2020/10/28 のログ
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」に燈上 蛍さんが現れました。<補足:待合済:【とうじょう ほたる】編み込んだ青交じりの黒髪に紅橙眼の青年/18歳184cm。紅い風紀委員の制服に腕章。髪に白い彼岸花を差している。>
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」にレオさんが現れました。<補足:新参の風紀委員。ベージュの無造作ヘアー。手首に水色の布。>
燈上 蛍 >  
パラリと、紙を捲る音だけが、
静かな休憩室に生命の存在を知らしめる。

それは『燈上蛍』の日常を記す挿絵。

焔の瞳に黒髪の青年は、ひとつ溜息を零して手元の小説を捲る。
風紀委員の中でも苛烈な部署に所属しているが、
休憩時間は決まってこうやって本を読むのが日課である。


それはいつも変わらない。


朧車と対峙した"あの日"から、変わりはしない。
変われるはずもない。

こうして時間が過ぎて行って、休憩時間が終わって、
また、無為に仕事が待っている。

そんな、味気の無い脚本だ。

最早、あの恋焦がれた世界では、花を咲かせられないのだから。

レオ > がちゃり、と扉を開ける音。
入ってくるのは、男性にとっては見覚えのある姿だろう。
朧車と対峙し、共に戦った同士。
忘れるはずもなく。
 
「ふぅ…と、あ――――」

入ると共に男性の存在にに気づいた青年は、軽く会釈をしてから中に入る。

あれ以来、顔は合わせていない。
自分が怪我をしたのもあって、その後の処理は殆ど任せきりになってしまい、それきりだ。
本当の所、話したい事は何個かあった。
あの時の戦いで感じた、違和感。
それについて、直接話をしたかった。
今後も付き合ってゆく、仲間として――――

「どうも、前の作戦以来ですね。
 …ご一緒してもいいですか?」

少し微笑んで、そう尋ねる。
ほんの少し……雰囲気が変わっただろうか。

燈上 蛍 >  
忘れようはずもない。
レオ・スプリッグス・ウイットフォード。共闘した同じ風紀委員。


…己の命を、"我儘"と称して、救って"しまった"青年。
朧車の後、レオを病院まで送り、報告やらなんやかんやは済ませた。

報告書の内容も酷く簡素なモノで、朧車の特徴と、討伐方法、双方の状態。
物資をいくつ使ったとか、そういったモノだけだ。

自分が『死のうとした』なんて、そんなことはどこにも書かなかった。


扉の音に本から顔を上げ、そちらを冷えた紅橙眼が見やる。

「ええ、お疲れ様です。」

今日の台本には台詞が書かれていた。
レオが以前に感じた違和感は、今は見られない。

いや、子供らしさが無いという面では、いつも違和感がついて回るが、
この常世島では、得てして大人と同じかそれ以上の振舞いを要求されるのだから、さして不思議なことでもない。

レオ >  
「おかげ様で、傷の方はもうばっちり治りました。
 常世島の医療技術は凄いですね……本当ならまだ動けなくてもおかしくないのに」

足の骨が外に出る傷。
完治してもリハビリで本調子まで時間がかかりそうなものだが、動けない時期が短かったお陰で筋力はそう衰える事もなく復帰が出来た。
今では戦闘もこなせるのは、有難い限りだった。
勿論、傷が癒えた事だけが変化ではないが……

――――目の前のこの先輩は、どうだろう。
自分が会わない間、何か変わった事はあるだろうか。

「――――朧車も現状、もう出て来ていませんし。
 大分落ち着きましたね。

 ……燈上先輩の方は、どうですか?その後は」

あの時感じた、不安定さの事を思い出して、そう問いかける。
『死のうとした』事。
相手の攻撃の回避の際に触れた時の、極端な反応……
どちらも気になっていたから。

燈上 蛍 >  
手元の本にしおりを挟んで閉じる。
前回の時はテーブルの上を書類が占拠していたが、今日はそんなこともない。
恐らくは蛍が買ったのか、お茶のペットボトルが無造作に置かれているだけだ。

「僕の不手際で怪我をさせてしまったので…。
 大事にならなくて良かったです。
 流石に同僚を車椅子生活にしてしまったら、僕の立つ瀬が無いですしね。」

閉じた本を膝上に置いて、レオの方を見る。

蛍は変わってはいない。
あの日が異常だったと思えるほど、普通の振舞いをしている。


「こちらはさして変わりませんよ。
 強いて言えば、前回の戦闘功績とデータで、
 僕の異能に合わせた訓練内容が刷新されたぐらい…ですかね。」

どう、と曖昧に問えば問うほど、台本通りの普通の台詞しか青年からは出てこない。
細かいことを報告に出していない故に、青年の心のケアなどされようはずもなく。

燈上蛍が持つ違和感を知る人間は、僅かでしかない。

レオ >  
「そう、ですか……」

事務的ともいえるその言葉に、心の壁を感じる。
きっと彼の問題というのは、そういうものだろう。
平時ならただの、個人の問題として周りと折り合いをつけていて。
そして、踏み入られるのを良しとしないようなもの。
だからこそ、自分が踏み入るのが躊躇われた。

……けど、自分は聞く権利が、多分ある。
言い方が悪くなるが、その問題に立ち合い、そしてその結果怪我をした、ともいえるから。

「……あの時の事。
 少し、聞いてもいいですか?
 すみません、聞くような事じゃないのかもしれないですけれど…

 ……何故”死のうとした”んですか?」
 
聞くのは、雑談にするには重い話題。
でも単刀直入に聞くとすれば、これが一番相手の反応が分かりやすいと思ったから。

燈上 蛍 >  
相手の言葉に、お茶に手を伸ばそうとした動きが、止まった。
瞼が自然と落ちて、視界が狭くなる。
動揺らしい動きが簡単に見て取れるところは、青年もまだ子供。


「…さぁ、僕の方が能力的には劣りますし、
 あれの炎さえどうにかしてしまえば、僕が居なくてもどうとでもなると思いまして。」

青年はなんてことない話題かのように取り繕って言ってのけた。

「風紀委員の殉職なんて、よくある話じゃないですか。
 別段、貴方が気にするようなことでも無いですよ。」


この青年は、己の命をどうとも思っていない節がある。
他人に興味はあれども、自分に興味は持ち得ない。

青年の反応は、普通に生きているならば、違和感の塊だ。
しかし、レオにとってはどうだろう。

数多の死を見つめて来た、不死を斬る事の出来る…彼には。

レオ >  
「……自分が死んでも任務を遂行するって意志は、僕は否定する言葉を持ってません。
 状況次第で、そういう事を行うのは、僕も同じですから。
 戦いの場なら、そういう手段を取らないといけない場面は、ありますし」

そういう場での戦いは、経験してきた。
自分を生かすために散った命も見て来た。
命令に従い、何も考えずに命を捨てるのを、冷めた目で見た事もあった。

「――――でも
 ”燈上先輩のは、違いますよね?”」

見えたから。感じたから。
体質として……”死の気配”をその身に浴びる事が常であるから、分かるものもある。

”死へと歩み寄る他者”の姿は……他とは違う。
死の気配に”誘われる”者たちは、死の気配が近づくのではなく、死の気配”に”近づくから。

「……僕はあの時、貴方が”自分から死のうと”したように見えました。
 死を覚悟してる人間の動きじゃない。
 その違いは…結構、明白なんです。

 だから、もう一回聞かせてください。
 ”なんで死のうとしたんですか?”」

視線を、目の前の先輩の方へと向け、問う。
それをはっきりと聞きたいと。

燈上 蛍 >  
生きるモノの中には一定数、どうしようもなく"死"に魅入られるモノがいる。
それは生まれた時よりの性分か、何かがきっかけでそうなってしまったか。

「…『見透かしたようなことを言わないでくださいよ。』」

青年は一言一句違えずに、あの時と同じトーンで、同じ台詞を吐き出した。


「…それを聞いて、貴方はどうしたいんですか?
 僕が抱える何がしかを聞いたところで、理解は出来ないと思いますけれど。」

お茶のペットボトルを手に取って、中身を喉へ通す。
結局はこの行動も生きる為だ。

理解は出来ない。いいや、理解しないでくれと言わんばかりだ。

余り表情の変わらない青年だが、
その問いかけには、訝し気な視線がレオへと投げられていた。
言外に"死のうとしたこと"に対してはYESだと言っているのも同然だが、青年は動揺からか気付いていない。

「興味の無い本がどうなろうと、気にすることでも無いじゃないですか。」

レオ >  
「……確かに、何もできないかもしれませんね」

少し視線を落として、言葉を連ねる。
言葉の意味くらいは分かる。
自分の懸念の通り、この人は”死ににいこうとした”のだ。

…でも、それを理解すると同じく、返された言葉も否定はできない。
他人を理解できるか、と言われて……自分にそれをはいと言い切る自信はない。
むしろ、自分も他人に理解されないだろうと思う感性を少なからず持っているだろう。
それを、分かった気になられれば……自分だっていい思いはしない。

ただ…

「…それでも、僕が聞く権利は、ありますよね?」

視線を再度目の前の先輩に向ける。
じっ…と、瞳を覗く、鈍い金の目。
これから言うのは、正直気分のいい事ではない。
弱みに付け込むような話し方は……苦手だから。

でも……

『生きて行く間は、人とつながらないなんて、出来ない。』

嘗て言われた言葉を思い出した。

自分は、この人と既に”繋がって”いるから。
どんな形であれ”関わった”人間だから。
そこは変わらない。

「だって……”僕はそれで負傷している”んですから」

その為に言う言葉が、酷いことばでも。

燈上 蛍 >  
「……狡い人ですね。」

自分のせいで負傷したなどと言われれば、そう言葉を返した。

繋がって…目の前の彼は、燈上蛍の本を手に取っている。
その本を開いて、中身を読もうと言うのだ。

はぁ、と、分かるように溜息を零して、青年は口を開く。

「ありきたりな話ですよ。生育が不幸だった。ただそれだけのことです。
 人間が生に執着しないなんて言うのは、大体生きていることが嫌なだけでしょう。」

大して面白くも無い話。他人に本を開かせる手間も無いような話。
だから手放せと、青年は再三言うのだ。


同時に、レオの眼前にはらりと"赤い花"が生成される。

それは手を伸ばさなければ、床へと落ちていくだろう。
まるで、血が滴り落ちるかのように。

「貴方は、この花のことを『どこまで知っていますか?』」

それは、燈上蛍の持つ能力の一つ。
彼岸花を生成する能力。

レオ >  
「…僕もそう思います」

”狡い”と言うその言葉に、少し視線を落とした。
こんな言葉を言う権利が自分にあるとは思えない。
これも”我儘”だ。
自分だって…言われたら気分はよくないだろうから。
それを、使った。
使った以上、関わらなければ相手にも失礼だろう。

「…そう、ですね。
 僕が見て来た方々も、死にたい…生きる事に執着しないって人は、大体そうでした」

それは、自分も同じだと思う。
今はすこし、変わってきてるのだろうけど……
根本はまだ、そこまで前向きじゃない。

今だって、荒縄で首が締まるような感覚を覚えているから。
幸せであるほど、それでいいのかと自分を責め立てる何かがいるから。

だからだろう。
この人の不安定さが気になるのは。
同族意識にも近い……何かが、あるのだろう。

「彼岸花、ですよね。
 秋辺りに極東なんかでよく見かける…
 それ以外は、あまり知りませんけれど」

花はそこまで詳しくはない。
見舞いの品で買う機会は何度かあったが、その詳しい生態や花言葉等は、聞いた分程しか知識がなかった。

燈上 蛍 >  
レオが蛍に触れた時も、それは拒否反応に似た何かだった。
精神的にも肉体的にも他人に触れられることに、この青年は全くと言って慣れていない。

故に燈上蛍が行うのは、台本を読んで演じる(ロール)するかのような、
表面上の交流でしか無かった。



「…彼岸花は、日本では不吉の花なんですよ。毒もあります。」




冷えた声で、青年は告げる。

レオの眼前に生成された彼岸花は、その手に取られないまま、
ぱさりとワックスがけされた綺麗な床の上に落ちた。

「別名は1000以上ありますが、葬式花、死人花、地獄花…捨て子花。
 どれも良いイメージのあるような言葉ではないんです。

 そんな花を生成出来る子供が生まれたとして……どうなるかなんて、分かり切った話でしょう?
 自分が世界一不幸だなんて話でもなんでもなく、
 今の時代では、ありふれたつまらない不幸話ですよ。」

花言葉も、別名も、その毒も、何もかも。
あの世に咲く花とすら言われるのだから、死に誘われるのは最早、自然なことでしかない。

レオ >  
「……毒、か」

落ちた彼岸花を見て、思案する。
人間の風習、というものは……意外と根深い。
そこに論理的な何かが無くても『これまでこうだったから』なんて理由で信仰されているもの、逆に迫害されるものは……あまりにも多い。
大変容で世界情勢が変化し、科学の発展速度が緩やかになって……異能と呼ばれる”法則を無視したもの”が増えた事で、そういった風潮が強まった場所は幾つもあると……何時か師匠が言っていた気がする。

この人も、そんなところの生まれなのだろう。

そして、そんな”些細な差別”が……
生まれたばかりの子供の時から続けば、人は簡単に、歪むのだと思う。

ありふれた話は、されど当人にとって、重要な出来事なのだ。

「……燈上先輩の彼岸花にも、毒があるんですか?」

燈上 蛍 >  
「…ありますよ、毒。僕が食べても僕には別に効きませんけど。」

毒は球根部分が一番多いとはいえ、そのものにも多少は含まれている。
青年が生成する彼岸花に球根は無い。花に少しばかり茎がくっついているだけ。

《大変容》で秘匿とされていた魔法、魔術が世に広まったことで、
そういった『謂れ』が意味を持ち、迫害に対して拍車をかけた所も…きっとあるのだ。
青年の生まれ生きた場所が、そういう所だったのかは、分からないが。

この青年は、それを重要視しないことで、どうにか生きて来た。


『ありふれた話』なのだから、『なんでもないことなのだ』と。
『どこにでもある話』なのだから、『自分もそうなのだ』と。

そこから目を背ける為に、己の本に対して興味を失ってしまったのだ。


「…これで満足ですか?」



 

レオ >  
「……」

毒がある、と聞いて、その花に視線を向けて。

「……そうですか」

その花を、そっと手に取る。
赤く、綺麗な花。
でもそれには、毒があるという。
美しさと、危険の二面を持つ花。

「確かに……ありふれた話、なんでしょうね。
 
 でも……」

今の時代において、確かに、ありふれた話。
誰もとは言わないが、多くが同じような歪みを抱えている。
だから――――

「……僕はそれがどうでもいい話とは、思わないですよ。
 だってそれは……皆同じなんですから
 僕だって、燈上さんだって、変わらない。
 この島で、この世界で……変わらず”ありきたりな話”ですよ。

 …だから、どうでもよくないんです」

世界の危機も、個人の問題も、等しくありふれた話。
そういう世界で、生きている。
だからどれも、この世界に生きる人間にとって…変わりはしない。

毒があるという赤い彼岸花を、眺めた。
まるで自分達と、同じようだと。

燈上 蛍 >  
「………、……。」

勘弁してくれと言わんばかりに、長く息を吐き出す。
話を切り上げたい。もう読み聞かせたくない。
どうでも良いと言って欲しい。
一時の同情が一体なんの糧になるのだと。

「…どうでも良く無かったら、どうするんですか…。」


これ以上、仔細を語ったところで、
己と向き合う羽目にしかならないのだから、
燈上蛍の本から眼を背けたい青年はそう零す。

「結局のところ、死にたい理由なんてそんな所ですよ。
 カウンセラーに言えば、誰だって首を縦に振るでしょう。前回の行動の理由としては。」

本を読む知識があるから、青年はこうして賢い諦め方をする。
喚いて他人に八つ当たりをするなんて馬鹿なことはしない。

レオ >  
「…世界の命運がかかってたって、その場にいなかったらそれは……ただの他人事ですよ。
 個人の小さな感情だって、目の前にあるならそれは、自分以外に関われない事かもしれない。
 …結局、それだけです。
 
 …僕と燈上さんは、朧車との闘いで…それ以前から”関わってしまった”。
 無かった事にはならない。
 だから”関わってく”だけです。
 ……嫌な言い方、しちゃいましたしね」

少し苦笑して、目の前の先輩を見る。
死にたいと思う青年。
それを、ありきたりだと。
どうでもいいと、言ってのける青年。

自分もそうだ。
どうでもいいと思っている。
いや…いた、という方が正しいのかもしれない。
どうでもいいなんて、もう…思えなくなってしまった。
他人と関わったから。
関わりを、得て”しまった”から


「『死を想え』

 …僕の今の、大事な人の言葉です。
 どういう風に、貴方は捉えますか?」
 
自らが関わってきたから、受けた言葉を。
目の前の先輩に、訪ねる。

燈上 蛍 >  
「………そうですね、僕は結局、運命だの宿命だのには抗えないというだけは分かりますよ。
 貴方に『哀しい思い出』を突き付けて、自分の『哀しい思い出』とも対峙しなければいけない…。」

あらかじめ決まっていることだと、そう思わなければやっていられない。
何一つ、自分が思うように行くことなんてありはしない。

これも全て脚本のうちだと、そう思わなければ。


関わりを得たいと思わない。
心をざわつかせるような関わりを得たいとは思わない。

クロロとの問答とは違う。

彼の言葉は、どこか心がざわつく。


だから。


「…『感動的な言葉ですね。』」

とんでもなく、何の抑揚も無い言葉が出てしまった。
台本の台詞を棒読みするかのような、何も見ていない瞳で。

「……………、………。」

そうして、顔を彼から逸らした。


言葉の意味が分からない程馬鹿じゃない。
分かってしまうからこそ、自分に向けられても困るのだ。

それは、レオに向けられた言葉でしかないのだから。

レオ >  
「…どうなんでしょうね。
 僕は……嫌だな。
 決まってたなんて言うのは。

 そうだったら、僕はきっと…それを決めた神様を一生許せないです」

自分の事だけなら、そう思うのもありなんだろうけど。
多分それが決定的な違いだと分かってても、言わずにはいれない。
これが運命だというなら……


――――きっと言葉は伝わらない。
この人は、心を閉ざしている。
人の機微にそんなに敏い訳でない自分だって分かる位に。
嫌がるのが、分かっている。
そう分かってて関わるのを続けるのは……酷いんだろうな


「……」

人を変えようだなんて、おこがましい。
”我儘”だ。それも、性質の悪い。

「僕はそろそろ戻りますね。
 色々、聞いてすみません。」

そう言って、軽く頭を下げて。

「……”僕は関わりますよ。”
 燈上先輩のせいで怪我、してますからね」

笑みを作って、そう言い残して立ち去る。

最悪だ。
一度、弱みに付け込もうとしたら……こんなにも簡単にそれを重ねれるのか。
自分の醜さに、泥を口に含んだような吐き気を催した。
 

燈上 蛍 >  
去っていく彼を、鈍い光を宿した瞳で見送る。
何も言うことが出来なかった。

飲み込めない感情を冷静に抑え込むだけで、精一杯だった。

心を閉ざさなければ、何を言い出すか分からない。何をしてしまうか分からない。
こんなところに『火事を呼び込んだ』って、自分の立場を悪くするだけだから。


カミサマを許すだの許さないだの、何をどう喚いたって、変えようのないことだ。

異能は個人の資質。在り様そのもの。
だからどうしようも無い。どうしようもなく、決められていて逃げられはしない。


相手が去った所で盛大に溜息を吐き出して、燈上蛍の本を仕舞いこむ。
首の締まるような思いだった。


「……疲れた…………。」

ふいに零れた彼の本音は、誰に聞こえることも無く──。


しおりを挟んだ本の続きを読む気にもなれないまま、休憩時間が過ぎて行った。

ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」からレオさんが去りました。<補足:新参の風紀委員。ベージュの無造作ヘアー。手首に水色の布。>
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」から燈上 蛍さんが去りました。<補足:待合済:【とうじょう ほたる】編み込んだ青交じりの黒髪に紅橙眼の青年/18歳184cm。紅い風紀委員の制服に腕章。髪に白い彼岸花を差している。>