠陥だらけだよな、華霧は」

いやほんとに、よく困らされた。
軽く、笑い飛ばす。

でも、それってさ。


「大雑把だし、危なっかしくて仕方ねぇし、仕事はサボるし。
 セクハラはするし、いつだってちょろちょろしてるし、
 真剣に話しても笑って返してくるし。
 恥も知らねぇし、可愛げもねぇし、いつだって適当なフリしてるし。
 でもって何より、オレの気持ちに気付いてくれねぇし。
 
 本当にどうしようもねぇ奴。
 
 でも、さ。

 向き合ってくれる時は真剣に向き合ってくれるし、
 他人の問題を抱えてくれる。悩みも和らげてくれる。
 結構色々考えてる時もある。自分に誇りを持ってる。
 羨ましいくらいの行動力がある。
 我儘を真剣に聞いてくれる。馬鹿に付き合ってくれる。
 そんでもって何より、こんなオレの馬鹿話にも付き合ってくれる」

そう、華霧にも、良いところだって沢山あるのだ。
本当に沢山の良いところが。だから、好きになる。
どうしようもなく、好きになってしまうんだ。
 
「欠陥なんて、誰だって持ってる。オレだって、持ってる。
 で、さ。
 そんな欠陥も何もかも――
 全部ひっくるめてオレは好きなんだ、華霧のことが」

『全部』だ。きっと『全部』、好きなんだ。
今知っていることは、全部。
だから、全部を差し出したいなんて、
馬鹿なこと考えちまう。でも、この馬鹿はとっても心地が良いんだ。
なぁ師匠、そうだろ?

「この気持ちは、絶対に誰にも負けねぇ。負けてたまるかよ」

笑う。
笑ってやる。
辛気臭い顔すんな、オレに対して申し訳無さそうな顔すんな。
オレは、お前のことじゃ絶対に負ける気しねぇからさ。

「オレは、お前の隣で未来を生きてやる。ずっと先までな」

園刃 華霧 >  
「……ったく、ほんと……
 なんだって、アタシの周りって馬鹿だらけなんだ……」

……溜息をつく。
この諦めの悪さ。本当にどうしようもない。
いずれ、諦めの悪さに、この胸の   が
解消されることがあるのだろうか。

わからない。
けれど、期待はしてもいいのかもしれない。


「……ってか、好き放題、いうな……
 この馬鹿チェル……クソ」

本当によくもまあ、ここまで悪口が出るもんだ。
……自覚がないわけでもない。
自分はそういう生き物だから。

それを気に入ったって言うなら、まあ筋金入りだ。
馬鹿も馬鹿。キングオブ馬鹿だ。
もう、それはいい。
どうせ議論しても無駄だろうし。

じゃあ――


「……じゃ、勝手にしろ。
 けどさ」

そうだ、肝心なことだ。
あまりに突拍子もないコトですっかり忘れていた。

「じゃあ、レイチェルは……この先、どうすんだよ……
 アタシの隣で、未来を生きる……なら、どうやって、だよ……」

レイチェル >  
「悪ぃな、長く一緒に居ると悪口も出てくるもんだ。
 良いところも、見えてくんだけどさ」

好き放題言うに決まってる。
『好き』なんだから。

「どうやってって……その答えはもう、
 お前に渡してあるんだけどな」

水族館に行ったあの日、最後に渡した――

「――まー、オレが退院したらになっちまうけど
 ……うちに来いよ、華霧。飯くらい作ってやるからさ。
 ただとは言わねぇ。それじゃお前申し訳なく感じるんだろ?
 そういうタイプだし……だから、その……
 血をさ……ちょっと分けてくれるとその……嬉しい……けど」

あー、駄目。
これは駄目だ、恥ずかしい! 
クソ! 顔が真っ赤だ。
思わず目だけ背けてしまう。
でも、悪い提案じゃねーだろ?
って、オレは華霧の方を見てやった。

園刃 華霧 >  
「んだよ。
 無駄に几帳面で、妙に可愛い物好きだったり、
 頑固で、やたら過激なことはするし、変にお節介だし、
 そのくせ、自分の身体がぶっ壊れるまで無茶するし……
 あと、やたら胸でかいし、なんなのさ。ボール?」

言いたい放題言われたのだ。
こっちだっていい加減言いたい放題言い返したくなってきた。

決して、いい話で終わらせてやらない。


「……ああ、アレ。
 いいよ、約束だし。勿論。
 それで、レイチェルがどうにかなるなら……
 血くらい、なんでもない。」

其のおまけについてくるものも、別に気にしない。
そもそも、そういう行為にあまり興味もない。

「……でも、さ。
 正直、これまでの無茶がたたったりとか……
 ちゃんと相談してくんなかったりとか。
 アタシは、とても、気に入らない。」

そう、そこだ。
引っかかっているのは、それだ。

最初から、今だって、信じている。
だけれど、其の信用と、これは別問題。

びしり、と指を突きつける。


「だから、ちゃんと大丈夫ってアタシが納得できるまで。
 レイチェルんとこ行くのは無しだ。
 だいたい血を吸うだけなら、それでも別にいいだろ?」

多分、レイチェルにとってそれは意味のあることだ。

わかってる
ことわりたくない
でも それで
また たがえられたら
もう だから

ああ なんて ずるい

レイチェル >  
「うぐ……言ったな、この……」

まるで子どもの喧嘩である。
あの日のように。
でも、それが心地よかった。

いい話だけで終わらないこの話が、本当に心地よかった。


「……ああ、本当にそこは。
 悪かったよ、悪かった……ごめん、ほんと……華霧を、
 裏切るようなことをしちまって……」

改めて謝る。ほんと、いくら謝ったって足りないのだ、
今回のことは。

「……わ、分かった。それなら、大人しくする……
 華霧を待ってるよ……」

びしり、と指をさされれば、耳が垂れる。
このことに関しては本当に、強気に出られない。
我ながら犬みたいで情けないものだ。

そこでふと、視界がふらつく。
そうか、薬が……。

「……こんな無茶なんて、もう……絶対しない……から……さ……
 華霧を、二度と心配……させたく……ない……から……あんしん……
 して……」

……ああ、クソ。
もっと、もっと話していたいのに。
もっと華霧を、感じていたいのに。
こんな、時に。
睡魔、が。

「……ごめ……かぎ………また……」

………。

レイチェル >   

「……あり、がと……」 
  

園刃 華霧 >  
「……まったく。
 アタシと話すために、さ……」

睡魔に敗北して眠りに落ちていく親友を見つめる。
本当に、もう――

「馬鹿だな、チェルちゃん。
 それがもう、無茶じゃんかさ」

呆れたようにため息を付き。
それでも、少しだけ安心した笑顔を見せる。

「……ァ。
 ……土産の話、忘れてた。」

まさか、そんな下らないことで起こすわけにも行かない。
諦めて、持ってきた袋をベッドの側にそっと置く。

そして、最近やたら仕込まれた生花の手入れ。
持ってきた花と、飾られている花と。

一通りの作業を終わらせて……
病室を後にする。

残されたのは、
誰かが焼いたクッキーと
オレンジガーベラ

ご案内:「レイチェルの病室」からレイチェルさんが去りました。<補足:病衣を纏った金髪の長耳少女。>