2020/10/11 のログ
ご案内:「宗教施設群:修道院」に日月 輝さんが現れました。<補足:身長155cm/フリルとリボンにまみれた洋装/目隠しを着けている[待ち合わせ]>
ご案内:「宗教施設群:修道院」に羽月 柊さんが現れました。<補足:待合済:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと両手に様々な装飾品。くたびれた白衣。小さな白い竜を2匹連れている。>
日月 輝 > 異邦人街にはそれはもう数多に宗教関係の建物が立つ区域があるわ。
特別に名前が付いている訳ではないそうだから『ああ、あの辺の』とかちょっと曖昧な呼ばれ方をする場所。
この世界の宗教のみならず、異世界のものも多いからか建物群の様子は中々どうして壮観よ。
小高い丘から見下ろすと、特別に宗教を贔屓にしてないあたしでも神秘を感じちゃうわ。
「こんにちは。マリー、居る?差し入れを持ってきたんだけどー」
此処はそういった場所の一つ。親友の住み暮らす修道院。入口に『懺悔・相談・不満・愚痴 全てお聞きします』
なんて看板が掲げられていて、愚痴まで聞くのは大変そうね。なんて思う。
だからか、扉を開けて声高らかに御挨拶するあたしの声はちょっぴり案じるようなもの。
けれども、紫無地の風呂敷包みを手にしたままのあたしに返る返事は無い。どうも生憎留守みたい。
「まさかまた誘拐されてたりしないでしょうね……」
長椅子の並ぶ礼拝堂を抜け、奥の扉を開けて小規模な応接室を視る。
マリーは居ない。何かしらの揉め事の痕跡も無い。ちなみにエルネストさんも居ない。
彼は善意で留守番を務めてくれた神父様のようで神父様ではない善意の第三者であるから、
マリーが回復した今は務める諸々も無くなった──という事なのでしょう。
ともあれ、それは一先ずとしてもう一度とマリーを呼ぶ。やっぱり返事はない。
どうやら私室にも居ないようで、つまりは何処かに用事かしらと納得する。
「これ、どうしましょ」
風呂敷包みを手に目隠し裏で眉が寄る。まさか置いていく訳にも行かないし。
ともすれば、礼拝堂でそうした様子を示すのは不審者のようでもあったかも。
羽月 柊 >
一人の男が白い鳥のような生物を二匹連れ、修道院の前へと現れる。
「確か……ここか。」
男は独り言ちた。
扉が開いているのを見て、そのまま歩む。
修道院の硬い床にカツンと質の良い革靴の音が響き、
もしかすれば少女の耳に、来客を告げたかもしれない。
その手に持つ包みの色と同じ、紫色の髪と桃眼。
白衣を揺らして、男は入口でぐるりと院を見渡していた。
「…さて……ん…?」
件のシスターマルレーネではない少女が、そこにいた。
「…こんにちは。」
静かな声が、少女の後ろから。
声の主は見知らぬ…大人の男。
少女よりもよっぽど不審者のように見えなくもない。
あんな事件があった後では、研究者のような男は余計に怪しく見えるやもしれない。
ここに来るのは初めてだ。
そもそもに…宗教施設群へ近寄ることが早々無いのだが。
『ディープブルー』の件に関わったことで、何かしらの伝手でここを知ったのだろう。
日月 輝 > 例えば、もし今表の看板を見て誰かがやってきたらどうしましょう。なんて事も考える。
エルネストさんのように振舞うのは、ちょっと不味そうに思う。第一シスター服姿じゃないもの。
「第一、あたしに誰かの悩みや愚痴なんてね」
聞いてたら途中で嫌になりそうだわ。
勿論知り合いであるとか、恩義のある相手であるとか、そういった人達なら別。
完全な他人のそうした諸々を聞くのが、という話であって、日常的にそれらをこなすマリーに溜息を吐く。
──そうした所で硬質な音を聞いて振り向く。
目隠しをしていようと、特別な拵えの代物は過不足無く来客を視た。
「あら……ええと、こんにちは。修道院に御用?
でもお生憎様。マリーは──シスター・マルレーネは留守みたい……」
白衣姿の長躯の男性。印象としてはお医者様?
でも、不可思議な生物を連れた様子は何処か違う風でもあったかも。
「あ、もしかして往診の御医者様?だとしたらうっかりねあの子ったら。
退院してまだ日が浅いってのにお約束事を忘れるなんて」
呆れるようにちょっと大袈裟に肩を竦めて男性に近づく。
そうして、白衣には合わないと言えば合わない装飾品に首を傾ぐようにもなるの。
御医者様ならそういうものは普段は付けないものでしょうから。
「それともやっぱり御相談の方かしら。ええと……そっちなら言伝くらいなら承りますけど」
鮮やかな春を思わせる瞳を見上げて唇をゆるやかに笑ませる。
目隠しをしていようと十全に見えていると思わせる動きで、真実見えている動き。
羽月 柊 >
「ん…あぁ、留守なのか。
君はマルレーネの知り合いのようだな。」
行き違いになってしまったかと呟いた。
まぁ何せ、多忙な日々の中で見つけた時間で来たせいだ。
事前にアポでも取っておけば良かったと思う。
小さな少女を見やる。
20cm以上も差があれば、彼女の頭は男の胸元ほどだろうか。
可愛らしさの塊のような服で、その飾り立ては、
白衣にシンプルなシャツの男とは、その手の装飾を除いて対照的に見える。
目隠しをしてなお視えているような動きに、
男はさして驚くような様子は無かった。
異邦人との交流が多い故もあるが、
異能や超能力の類で視えていたとて不思議ではないと考えているからだ。
「いや、生憎医者でも相談者でも無くてな。
俺も知り合いではあるんだが…。
俺は羽月 柊(はづき しゅう)と言う教師だ。」
相手に風紀委員の腕章がある訳でもなく、
そうなれば、『ディープブルー』の事を口に出すのは憚られる。
自分とマルレーネとの繋がりと言ったら、そこなのだが…。
日月 輝 > 「ええ知り合い。そして当人は留守。で、貴方は──」
御医者様でも本来の来客でも無い。
だとするとこの男性は──そう、脳裏に幾つかの思考が転がりかかってぴたりと止まる。
彼の名前には聞き覚えがあったから。マリーに関わり、尽力してくれた内の一人。
その名前は山本さんから確かに聞いていたわ。
「まあ、貴方が!その節はどうもお世話になって……ええと、お名前は風紀委員の山本さんから伺ってるの。
マリーが誘拐された時にお手伝いをしてくださったとか……先生でもあったんですね。
学校、広いからとは言え知らずに御免なさい。あたしは日月 輝っていいます」
お日様の日にお月様の月。それに輝くと書いてあきら。
と、自己紹介をして頭を下げて、伴う言葉は些かに改まるもの。
「それでええと……ということは、何かマリーにお知らせを?もしかして犯人が捕まったとか!」
伴う足元は改まらないでもう一歩と踏み込んでしまうのだけど。
風呂敷包みからお醤油の匂いをさせていたら緊張感も何もあったものではないけれど、
そんな事を気にしている場合じゃあないわ。
羽月 柊 >
輝が己の漢字をどう書くかと言われれば、
羽根の羽に、同じく月、それから植物のヒイラギと書いてシュウだと柊も応えるだろう。
柊をシュウだと読むことは早々無いが、音読みとしてシュウとシュがあてられているのだ。
冬の木と書き、クリスマスの装飾として、魔除けの植物として使われている。
「山本の……あぁ、なるほど。山本は俺の"友人"だな。
"あの時"に山本が連絡を取っていたのは、君か。
知っているかもしれんが、俺は一応、教師の身でな。」
『ディープブルー』のブラオと名乗った研究者との決戦前。
組織のレポート資料を見つけた折、共闘した一人である友人の山本英治が、
携帯デバイスで連絡を取っていたのを思い出した。
その時確かに「輝ちゃん」と、相手を彼が呼んでいたと。
「…ということは、君がマルレーネを直接救出したんだな。
委員会に属しているという訳でも無さそうだが…危険は無かったか?」
彼も顔が広いなと思いながら、自分と同じく外部からの協力者であった少女に対し、
大人である男は怪我などはしなかったか、と。
日月 輝 > 名前の表しを聞き頷く。確かに山本さんから聞いた名前だわ。
柊と書いてシュウと読む人は、そうそうは居ないもの。
「山本さんも顔が広いのね。流石風紀委員、頼もしいわ。
……なんでも少し体調を咎めたとかで、お顔は出せてないのだけど……。
ともあれ確かに連絡をとっていたのはあたしで間違いないわ」
山本さんが怪我をして入院したのは知っていて、
けれども別の方向で咎めた事も聞いていて、
だから、お見舞いには行けていない不義理を吐露して語調が下がり、足も下がる。
羽月先生より一歩離れて肩を落とし、でも、直ぐに上げる。
「あたしだけじゃないわ。神名火さんという方もいて、彼女の御蔭もあって此方は無事に。
危険は……危険だったけれど、あたしの力は結構"そういうとき"に便利なので。
羽月先生の方は大丈夫でした?……と立ち話もなんですし」
彼の返事を待たずに歩き、奥の扉を開けて促す所作。
「……折角ですし色々お話を伺えたら。
お時間大丈夫でしたらどうですか?丁度お茶請けもありますし」
紫無地の風呂敷包みを掲げて見せる。
隙間から覗く二段重ねの重箱が判るかも。
羽月 柊 >
「まぁ、山本は俺が教師に成る前から、縁あってな。」
小竜の一匹が頭の上に乗って、
少々髪がくしゃくしゃになった所で全く気にしていない。
どうやらいつものことのようで、慣れているといったばかりだ。
「あぁ、…しかし、良いのか?」
奥の扉が開けば、礼拝堂とは違った
ちょっとした来客用のスペースのような場が見える。
少女を追いかけて見下ろしながら、勝手に使っても良いのかと問う。
傍らの小竜たちが飛ぶのをやめて男の肩と頭にそれぞれ乗った。
そうして輝の方を見てキュイと鳴く。
重箱も見えたが、それこそマルレーネにと持って来た品ではないのだろうか?
大丈夫だと分かれば、話の続きが聞ける。
「…戦闘能力がある、か。まぁ、この島なら確かにそれで良いのかもしれんな。
こちらはまぁ、そこそこに負傷はしたが…今はどうということは無い。
俺なんぞは、戦った三人の中でも一番軽症の方だったからな…。」
日月 輝 > こじんまりとした応接室は調度と呼ぶべき物も無い質素な造り。
如何にも清貧を謳ってそうで、実際に謳っているかは知らないところ。
今度マリーに聞いてみようかな──等々を考えながらにお茶の用意を整える。
何処に何があるのか恰も自宅であるかのように見知った様子のトントン拍子を設えて──
「粗茶ですが……って他人の家で言うのも失礼よね、うん」
テーブル席に二人分のお茶を淹れて自分にツッコミを独りごちる。
素焼きのティーカップに緑茶がアンバランスに湯気を立ち上げていた。
「多分良いの。マリーならきっと、お世話になった人にお茶も出さない。なんて事はしないでしょうし」
物静かな羽月先生はともすれば冷静、悪く言うなら冷たい印象があるといえば、ある。
でも、頭に不思議な小動物が乗っても厭う事無く振る舞う様が何処か柔和に思わせる。
動物に好かれる人に悪い人は居ないと、あたしは思うから。
「大本は眼を制御しに島に来たので、戦いに来た訳じゃあないんですよ?
お怪我が大した事無かったなら、よかった──お口に合うか解りませんけれど、宜しければどうぞ」
目隠し裏で二匹の小動物を追いながらテーブル上に包みを解く。
螺鈿細工を鏤めた黒漆塗りの重箱二段。一には筑前煮が詰まっていて、二には黄粉を塗した草団子。
「それで……改めて、なんですけれど。何か進展があった……とかそういう感じですか?」
羽月先生に問いながら取り皿に草団子を取り、フォークで刺して口へ──は運ばず、
彼に停まる小動物達へと差し出してみる。食べるかしら?
羽月 柊 >
宗教、というのはどうにも、自分には疎遠の場所だった。
異世界に詳しい故に、"カミサマ"という、
信仰やその他の他人からの感情や謂れで存在を保っているようなモノが居ることは知っている。
しかし、男はそれに頼る事は無い。
頼ったとして、救われるとは思っていないからだ。
絶望と空虚を抱えてなお、それに縋りつく事は無かった。
「…進展という話でも無いんだ。マルレーネに聞きそびれた事があってな。
時間が空いたから来てみた…という感じではある。」
聞きそびれたというよりは、彼女の体調的にしっかりと聞けなかったことではあるが。
『ディープブルー』に囚われていた折に、
他にも捕まっていたモノは居なかっただろうかと。
それは、男が抱えている方の目的であった。
「俺たちは山本が君に連絡を取った日に『ディープブルー』と交戦してな。
山本と神代理央という風紀委員と三人だったんだが…。
相手は一人だったというに、辛勝という言葉が良く似合う状況だった。
神代は重症、山本も俺を庇って怪我をしているし、他にも…。」
そこまで話して、英治にかけられた"呪い"について話すかどうかを躊躇した。
日月 輝 > 動物は嫌いじゃない。
お魚とかは……観るとついつい"美味しそうね"とか思ってしまうけれど、これはあたしだけじゃ無い筈。
昨今人気を博している空中水族館へ足を運んだ際に、可愛く無くお腹を鳴らしたことは誰にも言えた事じゃない。
ともあれ動物は嫌いじゃない。羽月先生の連れる不可思議な小動物は適度にモフモフとしていて、可愛らしいし。
でも草団子はお気に召さないみたい。可愛らしく鳴きはするけれど、流石に食性が違ったみたい。
「マリーに?それなら言伝を預かっておきますけれど……
教師ともなるとやっぱり忙しそうですし」
折しも夏休み終了直後の諸々であったから、羽月先生が過労に満ちただろうことは想像に難くない。
時間が空いたのが、今時分であるのがその証拠。草団子を食べながらにあたしの口調は迷う様。
ちょっとお砂糖足りなかったかも。
「神代君も!?」
話題も、甘くないものだった。
神代理央。『鉄火の支配者』。いつか、展望台であった男の子。
羽月先生がこの島では有る方が良いと仰る戦闘能力を過分に持つ人。
彼までもが加わり、それで尚苦戦したとの言葉に驚きの声。
次会う事があれば御礼を言わなければ、そう決めて空咳を数度して驚きを誤魔化すようにする。
「ええと……山本さんが精神を咎めたらしいとは」
言葉を濁す羽月先生を促すようにし、一度言葉を切る。
切って、ティーカップのお茶を緩やかに喫して、置いた。
「それもあって彼のお見舞いには行けなくって、実は会って無くて。
羽月先生はお会いされた……んですよね。山本さん、どうでした?」
羽月 柊 >
席につき、茶を口へと運ぶ。
もふもふした鳥のような生物は、草団子を見た後に首を傾げていた。
お気に召さないというか、どうしたら良いのかなという状態であったが、
視線を外してしまった故にそう見えたのかもしれない。
と、差し出されていた方では無かったもう一匹が、テーブルにぱたぱたと降り立ち、
横からもらおうとしていたりもした。どうやら食べられるようである。
「いや、どうだろうな…直接聞いた方がとも思ったんだが…。
聞くのにも辛い事であるのは重々も承知だが、捕まっていた時の事が聞きたくてな。」
教師もそうだが、生徒もまた夏季休暇明けであったことは確かだ。
授業やらのこともあるし、忙しいには違いない…が、
男にとっては、少し前よりは仕事量的には少ない状態でもあった。
故に、眼前の少女の方が心労いかがばかりかとも思う。
どう足掻いても自分は大人だ、一時的に視野が狭まることはあれ、
落ち着けば経験に基づいた物事の処理が出来る。
しかし、子供や、しいては生徒という、成長過渡期にあるモノたちはそうも行かない。
茶の水面に、鮮やかな男の色が映り込んだ。
「…ああ、だがこの島の医療技術だ。
神代も重症とはいえ、退院までこぎつけたのは聞いた。
レーザーブレードで腹を貫かれた程度じゃあ、この島では問題も無いということだ。
山本は…相手を殺した時に"呪い"をかけられたみたいでな。
俺は直後に逢ったから大分落ち込んでいたが…その後は逢ってないから、今は分からん。
……親しいモノの幻影と声が、ずっと自分をなじって来るそうだ。」
男は大丈夫とは決して言わなかった。
嘘で得る安心は、脆い砂の城でしかない故に。
日月 輝 > 「──」
捕まっていた時の事を聞きたい。羽月先生はそう言った。
言葉を呑む。目隠し裏の視線が射るようになった。
被害者に、その内容を詳らかに問う様を、あたしは快く思わない。
重々承知であるなら尚の事。だから、次には言葉が尖る筈だった。
でも、そうはならなかった。
彼の傍からテーブルに降り立った小動物が重箱の草団子に興味を示したから。
「──あら、食べられそう?はい、どうぞ」
草団子を皿に取り彼?彼女?解らないけれど、小動物の前に置いてあげる。
可愛らしい様は心を和ませて、あたしの口が危うくと滑るのを留めてくれた。
「マリーは……無事に帰って来てくれたから。あたしはそれでいいかなって思います」
言外に、羽月先生を牽制するような言葉。
可愛らしい小動物が草団子に興味を示す様を見て、口元を緩め、恰も他愛の無い話であるかのような所作。
それは多分、可愛く無い。あたしの我儘だ。
「レーザーブレード……凄いのねこの島の医療……無事なら良かった。
でも山本さんは……」
──呪い。呪術とも。
魔術の一端であって、どういうものであるかは、知っている。
知っているなら避けられて、知らなかったなら、そうはならない。
《大変容》以降のこの世界はそれ以前と世界のルールが変わってしまっていて、
そのつもりが無いのに成立してしまうものがある。
知らずにそうなってしまうもの。
徒疎かにしてはならないもの。
お呪いはとても簡単に、簡便にあたし達の身近にある。
「幻影と幻聴。……それと、殺人。
そうですよね。犯罪組織、違反部活との戦いなら……取り押さえて逮捕とは、いかないですよね」
あたしは山本さんに助けを求めた。
山本さんはあたしを助けて、人を殺して、呪われた。
「……山本さんに協力を頼んだのはあたしなんです」
あたしのせいだ。
羽月 柊 >
「……別段、マルレーネが奴らにされた事を聞きたい訳じゃあない。
そういうことは、嫌でも現場のレポートに…全部、書かれていたからな…。」
それは、彼女が何をされたかを知っているということ。
マルレーネが語らなかったことまで含めて知っているということだ。
実験の詳細なこと、性別故のセンシティブな事を含めた実験のその全てを。
だから、聞きたいのはそれではないと言い含める。
紅い宝石のような角の動物は、取り皿の上の草団子をふんふんと嗅いだ後、
あーんと小さい口を開けて齧りついた。
小さいながらに開けた口には鋭い牙がしっかりと見える。
「俺が聞きたいのは、他に被害者が居なかったかという事でな。
彼女の失踪と同時期に、他に起きていた事件と関連性が無いかと…そう思ってな。」
そこまで言ってから、茶を一口飲む。
草団子を食べていた小竜がキュイと鳴けば、
もう一匹も男の肩から飛び立って隣に行き、一緒に食べ始めた。
「……出来ることならば、情報を絞る為にも逮捕と行きたかったんだがな。
あの時怒りに駆られた山本を、俺は止められなかった…すまない。」
その時自分は、英治と同じことをされていた。
親しいモノ、愛したモノが、
もう聞けないと思っていた声を聞かされてしまった故に、立ち止まってしまった。
だから、彼が相手を殺すのを止められなかった。
「協力……まぁ、山本のあの様子なら、そうでなくとも……。」
落第街で逢った英治は、酷く焦っていた。
ヨキから聞いた分に、彼にとって掛け替えのない友人だ、と。
ならば、居なくなったと分かった時点で、彼独自でも探すだろう。
日月 輝 > おめでたい話。
親友が無事に戻って来たから喜んで、尽力してくれた人のその後に注意を払っていなかった。
忸怩たるなんとやらを思う目線の先では、二匹の小動物が可愛らしく草団子を頬張っている。
「……他の?それは……どうなんでしょう。あたし達が転移荒野でマリーを見つけた時は、
そう大きくない車に男達が居て、マリーの他には誰も居なくて」
羽月先生はあくまで落ち着いている。逸る事無く一定の語調で、授業でもするかのように言葉を連ねる。
今はそうした声が感情を落ち着かせてくれもするから、彼の問いに一先ずの解答を返した。
少なくとも、同じタイミングで運ばれた誰かは居なかった、と。
「いえ、異能犯罪者を止めるのは生半のことではないと……思いますし。
山本さんがどういう異能を持っている方なのか、その実あたしは知らないけれど、
風紀委員に所属しているのなら、つまりはそういう異能でしょうから」
羽月先生が止められないのも無理はない。と首を振う。濃緑の髪が緩やかに揺れる。
「……羽月先生は優しいんですね」
"そうでなくとも"との言葉に少し、唇が尖る。不満?安心?
それは解らず、けれども慮ってくれたことは判る。
それからと言葉を誤魔化すように筑前煮をお皿に取って口にする。
ちょっとしょっぱいかもしれなかった。
「そういえば、この子たちの御名前、なんて言うんですか?
見た事の無い生き物ですけどペットです?」
濃い味付けが二匹の小動物に合うかは解らないけれど、
試しにどうかと小皿に取り分け、向けてみる。
鋭い牙が見えるから、とりあえず鶏肉あたり。
羽月 柊 >
「そうでなくとも、彼は聡い。
若さ故に後先が少々見えなくなる事もあるがな。
君が協力を願う願わないに関わらず、事を知ったら個人ででも動いていただろうとも。
逆を言えば、俺たちが辛勝となった相手に、彼が独りで挑む可能性もあったからな。」
三人がかりでさえ、徹底的に対処をされた上で、
神代が自分を犠牲に、英治が異能の進化と、
己も不随意の異能が英治につられた形で上手いこと働いた。
そうでなければ三人ですら危うかったのだ、
そう考えれば、山本が独りで戦っていた時の結果は……悪い想像しか出来ない。
鶏肉が皿に盛られると、蒼い角の方が反応して、鳴きながら食べている。
どうやら人間の味付けも全く問題無いような様子であった。
「マルレーネの事件の少し前に、とある生徒が失踪・死体発見という流れがあってな。
俺は元々、そちらを調べて居た所に、山本と逢って互いに協力する運びになったんだ。
…その車に居た男たちは、捕まったのか?」
彼女が助かって全て万々歳とは、どうにもこの男は行かなかった。
草団子をゆっくりとした動作で口へ運ぶ。
情報を欲してはいる。
しかし、焦って問いただすことはしない。
静かに、冷静に、落ち着いて……、
そうでなければ、『取りこぼす』可能性が、あるのだから。
「ん…あぁ、この子らは"竜"でな。ペットではなく俺の相棒たちだ。
戦う時に協力してくれたりしている…。
蒼い角の方がセイルで、紅い角の方がフェリアだ。」
名前を呼ばれて二匹は顔を上げ、キューイキューイとそれぞれ鳴いた。
彼らは双子でな、とも。
日月 輝 > 「……そうですか……なら、ええと、そう思うことにします」
可能性の話。ifの話。余り好きではないことで、
羽月先生が仰ることは、明るいものではない。
でも、あたしが山本さんに助けを求めたから、そうはならなかったと、
そう言っているように聞こえて唇が緩んで、頷く。
そうしてる合間にも可愛らしい鳴き声はして、観ると鶏肉を甚く気に入ってくれたみたい。
緩んだ唇が笑みもする。
「マリーの前にそんな事が……失踪後に発見。……似ていますね」
あたし達がもう少し遅ければマリーも"とある生徒"のようになったのかもしれない。
そんなifを振り切るように頭を振う。
「はい、全員あたしと同行していた──神名火さんという方ととっちめて風紀の方に。
その後どうなったかまでは……ちょっと解りませんけれど。
それこそ山本さんなら御存じかも。でも聞ける状況かしら……」
マリーを運んでいた連中は生きたまま風紀委員に引き渡されている。
その後どうなったかは風紀の機密になろうもので、生憎と知り得ない。
知己があれば聞けるかもしれないけれど、生憎と頼りの人は心身を咎めている。
可愛らしく鳴く二匹を視ると、アニマルセラピーを勧めてみようかとも思った。
「えっ、竜なんですか?相棒って事は雛とか子供とかでもないってことで……
戦えるんだ……やっぱりこう、炎とか吐く感じですか?」
羽月先生の紹介に与り、自己紹介をするように鳴く様は知性を感じさせるもので殊更に驚いて、
つい訊ねる声にも熱が入る。
羽月 柊 >
「そうか、その子と風紀に…。俺は風紀委員には知り合いもそこそこ居る。
誰かしらに、聞ければ良いんだがな…。」
英治からの縁と、自分自身の縁。
風紀委員にはそうした男の知り合いが多く存在していた。
おそらくは誰かしらに聞けば、分かることだろうとは思うのだ。
──その中で、"幌川最中"、ただ一人を除いて…。
多くは信頼を置ける仲であると、言える。
男は常に、最悪を想定して動いていた。
一度、悪夢のような絶望を体験してしまった故に、身についた癖のようなモノ。
それは、今このように他者と関わることになったとしても、変われなかった。
小竜たちは食べながら、尻尾をテーブルの上で振っている。
そりゃもうもふもふパワーがすごかった。すごい。
「あぁ、彼らは成体だ。セイルの方は氷を、フェリアは炎を扱える。
個体ではそういったブレスを吐くんだが、
俺の方で魔力を借りて、そうした属性の魔術を行使したりもするな。」
難しい話をしていたとして、こうして彼ら小竜に興味を示す様は、
やはり子供であると再認識する。
故に思うのだ、自分たち大人が、彼女彼らに、何が出来るのだろうと。
優しいと言われるならば、こうした振舞いが正解なのかもしれないが……。
己が歩んだ、独りであった苦悩や哀しみ、苦しみという道を、
知りこそすれ、経験して欲しいとは、思わない。
日月 輝 > 「あたしの方でも聞く機会があったら聞いてみますね。
その……被害者なんて少ない方がいいですから」
自分で言うのもなんだけれど、あたしはそこまで善人じゃない。
喧嘩を吹っかけて来た奴、因縁を付けて来る奴は容赦なく"被害者"にする側よ。
でも、何もしていない善良な誰かをどうこうするのは、悖ると思うもの。
だから今こうしている間にも誰かが犠牲になっている──とは考えたく無い。
あたしはそうした想定が嫌いだから。そう思ったら、そうなってしまう気がして嫌だから。
「へーえ、双子で氷と炎を……魔術の媒介にもなるだなんて初耳だわ。
小さくても凄いのね、貴方達。山椒は小粒でもぴりりと辛い。とは良く言ったもの」
そうした"もしも"を掃ってくれるかのように卓上で踊る尾が賑やかしい。
「……ね、羽月先生。この子達あたしが触っても大丈夫かしら」
動物は場を和ませてくれるって誰かが言っていた気がする。
それはきっと真実なのでしょう。特に、何処となく道行きの暗い話をした時こそ。
暗闇にあってお日様のようにお月様のように、照らし輝くのは今ばかりはこの子達のように思えて、
あたしは羽月先生に問いながらも二匹の小竜に手を差し伸べる。
叶うなら一時、未知との遭遇に心を砕いて穏やかにあれたかもしれない。
羽月 柊 >
「…すまないな、助かる。
俺も暇になった時に、動けるだけ動くがな。」
そうして、縁というのは繋がっていく。
独りでは成し得ないことが、多くの友人や知人が居て、成せることがある。
一度絶望を味わったとて、本当にヒトに恵まれたと、思うのだ。
これまでの友人たちも、目の前の日月輝という少女にも。
だからこそ、この最悪の想定のシナリオを、
想像通りの役割(ロール)で、終わりたくは無い。
「ん、…あぁ、乱暴にしなければ問題は無い。
尾や背を撫でてやってくれ。」
触っても良いかと聞かれれば、
フェリアの方が撫でやすいようにと、長い尻尾を輝の方にふわりと寄せるだろう。
動物というのは、食べている時には気が立つモノもいる。
それは躾のされていない犬だったり、
野生の姿そのままの肉食獣であったり…しかし、彼らはそうではない。
彼らは竜。そして、男の手により人間の成人と変わらぬ知能をもたらされたモノたち。
自分たちの立場も可愛らしさも、よく理解していた。
時間は待ってはくれない。
ただそれでも、今この時は、小動物を愛でて時が過ぎるのも良いのだろう。
ご案内:「宗教施設群:修道院」から日月 輝さんが去りました。<補足:身長155cm/フリルとリボンにまみれた洋装/目隠しを着けている[待ち合わせ]>
ご案内:「宗教施設群:修道院」から羽月 柊さんが去りました。<補足:待合済:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/31歳179cm。右片耳に金のピアスと両手に様々な装飾品。くたびれた白衣。小さな白い竜を2匹連れている。>0