2020/09/27 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に羽月 柊さんが現れました。<補足:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。黒のスーツに竜を模した仮面をつけている。小さな白い竜を2匹連れている。>
羽月 柊 >  
紫の髪が薄暗い路地に揺れる。
コツン、カツンと質の良い革靴が音を鳴らし、
小さな白を二つ引き連れて、裏の道を過ぎてゆく。

顔の半面を覆う竜の仮面の下、桜が瞬いている。

この眼から見える世界はたった一つなれど、
どれほど大きなことが起きたとて、生きている限り、世界は続いていく。


この世から落ち逝くモノに手を伸ばす機会が増えた。
増えたとて、全てに手を伸ばしてはやれない。

『取りこぼしたくない』とはいえ、この闇の全てを救う事は出来ないし、
闇は闇のままで良いと言うモノもいる。

闇でしか生きられぬモノもいる。


──そう、これから逢うモノも、また。


男は煙草を取り出して口に咥え、
パチリと指を鳴らせば先端に火が付く。

羽月 柊 >  
呼吸を一つ零し、煙を取り込んで、吐く。
煙草の匂いはしない。もし分かるならば、それは僅かな魔力の匂い。
《大変容》の起きた後のこの世界には、ありふれた匂い。

一度蒸かすことでそれに魔力を通す。それだけでいい。
それだけで、この煙草は、"魔法の品"として機能するのだ。
口から煙草を離し、唇を細めてふぅと息を吐けば、白い煙が消えないまま、路地を這う。


仮面から覗く桃眼を煙の行く先に走らせ、この歩く路を一部分…切り取る。

とはいえ決して強いモノじゃあない。
気配に敏感ならば気づいてしまう、魔力が扱えるならば、簡単に超えられる。

それでも、ここは裏の雑踏の中。
男に興味を示さなければ、それは成される事はないだろう。


カツン、ともう一歩踏み出せば、
音は煙の這う先で反響するように跳ね返った。

ロア >  
『すっカり、美味ソうな匂イになったナぁ、羽月。』

この黒スーツの男から発せられるには、
到底似合わないしわがれた声が、薄暗い路地に響く。

切り取られ、小さな"結界"状態になっている中で、反響する。


あらゆる影を落とす場所に、金色の丸い眼が幾つも開かれ、
それは一様に黒スーツの男に視線を向ける。

異邦のモノ、異世界のモノ、そういったモノに慣れていても、
この光景はなかなかに精神へ訴えて来る"ナニカ"があるかもしれない。

羽月 柊 >  
「…まぁ、以前に比べれば…君にとってはそうだろうな、ロア。」

男……羽月柊は、眼に動じることもなく、会話を交わす。
これまでの男の日常の光景の一つだ。

例え、表の世界で『教師』となろうとも、
変わる事の無い、変えるつもりも無い、己が歩んだ"魔術師"としての顔の一つ。

これから魔術を教える時に、この顔を見られるかといえば、
余程男の深部へ触れなければ、居合わせることは無いだろうが。


「……だからと言って、食べてはくれるなよ。
 教師に成りたての人間が消えたとなっちゃあ、君にとっても良くないだろう?」

視線を落とし、足元にある自分を見つめる眼の一つを桃眼で見返してそう話す。

ロア >  
『ギャッギャ、わガってイる。ワかっていル。
 羽月、オマエは『オレ』のお気ニ入り。"ミモザ"のオ気に入りダ。
 どれホど飢えダとしても、喰ウことはアり得ない。

 オマエが、喰うテくれと言うなラ、別だけドなァ?』

響く声が歪に笑い、視線を落としている上から、
黒がぼたぼたと振って来る。

今日は上からか、なんていう柊の声にまた笑いを返して、
フードを被った"混ざり物"は口角を上げている。


『まったク、こドモの頃の、オマエを見ていルようダ。羽月。
 『オレ』も少シ、戻りたクなったヨ。昔ニな。』

羽月 柊 >  
「……それは、ありがたいが……、
 戻りたいというのは、本心なのか? ロア。」

柊の声が、静かな路地に響く。
男の前の異形。"邪神の混ざり物"と称されるソレ。

対峙するイキモノに、生命の危険を知らせるナニカ。

──そして、それは、男の古くからの知り合い。


彼とソレの間に何があったかは、今だ語られてはいない。
柊の過去が明らかになったとて…全てが語り尽くされた訳ではない。

『物語』は、常世島の端で、今も続く。

ロア >  
『くくくァはははハハハ!!!』

柊からの問いかけに、しわがれた声が盛大に笑い声をあげた。

あぁ、あぁ、可笑しくてたまらない。
全くもって良い反応をするようになった。
異形が持ちうる悪寒や瘴気という氷でも、"熱"を冷やしきれなくなってしまった。


──この島の『生徒』たちに、『教師』たちに、感謝を。

──『オレ』たちの大事な羽月に、『オレ』たちでは出来なかったことをしてくれた。


『まさカ。』

ひとしきり笑った後に、異形は男にそう言葉を返した。

『無理ナこどは、オマエがよく分かッているダろう? "魔術師"。
 その"熱"は、『オレ』じゃナくて、こドモや、たマゴたちに、向ケな。』

変えられる現実はありとて、変えることの出来ない現実だってある。
異形の発する言葉は、それだけで、男の唇を引き結びさせることが出来た。

羽月 柊 >  
「……そうだな、すまなかった。ロア。」

少しの沈黙の後、味のしない煙草の煙を一旦吸い込んで、
溜息を誤魔化すように吐き出す。

『謝ル必要は無イ』なんて言葉が返ってきて、誤魔化した溜息をもう一度出しそうになった。


「…それで、本題はなんだったか。
 "あちら側"が騒がしい、とかいう話だったな。」

ひとしきり近況の話が終わり、ようやっと男も落ち着く。

今日、本来ここに来た意味。裏でしか交換できない情報の入手。
裏の闇に潜み、"喰らう"故に相手が知っていること。


『あちら側』。

異世界とは少し違う場所。異世界より近くて、現実よりは遠い場所。
この世界と重なっている……"妖精の道"だとか、そういう場所。

怪異だったり、目の前の異形だったり…そういう、"隣人"の世界。
《大変容》の起きたこの地球の常識すら、容易には通用しない場所だ。

魔術師故に、ある程度は把握しているし、一時的に利用することもままある。
けれど、決して油断の出来る場所じゃあない。

ロア >  
『あァ、常世渋谷ニ大きな"あちら側"があルのは、オマエも知っテいるだロウ?』

それは、裏常世渋谷。怪異・霊的存在の巣。

曰く、ヒトならざる存在の店舗が点在している。
曰く、自分自身に襲われる。
曰く、己の『醜い』と思う部分を突き付けて来る。

常人であるならば、長期滞在は難しい。

柊のように、心の弱い部分を持っていて、
そこから目を逸らして生きているならば尚更に。

昔の羽月柊ならば、"通り道"としてごく短い時間滞在することはあったとしても、
長居をすれば、容易に心を壊されてしまっていただろう。そんな場所だ。

今の目の前の男は、もう少し耐えてくれるだろうと思うが。


『なンでも、"列車"があそコで暴走しているラしい。
 物見遊山で見ニ行ったガ、眼玉の一つヲ軽く轢かれてシまいそウだったヨ。

 どうヤラ、委員会やラ、色々な所が動き出しテる。
 表にハでなイ……俺たチ裏では、ともカくナ。』

故に、これは忠告。
男が『取りこぼす可能性』への、ささやかな注意喚起。

『だカら、気を付けルがイイ、羽月。
 子供たチもそうダが、オマエ自身もナ。』

羽月 柊 >  
「…こちら側同様、あちら側でも何かが起きている…か。」

隣り合った世界。位相の違う場所。
こちらが平穏でない時があるように、あちら側がずっと平穏な訳がない。
もちろん、個人規模のことは毎日のように起きているとしても、だ。

委員会やあらゆるモノを巻き込んだことが起きようとしている。
それは、自分達のような『大人』も、例外ではない。

この島に生きているならば、例外には成り得ない。
『教師』も『研究者』も、だ。


「分かった。情報ありがとう、ロア。」

咥え煙草にして、手持ちの鞄から、試験管に入った赤い液体を取り出して渡す。
ロアはそれを恭しく受け取り、頬ずり。


──魔術煙草もそろそろ切れる。今日の話も、もう終わりが近づいている。


その後、二言三言言葉を交わし、彼らは別れた。

異形と男は、これからも……交流を続ける。

ご案内:「落第街 路地裏」から羽月 柊さんが去りました。<補足:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。黒のスーツに竜を模した仮面をつけている。小さな白い竜を2匹連れている。>