2020/09/09 のログ
ご案内:「宗教施設群-修道院」にリタ・ラルケさんが現れました。<補足:普段着 / 精霊の見える多重人格少女>
リタ・ラルケ >
ここ最近、妙な噂がある。
異邦人街の一角、修道院。そこに住むシスターが行方不明であると。
曰く、違反部活動による誘拐。曰く、ただの外出。曰く、自らの意志による失踪。
噂話好きの人間にとって、この手の話はやはり興味をそそられるらしく、様々な憶測や勝手な推理――勿論証拠や根拠となるものは一切ない――が飛び交っていた。
しかしリタがその話を聞いたところで――それほど大きな心の動きはなかった。
顔も知らない他人である。話したこともなければ、行き会ったこともない。件のシスターと自分に、繋がりなど一切ない。
故に、そのシスターが行方不明だからといって、困るわけでも心配するわけでもない。
ではなぜ、放浪の末に自分がここにいるのか。
あけすけに言ってしまえば――偏に、単純な興味だった。
もとより、異邦人街に興味はあった。近いうち、機会があれば訪れてみようかと、そう思っていた。
そこに、例の噂話である。
修道院のシスターが失踪。様々な憶測が飛び交う中――その話の中心となる修道院。異邦人街に行く"ついでに"――渦中の修道院を"ちょっと覗いてみる"くらいの心持ちであった。噂話など、畢竟自分が異邦人街に行く言い訳に過ぎなかった。
リタ・ラルケ >
「……」
――自分が修道院にたどり着くと、そこには何もなかった。
正確には、綺麗に整った修道院の設備――恐らくはここにもともとあったものだろう――以外には、人の気配も、ここ最近、この施設が使われた形跡も、何もありはしなかった。
ドールハウスを手入れして、そのまま飾っておくように。
外観が整っている――それ以外に、この修道院には何もない。
「……思ったより、寂しいんだ」
そう呟く声も、静謐に溶けていく。
紛れもなく――今ここにいるのは、自分だけ。
リタ・ラルケ >
もとより、修道院という場所は、歓楽街のように喧騒に包まれるような場所ではない。どちらかと言えば静かで、心を落ち着けるような場所だと――そう思っていた。
だというのにこの静かさは、もはや限度を超えている。
「……ん」
つと、気づく。辺りに漂う精霊たちの雰囲気に、なんだか違和感を感じる。
どうしてだろうかと。少し考えれば、答えが出た。
「……まさか、寂しがってるの?」
修道院に限らず宗教施設というものは、人が作り出したとはいえ紛れもない『聖域』の一つである。清浄無垢である聖域には、"光"の精霊がよく集まってくる。実際、この辺りに集まる精霊たちは、光の精霊が大多数を占めている。
そんな光の精霊たちが、なんだか元気がないように見えた。
寂しい。悲しい。言葉こそ聞こえないものの、なんとなく自分はそんな雰囲気を感じ取っていた。
リタ・ラルケ >
前提として、精霊は気ままなものである。自然という世界のシステムそのものに存在する彼らは、人ひとりがいなくなったとて、何かあからさまに態度を変えるようなことをしない。
そんな精霊たちが、落ち込んでいる。多分それは、この修道院の主――即ちシスターが、いなくなってしまったから。
それは、ただ単純にこの聖域が維持される可能性が低くなったからか、もしくは――。
「……」
ふう、と溜息を吐いた。
シスターがどうなっていようと、自分は何もするつもりはなかった。関わりのない他人だから。どうしようとも思わないし、思ったところでどうしようもない。
その気持ちに、変化はない。が。
「……集中――纏繞」
――せめて、この精霊たちが祈る場くらいは、作ってやろうかと。
リタ・ラルケ >
「……」
修道院の前で、手を組み、目を閉じる。
中に入ろうとは、思わない。
祈りの仕方を、私は知らない。ここがどんなところであるのかも、詳しくは知らない。畢竟部外者である私が、みだりに踏み入っていいものではないと――そう、感じていた。
所詮、格好だけである。大体こうではなかったかと、半ばうろ覚えの形を模倣するのみ。祈りを捧げるとはいっても、神の御許にこの祈りなど届いてはいないかもしれない。
だけど、それでも私は。
彼のシスターの無事を――祈らずにはいられなかった。
「……どうか、無事でいてください……」
願いを、祈りを。拙い言葉で、神に捧げる。
願わくば、これが。
何事もなく、終わるようにと。
ご案内:「宗教施設群-修道院」からリタ・ラルケさんが去りました。<補足:普段着 / 精霊の見える多重人格少女>