2020/08/28 のログ
ご案内:「浜辺」に伊伏さんが現れました。<補足:長めの黒髪をぼさぼさにさせたまま、麦わら帽子をかぶっている。赤いTシャツに黒いハーフパンツの水着、サンダル。>
伊伏 >
昼の盛りも過ぎた、西日に砂が染まる頃。
安物の釣竿にエサをつけ、それを遠くに飛ばす伊伏がいた。
気が済むまで何度か竿を振るいリールを巻くと、その場にずさりと腰を落し、落ち着く。
竿を砂に差し込み、入れ食いを期待するわけでもなく、糸の先をぼーっと眺めている。
もうすぐ夏休みも終わりかと、眼に見えぬ貰い物が期限を迎える、小さな寂しさを噛みしめた。
伊伏 >
例年通り、夏休みはあまり小遣い稼ぎが期待できなかった。
少しばかり改良を加えた"新作"を、誰かに試してみたい気持ちはある。
新しく得た知恵を総動員させた"新作"は、きっと万能感もより強くなっているはずだからだ。
うろついている委員会の皆さまの動向を探りながら、少し流してみようか。
いいや、夏休み明けこそ気を引き締めておかねばならないのでは?
悶々と考えながら、浜辺に倒れ込む。
「あーー、夏が終わると海に入りづらくなるなぁ…」
この、なんともいえぬ気持ちよさを与えてくれる水温が変わってしまう。
見上げた空はどこか高くて、より一層の夏の陰りを感じさせている。
伊伏 >
歓楽街にいるとさして気づかないものだが、こういう場所に来ると季節を強く感じる。
ああ、もう蝉もそこまでうるさくないんだなと、波音の狭間に聞こえる細い鳴き声に薄らと笑んだ。
夏休みが終わる寂しさは、学生生活へ身体を戻す面倒くささが一緒だ。
海に入れなくなる悲しさは、いずれは銭湯や温泉への欲求に塗りつぶされるだろう。
己の中で入れ替わる些細な欲は身勝手なものだが、これを他人行儀に観察すれば、また愛おしい。
微かに色づく白雲を眺め、眼を細める。
伊伏 >
陽に焼けた砂の温かさに、少し眠気を覚えた。
このまま居眠りなんてやらかしたら、面白い日焼け具合になるのだろう。
それは目立つ要因になるから避けたいなぁと、大欠伸をして起き上がった。
頭から落ちた麦わら帽子を拾い、よく叩いてかぶりなおす。
「…お、これ糸引いてんな。なんで掛かっちゃうかなぁ」
眠気の残る眼をしたまま、ニヤっとして。
釣竿を砂から抜いてベールを戻し、糸先の獲物としばし戦い始めた。
ご案内:「浜辺」にツァラさんが現れました。<補足:白髪蒼眼の少年/外見年齢12歳154cm/白に赤基調の振袖、へそ出しの紫袴。和風っぽい服。>
伊伏 >
釣り糸を絞りながら竿を横へ立て、思い切り引っ張る。
ざぽっと水から何かが抜け飛ぶ音が立ち、法則に従って獲物が宙を舞う。
顔面で魚を受け取るのは勘弁したい。なので、砂に着地するように動かした。
竿を放り、何が釣れたかのそのそと歩く。
しかし、伊伏は釣り魚に詳しいわけではない。
「よくわかんねー魚だなこれ。何で分かりやすいのが釣れなかったんだ」
携帯端末を取り出し、魚の写真を撮った。
SNSに上げて魚博士でも釣ろうかと、指を動かしている。
ツァラ >
ひらひらと青く光る蝶が舞う。
それは釣り竿と格闘する青年の後方に。
『なーにが釣れたの? おにーさん。』
砂を踏む音はしなかった。
けれど、声変わりもしていない少年の高らかな声が後ろから響いた。
常世の海も、《大変容》を経て随分と様変わりしていることだろう。
所によってトビウオのようにヒレのでかいカンパチが釣れていたりするし、
虹色に輝く鯛だったり、かといえば既存種とはいえ、
常世島特有の進化を遂げたカツオが居たりする。
はてさて、釣れたのはなんだろう?
伊伏 >
「カワハギヅライカメオオアジ、っていう可食魚だってさ」
刺身か焼きが美味いらしいよと返しながら、携帯端末をオフにする。
そして後ろを振り向いて、青く光る蝶に少し身構えた。
少年の声だなというのは分かっていたが、虫も一緒に出迎えてくれるとは思わなかったからだ。
相手の姿を上から下までとっくりと観察しながら、魚の口から針を抜く。
「あんまスーパーとかじゃ見ない魚かもね。
そこの折り畳みバケツ取ってくんない?バッグの近くに四角いのがあると思うんだけど」
自分より幼そうだが、使えるものは使うようだ。
魚が暴れているので動きたくないのが、本音といったところ。
ツァラ >
「かわはぎづらい?
ここのスーパー、すごい変なモノ色々あるよねー」
振り返った先に居た少年は、青い蝶を連れて。
太陽の光が、その白い髪に反射する。
全くもって普通に、それこそ友達に接するように。
声は興味津々といった様子に、るんるんと跳ねた音で。
指示されれば、はぁいと間延びした声と共に、
にこっと蝶と同じ色の青い瞳を細めて折り畳みのバケツを引っ張り出してくる。
「おにーさんこれー?
焼いて食べるの? 焼く?」
伊伏 >
ずいぶんフレンドリーな子供だな、と伊伏は思った。
いやでも、見た目の年齢には騙されない方が良い場所だ。
「カワハギヅラ・イカメ・オオアジ。
どうしような。俺は焼き魚好きだけど、その後に魚グリルを掃除するのが嫌いなんだよね」
少年からバケツを受け取ると、「そうこれ、ありがとう」と礼を添えた。
パチパチと軽い金属音を立ててそれを組み立て、海水を少しすくって魚を放つ。
カワハギの顔をしたいかついヒレの魚は、やれ助かったと言わんばかりに水を跳ねさせる。
帰るにはまだ時間がある。もう少し釣っていこうかと、バケツを持って竿と餌の元に歩いた。
「君は学園の人?それとも、その蝶の化身かなにか?」
はぐらかすタイプだったらどうしような。
ツァラ >
「カワハギのかつらを被ったいかめさんのアジ?
網があれば"焼ける"けどー、網はおにーさんもってきてない感じ?」
字面の理解度が足りなかった。
少年はバケツに放たれたカワハギもどきを小さな手を伸ばし、
ぱちゃぱちゃと海水で戯れている。
青い蝶がひらひらと青年について回る。
「ん? あはー、おにーさんには"どっちに見える?"」
はぐらかすよりも面倒な聞き方をしてきたぞ。
伊伏 >
残念ながら、網は持ってきていない。
1人ただただ波に漂うという静かな遊びをするのが目的だったのだ。
釣りは与太の与太。釣りしたくなったら困るなと用意はしたのだが、伊伏の予定にない遊びであった。
「はあ?」
餌を針にくくったところで、そんな声が漏れる。
どっちに見えるかと聞かれた。何でそういう事を聞きたがるんだ。
盛り場で働く女子の年齢当てじゃないんだぞ。
俺は普通に答えて欲しかった。どっちもって答えそうになるからやめてほしい。
そんな言葉をグッと飲みこみ、首をぎこちなく傾げる。
「…そういう事を聞くやつは大抵どっちでも無いってのが、セオリーだと思う」
少年には、微妙な物言いをする微妙な表情がバッチリ見えただろう。
伊伏は釣竿を振るって、また獲物を待つことにした。
ツァラ >
お魚としばし戯れた後、両手で掬い上げては水でお礼を貰い、
ころころと高い声が波の音と躍る。
「あはは、面白い顔してる。」
海水に濡れても全く気にしない顔で、
先程は無かった砂をさふさふと踏みしめると青年の元に駆け寄る。
別段どれを答えてくれても遊べたから良かったというのに、
ちゃんと考えてくれたことが可笑しかった。
「せいかーい。
あちこち歩いて回ったけど、並行世界がどうとかって言ってたね。」
なんて言いながら、釣り竿の先を眺める。
並行世界。つまるところは"異邦人"というヤツである。
伊伏 >
「答えが分からないままってモヤモヤするじゃないか。
君は答えてくれたけど…並行世界って事は、異邦人なのか。迷子の方?」
自分の"故郷"に帰れず、この島この世界で生を謳歌しているもの少なくはない。
むしろ生徒でもなんでも、困ってる異世界人と叫んで石を投げれば当たる程度には存在するのが異邦人だと認識している。
釣竿は、波に引っ張られる糸と同じ動きをたまに見せる程度だ。
まだ魚はかかっていない。
ツァラ >
「分からないままにしておかない辺り、真面目だよねー。」
隣にちょんと座り込む。
小さな体躯は青年と凸凹の影を作り出す。
「んとねー、多分迷子!
ごちゃまぜの所に空いてた穴から来たんだよー。
いほーじん? っていうのが良くわかんないや。
ふうきいいん? とかいう警察ごっこしてるヒトにも逢ったけど、捕まらなかった。」
少年はまだこの世界に定着しているような言葉遣いをしていなかった。
常世島のことをなんら分かっていない。
"生徒"が大半を運営する、この島を。
伊伏 >
「気になったら解消したい性質なんだ。
…ふうん、穴。まるで童話の白兎みたいだ。もっとも、白兎は追いかけられる側だったようだけど」
ぐいと竿を引き、魚にエサが目立つように調節をした。
基本は釣竿と海を見ながら喋り、たまに少年の方を見る。影法師を作る砂浜は、ゆっくりと赤みが強くなる。
「風紀委員か。この島じゃ警察と一緒だよ、ごっこじゃないのさ。やってる事はそれ以上だし。
…捕まらなかったって、なんか目立つ事でもしたのか?えーと…」
名前なんだっけ?と、少年に聞く。
ツァラ >
「風紀委員のおねーさんからも聞いたねぇ。
子供が警察と同じことしてるの。
えっとねー、大捕り物してる所でお話したの。ヒトがいっぱい倒れてて、
"不味そう"な銃がいっぱいあったよ。」
少年はなんてことない風景だと言わんばかりに隣で話す。
何故そんな場所に居たのかということすら気にしないままに。
「ふふ、僕はさしずめ童話の白兎を追いかけた先にいた猫みたいなモノかな?
僕はツァラだよ。キミの名前は? おにーさん。」
初対面の少年はにこにこ笑顔で聞いてくる。
童話のことは知っているような口ぶりだ。
伊伏 >
不味そうな銃って何だろうか。
横にいる少年は金属喰いみたいな、厳つい嗜好持ちみたいには感じられない。
・・・いや待て、大捕物をしていた所に居たと言った。
その前には、女性の風紀委員に追いかけられてそうな発言もしている。
となると、怪しいから補導されそうになったのか。それとも、大捕物に関係していたのか。
伊伏としては、藪蛇はあまり突きたくない気持ちだ。
しかし、島にとってあまり都合が良い存在ではないなら、報告をしておいた方が良いような気もする。
・・・ただ、風紀委員周りには、出来るだけ近づきたくないのが本音だ。
もし考え得るような面倒な存在ならば、聞かなかったことにしておきたい。
「また猫。猫の出会い多いな。青い蝶を連れてるなんてメルヘンだけど。
つぁら、ツァラか。俺は伊伏。この島の学園で学生やってる」
尻尾が無いだろなと、少年の背中をチラっと見た。
さっき見た限りではそういう動物的な部位は無かったはず。
この砂浜に落ちる影にだって、妖しいものはなかった気がする。
自信を持って言えないのは、そう気にして足元を見ていなかったからだ。
ツァラ >
「風紀委員のおねーさんとはお話したけど、
『変な所はいかないようにして、あちこち歩きまわってみるといいよ』
って言われたから、そーしてるの。
保護して欲しいって訳じゃーなかったら、別に捕まえなーいって。」
少年、ツァラは続けてそう答える。
手の平で砂を掬い上げると、さらさらと隙間から零していく。
にっこりと優しい笑みを浮かべて、あれは面白かったなーなんて呟いて。
でもそれは、少年にとって不味いモノで。
「猫みたいなモノ、かな。伊伏おにーさん。
あーでも、犬……? 存在は少女が追いかけた白兎の世界に居た猫みたいなカンジ。
この蝶々は僕の魔法? みたいな感じかな。綺麗でしょ?
この世界のヒトって結構魔法使えるよね。人間でも。キミみたいな学生でも。
御伽噺は現実にあるし、"僕ら"との垣根がうんと低い場所だよネ。」
伊伏 >
「ああ、何か悪いことに巻き込まれたとか、そういう事じゃねーのね」
ツァラが続けた言葉には、少しドキっとした。
そんなに分かりやすく嫌な顔をしたつもりは無かったからだ。
面倒ごとを抱えている相手ではなさそうだ、というのが分かったのは、有り難いものの。
「猫と犬はこの世界じゃ大分違うんだけど、何??
ねこだけどいぬじゃない、ちょっとネコに近いイヌみたいな、チェシャ…結局猫か……。ねこか?
垣根は低くなった、というのが歴史だよ。かつてはツァラみたいに不思議な存在は、存在をきちんと認識される事が稀だったみたいだし」
自分が生まれるずっと前は、狂人として扱われた異邦人も居たのかもしれないなと、ふと思う。
「魔法は…そうだな、綺麗だと思う。青空や水の青とは違うきらめきがあって。
俺が使う火の色とも、また色合いが違うしね」
ツァラ >
「どっちかというと、現場に野次馬しにいった?」
おねーさんびっくりさせた遊んだのーという、
なんとも危険な遊びをほのめかしている…。
座った状態で上半身を左右にゆらゆらさせる。
「うん、"オダ"君が言ってたね。
《大変容》が起きて、それまでの普通の根本が
何もかもひっくり返るみたいなことが起きたって。
僕らみたいに、"どこにでも居てどこにも居ない"ようなのは、
僕の世界じゃ神主さんとか、一部の敏感なヒトぐらいしか見えなかったのにねぇ。」
ひらひらと飛ぶ青い光の蝶は、
青年の肩に留まると、その羽根を休ませている。
「おにーさんは火が使えるの?
僕もね、火は得意なんだー。」
伊伏 >
「見た目より根性曲がってそう、というのは理解したよ」
綺麗ごとしか言わないヤツよりは親近感が持てて良い。
まだ少し警戒の気持ちは残れど、伊伏の声はそう硬いものでもなかった。
もう一度竿を振り直そうかと大きく動かしたところで、先がしなる。
どうやら獲物がかかったようだ。
腕に力を入れつつ、ツァラの言葉に頷いた。
「オダ。オダはまあ知らんけど。知ってたらごめんオダ、だけど。
元の世界でも感知はされにくかったのか。それはそれで、なんだか寂しい気持ちにもなりそうだ」
リールを巻き巻き、少し後ろに踏ん張る。
「蝶がいるのに、火が得意なのか。蝶が発火するとか、そういう――――あ、釣れたわ」
喋っている途中で魚が釣れてしまった。
海面からじゃばっと飛び出したイキの良い魚が、釣り糸に沿って宙を舞う。
ツァラ >
「母様から怒られる程度にはひね曲がってるねーぇ」
そう言ってころころと笑う。
不思議な存在。つまるところの"隣人"。
誰かのすぐ傍にいる存在であるし、誰の近くにも居ない存在。
「緑色の髪と目がきれーなおにーさんだよ。お話面白かったの。
僕の世界は御伽噺が御伽噺のままの世界だよ。
だから僕らみたいな"カミサマ"は見れるヒトは少ないし」
そう言いながら、立ち上がる。
宙を舞う魚を目で追って……その先に落ちた少年の影は、ヒトの少年ではなく。
「蝶も火も、そんなカミサマの術の一つサ。」
もっふりと白い狐の耳と、三つの尻尾が揺れていた。
伊伏 >
伊伏の時間が止まった。
正確に伝えるならば、彼の思考がポンと飛んだと言うのが正しそうだ。
どこか掴みどころの無かった少年・ツァラは自分をカミサマだと宣った。
白く長細い三角の耳に、筆のような尻尾が見える。
見るからに狐だろう。察しなくとも、言葉通りなら狐の神様ということか。
しかし、伊伏の思考はまだ時を刻んでいなかった。
こんな展開に近い事を、少し前にもやった気がしてならない。
そういう夏、なのだろか。
ちょっと不思議な動物に寄ってる方々と出会う。いや、横からトラックを突っ込んでもらうみたいな。
最初からそういう存在だと分かっていれば、本当にどうってことはないはずなのだが。
何でビックリするようなタイミングで話をしているのだろう。
「おう」
伊伏は静かに思考を取り戻した。
釣れたイシマキトコヨヨリキスが頬にびちゃっとくっついたことで、半ば強制的に。
「えーっとぉ……神様なら、最初からサプライズしてくれた方が嬉しかったな…」
神様に根性が曲がってるとか言いたくなかった。
頭痛や腹痛が起きてる時、真っ先に祈る先だと言うのに。
ツァラ >
「大丈夫?」
イシマキトコヨヨリキスにビンタを喰らった青年に首を傾げる。
耳が生えればそりゃあもうぴこぴこと動くのだ。
「そんなに素直に姿出してたら面白くないもーん。
次逢った時ぐらいにしよかなって思ったケド、
僕は気まぐれな"お狐様"だからさ。」
根性曲がってるって言われたって別に気にしていないような。
だって実際曲がっているのだ。何も間違ったことを青年は言っちゃあいない。
だからにこにこ笑顔は崩していないし、驚いている相手の反応が嬉しいのだ。
「ま、カミサマって言ったって、この世界じゃーそうそう通用しそうにないけどね。
僕ぐらいのカミサマなんて、元の世界よりいっぱい居そうだもん。
ヤオヨロズなんて目じゃないぐらいにさ。」
伊伏 >
「大丈夫にした」
手の甲で魚のぬめりをぐいと拭く。
「俺はデカい事件には巻き込まれないように、穏便な生活してた方だからさ。
なんてーかこう、分かっちゃいるけどツァラみたいなのは、どうも驚くんだよな……」
そのうち免疫が出来るのだろうけど、それまではいちいち思考停止してそうだ。
自分が作ってる薬すら相手を出来る限り見極めて、ごく少量を流しているような小心者だ。
常世島の学園内でも、かなり平穏に遊んでいたタイプである。
「八百万以上に神様やそれに匹敵する存在がうろついてんのも、同意するよ。
…あー、うん?お狐様って、何か司ってたりするのか?こっちじゃ豊穣だの商売だの言われてるけど」
イシマキトコヨヨリキスの釣り針を外し、バケツに放り込む。
ツァラ >
「この世界のヒトでも驚いてくれるから面白いよね。
元の所よりもっと混沌としてるのにサ、
眼を逸らして生きてるヒトが多いんだもん。」
尻尾をゆらゆらさせる
きちんとそこに生えている。
真っ白い髪と同じ色。空の色を、蝶の光を簡単に移してしまう色。
己は並行世界の神。
しかし、それでもここで十分に生きていける。
それはだって……。
「ん? 僕が司るのは"幸運"だよ。
僕は"幸運の祟り神"。僕は幸せの傍にいる存在。
僕のご飯は誰かの幸せの隣に在る事。」
少年の食事は、"幸せ"なのだから。
伊伏 >
「眼をそらさないと多すぎんだよ、この世……幸運~~~~??」
背中を丸めてしゃがんだまま、ツァラを見上げた。
「いや、物騒な名乗りだったよな、今。
"幸運の祟り神"…なんで祟りになっちゃうんだよ、強制的なものってことか?
相反しそうな言葉が一緒にされてんだけど、俺の聞き間違いじゃなさそうだしな…」
これ以上聞くのが怖くなってきた。
貧乏神やマガツ神、祟り神と聞けば嫌でも眉をしかめざるを得ない。
ただ、幸運とつく限りはこちらから見た"厄神"そのままではなさそうなのが、より疑問を深める。
「飯が幸せってことは、喰うってことかね。その幸せ、幸運を?」
ツァラ >
「そう、祟り神。」
にっこにこ笑顔で目線を合わせる。
後ろから光を受けて、顔が影になっているのに、瞳は青く煌めく。
一切の否定はせずに、己を"祟り神"だと言い切るのだ。
「お狐様、お稲荷様はそういうモノでしょ。
信仰されている間は繁栄を約束するけれど、裏切った時のしっぺ返しはとても怖い。
僕が司るのは"幸運"。幸運を裏切れば、待っているのは不幸。
同じことじゃない?
だから僕は、"幸運の祟り神"だっていうのサ。」
それはただの言葉遊びなのか、それとも誠の事なのか。
「食べるというよりは傍にいるだけで良いんだけどね。
それで僕は食べてるのと一緒。」
伊伏 >
「確かにそういう受け取り方も出来るけど、信仰するのはこっちの勝手じゃないかね。
お参りなんかを怠けて罰が当たるっつうのも、自業自得ではあるし…」
そこまで言ったものの、口を半開きにしたまま数秒悩む。
商売や健康、何かを願うのは【望む方向に転がりますように】と運の上昇を願うものでは?
司るものが幸運であっても、願いを聞き入れてもらうための信仰にデメリットは付き物な気がした。
ただ、そういうもんじゃないか?と、感覚でしか返せない。
本人が言う"幸運の祟り神"という名乗りは、言い得て妙な表現なのかもしれない。
「…確かに同じ事だけど、なんか違う気もする。何だか言葉遊びみたいだ。
表現ってのは少しズレるだけで、ずいぶんと被害を生むもんだからなぁ」
小さなバケツの中で泳ぐ魚に視線を落す。
「ずいぶんと燃費がいいな、幸せ・幸運の傍にいるだけで腹が膨れるってのは。
羨ましい気もするけど、その幸せの種類や大きさによって、食べた気になれるかっつうトコには差があるのかい?」
ツァラ >
「幸せや種類で味が変わったり色々ー。
こっちでも存在が維持できるぐらいはね。
ま、元の世界よりは味が安定してないけれど。」
指先を軽く動かすと、そこに小さな蝶が生まれる。
それをぱっくりと口に含む真似をする。
幸せなどというのはヒトによって様々だ。
故に、別に自分自身を信仰してくれというわけでもない。
何の形であれ、幸せがそこにあるならば、それはこの少年の源となる。
「ふふ、正解も不正解も一緒。
誰かが幸せならば、僕はそれで生きていける。
だから、キミも美味しくあってほしいな。伊伏。
僕はキミが"どんな幸せ"を甘受しようと、それをお祝いするよ。」
尾と耳を持ち、神をうたう少年は、時折麻薬のような言葉を零す。
ちらほらと、周りに青い蝶が生まれていく。
伊伏 >
蝶を食べる真似をされると、ああ狐ちゃんだもんな虫喰うよなと、違う納得をしかけた。
どんな幸せでも祝うだなんて、ずいぶんと幸せの守備範囲が広い神様だ。
違う次元の存在からすれば、結果が幸せであれば気にしなくてはいけないことなど些細なのかもしれないが。
…幸せって、どんな味なんだろう。
ツァラからの頼み、もとい幸せの促しを貰った伊伏は、小さく肩をすくめて首を傾げ戻す。
「俺の幸せなんて些細なもんだから、スナックひとくち分くらいにはなるかもな。
平穏に、そこそこ楽しく過ごせれば十分だからさ。大きな幸せは他に期待しときなよ」
概念の食事を行う存在に、薬で得る幸福の味を聞いてみたいという考えが横切った。
が、そんなものを唐突に出すような不用意さは、流石に無い。
伊伏も立ち上がり、海の方に手を洗いに行った。
陽も大分傾いている。そろそろ自分の巣へ戻る算段をしなければ。
ツァラ >
この世界の味はチョコレート。
甘いも苦いも詰め込んで、いろんな味のチョコレート。
どんなに小さな幸せでも良いのだ。
小さな虫の囁きが、これから来る秋の夜に大合唱を響かせるように。
ひとつひとつがささやかでも、重なればそれは、己の食事となっていく。
だからこそ、狐はヒトの傍に在る"隣人"の一人なのだ。
「うん、それで十分だヨ。
どんなに小さくても、一つでも幸せがある限り、僕はこの世界に存在出来る。
それが"幸運の祟り神"である僕の姿だからね。」
ちらほらと蝶は増え、
手を洗った青年が振り向く頃には、少年の姿はどこにもなく。
ただ小さな青い光の蝶が一匹、空気に溶けるように消えていく。
ご案内:「浜辺」からツァラさんが去りました。<補足:白髪蒼眼の少年/外見年齢12歳154cm/白に赤基調の振袖、へそ出しの紫袴。和風っぽい服。>
伊伏 >
声は確かに、背を向けている間は在ったというのに。
手の生臭さを洗い終えて振り返る頃には、青い欠片のような蝶が宙に消えた。
まるで、最初からいなかったみたいに。
そういえばツァラが現れたのも、自分の背の方からだった。
「…祟り神ねえ。粗相をしなきゃただの幸運の神で良いと思うんだけどな…」
釣竿を拾い、釣り針の先にかぶせ物をして小さく畳む。
餌は大分余ってしまったが、持ち帰ってもまったく良い事は無い。
海の生物の餌となれと、伊伏は海に向かって餌をぼたぼたと落としていった。
ぼさぼさの髪を手櫛で軽く後ろに流し、麦わら帽子をかぶりなおす。
ご案内:「浜辺」から伊伏さんが去りました。<補足:長めの黒髪をぼさぼさにさせたまま、麦わら帽子をかぶっている。赤いTシャツに黒いハーフパンツの水着、サンダル。>