2020/09/21 のログ
ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」に神代理央さんが現れました。<補足:患者衣/肩から下腹部にかけて包帯巻き>
ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」に羽月 柊さんが現れました。<補足:待合済:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。青いシャツに黒ズボン。小さな白い竜を2匹連れている。>
神代理央 >
さて、大分治療も進み、明日には退院の目途が立った。
『無理はしない事』が条件ではあるのだが。
自宅療養が許可された、という方が正しいだろうか。
「……登庁出来るだけでもありがたい。
一週間以上も現場を離れていたし、好い加減異能も鈍ってしまいそうだしなあ…」
此の病室の良い所は、退院する時の荷物が少なくてすむところ。
着替えや生活用品は病院側が新品を用意してくれるし、何時も私物を持ち込む訳でも無い。
必要なものがあれば、病院に頼めば手配してくれる。
よって、ほぼ身一つで退院出来る。
ベッドから起き上がり、端末を操作しながら満足顔。
そろそろ自室のベッド……は別に恋しくないが。
執務室の椅子が恋しい。
羽月 柊 >
出入り口からして、自分たちが入院していた病室とは全く別の様相の所へ案内される。
全く金はある所にはあるのだな、というぼやきを内心零す。
今日の当番のロボメイドのろんぎぬすについて行く。
かの名を冠した槍は、常に滴る血があらゆる傷を癒すとは言うが、
同時に聖者の腹を貫いたモノでもある。
命名にももう少し何か無かったのだろうか…などと思ったりもしたが、口には出さない。
「神代、具合はどうだ。」
装飾家具も充実している煌びやかな部屋に、眩しそうに桃眼を細めた。
理央はかの『ディープブルー』との戦いにおいて、
三人の中でも最大の重傷者…そして、最年少でもあった。
神代理央 >
『ろんぎぬす』に案内されて訪れた男。
室内に彼を通したろんぎぬすは、無機質な一礼を向けた後、部屋から立ち去るのだろう。
豪華絢爛が絵に描いて現れた様な病室。
その中央に鎮座する患者一人を収めるには余りに巨大なベッド。
そのベッドにちんまりと収まった少年は、訪れた男に視線を向けると、穏やかな笑みを浮かべて彼を出迎えるだろう。
「…おかげさまで、何とか明日には退院できそうです。
げに素晴らしきは常世学園の医療技術、と言うべきでしょうか。
羽月先生の方こそ、御怪我の具合は如何です?」
かつて、短いながらに言葉を交わし。
教師になったと聞いて、挨拶に赴く間もなく共に肩を並べて戦った男。
己と山本と、共に戦った教師。羽月柊。
彼に向ける視線は、穏やかで警戒心の無いものであっただろう。
羽月 柊 >
「退院が目途立ったか。」
まるで別世界に来たかのような気分だ。
同じ世界のモノであったとしても、貧富の差でこれほど変わる。
これは、異世界と何が違うのかと思うことすらある。
そこでは己の常識が通用しないということだけは違いが無い故に。
まだ食事が難しいだろうかと、今日持って来た見舞い品は日持ちのする焼き菓子の類だった。
「俺の方は心配するほどでも無いさ。
肩を軽くローストされたぐらいじゃあ、
この島の技術なら、治療と検査入院でせいぜい数日だ。」
稼働にも支障は無いとばかり、左肩を軽く動かして見せる。
違和感などどこにも有りはしない。
「久しぶりの顔合わせが、あのような状況にはなってしまったが、
あの時子供だと言った君が、一番身体を張ってくれたのだからな…。
ところで、退院できるなら食事類は平気になったのか?」
そう言いながら、手土産からありふれた少し高い焼き菓子の缶箱を覗かせる。
完全に熱を失っていた頃、ほんのはずみで出逢った少年。
あの頃は風紀委員というモノを敬遠すらしていた。
それが今は、こうして親し気に…教師という立場で、自ら接している。
全くもって運命は、どう転がるか分かったモノではない。
神代理央 >
「それは僥倖。先生にまで大怪我をされては、風紀委員会として恥ずかしい限りでしたから。
本当は、怪我などさせない様にもっと奮闘するべきでしたが…力足りずで、申し訳ないです」
怪我の具合を聞いて。ぺこり、と小さく頭を下げる。
教師になりたてと聞き及んでいる。きっと、授業の為に色々と準備の忙しい時期であった筈。
それを押し切ってまで、自分達の加勢に来てくれたのだ。
彼には頭が上がらない。
「…子供である事は事実ですから。山本や先生に比べれば、まだまだ浅学非才の若輩者。
身体くらいしか、張るものもありませんから。
ええ。先日までは流動食生活でしたが無事に固形物を摂取出来る様になりました。
ですので、お土産は有難く頂きますね」
視界に映る焼き菓子の缶箱。
大好物である甘味の姿に、思わず子供らしい笑みを浮かべてしまうのはご愛敬。
「……そう言えば、私もディープブルーの一件でごたごたしていたのですが…羽月"先生"は何の教科を担当される事になったのですか?」
見舞いに訪れた彼に、小さく首を傾げてみせる。
教師になった、とは聞いていたが、多忙でそれ以上の情報を得れていない。
是非受講してみたいのだが――その辺りも、世間話を兼ねて彼に尋ねてみようか。
羽月 柊 >
全くもってここは"大人"びた子供の多いことだ、と内心で独り言ちる。
元々柊は目の前の少年と同じくハードワーカー気味な部分はある。
最近は教師業が増えたとはいえ、
部下からの緩和策の提案を飲み、随分と余裕が出て来ていた。
故に、今回のことにも首を突っ込めるようになっていたのだ。
「元より"音"に頼る自分が、徹底的に対策されてしまったのだから仕方ない。
君たちの支援に回るつもりが、一番の足手纏いになってしまったのだからな…。
"胡蝶の夢"が使えたから、多少なりどうにか出来たものを。
…申し訳ないと言われると、大人の立つ瀬が無いさ。」
羽月柊。
データを閲覧しているならば、常世学園の卒業生の1人だ。
この男は、在学中は"無能力"として記録されていた。
男に異能が発現したのは…つい最近だ。
「そうか。腹を貫かれていたから、どうなることかと思っていたが…。
後遺症も無く完治出来そうなのか?」
食事に問題が無いと分かれば、缶に巻かれている透明なテープを爪で引っ掻く。
やがてピリリという音と共にそれは開かれることだろう。
丁寧に区分けされた色とりどりの甘味がそこに並ぶ。
「ん、担当教科か……俺は"魔術"、"異世界"、それから…"竜語"だな。
基礎的な座学もある程度は齧っているからその辺も、多少は。
…とはいえ、本業があるから、授業数自体は多くは無いがな。」
男の傍らの小竜がキューと鳴いた。
神代理央 >
「此方の能力・戦力を徹底的に調べ上げていた感はありました。
私も、よもやEMPの類を受けるとは思っていませんでしたし…。
本来、音も視覚も不要な異能であると、慢心していた点は否めません。
……先生は"大人"ですけど、その前に私たちは"風紀委員"ですから。守るべき人を守れなかった。怪我をさせてしまった。
その事への謝罪は、謂わば私自身への禊でもあります。
だからどうか、受け取って下さい」
「……そう言えば、先生は異能申請をしていなかったと記憶しているのですが。
あの場で行使した異能は、後発性のものだったのですか?」
彼の大まかなデータには目を通したものの、異能の項目は空欄。
つまり『無能力者』であったはず。
であれば、あの場で彼が行使した異能は一体何だったのだろうか。
詰問、という訳ではないが、興味津々といった声色で尋ねるだろう。
「今のところは、特に後遺症の類も見受けられません。
強いて言えば、ずっと寝たきりですので体力が落ちているくらい、ですかね。
何が起こるか分からないから無茶をするな、とは言われていますが…風紀委員という立場上、そういう訳にもいきませんし」
ベッドサイドの端末を操作すると、モーター音と共に現れる『ろんぎぬす』
その手に抱えられたトレイには来客を持成す為のグラスが二つ。
中身は、程良く冷やされた上質な緑茶。
ベッド脇に大仰に鎮座する無駄に豪華なサイドテーブルにグラスが置かれ、簡単な茶会の準備は整った。
「竜語、ですか。そう言えば先生の研究所は、竜を専門に研究されていたんでしたっけ。
であれば、さもありなんという所でしょうか。竜語の授業は余り目にしませんし、きっと受講者も増えていくと思いますよ」
鳴き声を上げる小竜に視線を向ける。
ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ。撫でてみたい。
羽月 柊 >
謝罪を受け取ってくれと言われれば、
眼を細めて頷くことだろう…そう、『仕方の無いこと』なのだから。
「…あぁ、俺の異能は……本当にここ最近発現したばかりでな。
今なら教師としてデータにも載ったやもしれんが、
異能診断で、胡蝶の夢《レム・カヴェナンター》と名付けられている。」
魔力も、異能も、特殊な能力も無い。
家族に異能があった、それだけで在籍していた。
そうして卒業するまで、何の能力も発現しなかった…それがこの羽月柊という男だ。
何が引き金に彼に宿ったかは分からない。
けれど、それが事象として顕現したのは…本当につい最近のこと。
炎と氷を纏うあの時の男は、明らかに"魔術"とは一線を画していた。
「とはいえ、風紀委員には他にも優秀なモノが控えているだろうに。
"君は確かに名は売れている"が、前線に立ちっぱなしで居なければいけないというほど、
委員会は人材に飢えている状況なのか?」
男の肩から小竜が飛び立ち、理央のベッドの上に小さな音と共に着地。
恐らく手を伸ばせば届く、そんな位置に。
自分用の茶も入れてもらえば、ありがとうと返した。
「…期待を寄せてくれるモノが多くてありがたいことだ。
論文ではなく素人相手をする、という所が目下の難題ではあるが、頑張らせてもらうとも。」
神代理央 >
謝罪を受け取ってくれた彼に、小さく笑いかける。
謂わば儀式めいたもの。『守れなかった』事への謝罪。
御互いにそれが必要のない行為だと理解していても、行われなければならない事だったから。
「胡蝶の夢《レム・カヴェナンター》……情緒的な名前ではありますね。
しかし、あの港での戦闘時、先生からは魔力の放出を感じませんでした。あの炎と氷が異能の能力というには…そういう名前には思えませんが…」
ふむ、と首を傾げる。
炎と氷の異能であれば、もう少し違った名前が名付けられる筈。
となれば、また違った能力の異能なのだろうか。
戦闘職、という訳では無いが、前線に立つ身としては興味が尽きない。
「……まさか。風紀委員会は、私一人いなくても十二分に機能します。
しかし、私が前線に出る事によって。私が、落第街の。違反組織の敵意を集める事で。恐怖をばら撒く事で。
風紀委員会の威光と権威を知らしめてやらねば、と思っているだけです。
風紀ある限り、此の島にて大それた犯罪等出来ぬのだと、知らしめてやらねばなりますまい?」
ベッドに着地した小竜に、そっと手を伸ばす。
小竜が拒まなければ、その頭をそっと撫でるだろう。
穏やかに、静かに微笑みながら。
――尤も、小竜を撫でながら紡がれる言葉は、物騒極まりないものであるのだが。
「竜語、異邦の言葉などは私も詳しく学んではいませんしね。
興味が無い、という訳ではないのですが…。
でも、ドラゴンライダーの様な者に憧れるのも事実です。
………子供っぽい、と笑ってくれてもいいですよ?」
と、浮かべる笑顔は少しはにかんだものだっただろう。
羽月 柊 >
「この異能…詳細に関してはまだまだ不可解な部分が多い。
山本やヨキ、診断の時に異能学の教師にも話したが、
簡単に言えば『親しい他者の能力を短時間コピーする』類のモノらしい。
今回に関していえば、そこに居るセイルとフェリアだな。」
理央が撫でる小竜たちを指し示す。
紅い角と蒼い角の白い竜。
前回の戦いの時に、紅い方が炎のブレスを吐いていたと考えれば、
蒼い方の能力も理央の思考能力ならば察しがつくかもしれない。
少年の言葉を聞けば、僅かに視線を伏せた。
「……とはいえ、それが君"独り"の双肩にのしかかる訳ではあるまい。
『鉄火の支配者』が揺らぐだけで大それた犯罪が起きるというなれば……。
──以前の君についての件で、そうなっていただろうな。」
──それは、決してドラゴンライダーに憧れる目前の彼を笑うモノではない。
しかし、裏の街を歩く男は確かに"知って"いると口にする。
目の前の少年が『鉄火の支配者』であることを。
そして、彼が『報いを受けろ』と言う題名で、揺らがされたという事実を。
そう…後者のことは、"『誰でも』この事実を知る事が出来る"のだから。
神代理央 >
「『親しい他者の能力をコピーする』ですか。
能力の質から言えば、結構恐ろしいものですね…。
何だったら、私の異能もコピーしますか?使いどころ、余りないですけど」
へえ、と感心した様な吐息を零した後、冗談めかした口調で笑う。
とはいえ、他者の異能をコピーするという能力は相応に強力な異能だ。
指し示された小竜に視線を移しながら、異能の有用性に思案を飛ばしてしまうのは職業病だろうか。
「……御存じでしたか、とは言いませんし、言い訳もしません。
しかし逆説的に言えば、他の風紀委員に魔の手が及ぶのを防げた……とは、言えないかもしれませんが」
「どちらにせよ、それだけ風紀委員会への脅威が認識されたということ。
その脅威が途切れぬ様に、私は此れからも『鉄火の支配者』であり続けますよ」
それは、風紀委員としての矜持。己のプライド。
己の行いを改めるつもりも、変えるつもりも無い、と。
静かに彼を見つめて、穏やかな声色で告げるだろうか。
羽月 柊 >
「…いや、この能力はそう便利なモノという訳ではないんだ。
不随意性が高く、強い共感や同調…何かしらの強い感情が引き金になっている可能性がある。」
冗談とはいえ相手の異能をコピーしますかと言われて、
はい分かりましたと出来る品では無い。
「不随意というのは、"異能疾患"に脚を突っ込みかけだ。
あの場は幸い、上手く働いただけに過ぎん。
以前に翼が生えるだけの異能を"コピー"した時は、痛みで身動きも取れなかった。」
共感や同調、"境を失う"からこそ、この異能の名は『胡蝶の夢』なのだ。
その浅き夢の状態で、契約を行う故に《レム・カヴェナンター》と称されたのだ。
茶を啜る。
柱の立つ黄緑色の水面に、相反する紫と桜が映る。
「……そうか。」
知り合ったばかりの己が、相手を変えられる可能性は低い。
それは大いに分かっているつもりだ。
己にも竜研究者という誇りはある故に、今零すのは、助言の一つ。
「まぁ、集団に属するモノは、誰もがその集団の顔だ。
ヒト独りで成し遂げられることは…余りに少ない。
その名と共に潰えぬことを、俺は願っている。
君の周りに居るモノを、決して忘れないようにな。」
それは、己の自戒も込めた意味で。
神代理央 >
「強い感情、ですか。聞いた限りでは、便利そうな能力だと思ったのですが、中々難しいものなのですね。
自由意思かつ、任意の相手の異能をコピー出来れば、凶悪な異能かと思うのですが」
「……痛みで身動きが取れない。ふむ……感覚迄共有する、というのは考え物ですね」
むぅ、と考え込みながら此方もお茶を一口。
VIP個室の患者と、その見舞客の為に用意された一品。
仄かに甘く、そして香り高い茶が喉を潤す。
「…勿論ですよ。集団、組織。それらの中で個人が成し得られる事など、細やかなものです。
私一人が風紀委員会を背負っている、とまで傲慢にはなりません。
ただ、他の風紀委員の仕事がやりやすくなれば。危険が減れば。
それだけを思って、職務に励んでいますから」
「――…私の周りにいる者、ですか。
良く言われますよ。私なりに、考えているつもりではあるのですが。
どうしても、未だ組織と職務に忠実であろうとしてしまう。
変えようと、思ってはいるんですけどね」
『鉄火の支配者』ではなく『神代理央』として。
それは多くの者達から受けた忠言であり、己自身もそう思うところではある。
それでも、中々直ぐには変えられない。
風紀委員会として、果たすべき職務を第一に考えてしまう。
『神代理央』という個人を、後回しにしてしまう。
指摘されれば治そうとは思っているのに、と。
浮かべるのは小さな苦笑い。
羽月 柊 >
「そんな便利な能力が生えたなら、もう少し上手く生きてるさ。」
そんなことを冗談めいて零す。
何もかも上手く行く世界には成り得ない。
故に自分は、この無限に広がる世界に生きる一人の人間。
そうしてそれは、目の前の少年も。
「……君が他を気にしていないとは言っていないさ。
人間、在り様を変えようとするのは、そう簡単には行かない。
歳を取れば取るほど、それは難しくなる。
故に変えたいと思うなれば、今の内ではあるとは、言っておくがな。」
そんなことを言う男は、こんな歳になってから変わろうとし始めてしまった。
ひとつづきの地獄を歩くような、そんな一進一退のような道を。
幾つも幾つも取りこぼして、
誰かを諦められず、
万物に解を出すことなんてできずに。
その言葉には、確かに取り戻した熱がある。
「…まぁ、かくいう俺も、つい最近それを指摘されてしまったところでな。」
神代理央 >
「全くです。私達の力は、全能でもなく、万能でもない。
異能や魔術など、所詮は"何かをするのに便利な能力"でしかない、のかもしれませんね。
どんな強力な力を持ってしても――救えないものは、幾らでもある」
冗談めかして呟いた言葉に、ぽつりと零した独り言の様な言葉。
己には、救えなかったと思うものは余り無い。
己の力は奪う側。誰かに伸ばされる救いの手を、焼き尽くす為の異能。
それでも、偶に。ふと、記憶に残る何かが訴えるのだ。
救えなかった――いや、共に居る事が出来なかった人が、己には居たのではないか、と。
砲火を振るい、『鉄火の支配者』と大仰な異名を取っていても。
守れなかった何かが、あったのではないかと。
「先を生きる者からの言葉。正しく"先生"の忠告、ですね。
心に留めておきます。幸い私はまだ、先生に比べれば若いですから」
そう告げる言葉は、少し悪戯っ子の様な響きを持っている。
「……それでも。変わる事に、遅すぎるなんてことはありませんよ。
私には、先生がどんな経験を経てどんな決意をしたのか。伺い知る事は出来ません。
でも、指摘してくれた人がいて。それをしっかりと受け止めたのなら」
「変われますよ、きっと。諦めてしまうまでは、幾らでも変えられる筈ですから」
彼の言葉に熱を感じる。
見上げた桃色の瞳をじっと見つめた後――にこり、と微笑むのだろう。
怜悧であり、知的な雰囲気を常に纏う彼が見せた熱に向けるのは、それを肯定する様な嫋やかな笑み。
己が忌み嫌うものではあるが――所謂、少女めいた笑みを、彼に向けるのだろう。
羽月 柊 >
「そうだな。
どれほどの力を得ても、ままならぬことはある。
『真理』に縋らねば変えられぬようなことは、往々にしてな。」
男は理央からすれば、反対側だ。
力が無かった故に、消えてしまった大切なモノが居た。
力を手に入れてもなお、喪った何かと同じモノを取り戻せはしない。
その証拠が、この右耳にいつでも存在している。
もしタイミングがかち合っていれば、喪った直後に目の前に『真理』が提示されていたら、
己も手を伸ばしてしまっていたかもしれないと、思う。
この言葉は、知っているモノからすれば、僅かに違う意味を持っていた。
「…全く、俺はよくよく君たち子供に励まされるモノだ。
今となってはそのつもりをしているとも。
そうでなければ、こうして君たちと関わる仕事をしようなどと思っていないさ。」
そうして、最初に出逢った時に見間違えた様相の笑みを零す相手に、
男も下手ながらも、笑って見せた。
神代理央 >
「…何かに縋らなければ救えない、変えられない様なものは、どのみち己の手には余るのだと、思います。
真理を求めて、そして死んだ――トゥルーバイツの連中だって、それに縋らなければならなかった。自らの力では、変える事が出来なかった。それが全てです。
何かを変えたいと、救いたいと思うなら――己の手を、伸ばさなくてはならないのですから」
それは、己の信念の様なものでもあった。
神だの真理だの。そういったものに縋らなければならない事は、救ったところで自らの手に余る。
『自らの力』で『自らの手』で救い、変えるからこそ価値があるのだと、静かに紡ぐだろうか。
――尤もその言葉は、少年が決定的な損失を経験していないが故の危うさもあるのだが。
「励ましたつもりはありませんよ。私は唯、事実を告げただけです。
先生なら、自らの壁を壊すことが出来る。変わる事が出来る。
…まあ、余り先生とお話したことない私が言うのも何ですが。
余り先生の事を知らないからこその、第三者の言葉として捉えて頂ければと思うところです」
笑い返してくれた彼に、浮かべる笑みは深くなる。
小竜を優しく撫でながら、紡ぐ言葉は軽やかなものであった。
羽月 柊 >
男は少年の言葉を聞くと笑みを仕舞いこみ、
緑茶の残りを飲み干すと、ありがとうと残し、立ち上がる。
撫でていた小竜たちも男の動きに応じて飛び立ち、その肩や頭に戻った。
一度目を閉じて、ゆっくりと開く。
変わってしまった桜色。
これからまた、変わっていくかもしれない男。
「……"彼"と"彼女"たちは、それでも、諦めきれなかった。
己の命すら天秤にかけて、……駆け抜けていってしまった。
彼らが抱える"空白"も"喪失"も、手段は愚かだったとしても。
裏では当たり前の光景のひとつひとつに、彼らの『物語』があった。」
「それだけは……確かだ。」
『トゥルーバイツ』を知るモノ。
対峙し、いくつも取りこぼした男故の言葉。
神代理央が、羽月柊という男がかの事件において何をしたか、
どこまで知っているかは定かでは無いが、それでも。
「誰にもそういう時は来るかもしれないし、来ないかもしれない。
だからこそ、変わることを恐れずにいかねばな。」
そう結び、長話をしたな、と。
神代理央 >
「…だけど、その『物語』は終わってしまった。
もう続かない。エンドロールの後、物語は続かない。
彼等は生きねばならなかった。自らの物語を、続けなければならなかった。
それを怠り『真理』などという"編集者"に頼った時点で…彼等のエピローグは、もう訪れない」
小さく肩を竦める。
彼が取りこぼしたもの。取りこぼしてしまったもの。
駆け抜けていったもの。
それらは全て、少年にとっては"弱者の論理"でしかない。
己の命を賭ける事が悪いのではない。
"何かに頼って事を為す"という事そのものが、己にとっては否定すべき事柄。
彼が何をしたのか。何を為したのか。何を救えなかったのか。
それら全てを知る事は無くても――少年は、彼等を否定する。
「……変化とは恐ろしいものですからね。
それを恐れずにいられる事が、強さなのでしょうし」
と、彼の言葉に時計に視線を向ける。
黄金細工のアンティーク調の掛け時計は、既に夕刻を過ぎる時間である事を指し示している。
「そうですね。御引止めしてしまい、すみませんでした。
次は学園で。御会い出来る事を、楽しみにしていますね。
羽月先生」
クスリ、と小さく微笑んで彼を見送る様に手を振った。
彼が部屋から立ち去った後、ぽすりとベッドに身を預けた少年は――やがて穏やかな寝息を立ててしまうのだろう。
ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」から羽月 柊さんが去りました。<補足:待合済:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。青いシャツに黒ズボン。小さな白い竜を2匹連れている。>
ご案内:「常世学園付属常世総合病院 VIP個室」から神代理央さんが去りました。<補足:患者衣/肩から下腹部にかけて包帯巻き>