2020/10/03 のログ
ご案内:「エアースイム:スカイファイト秋季大会」にスパルナさんが現れました。<補足:黒髪長髪ポニテに頭部を覆う形のバイザーを着けている。白い手袋と赤に白と黒のラインが入った競泳水着のようなボディスーツに、足元には赤いブーツ。>
実況席 >
「ついに始まります、スカイファイト秋季大会決勝試合!
実況は、台本を初日に投げ捨てて怒られたボランティアの永遠ちゃんが、最後まで好き勝手にやっていきます!
台本通りにやらせたいなら払うものは払って欲しいよね!
と、常世の学生をナメるなよーっと言っておきまして。
特定の選手を贔屓したりする事なく、公平に実況していきます!
永遠ちゃんはエアースイムが大好きなので、好きを伝えられる実況を頑張ります!」
『(真っ青な顔で言葉を失っている)』
「兄ちゃんは相変わらずですが、決勝もしっかり盛り上げていきますよー!
皆さんついてきてくださいねー!
さあ、決勝戦と言うことで、選手の皆さんも気合が入っている事でしょう。
この試合で優勝すれば、最強のスカイスイマーの称号、『トップスイマー』を得る事になります。
この日、全世界のスカイスイマー、その頂点に立つのは一体どの選手なのでしょうか!
では、本日は早速、決勝に進んだ選手の皆さんを紹介していきましょう!
まずはこの人、星島和寿選手です!
【トップスイマー】と呼ばれ続け何年経ったのでしょうか!
スカイファイト最年少優勝記録と、連続優勝記録の両方を持つまさに王者と呼ぶに相応しい選手です!
真紅のコントレールは空を引き裂く!
鮮烈なデビューを果たし、その自由な発想で私達を驚かせてくれますのは、覆面スイマースパルナ選手!
春大会での激戦と、去年、星島選手にあとワンヒットまで肉薄した戦績は記憶に新しいです!
ドッグファイトの強さは折り紙付き!
北国からの刺客──」
スパルナ >
秋季大会、決勝試合。
初戦で苦戦させられ、第二試合でも試行錯誤する内に気づけば三位での滑り込み。
ギリギリ繋いだ切符は、一年ぶりに彼女を決勝の舞台へ立たせる。
「ふふふ──ようやくこの時が来たわね」
バイザー越しに、遠くで待機している星島の姿を見据えた。
春大会では徹底的にマークされ、一矢報いることも出来ずに負かされている。
そのリベンジマッチがようやく叶うときが来たのだ。
彼女にとっても、スカイファイト優勝は悲願でもある。
そしてその最大の敵が、王者星島。
技術的には、まだどう足掻いても敵わない強敵だ。
「でも、咲雪の仇も取りたいし、今日こそは」
彼女の友人、八雲咲雪。
第二試合で星島と当たり、完全なマークを受け追い詰められていた。
ペースも崩されヒットも取られ、決勝に残る事はできなかったのだ。
(咲雪と決勝、したかったな)
かすかに寂しさを覚えるが、その咲雪も見てくれているのだと、気合を入れる。
そして再び星島の方へと視線を向けて。
──視線が合う。
(んん──?)
普通の人間ではわからない距離。
だと言うのに、星島は彼女へ目配せをし合図を送ったように見えた。
そのまま見ていると、意味ありげに両手を上げた。
「ふぅん。
なに考えてるのかしら」
そう訝しみながらも。
カウントダウンが始まり、彼女たちはフィールドの中へ。
決勝の舞台へと送り込まれていった。
実況席 >
「始まりました決勝戦!
各選手は互いを牽制しつつ、有利なポジションを探っております。
どの選手も慎重な立ち回りをしているように見えますね」
『決勝戦だからと言うこともあるだろうが、低所でも強いスパルナ選手や、星島選手の動きを警戒していると言ったところだろう。
まずは位置関係を把握しようという動きだな。
こうした慎重な膠着状態は、逃げ切り型のスピーダーやディフェンダーには有利な出だしだろうな』
「なるほど、たしかに各選手じっくりと加速しつつ、得意なポジションを取りに動いております。
とても静かな試合展開です。
この展開はファイターにとっては厳しい状況かも知れません」
『ファイターからすると、乱戦か一対一の状況が本領発揮だからな。
こう互いに牽制し合う手堅い展開が続くと苦しいだろう。
とはいえスカイファイトは如何に慎重に詰めていくかが重要だ。
苦しいと言って下手に動けば、他の選手に的にされてしまうからな。
だが、そろそろ動きがあると思うぞ。
なにせ、自分で試合を動かしたがる選手が二人もいるからな』
「えっと──?
うわっ、解説の通り、フィールドを突っ切っていく二つのコントレールです!
赤と黄!
誰もが期待していた瞬間です!
両者ともまっすぐ、えっ?
まっすぐ直進し合って、正面衝突です!
互いに体勢を立て直し──えっと、う、動きません!
スパルナ選手も星島選手も、動きを止めて直立で静止しています!
これは、その、睨み合いと言うのでしょうか?」
『──ふむ、どうやらなにか言葉を交わしているようだな。
しかし動きを止めるのはスカイファイトでは不利を背負う行為でしかない。
他の選手も見逃さないだろうが、相手が相手だから警戒しているようだな』
「これが両選手による、誘いの可能性もあるって事ですね!
一体、両選手にはどんな思惑があるのでしょうか──」
スパルナ >
動き出すタイミングは、示し合わせたかのようだった。
相手の意図を確かめるための直進。
真正面からぶつかり合い、互いに弾かれあった後、にらみ合うように動きを止めた。
「──で、つまりそういう事?」
自分よりも少し高く浮かぶ星島を、彼女は怪訝そうに見上げる。
星島は肩をすくめながら、笑った。
『君ならわかると思ったよ。
僕はね、全力を振り絞る君と戦いたいんだ』
一見、無邪気そうにも見える笑みに、彼女は呆れた。
彼女と水入らずで戦うためだけに、この男は決勝戦をぶち壊すつもりなのだ。
そして彼女は、答える代わりに星島に向かって泳ぎだす。
星島もまた勢い良く彼女へ向かうが、二人はぶつかり合うことはない。
すれ違いながら、『邪魔者たち』に手を突き出した。
二人の背中を狙った選手達は、驚きながら弾き返される。
「ふん、うっかり取りすぎても恨まないでよ」
『大丈夫さ、合わせてあげるよ。
それじゃあお互い、落とされないように』
そして二人は、別々に泳いでいく。
お互いには目もくれず、狙ってくる選手たちを撃退し、時にヒットを奪いながら。
実況席 >
「――スパルナ選手がヒット!
そしてその直後に星島選手も小薗井選手からヒットを奪います!
一体どういう事でしょうか、激しい対決が予想されていた両選手ですが、お互いにはまるで目もくれません!」
『なるほど、そう言う事か。
おそらく両選手は延長戦での一対一を考えているんだろう。
その証拠に、互いに明らかな隙があっても見逃している。
どうやら最初の接触は、その意思確認のようなものだったようだな』
「え、ええ?
それって、ルール違反ギリギリじゃないのかな?
チームプレイは禁止されてるよね」
『明らかな共闘はルール違反になるが、両選手の動きはただ、お互いを狙っていないだけだ。
実際に、どちらもヒットを取る事に躊躇が無い。
結果的にスコアは横並びだが――同点に出来なかったらそこまでと考えているんだろう。
つまり、どちらも単純にポイントレースをしているだけとも言える。
審判もどうやら明確な違反行為とは取れないようだな。
違反スレスレと言えるかもしれないが、明確に助け合ってはいないからだろう。
他の選手たちも、それに気づいて動き始めたな。
両選手の狙いは一度でもヒットを取られれば崩れる。
もちろん、どちらかがヒットを取れなくても同様だ。
当然、周囲からすれば堪ったものじゃないからな。
これからどちらも集中狙いされることになるだろう。
残り時間は七分か。
両選手の目論見通りに行くか、誰かがそれを阻止するか。
試合前の予想とは大きく外れた展開だが、これはこれで見ものだな!』
「な、なるほど――?
ああーっと、スパルナ選手、逃げ切り狙いだった祝選手を狙いますが、その背後を岩切選手に取られます!
辛うじて防ぎましたが体勢が大きく崩れる!
そこに祝選手が反転!
これは窮地に陥りました!
星島選手も復帰した小薗井選手にキャットファイトへと持ち込まれます!
そして周囲には隙を伺うようにウィンチェスター選手と小欄(シャオラン)選手!
そうです、これはスカイファイト決勝戦!
どの選手も超一流のスカイスイマーです!
思ったようにはさせないと、どの選手も容赦のない攻めをぶつけます!
両選手はこの猛攻をしのぎ切る事が出来るのでしょうか――!」
ご案内:「エアースイム:スカイファイト秋季大会」に神代理央さんが現れました。<補足:金糸が縫い込まれた白いジャケット/黒のスラックス/所謂年頃の少年の様な服装>
神代理央 >
さて。試合展開は白熱している模様。
今回はスポンサーとしてゲスト席に座る事が出来た。
まあ、何時もの事なのだが。
何時もと違うのは、今回のスポンサーとしての出資者は己個人ではなく実家の意向――所謂『神代家』であるという事。
民間軍事企業を含めた、重工業にばかり影響力を保持する神代家のイメージアップ戦略の一環。
今回は、それに付き合わされたというところ。
「……さて。資料にあった選手は…彼か。星島……星島和寿。
流石に他の選手とはレベルが違うな。
良い意味で、実戦的な動きに見える」
【トップスイマー】【エアースイムの王者】
スポンサーになるのなら、目立つ選手に金をかけるのは当然だと、今回注視すべき選手として実家から資料が送られていた。
曰く、今回の大会で結果が残せれば、彼個人へスポンサー契約の話を持ち掛けるとかなんとか。
ただまあ、そんな話よりも――
「………思ったより迫力があるものだな。
平たく言ってしまえば、空中機動での殴り合いということなのだろうが…」
其処に技術とルールが加わる事により『競技』へと昇華される。
血で血を洗う様な実戦ばかり経験してはいるが、スポーツについてはずぶの素人である己から見ても――手に汗握る試合展開である、というのは一目で分かってしまう程の、熱戦。
スパルナ >
目的を察した選手たちに、徹底的な集中狙いを受け続ける。
彼女は得意技の『スマッシュターン』を連発し、猛攻を潜り抜け、辛うじてしのいでいる。
しかし、得意技と言っても、集中力も体力も使う技だ。
あまり連続していれば、当然、余力は無くなっていく。
(――わかってはいたけど、しんどいなあ!)
星島和寿との一対一。
それは彼女としても理想的な展開だった。
だからこそ、彼の企みに乗せられてやったのだが。
最初こそ、動揺した選手からヒットを取ったモノの。
それ以降はひたすら防戦一方だ。
だというのに、星島は悠々と泳ぎ、あまつさえ、彼女を試すかのようにヒットを取っていく。
(ほんっとに、嫌な性格なんだから)
それに決死の覚悟で、紙一重のヒットを取り、食らいついていく。
悔しいが、この展開だけでも星島との実力差を思い知らされるようだった。
それでも歯を食いしばり、横並びのスコアを維持していく。
岩切選手の攻撃を辛うじて受け流し、ギリギリのところで耐える。
余裕は一切なく、一瞬でも集中が途切れればヒットを奪われてしまうだろう。
しかし残り時間も、あとわずか――。
実況席 >
「――タイムアップ!
決勝試合終了です!
みなさん、どうぞスコアボードをご覧ください!
なんと星島選手、スパルナ選手、480点で同点一位です!
両選手の目論見通り、延長戦が決定いたしました!
三位の小欄選手、星島選手を徹底的にマークしていましたが、惜しくも阻止ならず!
四位は祝選手と岩切選手が同点!
両選手ともスパルナ選手を狙っていましたが、しのぎ切られてしまいました!
六位に小薗井選手がついて、七位にウィンチェスター選手です。
八位はコチェルキン選手、九位はレオポルト選手となりました。
この時点で、表彰される上位三選手は決定です!
星島選手、スパルナ選手、小欄選手、おめでとうございます!
優勝を決める延長戦は、この後、三分のインターバルを挟んですぐに開始されます。
誰もが望まず、誰もが望んでいた展開となりました。
星島選手とスパルナ選手の一騎打ちが決定です!」
『まさか本当に同点一位を取るとは、驚きとしか言いようがないな。
星島選手はもちろんだが、スパルナ選手も、一歩抜きんでた実力を持っている事はもう疑いようがない。
あれだけの猛攻を耐えしのぎながら、ヒットすら取って見せた底力はファイターの頂点として相応しいだろう。
しかし、気になるのはその消耗だな。
星島選手にはまだ余裕が見られるが、スパルナ選手はあの驚異的な機動を続けるのに大きな消耗を強いられているはずだ。
一対一の展開自体はスパルナ選手の得意とするところではあるが、この差がどう響くか。
いずれにせよ、スパルナ選手には苦しい戦いになるだろうな』
「インターバルのため、砂浜に降りたスパルナ選手、膝をつきます!
やはりその疲労はすさまじい様子です!
三分のインターバルでどこまで立て直せるのでしょうか!」
神代理央 >
鳴り響くホイッスル。
決勝戦終了のホイッスルは、同時に新たな戦いへの序曲を告げる天使のラッパ足り得るのだろうか。
「……ふむ。余りこのスポーツに詳しい訳では無いが、同点一位で試合を終える、というのは珍しい事の様だな。
とはいえ――」
改めて、決勝戦にて一騎打ちとなった二人の選手を見下ろす。
かたや余裕綽々。未だ体力を温存している様に見える星島選手と、息も絶え絶えと言うように見える……ええと…。
「…スパルナ、か。実家からは何も情報が来ていないが…」
配られていたパンフレットで選手情報を確認しながら、ふむと思案顔。
別に、何方の選手を応援しているという事もない。
今回の観戦は、言うなれば実家の"仕事"。
言うなれば、夜間からの任務に備えての骨休め。
で、あったのだが――
「…逆境の中で、どの様な戦い方をするのか。
その選択と行動は、スポーツも実戦も違いは無いとは言わぬが…大差はない。
さて、あのスパルナとやらはこの苦境。どう乗り切るのだろうな?」
インターバルに入り、膝をつく彼女を眺めながら。
愉快そうに笑いつつ、何処からか運ばれてきたチュロスに舌鼓。
スパルナ >
わかっていた事ではあったが、星島との実力差は明確だった。
正面切って戦えば互角の自信はあったが、こうした耐久をさせられるとどうしても、彼女には厳しい。
自分の技がどれだけ消耗するものか、彼女自身が最もよく知っている。
(使いすぎと言うか、使わされたというか。
やっば、膝が笑ってる)
スタッフに支えられて、一度テントの中に戻る。
彼女の肉体は普通の人間とは大きく異なっているが、その代わり精神的な疲労が肉体にも大きく影響を及ぼすのだ。
インターバルはわずか三分。
その間に少しでも回復しない事には、勝ち目はないだろう。
「――ん、ありがと。
大丈夫、何とかなるから」
テントに戻り、簡易ベッドに横たわる。
一瞬でもいいから意識を落としたかった。
今の消耗に合わせて、意識の再起動(リブート)と最適化を行う必要がある。
専属のトレーナーによるマッサージを受けながら、彼女は怪異としての能力を発揮せざるを得なかった。
人間と同じ舞台で同じ土俵で戦うのがポリシーだったが――そうまでしなければ、延長戦はまともに戦えない。
悔しいが、何とか食らいつけただけで、追い詰められてはいるのだ。
そして意識が戻ると同時に、トレーナーに体を起こされる。
もう三分が経ったのか、と思いつつ、渡されたドリンクボトルを一息で飲み干した。
「――よし、大丈夫、行ってくる」
しっかりと両脚で断ち、頬を叩いて気合を入れなおす。
再びバイザーを装着すると、彼女はテントを出ていった。
実況席 >
「さあ、インターバルも終えて、星島、スパルナ、両選手が出てきました。
共に空へと浮きあがり、フィールドの外で待機します。
延長戦開始のカウントダウンが始まりました!」
『星島選手はやはり、余裕があるように見えるな。
スパルナ選手は表情こそわからないが、先ほどの様子を見る限りではよほど消耗していた。
立て直せていなければ、一方的な試合展開も考えられるぞ』
「そうです、言うなればこの延長戦。
チャンピオンである星島選手に、スパルナ選手がチャレンジャーとして挑む形になります!
スパルナ選手の力がどこまで『トップスイマー』に通用するのか。
春大会の雪辱を晴らす事は出来るのか!
会場は盛り上がりつつも、緊張に包まれた静けさに包まれております!
延長戦開始まで残り一分です。
どちらの選手も声援を浴びながら、開始に備えます。
いよいよ、今大会最後の戦い、その火蓋が切って落とされます!」
スパルナ >
延長戦、彼女は転送直後、視界が開けるよりも早く上昇を始めた。
一対一の戦い、スカイファイトでは珍しい展開だが、それでも基本的な理論は変わらない。
より高い方が有利であり、より早く頭を抑えた方が勝利に近づくのだ。
S-Wingの設定では、初速で彼女が高く、最高速は星島が高い。
細かい機動では彼女が強いが、その分、保護膜の強度で星島が有利と言える。
総合数値ではS-Wingを手足に装備しているだけ、彼女が高かったが、星島は脚だけで十分に強い。
いや、脚だけだからこそ、星島の強さは発揮されているのだ。
S-wingのサポートを最低限にまで落として自在に飛ぶのは、彼の技量と優れた感覚がなければ成立しない。
しかし、それは彼女のスイムも同様だ。
S-Wingの制御機能を最大まで上げたうえで、飛行膜の感度が高すぎる装備をしているのだ。
彼女以外の選手が同じ装備で、設定で泳ごうとすれば、まっすぐに泳ぐことも出来ないだろう。
それだけの姿勢制御能力と、集中力を彼女は有している。
上昇しながら、彼女は周囲を確認する。
彼女より上に、星島の姿はない。
とっさに彼女は反転し、急降下を行う。
その先には、彼女に向かって腕を振る星島の姿。
それを右手で思い切りはじき返し、彼女は再び星島と対峙する。
今は、わずかに彼女の方が上に居た。
「仕掛けてくると思った。
そうよね、貴方にセオリーなんて存在しないもの」
『言っただろう、僕は全力の君と戦いたいんだ。
逃げ切るのは簡単だろうけど、それは楽しくないからね』
「ふん、言ってくれるじゃない。
それが王者の余裕ってやつかしら」
『僕は自分が王者だなんて思っていないさ。
ただ、僕は自分の泳ぎたいように泳いでいるだけだからね』
向き合いながら、スライド――直立から滑る様に泳いで円を描く。
お互いに望んでいるのはドッグファイトにキャットファイト。
そしてそれは、彼女にとっては最大の得意分野。
「その余裕、ぶっ潰してあげる。
――後悔しないでよね!」
彼女の啖呵と同時に、二人は正面からぶつかり合った。
接触し、弾きあい、再びぶつかる。
正面からのキャットファイト、殴り合いだった。
神代理央 >
「始まったか」
開始された延長戦。
――いや、実質の決勝戦。この戦いの前においては、結局今迄の戦い等、前座に過ぎなかったのかもしれない。
急上昇していく二人は、もう肉眼ではとらえ切れない。
準備されていた双眼鏡を手に、二人の動きをフラフラと追い掛ける視線。
「……初速で勝るスパルナと、最高速で勝る星島、か。
高所からの打撃、という点では、スパルナが一歩先んじる様に見えるが…」
もぐもぐとチュロスを頬張りつつ、空に駆ける二人を眺めて独り言。
さて。こういう戦いは大体高所を取った方が先ず有利になりがち、ではあるが――
「技量と経験の差は、如何ともしがたいか」
第一撃は、軽いジャブの撃ち合いの様なもの。
再び対峙した二人は――文字通り、取っ組み合いの喧嘩さながらのドッグファイト。
「……しかしまあ、見事に飛ぶものだな。私では、きっとああはいくまい」
しみじみと。しみじみと観戦しながら呟く。
いや、器具に金をかければ浮くくらいは出来るのだろうか…?
実況席 >
「赤と黄のコントレールが激しく入り乱れます!
これはすさまじい殴り合いです!
インターバル前には色濃く疲労を見せていたスパルナ選手ですが、その鋭い機動には疲れを感じさせません!
むしろ星島選手を押し込むように、徐々に高度を押し下げています!
格闘戦はファイターの真骨頂!
このまま星島選手を追い詰めていけるのでしょうか!」
『スパルナ選手の武器は、その類稀な魔力膜コントロールだ。
それがあの鋭角かつ、機敏な動きを可能とし、ファイターとしての能力を高めている。
だが、そんな動きを続けていれば、当然気力も体力も消耗するはずだ。
スパルナ選手は、自分のスタミナが切れる前に決着をつけようとしているんだろうな。
この猛攻でこのまま押し切るつもりだろう。
だが、星島選手もそれはわかっているはずだ。
どこかで切り返されたら、スパルナ選手には厳しい展開になる』
「赤いコントレールはまさに稲妻のように、星島選手へと降り注ぎます!
しかしトップスイマーは伊達じゃない!
その全てを完璧に防ぎつつ、少しも体勢を崩しません!
ですが、着実に高度は下がっていきます!
もうすでに海面はすぐそこまで迫っています。
さあここからどうなるか――ああっと、星島選手、猛攻にたまらず海面を滑る様に離脱をはかります!」
スパルナ >
順調、とは言えなかった。
彼女の攻めは全て、完全に防がれていた。
けれど、それでも海面に向けて徐々に追い詰めている。
――本当に?
ふと、疑念が頭をよぎる。
しかし、彼女は手を止める事は出来ない。
僅かでも星島に自由を許してしまえば、その瞬間に状況はひっくり返されてしまうだろう。
それだけの実力差を、このキャットファイトで痛感していた。
(それでも、このまま押し込めれば、勝機はある――!)
体力は限界ギリギリだ。
止まれば動けなくなるかもしれない。
だから止まれない。
楽し気に笑みを浮かべながら防戦する星島に対して、彼女は必死の形相で攻撃を続けた。
そして海面ギリギリまで追い詰めて、互いに大きくはじきあった直後。
突然、星島は彼女に背を向けて海面を滑る様に泳ぎだした。
それはやむを得ない行動だろう。
これ以上下がる場所がないのだから、追い詰められれば離脱するしかない。
しかし、初速では彼女が大きく有利を持っている。
星島が加速しきる前に、体勢を立て直し追いかけ、追いつく。
その背中を真下に捕らえ、最大の好機を逃さずに襲い掛かる――だが。
「――えっ?」
思わず声が漏れた。
腕を伸ばした先から、星島の姿が消える。
振り下ろした右手は空を切って、波立つ海面を僅かに弾いた。
一瞬の思考停止。
しかし、彼女は直感に任せて体を反転。
身を護る様に両手を交差させる。
直後に正面から衝撃。
そして、大きな水柱が上がった。
実況席 >
「巨大な水柱が上がったぁ!
スパルナ選手、海面に叩きつけられます!
完全に有利な展開と思われましたが、突如両者の位置が逆転、星島選手の攻撃がスパルナ選書を海へと落としました!
これは、一体何が起きたのでしょうか!」
『――本当に恐ろしいな、星島選手は。
スパルナ選手に追いつかれた瞬間、体を起こして急減速して、スパルナ選手を自分より前に押し出した。
そこから再度加速しスパルナ選手の上を取って、この一撃。
おそらく、追い詰められているように見えたキャットファイトも、全てこの瞬間のための布石だったんだろう。
スパルナ選手の余力が少ないのを見越して、わざと海面まで追い詰められた。
そして逃げるように見せかけてからの奇襲――すべて計算されていたに違いない。
それを防いだスパルナ選手も見事だが、海面に落とされた事で、完全に動きが止まってしまった。
いくら初速に優れていても、ここから逃げ出せるものなのか?』
「スパルナ選手、水柱の中から飛び出します!
しかし、星島選手は見逃さない!
再び強烈な一撃、上がる水柱ーっ!
しかしスパルナ選手、諦めてはいません!
脱出を試みますが、その先には星島選手!
何度も繰り返し、大きな水しぶきが連続します!
これは万事休す、スパルナ選手逃げられません!」
スパルナ >
何度も何度も、体が上下に揺さぶられる。
衝撃に打ちのめされ、自分が今どこを向いているのかもわからなくなっていた。
そんな中でも、辛うじてヒットを取られていないのは奇跡的とも言えただろう。
目がくらみ、視界が歪む。
伸びてきた腕に、ほぼ直感だけで反応して防ぐが、また海面へと叩きつけられる。
衝撃で肺から息が漏れる――ほとんど呼吸ができていなかった。
(――くるしい)
人間と異なる身体をしていても、その機能は人間を模倣している。
呼吸が不十分なら、酸欠にもなり、意識も朦朧とし始めるのだ。
視界も狭まり、もうほとんど見えていなかった。
(――くるしい)
死ぬ事こそないが、意識を失えばその時点で試合終了だ。
途切れ途切れになる意識を繋ぎ留めながら、必死で歯を食いしばる。
けれど、何度目かわからない衝撃に、彼女の足はついに止まった。
『――そろそろ限界かい?
ギブアップならいつでも受け付けるよ』
息も絶え絶えに、海面に辛うじて浮かぶ彼女を見下ろしながら。
星島は笑みすら浮かべながら言う。
その声は聞こえていたが、彼女は答えない。
息が吸える。
血が巡り、酸素が脳に届く。
途切れかけていた意識が、辛うじて保たれた。
「――平気」
か細い、しかしはっきりとした声。
「もう――慣れた」
実況席 >
「――何度、水飛沫が上がったでしょうか。
スパルナ選手、諦めずにもがきますが、その全てを星島選手が叩き落していきます。
あまりにも一方的な試合展開となって――審判が協議を行っています」
『もう五分が過ぎた、サドンデスになっているんだが――星島選手はヒットを取るつもりがないのか?
いや、取り切れない、スパルナ選手の執念がすごいのか。
いずれにしても、このままでは審判によって強制終了もあり得るな』
「はい。
延長戦後のサドンデスは、有効打撃を先に取った方が勝ちとなりますが。
それ以外にもエアースイムそのものの判定に、審判が危険と判断した場合や、選手の意識がなくなるなどと言った場合。
審判の協議による判定で、試合を終了、勝者を決定するというルールがあります。
まさに今、協議が行われていますが――このまま続けば、間違いなく星島選手の判定勝ちとなるでしょう。
――ついにスパルナ選手、動きが完全に止まります。
星島選手もまた、スパルナ選手を見下ろす形で停止しました。
これはこれ以上は危険と判断しての判定待ちでしょうか」
『たしかにスパルナ選手はもう限界だろう。
――だが、これは違うな』
「――?
あっ、スパルナ選手、動き出します!」
星島和寿 >
彼女はもう限界だろう。
繰り返した攻撃の手ごたえ、反応速度の低下。
それらを感じ取り、彼女の動きが止まった所で、手を止めた。
酷な戦法を取った事は自覚していたが、別に彼女を潰したいわけではない。
彼女が棄権するならそれでもよく、しないのなら判定を待つつもりだった。
しかし。
(慣れた――?)
彼女の呟きが耳に届いた。
そして、直後に彼女はまるで幽鬼のようにゆらりと揺れて、泳ぎだす。
(――早いな)
休む暇を与えてしまったからだろう。
その動きは先ほどまでより幾分か素早い。
しかし、追いつけない動きではなかった。
それまでと同じように背中を取り、加減のない一撃を打ちこむ。
だが――。
「な――」
軽い炸裂音。
それは彼女の得意技、その特有の音。
左右へ視線を走らせる――いない。
そこからの動きは、星島自信も無意識だった。
咄嗟に体を翻し、右腕を払う。
身体に伝わる衝撃。
見上げる先には、彼女の姿。
(――そうか)
スネークバイト――ドッグファイトの時、上を取っている選手に対する、反撃技の一つ。
急減速によって、追ってくる選手を前に押し出し、その後急加速によって上を取り返して打撃を加える。
最初に星島が披露した技の一つだ。
簡単にできる技ではない。
この技は現役選手の中では星島のほかに実戦で使える選手はいなかった。
しかし、彼女は何らかの方法で、この技を模倣したのだ。
その方法は、すぐにわかった。
弾き返された彼女が、弾かれた右腕をそのまま真横に突き出す。
それと同時に炸裂音がして、彼女の身体が急速に右へと流れた。
(脚だけでなく、腕でも使えたのか!)
素直に驚嘆する。
そもそも彼女の技は、本来ならアクシデントとされるものだ。
飛行膜と保護膜がぶつかる事で生じる反動は、選手を体勢を崩し、あらぬ方向へと飛ばしてしまう。
しかし彼女はそれをコントロールし、技へと昇華させた。
これまで足を使ったものしか見せてこなかったが――。
そして『慣れた』という彼女の呟きは。
星島の動きを、泳ぎを、『学んだ』と言う事。
右に流れた彼女を目が追う。
しかし、直後にまた炸裂音。
辛うじて目で終えたのは、彼女の身体が捻じれ、その足が振り子のように自分に向けて振り下ろされる瞬間。
そして彼女の身体は無理やりな機動もあってか、姿勢が大きく崩れている。
(これは初戦の――っ!)
表情に焦りが浮かぶ。
初戦で見せた、腕の上からヒットを取る彼女の新技。
このタイミングで使ってくるという事は、防御の上からヒットを取る確信がある一撃。
両腕を構える。
正面から受け止めれば、強引にヒットを奪われるだろう。
一か八か、辛うじて受け流すしかない。
(――っ?)
しかし、伝わった衝撃はあまりにも軽い。
パチン、と小さな音で弾かれた彼女の身体は、そのまま海に向けて落ちていく。
その直後、海上には試合終了のブザーが鳴り響いた。
実況席 >
「――し、終了、試合終了です!
スパルナ選手の意識喪失が確認されました!
待機していた救助スタッフが駆け付けます!
この結果、最後までヒットを取られなかった星島選手の勝利が決定しました!
しかし皆さん見ましたでしょうか!
最後の瞬間、確かにスパルナ選手は星島選手を追い詰めていました!
あと一瞬、わずかの時間があったなら――結果は違っていたかもしれません!
最後まで諦めず【トップスイマー】を追い詰めたスパルナ選手――そして、圧倒的な技量でそれを抑えきって見せた星島選手。
両者とも、最後まで素晴らしい激闘を繰り広げてくれました!」
『う、お、おぉぉぉぉぉ!
素晴らしい試合だった!
星島選手の容赦のない攻撃、スパルナ選手の決して諦めなかった不屈の魂!
そして最後の攻防――全てが世界を代表するに相応しい試合だったあぁぁぁ!!』
「ちょ、ちょっと兄ちゃん泣かないで!?
え、ええと、永遠ちゃんもちょっと感極まって泣いちゃいそうですが!
会場からは両選手の戦いを讃えて、拍手の音が響き渡ります!
ああ、フィールドに残った星島選手、静かに腕を高く上げました!
やはり【トップスイマー】は強かった!
星島選手、連続優勝記録を見事に更新しましたーっ!」
神代理央 >
「……良い勝負だった、と褒め称えららるのは、此れが実戦ではないからか。だが……」
閉会式を迎えようとする会場。
選手たちの健闘を称える声援の中、一人立ち上がりゲスト席を後にしようとして――
「…だが、本当に良い勝負だったな。私も、ああいう風に飛べたらさぞ楽しいのだろうが…」
小さな溜息。
仕事だとか、休みが無いとか、そう言う事では無く――
「…………きちんと飛べるかなあ…」
己の運動センスの無さを嘆く、年頃の少年の独白であったとさ。
ご案内:「エアースイム:スカイファイト秋季大会」から神代理央さんが去りました。<補足:金糸が縫い込まれた白いジャケット/黒のスラックス/所謂年頃の少年の様な服装>
迦具楽 >
ふと、鳴り響く拍手の音に、うっすらと意識が戻った。
ぼんやりと目を開ければ、テントの屋根が見える。
彼女は簡易ベッドの上に寝かされていた。
会場から聞こえる音声は、どうやら閉会式のもの。
おぼろげな意識のまま、顔を横に向ける。
勝敗はどうなったのか――視線の先には、涙を浮かべて首を横に振るコーチの姿。
(ああ――)
彼女は負けたのだ。
あと少し、もう少しだけ、届かなかった。
目から熱が溢れ出す。
重たい腕を持ち上げて、目を覆う。
微かな嗚咽が、大きな拍手の中に紛れて消えていく――。
実況席 >
「これより閉会式が行われます。
今期もまた、素晴らしい名勝負が幾つも繰り広げられました。
選手たちの描いた美しい軌跡は、多くの人を魅了したことでしょう。
閉会式が終わりましたら、そのまま体験会会場として利用されます。
この大会を見て魅力を感じてもらえましたら、ぜひ、体験会にもご参加ください!
私たち、杉本兄妹もスタッフとして参加させてもらいますので、よろしくお願いします。
それでは、実況は私、杉本永遠と」
『解説の杉本久遠だ。
常世島のみんな、常世学園エアースイム部はいつでも仲間の入部を待っているぞ!』
「というわけで、お付き合いどうもありがとうございました!」
ご案内:「エアースイム:スカイファイト秋季大会」から迦具楽さんが去りました。<補足:白い手袋と赤に白と黒のラインが入った競泳水着のようなボディスーツに、足元には赤いブーツ。>