2020/10/01 のログ
ご案内:「エアースイム:スカイファイト秋季大会」にスパルナさんが現れました。<補足:黒髪長髪ポニテに頭部を覆う形のバイザーを着けている。白い手袋と赤に白と黒のラインが入った競泳水着のようなボディスーツに、足元には赤いブーツ。>
実況席 >  
「さあ、始まりました!
 エアースイム・スカイファイト秋季大会!
 今季もまた、素晴らしい選手たちが常世島に集まっております。

 開会も終えて、選手たちは試合に備えてそれぞれのテントへと入っていきます。
 今大会の実況は私、常世学園エアースイム部マネージャー、可愛くて有能でマルチな杉本永遠ちゃんがお送りします!
 そして解説は常世学園エアースイム部の部長、杉本久遠が──って、兄ちゃん?」

『(口をあんぐりと開けたまま固まっている)』

「ああーっと、兄ちゃんは早速緊張で気絶してます!
 まあきっと、試合が始まるまでには復活するでしょう!
 と言うわけで、実況解説は常世学園エアースイム部の杉本兄妹でお送りさせて頂きます!」
 

実況席 >  
「それではまず、今大会の種目、スカイファイトのルールについて簡単に説明します。
 スカイファイトは最大で10人1グループに分かれて行います。
 選手は300m四方の高度制限のないフィールドで、スコアを競い合います。

 飛行時間二秒につき1点。
 有効打撃一回につき20点。
 有効打撃を一度も受けなかった場合、ボーナスポイントで100点が加算されていきます。

 有効打撃を受けてしまった選手は二十秒の間、フィールドから一時的に退場させられてしまいます。
 つまり、如何にフィールドに残り続け、かつ他選手から打撃(ヒット)を奪うかという種目です。
 有効打撃について詳しくは、パンフレットの用語説明をご覧ください。

 各試合では上位三名が勝ち抜きとなり、次の試合へと進みます。
 スコア同点の選手が上位にいた場合、同点の選手同士での延長戦が行われます。
 そうして最後の1グループになると決勝となり、上位三名が表彰されます。

 さて今大会の参加者は53人で6グループ。
 なので本日は6試合が行われ、明日は3試合。
 明後日に決勝試合が行われる予定になります。

 エアースイム体験会については、決勝試合終了後に改めてアナウンスされるそうです。
 慌てて帰らないでゆっくり待っててくださいね!
 ちなみに永遠ちゃんもお手伝いする事になってまーす!

 第一試合開始は1時間後になります。
 皆さんもう少しお待ちくださーい!」
 

実況席 >  
「さて、開始までまだ時間がありますので、ここで選手インタビューに行きたいと思います!
 あ、このインタビューの様子や、この後の試合の様子なども、空中投影スクリーンに写るので、席が遠い人も安心してね!

 さて、真っ先に快く引き受けてくれたのはやっぱりこの人!
 【トップスイマー】星島和寿選手です!

 というわけで、さっそくインタビュー行ってみましょーう!」
 

星島和寿 >  
 ──大会への意気込みは。

「意気込みかぁ。
 いつも通り、自分らしい泳ぎをして行きたいと思います。
 その結果がどうなるかは、やってみないとわかりませんが。
 皆さんの期待に恥じない泳ぎを出来たらいいですね」

 ──春大会に続きスパルナ選手との対決が期待されていますね。

「あはは、そうみたいですね。
 春大会ではちょっとかわいそうな事をしたと思っていますが。
 春では一番苦戦しそうな選手だったので、初戦で当たれたのは幸運でした。
 二回三回と当たったらどこかで負けていたんじゃないですかね。

 今回はグループが遠いので、当たるのは決勝ですか。
 ちょっと怖いな、と思いますね。
 もちろん僕だって優勝したいですから」

 ──注目している選手はいますか?

「先程もお話したスパルナ選手。
 彼女は面白い選手ですから、試合を見るのが楽しみですね。

 他には八雲選手かな。
 彼女もまだまだ速くなる選手だと思うんですよ。
 勝抜けば2回戦で当たるので、足元を掬われないように気をつけようと思います。

 他にも、彼女達のように若い選手が増えてきています。
 彼らの成長には期待せずにはいられませんね。
 まだまだ現役でいたいですから、後輩たちに負けないよう頑張っていきたいと励まされますよ」

 ──来場者の皆さんに一言お願いします。

「そうだなぁ。
 皆さんの中には、エアースイムが好きでいらした方も、初めて見る方もいると思います。
 好きな人にはより好きになってもらえるような、初めての人には魅力を伝えられるような、そんな泳ぎを出来たらいいなと思っています。
 明後日の決勝まで、楽しんで頂けたら嬉しいです」

 ──ありがとうございました。
 

スパルナ >  
 ──意気込みをお願いします。

「もちろん優勝──と言いたいけど、星島がいあるもんなあ。
 とりあえず、星島に一泡吹かせる。
 借りはきっちり返させてもらうからね」

 ──注目している選手はいますか。

「うーん、あんまり気にしないんだよね。
 強い人はそれなりに調べてはいるけど。
 ああでも、咲雪とは一緒に泳ぎたいかな」

 ──八雲咲雪選手ですか?

「そうそう。
 実はね、私にエアースイムを教えてくれたのが咲雪なんだ。
 だからうん、友達とか師匠とか、そんな感じかな」

 ──つまりスパルナ選手も常世島出身という事ですか?

「あーえっと、これ言っていいんだっけ。
 あ、OK?
 そそ、ここがホームグラウンドだよ。

 だからなおさら勝ちたいって気持ちになるよね。
 今日はちょっと、気合が違うから。
 覚悟しときなさいよ、星島!」

 ──星島選手との対決、注目されていますね。

「みたいだね。
 期待に応えて、星島が落とされる所を見せてあげるわ。
 なんて、まずは決勝まで行かないとだけどね」

 ──来場者の皆さんに一言いいですか?

「あらためて一言って言われると難しいなあ。
 んー、そうだな。
 エアースイムって、異能とか種族とか、あんまり関係なく対等に戦える、数少ないスポーツだと思うの。

 力が強いとか弱いとか関係ないし、体の大きさや形だって、勝敗には直結しない。
 だから、じゃないけど。
 この島の皆にこそ、エアースイムの楽しさを知って欲しいなって思う。

 本気で、全力で誰かと競い会える。
 その楽しさを知って欲しい。
 だから、もし興味を持ってくれたなら、是非、エアースイムに挑戦してみてね」

 ──ありがとうございました。
 

スパルナ >  
 テントの中で、S-Wingの最終調整を行う。
 スイムスーツに身を包んだ彼女の周りで、スタッフ達が慌ただしく動いていた。
 試合を観測して、より多くのデータを収集するためだ。

 スカイファイト秋季大会、第一試合。
 第一グループに分けられた彼女は、もう間もなく始まる試合に備えていた。

「厄介なのは──、一人かな」

 ダニエル・ハワード。
 肌の黒い体格のいい男で、決勝常連の【スピーダー】だ。
 逃げ切りを得意としているが、隙きのある相手には容赦ない一撃を決めてヒットを取る。
 比較的攻撃型の選手だ。

「早い内にマークして、足を止めないとな。
 勢いに乗せちゃうとやり辛いだろうし。
 一度ヒットしちゃえば、崩せるとは思うけど」

 スカイファイトの開始位置はランダムだ。
 それによっては、手を出すのが難しくなる可能性もある。
 いくつかのパターンをイメージして、どう戦うか戦術を組み立てていく。

 とはいえ、九人も居れば考えた戦術が役に立たなくなる事も多い。
 結局、始まるまでどうなるかわからないのがスカイファイトだ。

 選手集合のアナウンスが流れる。
 椅子から立ち上がり、バイザーを被る。
 覆面スイマー【スパルナ】の出場だ。
 

実況席 >  
「皆さんお待たせいたしました!
 ついにスカイファイト秋季大会、第一試合が始まります!

 選手達はすでに空へと上がり、フィールドの外で待機しております。
 試合開始まで十分となりました。
 開始直前となりますが、第一グループの選手を紹介して行きたいと思います!

 まずは優勝候補にも名前が上がります、エアースイム初の覆面スイマー『スパルナ』選手!
 バイザーに素顔を隠しながらも、そのスイムスタイルは確かな熱量を感じさせてくれます。
 『空駆ける稲妻』の異名通り、今大会でもフィールドを駆け巡ってくれる事でしょう!

 そして大ベテランのダニエル・ハワード選手!
 ハワード選手を抜きに速さは語れない!
 速さと攻撃力を兼ね備えたスタイルは、繊細かつ豪快で迫力満点です!

 こちらはファイターのマーティン・ジグ──」
 

スパルナ >  
 フィールドの外で待機しながら、浜辺から聞こえてくる選手紹介に苦笑する。
 春大会初戦敗退の選手相手に、優勝候補なんて言い過ぎではないだろうか。
 確かに去年の成績は自慢出来るだけの物ではあったけれど。

(それになに、『空駆ける稲妻』って。
 いつの間にそんな呼ばれ方してたんだろ)

 自分の預かり知らないところで異名が付いていた。
 メディア露出もしないから、スポンサーの広報かどこかが勝手に売り出したのだろうけど。
 それにしたって、少しダサくないだろうか。

(どうせなら『真紅の稲妻』とかにしないかなぁ。
 一応、イメージカラーは紅なはずだし)

 それもまた大概だが。

 そんな楽しげな実況音声に耳を傾けていると、タイマーがカウントダウンをはじめた。
 いよいよ試合開始だ。
 ブザーが鳴ると同時に、彼女は他の選手達と共にフィールドの中へと転送された。
 

実況席 >  
「さあ第一試合は開始から乱戦の様相を呈しています!
 いくつものコントレールが絡み合い、特有の軌跡を描き出します。
 これこそがエアースイムを象徴する光景と言えるでしょう!
 空を色鮮やかに彩っていきます!

 さてそんな中、乱戦から一人抜け出し悠々と泳ぐのはハワード選手!
 非常に高い高度を維持しております。
 これはスタート位置に恵まれたと言えるでしょう。

 ハワード選手、有利なポジションを崩さないまま速度を維持して円を描きます。
 高い位置からの圧力で、他の選手を寄せ付けません。
 早くも逃げ切りの態勢を作っています。

 しかし、ただ逃げ切るだけでないのがハワード選手です。
 下方へ圧力を掛けながら、隙きを伺っています。
 さながら猛禽類、狩人のようです!

 さあ試合時間は早くも3分が経過します。
 ──おおっと、ここで最下方から急上昇するのは紅いコントレール!
 スパルナ選手が高く高く、高度を上げていきます!
 スパルナ選手は下からの食い付きが得意な選手ですが、勝負を仕掛けようと言うのでしょうか!

 スパルナ選手の上昇を遮るように、ハワード選手が頭を抑えます!
 より高い高度からスパルナ選手を牽制しますが、スパルナ選手は更に上昇をはかる。
 ハワード選手に向かって躊躇わずに突っ込んだー!」
 

スパルナ >  
 スタート位置は、セオリーに則るならいわゆる最悪だった。
 フィールド内の海面付近に放り出され、どの選手も彼女より上を泳いでいる。

 エアースイムは高度による有利不利が明確だ。
 より上にいる方が重力による加速を得られ、視界を広く得られ、自由に動ける。
 下になればなるほど、重力の恩恵は減り、視界は狭くなり、使える空間も狭まる。

 もちろん、スタート位置がランダムな以上、低所スタートのセオリーも確立されている。
 低所スタートのメリットは、高度を下げるのが不利になるため他選手に狙われ難い所だ。
 選手によっては高所と同様に、低所での逃げ切り戦法を採る事もある。

 しかし、メリットがあっても基本的に不利になってしまう事は変わりない。
 どこかで上昇を狙わないといけないのだが、その瞬間が最もリスクが高くなる。
 なにせ、人間は背中に目が付いていないのだ。

 異邦人も、視界的な制限だけはフェアになるようにされている。
 もちろん、異能の類も感覚の拡張などは制限されているため、種族や能力での攻略は難しい。
 しかし、それをひっくり返す『技術』はある。

 上下を反転させて泳ぐ【背面泳法】。
 高度な姿勢制御と飛行膜制御が求められるが、実用レベルに達していれば、視界の問題はクリア出来るのだ。
 そして、彼女はソレを得意としている。

 ハワードを除いた7人の選手はすでに乱戦状態。
 彼女が低所での動きを得意としているのは、知れ渡っているのだろう。
 無闇に狙ってくる選手もいない。

 つまり逃げ切りも可能と言える状況だ。
 ハワードもすでに逃げ切るつもりで高所を維持しているのを見れば、厄介な相手は既に居ないも同然。
 このまま低い位置を維持していれば、打撃も取られず、ボーナスポイント込みで三位以内は確実だろう。

 延長戦の可能性はあるが、あるとしても相手はハワードだろう。
 一対一の延長戦となれば、容易い相手だ。
 三位以内に入れるのなら向こうが辞退する事もあり得る。

(でも、それじゃあツマラナイよね)

 乱戦から離れた外周部。
 外側から大きく迂回しながら上昇していく。
 他の選手は誰も追ってくる様子は無い。
 彼女の目的を理解した上で、潰し合ってくれと期待されているのだ。

(──上等!)

 真っ直ぐに高度を上げていく。
 目指すのはハワードよりも高い、高度限界ギリギリ。
 けれど当然のように、ハワードは彼女の上昇を抑え込むように進路に割り込んでくる。

 このまま進めば接触。
 正面からぶつかれば、速度にノッているハワードが有利。
 ヒットを取られるのは確実だろう。

 しかし、彼女は接触直前で空中を蹴る。
 激しい炸裂音と同時に、真横へ高速で移動しハワードの右側面に回り込む。
 そこから再び炸裂音。
 急角度で反転しつつハワードの背面に回り込むと、その背中に右手を伸ばす。

(──獲った!)

 ヒット、ないしは態勢を崩せる事を確信した一撃。
 ハワードは彼女の一撃に反応し、横回転しながら左手で彼女の手を打払う。
 一瞬の接触、保護膜が干渉し合う激しい音の後、態勢を崩していたのは彼女の方だった。

(えっ──?)

 困惑する彼女の目に映ったのは、口元をニヤリと歪めるハワードの顔だった。
 

実況席 >  
「──ハワード選手がヒットォ!
 スパルナ選手に完璧なカウンターを返しました!
 まさかの腕同士の接触での有効判定です!
 これはスパルナ選手も予想外の結果でしょう!」

『スパルナ選手は、S-Wingを姿勢制御に特化して保護強度を犠牲にした調整をする選手だ。
 そのためどうしても背面への接触以外ではヒットがしにくい。
 ただ、それでも腕同士の接触で有効判定を取るのは簡単じゃない。

 ハワード選手の今回の調整は、速度をやや落とした上で保護強度を上げた【ディフェンダー】寄りの設定だ。
 その結果、保護膜の厚さに大きな差が生じて、腕同士でもヒットを取れたんだろう。
 おそらくハワード選手は、スパルナ選手が攻めて来る事を想定して対策をしていたんだな』

「なんとハワード選手は、スパルナ選手を落とすためだけに設定を詰めてきたようです!
 たしかにスパルナ選手には【ディフェンダー】相手をやや苦手とする傾向が見られます。
 そこを弱点と見たハワード選手の見事な戦略でした!

 さあこのヒットによって、ハワード選手が圧倒的有利となりました!
 このまま逃げ切れば一位は確実と言えるでしょう!
 このまま独走して勝利を掴むのでしょうか!」
 

スパルナ >  
(やってくれるじゃない)

 フィールドの外から、再び高度を維持して泳ぐハワードを見ながら、唇を引き締める。
 まさか最初からカウンター狙いで対策をしてくるとは思っていなかった。
 そこは素直に負けを認めるところだ。

 これでハワードは暫定一位。
 対して彼女は六位まで落ちてしまった。
 ここから三位以内を目指すなら、最低でも3ヒットは取らなければならない。

 そうなると嫌でも乱戦の中に飛び込んで行く必要があった。
 ドッグファイトもキャットファイトも望むところだが、当然リスクは跳ね上がる。
 得意分野とはいえ、無敵ぶれるほどスカイファイトは甘くないのだ。

(それに。
 このまま大人しくポイント稼ぎなんてツマラナイし)

 彼女の視線の先には、悠々と円を描いて泳ぐハワードの姿。
 ヤラレっぱなしは、心底面白くない。

 スポンサーからのオーダーは、確実な決勝進出。
 得意とする乱戦でヒットを重ねれば十分に狙えるだろう。
 しかし、そんな計算は彼女の頭から吹っ飛んでいた。

(あいつ、絶対に叩き落としてやる)

 そして、再び彼女はフィールドへと転送される。
 ──残り時間、五分二十六秒。
 

実況席 >  
「目まぐるしく順位が入れ替わりながら、後半戦!
 既にスコアから上位を狙える選手が絞られてきています。
 注目のスパルナ選手は七位からの再入場です!」

『スパルナ選手は乱戦によるヒットの取り合いが得意な選手だ。
 後半の展開次第では十分に上位を狙えるだろう』

「おぉっとここで有利に試合を進めていたジグマール選手がヒットを取られました!
 岩切選手が五位に上がります!
 しかしすかさずサルダナ選手が詰め寄り、激しいドッグファイトが始まります!

 そんな中、一直線に上昇するコントレール!
 紅い軌跡はスパルナ選手です!
 脇目も振らずにハワード選手へと向かっていきます!」
 

スパルナ >  
 再スタート位置には恵まれていた。
 ハワードのやや下方に放り出され、乱戦の中心からも遠い。
 ハワードには近すぎるくらいの位置だったが、彼女のS-Wing設定は初速に優れている。

 自らの位置を瞬時に把握すると、僅かの躊躇もなく真っ直ぐに上昇をはじめた。
 当然のように、ハワードはその頭上を抑える。
 そして彼女もまた、減速する様子も見せない。

 そこからは先程の焼き直しのようだった。

 彼女の得意技、速度を維持したまま、空中を蹴るように急角度で進行方向を変える『スマッシュターン』。
 そして、それを連続して行う『ライトニングターン』。
 保護膜と飛行膜が干渉し合う、鋭い炸裂音が雷鳴の様に連続する。

 これに困惑したのはハワードの方だ。
 すでに一度完全な形でカウンターを決めた展開。
 なにか違う手を打ってくると思った所に、全く同じ動き。

 ハワードは、彼女がカウンターのタイミングに、読み合いを仕掛けてくると考えた。
 けれど彼女は、先程と同じように迷いなく背中を獲りにきている。
 おかしいと思いながらも、それが有効である以上、ハワードも同じ手を使わざるを得ない。

 彼女は腕を伸ばし、ハワードは体を捻る。
 その瞬間、彼女は体の軸を敢えて崩し、まるで腕に振り回されるように姿勢を崩した。
 そんな彼女の手先に、ハワードの腕が接触する。

 その直後、フィールドから消えたのは、ハワードの方だった。
 

実況席 >  
「な、なんとハワード選手撃墜です!
 まるで完全な焼き直しと思われた攻防でしたが、一体何が起きたのでしょうか!」

『スパルナ選手が、意図的に姿勢を崩したんだ。
 その結果、保護膜が手の先に極端に偏る事になった。
 その偏った所にハワード選手が接触。
 今度は反対にハワード選手が弾かれ、ヒットを取られる事になったようだな。

 本来は飛行が困難になるほど、魔力膜を一部に偏らせる事はしない。
 しかし、それを敢えて行う事で、攻撃の通らない相手から無理やりヒットを奪ったんだろう。
 素晴らしい起死回生の一撃だな!

 だが、その結果、スパルナ選手は大きく錐揉みしつつ弾かれてしまっている。
 ここから立て直して、乱戦の中からヒットが取れるかどうか。
 展開がわからなくなってきたな!』

「なるほど──おおっと態勢を立て直せていないスパルナ選手に、岩切選手が迫ります!
 スパルナ選手辛うじて防ぎますが、これは完全にキャットファイトへと持ち込まれました!
 さあ後半5分を切って、ここからどう展開するのか!
 最後まで目が離せません──」
 

ご案内:「エアースイム:スカイファイト秋季大会」に迦具楽さんが現れました。<補足:白地に大きく弱肉強食と書かれたダサTとショートパンツ。長い黒髪を後頭部で結った少女。>
迦具楽 >  
 会場の中心から離れた、人の少ない浜辺の片隅。
 小さなシートの上で、私服に着替えた彼女は遠くの試合を見ながら寛いでいた。

「──ふぅーっ、つかれたぁ」

 第一グルーブ第一試合、結果はギリギリ三位。
 一位は乱戦で着実にスコアを重ねたサルダナ選手。
 二位は下位から追い上げた岩切選手。

 彼女はなんとか、タイムアップ直前でワンヒットを取り、滑り込むように三位へと入り込んだのだ。
 褒められたような試合内容ではない。
 事実、つい先程までメインコーチから相当厳しく窘められていた所だ。

 けれど、そんな事よりも。
 新しい技の手応えに、彼女は胸を高鳴らせていた。

 それは、偶然出会った浜辺の友人のおかげ。
 その友人が発した『乗り物のよう』という一言。
 それが彼女に新しい発想を与えたのだ。

 魔力膜を乗り物と見たら、選手は乗り手だ。
 そう捉えたとき、姿勢制御はただ早く上手く飛ぶ為のモノではなくなる。
 姿勢制御は、魔力膜をコントロールするためのスキルなのだ。

 だからこそ、目的に沿った魔力膜コントロールに必要であれば。
 泳ぎの姿勢を敢えて崩したって構わないのだ。
 とはいえ、実戦で試したのは当然初めての事。

「ヒットはとれたけど、失敗かな」

 立て直しに時間がかかりすぎていた。
 あそこまでコントロールを失っていたんじゃ、次は見逃してもらえない。

 とはいえ、元々成功するかは賭けのような物だった。
 成功したのは、この清められた会場から感じるピリピリとした感覚のお陰だろう。
 肌に刺すような感覚が、神経を鋭くさせてくれたようだ。

「ま、感覚は掴めた気がするし、決勝までには仕上げられそうね」

 だらけた姿勢から起き上がり、両手を胸の横で握りこむ。
 気合を入れるポーズだ。
 やけにやる気が漲ってくるのは、友人たちが見に来ていると思うからだろうか。

 明日は準決勝となる。
 上がってくる選手は誰もが強い。
 少しだって油断できる相手は居ない。

「んー、でもまあ。
 なんとかして見せないとね」

 応援してくれる友人たちのためにも。
 何より自分のためにも。
 今回こそは優勝してみせると、宿敵の顔を思い浮かべた。
 

ご案内:「エアースイム:スカイファイト秋季大会」から迦具楽さんが去りました。<補足:白地に大きく弱肉強食と書かれたダサTとショートパンツ。長い黒髪を後頭部で結った少女。>