2020/09/19 のログ
ご案内:「宗教施設群-修道院」に神樹椎苗さんが現れました。<補足:黒いノースリーブの丈の短いロリータ服。ネコマニャンポシェット装備。>
ご案内:「宗教施設群-修道院」にレオさんが現れました。<補足:新参の風紀委員。最近公安をクビになった。>
神樹椎苗 >  
 色々と覚悟を決めて見舞いに行った翌日。
 なぜかまた、椎苗は主の居ない修道院前で膝を抱えていた。

(すごく、無茶苦茶な事を言った気がしますが?)

 昨日のお見舞い。
 自分の心に従って、想いを、行動にしてぶつけて来た。
 最大の傷を晒した。
 しかしそれは、彼女に無理やり『椎苗』と云う重荷を押し付けただけだったのでは。

(うう、余計に悩ませただけなのでは)

 それも、彼女自身の事で弱っている所に、追い打ちをかけるように。
 そう考えると、あまりにも自分本位な我儘をぶつけただけのようで。
 今更になって頭を抱えていた。

『──────』

「──べつに、後悔してるわけじゃ、ねーですよ。
 ただ、その、気持ちをぶつけるにも、もっとタイミングがあったんじゃないかと。
 ちゃんと回復して落ち着いてから話すべきだったかもしれねーです」

『────』

「まあ、はい。
 今でもなくちゃ、話せなかった気もしますけど。
 うう──」

 確かにここ迄、椎苗が思いきれるタイミングはそうあるものじゃないだろう。
 だから、数少ない機会ではあったに違いないが。

『──────』

「そう、そうなのですよね。
 いつまでもあのヒトの事だけ考えるわけにもいかねーのです。
 しいにはしいで、手の掛かる相手がいますからね」

 そう、最近様子のおかしい娘の事を思い浮かべ。
 そこに触れていいのかと迷いながらも。
 普通そうに振る舞おうとする娘の様子を見守ってはいるが。

 やはり、これもまた、何ができるかと考えているだけじゃいけないのだろう。
 とはいえ──昨日の後では、すぐに思い切る事はできない。
 勢いだけでなく、考えた上で行動したい。

「──はあ、悩ましい事ばっかりなのですよ」

『──────』

「なんでそこで笑うのですか。
 むう、しいは真剣に悩んでいるのです」

 修道院の玄関先で膝を抱えたまま、誰かと話しているような独り言を繰り返していた。
 

レオ >  
誰かに話かけている少女に、声がかかる。

「――――――すみません」

それは、小さな声で。
他に声がないからかろうじて聞こえるような、か細い声。
男性…まだ声変わりの途中なのか、比較的高い、少年とも青年ともつかぬ声。

振り向けば、君の後ろの先、修道院の門の前あたりその声の主が立っている。
ひとりの、青年。
年は15,6ほどだろうか。
決して高いとは言えない背。
ベージュの髪はぴょんと跳ねていて、後ろで小さくまとめている。
青年は声と同じように静かに、その場に佇んでいる。

よく見ると、シャツは所々に赤黒い沁みが出来ているだろう。
上着は何処にあるかと言われれば、脱いで”なにか”をくるんで、それを抱えている。
その上着も赤黒い沁みができていて、そのシャツのそれよりも、随分と汚れていた。

「――――――急に、すみません。
 少し…道具と場所を、貸してもらえませんか?」

その手に抱えているのは
一匹の、黒猫だった。
猫の体から出る赤黒い液体が上着を濡らして、ぽつ…ぽつと滴って、地面に跡を作っている。
猫は辛うじて息をしているようで、青年の腕の中でもがくように、小刻みに震えていた――――――

神樹椎苗 >  
 聞こえた声に顔を上げて、そちらを見る。
 青年が一人、妙に血に濡れているが。

「――悪いですが、ここはしいの家ではないのです」

 そう答えながら立ち上がる。
 見ただけではただの不審人物だが。
 抱えているモノを考えれば、無碍にするのも気が引ける。

「軒先なら貸してやれます。
 道具はしいが探してきますから、ここで待ちやがれです」

 そう言って、軒先を示してから玄関の中に入っていく。
 ここの主も、きっとこの状況なら手助けをするだろうと考えて、救急箱くらいはないだろうかと探しに院の中へ。

レオ >  
「―――ありがとうございます」

入る事を許可されれば軒先の下まで入り、そして上着で包んでいる猫をそっと地面に寝かせる。
猫は逃げ出そうともせず、横になって掠れた呼吸を続けているだろう。
腹が裂けており、前足があらぬ方向に曲がって、傷口からは血がとめどなくあふれ出している。
その血が青年の衣服を汚したことは、想像に難くない。

「水と…あと、手当できるものがあれば、それを」

腕まくりをしながら、少女にそう告げる。
声色は冷静で、動揺の様子はない。
ただ、淡々に言いながら、ハンカチを取り出し…
治療用の道具が来るまで、傷口の血を止めようとするだろう。

神樹椎苗 >  
「わかってます。
 少し待ってろですよ」

 青年に応えて、すぐに動く。
 少しして救急箱を持ってきて、もう一度離れるとバケツに水を張って持ってきた。
 動きを見ていれば、左手しか動かない事が分かっただろう。

「ソレ、助かるようには見えねーですが。
 ――バケツは消毒して水を入れてきたので清潔です。
 救急箱は、中身は後で返しておきますから好きに使えばいいです」

 と、一通り渡しながら青年と猫の様子を見る。
 助けようというのだから、医療の心得でもあるのだろうかと。
 冷静な様子には『慣れ』を感じて、半歩引いたところから動きを窺った。

レオ > 「‥‥」

少女の方を見て、持ってきてくれた道具を受け取る。
水と、救急箱。
そこから消毒液と、ガーゼ、そして割りばしか、折れた腕を固定できそうな棒を取り出す。
裂けた腹を塞がないといけないので、針と糸も。

「……近くの道路で見かけて。
 多分…車に轢かれたんだと思います。
 見かけた時にはもう、息が細くなってて……病院に連れていくんじゃ、間に合わないので。

 …出来る限りのことは、しようって。」

そう言いながら、手当をする。
医療の心得があるというよりも……応急処置くらいの手当てが、身についているような動きだ。
よく見れば袖を捲って露わになっている、血まみれの手はどこもかしこも古い傷跡だらけで、痛々しい。
自分の怪我を自分で手当てしてきた…といった所だろう。

水で傷口に入っている砂利を洗い出して、止血をして、縫う。
あまり綺麗な縫い方ではないが、血の出はさっきよりも緩やかになる。
猫の方は痛みで悶えようとするが、それをする気力もないようにぐったりとしている。
命は……消えかかっている。

それでも、青年は手当を続ける。
淡々と。
静かに。

「――――右腕、動かないんですか?」

猫の手当をしながら、少女の方を振り向かずに、青年が唐突に聞いてくるだろう。

神樹椎苗 >  
「出来る限りは、ですか」

 その行為を、無駄だとは思わない。
 少なくとも小さな命でも無碍に扱わない、生命に対する誠実さは感じた。
 傷跡だらけの腕を見ながら、その手際には危なっかしさがないのを認めて。

「――ええまあ、動かねーですね」

 集中しているかと思えば、話を振られた。
 見ればわかる事なので隠す事もなく答えるが。
 答えは端的で、話が弾むモノではなかった。

レオ >  
「…そうですか。それは……大変ですね


 …傷。
 凄い、傷ですけれど……何か、あったんですか?
 誰かとも……話していたようですけれども」

手を止めずに手当をしながら、さらに聞く。
踏み込みすぎだろうか……
不快に思ったかもな。
そう思って、聞いてから少しだけ、後悔する。

でも、あんなに至る所に傷があって、その上、ずっと誰もいない所に話しているのを見たら、気になってしまった。


目の前の猫は、出来る限りの手当が終わって……横にいる少女と同じように、包帯だらけの姿で上着の上に横になっている。
包帯からはじんわりと血が滲んできていて、命は今もぎりぎりの所を揺れ動いている。

「……すみません、聞きすぎましたかね。
 とりあえずこの子の方は……出来る限りのことは、終わりました。
 あとは……」

猫を見る。猫に漂う「死の気配」を見る。
濃く、はっきりとした黒い靄。
目の前の小さな命に絡みついたそれは、最初に道路で発見した直後と同じか、さらに、濃くなっていた。

…やるだけはやったけど、後は…この子次第、か。

傷だらけで、息をしている猫の頭を
そっと撫でる。

神樹椎苗 >  
 淡々としている青年に、興味を持たれたのが少々意外だった。
 とは言え、怪我に関しては昨日もかなりの決意で話せた事である。
 触れられても、たいして答えられる事はない。

「これは、そうですね。
 ちょっとした古傷みてえなもんです。
 諸事情で薬も魔術も異能も、効果がないもんですから」

 そう答えて、独り言に関してはどうしたものかと首を傾げる。
 『神様』と話していた、なんて言ってまともに受け取るような手合いはいないだろう。

「あれは、独り言です。
 見えないお友達と話をするような、変な子供とでも思ってればいいですよ」

 なんて言いながら、手当てが終わるのを見届けて。

「別に聞かれるだけならかまわねーですが。
 ――終わったなら、後は、こっちの仕事ですかね」

 猫を見れば、もうすでに『寒く』なっている。
 処置も完ぺきとは言えず、失血が多すぎた。
 もう、助かる見込みはないだろう。

 青年の隣に屈みこみ、猫の額にそっと左手で触れる。

「――お前はよく生きました。
 だから、もう眠るといいのですよ」

 静かに声を掛けながら、人差し指で猫の額を撫でる。
 猫に漂っていた『黒い霧』と同じものが、椎苗の指先からわずかにあふれ出て。
 『黒い霧』は数秒渦巻いて、ゆっくりと空へ立ち昇っていき、消えるだろう。

 霧が消える頃には、猫はもう呼吸をやめている。
 動物の魂は、とても迷いやすい。
 縁に触れてしまったのなら、導くのもまた椎苗の役目だった。

「――『死を想え』
 ――『吾は黒き神の使徒』」

 静かに、信じる神への祈りを捧げて猫の魂を送る。
 瞳を閉じて祈りを捧げる、椎苗の隣には。
 黒くて大きな影が寄り添っているのが、青年ならわかるだろう。

 それは、『死と言う概念そのもの』と思えるような、濃密な死の気配。
 黒い霧で形作られた人型のような、おぼろげな輪郭が浮かんでいる。
 それは感じ取れる人間ならば――嫌悪か、畏怖か、何も感じずにはいられないだろう。

レオ >  
「…そうなんですか。
 奇遇ですね。僕も――――――――」

傷が癒えない、と言われて、自分も似たようなものと返そうとすれば。
隣に座った少女から出た、『黒い霧』

自分が視覚で見た場合に見える『死の気配』と同じもの。
それが動いて、ひとりでに目の前の猫に『死』を与え、去ってゆく。

「―――――」

少し、目を疑った。
それと同時に、なるほど、とも思った。
最初に見たときに『初めて見る気配』がしたから。

不死は、沢山見て来た。
死に近く、それでいて遠い存在。
でも、不死に近くても…彼女のそれは、少し違った。
死に寄り添って……そして、離れない。離れれない、のかもしれない。
それでも、そこに『居る』。
そして隣人のように、手のように、その死を『動かした』。

死を忌避するでなく……死を操る者を、初めて見た。

――――こんな人が、いるんだな。
恐怖とも違う何かを、心が灯らせた。

そっと、たった今『死んだ』猫の、傷だらけの体を優しく撫でて。
優しい声色で、少女に声をかけた。

「――――ありがとうございます」

悲しいような、ほっとしたような…そんな何とも言えない顔を
青年は、していただろう。

神樹椎苗 >  
「別に礼を言われるようなことはしてません。
 ただ、魂を迷わせずに送り出すのも、しいの役目ですから」

 猫のやわらい毛に触れて、少しだけ寂しそうにほほ笑む。
 手を離すと、再び青年の方に視線を向けた。

「一時とは言え、縁を結んだのです。
 ちゃんと、相応しい場所に運んで、弔ってやるのですよ」

 と、静かに言うだろう。
 隣にはやはり、『黒い霧の影』が今も寄り添っている。
 その、顔のように見える部分が、椎苗と青年を交互に見ているように感じるだろう。

レオ >  
『送られた』猫を撫でながら、弔ってやれ、という言葉に小さく頷く。
 
「……ダメそうなら、僕がやろうと思ってましたから。
 そろそろ…ダメだろうなというのは、分かっていたので。
 ……せめてこれ以上苦しまないようにって。」

手は、尽くした。
自分が出来る範囲で手当はした。病院は…間に合わなかった。
消えそうな命を出来る範囲で、助けようとした。

でも、駄目だった。
少し先に目の前の少女が『送って』くれたけど、自分も…もう無理だろうと、判断をした所だった。
きっと少女がやらなければ、同じことをしていた。
でも自分に出来たのは、首の骨を折るくらいだ。
彼女の方が、安らかに『送る』ことが…出来たのだろう。


「…苦しいのに死ねないのは、辛いですから」

ぽつりと、呟いた。

神樹椎苗 >  
「――そうですね」

 青年のつぶやきに、静かに同意を示す。
 中途半端に延命されて苦しみ続けるのは、ただ悲しみを増やすだけだ。

「『寒く』なった魂は、正しく、誰かが送らなければなりません。
 たまたま、今日この日この場所に、しいが居ました。
 こいつは少しだけ、運が良かったかもしれねーですね」

 少し寂し気に、けれど優しさを感じさせる微笑みが猫だったモノに向けられる。
 

レオ >  
「……」

少女の方を、少し見る。
今目の前で猫を『送った』……『殺した』少女は、そんな事をしたとは微塵に感じさせない、慈愛に満ちた微笑みを猫に送っている。

その姿に…暖かみを、少し感じた。

「……いい人ですね」

小さく、少女に微笑みかける。
出会った時から、手当を終え…そして、今までに、見せなかった微笑み。
神樹椎苗 >  
 青年の微笑みを向けられると、目をぱちくりとさせる。
 そして怪訝そうな顔を向けた。

「――ロリコンですか?」

 胡散臭そうなものを見る視線で、青年を見る。
 目が細まり、じっとりとした視線。

 なお、珍しくこの日は無防備に過ぎる服装。
 ノースリーブからは、脇が見えて隙間からは肌着も見えるだろう。
 脚もまた、屈みこむ姿勢になればほとんど付け根まで見えそうだ。
 とはいえ、どこも包帯だらけだが。

レオ >  
「ぶッ…!!!」

噴き出した。

レオ >  
「いっ…いや、違いますけど…っ!
 あ、あぁー…いや、あー……
 す、すみません……変な事言ったかな…」

しょぼん、とちょっと小さくなった。
さっきまでのまるで感情のない、冷静な機械のような姿からうって変わって狼狽える姿は、先ほどまでの人物と同一人物だったのかと思うかもしれない。
ちょっと赤くなって、慌てて弁解の言葉をかき集める。

「そのっ、深い意味はなくて…
 なんというか、いやっ、可愛らしいとは思いますけど…あぁいや、そうじゃなくて…
 いきなり来たのに、邪見にしないでくれましたし、そのぉ……
 この子の事も、気にかけてくれてたし…
 あ、あー……ぁー……」

言葉に詰まって、うめくような「ぁー…」という声をあげながら、赤くなって沈黙した。
弱い。

神樹椎苗 >  
 さっきまで静かだった青年が、突然狼狽え始める。
 その様子がおかしくて、少しいたずら心が刺激された。

「――ふうん、可愛らしく思ってくれるのですか」

 膝の上に乗るくらい頭を傾けて、下から覗き込むように意味ありげな表情で見上げる。

「しいみたいな身体つきでも――気になりますか?」

 と、服のやや短い裾を、左手でひらひらと揺らして見せる。
 姿勢的に、うっかりすれば見えてしまいそうな際どさだ。

レオ >  
「………………………‥‥‥‥‥」

あからさまに目を逸らす。
ちらりと見えそうになったものに注意が向きそうになって、強引に首を捻って視線を逸らした。
明らかに年下、というか5、6歳かそれ以上に下の女の子に、あまつさえいいようにされている16歳がいた。
情けない。

「い、いや……気になるというか、その……」

ひらひらしてる。風がふわっとこっちに来る。
なんでこの子はこんなことしてるの!?

「ぃー……」

年下の、それも傷だらけの女の子が何故かこっちに変な事をしてくる。
なんていうかその、こう……
誘ってくるような。
いや違うんです。
そんな風に、思ってなんていないです。
誓って違います。違うと思いたい。

「い、ぃやその……あ、うぅ……」

気になるかならないかでいえば、気になる。
いや、ロリコンという意味ではないです。ほんとです。
傷だらけだし。右手が動かないなんて言うし。
そういう意味での気になるです。
本当です。
ロリコンじゃないんです。
ないとおもいたいです。

兎に角目を逸らして、三角座りでどんどんちっちゃくなるしかなかった。
弱い。弱すぎる。

神樹椎苗 >  
 あからさまに気にしていた。
 視線が完全に泳いでいる。
 顔も赤い。

 なんだか、妙に楽しくなってきた。
 自分の動作一つで狼狽える青年が面白い。

「――気にならないのですか?」

 少しだけ寂しそうな声音を作って、三角座りの青年に一歩分近づく。
 元々たいして離れていない、詰めれば肩も触れそうな距離。
 袖のない服から、うっかり肌着も見えてしまいそうな距離。

「顔、赤ぇですよ」

 そんな距離で青年の顔をのぞき込めば、目と鼻の先に互いの顔。
 幼さの割に愛らしく整った顔に、淡く青い憂いのある瞳が青年の目を見つめる。
 白く綺麗な肌に張られたガーゼも、痛々しさだけでなく、危うさと儚さを強調するエッセンスになるだろう。

レオ >  
「………‥‥‥‥」

近い。近い近いとても近い。
当たりそうになる。髪の毛が鼻にすこしかかってくる。
ちょっといい匂いがする。…じゃないよ。
まだ面識も薄い、名前も知らない、…可愛い女の子に
こんな近くまで近づかれると流石にどきどきする。

違う、これはこう、そういうアレじゃないんです。
色々、思うところがあるというか、思い出すものはあるけど。
見た目とかじゃなく、纏う気配みたいなもので、色々感じることはあるけれども。

色々なものが見えそうな服装。
傷だらけなのも非日常的で。
覗き込まれると、その青い目に吸い込まれそうになる。
青い目が、自分の顔を映す。

あぁ…すごい真っ赤になってる。
こんな小さい女の子に近づかれて真っ赤になってる。
今他の人が来たら言い逃れが出来ない。
本当に危ない人でしかない。
服、血まみれだし。

「………………………………………………………‥‥‥‥‥‥‥‥………」

そっと、両肩に触れる。
肩に触れて……

レオ >  
「……ね、猫の埋葬、しよ……っか…!!」

に げ た

神樹椎苗 >  
 青年の葛藤が見て取れる。
 視線も逸らせないでいるのがわかる。
 顔を赤くして震えている。

 その手が肩に伸びてきて。
 ほんの少しだけ、何をされるだろうかと青年の行動を楽しみにして。

「――ぷ、ふふ」

 続く言葉に思わず、息が漏れた。

「はあ――お前、なんだか、可愛いですね」

 目を細めて柔和に微笑みかけながら、肩に触れた手に左手を重ねる。
 触れればどことなく感じられる、自分と近しい気配。
 それを感じつつも、必死な様子の青年が妙に可愛らしく見えて、愛らしいものを見るような視線になっていた。

「ええ、そうですね。
 弔ってやらないといけませんからね?」

 くすくす、と小さな笑みをこぼしながら。
 一生懸命に話を逸らした青年を、上目に見つめた。

レオ >  
「………~~~~~~~~!」

負けた。完敗した。
目の前の10歳に満たないかもしれない女の子との間に、完全に上下関係が完成してしまった……気がする。
もう目の前の女の子に頭が上がらない気がする。

「かわ…っ
 ‥‥‥‥‥そ、う…です、ね……」

もう真っ赤になった顔は戻らない。
あぁ、なんでこんなに赤いんだろう。
水でも被りたい気分だ。
被ったらそれこそ笑われそうだけど。





「とも…っ、かく、そう…うん、うん……

 ちゃんと弔ってあげないとかわいそうだから…‥‥うん…、…‥‥ぁ」

気を取り直そう、と、そういっていそいそともう動かない猫を抱えたとき。
気が付いた事が一つ、あった。
さっきまでの動揺が冷めていき、そっと猫の骸を寝かせなおす。

「…ごめん、ちょっと……待ってもらえますか?」

そう言いながら、救急セットから鋏がないか確認しだす。

神樹椎苗 >  
 赤くなったまま目を白黒させて狼狽える青年。
 それを見ているのが楽しくて、ついついからかってしまっていたが。
 空気が変われば、頷いて椎苗もまた表情を変えるだろう。

「ん、どうしましたか」

 救急箱には小さな鋏くらいは入っているだろう。
 青年の様子から、何をするのだろうかと様子を窺う。

レオ >  
「‥‥…死の気配がまだする」

ぽつりと呟いて、鋏で塗った腹部の糸を切っていく。
傷は塞がってはいない。糸を切れば、腹部は再び開く。
その傷口に手を入れ、何かを探っていく……

「……ここ、か?」

そういって取り出したのは、掌に収まる小さな塊が4つ。
それのうち3つは、膜が破れて中身が出ている。
すでに動く様子のない、生まれてすらいない生命。
ただ、残った1つだけ。
膜の中で、小さく…注視しなければ気が付かないほど小さく『動いて』いるものがある。

「……他の3つは、駄目か」

その膜に、鋏を入れる。
つぅ……と膜が切れる。中で動いていた、それが出てくる。
青年の掌に収まる、ひとつの。






「……」


――――みぃー、みぃー……みぃー

命だ。

神樹椎苗 >  
 青年の行動を見守る。
 そして、猫――母猫から取り出されたのは、小さな、吹けば消えそうな命の灯。
 小さすぎるその赤子は、まだ『寒く』なっていない。

「――っ、なにぼさっとしてるのですか。
 今すぐ動物病院に連れていくのです!」

 ばっと立ち上がって、青年を引っ張り起こすように。
 今すぐにでも走り出しそうな様子で。

「その赤子は、まだ助かるのです。
 まだ――『あたたかい』のですよ」

 それでも、そのままではすぐにでも死んでしまうだろう。
 まだ産まれるはずでなかった未熟な赤子なのだ。
 助けるのなら、それは一刻を争う状況だ。

レオ >  
「――――」

命だ。
死の気配は漂っている。放っておけば、いずれ死ぬ。
でも、まだ『濃く』ない。

熱がある。
産声をあげている。
死体の中から、『生まれた』小さな命。

「…‥オレだ」

ぽつりとつぶやいた。掌にその命を置きながら。
そうしていると、ぐいっ、と少女に、引っ張られる。
青年ははっとしたように、直ぐに立ち上がるだろう。

「‥‥っ! あ、は…はいっ!!
 ……戻ったら、すぐに埋めるから」

眠りについた『母』に、そっと上着を被せ。
ハンカチで掌の上の命を包み、タクシーを呼ぶ。
ここからなら…走るよりも、タクシーで向かった方が、速く着く。
……ほどなくしてタクシーが付き、少女と二人でそれに乗り込む。
血まみれの青年にタクシーの運転手がぎょっとしたものの、小さな子猫を見れば、何も言わずに車を走らせてくれた。

神樹椎苗 >  
 異邦人街に佇む動物病院までタクシーを走らせて。
 子猫を預ければ、待合室に二人で並び。
 獣医にしばらく預かる必要があると言われれば、依頼する事になるだろう。

 カルテに連絡先を書いて、当面の入院費も手早く支払ってしまう。
 獣医の話によれば、この島の技術であれば一週間もすれば安定するそうだ。
 一週間後に椎苗か青年のどちらかが引き取りに来ればいいらしい。

「――よかったですね。
 とりあえず、生き延びそうですよ」

 簡単な手続きなどを終えれば。
 そんなふうに、青年へ声を掛けるだろうか。

レオ >  
「……ふぅ」

動物病院の椅子に、二人して座って息をつく。
なんだかんだで…すごい一日になってしまった。

「そう…みたい、ですね。
 よかった‥‥…」

ほっと一息したのか、疲れがすこし来た。
集中力がいる作業だったし、色々……目まぐるしかった。
でも…本当によかった。
心からそう思う。

「……色々、お世話になっちゃって…すみません。
 そういえば、名前も名乗ってなかったな……なんか、ずっとドタバタで。」

思い返せば、名も知らぬのだ、こちらも、あちらも。
それにしては随分と濃い時間を共にした気がする。

「…レオ・スプリッグス・ウイットフォードです。
 ……君はなんていうんですか?」

神樹椎苗 >  
「別になにも世話なんてしてねーですよ。
 お前が見つけて、お前が助けた命です。
 誇っていい行いです」

 そう言って少しばかり疲れている様子の青年を、励ますようにやんわりと小突く。
 椎苗としては、考え事を吹き飛ばしてくれて、楽しくも慌ただしい有意義な時間を過ごせたのだ。
 世話になったというのなら、お互い様と言ったところだろう。

「ん、かみきしいな。
 好きに呼べばいいですよ」

 そう名乗り返して、うっすらと笑いかける。

「一応、お前の連絡先も伝えておくと良いです。
 というか、引き取り手はお前ですからね」

 助けた以上は責任を取るべきだと言うように、青年を促した。

レオ >  
「あたっ……じゃあ……神樹さん、で。
 ……誇って、か。」

そう思いながら、病室の方を見る。
自分が見つけ、助けた命。
でもその命の母親を、殺した、殺そうとした。自分達の手で。
少しの、後ろめたさを感じながら。
それは言う事は、ない。


「引き取り、先か……
 …よかったら、名前…つけてもらえないかな?なんて…
 名づけって、あんまり得意じゃなくて…何かの縁と思って、お願いできないですか?

 それと……
 もしよかったら、あの子に会いに来てくださいね。
 連絡入れてくれれば、何時でも歓迎しますから」

小さく微笑み、連絡先を交換する。
自分に、同居人か…
そういえば…
あの寮、ペット大丈夫なのだろうか。
そんな事を想いながら、これからもよろしく、と握手を求めるだろう。

神樹椎苗 >  
「名前、しいが、ですか?」

 名前を付ける――名前で縛る。
 その行為は、いつからか自然と避け続けてきた事。
 誰かの名前を呼んだことは、これまでにない。

「――いつもなら、断るところですが。
 あいつも呼び名くらいはないと、困りますからね」

 少し考えながら、連絡先の交換はすんなりと応じるだろう。
 握手もまた、拒むことなく左手を差し出す。

「名前――そうですね。
 『マシュマロ』で、どうですか」

 それはふと思い浮かんだ言葉。
 口にするとなぜか、とても懐かしいような温かい気持ちになる。
 手のひらに乗る、白い毛の子猫から連想したのか、それとも別の何かがあったかはわからないが。

「しいも、名付けるとかしたことねーですから、なんですが」

 と、少し困ったように。

レオ > 「ん…」

マシュマロ、と名付けられた子猫を見る。
真っ白の毛に、あおい瞳。

「よし、じゃあ……
 マシュマロはとりあえず、僕の所で預かってみますね。
 何かあったら、これも縁なので…神樹さんの方に連絡入れるかもしれないけど、大丈夫かな?」

そういいながら、ぎゅっと握手。
少女の手は小さく補足、青年の手は、分厚い皮膚と何度もできた血豆でがさがさしている。
しっかり握手して、手を離した。
「…それじゃあ、神樹さん。
 そろそろ戻ろっか、お母さんをちゃんと、埋葬してあげないといけないし」

神樹椎苗 >  
「ええ、はい、構わねーです。
 しいも協力しましたからね、手伝える事があれば手伝いますよ」

 可愛げのある狼狽えっぷりと違って、握った手はしっかりと男らしかった。
 こんな頼もしい手をしているのにと思うと。
 先ほどの様子を思い出して、また面白くなってしまう。

「ふふ、そうですね、ほったらかすわけにもいかねーですし。
 それじゃ、一度戻りますか――ロリコン」

 また目を細めて、悪戯っぽく笑いながら青年を見上げた。

レオ > 「うっ…‥‥」

ロリコンと言われれば、即座にナイフで刺さったかのように凹む。
何はともあれ、助かった命があるのである。
それを噛み締め、2人は修道院に戻るだろう……

ご案内:「宗教施設群-修道院」からレオさんが去りました。<補足:新参の風紀委員。最近公安をクビになった。>
ご案内:「宗教施設群-修道院」から神樹椎苗さんが去りました。<補足:黒いノースリーブの丈の短いロリータ服。ネコマニャンポシェット装備。>