2020/09/23 のログ
ご案内:「落第街大通り」に神代理央さんが現れました。<補足:風紀委員の制服に腕章/腰には45口径の拳銃/金髪紅眼/顔立ちだけは少女っぽい>
神代理央 >
昨日、無事に退院の許可が下り一日は自宅療養。
休んでいる間の講義課題の確認や、退院の報告を風紀委員会へ送ったりして一日を過ごした。
流石に、退院明けから任務に当たる程体力が戻っていた訳でも無い、という事もあったのだが。
さりとて、一日空けた今日からは風紀委員としての職務にも戻らなければならない。
厳密には『戻らなければならない』という訳でも無いのだが――其処はまあ、ワーカーホリック極まれり、といったところだろうか。
とはいえ、いきなり違反組織の拠点襲撃だのといった戦闘行動を行うのは厳しい。
先ずは地道に警邏から。警邏部と打ち合わせの上、落第街の警邏を
請け負って12日ぶりに訪れた落第街。
最早己の庭といっても良い此の『街』を、まるで散歩するかの様な足取りで進む。
その背後には――己の『力』の象徴である、多脚の異形達が列を為して付き従っていた。
「久し振りに来ると、此処の匂いの酷さが鼻につく。
とはいえ、今迄燻っていた分も働かねばなるまいし、我儘を言っている場合ではあるまいな」
ふんふん、と鼻歌交じりに落第街を闊歩する少年。
付き従う異形の群れがその脚で大地を踏み締める度に、地鳴りの様な振動と不愉快な金属音が周囲に響き渡るだろう。
神代理央 >
無数の砲身を周囲に向けて、落第街の住民を威圧する様に行進する異形達。
その群れを従えるのは、入院生活で幾分色素が落ちた様に白くなってしまった華奢な少年。
落第街のゴロツキですら一ひねり出来そうな貧弱な少年は――今此の場において、絶対的な力を誇示する存在となっていた。
「とはいえ、無秩序な発砲はしかねるしな。今宵はまあ、私が警邏に戻った事を連中に伝えられればそれで良いのだが…」
違反組織の摘発、と言っても、早々殲滅すべき違反組織が沸いて来る訳でも無し。
『ディープブルー』の一件以降、落第街やスラムで風紀委員会が動く様な案件があったとの報告は受けていない。
風紀委員会の圧力によるもの、とは限らないが――平和であれば、それに越したことはない。
闘争を好む性格ではあるが、無益な争いを好む訳でも無し。
ご案内:「落第街大通り」にクロロさんが現れました。<補足:迷彩柄のジャケットに黄緑の髪。人相の悪い青年。>
クロロ >
『鉄火の支配者』とは、落第街に対して威圧感を与え
恐怖により悪を抑圧する存在らしい。
誰しもその背の圧倒的"力"に恐れ戦き、忌むように視線を送るだけ。
そう、本来ならばきっとそれで終わったかもしれない。
鉄の異形。行軍の先に、"明かり"が灯る。
紅蓮の炎が『篝火』のように灯り、青年の手によって握りつぶされて消えた。
「──────随分と、デケェ顔してンな?」
煌々とした金色が、戦闘の理央を睨みつけた。
忌むような瞳ではない。"気に入らない奴"を睨みつける敵対心の目だ。
神代理央 >
行軍は停止する。
落第街へと帰還した風紀委員。その行く手を遮る様に灯る『篝火』。
握り潰された篝火の先に佇むのは、金色の瞳を以て此方を睨み付ける一人の青年。
動きを止めた異形の群れの戦闘で、青年に向ける此方の瞳は興味と怪訝さを混ぜ合わせた様なもの。
「おや、その様に見えたかね。私は唯、風紀委員として此の地区の警邏に当たっているだけなのだが。
"デカイ顔"をしていると思うのなら――それは単に、此の街の連中が、私にそんな顔をさせる様な意気地なしばかり、というだけだろう」
愉快そうに小さく笑みを零しながら、青年の言葉に応える少年。
背後の異形達は、今のところ彼に敵対する様子は見せていない。
クロロ >
笑顔とは対照的な不機嫌そうなしかめっ面。
面倒くさそうに後頭部を掻けば指先がパチン、と鳴らされる。
「"ケイラァ"?ジョーダン、お前がやッてンのは
テメェの能力見せつけて威張り散らしてるだけだろーが。
"ケイラ"ッつーなら、それこそ慎ましくやッとけや」
「此処も此処で静かに暮らしてンだ。一々つッかかるマネしてくンなよ、ガキ」
表に事情があるように、裏にも裏の事情がある。
確かにここ犯罪者の温床だ。風紀委員のガサ入れが起きるのも珍しくはない。
だが、誰も彼もがそうではない。訳あって、此処にすまざるを得ない連中だっている。
ただ、暗がりに静かに暮らしていたいだけ。
それをこれ見よがしに、あんな"鉄クズ"歩かせてふんぞり返っている。
クロロにとって、許せることではない。
「"ケイラ"なら、"ソイツ"はいらねェだろ。消せ。
テメェの仕事を一々邪魔する気はねェが……」
クロロの周囲を取り囲む、三つの魔法陣。
六芒星を模した、三つの煌めき。
「────人様脅かしながらやるのが、"ケイラ"とは言わねェだろ?ソイツは、"スジ"が通らねェよな?」
神代理央 >
「はてさて、可笑しな事を言うものだ。
何故我々風紀委員会が、君達の事情に慮らなければならないのか。
何故我々が、君達に気を遣って慎ましやかに動かなかなければならないのか」
しかめっ面を浮かべる青年に向けるのは、相も変わらず穏やかとも言える様な笑み。
しかし、その言葉の節々には傲慢さと尊大さが滲み始める。
『体制』に属する側の人間として、此の街の住民を睥睨する様な傲慢さが。
「――そして、何故私が。一々貴様達にスジ、とやらを通さねばならないのかね?
貴様達の存在自体が、学園への筋を通していない様なものだというのに」
そして、穏やかな笑みは掻き消えて。
己の顔に浮かぶのは、支配者としての傲慢さ。
青年の周囲に魔法陣が浮かび上がれば、それに呼応するかの様に多脚の異形が前進する。
己を庇う様に二体の異形が青年と対峙して――その背に生えた砲身を全て向ける。
「――無抵抗、無能力、非武装の相手には攻撃せぬ。
"風紀委員"に弓を引くという意味を理解しているのなら良し。
此方から手出しはせぬよ。好きにしたまえ」
異能と魔術。
その両方の発動を何時でも行える様に構えながら、小さく首を傾げてみせた。
クロロ >
深いため息が漏れた。"傲慢"と言う言葉がよく似合う。
小さな体に不釣り合いな、尊大さ。
「お前の言う事もわからなくもねェ。だッたら
とッとと、この"日陰"にも太陽でもなンでも寄越せよ。
なるようになッちまッたンなら、しょうがねェだろ」
勿論、彼ら風紀委員が犯罪者と戦う事に異論はない。
それによって捕まるのも、負傷者が出るのも、それで死のうと
それは、必然性だ。そこにとやかく言う気は無い。
だが、こんな日陰は"自然と出来るものでは無い"。
特に、幾ら混沌とした世と言えど、これほどの規模と体制を持ち得ている島が
そもそもスラム一つ放置するのもおかしな話だ。
クロロは馬鹿ではあるが、阿呆ではない。
この島の歪さに、疑問を抱かない訳では無い。
「"ゴーに入ッてはゴーに従え"。オレ様達も、好きでこーしてるワケじゃねェ。
オレ様もフーキの奴を一人知ッてるけどな、お前みたいな奴がきッと珍しいぞ」
好き好んで、誰もが藪を突いたりするものか。
その傲慢さに対抗するように腕を組んで、軽くふんぞり返った。
「それがお前の役割なら、同情はするがな。
テメェの喧嘩に一々組織の名を出すなよ。ダセェぞ」
虎だろうと風紀だろうと、威光を振りかざすだけの男に屈するはずも無い。
そこを退く気は一切ない。そして、"ここから先を進ませる気もない"。
神代理央 >
「陽光はとうに照らされている。
此の街の住民に対して、保護の手は常に伸ばされている。
風紀委員会でも生活委員会でも、二級学生の保護を求める者を、拒絶したりはしない」
太陽を照らせ、という言葉に返すのは詭弁だ。
確かに、二級学生への保護は行っている。それは事実。
しかし"積極的に行っているか"と問われれば疑問符を付けざるを得ない。
"落第街"に対して本気で処置を施そうとしていない。
つまり、滅ぼそうとしている訳でもなければ、救おうとしている訳でも無い。
己はそれを『必要悪』だからと認識してはいるのだが。
「郷に従うのは貴様らの方だ。
此の区域は、常世学園の行政区分に属する場所。
そのルールに従わず、犯罪者がのさばる様になってしまったのは、確かに我々の力不足、と詰ってくれても構わない。其処は、否定せぬ。
だからこうして、真面目に警邏に励んでいるのだろう?
別に此の街の住民に死ねと言っている訳でも無い。『おイタをするな』と、言って聞かせている様なものに過ぎぬ」
力の誇示。権威の象徴。
落第街と違反組織に対して、風紀委員会の『暴力』を誇示する事による犯罪行為の抑止。
意味があるかどうかはさておき。少なくとも風紀委員会の存在感を示すことは出来る。
違反組織なぞ何するものぞ、と言わんばかりの傲慢さも、その存在感を示す為のものであるかもしれない。
「…私は、個人の喧嘩等しているつもりはないよ。
私は揺ぎ無く風紀委員会に所属する者であり、その権威を以て此の場に立ち、貴様と対話している。
私の此の行動は、風紀委員会が命じたもの。
大仰に言えば『組織の代弁者』でもある。
即ち――私に喧嘩を売るという事は、風紀委員会に喧嘩を売るのと同義、ということだ」
威光を振り翳す事こそが己の役目。
であれば、その態度を崩す筈もない。
青年と対峙する二体の異形が、ゆっくりと前進を開始する。
軋む様な金属音と、脚を踏み締める度に周囲が微かに揺れる様な質量。
敵を焼き払う事だけに特化した二体の異形は、ゆっくりと。
しかし確実に、青年へと無機質に歩みを進めていく。
クロロ >
うんざりしたように眉を顰めた。
「テキトー抜かすなよ。お前等が本腰入れてりゃ
落第街なンてありゃしねェンだ」
クロロは馬鹿ではあるが、阿呆ではない。
島一つとっても、此の在り方は国、都市と変わりはしない。
そう言う場所で生まれるスラムは、全て"成るべくして成った"結果に過ぎない。
だからこそ、そもそもこんな場所がある時点で、理央の言う言葉は詭弁だ。
勿論、学生主体で動く以上全てがそうだという気は無いが
"その上"が動かない以上、"成るべくして成った"のだ。
「アホ抜かせ。お前が言わなくても、普通の奴は"おイタ"なンてしねェよ」
好き好んで藪を突く者はいない。
同時に、好き好んで都を荒らすものもいない。
そうではない奴は、狂人か、或いは"せざるを得なかった"だけだ。
前者も後者もやってしまった事を裁かれるのは必然。そこに口を挟む道理はない。
勿論、日陰で"ちょっとした"事をする連中もいるだろうが
それは別に、落第街のせいではない。
人が人である以上生まれる、それこそ『必然的に生まれる悪』だ。
それを取り締まるのであれば、それは"スジ"が通っている。
だが、それはそれとして、少年の言葉には、思わず首を振った。
「その"ケンイ"ッつーのを、弱いもの虐めに使うだけなら
"ケンイ"を貶めてるのは他でもないお前だろ?
お前が何を以て仕事してるか知らねェけど
ナイフちらつかせておいてなーにが"風紀委員会に喧嘩売るのと同義"だ」
「お前のやッてる事は、立派に"スジ"が通らねェアホのやる事だ」
それこそまさに、圧制者の在り方。
民を虐げる様成れば、それを許容する気も無い。
一歩たりとも引く気は無い。クロロを取り囲む魔法陣が、一回転する。
「……もう一度言うぞ。"ソイツ"をしまえ。
そうでなけりゃ、此処から一歩も進めると思うな」
神代理央 >
「まあ、それは否定せぬがね。
我々――もとい、常世学園が本気を出すという事は、何も救いに繋がる訳ではない。
この落第街と呼ばれる区域を全て更地にする事だって、きっと出来るのだろうさ。
寧ろ、我々が保護の手を伸ばしているにも拘らず、その手を取らないというのなら――それこそ、此方の知った事では無い」
同僚の委員達は、基本的に二級学生や落第街に寛容な者が多い。
二級学生の保護、というものは風紀委員会のお題目の一つでもある事も否定しない。
だからこそ。伸ばされた保護の手を取らない者にまで、リソースを割くべきではないというのは、己個人の考えでもあり――
――あの忌々しい小太りの上司にも、同意を得ている思想でもある。
「そう。"普通の奴"であればな。
では、此の区域の住民はどうだ?果たして、普通の奴という括りに入れてしまって良いものかな?
此の島には"普通"に暮らす為の設備も施設も場所もある。
にも拘らず、此の区域に好き好んで留まる者など。
『多数派』の生徒から見れば、普通ではない」
どの国にも、どんな場所にも。
此の落第街と似た様な場所は存在する。
では、そう言った場所に好き好んで暮らす者を、普通の人は自分達と同じ感性の持ち主だと判断するだろうか。
犯罪と暴力で満ちた此の『街』を、普通だと思う者が果たしてどれ程いるだろうか。
「此の街は、謂わば塵箱だ。
我々の生活圏にはみ出ない様に、偶に吐き出して掃除してやらねばならない。
そしてそれをどうこう思う者など――早々多くは無い」
人々の興味や関心など、所詮は"消耗品"でしかない。
風紀委員会の摘発により二級学生が死んだ、というニュースが流れたとして、それは暫くの間世間を賑わせるだろう。
風紀委員会を追及する動きもするだろう。
しかし――それは永続しない。
『必然的に生まれる悪』は確かに存在する。
しかし、それが集う場所の者に何かしら起こったところで、所詮『表』には関係の無い事なのだから。
「圧制者とは酷い言い草だな。
我々は別に支配していない。我々は『ルールを守る者』を守護するだけだ。
此の区域は、存在そのものが学園の秩序からはみ出している。
であればそもそも、守護するに値せぬものだ。
圧制ではない。此の区域はそもそも『統治』するに値しない。
先程も言っただろう?此処は塵箱、だと」
圧制するに値しない。
『被支配者の為に』此の街で権威を振り翳すのだと、笑う。
「進むとも。それが仕事なのでな。
止めたければ止めてみたまえ。魔術が行使出きるのなら――止める手段を、持っているのだろう?」
異形の歩みは止まらない。
その巨体を以てして、青年の脇をすり抜けようと脚を振り翳す。
――そうそう広くない通りだ。振り上げた脚の先には、何時崩れてもおかしくない様なバラックが存在するのだが。
クロロ >
「……話になンねェなァ……そうじゃねェだろ。
"秩序を保つ側"だからこそ、テメェ等がやンなきゃならねェ事じゃねェのか?」
「────お前に、人様の心はねェのかよ?おい」
勿論それだけじゃ統治がままならない事は知っている。
非情になる事も必要だ。だからと言って
此処にあるものは決して少なくはない。
それを塵箱等と、宣わるなどと、言語道断。
余りにも傲慢な、圧制者の物言いだ。
これ以上、取り付く島もないというのであれば、やる事は一つ。
平行線を辿る最中、回る魔法陣の一つに────。
「 」
「 」
クロロ >
何かを囁いた。鉄器兵たちの軋みに消えてしまうほど、小さな声。
同時に、クロロの正面に交える二つの軌道。
赤と緑の、光の奇跡。鉄の異形は目前。
『名状しがたき者<The Unspeakable>』
『心の触媒毒<Emerald Lama>!』
不意に、突風が落第街を吹き抜ける。
緑の風。周囲の建物を、人々を包み込み艶やかな緑。
"弾避けの加護"を持った防護の壁だ。まずは周囲の被害を抑えるための風の魔術。
鉄の異形は、その真横。そして……。
『火種のベール<Fire Up Veil>』
『炎を燃え立たせる者<Vorvadoss>』
クロロの詠唱に合わせて、異形の周囲を淡い光が包み込む。
神秘に光り輝く白のベール。それは死の輝き。
異形が踏み込む直前、異形が赤く輝けば、轟音と共に大爆発を起こした。
火種のベール。包み込むものを熱し、焼き尽くすものの力。
クロロの魔術は、詠唱と共に"知識"と"力"を借りるもの。
燃え盛る炎に巻かれて燃える鉄くずはまさに、"篝火"となってそこに立ち尽くすのみ。
クロロ >
「──────言ッたはずだ。此処から先は、一歩も通さねェよ」
クロロ >
焚きつける炎が、落第街を照らす。
明確に喧嘩状を叩きつけた"狼煙"となった。
神代理央 >
「……ほう、一撃か。何かしらの対処を行ってくるとは思っていたが、実力も相応という訳か」
燃え上がる異形。
囂々と燃え上がる異形の残骸が、落第街を照らす。
その熱風に僅かに顔を顰めつつ、自然唇は歪んでいく。
「――敵対行動を確認した。対象に対して、自衛の為の行動を開始する」
パチリ、と小さく指を鳴らせば、背後に控えていた残りの異形達が砲身を軋ませ――轟音と共に、砲弾を発射する。
その砲声と衝撃波たるや、半分瓦礫で構成されている様なバラックを揺らがせ、様子を伺っていた哀れな住民の鼓膜にそれなりのダメージを与える程。
とはいえ、そんなものは些細な事。
放たれた無数の砲弾は、狙い違わず魔術を放ったばかりの男へと。
大小様々。徹甲弾から榴弾まで。種類も弾頭もちぐはぐな砲弾の雨が、青年へと降り注ぐ。
その砲撃と同時に、先ずは身を守る為の術を。
大楯の異形を二体召喚し、己の盾として配置しつつ、肉体強化の魔術の詠唱準備。
炎の魔術は確認したが、それだけが青年の能力とは限らない。
手数の多さで圧倒する動きを見せながら、青年の次なる一手へと対応する為の準備を整えて行く。
クロロ >
「────────」
飛び込んでくるのは砲弾の雨霰。
鉄の死がわかりやすく、目前へと飛んでくる。
成る程、実に分かりやすい物量作戦だ。
避ける隙間もありはしない。"弾避けの加護"は複数を対象に出来はしない。
あっという間に体は呑まれ、爆炎の中に消え失せた。
……爆炎の中に僅かに光る、黒の軌跡。
『黒への祈り<Black Prayer>』
────だが、クロロの"呼び声"は────
『逆巻く渦巻の黒き支配者<Sathog>』
────消えていない────
不意に、異形達の周りが"歪む"。
異形達の足元が、溢れる黒の水。
それは酷く粘っこく、嫌な音を響かせる。
溢れる黒の汚水は、あっという間に異形達の足元を
神代 理央の足元を満たしていき……──────。
"悪意"を以て、襲い掛かった。
粘性を持った水が渦巻き始め、それは濁流となり
"底無し"の黒となり、異形を、神代理央を吸い込まんとする。
その"黒"事態が強い意志を持っているかのように
蠢き、波となり、全てを呑み込まんと襲い掛かる。
呑まれれば最期、ただでは済むまい。
……もし、理央自身が人間的理性を持っているのであれば
その"黒"には本能的な嫌悪感を感じるだろう。
精神力次第では在るが、物によっては足を竦ませる恐怖を感じさせる。
当のクロロはと言えば、気づけば燃え盛る鉄火の紅蓮が静かに消え失せ
"何事も無かったかのようにそこにいる"。
異能により、生ける炎であるクロロにとって
鉄火の支配者の作り出す爆炎など、体のいい餌にしか過ぎない。
「…………」
"何かしたか?"
そう言いたげに、涼しい顔のまま、理央を見据えていた。
神代理央 >
砲弾に対処される事までは、或る程度予想出来ていた。
しかし、次いで放たれた青年の魔術――溢れ出る黒い汚水が、異形と己を襲い掛かる。
多脚の異形は、飲み込まれまいと不格好に伸びた脚で大地を穿ち、態勢を崩し、地面を抉りながらも徐々に吸い込まれていく。
その過程で、態勢を崩した儘放たれた砲弾が、落第街の其処かしこに放たれる事になるのだが。
一方、彼等の主である己と言えば。
「……奇怪な魔術を使う物だ。汚らわしい、と評するに値するものだろう。しかし――」
発動する『肉体強化』。
本来は防御面に特化した魔術ではあるが――その名の通り、単純な肉体能力を強化する為にも、勿論活用出来る。
その魔力で以て脚力を強化すれば、兎の様に飛び上がって二階建てのバラックの上部へと。
「……だが、所詮は汚らわしいだけの事。
精神に感応する魔術であるのだろうが――私がどれ程の狂気と、触れ合ってきたのかと思っているのかね」
恐怖。精神の不安定。狂気。
そんなもの、飽き飽きしてしまった。
幼少時に連れられた戦場で。
嘗て廃教会で出会った少女によって。
そして、かの『領域』によって。
己の精神を惑わす様な狂気は『食べ飽きて』しまった。
濁流となって襲い掛かる黒い汚水。
それは結局己にとって、魔力によって稼働する汚水、でしかない。
精神面への感応があれば別ではあったのだが――今の己に、最早それは通用しない。
「――Gutsherrschaft、起動。
収奪対象、視界内にて発動する魔術。
――圧政とは、こういうものだ。覚えておくと良い」
手を翳せば、直ちに発動する魔術。
千年以上脈々と魔術を継承し続けた母方の実家が造り上げた、貴族主義極まれりというべきモノ。
それは、エネルギーを奪い、己の魔力へと変換する魔術。
未だ未熟な己では"魔術師"から直接魔力を収奪する事は出来ない。
しかし、発動した魔術ならば。魔力を以て、己に襲い掛かる魔術であれば。
"奪い取る"事など、造作もない。
汚水を構成していた魔力は、たちまちのうちにその力の根源を失い、落第街を穢す唯の泥濘と化すだろう。
半端に飲み込まれた異形達は全て戦闘能力を失ってしまっているが――異形等、何度でも召喚出来る。
「……肉弾戦は、少々苦手なのだがな」
異能の発動準備を整えながら、収奪した魔力を全て『肉体強化』へと回す。
己の魔力と相まって膨大な魔力を得た少年の躰は、可視化可能な程の魔力の膜に包まれて――
砲弾の様な勢いで、青年へと突っ込んでいく。
戦術も武術も無い。その魔力膜と肉体能力で単純に押し切ろうとするだけの動き。
クロロ >
「あ」
思わず素っ頓狂な声が漏れた。
溢れ出る汚水が変換されていく。
魔力を媒体にし、力をと知識を借りる魔術だが
魔術である以上、魔力の塊であることに違いない。
勿論、あんな異形だけとは思っていない。
"力を振りかざす"と言う事は、それだけの力に自信を持っていることに他ならない。
しかし、クロロは訝しげに眉を顰めた。
「……アレ、大丈夫かァ?」
ボソリ、とぼやいた言葉は文字通りの心配だ。
クロロの魔術は、普通の魔術とは違う。
これは、人ならざる者の力を借りているに過ぎない。
精霊魔術よりはもっと不浄で、深淵の力を借りている。
それは、淀みだ。それを行使し、正気でいられるのは
狂気に呑まれたか、或いは"普通じゃない"かのどちらかだ。
あの少年は、どうなってしまうのだろうか。
だが、心配している場合はいまではない。
「 」
「 」
再び、小さな声を魔法陣に囁いた。
瞬間、それこそ砲弾の様に飛んでくる理央の姿。
「上等ッ!!」
その動きに合わせて、喧嘩慣れした廻し蹴りを繰り出した。
重い蹴りだ。骨の髄までダメージを与えるのも造作は無いが
避ければ隙だらけ。如何様な攻撃でもあたる、直線的でわかりやすい、"喧嘩の域"を出ない技だ。
神代理央 >
青年から繰り出された回し蹴りは、己の目から見ても『喧嘩技』であった。
嘗て対峙した公安の剣客とは、何もかも比較にならない。紫電の様な彼に比べれば、そよ風に揺らぐ柳の様なもの。
普段の己であれば兎も角、今は肉体強化と収奪の魔術によって膨大な魔力を得ている。
というよりも、収奪して変換した魔力がやけに膨大だ。今の己なら、拳を振るうだけできっと青年を打ち倒せる。
受けても良し、避けても良し。次の手を打つ方法は幾らでも――
「――………っ…!?」
弾丸の様に青年に向かっていた少年が、突然驚愕の表情を浮かべる。それは青年にも容易に視認出来る程のもの、だっただろうか。
青年とぶつかり合う寸前で、強引に大地を蹴り上げて急停止。
其の侭、正しく脱兎の勢いで跳ね上がる様に青年と距離を取る。
神代理央 >
「此れは…これ、は…?
貴様、何をした。何を、した!!
これは――これ、は……っ…!」
神代理央 >
飲み込んだ魔力は、膨大なものであった。
深く、深く、淀んで濁った様な力を魔力に変換して取り込んだ。
その結果、その魔力は――己の精神を、内面から狂わせ始める。
……正しくは、狂っていたモノが呼び起こされる、というべきだろうか。
内面から膨れ上がる強大なナニかを、まるで吐き気を堪えるかの様に必死に押しとどめている様が、青年の目に映るだろうか。
その堪える精神すら蝕む様に、己の内面に吹き上がるのは『恐怖』――
神代理央 >
「あー―ああああああああああぁぁああぁああぁアアァアァアアッァァアアァァ!!!!!!」
神代理央 >
異能と魔術が、吐瀉物の様に吐き出される。
異形は、正しく『異形』であった。
背中から脚が生え、苦悶に歪む人の顔が脚となって無数に生え、その口から巨大な砲身がはみ出している。
吐き出された魔力の塊は、蠢く泥の様に周囲に撒き散らされ、軟体生物の様に蠢き始める。
地獄、というよりも唯々精神を蝕む様なモノばかりが、少年が悲鳴の様な嗚咽を上げる度に、周囲から湧き上がる。
「違う…違う違うちがうチガウ!!!!
私は私だ!
私なんだ!私は、神代理央だ!
私が…私は…俺は……!」
もう少年には、青年の姿は見えていない。
呪詛の様に言葉を吐き出し、頭を掻き毟るばかり。
「………違う…俺は…おれ、は…!」
漸く、僅かな落ち着きを取り戻した少年は幽鬼の様な表情で男を睨み付けた儘、息を荒げて首を振る。
そして、強化された儘の肉体を以て、飛び上がる様に凄まじい勢いでその場を離れていくだろう。
後に残ったのは、蠢く魔力の泥。奇怪な姿の異形達。
主を失った儘、動き始めたソレらは、周囲の生物へ明確な敵意を持って、動き始めた――
クロロ >
「……ア?」
まさに喧嘩が始まる直前、理央の姿が飛び退いた。
先程迄の敵意とは違う。そこに浮かび上がるものは……。
「……お前……」
如何やら、と言うか、やはり、と言うべきか。
"食当たり"だ。取り込んだそれは魔力の塊では在るが
不浄なる、別次元なる存在。人の本能から呼び起こされる恐怖そのもの。
狂気に蝕まれていたのならまだしも、まだ真っ当な彼の精神には十分な劇薬だったらしい。
落第街の民衆の前で、"『鉄火の支配者』が、落第街で『恐怖の悲鳴』を上げた事"だ。
クロロは、彼の知名度をそこまで知っているわけではないが
恐らく、あの高圧的な態度で示してきたものが、此処で一部崩れ去る事になった。
「バカ野郎が、下手にチョーシこくならそうなンだよ」
舌打ち交じりに、吐き捨てた。
哀れ過ぎて何も言えない。
その深淵に呑まれたように、呼び出された異形もまさしく"異形"となり果てた。
一方で、此方の恨むように睨み上げたまま、理央は走り去ってしまった。
追いかける気は無いが、暫くあれは"後を引きそう"だ。
「さァて……」
なんであれ、こうなったのは己の責任。
ならば、尻拭いをするのが"スジ"と言うものだ。
気だるそうに首筋を撫でれば、異形達を見上げる金。
「────化け物退治とシャレこむか」
青と黒の軌跡が、クロロの周囲に光る。
『極地の極光<The Light from the Pole>』
『冷たき炎<Aphoom=Zhah>─────!』
凍てつく青い炎が、クロロの目前へと噴き出した。
落第街を照らす青き光、緑の風。異形の咆哮。
それらにつられて出てくる者もいただろうが
共に異形を狩るものであれば、クロロは認知しない。
この化け物退治は、程なくして何事も無かったかのように
風の消失と共に、幕を閉じるだろう─────。
ご案内:「落第街大通り」から神代理央さんが去りました。<補足:風紀委員の制服に腕章/腰には45口径の拳銃/金髪紅眼/顔立ちだけは少女っぽい>
ご案内:「落第街大通り」からクロロさんが去りました。<補足:迷彩柄のジャケットに黄緑の髪。人相の悪い青年。>
ご案内:「落第街のどこか」に燈上 蛍さんが現れました。<補足:【とうじょう ほたる】青交じりの黒髪に紅橙眼の青年/18歳184cm。手に赤い装丁の本を持ち、髪を編み込んでいる。風紀委員の制服に腕章。>
燈上 蛍 >
夜に繁茂する数多の闇の中でも──今日は、別の賑やかさを。
彷徨う異形。
主亡くして這うままに、動くモノに蠢いて行く。
それはまるで"フィクション"のように。
それはまるで"御伽噺"の世界のように。
「……そこは行き止まり、ですよ。」
落第街に産声を上げた"混ざりモノ"の成れの果て。
この世のモノとすら思えない異形のそれに、静かな声がかかる。
歓楽街へ繋がる道のひとつへ異形は入り込もうとする。
ソレの足元に広がるは"赤い彼岸花"。
まさに今ここは、常世なりや。
白い彼岸花を頭に差し、手に赤い装丁の本を開いて。
声をかけた青年は、この声でソレが止まるなら、それでよしとするつもりだった。
燈上 蛍 >
異形は声に反応を示したか、青年の方へ振り返る。
炎の瞳が嫌悪感を示す。
なんだこれは。
見慣れてはいない。見慣れてはいけない。
それについている顔は、自分を見ているようで、見てはいない。
あらぬ方向を見ている癖に、自分へと蠢いて向かってくる。
この"捨て子"たちは、いったいどこから来たのだろう。
まるで禁書本の挿絵のようではないか。
これは、この本は、表に出してはいけないのだろう。
「焚書……ですかね。」
……普通の人間ならば、これを見れば、壊れてしまうモノかもしれない。
けれど、それに対峙するは、死人の花を抱く青年。
"死"を司るように、"生"きて来た子供。
焚書された本の内容は、燈上蛍の本に…記された。
──赤い花が咲く。
──赤い本の頁が捲られる。
もしかすれば、これから上がる炎は、
化け物退治を行う彼には…見たことのあるモノかもしれない。
ご案内:「落第街のどこか」から燈上 蛍さんが去りました。<補足:【とうじょう ほたる】青交じりの黒髪に紅橙眼の青年/18歳184cm。手に赤い装丁の本を持ち、髪を編み込んでいる。風紀委員の制服に腕章。>