2015/06/12 - 21:02~20:14 のログ
ご案内:「常世保健病院」に遠条寺菖蒲さんが現れました。<補足:長い黒髪を下ろした青い瞳の女生徒。簡素な寝間着姿の生徒会幹部候補生>
遠条寺菖蒲 > 落第街で意識不明の状態から風紀委員の特殊警備一課の人に助けられてから長い時間が経過した。
運び込まれた常世保健病院では意識不明の原因はなんらかの精神的な負担の影響であり肉体的には健康そのものだと診断された。
救出されてから病院のベッドで寝続けた菖蒲が深夜になって僅かに反応した。

「―――――」

何かに呼ばれたような気がしてその目をゆっくりと開いた。

目を開ければ見慣れぬ天井に脇にある机の上にちいさなカップに入った甘味に見慣れた小太刀が鎮座して、ベッドの横のパイプ椅子には一人の男が寝息を立てていた。
声をかけるべきかと悩んだけれど、再び声が……自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。
手足は自分のものでないような扱いづらさでベッドから抜け出すのも一苦労する。
恐らく疲れ果てて寝ているだろうその人を起こさないように菖蒲はゆっくりと転ばないように病室を出て声のする廊下の先へと向かう。

ご案内:「常世保健病院」に西園寺偲さんが現れました。<補足:抜け殻となりベッドに横たわっている>
西園寺偲 > 彼女はもう目覚めない。
病院の奥、隔離された病棟。
その寝室で、多くの機械に囲まれながら。
ただ、呼吸をし、脈打つだけの『人間だったもの』。

ベッドの上で、ただ、待ち人を待つ。

遠条寺菖蒲 > どこかで聞いた覚えのある声、
それは何年か前に。

――その病室には名前はなかったけれど、

菖蒲はここが西園寺偲先輩のいるであろう部屋だと何故か確信する。

ノックも声もかけずに菖蒲は忍び込むようにして病室へと入る。
規則的になり続ける電子音が静かな病室ではよく響く。

西園寺偲 > 彼女はもう目覚めない。
彼女の意識は遥か彼方、電脳空間の先へと旅立ったから。

その病室は、病院の中でも見捨てられた場所。
誰も近寄りたがらない。
日に一度、検診の先生と看護師が来るだけ。

けれど、何故かその日。
西園寺偲の右手が、布団からはみ出てベッドの外へ伸ばされていた。

遠条寺菖蒲 > ぺたり、ぺたりと
ベッドに近づきまるで導かれるようにその傍らまで行き、西園寺偲と言う先輩の顔を見る。
記憶にあるその顔とは少し違うかもしれない。
けれど、それでも見違えるほど全くの別人とも思えなかった。
五代基一郎からその名前を教えられるまでは、何年か前に生徒会で顔を少し合わせて僅かに業務的な言葉を交わす程度の関係だったにも関わらず名前の知らない先輩としてしか認識していなかった。

それでも、彼女が自分の事を呼んでいるような気がしてたどり着けたと同時にその場で足から力が抜けて座り込む。

「なんで、私を……」

呼んだんですか?と言おうとしたところで目の前に彼女の手が出ている事に気がついた。
そして、菖蒲は無意識のうちにその右手に手を伸ばした。

西園寺偲 > その手が、西園寺の右手に触れた時。

意識が、暗転する。

西園寺と、彼女の異能<ガウス・ブレイン>が。
菖蒲の意識を、広大なネットワーク空間へと引きずり込む。

目覚めた時には、無限に広がるであろう闇。
そして、その中に浮かぶ、白い影――西園寺偲の姿が見えるだろうか。

「――――」

遠条寺菖蒲 > 床が消えたかのよう浮遊感。
今、自分がどこにいて意識があるのかすらも疑いたくなるようなそんな長い一瞬を過ごして

拓けた先の闇、座り込んだままの自分の目の前に立つ女性は白い影のようだけれど綺麗に輝いて見えて
それが西園寺偲だと気がつくのに少しだけ時間を要した。

そんな彼女が何かを言ったような気がして首を傾げる

「…え?」

今。なんと言ったのだろうか。

西園寺偲 > 「――――」

西園寺偲らしき白い影が、何かを囁いている。
そして――

白い影は、菖蒲の傍へと降り立つ。
その両手を広げ――

君を、ゆっくり抱きしめようとする。
もし耳を澄ませば、こう言っているのが聞こえるだろう。

「――ごめんなさい」

遠条寺菖蒲 > 自然と恐怖はなく、どうしてか何かを伝えようとする彼女の声を聞こうと必死に耳を済ませる。

優しく抱きしめられて少し驚くもその彼女から謝罪の言葉が聞こえてどうしてかよく分からないと思った。
なぜ、西園寺偲先輩が謝るのだろうか?
何に対しての謝罪かはどうしてか察しがつくような気がして。

「どうして」

そんな彼女に対して

「どうして謝るんですか?」

と尋ねた。

西園寺偲 > 西園寺偲は優しく菖蒲を抱きしめ、頭を撫でる。
まるで愛おしむように。

「あなたに――あんな辛い事を経験させてしまって――」

思い出しても腸が煮えくり返る。
あの蟲だけは、絶対に生かしておくべきではなかった。

2年前に、私たちがあいつらを完膚なきまでに叩き潰しておけば――
私が、この学校を変えていれば――

「あなたも、ロストサインの被害者にしてしまった――」

遠条寺菖蒲 > あんな、辛い事を、経験させてしまった。

蟲が全身を這い回ったあの光景を、感覚が、苦痛を、侵され壊されていった自分の心を思い出して
小さく悲鳴をあげる。
忘れていた訳ではない。
けれど、頭があの時の事を思い出すのを拒絶しなぜ自分が病院にいるかは理解していても何があってここにいるのかを認識することを拒絶していた。

思い出して、
あのような非道な事をされたことが悲しくて、目の前で食い物になっていた被害者を助けられなかったことが悔しくて西園寺の手の中で後悔に震える。

それでも此の人は悪くないはずだ。
それなのにどうして?
そして、

「……ロスト、サイン?」

初めて聞くその単語の意味が分からなくて疑問を口にした。

西園寺偲 > 出来る事なら、この子の事を癒してあげたい。
傍にいて、もう貴女は戦わなくていいと言ってあげたい。

けれど、ダメだ。

時間も手段も限られている。

「――よく、聞いて下さい。
貴女が出会った、二つの怪異――それは、違法部活『ロストサイン』の残党たちです」

西園寺はかいつまんで話す。
2年前に常世島を地獄へ叩き込んだ違法部活『ロストサイン』の事を。
そしてその残党が今、学園を脅かしている事を。

「ごめんなさい。2年前、私たちがあいつらを二度と蘇らないくらいまで叩き潰せていれば――!」

遠条寺菖蒲 > 初めて聞く話しであったが、納得する他ない。
そもそも『自分が何も知らない』なんて言う事は幹部候補生となって少しだけ時間が出来て『外』を歩くようになってから嫌というほど理解していた。

それに、この状況で彼女が嘘を言うことも、そもそも嘘を言うような人ではない気がして頷いた。

そんな大きな違法部活(イリーガル)を相手にそもそもこの優しい先輩一人でどうこうできる問題では無い気がした。
したから、

「でも、それは西園寺先輩だけのせいじゃないですよ」

とまだ借り物のような感覚の腕をどうにか動かして彼女を軽く抱きしめ返す。
何も知らずに、何の苦労もせずに此の学園は平和だと今まで過ごしていられたのはこの人のお陰なのかもしれないと感謝の気持ちを込めて。

西園寺偲 > 思わず涙が出そうになる。
考えれば、これほどまでに悪意なき心を感じたのは何時ぶりだろう。

だが、時間は迫っていた。
伝えなければ、彼女に――!

「――ごめんなさい、貴女にこんな事を頼んで。
でも、お願い――ロストサイン、を……止め……」

西園寺の身体が、ノイズが走ったようにぶれる。
それは、この空間を保てなくなりつつある証拠で――

遠条寺菖蒲 > まるで意識そのものが切り離されるような雑音が彼女の言葉をぶつ切りにしてその身体にもノイズが走りだしていた。

彼女の言葉を聞いて、考えた。
私にそれが出来るだろうか。恐らく私だけでは無理だ。
けれど、彼女はこうして無理を承知で伝えることが寧ろ危険であると分かっているかのような顔をしていたから。

「私も悔しいんで“丁度よかった”です。だから先輩のその頼みは私もどうにかします!」

笑顔で、精一杯の強がりを彼女に言った。
でも、そうやって初めてついた“ウソ”は悪いものではないような気がした。
確かに聞こえたかは分からないけれど、ちゃんと伝わればいいな、と菖蒲は思った。

西園寺偲 > あぁ、よかった。
空元気でも、笑顔が戻った。
ならば、後は任せよう。彼女と――

「風紀委員、の……能見、さゆりを、見つけ……
『秩序の為に従え』と……言って……きっと、あ…たの、力に……」

ノイズが強くなる……まもなく、時間だ。
だから、最後に……

「もし……『クロ…ス』……苦し…で……おね…い……たすけ……あげ……」

世界が、崩壊していく。
暗転し、目覚めようとする菖蒲をそっと抱きしめ。
その額に、キスして――

再び、病室へと戻るだろう。

遠条寺菖蒲 > 断片的になった言葉を忘れないようにして、私に出来るだけ……
いや、この優しい人が笑っていられるようにしてあげようと思った。

霧が濃くなるように世界がノイズに包まれていく中で最後に彼女の温もりがやや強くなったような気がした。



ピ…ピ…ピ…
電子音が一定の間隔で鳴り続ける病室にいつの間にか戻っていた。

「今のは……」

夢だったのだろうか?
でも彼女が自身を抱きしめた感覚と最後に私の額に触れた何かがあった感触は確かなもので。

「風紀委員の能見さゆりさんに……」

それと最後に彼女が頼もうとしていた誰かの名前か。

「クロ、スさん?その人を……」

助ける事、それが私に出来るのかどうかは定かではないし怪しいところではある。
けれど、私は西園寺先輩にやると言ったのだから、やろう。
そしてその時は報告に来よう。

なんとか立ち上がり触れていた右手を布団の中へと戻す。

西園寺偲 > 彼女はもう目覚めない。
電子音のみが鳴る病室に、抜け殻を横たえている。
その知覚が何かを感じ取る事はない。

けれど、昏睡しているはずの西園寺偲の表情は、
幾分か穏やかになったよう、見えるかもしれない。

遠条寺菖蒲 > 気のせいかもしれないけれど、僅かに穏やかな顔をしているように見えたから私は先輩に微笑みかける。

「次に来る時は、いい報告をしにさっき先輩が教えてくれた人たちも連れて来ますよ」

そう言って感覚のおかしい手足をどうにか動かして部屋を後にする。
その時の菖蒲の瞳は異能を使った訳でもないのに僅かに光って見えた。



この後、菖蒲が部屋から消えた事について関係各所から怒られるのはまた別の話であった。

ご案内:「常世保健病院」から西園寺偲さんが去りました。<補足:抜け殻となりベッドに横たわっている>
ご案内:「常世保健病院」から遠条寺菖蒲さんが去りました。<補足:長い黒髪を下ろした青い瞳の女生徒。簡素な寝間着姿の生徒会幹部候補生>