2020/10/13 のログ
ご案内:「とある専門店」に貴家 星さんが現れました。<補足:[さすが しょう] 身長151cm/和洋折衷の服装(名簿画像参照)[待ち合わせ]>
ご案内:「とある専門店」にレイチェルさんが現れました。<補足:金髪眼帯、ダンピールの魔狩人にして風紀委員。学園の制服を着用。>
貴家 星 > 朧車の数が減った。或いは、消滅した。
観測結果云々の難しい話によると確かならずではあるが、脅威は去りつつあるらしい。
少なからず分署にも穏やかな空気が流れつつあった。

「一先ず落着と行けば良いが……」

時刻は昼を少々過ぎた頃合いか。
常世渋谷のビル群の下から見上げる秋空は、月並みな感想ではあるが綺麗だ。
裏常世渋谷で見上げたような灰色の、或いは極彩色の奇妙な色とは比べるべくもない。
彼方は怪異の世界であるそうだが、私の住む世界ではないように思えた。

「なに、捕らぬ狸の皮算用。ではないが──このまま万事平穏であればよいな」

その実、朧車は去れども他の事案が減る訳ではない。
行き方知れずは未だあり、黒街側の動向は不穏だ。
独りぶつくさとごちながら歩く私も、傍から観えたら奇妙かもしれないが──

今ばかりは、殊更に奇妙なものが紛れさせてくれる。

「……ほう」

ネコマニャングッズ専門店。
常世渋谷センターストリートに面した、ある種異彩を放つ店舗。
その名の通りにネコマニャン関連のキャラクターに特化した商いをしている。
店構えからして気合の入った徹底振りは、思わず感嘆の声とて漏れようか。

いそいそと店内に入るとキャラクターソングが耳朶を打ち、巨大なぬいぐるみが出迎える。
すわ着ぐるみかと思えば、これも商品であるらしく値札がきちりとついていた。

「なるほどなるほど……」

そうした物を見てから足は通路の奥へ向く。
他愛も無い休日が始まる。

レイチェル >  
他愛もない休日を過ごしている風紀委員が、ここにも一人。
長い金髪を揺らしながら、店内を歩き回る女。
その視線は、人殺しもかくやという鋭さを湛えている。
何処までも、真剣な眼差しである。


その金髪眼帯の風紀委員――レイチェル・ラムレイは、
カウンターへと向かえば、何やら店員と話を始める。
その様子は、貴家からもよく見えることであろう。

「なぁ……例の怪盗のやつなんだが……
 此処には……」

真剣な面持ちで、レイチェルは話し始める。
返す店員は、少しばかり不安そうに、言葉を紡いでいく。

『           』

カウンターの向こうに居る店員の言葉は、
キャラクターソングの中に挿入されているネコマニャンの
台詞によって掻き消された。
故に、聞こえてくるのはレイチェルの返答だけである。

「……なるほど、やはりダメか。
 怪盗のやつは必ず見つけようと思ってはいるが……」

ポップなBGMが流れる中でも、凛と響くその声が、
耳に届いたことだろう。

店員は既にカウンターの奥側へと行ってしまったのだが、
顎に手をやるレイチェルは、カウンターの前でむむむ、と唸っている。

貴家 星 > 可愛いものは人並みに好きである。(私は妖だが。)
異邦人街に在る六畳一間の手狭な自宅内にも、少々は可愛げのある人形などは置いてある。
であるから、同級生の言の葉やSNSの風説に良さそうな物が流れるのであれば、こうして足を運びもする。

「ふむ、ふむふむふむ……」

店内の品揃えは色々があった。
ぬいぐるみや玩具類は言うに及ばず、食器、時計、キャラクターがプリントされたシャツから、それこそ着ぐるみまで。
タイアップカフェまで設えた様子は、この地にネコマニャンを伝搬しようという意志に満ちているような気がする。

「値段も手頃なようであるし、何か購うのも悪くは──おや」

右にネコマニャンを見、左にネコマニャンを見、尾を左右に振りながら緩慢と歩いていると、正面に見知った誰かを視た。
刑事部の誇る俊英、"時空圧壊《バレットタイム》"の異名を取るレイチェル・ラムレイ殿に間違いなかった。

「一体……」

その射るような眼差しに伴う胡乱な言葉。怪盗!則ち泥棒である。よもやこの店に斯様な騒擾があろうとは思わなかった。
風紀委員の末席にあるものとして見過ごせるものではない。

「ラムレイ殿、何事が出来したのでありましょうか?」

カウンタ前で唸るラムレイ殿の傍に寄り、鮮やかな金色の髪を見上げるようにしながら問う。

「怪盗なる不埒な窃盗犯の話は部内では聞き及んでおりませぬが、よもや人知れずの被害が発生しておられますか?」

賑やかしく、鮮やかな店内は平穏を感じさせるものであり、揉め事の被害に遭うことは好ましくなく思う。
ゆえに、言外に「そうであるなら御助力を」と言葉に込めるのであった。

レイチェル >  
カウンター前で唸っているレイチェル。
そこにやって来たのは、小柄な風紀委員。
あれは一年生の、確か――

「――お、おう!? おう。貴家、だったな」

何となくどきっ、と。身を震わせるように半歩下がった
女――人呼んで、時空圧壊《バレットタイム》。
その目の前に現れた風紀委員の姿をちらり、と改めて見やる。
ふさふさとした耳と尻尾は、狸のそれだ。
昔――学園に来る前から獣人ならよく見かけたが、
彼女はまたそれとは違うように見えた。

「……部? 
 あー、待て待て待て。違う違う……
 オレが言う怪盗ってのは……」

そう口にして、レイチェルはじとっとした目で、きゅっと
口を結んで壁に貼ってあるポスターを指さした。
視線はちょっと貴家からは逸らして、床に投げながら。
そのポスターに描かれていたのは、シルクハットにステッキを
持ってウィンクをしているネコマニャン。そのぬいぐるみであった。
この秋限定品、と。でかでかと書かれている。

「…………ネコマニャン、怪盗バージョンだ」

まさか、こんなところで後輩に出くわすとは思っていなかった
レイチェルである。机の上にはグッズを僅かに置いているし、
別にネコマニャン好きを隠しているつもりは毛頭ないのだが、
それでもオフの日に自分の趣味全開のこの場所へふらりと
一人で訪れているこの姿を見られたのは、ちょっとだけ恥ずかし
い気持ちにもなろうというものだ。

貴家 星 > 朧車騒動その物は噂として島内の彼処に満ちていた。
あくまで噂は噂であり、一般生徒がその全容を知る由は無かった。
だが、厳然たる事実として"対処に風紀委員の人員が取られていた"。

その間隙を突き悪事を働こうと考える悪党が居ないとは言えまい。
噂の真贋はどうであれ、得てしてそういう輩は聡いものだ。狐のように。

「はい、一年の貴家星であります。……?」

誰何され名前を名乗り、けれどもその語調は些かに惑う。
はて、何故にラムレイ殿は斯様に慌てられるのか。視線を頭上に感じ、耳が応じるように数度揺れる。

「──へ?」

言葉に惑うラムレイ殿に、もしや徒や疎かに口にしてはいけない案件かと眉が寄り、次には頓狂な声が出ようもの。
彼女が示した先には、古式ゆかしい怪盗然としたネコマニャンのポスターがあったからである。

「……な、なるほど」

つまり、私の盛大な勘違いである。
血気勇猛に立った尾も萎れ、床を掃くように垂れていく。
顔に熱が上がるのを感じ、ややもすれば顔色が赤くなっているかもしれなかった。

「ら、ラムレイ殿はネコマニャンがお好きであらせられるか。
 確かに可愛らしゅうもので、私の友人なども良く話をしているものでありますれば。
 私なども今日は『それ程までなら行ってみよう』となった次第でして。
 あれなる目覚まし時計など、中々良いな。などと思っておりました」

そうした顔を誤魔化すように今度は此方が指を差す。
先の棚にはネコマニャン目覚まし時計が陳列され、3段ボイスが強烈な目覚ましも約束してくれるとの謳い文句が記されている。

レイチェル >  
貴家とは直接話したことこそ無かったが、
同じ刑事部であることから、顔を見かけることは少なくなかった。
だが近頃レイチェルが後方に回って部屋に閉じこもっていたことも
あり、なかなか話す機会もなかったのだった。
そんな後輩と、話す機会ができたのは僥倖だ。

――しかし、まさかこんな場所でとはねぇ……。


そして。
レイチェルが指さしたポスターを見て、尻尾が垂れ下がってしまう
貴家。そんな姿を見ると、レイチェルは何だか申し訳ない気分に
なるのであった。

「あー……その、ごめんな?」

後頭部に手をやり、苦笑するレイチェル。
きっと、真面目な後輩なのだろう。
何だか悪いことをしてしまった気分だった。

そうして謝罪を終えたレイチェルは、彼女が語る話に耳を傾ける。
その中で、『可愛らしゅうもの』という言葉を聞けば、
その長耳がぴくりと動くのであった。話を聞いている内に、ずい、と。
レイチェルは一歩前へ出ていた。

「……お前、結構見る目があるじゃねぇか!
 ネコマニャン目覚まし時計、ありゃいいよな……
 オレも一つ持ってるよ」

そして、彼女が指さすネコマニャン目覚まし時計を見やれば、
左手を腰にやり、右手の人差し指をピンと、貴家の目の前に
立てて見せる。その表情は、満面の笑顔である。

「なぁ貴家、せっかくだ、オレが買ってやろうか?」

……普段の彼女ならば、絶対に見せない表情であろう。

貴家 星 > 私が指を差すに合わせ、偶然にも店内に流れる曲に負けじと目覚まし時計が鳴り響く。
誤解の覚める音でもあり、明朗快活なネコマニャンボイスが店内に満ちた。

「あ、いえいえ。私の方こそ早とちりを……」

所在無く頭を掻かれるラムレイ殿を倣うように頭を掻く。
そうした様子を視たのか、カウンターに戻って来た店員殿は甚く訝し気な顔をしておられ、
慌てて問題無いと示すことにもなるのであった。

「おおぅ!?なんと既にお持ちでしたか。
 丁度新しい目覚ましを購おうかと思うてた所でして、購入者から評が聞けるのは有難いもので……」

閑話休題。
ラムレイ殿が勇むように前に出ると、此方は竦むように一歩後ろへ。
所謂反射であり、その後に誤魔化すように目覚まし時計の棚の前へと移動をし、傍らを見上げる。
花が咲いたような顔をされるラムレイ殿がおりました。ともすれば、稚気を感じさせるような。

「へっ?い、いやいやラムレイ殿。それは流石に悪かろうものでして……
 あいや迷惑とかそういう訳ではありませぬが──」

それでいて、何処となく圧のあるような。きっと気のせいである。
ともあれ、御厚意を無碍に断るのも気が引けて、かといってじゃあと買って頂くのもと悩むものである。
視線は右往左往し、口元は曖昧に──と、その時天啓来たる。私の眼差しが捉えたるもの。
それは、店内に設えられたタイアップカフェへの案内版──!

「──で、では此方の中サイズの『ネコマニャン御飯が欲しい時のボイス目覚まし時計』などを。
 それで、立ち話もアレでありましょう。幸い店内にはカフェなどもある様子。
 お時間宜しければ如何でしょうか?時計のお返し、のような具合で」

タイアップカフェであるのでメニューの大半はネコマニャンを謳うもの。
ラムレイ殿が好事家であらせられるならばお気にも召すかとお誘いを。

レイチェル >  
『ボクだマニャ~! ネコマニャンだマニャ~! 
 起きるんだマニャ~! ご飯をくれないとぉ~……
 末代まで祟ってやるんだマニャ~!!!」

店内に鳴り響くその目覚まし時計のボイスは、
とても愛くるしい声ではあるが、
台詞はといえば、結構物騒なものである。

「『ネコマニャン御飯が欲しい時のボイス目覚まし時計』か。
 いいぜ、じゃあそいつを買ってやるよ」

カウンターに持っていけば、さっと会計を済ませる。
茶色の小さな紙袋――無論、ネコマニャンのシルエットが描かれて
いる――に入れられた時計を貴家の方に渡しつつ。
そうして貴家の様子を見やれば、レイチェルは付け足して笑う。

「あーんま深く考えなくていいぜ?
 ただのお近づきの印、ってやつだ」

そうして、カフェに入ることを提案されれば二つ返事で足を向ける
のであった。


さて、カフェへと入れば――そこはまるで、別世界であった。
テーブルは猫をデフォルメした形に切り取られた木製テーブル。
店の各所には、ネコマニャンとその仲間たちのぬいぐるみが
置かれている。

「いや~……やっぱ、すっげーな……」

それを見るレイチェルといえば――やはり、目を輝かせていた。
時空圧壊《バレットタイム》のレイチェルの面影はそこにはなく、
ただの可愛いもの好きの女の子がそこには居たのだった。

貴家 星 > 会計が済み、ネコマニャン目覚まし時計をこれまたネコマニャンがプリントされた可愛らしい紙袋に入れて貰う。
なんでもこの袋も幾つか種類があり、好事家の間では四季折々に生まれるものを蒐集するのが流行であるらしい。
私が包んで頂いた袋は折しも、先程ラムレイ殿が気にしておられた『怪盗ネコマニャン』だった。
ちょっと得をした気がして、尾がゆうるり立って左右に揺れる。宛ら、秋原に揺れる芒の如し。

「いやはや、かの有名なラムレイ殿に目覚まし時計を買って頂いた。等とは中々どうして得難き事で。
 良い土産話になりましょう。生憎話す先は国元の父上ですが」

唇を莞爾と緩ませてラムレイ殿を見ると、如何にも頼れる先達としての様子がある。
言葉の通りに深く考えなくて良かったかもしれない。と思わせられる顔。
誰かを安心させられる者の顔。それを好ましく思うし、私もそうありたいと思った。

「これはまた……不可思議な光景で。雅やかとも瀟洒とも違いますが……良いですな」

店内はともすれば裏常世渋谷にも勝る不可解具合。
店員までもがネコマニャンめいた制服に身を包み、
奥に設えられた小規模のステージではネコマニャン着ぐるみが愛想を振り撒いている。
……手を振ると、大仰な所作で振り返してくれた。ちょっと嬉しい。

「ふふ……と、それでラムレイ殿は如何なされますか。
 ランチタイムは過ぎておりますが、どの品も良さそうに思えますが」

メニューを開くと品揃えはいわゆる喫茶店的なもの。
ネコマニャンカフェオレなどは、精緻なラテアートの写真が記され瞳を和ませよう。

「一先ず此方は……ネコマニャンカフェオレと、ネコマニャンケーキ辺りにしようかと」

とりあえずの注文を決め、ラムレイ殿が宜しければ店員を呼ぼうと手を挙げる心算。

レイチェル >  
「あーあー、そんな風に畏まらなくてもいいって。
 まぁでも、喜んでくれたのならオレも嬉しいよ、貴家」

へへっ、と笑ってレイチェルはその様子を見やる。
小柄な身体からぽんと出た尾が揺れる様子は、まさに小動物の
仕草そのものであるかのように思えた。何とも可愛らしいものだ。

「あ、いいな。ネコマニャンカフェラテ! オレもそいつにしよう。
 でー……そうだな、後はネコマニャンパンケーキかな……」

うーむ、と数十秒の間悩んだ末に、導き出した答えはそれだった。
メニューもそうだが、やはり店内のあれそれにも目移りしてしまう。
この空間に包まれて、椅子に座っているだけで、
風紀の仕事で溜まった疲れも、癒えるというものだ。


「しっかし……こうして話すのもなかなか無かった訳だが……
 どうだ? 貴家。
 風紀委員……刑事部でさ。問題なくやれてるか?
 困ってることとか、ねぇか?」

相手が一年生の貴家だからこそ、そんな切り口で話を始める。
多忙な委員、慣れぬ内はあれこれと大変だろう。
目の前の相手は恐らく、真面目なタイプだとレイチェルは見て取った。
それ故に心配になったレイチェルは、そう口にしたのだった。

貴家 星 > 気兼ねをするなと言う気風を良いと思う。
思うが、はいそうですか。とは言えぬものでもあり、それについては曖昧に笑みを返したのが入店直前のこと。

「パンケーキの方はネコマニャン焼き印が圧されているようでありますな……では」

今は店員を呼び、注文を済ませる。
視界の隅ではステージ上のネコマニャンが小さな女の子と遊んでいる様子が映り、
母親と思しき女性がその様子を撮影しておられた。甚く、微笑ましい。

「近頃は何かと面倒事もあり、中々全体が落ち着いてはおりませなんだが……。
 委員活動の方は概ね恙無く!件の怪異、朧車対処も私の班は人海戦術を用いた御蔭か然程人的被害も無く、
 と言った塩梅でして」

そうしたものを一瞥に留め、ラムレイ殿の顔を視る。
言葉は近頃の事に始まり、一応の機密事項である朧車の段は密やかな小声となる。

「懸念事項……困りごとを強いて述べますなら、行き方知れずが増えていることと──
 ううん、同じ委員のメンバーではありますが部外の人物でもあり、此方が気にする事でも、ではあるのですが」

次には少しばかり悩み声となる。
何故ならば埒外のことであり、本来は然程気にせずとも、と思う所であるから。
けれど、その先がラムレイ殿に並ぶ有名な御仁であるから、やはり伝えておこうかと思った。

「朧車対処の折に、かの『鉄火の支配者』殿にお会い致しまして。
 恐らく杞憂かとは思うのですが、何か気落ちしておられた御様子でした。
 "裏"は滞在をするだけで心身を蝕む悪所。斯様な場所で悠然とき──休憩をされておられたので」

思ったので伝える。
喫煙をしていた、とは一応の秘とし休憩をしておられたと。
通常"一刻も早く脱出をしたい場所"における振舞いとしては奇妙であると、語調が揺れながらに伝え、耳も揺れる。

「数多の勇名を馳せる方でもありますから気苦労もあろうものでしょうし、余計なお世話でありましょうが。
 まあ、気になると言えば気になりまして」

レイチェル >  
貴家が見やる方を、何とはなしに見やるレイチェル。
その微笑ましい光景は、やはり昔懐かしい感じがした。
こうした時にふと、忘れていた筈の郷愁の念を抱いてしまうのだ。
流石にあそこに飛び込んだら、貴家にどう思われるか分かったもの
ではないな、と。そんなことを思ったりしながら、
さて、と貴家の方を向くレイチェル。

「報告書の方には目を通してるさ。
 本当にお疲れ様だ。よく頑張ってくれたよ。
 お前みたいな頼もしい後輩たちが居るから、
 安心して前線を任せられるってもんだ」

朧車ね、と小声で返した後に、レイチェルはそう口にした。
それは心の底から浮かんできたような、穏やかな笑みだった。

しかしその笑みも、続く言葉には少しばかり翳りを見せる。
後輩の前ではあまり、そういった顔は見せたくないと思っている
レイチェルであるが、それでも彼のこととなれば、やはり少し
顔に出てしまうものだ。少し前に、彼とも、彼を想っていた人とも、
話をしたばかりだったからだ。

「『鉄火の支配者』……理央か。
 部外だろうが何だろうが、同じ風紀委員だ。
 オレとしちゃ、放っておけねぇがな。
 お前も放っておけねぇから、話を出してくれてるんだろうがよ」

そう口にしながら、貴家の様子を見やる。
言葉は震え、その動揺は揺れる耳に現れていた。

「あいつも……色々あるもんな。
 そうだな、オレからもまた話してみることにするよ。
 伝えてくれてありがとうな、貴家」

頷きながら、レイチェルは礼を口にする。
理央も、英治も、沙羅も、真琴も。
そして目の前の貴家もであるが、
部の内外を問わず、風紀委員に属する後輩は、皆大切な後輩だ。
できるかぎり、手を伸ばしたいと思っていた。

「お前自身もさ、困ったらすぐにオレに言えよ?
 同じ部なんだから、距離も近いし……
 これまではあんまり関わって来ることができなかったけど、さ。
 遠慮なく、何でも相談してくれて構わねぇぜ。
 今は前線を任せっきりの情けねぇ先輩だけど、
 話くらいは聞けるからさ」

穏やかに笑うレイチェルは、貴家のことを真っ直ぐに見据えていた。
こうして少し遠くに居る他人のことでも心配してしまう
『良い奴』だからこそ、誰かが支えてやる必要がきっとある。
レイチェルは迷いながら理央のことを口にする彼女を見て、
そう感じ始めていた。

貴家 星 > 「そ、そう仰って頂けると……班の皆も喜んでくれましょう」

褒められると何処となく背中がムズ痒い感じがする。
勿論嬉しいものであり口元が緩んでしまいもするが、私個人の功績では無かったからであり、
何より──前線、例えば、対違反部活の掃討などには迷いが無くも無いのだ。
翳りは、此処にもあったのだ。

「神代殿を御存じでしたか」

閑話休題としたかった。
強大な力を持つ存在には善くも悪くも様々な事柄が付き纏う。
面前で話を聞いてくださるラムレイ殿にも、知り及ぶ所なく様々があるのだろう。とは皮算用宜しく思い行く。
無論、勝手な推察であり甚く失礼なことである。
ゆえに神代殿の事について口にするのは、やはり余計であったやも。
うむ、些か口が滑ったかもしれん。ちょっと気まずく、椅子に座った姿勢で尾がうっそりと揺らめくのだ。
揺らめくが、穏やかな声と、その後述べられる礼には面映ゆくもなり萎れるように垂れる。
所在なく、耳だって伏せられよう。

「いえ、いえいえ。此方こそ。神代殿とは、それ以前にも青垣山の境内でお会いしたりもしましてな。
 袖触れずとも多少の縁はあろうかと愚案するもので……その、この島は善き所に思いますれば。
 治安を司る皆にも、穏やかであってほしいと思うもので……」

様々を飲み込むこの島が好きだから、この島にある誰もが穏やかであれたら良いと思う。
偽らざる本音を零した所で顔を上げると、ラムレイ殿の隻眼が真直ぐに此方を見つめていた。
数度、瞳を瞬いて見返す。

「……承りました。寄らば文殊と古人も仰られようものですし、
 情けない先達などとはとてもとても」

無論、穏やかに。である。
ややあってネコマニャンめいた様相の店員殿が注文の品を運んでくれて、
卓上は一時甘やかで馥郁とした香りが漂った。

「ところで……一先ずの困りごとは──其方のパンケーキも、美味しそうに見えることでしょうか」

言外に「半分こしませんか?と告げながらにフォークを取る。
そんな、きっと穏やかな休日。

レイチェル >  
「ああ、この島は本当に良い島だ。
 オレはこの島に来てもう4年目だけど……本当に、
 色んな奴と出会って、それで見える世界が広がったし、
 今も成長させて貰ってる。だから、守りたいと思える。
 貴家にも、これからの学園生活で、
 そういう出会いが沢山あることを願ってるよ」

きっと素直さと真面目さを感じさせるこの後輩なら、
訪れる様々なチャンスを生かしていけるのではないだろうか。
そんな風に感じていた。

「でもって、そうだな……その通りだ。
 お前の言う通り、治安を維持するオレ達が、まずはしっかりと
 自分のことをそう、穏やかに……皆が安心できるように、
 整えなくちゃいけねぇ」

深く頷く。全くもって、その通りだと思う。
店内に流れる心を浮き立たせるようなBGMを耳にしながら、
頬を緩めて見せる。こうした時間を後輩と過ごせること。
そのことが、とっても幸せで。

「……オレも、そこんとこがなかなか上手くできねーから、
 色々困ってたんだけど。でも、最近はちょいと光も見えてきた。
 周りの皆が手を伸ばしてくれたお陰でさ。
 今の理央にも、それが必要だと思ってる。
 オレ達が支えに、なれればな」

そう口にしていれば、注文していたメニューがやって来た。
どれもとても美味しそうで、とても可愛い。
食べるのが惜しいくらいだ。
そんな中で、後輩から受けた提案。
それを、レイチェルは。

「ああ、分け合おうぜ」

その笑顔は、この上なく輝いていたことであろうか。

そんな、何処までも穏やかな休日。

ご案内:「とある専門店」からレイチェルさんが去りました。<補足:金髪眼帯、ダンピールの魔狩人にして風紀委員。学園の制服を着用。>
ご案内:「とある専門店」から貴家 星さんが去りました。<補足:[さすが しょう] 身長151cm/和洋折衷の服装(名簿画像参照)[待ち合わせ]>