2020/11/05 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」にツァラさんが現れました。<補足:白髪蒼眼の少年/外見年齢12歳154cm/白に赤基調の振袖、へそ出しの紫袴。和風っぽい服。>
ご案内:「カフェテラス「橘」」に伊伏さんが現れました。<補足:177cmの、黒髪をなんとなく緩く結った青年。ハシバミ色の眼をしている。>
ツァラ >  

昼食時、白髪の少年がてこてことカフェテラスの中を歩いている。


特に何か注文した品を持っている訳でもなく、客の間をただただ、歩いている。

本来学園の大方の施設は学生証か職員証が無ければ利用は出来ない。
その少年はそれを持っているような素振りは全くない。

しかし、誰もそんな少年に、気づかない。

彼の存在を感知するのは容易ではない。
少年は、ちいさなちいさな"カミサマ"なのだから。

とはいえ、全知全能の神様という訳でもない。
八百万の神の一人のような、そこに居てそこに居ないモノ。
信仰と謂れが姿を成した、我々のすぐ隣に在るモノ。


その成り立ちと在り様を知っていれば、見ることは出来るかもしれない。


そんな小さなカミサマの青い瞳は、目的を確かに見つめていた。
外のテラス席で一人いる青年を見て、歩みを進めていた。

伊伏 >  
最近は陽が出ていても、風が冷たいと感じるようになった。
他の人間なんかもそうなんだろう。テラス席は比較的空いている。
それはこの伊伏にとって、大変都合が良かった。
人混みや喧噪は嫌いというほど避けるものではないけれど、静かな分は甘んじる性質だからだ。

ただ、自分が誰かの目的にされてるなど、つゆも思っていない。
その証拠に、伊伏は自分の髪を半分いじりながらメニューを眺めていた。

ぼちぼち、この毛先を切っちまおうか。
あんまり伸ばしすぎると、毛先の赤みが強くなる。
染めたかのようになるので、見るやつは見るようになるのだ。それは、好ましくない。


「…甘いもんって、なんでこんな種類あんだろな」

それを食べに来たわけだが、別に甘ければ何でも良かった。
店内を進む小さな神など知る由も無い。

自分で決めるのも面倒だ。店員を呼んでオススメを貰ってしまおうかと、顔を上げる。

ツァラ >  
ごくごく自然に、青年が座る席の隣に、少年は座る。
まだ感知はされない。次の瞬間だ。


「色々楽しめてイイじゃない? 定番も季節モノも良いよネ」


そう軽い言葉を伊伏にかけた瞬間、"青年にだけ"その存在が感知される。

波長を合わせたと言っても良い。
この青年はカミサマにとって"お気に入り"となってしまった。

ちょうど青年が顔を上げた瞬間とぴったり同時である。

なんだったらやっほーとばかりに、手をヒラヒラと青年に向かって振っている。


こういう芸当が出来るカミサマや怪異、妖怪はそこそこ居る。
《大変容》が起きたこの世の中ではさして珍しくもないだろう。

起きる前にこういうことに遭遇していたモノもいるには居るだろうが。

伊伏 >  
ビックリしない奴がいるか?
いねえよ。心臓に毛なんか生えてないんだよ。こちとらよ。
 
「えん゛゛ッッッッ」

思い切り店員を呼ぶボタンを押してしまった。
店内にアナウンス音が流れるくらいなら、手をあげて合図でもいいか?とか。
そういう事に悩んでたら、がっちり押してしまった。

指先をこねる。ちょっと痛かったらしい。

「……結構俗っぽいな?」

挨拶は飛ばなかった。飛ばす余裕が無かった、とも言える。
のんきに手をひらひら振っているこの幸運の祟り神に、小さなしかめ面を向けて。

「選ぶ楽しみがある奴は、そりゃ楽しいだろうけどさ。
 俺は別にそこまで気にするほどでもな……ああ~~…、店員来ちゃったな…」

なんか食うの?と言葉を含んだ眼を、ツァラに向けた。
店員は、テーブルのすぐそばに立った。

ただ、伊伏はツァラの姿がどう映っているのかを、知らない。

ツァラ >  
この常世島だと、びっくりしない人って割といる。

多分どこぞの竜研究者は驚かない。
別段あの男は心臓に毛は生えていないが、
やはり異邦のモノに慣れているかそうでないかの差は大きいのだろう。

「あ、スゴイ声ー。」

きゃっきゃと高い声が笑った。

こうやって驚いてくれる子が一番一緒に居て楽しいのだ。
そういうヒトの子にこそ、己が"幸運の祟り神"とちょっかいをかけるに相応しい。


やってきた一見人間のような店員はきょろりと伊伏と…誰も居ないと見えた空席を見た。

しかし侮るなかれ、ここは常世島。
見える見えないで接客態度をそう変えはしないだろうし、
多少の違和感はありとて、誰も居ない場所にあたかも居るように会話しているならば、そこに客はいる。


「アハ、僕ねー、ケーキ食べたい。
 こないだ奢ってくれるって言ってたよね?」

テラス席の椅子の上、テーブルの下で地面につかない足をぷらぷらと揺らしながら少年は告げる。

今日は耳も尻尾もない。
その背もたれの間に白いもふもふは無くて、普通に小さな背中がくっついている。

伊伏 >  
驚かしてきたくせに、何がすごい声だ。
人によってはもっとすごい声だって出るぞ、人間は。
だから何だと言われたら、まあ、そうだなとしか返せないが。

伊伏は店員の視線のやりように気づいた。
一応ここに居るんですけどね、見えなかったらすいませんねと断っておく。

「言ったよ。こっちは救ってもらったわけだしな。
 …ケーキったって色々あるよ、どうすんの」

そう言って、伊伏はツァラのよそいき(?)姿を眺める。
耳と尻尾外せるんだな。そらそうか、神様だし。そんくらいはするのか。


普段から置かれているケーキから、それこそツァラの言う様な期間限定まで。
今の時期はぶどうや栗、洋梨やリンゴといった類か。

ついでに店員にオススメのパフェを聞いておこう。
自分はそれでいい。そのオススメと、後はホットミルク。紅茶でもコーヒーでもない。牛の乳。

ツァラ >  
小さい手の指先同士を重ねてにこにこ笑顔。
最初に伊伏と逢った時も確か、少年に耳も尻尾も無かったはずだ。
取り外しと言うよりは、化けているに過ぎないのだが。

店員は見えないなりにちゃんと応対してくれる。
伊伏が学生証を持っているのだから、問題はほとんどない。
そう、伊伏が少年を問題にするような行動をしなければ、だが。

今日は他の人に見えないスタイルで行くらしい。


「えっとね、ここのー、洋ナシのコンポートのケーキが良いナ。
 ホールじゃなくてイイよ。キミも嫌いじゃなかったら一緒に食べよ?」

見た目和風のカミサマだというに、すんなりとケーキの種類を言って来た。
カミサマだって新しいモノを取り入れることはあるのだ。

少年は至ってご機嫌だ。
もし耳や尻尾があれば、ゆらゆらと揺れているぐらいに。

伊伏 >  
「洋ナシのコンポートのケーキを1ピース。
 嫌いじゃねーけど、えっ?シェアすんの…?」

シェアするんだ…。と、謎の小さな感銘。

それはさておき。
飲み物はいるかとツァラに聞き、答えを貰えば店員に託す。
注文は洋ナシのコンポートのケーキと、常世栗のモンブランパフェ。あと飲み物。
ついでにと増やされたお冷は、ツァラにあげておこう。

「機嫌よさそだね。なんか事件でもあったか?」

人間の感情が揺さぶられているようなものが。

ツァラ >  
「美味しいモノ食べてる時って人間幸せじゃない?
 自分で食べるのもスキだけど、やっぱり自分にとっての栄養補給もネ。」

飲み物はねーココア―って言いながら少年はそう零す。

店員は伊伏が代弁してくれるのならありがたいとばかりに、
注文をさくさくと復唱してくれるだろう。
きっとたまにあることなのだ。こういう"存在しているか分からない"客相手、というのは。

「個人規模の事件なら毎日あるヨ。
 まぁ、"この間のこと"みたいなのは、早々無いだろうケド。

 キミはどう? あれから"眼"はヘイキ?」

この間のこと。

このハシバミ色の瞳を持つ青年が、"裏"の常世渋谷に迷い込んだこと。
そこでこの"カミサマ"の少年と、『朧車』と呼ばれる怪異を『横転させる』によって撃退したこと。

…その後、こうして青年を日常に返した訳だが、何か後遺症はないかと聞く。

伊伏 >  
自分の横髪の先を、小指にくるっと絡ませて。
ツァラが答えた幸せには、まあ確かに美味けりゃ幸せだなと肯定しながら頬杖をつく。

「個人規模ねェ。大事じゃないなら、どうでもよいな。
 "裏"みてェなのは御免だろさ、あんなんで喜ぶのは戦闘狂とオカルト好きくらいだろ」

言いたい放題である。
ただ、自分の方はどうかと言われると、あーとぼやいて言葉を濁す。
するりと頬杖をといて、自分の分の水グラスに口をつけた。

「眼は無事回復したよ。心配ドーモ。
 昔っから、異能を使い過ぎるとああなるんだよなァ…」

しばしの間は弱視状態で過ごすことになったが、妙なへまはせずに体調も戻った。
はしばみ色の眼は、ツァラが海岸で見た頃と遜色はない。
ただ、それ以外にも少し気にかかる事はひとつある。
後遺症というよりは…

…それを言うかどうしようかと悩んだところで、飲み物が先にやって来た。

ホットミルクのマグを片手に、どうしよっかなと幸運の祟り神を見る。
これを後遺症と言うにはちょっと具合が違う気がして、悩んでいるような眼だった。

あー、ホットミルク美味いな。

ツァラ >  
「ソーだねぇ、後はトレジャーハンターみたいなのもたまに来るね。裏はネ。
 僕らみたいなのにとってはああいう"裏"は居心地が良かったり、
 住む所ではあるけれど、人間にはちょっと刺激がツヨイよね。」

言いたい放題を少年は否定しない。実際間違っている訳でもない。
なんなら付け足してしまうぐらいなモノだ。

自分から"異"にまみれた場所に飛び込むのは、
余程の物好きか、そちらの方が性に合っているか、この世が面白く無いか…。
そうでなければその世界の素材が必要なこと、ぐらいか。

「力に反動があるのは大変だネ。
 そういう力を持ってる人間が多いから、
 やっぱり不具合も比例して増えるんだろうねぇ。」

無事回復したと聞けば、にっと微笑んで見せた。


後遺症は無い。無いが…。

この"幸運の祟り神"に好かれてしまったのは、ある意味後遺症のひとつなのかもしれない。
そういう存在に好かれるということは、往々にして厄介ごとにも好かれやすくなる。


「どしたの?」

具合の違う悩みがもしそれで無いのなら、なんだろう。
少年はまるで軽い悩みでも聞くような態度で、あっさりと歯切れの悪い反応をする相手に問う。

伊伏 >  
「あぁ、やっぱ居心地いいのか……」

裏渋谷でツァラと出会った時、余裕があるように見えたのはそのせいか。
いや、でも相手は神様だった。どっちだ?
むしろいつでも余裕そうな顔してそうだよな、このキツネチャン。

ホットミルクをすすり、ごく数秒の 間。

「神様だとか力のある存在は、反動を気にしないのも多そうだもんな。
 …うーん、言うかちと悩むが…」

自分に変化が起きたのは、この幸運の祟り神と裏渋谷から出た後だ。
関係があるように思えるし、相手に心当たりがあるなら、やはり聞いたほうが話は早い、はず。

伊伏は指先にぽうっと青白い火を灯して、それをツァラに見せながら言う。


「俺の異能は、この火を好きなところに灯せること。
 ツァラが見たように、集中すれば攻撃にも転じさせることが出来る。
 能力を調べた時は、ほんとそのくらいだったんだよ。出来る事は火を灯すってだけで…。
 伸びしろもさ、"火力が強くなる"範囲じゃないか?ってことでさ」

青白い火がぽぽぽと連続して燃焼し、ぱっと散った。

「異能としちゃ、火という概念からずれなさそうだったんだよ。
 なのに、ほら……結晶が出来るようになっちまった」

伊伏の指先には、うっすらと紫がかった水晶のようなものが出来ている。
透明な部分も出来たその結晶は、熱を帯びたままだ。

「ちょっと予測しない方向に"伸びたらしい"んだよ。俺の能力。
 まだ検査はしに行ってねーんだけどね。これもキミの運ってものに引っかかるのかな、とさ」

ツァラ >  
少なくとも、そういう場所では別段周りを気にしなくていい。

一応曲がりなりにも自分は異邦人。
この《大変容》の起きた世界にも、複雑化はしただろうが"法"というモノはあるだろうし、
異邦人の自分がいつまでもこうして彷徨っているのを、快く思わないモノだっているだろう。

この常世島のルールに従って生きていないモノ。それがこの目の前の狐。

「……んーと、火を起こした場所の跡に、結晶が残るようになったってこと?」

指先でその結晶をつついてみたりする。
熱いというのは、火傷をするぐらいの温度なのだろうか?

まぁ、熱かろうが少年は気にしないのかも、しれないが。

『朧車』という列車を"横転させてしまった"こと。
それはまるで、レールに置いた小石のような…いや、綺麗なモノだが。

「んんー。僕の能力は"厄を幸に"、
 元々の素養に対して、"運良く"作用するってぐらいだからなぁ。

 能力が伸びたっていうなら、運良くに引っかかったんジャナイ?」

少年とて、はいそうですとは明瞭に告げられることでは無かった。

伊伏 >  
「いんや、強く燃やすって念じないと結晶が残らない。
 ツァラが悪戯したって訳じゃないなら、"運よく進化"ってやつなのかもしんないけど」

少年がその結晶を突く分には、何もなかった。
それこそさっきまで火がよく燃えてたとこではあるが、温度はない。
好きなだけ触れる事が出来る。伊伏自身も、今は触れられる事を嫌がりはしない。

「"厄を幸に"、"運よく"か…。
 ……あんま予定してないってか、想像してない事が起きるの苦手なんだけどな~~」

思った通りにしたいというワガママと、マイペースに生きたいという望みなのだろう。
この我儘がどこまで通じるのかは知らないが、まあ口に出す分にはタダだ。
適度に薬を売って人の苦しむ様子を眺めて、なあなあに生きていけたらこの上ない。
それが今の幸せである。痛む良心はそこらへんに捨てて来た。

頼んだ甘味が来ると、ツァラの前に置く。
未だに指をツァラの方に差し出しているので、片手でケーキ皿を移動させて。

ツァラ >  
「僕は悪戯はダイスキだけどー…"そういう方面"では悪戯しないかな。
 そもそもにサ、僕の居た"日本"ではキミみたいな妙な力を持ってるのって、ほんのひとかけらだし。
 僕らはそーいうコトが出来る風には、元々出来てないんだよネ。」

少年はこの世界の理に沿って生きている訳じゃない。
元の世界の理を持ったまま、この世界に存在している。

元の世界では、現代日本のような彼の故郷では、
少年のようなカミサマを見れるのは一握りであるし、妙な力を持ったヒトもいるにはいるが…。
まずこの世界のように、ぽんぽんと出逢えるモノではない。

ケーキがやってくれば、口をつけていないフォークでさっくりと二つに分けた。
どっちが良い? なんて青年に問いかけながら、青年が選ばなかった方をフォークでつつく。

「人生が予想出来ることばかりだったら、幸せも不幸せもなくない?
 想定外も人生の楽しみの一つだってー大丈夫大丈夫。」

そうころころと笑う。

小さなカミサマは、時折やはりヒトではないのだと。
同じ姿をしていると思考も同じだと思いがちだが、明らかに"異"である言葉を零す。

伊伏 >  
マジで半分こかと、ケーキの片方を貰った。
しゃりっとした歯触りのコンポートを口にすると、本人に自覚は薄かれど機嫌は良くなる。

「ふぅん。そういう、なんていうんだろ。
 触れられる範囲っていうのか?干渉する範囲はやっぱり、出身世界が関与するんだな」

伊伏のパフェはといえば、モンブラン部分は渋皮入りのものだった。
甘くも薄い茶色を上品に流した盛り付けが、小高くされている。
これをあげようにも「どこあげればいいんだよ」と、他人とシェアなど考えないタイプの人間が悩む。
自分で悩んでも仕方が無さそうなので、手を付けぬままパフェをツァラのほうにやった。
なんかもう好きに食べて、と。

無理だよボッチが好きな人間の脳みそには。
むしろパフェなんてどこをどう分けるんだ、シェアする時。グラスごと真っ二つにでもするか?

怒られるわ。


「予想できる範囲の出来事で済むなら、ハラハラしなくて済むじゃん。
 人生の楽しみは自分でこさえるよ。いいよ、他から持ってこなくて……」

え?俺がおかしいか?と言う様な顔である。
少年姿のこの神様が、コロコロ笑うのとは対照的な困惑顔というものだ。

ツァラ >  
「少なくとも僕はそうだね。理から外れられるホド強い訳じゃないもん。」

じゃくじゃくと音を立ててコンポートの部分を咀嚼している。
食事は味を楽しめれば良いので、
本来の食事のおかずというか、なんというか。

それでも、一緒に幸せを感じられる方が、本来の食事も捗るというモノ。

この少年の動力源、食事は他人の"幸せ"。
別段幸せを消費する訳ではない。幸せを感じる場に居られれば、それだけで存在出来る。

「まーなんかもっと強いカミサマ? だったら、そういう事も出来るかもしれないケドさ。
 僕はそういう事に興味がある訳でもないしね。」

理を捻じ曲げてしまうようなカミサマもいるかもしれない。
とはいえ、居たら居たで色々と騒ぎになるだろうが。

少年がこれだけ常世島を自由に歩き回ってもさほど問題で無いのは、
このツァラというカミサマが、その体躯通りのほんの小さな"幸運の祟り神"に過ぎないからだ。


パフェをそのままよこされると目をぱちくり。
んーーと少しばかり悩むと、モンブランの部分を少しスプーンで崩して、
二口三口分ぐらいをケーキの皿に貰うと、にっこりと笑ってありがとうと伊伏にパフェを返した。

「僕はハラハラドキドキ大好きだけどなぁ。
 アハ、僕に好かれるんだから、向こうからやってくるタイプなんじゃない?」

とんでもないことを言っている。

伊伏 >  
「興味あったら出来るかもしれないみたいな。
 …ああ、神様でもツァラはまだ成長途中なんだっけ。

 へー、俺好かれてんだぁ」

笑うツァラの顔は年相応に見える。
が、裏渋谷で見たような、酷く大人びた笑い顔はまだ忘れてはいない。
それが本性というか、ツァラの過ごしてきた年月なのだと思っているし、そも神様だしなとも。
相手の笑い顔がこちらの思っている感情通りかなんて、分からないものだ。

パフェを返してもらって、自分の分を食べ始める。
頬張った栗の味に秋を感じた。これもちょっと嬉しい。




「いや、なにて?」




誰が誰に好かれてるって?
ちょっとパフェのシェアに思考を取られ過ぎたというか。
すごい雑に聞き流したのは良くなかった気がする。なに?

ツァラ >  
「僕の母様は八本尾の白狐だからネ。
 少なくとも僕はまだまだ育ちざかりだよー。歳だって"まだ"514歳だし。」

見た目年相応とはいえ、口から出た年齢は…なんというか、桁が違った。
過ごしてきた年月は確かに、普通の人間が生きられるはずもない年月だった。
狐を信じてはいけない。
彼らは他者を"化かす"モノなのだから。

そんなことを言いながら、すさまじく呑気に、
もらったモンブランパフェと洋ナシのコンポートを、その小さい口で味わっているのだけど。



「んえ? だからサ、僕はキミが好きだよ。"お気に入り"って意味で。」

カミサマのお気に入りというのは、少しばかり、普通の好きとは話が違う。

「とはいえ、僕は"幸運の祟り神"だしね。
 最終的には幸運にしてあげられるとは思うケド、いろいろあるかもネ?」

そういった存在と"縁"が出来ること。
それは、そう……そういった存在と遭遇しやすくなること、でもある。

伊伏 >  
お気に入りだとさ。
良かったな。けどよ、良くない気もして来たよ。幸運の祟り神だぞ相手は。


「道中険しいのはいやどすって言えたらどんなに良かったか…。
 お気に入り返還をしたいんだけど、そういうリセマラは…ないよな……」


スプーンを歯に引っ掛けたまま、首が捻じれそうなほどの疑問に苛まれる。
白狐ってそこそこの位じゃなかったっけ?どうなんだ、よその世界よ。

というか、今何歳っつったよ。
何だよ「まだ514歳だし」って。まだじゃないだろ。人間なら人生7週くらい出来るじゃん。
若作りババアやジジイでもそんな言い方しねえぞ。

「いろいろってなに?今からそれを俺に予習させんのは、方針違反?」

ツァラ >  
尻尾が分化し始めるのが白狐からである。
しかしまぁ、母親が善狐であると、子の状態から位が高いのも居るようだ。

「うーーん、こういうのって結局は縁だしなぁ。
 還してもらっても多分そのうち関わるって言うか…縁ってそういうモノだからなぁ。
 僕はあくまで"幸運"を手繰り寄せるってだけで、縁自体にはどうこう出来ないっていうかー?」

どうにもままならない世界である。

本当に何でもできるカミサマならなんだって出来る訳なのだが、
出来ないことは出来ないので素直に言うしかないのだ。

はむはむと口の中で栗の味を転がしている。
ごくんと飲み込んでから、座高差のある相手を見上げる。

「予習っていってもサ、僕にもわかんないよ。未来予知が出来る訳じゃないしね。」

伊伏 >  
「こんな遠回しに直接"諦めて"って言われたの、人生で初めてかもしんない…」

何となくなあなあに、壁らしき壁もなく人生を送っていたのだ。
なのにどうだ。「思ったより障害多くなるかもよ。大丈夫最後はどうにかなるから」と言われている。
身体検査で「概ね健康だと思うけど、もう1回レントゲン撮っておこうか」と言われた大人。
あれって、こういう気持ちなんだろうか。わかんねえ。

煌めくような青い眼で見上げられると、未だ静かな困惑の中にいるハシバミ色が視線を返す。

ホットミルクを飲み、またパフェを喰い進める。
コーヒーゼリーも入ってた。組み合わせ的には嫌いじゃ無い。

「…こっちじゃ稲荷様の信仰始めたら、一定周期で参拝と奉納とをするってのがあったりすんだけど。
 そういうのでこう……どうにか、こう………」

とまで言いかけて、ふと気づいた。
この幸運の祟り神さま、異世界出身だし、そこらをうろちょろしているのではなかったか?


「……ツァラ、こっちの宿ってか、祠は…???」

ツァラ >  
「まぁだってさー、僕にどうにも出来ないなら、キミにどうできる訳でもないし…。
 諦めて楽しんだ方が良いんじゃないカナ? 少なくとも僕はそうするつもり。」

そう言うしかない。
自分が幸運を司るのだから、悪い結果にはならないだろうという確信めいたモノはあるが、
そこに至るまでの過程にしても、前回のあれを見れば、
どうなるかは火を見るよりも明らかなのではないだろうか。

あどけない姿の少年はそう話す。
淀むことなく、その青眼はじぃっと相手を見ている。

「祠? ううん無いけど?
 元々結構あちこちでかける性分だったケド、こっち来てからはそもそも、
 せいぜい裏でちょっと休むぐらいのモノだし。」

定住なんて出来ている訳がない。
何せ、そういう機会はとんとなかった。

一度保護されるかもしれない局面はあったが、別段保護を求めていなかったのもあってか、
自由気ままという勝手聞こえの良い迷子のままなのである。

伊伏 >  
「うーん、楽しめるような豪胆ではないんだがなァ…。
 ってかマジでか。本当にうろちょろしてばっかりなのか」

そりゃあ司る方の神様なんだから、司られる側の右往左往は楽しめるだろうけど。
大よその苦労をするのは俺ではなかろうか。そういう話じゃなかったっけか。

(一番困るのは、買収しきれない相手だってことなんだよな……。
 どうにも現金な神様じゃなくて、気分で場を楽しんでいけるタイプだしなァ)

どうにも運任せを仕切れない性格なのだ。
何しろ小狡いので、自分が手段を握れる状況ではない事柄に弱い。

伊伏にとって、裏渋谷での出来事は奇跡みたいなものだった。
ああいうのを何度も体験する未来への道が、どうにもあるらしい。
嘘なら早めに言った方がサプライズのままで済むぞ。嘘じゃ済ませられないらしいが。
奉納をして運気だのご機嫌だので、自分に関与する何かが整えられる相手ではないようだし。

「困ったな、おうちはどこだと言いたくても異世界出身。犬のおまわりさんですら追尾不可。
 かつ、神様だから俺の70倍近くは生きてる。まずスペックが違うもんな…。
 勝てる要素が見当たらねえな。身長と体重くらいは勝てるか…??」

不毛にも見た目14歳に勝てる要素を探し始めた。
神や怪奇などに慣れている者なら、ここまでうろたえることはないだろうに。
大分まごついているらしい。

ツァラ >  
「僕の在り様って結構ふーんわりって感じだしサ。
 どんな運命に巻き込まれるかって僕は未来予知出来ないからわかんないしネ。

 まぁ縁が結ばれちゃった訳だし、呼んでくれれば力添えぐらいはしてあげられるだろうけど。」

ツァラ自身もまた、何かしら逆らえない大きな流れの中にいる。
きっとこの狐は苦労を苦労と思わないタイプなのだ。
だからこそ、苦労するのは伊伏なのかもしれないという予想は、もしかすれば。

「こんこんここーんって鳴いとく?
 定住場所が無くったって生きていける身体してるから、危機感無いんだよね。
 依り代があるようなカミサマだったら別かもしんないケド。」

言い回し面白いよね伊伏って、なんて、ころころ笑った。

嘘でーすなんてその口で言いそうではあるが、生憎と言えないのだ。
だってこれは嘘でもなんでもない。

隣人との間に縁を持つということ。

伊伏 >  
「その鳴き方だとノックみたいだからやめとこっか。
 …うん?依代がいらねえの?ますます敵う要素が無くなっていくな。
 マジで神様という存在が流れてきちゃったのか、ツァラは」

ふと思ったが、未来予知できたら幸運の祟り神とかもう愉快犯装置じゃないか。
ツァラは人間の観察は好むようだし。そう考えると、予知できずに良かったと言うべきかもしれない。
いや、予知できても出来なくても、俺の状況は変わらない気がして来た。どうして…。

今でもそこそこ愉快犯そうな匂いが、ツァラからするというのに。

パフェグラスの底をさらいながら、鈴の音のように笑うツァラを眺める。
なにかしら言い返してやりたいのだが、ダメだ。全部笑ってすり抜けられそうだ。

どうにも調子が狂う。距離感の掴み損ねのようなものなのか。
自分の脳みそがおバグリ申し上げている。


(……パフェ美味かったからいっか……)


これは受け入れではなく、バグってどうしようもなくなった自分への諦めというものである。

ツァラ >  
「その場にあるおっきいものに居つかないと存在が保てないって訳じゃーないしネ。
 白狐っていう肉体はあるけども、妖怪、ここだと怪異? みたいなモノだし。」

付喪神とか精霊とか、そういうモノであるならば依り代は必要だろう。
しかしそこに該当している訳ではない。
生まれた時から白狐という立ち位置にいる少年は、
勝手気ままにこうして散歩しても存在を保っていられるぐらいには、強い存在である。

「ま、悪いようにはしないからサ。そこだけは安心してよ、ね?」

小さい口に最後のコンポートを運び終えてにっこりと笑った。

ヨモツヘグイなんて言葉があるが、
少年はもうこちら側の食べ物を結構食べていた。

そうして、こちら側に居つき始めてしまった。伊伏の隣へと。

伊伏 >  
どんどん弱ってるって訳じゃないなら、まあいいか。
そう思いながらパフェも食べ終え、ホットミルクの残りを飲みきる。

ペーパーナプキンで口元を拭い、ツァラの言葉には小さく唸って

「……そう信じてるよ」

とだけ返した。

実際、このお狐様に助けられたのは間違いない。
ましてや裏渋谷から、きちんとこちらに戻してもらったのだ。
食事の間ずっとだだこねてたようなものだが、ああも言われてしまうともがけなくなる。
始終ニコニコしていたツァラには、そう言葉を返すことしか出来なかった。







いやほんとそこは信じてるからな。頼むからな。

ツァラ >  
ショリショリと歯ごたえの残るコンポートを咀嚼しながら、
短く告げられた言葉にこくこくと頷いた。

「ごちそーさまでしたぁ。」

どうにかできるなら要望通りにしてやりたいところだが、
どうにもできないならば素直に言ってしまうのが、この狐であった。

それも自分にとって面白い方向に転がる予感しかしないから、拒否することも無い。

流石に相手によって退治でもされようものなら別だが、
伊伏にそういう感覚は無いモノであるので、甘んじるのだ。

この粉っぽい、薬のような幸せの味を持つ青年に。


「任せておいてってー。ね、おにーさん。」

あどけない声はそう返るのだ。

そんなこんなで、昼食時が過ぎようとしていた。

伊伏 >  
後で狐の神様周りを調べておこうと、密かに決意をした。

「調子よさげにおにーさん呼ばわりしよるな……」

昼飯を甘いもので済ませたので、午後の予定もあるしと緩く席を立つ。
奢ると言った手前、支払いはもちろん伊伏の持ちだ。
こういった手軽なカフェテラスのメニューで良かったのかとも、少しは思う。

やはり、良く分からない。何しろ相手は、神様だから。
この島や世界の在り方に大きな疑問を持たないがゆえに、自分への干渉はノーマークだったとも言える。

会計を済ませ、携帯端末を軽くなぞる。
稼ぎに行かねばならない。密売ではなくて、宅配部の方でだ。

「ほいじゃ、またどっか?で……」


ツァラに声をかけておこうかと思ったが、そういえばまだ居るのかと見渡す。

ツァラ >  
『うん、"またね"、伊伏。』

きっと文句があったなら、ストレートに言っている。
だからきっと、こうやって一緒に食事が出来ただけで良かったのだ。

会計が終わって近くを見渡せば、
遠目にふわりと、彼の青い蝶が居るだけだった。

遠くから聞こえるような、耳元で囁くような、再び逢うだろう言葉を残して。

そうして"幸運の祟り神"は、また青年の前から去っていく。




狐のことを調べるならば、なんてことはない、白狐の話。
仙狐や気狐と言った、下でも500歳程度の善狐の話が一番近い。

そこと交わるひふみ歌の伝承、そういったことが判明するかもしれない。

ご案内:「カフェテラス「橘」」から伊伏さんが去りました。<補足:177cmの、黒髪をなんとなく緩く結った青年。ハシバミ色の眼をしている。>
ご案内:「カフェテラス「橘」」からツァラさんが去りました。<補足:待合済:白髪蒼眼の少年/外見年齢12歳154cm/白に赤基調の振袖、へそ出しの紫袴。和風っぽい服。>