2020/10/10 のログ
ご案内:「裏常世渋谷」に羽月 柊さんが現れました。<補足:乱入歓迎:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。黒の軽装。小さな白い竜を2匹連れている。>
羽月 柊 >  
すぐ隣に在る世界。
近いようで遠い場所。"裏"の常世渋谷。

それはヒトが住まう所ではない。
しかし、数多のヒトの感情が、数多の誰かの噂が、
都市伝説が、形を成した場所として、まことしやかに伝わっている。

それは、確かに在る場所。


そんな、どこか正常な色を失くしたこの世界に、鮮やかな紫が生まれた。
交差点のど真ん中、不意に紫髪に桃眼の男が現れ、
白い鳥のような生物を二匹連れて周囲を見回す。

本来ならば、"通り道"として使うことはあったとして、
裏常世渋谷そのものを目標として、彼がここに立つことは無かった。

例えここには様々な価値あるモノがあれど、容易に手が出せる訳ではない。

異世界に通ずるこの男、羽月柊は、それを良く知っていたし、
この場所が自分にとっていかに危険かも分かっていた。

羽月 柊 >  
それでも、『朧車』と呼ばれる怪異の話を聞けば、ここに彼は立っていた。
教師になった男は、自分に出来ることをしていた。

 
もしかすれば、迷い込んだ生徒がいるやもしれない。

もしかすれば、戦っている生徒がいるやもしれない。


男は首元に朧に燐光を放つ首飾りを着け、辺りを注意深く歩いている。

しかして、自分は決して万能という訳でもないし、戦闘能力が高い方でもない。
精神性にしたって、強がってかっこつけてはいるが、
崩れると脆いのは自覚している。

朧車では無く、精神に訴えて来る方の怪異に当たれば、引き返すしかない。


── 一人分の足音が交差点に響く。

それは、他の"ヒト"を、探して。

ご案内:「裏常世渋谷」に橘 紅蓮さんが現れました。<補足:赤髪、灼眼、白衣、煙草、黒手袋、白衣>
橘 紅蓮 >  
煙草を咥え、煙を立ち上げさせながら、ゆらゆらと歩く女が一人。
ここ最近、風紀委員の周りを騒がせている『朧車』とかいう怪異を一目見てみようかと気まぐれに立ち寄ったが、運がいいのか悪いのか目の当たりにすることもなく。

風紀委員も仕事をしていないわけではない、ならば個体数が減ってきているという事だろうか。
 
「少しつまらないな。」

独り言ちる女はそれでも裏常世渋谷を歩き続けた。
怪異と相対する人間の心理状況という貴重なデータを得る機会はそう訪れる物ではない。
次はあのレイチェルという風紀委員にでも相談してみるのもいいかもしれない。

怪異と人を探して歩く女はそこでようやく、一人の人間らしき姿を視界にとらえる。

黒紫の髪、そして桃色に光る瞳。
傍らに二匹の竜を連れ、黒衣をまとう姿は生徒と言うには些か不可思議に見える。
いや、この島はそう言った人間ばかりが集まるのだが。

何かを探している風の男にゆっくりと近づいて、話しかける。
この男は例の怪異は見かけたのだろうか。
ここに来た目的は、聴くことはいくらでもある。


「やぁ、ずいぶんおしゃれなペットを連れているね。」


場合によっては使い魔の方が正しいかもしれないが。
個人的な印象としてそう述べた。
紅蓮にとってはどちらでもいい話だ。

羽月 柊 >  
声がかかれば男はバッと振り向いた。

振り向きざま、首飾りと、耳の金のピアスが揺れる。
首飾りは、先端に燐光を放つ石のようなモノが取り付けられている。
もし女性に魔術的な素養や感知能力があるならば、そういった品であると分かるかもしれない。


──相手が生徒のようには、見えなかった。

生徒というものは、何かしら、そういう雰囲気を持っている。
それは学習欲だったり、どこかしらの危うさだったり、あどけなさだったり、そういった…何か。
大人の生徒もいるにはいるので、全てに当てはまる訳ではないが。


それにしても、別段男が気配を消していた訳じゃあない。
ただこの裏常世渋谷で、"当たり前に"声をかけられたことに、男は驚いた。

それはまるで、表の世界で、道半ばに顔を見たような気軽さだった。

故に、男は思わず警戒心を隠しもせずに、
桃眼は厳しさと訝しさを持って見つめることだろう。


「…………。」

男は、相手に返事をするかどうかさえ、考えあぐねた。
怪異や隣人は、返事をすることさえ厄介なことになる場合も多くある。

いいや、見てしまったことにすら、聞いてしまったことにすら、歪な縁が出来てしまう事もある。


故に、その桜は訴える。

"ヒト"か"そうでないか"と、問うように。

橘 紅蓮 >  
「あぁ、なるほど。
 確かにこの場所で、唐突に話しかけられるのは少々恐ろしいものか。
 何せこの場所は向こうよりも凶悪な『怪異』と出くわす可能性も高い。
 返事をしたら帰れなくなったなどとなったら洒落にならないからね。
 君は随分賢い男の様だ。

 けれどそうだな、安心してほしい。
 私はこれでもこの常世学園の教師でもある。」

男の反応に満足した様子で、身に着けている白衣の中から、紐でくくられたネームプレートを見えるように男に指し示す。
お互いに触れることができない程度に近寄れば、其処に書いてある文字は比較的見やすいように大きく書かれている。

『常世学園教諭 スクールカウンセラー 橘紅蓮』

片手に銀のアタッシュケース、口に火のついたタバコ。
このような場所に置いても白衣を身に着けている女は、本来であればこの場所に似つかわしくないようにみえるが、不思議とこの空間に居る事の方が自然に感じてしまうという違和感を男に与える。

女は男の反応を楽しみながら、観察している。
そういう印象を見て取れるだろうか。


「人間という証明はこれで十分かな?」


女は揶揄うように肩をすくめて、にやりと笑った。

羽月 柊 >  
「……教師。」

紅蓮の言葉を反芻するように、僅かに掠れた低い男の声が応えた。

まさかこちら側で逢うのが、
生徒でも怪異でもなく、数少ない"同僚"の一人とは予想もつかない。

安心して欲しいと言われたとて、流石に見知らぬ相手だ、
臨戦態勢にも近いような反応をしたこと自体は解除したが、
その瞳は細めたままだった。

もちろん、そんな"返事をしてはいけない相手"の為の対策だって、していない訳じゃあないが…。


「…まさか、ここで教師に逢うとはな。」

まだ、男は自分の身分を明かさなかった。


しかし、この男もつい最近とはいえ教師に成った身である。

もしかすれば、学園ですれ違ったことがあるかもしれない。
もしかすれば、職員室で話しているのを見たことはあるかもしれない。

橘 紅蓮 >  
「教師に逢うことがそんなに驚きか?
 いや、確かにこの場所に訪れる教師陣の方が珍しいか。」

普通の教員ならば、今頃は自宅に帰っているか、教鞭をとるための教材を作っているか。
授業のプランを練っているか、部活動に携わっているかと言った感じか。
少なくともこのような危険地帯に足を踏み込む教師というのは数多くはないだろう。


「生憎私は教鞭を取る事はそう多くはない。
 一般教養の授業で臨時講師に呼ばれる程度だ。
 本業は『カウンセラー』だからね、自分の個室に籠っている事の方が多いからな。

 見覚えが無いとしても無理はない。」

ネームプレートを白衣の胸元のポケットにしまい込んでから、煙草を携帯灰皿に押し込んだ。
随分警戒されているようで、男が名乗る事は無かった。


「ここに来た理由は単純だよ、『例』の怪異を少々見て見たくてね。
 いや、正確には『朧車』と相対する少年少女たちの心理状況の変化を確認したかったという具合か。
 現場を知っているのと知らないのとでは対応が変わってくるからね。

 そういうお前は、此処に何しに来た?」


こちらは素性を明かしたのだから、多少は言葉を交わしてもいいのではないかと、言外に目を細めて促す。
自分だけ喋っているのは退屈でつまらないものだ。

羽月 柊 >  
恐らく、今回の『朧車』にしても、関わるのは圧倒的に生徒の方が多い。

祭事局、風紀委員、生徒会…。
"子供"が関わる数の方が、間違いなく多いはずなのだ。

「…そもそもにだ、ここに"来ることが出来る"モノの方が本来は珍しいだろうな。
 今は委員会総出で件の怪異に対処しているからというのは、あるだろうが。

 貴方も俺も、そんな"珍しい"モノだ。」

男はそう告げる。
黒い軽装は、動きやすさを重視していて、フィールドワーク向けとも言える。

「俺は、こちらに来れる身として、
 迷い込んでしまった生徒がいないかと見に来た"同僚"だとも。
 
 俺は羽月柊(はづき しゅう)。
 この夏に教師になったばかりの研究者だ。
 ……だから、驚いているんだ。
 怪異の事があるからと言ったって、教師同士が"こちら側"で逢うことがな。」

相手側にしたって、こんな所で呑気に話していても良いモノなのかとも思う。
男は話しながらも視線を彷徨わせ、己の目的を果たさんとはしていた。

橘 紅蓮 >  
「そういう事もあるだろうさ。
 なにせ、この島の教員は全てが善良な人間とはかぎらないのだからね。
 生徒も教師も、この島は地獄の窯の中の様なもの。
 何があってもおかしくもない。」

そうして自分達が出会う事も、偶然ではあったとしても其処にいたる理由には必然がある。
故に、珍しいとは思っても、そうおかしなことでもないと述べるのが紅蓮という人間であった。


「羽月柊。 なるほど、道理で面識のない筈だ。
 生真面目なのもうなづける。
 そんなものは風紀委員にでも任せておけばいいとは思うが、いや。
 そういう教師が居ても悪くはないか。」


この島に来る前の自分であれば、そのような思考も持ったかもしれない。
新人やら、若さやらというものはそういうものだ。
正しさやら、こうするべきだとか、そういうものに捕らわれたがる。
悪いとは言わないが、紅蓮はそれが嫌いだった。


「それで、怪異に怯える教諭はまだ、可愛そうな生徒を探すのかい?」


視線があちらこちらに彷徨う様子の羽月に、やれやれとため息を一つ。
仕事熱心なことだと、小言をもらした。 

羽月 柊 >  
実験都市。
この島はそういう名目の上に成り立っている。

数多の何もかもを詰め込んで、どうなるかを観察している。
それは表面上、観察出来たことは公に公開されてはいる。
しかし、落第街やスラムがそうであるように、この裏の常世渋谷がそうであるように、
"何もかも"がそうである訳ではない。

それにしても……カウンセラーだというに、
相手の言葉は、煽り、神経を逆撫でするようだ。

「…警戒はいくらしたとてやりすぎではないだろう、こちらの世界ではな。
 力のあるモノならば強引にでもどうにかなるやもしれんが、
 この世界は、力だけではどうにもならんことはままある。」

男はいつでも動けるようにとしていた。
腕を組むことも、腰に手を置く事もしていない。

話している最中でも、交差点という、本来ならば往来の場所であったとしても、
ここは全くもって、安全ではないのだから。

「これでも、風紀に知り合いは多い方でな。
 彼らとて"子供"なことには違いないだろう。
 
 手助けぐらいは、出来るだろうに。」

正しい正しくないという心持ちで来ている訳ではなかった。
そんなことを言い出したら、魔術師としての自分は正しさに裁かれなければならない。

橘 紅蓮 >  
「それは確かに。
 しかしそれほど危険と分かっていながら、お前にはそこまでして生徒を手助けする理由があるんだね。
 警戒しようが、どんな準備をしようが、死ぬときは死ぬ。
 君も私も、生徒もまた。
 それは私たちの業務内容には含まれてはいないだろうに。」

物好きなものだと、一度だけ、上から下まで舐めるように観察する。
子供が好きな教員、というイメージとは結びつかない。
寧ろ淡白ともいえる印象を受けるこの男のどこに、そんな目的を持たせる理由があるのか。
それが気になった。

男が何があってもいいように警戒するのに対し、紅蓮はこれといって辺りを気にする様子などない。
目の前の男にだけ興味を示す。
大通りの真ん中に、手にしていたアタッシュケースを椅子代わりにおいて、軽く腰掛けた。

「子供だからこそ、余計なお節介はしないのが私の主義でね。
 いや、お前がそうしたいというなら止めないさ。
 私には私の、お前にはお前のやり方があるという話だ。」

相手が助けを自分に求めるならば、誰かがあの子を助けてと懇願するのならば、自分はそうも動こうが。
そうでないのなら、そう動くことに意味などあるのだろうか。
もしそこに意味があるのだとすれば。

いや、これは言葉にすまい。

女は、微かに嗤う。
 

羽月 柊 >  
「…そうだとしてもだ。」

夢を失い、心から感情を出すことはまず無いだろうとされるこの男。

けれど、今まで出逢って来たモノたちが、
彼に今こうして誰かの為に手を差し伸べることが出来ると、思い出させてくれた。
『言葉は届く』と、『周回遅れでも走れ』と、同僚は言ってくれた。

どんなに傷付けられても、どんなに裏切られても、
その同僚は生徒の為と闇すら歩いてきた。

部下となって己を支えてくれたモノは、
自分が伸ばした手を取ってくれた。

まだ未熟でありながらも、熱意のままにひた走る友人がいた。

そんな、己は独りでは無いと思い出させてくれた、彼らの隣に在りたいから。


「確かに"ただのヒト"は、この世界の何にも抗えはせん。
 自分よりも遥かに上の存在は居るモノだろうし、命終わる時なんぞはあっけないモノなのだろう。
 だが、警戒も準備も何にせよ、やらないよりはやった方が遥かにマシだと俺は思っている。」

こんな場所で座りすらしてしまう相手に、溜息を零す。

「業務内容以前に、お節介をやったことで、こうして教師になったモノでな。
 業務に含まれていようがいなかろうが、俺の意志でやっていることだ。

 …『余計なお節介だ』と嫌う生徒が居る一方で、
 この島の子供に全てを委ねる歪さから、俺たち大人に頼りたいというモノもいる。」

橘 紅蓮 >  
「なるほど、こいつは筋金入りだ。
 お節介もそこまで極まれば一概には否定できないな。
 お前を構成する何かは、それを欠かせないものだと認識している。
 ならばそれもいいだろう。」


思いの他、予想の域を出なかった言葉に、何処か退屈げに空を見やる。
善良であるゆえに、それ以上の域を出ない。
人間として立派な行いであり、その思想も拍手こそすれど唾棄するようなものではない筈だが、紅蓮にはそれが少々忌々しく見える。

それを隠そうとすることも、しない。
だが、あえて批判することもなかった。
価値観の違い、それだけの話なのだから。


「どいつもこいつも救えない。」


己の口癖が零れたことに気が付いて、やれやれと嘆息してはポケットにしまってある煙草に手を出した。
目の前の男にひらひらとそれを見せて、吸ってもいいかとジッポのふたを開けた。


「お前の意志でやっているというなら、一つだけ聞いてもいいかい?
 お前さん、それが叶わず目の前で何かを失った時、どうするんだい?
 もう一度、その言葉を吐いて、それでもとお節介を続けるのか?」

羽月 柊 >  
以前は己も眼前の女性と同じく、冷えていた。

己には何も出来はしないと諦めて、自分に必要なモノ以外を全て切り捨てて生きていた。
心の底で救いを求めたとて、己は罪人だと眼を逸らし、
自分の腕で抱えられるだけのモノを抱えて、その日暮らしをしていたに過ぎなかった。

己の全てが正義ではない。
今まで歩いてきた道に落ちる暗い影は、無かったことに出来はしない。

…それでもと、歩き始めた。


「…あぁ、続けるとも。」


男はこの一時、彷徨わせていた視線を真っすぐに紅蓮へと向けた。
凜と咲き誇る桜のように、散るとしてもと。

「……この身は、既にいくつも『取りこぼした』身だ。」

男が『トゥルーバイツ』と呼ばれたモノたちと相対した日、
幾人も柊は生徒に語り、手を伸ばし、そして目の前で喪ってしまった。

「どうすると言われたら、今こうしているとしか言えん。
 ……未だに惑うことも多くはあるが、
 諦めれば、俺は俺を教師にしてくれたモノたちに、…申し訳が立たん。」

右耳の金色のピアスは、この狂ったような世界でも、煌めいている。

万能も完璧も在りはしない。
自分は言わば失敗の塊のようなモノ。
それでも、誰かの道筋で在れると言われたからこそ。

最後の言葉と同時に眼を伏せ、再び視線は彼方へと。

橘 紅蓮 >  
「……そうかい。
 ならせいぜい取りこぼしが一つでもないように気張る事だね。
 特に、自分にとって一番大切なものができた時に、それと気づかず失う事が無いようにさ。」

 
男の言に、嘗ての小学生の教師だった頃の自分を重ねる。
自分にも、そういう時期があったかと目にする。
この二人の違いは若さや教師としての年期というよりは、きっと。
周りによる人物や環境による影響の違いなのだろう。

暗い影の隣に、それでも歩み寄る者が居た。
きっとこの男はそういう人に恵まれたのだろう。
それは尊いものの筈だ。

返事がないことを肯定と受け取り、煙草に火を点けて口に運んだ。
肺を煙が満たすまで吸い込んでから、男のいない方向へ其れを吐き出す。
ほんの少し、甘ったるい煙草の匂いが伝わるだろうか。


「あんたみたいな教師がもう少し多ければ、この学園も少しはましだったかもね。」


この学園が抱えている様々な不条理を想いながら、煙を見つめる。


「説教臭かったかね。 そろそろ先輩教師のお小言は鬱陶しいだろう。
 哀れな子羊を探すのに戻るかい?」

羽月 柊 >  

相手が煙草を吸うことには、特に何かを言う素振りは無かった。
せいぜい、風下にならないようにと傍らの白い小竜たちが、少し逃げたぐらいだ。

 
「──……俺にとっての"一番"は、もう居ない。」


 一瞬、男の熱が……冷えた。

暖色であるはずの男の眼も、髪も、その一瞬だけは、
この世界のように鈍ってすら見えた。

どれほどに友を得ても、他人に触れられても、未だに埋められぬ『空白』。

 救われない。

 救われはしない。

むしろ、救われることをそれこそ、この男自身が拒否している所すらある。
『救えない』というのは、ある意味合っているのかもしれない。


「…少なくとも、俺の知っている同僚は、
 生徒には俺よりも真摯に向き合っているとは思っているがな。

 まぁ、貴方が言っていることも確かに世界の姿の一つなのだろうな。
 鬱陶しいとは言わんが、時間が惜しいのは確かかもしれん。
 ……出来れば、学校で逢った時に話せれば良かったのかもしれんな。」

そう言っては息を零した。

橘 紅蓮 >  
「それはお気の毒に。」


思ってもいない、そういう言い方ではなかった。
慰めているというわけでもない、同情している、という風でもなかった。
只、紅蓮という教師もまた、悲しげな眼を少しだけ浮かべるのみ。


誰にでも、変わってしまうきっかけというのは存在する。
男が冷えてしまったきっかけがある様に、紅蓮にもまた、諦めたような言動をするようになるきっかけがあったのだ。
それが何だったのかは、今の彼女が語ることはないだろうが。


「詫び代わりと言っては何だけれど、教えてやるよ。
 久那土会、そういう名前の違反部活がある。
 この、『裏』を調べているろくでもない連中さ。
 そのお節介をまだ続けたいっていうなら、そういう場所ともつながりを持っておくんだね。」


降ろしていた腰を持ち上げて、ゆっくりと立ち上がった。
アタッシュケースを肩に背負うようにして、男があるいて来た方向へ歩み出す。
すれ違うように、男の隣をよぎる。


「話したいことがあったら、私の個室に足でも運ぶといいさ。
 いや、あんたにはそういうことは起きないかもしれないが。
 これでもカウンセラーだからね、傷ついた少年少女でもいたらよこすといいさ。」

羽月 柊 >  
こんな世界を委員会の力も借りずに歩いている。
それだけで、裏と僅かに通じている箇所というのは、この男にもある。
だが、紅蓮が語らないように、初対面の柊もまた、語ることはない。

「……ああ、頭の片隅にでも置いておこう。ありがとう。」

だから、親切心には上っ面のような礼が返るのみであった。


「まぁ、世話になるかは分からん。
 ならんように済むのが良いんだろうがな。」

すれ違う相手に瞳を伏せ、男もまた歩き出した。

『それでも』と、語り、手を差し伸べる為に。



「……     、        。」

男が呟いた言葉は、傍らの小竜たちにしか、聞こえていなかった。

ご案内:「裏常世渋谷」から羽月 柊さんが去りました。<補足:乱入歓迎:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと手に様々な装飾品。黒の軽装。小さな白い竜を2匹連れている。>
ご案内:「裏常世渋谷」から橘 紅蓮さんが去りました。<補足:赤髪、灼眼、白衣、煙草、黒手袋、白衣>