2020/09/07 のログ
ご案内:「宗教施設群-修道院」に神名火明さんが現れました。<補足:銀髪ショート くたびれた白衣>
神名火明 >  
客がいない

主もいない

神名火明 >  
車で乗り付けてみたのはいいものの、雨に僅かだけぬかるんだ土は来客を示す痕跡を残している。扉は開いていた。いつもどおりの佇まい。こっそり覗き込んでみた。出ていく足跡はなかったから。

「マーリーぃ~? 来たよ~、電話買った~?」

雨は何もかもを洗い流す反面に湿りという強い痕跡が残る。大きさから成人男性の足跡。歩幅からして感情の動きは大体推測できる。できたから何だと言うのだろう。起こってからしか対応できないのが常だった。いつもいつもそうだった。そんな生活に嫌気が差して自由になったのがついさっき。

神名火明 >  
「おっかしいなあ、いると思ったんだけどな~」

居たのは一人。そしてマリー。デバイスを取り出して連絡を取る先を考えながら進んだ。足跡をたどる。

神名火明 >  
ごとり。

デバイスが落下する。

割れたカップの隣に。

ご案内:「宗教施設群-修道院」に日月 輝さんが現れました。<補足:身長155cm/フリルとリボンにまみれた洋装/目隠しを着けている>
神名火明 >  
「痕跡が消えてる」
 
「空間転移の異能?」

「誰がなんのために?」

「わざわざ教会まで来て?」

「怨恨?」

「違う、準備が良すぎる」

「それならお茶会なんてしない」

「あの子が見誤るっていうなら」

「相手は…………………善人、だとでも……」

日月 輝 > 他愛の無い話よ。

雨が降るなら旧くて古い建物は雨漏りだってするでしょう。
抗えない蹉跌。必然の陥穽。そんな当たり前を想って、いつものように扉を開けようとして、先客の応へに首を傾いだだけの。

「あら、お客様かしら。マリー?お話中だったら御免なさいね。
 ほらこの間雨漏りするかもと言っていたでしょう。一応シートとか持ってきたのだけど──」

返事が無い。
おやと思って、室内へ。
そうした先には、いつかの夏に視た誰かの姿があった。

「……神名火さん?」

あの時とは髪の毛の様相が違う。切ったのかな?と先ずは思った。
けれど、その足元の痕跡にアイマスクの裏の眼が訝し気に歪む。

神名火明 >   
「輝ちゃん」

目元にくまの浮いた瞳で彼女を見つめ返した。声をかけられるまで気づきもしなかった。やさしい雨と指でかきみだしたせいでぐしゃぐしゃになった銀髪の隙間から、くすんだ瞳で視線の見えない顔をじっと見つめ返した。泣きそうだった。

「マリーがいなくなっちゃった」

あ、だめだ。言ったら涙でてきた。顔を覆った。

「どうしよう…」

日月 輝 > 夏の浜辺で聴いた声とまるきり違う抑揚。
私に誰かの嘘を見抜くような力は無いけれど、その言葉に嘘は、無いと理解する。

平静を装うように右手が頤を撫でた。

「居なくなっちゃった……ってなによ。単に偶々、出かけているだけとかじゃあないの
 あの子、割と彼方此方出かけたりしているのよね。待ち合わせする度に遅れてくるし。
 夏祭りの時なんか浴衣で猛ダッシュしてきたりしてさ」

顔を覆い、今にも頽れそうな神名火さんに努めての明るい声を務めた。
一方で室内を見回して、割れた茶器に顔を向ける。
マリーは、そういったものを放置することをしない。

「……でも、掃除はきちんとするのよね。例えば、ティーカップを割ったら放置とかはしない」

言葉が細くなる。
放置せざるをえない何かがあった。じゃあ何があった。
"突然門が開いて、別の世界にでも行ってしまった"とは、思いたくなかった。

「とりあえず……とりあえず落ち着いて神名火さん。ええと、まずは深呼吸よ深呼吸」

だから棚上げして神名火さんの肩に手を置いて、落ち着かせようとする。

神名火明 >  
手を置かれたことに気づかないくらいに取り乱してしまっていて、ひ、と声をあげて肩をびくつかせてしまった。ぐっと息を飲み込んでどうにか落ち着こうとする。

「だれかがいたの、足跡」

深呼吸して。ぽろぽろと涙を零しながら返答をする。たのしい思い出がすごく遠く感じてしまう。思い出そうとすると耳がきんきんする変な感覚。消えてしまった花火。はじけて消えた金色の輝き。鈍色の雨しか残ってない。

「帰る足跡がなかったから」

彼女が視線、こちらから見える限りでは顔を向けた先のカップを見る。横に落ちてるデバイスは自分のもので、しゃがみこんで指をカップにふれる。

「まだあったかいから、だからすこしまえまでここに…多分男の人…しずかに歩く人…わからない…だれかにつれていかれて…一緒にお茶してたのに…争った痕跡とか…血の匂いもないし…でもいっしょにいったならカップは割れたまんまで…薬物…?気絶させられた…?あたま殴られたって…、でも…でも…」

頭を抱えて、はーっ、て深いため息。色々な意味がこもった言葉がこぼれちゃう。

「わかんない…………どうしよう……どうやって探せば………」

日月 輝 > 曇天のような、それでも明瞭な言葉。
理路整然として、彼処に要領を得ない。
──頭を殴られただなんて、あたしは聞いていない。

「此処は教会で、マリーは御人好しで、そりゃあ誰かとお茶をする事もあるでしょう。
 ……御人好しが過ぎて、落第街で施術院を作るんだって張り切ってたけど……
 性質の悪い誰かにでも目を付けられた。って所かしら……争った痕跡が無いとなると……」

少しだけ、そのことに唇を尖らせて、けれども直ぐに頭を振って振り払う。

「何一つ手掛かりが無い。ってなると所謂空間移動とか、そういう異能なり魔術よね
 ……まだ暖かいなら直ぐとして……そういうものって距離とか、どうなんだろう。
 あたしはその辺に明るくないから、神名火さんはわかる?」

事件性を示すものは神名火さんの言葉ばかり。
けれども事態が奇妙なのも事実。
マリーがこんな妙な状況に陥るのは、自然でも無いし普通でも無い。

神名火明 >  
「初歩的な異能や魔術ならごく短い範囲の移動はそこまで珍しいっていうわけじゃないよ…もちろん仕組みや原理はひとによって様々だけど…でも本当に…足取りに淀みがなく感じる…何もかもが計算ずくで…だったら本当に遠くまで《門》をくぐるみたいな…優れた異能者か魔術師…それもだいぶ自分の力を使い慣れてる人…あれ…」

はたと顔を上げる。それならおかしいところがあるなあって思って、そのまま見上げて訊いてみる。

「輝ちゃんさ…『掃除はきちんとする』『ティーカップを割ったら放置とかはしない』?そうだよね」

修道院の扉があいているのはあたりまえで…むしろ何かおかしい。おかしい。だって。

「割れたカップがなかったら、私も、『マリーがいなくなった』なんておもわなかった」

たぶん自分より彼女のふだんをよく知っていそうな輝ちゃんが言うんだ。間違いない。この決定的な違和感を、計画的誘拐だというなら放置はしていかないはず。

「『誘拐』だって、わかるようにしてる…の…かな…? 状況証拠だから…風紀委員会が動いてくれるかどうかも…わからないけど…『見つけてみろ』って…言ってるみたい…。
 そんな優れた異能者が、マリーの心を騙せるような人間なら、こんな初歩的な痕跡を残したりしない…と…思う…かな…」

手がかりは、ある。あってしまった。なぜ?

日月 輝 > セミでも判るような魔術理論でも短距離の移動に不便は無いらしい。
その術理は判然としないけれど、今大事なのはそこじゃあない。

「卓越した異能者、魔術使い。そうなると単純に考えるなら……」

上級生、よりも教師かなと思う。でも教師がそんな事をする訳ない。
もう一度頭を振う。冷静なつもりで、ちっとも要領を得ないのはあたしの頭だ。
絵物語のように、今新たな異能に目覚めて全てを解決できたなら、それは素敵だろうとも思う。

「ええ、そうよ。マリーは結構マメ……って言うのも変だけど、よく修道院の入口とか掃いてたし
 こう言っちゃあなんだけど、このオンボロ建物を綺麗にしていたわ」

几帳面で丁寧だ。その上で、用心深い。
施術院で人々に食料を配る際にも、ローブの下に鎖帷子を着込む程に。

「マリーは綺麗好きで、用心深くて、熟練の旅人。生半のことでは油断しない人……だと思う。
 そんな彼女が誘拐されたとして、けれどもそれが偶発的だとして、その上で用心深い彼女の上を行ける。
 ……良くある話なら、顔見知りの犯行ってのを疑うところよね。ティーカップを放置したのは……
 別にどうでもいいから、かも」

その程度の手掛かりだから放置した。
その程度の手掛かりを手繰られても何一つ困らない。
遠方に見える灯台を頼りに航路を選んだ船が、辿り着く頃には何もかもが終わっているかのように。

「神名火さん。正直……今のところだと、風紀委員の人達に通報したとしても、動いてくれないと思う」

近付き、しゃがみ、その綺麗な碧眼とアイマスク越しに視線を合わせるようにしながら言葉を選ぶ。

「風説って訳でもないけど……まあ、何だか色々ごたついてそうだし。
 言いたくはないけど、異邦人一人居なくなったくらいで、人を割いてはくれないと思うの。
 でも、個人的に知っている人はいるから、その人には、一応伝えておこうとも思うの。
 その……あまり時間をかけたらいけないような、そんな気がするから」

居合わせてしまった同士に、確認をするかのように言葉を重ねる。

神名火明 >  
「むかしこの教会つかったときはもっとボロボロだった」
 
彼女のマリーへの印象にはうんうんと頷ける。生活をしながらきれいに保たれているのはまさしく清貧の心がけができたこと。だから不意の事態が起こっているのは間違いない。ああそうだ、これを伝え忘れてた。

「悪人の反抗じゃない。ちがう。これは違う。えっと、そうなんだよ。悪意の犯行じゃないの。マリーは嘘をつくでしょ。自分が辛いことを辛いって言わなかったり、苦しいことを隠してたのしいことばっかり話そうとするでしょ。あの子はね、だから人の後ろ暗いところはすぐ見抜いちゃうでしょ。ふつうじゃない。…わかってる…まだ生きててほしいから、必死に生きてそうな可能性を探してる…いま」

視線を合わせてくれた輝ちゃん。多分年下なのに頼りになる。ううん、気づいてる。私も子供なんだ。頼らなきゃ。少し冷静になってきた。

「うん、色々聞いてる。実際、色んな人が運び込まれたりしてたもん。うちの…もううちのじゃないけど病院。
 頼るなら個人かな、委員として動かないように、理央くんと英治くん…あーっ、英治くんの連絡先知らない!あの人なんか女の子の影っていうか片思いの気配してたからな~!理央くんにはメールしてみるけど…動いてくれるかな…」

デバイスを取り上げながら立ち上がる。白衣の裾を払って、肩を上下させた。

「多分意味のないことをする犯罪者じゃない。カップが残ってる。気づかれるようにしてる。時間をかけたらいけない。それも間違いないと思う。…良かった、輝ちゃんいて。きてくれなかったらこっから動けなくなっちゃってた。私」

不意の天稟に悩む者たちの多くに手を差し伸べてきたあの子のために動いてくれる人は絶対にいるはず。

「まだ間に合うはず。これは、犯罪者としてのカン、だけど。絶望を見せたいだけなら特定の人間を狙い撃ちにするはずだ。今日は完全にアポなしの訪問。第一発見者が私になって、ここに輝ちゃんが来たのも完全な偶然。
 今するべきはそうだね。急ごう。助けよう。マリーを。そうしろって誰かが言ってる気がするんだ」

善なる悪魔の囁きであっても、いまこの場に居る自分たちが動かない理由を探すよりずっと有意義な道筋だと思いたい。とはいっても、何をしてるかもわからない彼女に、どこまで負担を負わせていいんだろう。少し心配そうに覗き込んじゃう。

日月 輝 > 「……マリーは」

マルレーネは、もしもの未来を受け止めれる人だ。
諦めを受け入れる人だ。だから、その道行が怖い。
神名火さんの言葉に、どう返そうかを悩んで言葉が泳ぐ。
その最中に、藁をもつかむような名前に声が跳ねた。

「英治って山本英治さん?あの見事なアフロヘアの。
 彼の連絡先なら持ってるから、あたし聞いてみるわ。
 BBQの時に茶化して家族です。なんて笑ってたくらいだもの。
 きっと仲良しなはず」

動けなくなっている場合じゃあない。
あたしも立ち上がって、もしも/ifに備えて動かなければならない。

「神名火さんって犯罪者なの……?いえ、まあそれは置いときましょう。
 あたしは善良な学生だからこの際足して二で割れば丁度いいわ!!」

心配そうな顔
泣き腫らした顔
けれども明瞭に諦めない顔。
そのどれもが犯罪者とは思えなくて些かに鼻白んだ。
でも、おかげで少しばかり肩の力が抜けたかも。
意気軒高に胸とて叩き、その後に己の携帯デバイスを取り出だす。

「さ、神名火さんの連絡先を教えて頂ける?」

事件かどうかも判然としない事態を詳らかにする一歩は此処からだ。

神名火明 >  
「生きてて欲しい。あの子が私の神様だから」

掴んだばかりの信仰を喪うわけにはいかないから、少し子供じみた言葉で、泳いだ彼女の視線を掴んでしまうような声を出した。

「ほんと?よかった!そうそう、がっちりしててたくましいアフロの…。輝ちゃん、お願い!私は、親戚の子が居るから、その子も風紀委員で。その子に頼ってみる。もちろん個人への依頼になるけど。マリーを見捨てるような子たちじゃ、ないはず!」

ぺちぺちと自分の頬を叩いて、よしって気合を入れちゃう。笑い顔は困り顔になっちゃうんだけど。

「悪い子にも善い子にも慕われてるってことだよ、あの子が…」

だから助けたいから、デバイスを翳して連絡先を交換。急いでできることをしよう。幸い無職の学生になったので時間はたくさんある。あきくんには悪いけど、善良な学生におサボりをさせる時間も少ないほうがいい。

「こんな形のアドレス交換であれだけど、終わったらみんなで美味しいもの食べにいこーね!」

日月 輝 > あたしよりも子供のように
あたしよりも切実そうに
あたしよりも──あたしよりも、マリーを慕っているような神名火さんを見て安心するわ。
だって、彼女はあたしよりも年上で、それならあたしも、もう少し、そうしていいのかなって思うじゃない?

「ええ、行きましょ。浜辺でBBQをした時みたいに明るくね」

アドレス交換をした後の話。
神名火さんに意地の悪い魔女のように唇を曲げてみせて、修道院を後にして、
通りに出たなら一歩大きく踏み込んで"体重をかけない"
それだけであたしの身体は大きく跳んで、遥かに飛んで、異邦人街を見回せる程に浮き上がる。

そこに見えるものはない。あたしの視たいものはない。ただ街並みが観えるだけ。
全く何をと、何処かで思う。俯瞰した思考が諭しもしようもの。

「……何処かで迷子。ならそれでいいんだけど──」

旅人がその人生の航路に迷って標/導を求めるのなら。

──いいえ、求めなくっていい。これはあたしの我儘だから。

先行きを照らす光が何処にもありはしないのだとしたら。

──そんなものが無くてもマリー、貴方は何処までも歩いて行ける。

あたしは太陽のように、望月のように、日月に輝くものでありたい。

──ただ、"もしも"の時の未練にはなりたくないの。

貴方の歩みが暗がりの夜に、鈍色の雨にあるものではないと示したいの。

──振り返った時に冥い後悔ではなく明るい思い出であれたなら、それはとても素敵だと思うから。

だって、友達だもの。

──駄目ね。Ifの話は嫌いだって自分であれだけ言ったのに。

「もしもの不幸なんてあたしは嫌いよ。まったくね」

呟く姿が雨煙に消える。
修道院の扉は、今だ開かれたまま。

ご案内:「宗教施設群-修道院」から神名火明さんが去りました。<補足:銀髪ショート くたびれた白衣>
ご案内:「宗教施設群-修道院」から日月 輝さんが去りました。<補足:身長155cm/フリルとリボンにまみれた洋装/目隠しを着けている>