2020/09/15 のログ
ご案内:「宗教施設群-修道院」に神樹椎苗さんが現れました。<補足:黒いロリータ服とグレーのキャスケット。ネコマニャンポシェット装備。>
神樹椎苗 >  
 ──頭が痛い。

 今回は比喩的な意味で、痛かった。
 修道院の玄関先に座り込みながら、この数日の事を思い返す。
 自分にもあまり余裕は無かったが。

「──気付いてないと、思ってんですかね」

 ぼやきつつも、違うだろうなと首をふる。
 だとしたら自分にできる事は多くない。
 精々、いつでも帰って来れる場所で居てやる事くらいだ。

「あとは、美味しいものを食べさせてやるくらいですか」

 どうやら母娘という関係は、世話を焼きすぎるのも良くないらしい。
 それでも、『助けて』のサインだけは見逃さないように。
 本当ならもっと、一緒に居てやりたいのだが。

神樹椎苗 >  
 座り込んだまま、ぼんやりと何をするでもなく庭を眺める。
 今日もまた、お見舞いにはいけなかった。

 行ってもどうせなにもできやしない。
 そんな気持ちが日々強くなっているような気がした。
 どうせ『ただの他人』でしかないのだから、と。

「ちゃんと、戻ってきてくれるのでしょうか」

 その時にはもう、以前とは決定的に違ってしまってはいないだろうか。
 体は、動けばなんとかなる。
 けれど心は、そうではない。

「元通り、なんて贅沢は言いませんから」

 顔を伏せる。
 これ以上、失わないでほしい。
 あのヒトは、もう十分に失ってきたのだから。

 迎えに行くべき、なのだろうか。
 自分が行ってもいいのだろうか。
 どれだけ『計算』しても答えは出ず、伏せられた顔は上がらなかった。

ご案内:「宗教施設群-修道院」にクロロさんが現れました。<補足:迷彩柄のジャケットに黄緑の髪。人相の悪い青年。>
クロロ >  
「おい、何してンだガキ」

不意に少女の頭上から、随分と低い声が響いた。
それは何時からいたかはわからない。
顔を上げれば、人相の悪い青年が見えるだろう。
夜風に揺れる迷彩柄のジャケットと緑の髪。
薄暗い場所でも煌々と輝く金の瞳が特徴的な青年だった。
少女の体躯を簡単に隠してしまう程の長身。
細めた金色がじ、と少女の姿を見据えている。

「なンだ?家でも追い出されたンか?それとも腹でもいてーのか?」

修道院を一瞥して尋ねる声音は
見た目とは裏腹に心配の音だ。
こんな時間に子ども一人、顔を伏せたままなら心配位する。
青年、クロロとはそう言う男だった。

神樹椎苗 >  
「――なんですか、おまえ」

 顔を上げたら、人相の悪い男。
 そしてすでに暗い空の色。
 いつの間にか随分時間が経っていたようだ。

「なんですか、しいに声を掛けるとか、ロリコンやろーですか」

 はあ、と疲労を感じさせる息を吐きだしながら。
 見上げていた気だるそうな視線は、すぐに地面へと落ちていく。

「別に追い出されたのでも、体調不良でもねーですよ。
 ただ――いえ、特に何をしていたわけでもないですね」

 声に力はない。
 声音や様子から、気分が落ち込んでいるらしい事は見て取れるだろう。

クロロ >  
「"ろりこん"?オレ様はそンな名前じゃねェぞ、クロロだ。クソガキ」

訝しげな顔をしながら吐き捨てるように名乗った。
生憎、記憶のほとんどは空白だ。
"ロリコン"と言うものの知識はないので、名前だと思ったらしい。
しかし、どう見ても少女は気落ちしている。
やる気がない、と言うよりは疲労や心労と言った具合が見て取れる。
アー、妙な声を上げながらその場にしゃがみ込んで視線を合わせる。
所謂、ヤンキー座りだ。

「どッちでもねェッても、どーみてもテメェどーかしてるだろ?
 素直じゃねェのは結構だが、そーゆーのは、強がれる状態の時だけにしとけよ」

正直クロロにとって、他人などどうでもいい。
此の少女も放っておいてもよかった。
だが、弱っている女子どもを放っておくのは"スジ"が通らない。
だから、クロロは見知らぬ誰だろうと、手を伸ばす。声もかける。

「で、どうしたンだお前?やべーンなら、病院ぐれーつれてッてやるけど?」

神樹椎苗 >  
「あー、なるほど、バカですねお前」

 頭が悪いというわけではなさそうだが。
 少なくとも言葉を知らないのは間違いなさそうだ。
 視線を合わせてくる相手に、胡散臭そうな視線を返す。

「強がってるわけでもねーです。
 そこら中怪我だらけではありますが、病院の世話になる理由は、今のところねーですね」

 なんだろうか、この男もまたお節介焼きな人間――人間なのだろうか。
 やんわりと首を振ってみせる。

「ただ、まあ。
 どーかしてるのは、否定できねーですか、ね。
 思い悩むことくらい、誰にでもあるじゃねーですか」

 はあ、と。
 またため息を繰り返した。

クロロ >  
「ア?なンだとクソガキ?オレ様はバカじゃねェ。バカッつッた方がバカなンだよ」

そう得意げに語る馬鹿が目の前にいる。
何だが微妙にドヤっている。馬鹿である。
馬鹿は得てして、自分を馬鹿だとは思わないのだ。

「……で、テメェは一丁前に悩み事か。ガキにしちゃァ、随分と気苦労が多そうだな」

所感と言う奴だ。
本人曰く傷だらけと言う事らしいし
何より、如何にも気だるそうな雰囲気、悩みは随分と重たいらしい。
ふぅン、と適当に相槌を打てば首を傾げた。

「ンで、ガキ並みの悩みッつーと、何に悩ンでンだ?
 かーちゃンにでもしかられたか?それとも
 傷が耐えねーのがイヤッてンのか?」

「そこで一生蹲ッてても、一生前はむけねーぞ?
 とりあえず、八つ当たりでも何でも、吐き出してみろよ」

初対面相手に、と人は言うかもしれないが
だから言える事もあるし、何よりこのまま放っておいて
本当に何かあったら寝覚めも悪い。だから、クロロは問いただす。

「どーせ、一夜限りのエチケット袋だぜ?その辺に吐いてポイする位の気軽さで丁度いいだろ」

ニィ、とクロロの口角がつり上がった。

神樹椎苗 >  
「典型的なバカのセリフを聞いてびっくりですよ」

 ドヤ顔をキメる青年に、目を丸くして驚いた。
 気苦労と言われれば、気苦労はしているのだろうが。
 特別、多いと思ったことはなかったが、さて。

「――うるせーですね。
 わかってますよ、こうしてても何も解決しないって事くらい」

 考えて答えが出る事なら、とっくに解決しているのだ。
 自分の『演算』で答えが出ないなら、それは思考して答えが出る事じゃないのだろう。

「ふん、随分と口のうるせえエチケット袋じゃねーですか。
 うるせー上にバカでロリコンとか、救いようがねーですね」

 ふ、と鼻で笑って小ばかにしたような顔を向ける。
 まあ善人ではないかもしれないが――とびぬけて悪人でもないのだろう。
 絶妙に頭の悪そうな言動が、お節介を『余計なお世話』にしていない。
 なんとも、上手いことバランスが取れている青年だ。

「はあ。
 大したことじゃねーです。
 ただ、自分が本当に、何もできないちっぽけなモノだって思い知ってただけですよ」

 そう、結局はこれだ。
 単純に自信を失っているだけ。
 特別、複雑に悩む事でもない――だからこそ一度思い悩むと深みにはまってしまうのだが。

クロロ >  
「ア?なンだとガキ?誰がバカだコラ、ゲンコツ決めンぞ」

流石に人相通りのガラの悪さ。
子ども相手でも睨みを利かせて顔を覗き込んだ。
ドスの利いた声で脅してくるも、手を出す気配はない。
手を出すのは、筋が通らない。

「つくづく口の減らねーガキだな。そンな一々吠えても
 誰も構ッちゃくれねーぞ?つーか、"ろりこん"ッてなンだよ」

如何にも言葉の鋭さが目立つ。
自分も大概、丁寧でないにしろとげとげしいと言うべきかなんというか。
逆に敵意の無さだろうと、それは人を遠ざける言葉だ。
クロロもそこまで、他人へと"トゲ"をぶつける事はない。
表裏無く、悪意無く、サッパリした男なのだ。
だからこそ、その少女の事が"心配"になってくる。
訝しげに顔を顰め、自身の後頭部を掻いて溜息だ。

「アー、要するに無力な自分に嫌気が差したッてか?
 そりゃ、ガキだからそーだろうが。子ども一人で……」

「……────ッたァ、言い切るこたァねーけど、何があッたンだ?」

異能者の島。子ども大人だからって力量を図ろうとは思わない。
人が無力に思い悩むときの理由は大抵、相場が決まっている。
じ、と神妙に少女の目を見据えて問いかける。

神樹椎苗 >  
「ふ、なんですか、ガキの言う事にムキになるんですか。
 案外、お前もガキなんじゃねーですか?」

 睨んで来ようと凄まれようと、どこ吹く風だ。

「ロリコン。
 少女性愛嗜好者。
 一般的には年の離れた相手を性愛の対象にする人間の事を指します。
 つまりお前みてーなやつですね」

 ついに断定し始めた。
 そうは言っても、実際にロリコンだとは思っていないが。

「そうです、嫌気がさしてんですよ。
 自分のできる事っていうやつが、どれだけちっぽけなもんなのかって」

 青年から視線を外して、横に流しながらまた重たい息が漏れる。
 何があったと聞かれれば、ちら、と視線を戻してその顔を見ると、また遠くに視線が外れる。

「――お前には、大切な相手っていますか。
 出来る事ならなんだってしたい、力になりたい、一緒にいたい、そんなふうに思う相手は」

クロロ >  
「あンだとォ?オレ様は見ての通り大人だ!オ・ト・ナ!」

ムキになって声を荒げた。子どもっぽいのは間違いない。
ギギギ、と奥歯を噛み締め噛み慣らす。動物っぽい威嚇だ!

「ロリコン。成る程なー」

はぁー、と納得したように頷いた。
そして、思い返す。果たして自分は彼女の言うように"ロリコン"だったのか。

「…………」

……なんか思ったより年上しか相手にしてなくね?
よし、これについて考えるのはやめよう!
それよりも今は、彼女の悩みだ。

「……成る程な」

ちっぽけな自分が嫌だと言った。
大切にしたい相手がいるか、と問いかけた。
それだけで大よそ、彼女の悩みは察した。

「ガキの癖に随分と立派な事言うじゃねェの。
 ……で?お前はその大切な奴が怪我でもして、落ち込んでるッてオチか?」

まずは逆に、質問で返した。
神樹椎苗 >  
「――まあ、そんなところですね」

 質問に質問で返されて、そのまま素直に答える。
 ここまで話してしまえば隠す事でもない。

「そのヒトが非道を受けていたのに、助けに行けなかった。
 今まさに苦しんでいるのに、なにも出来る事が無い。
 無力さってやつを思い知ってるところです」

 それに――。

「だから、大切にしてやりたい娘にすらなにもしてやれねーんです。
 頼って、話して、甘えてくれてもいいのに。
 結局、ご飯を作って待っててやるだけしか、してやれねーんですよ」

 言いながら、顔がうつむいてまた膝に埋まる。
 言葉にしてみたら、思っていたより落ち込んだ。

「くだらねー、悩みですよ。
 ほんとう、あほらしい――」

 言葉が途切れて、吐息が漏れた。
 

クロロ >  
「確かにな。やッぱガキだ」

くだらない悩みだ。"よくある悩み"だ。
フン、と鼻を鳴らし、腕を組んだ。

「ソイツが何されたか知らねェけど、死ンじゃいねェンだろ?
 ソイツが助かるとかどーとか、ヒデェ目に合うとか、そう言う時もある。
 そう言う時に、テメェがどうしよもなく遠い場所にいる時だッてあンだろ」

互いに手を取り合おうと、共に歩こうと、究極的には他人。
互いが互いにそれぞれの生活が存在する。
同棲をしていようが何処にいようが、それは変わらない。
その人が目の届かない内に何かが起こることだってあるだろう。
それはもう、どうしようもない事。仕方のない事。
ご無体かもしれないが、そう言い切るしかない。

「だから納得しろ。……とまでは言わねェ、オレ様も納得したくねェからな。
 だが、ふざけた事にオレ様でもどうしようもねェ時はある。そンときゃキレるだろうな」

目を瞑り、思い返す。
"今の自分に大事なもの"。
脳裏に過る、彼女たちの影。
金色の目はゆっくり開く、少女の顔を覗き込んだ。

「だが、キレてもしょうがねェ。お礼参りだろうと何だろーと、何でもする。
 そう、『何でも』だ。だから、まず、『何も出来ない』ッつーのを止めろ」

ずいっ、と顔を覗き込んだ。

「助けに行けなかッたから何だ?ソイツが死ンでねーなら、生きてるならやりようはあンだろ?
 『何も出来る事が無い』じゃねェ、ガキならガキなりに『何か出来る事』を探せばいい。
 テメェがソイツに会いてェなら会えばいいし、会ッてからのが『出来る事』ッつーのは思いつくモンだぜ」

命あっての物種と、人は言う。
寧ろ、ここからだ。その人がまだ"いる"と言うなら、幾らでもやりようはある。
ヘッ、と鼻で笑い飛ばせばクロロは立ち上がり、少女を見下ろした。

「ガキなンだから、ヘンに考えてもしょーがねェぜ。
 テメェで考えて思いつかねェなら、テメェが『何をしたいか』が正解じゃねェか?」

「それとも、お前も口先だけかよ。今、お前の心はその娘とか、ソイツとかに『何をしたい』ンだ?」

煌々と輝く金が、問いかける。
子どもなどと、見下しもしない。クロロは何時だって、対等だ。
対等に見据えるから、問いかける。言葉をぶつける。発破を掛ける。



───────思い悩む位なら、何かあンだろ?それともガキらしく、悩んで泣いて終わりにするか?



金の瞳は、静かに語る。

神樹椎苗 >  
「なんでもする、なにをしたいか、ですか」

 それは、椎苗の悩みを解決するような答えではない。
 けれど。

「――お前、やっぱりバカで単純ですね」

 ふっと、それまでと違うバカにしたようなものじゃない。
 自然と漏れだした笑み。

「会ってからの方が、思いつくもんですか、そういうもんですかね。
 会いたいなら会って、それからでいいんですかね。
 自分がそうしたいから――それだけで動いていいんですかね」

 言ってみれば。
 案外、すとんと腑に落ちた。

 結局、単純な悩みではあったのだ。
 なら、答えだって単純なのだ。
 単純なわかり切っている事を、考え過ぎて自ら難しくしているだけに過ぎない。

「はあ。
 むかっ腹が立ちますね。
 お前みたいなロリコンやろーに諭されるなんて」

 むすっと、不愉快そうに顔を背けるが。
 すぐに諦めたように、苦笑を浮かべた。

「――口先だけにはなりたくねーです。
 しいもたまには、お前みたいに単純なバカになってみますよ」

 そう、どこか吹っ切れたように。
 少しばかり晴れやかな表情を見せるだろう。

クロロ >  
「おうよ、そうでなきゃ"スジ"が通らねェからな」

己の手の届く範囲に、己の近くで共に歩んでくれた。
どんな関係であれ、それが結ばれた縁であれば
『何かしなければ』"スジ"が通らない。
クロロは無法者だが、その"矜持"は守り続けている。

「ウルセェな、馬鹿で単純は余計だ。第一、お前まだガキだろうが。
 そもそも、悩ンでどーにもなッてねェから落ち込ンでンだろ?
 じゃァ、動けばいいだろ。そうでなきゃ、どーにもなンねーだろ」

悩んでダメなら、動くだけ。
至極単純だ。そもそも、子どもが考える事でも無い。

「ガキならガキらしく、それでいいだろ?やりてーようにやりゃァ
 お前の周りがちゃンと受け止めてくれる。テメェが思い悩むぐれェの連中なンだろ?
 立場が逆なら、同じように心配ぐれェはしてくれるだろうぜ。だから、いいだろ。好きにしても」

例えどれだけの勢いだろうと、そこに受け止めてくれる縁があるなら
きっとそれは間違いじゃないだろう。縁とは、そういうものだ。
子ども一人で思い悩むことにしては、本当によくあることだ。
フ、と口元が緩めば肩を竦めた。

「だから、オレ様はバカじゃねェよ。無理にオレ様になりきろうとせずとも
 お前はお前、オレ様はオレ様だ。それに、お前は背伸びしたがりだからな……アー、まァ、そうだな」

後頭部を掻いて、一息。

クロロ >  
「迷ッた時は、心に従え。お前の感情が正しいか間違いかは、後からわかる」
≪迷った時は、心に従え。貴様の感情が正しいか否か、後々わかる事だ≫

「正しいならそれでいいし、間違ッてンならごめンなさいで終わりだろ?」
≪正しいならそれで終わりだ。間違っていたなら素直に謝れ≫

「そーゆーモンだろ?お前等の関係ッて。人間関係なンて存外、馬鹿になる位が丁度─────……、……?」
≪そう言うものだ。貴様らの関係などその程度だ。人間関係なぞ、難しく考える方がどうか─────……≫

「まァ、いいか。とりあえず、そーゆーモンだ」

また、誰かの声が脳裏に過った。
これが誰の声かは思い出せない。"受け売り"だ。
自分の言葉では無かったが、きっとそれは間違いでは無かったはず。
後頭部を掻きながら、目をパチクリ。

「そいや、さッきの質問な。オレ様もいるぜ、そう言うの」

クロロ >  
「不愛想なクソガキ」

感情を殺されたと言う、儚い少女。

「よーわからン、フーキイイン」

燃える瞳に静寂を宿す少年。

「覚えてやらねェといけねェ、ヘナチョコ」

怪異と共にいる、引っ込み思案な少女。

「……後、アホ。オレ様が目をかけてやらねェとしょうがねェ、水ガキ」

笑顔の裏に何かを隠す、朱髪の少女。

「ンで、お前」

人差し指で、椎苗を指した。

「たッた今出来た縁だけどな。ソイツをひッくるめて、全員オレ様の大切な奴だ。
 オレ様、"キオクソーシツ"ッて奴らしいからな。会ッた回数とかそういうンじゃねェ。
 記憶はソイツを形成する上で大切なモンだ。だから、"オレ様"ッて土台を作ッてくれる奴等を、大切に思わねェはずがねェ」

白紙の上、指標無き空白の砂漠。
途方も無い道だが、生きている以上歩き続けるしかない。
自らの元の記憶に頓着があるわけでは無いが、無いからこそ、その大切さを理解しているつもりだ。
だからこそ、クロロにとって結ばれる縁は、この空白を埋めてくれる存在は、ずっと大切にしている。
そうでなきゃ──────……。

「ま、もしソイツの怒られる時は、しょうがねェからオレ様も怒られてやる。
 お前を慰めたのはオレ様だからな。そうじゃなきゃ──────……。」

「────……"スジ"、通ンねェだろ?」

ニヤリと、口角がつり上がった。

神樹椎苗 >  
「心に、従う」

 繰り返す。
 言葉にして笑う。

「単純なのに難しい事を、言うじゃねーですか」

 それで実際に動けるのなら苦労はしない。
 けれど、答えもまたそこにしかないのだろう。

「――随分沢山いるじゃねえですか。
 そんなところにしいを加えていいんですか?」

 何とも懐の深い事だ。
 自分を形作ってくれる縁をすべて大切にする。
 そんなことをはっきり口にできる人間が、どれだけいるだろう。

「まったく、恥ずかしい事をよく喋る口ですね。
 スジを通す――簡単じゃねーですよ。
 まあ、わかっていってるみてーですが」

 自然と表情が和らぐ。
 この青年にはしっかりと一つ『芯』が通っている。
 だから、その言葉はしっかりと重みを伴って届いてくるのだ。

「仕方ねーですね。
 ロリコンやろーに誑かされるのは不本意ですが。
 その台詞に、踊らされてやるとしますよ」

 ふふ、と目を細めて楽し気に笑う。
 膝に手を置いて、ゆっくりと腰を上げた。

「一応、感謝はしといてやります。
 お前のおかげで、少しばかりすっきりしました」

 立ち上がって、キャスケットを被りなおす。
 まだ迷いが晴れたわけではないが、気持ちは随分と軽くなった気がした。

クロロ >  
「カカカ、オレ様頭いいからな」

難しい事位余裕だ、そう宣ってみせる。

「いいンだよ、オレ様は強ェーからな。どンだけこようが、全員受け入れる」

何人だろうと、誰だろうと関係ない。
彼等が自分を受け入れてくれる限り、クロロもまた同じだ。
"スジ"を通し、彼等を受け入れ、時には対立する。
クロロなりの、"スジ"の通し方だ。
楽しげに語るからこそ、その大事さを良く表している。

「オレ様なら余裕だ。お前こそ、随分と回るクチだな。
 つーか、一々よくそンな悪口出てくンな。悪口から生まれたンか?」

余程凄い家庭環境だったのか、なんだったのか。
その辺りは割とどうでもいい事なのかもしれない。
クロロは隠し事が出来るほど、器用では無い。
"スジ"を通すからこそ、一本気を、『芯』を通すつもりだ。

「ロリコンロリコンウルセーよ、オレ様はロリコンじゃねェ。クロロだ」

ケ、と吐き捨てるように名乗るが、口元は緩んだままだ。

「そーか、ンじゃァ、後は頑張れよ。オレ様が言えるのはそンぐれェだ。
 ……で、これからどこに行くンだ?一人で行けるか?」

神樹椎苗 >  
「しいも頭がいいですからね。
 お前の一億倍くらいは言葉も知識もありますよ」

 ふふん、と自信満々に笑って見せる。

「しらねーですよ。
 ロリコンやろーはロリコンやろーで十分です」

 べ、っと青年に舌を出して。
 子供のような事をしてるなと思い、変な笑いが漏れた。

「ぷ、ふふ、まあそうですね。
 一人で行けますが、今から行っても仕方ないところですから。
 もう少し、会ってどうしたいか、何をしたいか、考えてから行くことにします」

 とす、とす、と軽く微かな足音を立てながら、青年の横を抜けて歩き出す。
 ここに来た時と比べて、ずっと身体が軽く感じられた。

「お前、いい男ですよ。
 お前も慕ってくれるヤツは大事にしやがれ。
 単純でバカで目つきも口も悪いロリコンやろー」

 どこか楽しそうに笑いながら。
 悪態を吐くだけ吐いて、青年の横をすれ違っていくだろう。

クロロ >  
「それならオレ様は百億倍頭がいいな」

それこそ頭の悪い言葉だったが、本気でそう言ってのけた。

「アァ?人様の名前くらいちゃンと覚えとけ、クソガキ。
 ……ッたく、これだからガキは仕方ねェ。手間がかかる」

エルもアストロも、大概手を焼かすような存在だ。
また手を焼かす存在が増えたと考えると、心なしか楽しくなってくる。
そう、"あの時"と同じだ。こうやって周りに、大勢の人間が──────。


……あの時……?


「…………?」

"あの時"とは、何時の事だ。
何かがフラッシュバックした気もする。
それも、一瞬の事だ。何が出てきたのかはわからない。
大切な事のような気がするが、元々頓着の無いクロロは直ぐに気にしない事にした。
横切る椎苗をしり目に、軽く自身の首を撫でる。

「ヘッ、知ッてるよクソガキ。お前に言われるまでもねェ。
 テメェも精々、夜道には気を付けな」

それだけ言えれば、十分だ。
振り返る事も無く、少女の無事を祈り
暗がりの方向。自らの居場所たる場所へと、自然と足を運ばせるのだった。

ご案内:「宗教施設群-修道院」から神樹椎苗さんが去りました。<補足:黒いロリータ服とグレーのキャスケット。ネコマニャンポシェット装備。>
ご案内:「宗教施設群-修道院」からクロロさんが去りました。<補足:迷彩柄のジャケットに黄緑の髪。人相の悪い青年。>