2020/09/09 のログ
ご案内:「落第街 決闘の一幕」に所古虎夏さんが現れました。<補足:メガネにパンツスーツの女。>
所古虎夏 >  
 その夜。
 
 落第街で、二つの異能者が鎬を削っていた。
 とってもとっても、よくある話。

風紀委員の女子生徒 >  
「どうして……」

 かたや腕章の輝く、映えある風紀委員の女生徒。
 非常に攻撃性の高い異能の持ち主であるにも関わらずに能力をひけらかさない真面目な女生徒。 
 弱きを助くるために強きに挑むに躊躇しない、勇敢で模範的な風紀委員。

 しかし戦う風紀委員の顔は、悲痛に歪んで濡れていた。
 もちろん雨ではなくぼろぼろといまも新しく流れる涙で。

「どうしてッッ!」

 糾弾の声とともに彼女の足元の地面から生成された鋼鉄の槍の群れはすべて身を守るために使われていた。 

ライターの女子生徒 >  
 かたや活発な印象もある同年代の女生徒だ。
 いわくもともとは陸上部に所属していたが足の怪我を理由にグレてしまって、そこから異能の発現に気づいた、とかなんとか。

「だって………だって」

 少女の腕が振るわれる。
 日焼けした指先が繰っているジッポライターから伸びる「炎の舌」が、の生徒の異能だった。
 柵か牢屋のように張り巡らされた「串刺し公」を舐め溶かしている、こちらも殺傷性の高い異能。

「だって……気になるじゃないッ!」

 いわく。
 彼女は前にこの風紀委員の女子生徒に助けられたことがあるようだ。
 そして異能の技術をずっと学園で磨き続けてきたんだとか。

所古虎夏 >  
 わかりやすく言えば二人は出自も違えば所属する部活も委員会も違うけれど。
 恩義が切っ掛けに出会った仲良しコンビだった。
 それが今や本気で殺し合っている。

 別に何か特別な理由があるわけではない。
 異能者であればむしろこういうのは日常的に起こることだろうと考えられる。起こってほしくないなら全員に首輪をかけるはずだ。そうなっていないというのはそういうことなのかもしれない、というのは詭弁だろう。

風紀委員の女子生徒 >  
「――どうでもいいでしょ! どっちが強いか、なんてッ!」

 言ってしまえばそう、ひどくくだらない動機だった。
 それが突発的な思いつきだと考えてしまう少女だった。

 戦いは仕方なく行うものであり愉しんでいいものではなかった。
 鋭い槍を異能と宿す少女からすれば、長く連れ添った友人がおかしくなったとさえ見えたのかもしれない。
 
 まあ、でも、そうじゃないんだな。

ライターの女子生徒 >  
 どうでもいい。
 
 その言葉は「火が点いてしまった」少女へは処刑にも等しい言葉だった。

「ごめんね」

 ジッポ内のオイルが燃焼し、炎の蜥蜴がライターから現出する。
 路地をまるでキャンプファイアのように美しく染める火は間違いなく、大技のそれ。

 まあ、要するに。

 「戦い」なんてものへの動機は千差万別だ。

 どっちが強いか。そんなオトコノコ冥利に取り憑かれてしまう女の子もここにいた。

所古虎夏 >  
 そして悲しいことに、風紀委員の女生徒のほうが戦いに慣れていたわけだ。
 まあ鉄火場に出るような生徒だから当たり前の話で。

 相手の殺意が本物かどうかなんて見ちゃえばわかるわけで、
 ライターの女生徒はそういう戦いのヤバさを侮ってしまっていたわけだ。

 決闘とはいっても、幕切れはとってもあっさりだった。

風紀委員の女子生徒 >  
 
 
 
 『槍』は、『敵』を過たず貫いた。
 
 
 
 

所古虎夏 >  
 こういう『異能者同士の殺し合い』はふとした切っ掛けで起こってしまう。
 
 二人の女の子の、悲しい価値観のすれちがい。
 ライターの子は真っ直ぐな風紀委員ちゃんに憧れていたし。
 風紀委員ちゃんはそんな火のように熱い性格を貴んでいたかもしれないね。

 この悲しいすれちがいにちょっとした要素があるとすれば、
 状況を作った『仕掛け人』の存在を挙げられるだろう。

 そう、ぼくのことだ。 

所古虎夏 >  
「あ~あ。やっぱりこうなっちゃったか~、まあしょうがないね」

 双眼鏡でそこを覗けるビルの一室に居た女が、ずるずると音を立ててカップラーメンを啜っていた。
 塩分強めの醤油味のスープを飲み干して、ぷはーって満足げに息をつく。

「風紀委員さんたち、駆けつけるの早いな~。いいこといいこと」

 たばこに火を点けて蒸す。ひと仕事やり終えた後の一服は最高だ。

「それにあの子も満足そうな顔してるし、頑張った甲斐もあるってもんだ」

 ああ、これは勿論皮肉です。

所古虎夏 >  
「金出してでも戦いたいなんて、思ったより居るもんなんだなあ」

 やがて窓の外の風景に興味を失って闇の中に入り込み、タブレットを手に取る。スケジュールは結構埋まっている。いつまでやれるかわからないけど、何の成果なしってわけでもなさそうなのはすごく有り難い。

「やるからにはやるけどいつまで続くかな。まあそれは、戦いたいなんて子たち次第かな~あ」

 リストアップされた名前を楽しそうにフリックしながら眺めていた。すぐ終わるかもしれないし何もならないかもしれないけど、ベンチャーなんてそんなもんだし、続かなさそうならさっさと引き上げよう。

「とりあえず一発目はうまくいきました、っと。さあて次のお仕事お仕事!」

 肩を回しながらレッツゴー。やることは山積みだ。ありがたいことです。
 今回の商材は、「女の子二人がふたりっきりで楽しめるロケーション」の提供だった。頑張った甲斐はあった。これが次に繋がればいいななんて、転職したてのぼくは確かな成功体験に高ぶるわけです。
 まあぼくに辿り着くことのそうそうないビジネスだから、知り合いは増えないかもしれないけどさ。

所古虎夏 >  
 
 
 所古虎夏は。
 
 
 

所古虎夏 >  
 
 
『戦い』を、『斡旋』する。
 
 
 
 

ご案内:「落第街 決闘の一幕」から所古虎夏さんが去りました。<補足:メガネにパンツスーツの女。>