2015/06/14 - 23:08~03:35 のログ
ご案内:「大時計塔」に橿原眞人さんが現れました。<補足:制服姿の青年、眼鏡/裏の顔はハッカー《銀の鍵》>
橿原眞人 > 常世島が一望できる大時計。その上に眞人はいた。
柵のほうに体をよりかかせながら時計を見る。
「……時間より早く来るとまた何か言われそうだな」
眞人の右手には手紙があった。シュリクからの手紙である。
先日、話をしたいとのことで、誘いに乗ったわけだが、彼女に襲われることになり、苛烈な戦闘の果てに、両者ともボロボロになってしまった。
そのため、日を改めようということになったのだ。故に、ここで待っている。
本来立ち入り禁止であるはずの時計塔だが、あまり守られていない。
入ることは容易かった。黙認されているようにも思えた。
ご案内:「大時計塔」にシュリクさんが現れました。<補足:真っ白なロングヘア 金の瞳 ややゴスロリチックな服>
シュリク > シュリクが指定した時間は、12時
11時59分頃から、かつんかつんと金属を踏み締める音が響き、12時ぴったりに頂上へと辿り着く
長い白髪に、黒いゴシックドレス。シュリクだ
「お待たせしました。また、早めに待ってくださったんですね」
ぺこりと頭を下げながら、――なぜか、レジャーシートを広げ始める
「貴方は、食事は済ませましたか? 一応、二人分用意はあるのですが」
機械も食事をするらしい。見れば、大きなバスケットにサンドイッチがぎっしり詰められていた
橿原眞人 > 「……特に時間まで何も用事がなかったからな。島を眺めてただけだ」
シュリクが頂上に現れると、そちらの方を向いて眞人は言う。
相変わらずのゴシックドレスだ。いかにも暑そうだが平気なのだろう。
眞人は別に早めに待ってはいない、と首を横に振る。
「……あ? おいおい、ここでピクニックでもするつもりかよ」
突如レジャーシートをシュリクが広げ始めたので怪訝な顔をする。
「食事? ああ、そういえばまだだったけど……お、おお。すごいな。
シュリクも食事をするのか? いや、別に嫌味とかじゃねえんだ。
……ならそうだな、食べさせてもらうぜ」
バスケットの中のサンドイッチを見て驚きの声を上げる。
「シュリクが作ったのか?」
料理などほとんどしない眞人である。こういうものを食べるのは久しぶりだった。
「……で、何の話だったっけな。この前は大変でよく覚えてねえ」
シュリク > 「此処は見晴らしがいいですからね
わざわざ景色を楽しむために違反までして此処に来る生徒も多いそうです」
季節的にはもう半袖短パンでもいい時期だが、相変わらずの黒ずくめ
もとより体温の低いシュリクにはちょうどいいのかもしれない
「ベンチでもあれば用意しなくていいのですが……
ええ、しますよ。私は食べ物を100%エネルギーに変換できますので」
こぽこぽと水筒からアイスコーヒーを紙コップに注いで、眞人に手渡す
「最近始めたんですよ。いくらなんでも、毎日外食というのは不便ですので」
サンドイッチの一つをつまみながら、会話を続ける
味は、可もなく不可もなく
「ええと、たしか私の能力の話でしたかね
お気付きの通り、私のあれは魔術ではなく、異能ですよ
但し、人工的に作られ、組み込まれた擬似異能です」
橿原眞人 > 「……それはすごいな。そうするともう人間との違いなんてあんまりなさそうだ。
悪いな、わざわざ用意してもらって」
水筒から淹れられたアイスコーヒーの入った紙コップを受け取る。
「へえ……俺なんかよりも全然ちゃんと生活してる感じがあるな。
ん……うまいな。女子の手料理なんて初めて食べたぜ」
もっとも、相手は機械であるのだが。味はかなり普通の物だったが、眞人はおいしいと言った。
とはいえ、ここまで人間と近いのなら最早そんな区別など必要ないのかもしれない。
異邦人にはもっと色々な姿がある。
「ああ、そうだったな……そう、能力の話だ。
なるほどな。疑似異能……そんな技術があるとは驚きだ。
いや、そりゃ現代ならそういう研究もされてるけどな。
確か、最初に出会った時に6000年前がどうとか言ってたよな。
それがほんとなら、その時代の方が異能の研究は進んでたのかもな」
サンドイッチをほおばりながら言う。
「……気になるんだが、シュリクのその異能はなんで付与されたんだ。
あれはどう見ても戦闘用だ。何かと戦うために……?」
シュリク > 「極力、人間に似せて作られましたから
あまり機械であることが強いと、いらぬ警戒を産むことがありますので」
味について褒められればほんの少し照れたように
「ありがとうございます。人に食べさせるのは初めてでしたので、そう言ってくださると有り難いです」
サンドイッチの内容自体は、たまごサンドやBLTサンド、マスタードハムなど多岐にわたっていて、
あきさせないような工夫が凝らしてあった
「私の時代でも最先端の技術でしたから、まだまだ改良の余地はあるのでしょうけどね
――ええ、6000年前は現代とは比べ物にならないほど発達した文明でしたよ
ワープ装置や空を飛ぶ車、私のように考えるアンドロイドが闊歩していた時代です」
説明だけ聞くと、ありがちな未来予想図そのものだ
その中にシュリクも含まれ、今に至ると続けた
「私は要人や貴族の護衛用アンドロイドとして設計されましたので
……当時も、今のように<<ゲート>>が開かれていたので、いつ何時魔獣が襲いかかってくるか分からなかったのです」
橿原眞人 > 「ああ、美味いよ。マジでな。
下手な人間より気が利いてるぜ」
飽きないようにとの心遣いなのだろうか。色々な味がサンドイッチには仕込まれていた。
そうしてコーヒーを飲みながら、シュリクの話に耳を傾ける。
「……やっぱり、にわかには信じられねえな。
5000年ぐらい前からやっと文明が生まれたぐらいだって聞くぜ。
そんな、20世紀のSFみたいな時代があったなんてな」
ワープ装置や空飛ぶ車、物を考えるアンドロイド。
昔の未来世界の予想図のようだ。現代はそれに近づいているとはいえ、6000年前となると到底信じられない。
「現代以前にも「門」が開いていた時代があったなんてな……。
そりゃまあジェネレーションギャップを感じるかもしれねえな。
だがうん、わからないな……それはほんとにこの地球なのか?
魔獣……今でいう怪異か? だけどな、俺はそんな話を聞いたことがないぜ。
いや、隠されてる可能性もそりゃあるだろうが……」
そしてシュリクの顔を見て、少し考える。あることを言うべきかどうか迷ったからだ。
「……それに、その話がこの地球のことだったとしてだ。
そうなると、シュリクを産んだ文明は……滅んだってことになるぜ?」
シュリク > 「なら、良かったです。また、新メニューを習得したら作って持っていきますので、味見してください」
自らもコーヒーを一口飲みつつ、嬉しそうに目を細めた
ロケーション的にもシチュエーション的にも、人はこの状況を、デートと言うだろうが
それにシュリクが気付くはずは当然無く
「……そこ、なんですよね」
本当にこの地球なのか、と問われ、目線を落とす
「どの書籍にも載っておらず、全く情報のない超高度な文明
いえ、確かに私の文明レベルからすれば隠すことも可能だとは思うのですが……
隠すような理由も、そして、……滅んでしまった理由も、分からないのです
ただ、私が眠っていた場所、クレイドルは確かにこの島の、今で言う未開発地区の遺跡群にありました」
此処最近情報を整理すると、どうしても、今のこの世界が自分の世界ではないように思えてならなかった
しかし、この世界はシュリクのいた時代との共通点も多く、確証には至っていないというのが現状だ
「……しかし、アンドロイド自体は今のこの時代にもいると聞きますが?」
橿原眞人 > 「あ、ああ……ありがとう。なら、味見させてもらうよ」
眞人は少し恥ずかしそうに顔を背けた。
(そうだよな……これはどう見てもデートだが……向こうにはその様子はなさそうだな)
また作ってきてくれるとシュリクは言う。なるほどなかなか良いシチュエーションだったが、シュリクがそう言ったものについて考える機能……心があるのか眞人にはわからなかった。
ただ、嬉しそうに目を細める様子などを見れば、単にそう言ったことに関して知らないだけにみえた。
シュリクの話は続く。そう、どう考えてもこの地球の話のようには思えない。
それほどまで高度な文明なら、一地方で終わるようには思えない。歴史上から消滅したにしても、痕跡位ありそうなものだ。
だが、眞人は聞いたことがない。異能や魔術が世界の表舞台に現れてから、色んな調査がなされた。未知の古代文明の痕跡についてのニュースも眞人は見たことがある。
だが、シュリクの言っているようなものは聞いたことがない。この世界には謎が多い。当然、隠されている可能性はある。
そうでなければ――
「……別の世界の地球なのか?」
とはいえ、眞人にも確定する手段などない。6000年前を遡る力など眞人にはないのだ。
「この島で目覚めたのか……となるとますますわからねえな。
遺跡群にあったってことは、転移してきたこともありそうだが……俺にもよくわからねえ」
シュリクも、この世界が自分の世界ではないように思えているようだ。
だが、二人にそれを確認する手打ではない。
「ああ、アンドロイドとかはこの時代にもいるな。
もっとも、それが地球オリジナルの技術かどうかは俺も知らない。
異世界の技術も入って来たからな……それによって科学が発展したっていうのもあるらしい。
でもそれも別に昔からあったわけじゃねえと思う。たぶん最近だ」
シュリクのいた文明とは中々繋がりそうにない。
「……なあ、一つ聞いていいか。
俺はこの地球で生まれたからよくわからないけどな、目覚めたら全く知らない時代なわけだ。
自分を作った主も何も、もういない……シュリクは、これからどうするんだ?」
シュリク > 急に恥ずかしげに俯いた眞人の様子が理解できず、こくん、と首を傾げる
なにか不味いことでも言ってしまったのだろうか?
「あの、実は美味しくなかった、とかでしたら遠慮なく仰ってくださいね
それはそれで改善点を見つけるまでですので」
同じ星空、同じ時間軸、同じ「異能」という力
共通点を探せば枚挙に暇がない
しかし、探れども探れども当時の痕跡は見当たらない
この世界にある「当時」は、シュリクが目覚めた遺跡ただひとつのみだ
「……確証はありません。ただ、そうである、という場合も考慮すべきかと」
だとするのであれば、自分は<<ゲート>>を通ってきたことになる
それが事故なのか何者かによる恣意的なものなのかまではわからない
「ああ、なるほど……<<ゲート>>の向こうの技術だとすればうなずけます
この地を歩いてみて、アンドロイドが生まれるような技術レベルじゃないので疑問を抱いていました」
或いは、そのアンドロイドの技術こそ、シュリクのいた世界なのかもしれない
そして、眞人は問う
言うなれば、「何がしたいのか」という根源的な質問だ
「……そう、ですね……」
仮にこの世界が自らの世界と違うとして、元の世界に帰りたいかと問われれば
否、であった
「……私、最近気づいたんです。この世界は、私の生まれた文明よりもずっと劣った文明レベルです
でも、文化レベルはずっと、ずっと高い
食事という文化一つとってもそうです。私の文明では栄養効率優先だったので、味など考えられていなかった
口に含んで、水で流し込む。それが食事でした
この文明は、「楽しむ」ということにとても特化していると思います
……そんな、この時代を、私はとても好ましく思っている」
サンドイッチを摘む手が止まる
造り物の瞳が一直線に眞人を見つめた
「……でも、それでも私は、自分の生まれた文明がどうなっているのか知りたいです
本当にこの世界のものなのか、それとも別の世界のものなのか……
また残っているのか、滅んでいるのか……
――お願いが、一つあるのです」
橿原眞人 > 「おかしいとは思っていたんだ。あんたが魔術を一切知らなさそうなのもな。
それに異能や異界の「門」についてもだ。
こいつらは21世紀初頭の大混乱のなかで頻繁に出てくるようになったって聞いてる。
それまでの歴史の中では隠されてきたんだ。あんたのいうように一般的なものだったとは思えないぜ。
……確証はねえけど、たぶん《転移》してきたんだ。転移荒野はそういう場所だからな」
よくある話ではある。
突如異界の「門」が開いて、異邦人がこの世界に飛ばされてくる――
この世界では、もう普遍的なことだ。珍しい事ではない。
そんな世界の未来のモデルケースとしてこの学園は作られた。
それが、この学園の歴史なのだ。
そんな世界で、異邦人はどうするのか。その問題は多い。
混乱して正気を失う者、元の世界に帰ろうとする者、はたまたこの世界に残るとする者。
様々だ。眞人はそういう異邦人たちをこの学園に入って色々と見てきた。
シュリクもそうなるのだろう。眞人にはわからない。シュリクの話が本当ならば、そのアイデンティティも全て奪われたことになる。
守るべき対象もない。戦う敵も、たぶんいない。
そういう根源的な問いかけをする。場合によっては、ひどい質問かもしれなかった。
そんな世界に放り出された時のことを考えれば、その心細さは計り知れないだろう。
だけど、この少女は――
「……そうか、好ましい、か」
眞人は小さく笑む。眞人にとって、この世界は偽りだらけだ。家族を失った事件も、真実を捻じ曲げられた。
だけどたしかに、それが全てではない。ここにいる者は皆生きている。
この時代は「楽しむ」ことに特化している――確かにそうだろう。それ故に、ここに居残る者たちもでてくるわけだ。
そんな彼女の言葉を、打ち消す気にはなれなかった。
「ああ、そうだよな。知りたいはずだ。
……俺も、世界の真実を知りたいんだ。何もわからないのは、俺も嫌だ」
そう呟いて、遠くを見つめる。だが、シュリクの瞳が眞人を射れば、眞人もシュリクの方を向く。
「――お願い?」
シュリク > 「全ては推測の域ですが……恐らく、そうなのでしょうね
6000年という時間は、世界を超えたことによる時間軸のずれによるものかもしれません」
実際、そのような話はシュリクのいた世界でもままあることであった
ただし、文明はそれを拒否し、徹底的に否定した
世界のバランスを崩すもの、外なる世界の歪んだ力、自分たちを脅かすものとして
故に、シュリクのような戦闘力の高いアンドロイドが生み出され、重宝された
「此処に残るのも残らないのも、全てを知ってから判断したいです
もしまだ世界が滅んでおらず、私が行くことで救えるのであれば――救いたい
しかし、それには私の全ての能力を開放する必要があるのです」
時計塔の天辺は、風が強い
話している最中も突風が何度か二人の間を過ぎ去って、泣き声を残した
しかし、その一瞬だけ、まるで、待ってくれているかのように風が止んだ
「私を――私を、貴方の物にしていただけませんか?」
真剣な瞳だ
橿原眞人 > 「そうするといい。決めるのはお前だ。
俺も世界の真実を知りたいと思ってるんだ。だから、わかるよ。
……全ての能力の開放?」
彼女の時代、あるいは世界の事情は眞人はよく知らない。
彼女の言うとおり、この時代とは全く異なるものなのだろう。
シュリクはこの世界を好ましいと言った。
だが、同時に自分のいた世界についても知りたいと言った。
当然の話だ。眞人も、原因もよくわからないままに、家族を奪われた。
そういう世界の理不尽をもっとも憎んでいる。
シュリクと眞人では事情が違う。だが、世界の真実を知りたいということは、共通していた。
風が舞う。
二人の間を風が舞っていた。
だが、一瞬だけそれはやんだ。二人の服や髪が揺れるのを止めた。
そして、彼女は口を開いた。
「――は?」
眞人はそれだけしか声が出なかった。相手の言葉を理解できていない顔だ。
首を傾げて、その言葉をよく頭の中で反芻する。
冗談ではないらしい。シュリクは真剣な顔だ。
「ま、待てよ! い、いきなり俺の物にしてくれって……はあ!?」
明らかに眞人は動揺していた。
そういう意味にしか聞こえなかったからだ。
シュリク > 突然慌てふためく眞人に、少し俯いて
「そう、ですよね。いきなりそう言われても困りますよね……。
ただ、私の能力――もっと言うと、私の本当の「異能」は、「管理権原者」(マスター)の管理下になければ開放できないのです
これから先、<<ゲート>>の調査をするのであれば、戦闘は避けられないでしょう
そうなったとき、完全に能力を開放しておかないと、勝てる戦闘にも勝てなくなってしまうのです
ついこの間刃を向けておきながら不躾なお願いだとは思っております
ですが、どうか、眞人。私を、貴方のお傍に置いていただけないでしょうか」
三指を付いている
正座をしている
そのまま深々と、頭を地面に付けた
――眞人は、およそ10歳ほどの見た目の少女に土下座させている!!
橿原眞人 > 「お、おい待て、ちょっと待ってくれ! い、いきなりなにを……」
慌てふためいている眞人にシュリクが説明を始める。
どうにも、シュリクの能力は現段階では完全なものではないらしい。
その能力を開放するにはマスターが必要なのだという。
眞人はうまく飲み込めていないものの、おおよそそのことは理解した。
そして、シュリクはそのマスターを――眞人になってくれと頼んでいる?
見れば、シュリクは三つ指を立てて正座し、深々と頭を下げた。
それどころか、頭を地につけたのである。
土下座であった。
「お、おい、やめろ!! 10歳ぐらいの見た目の奴に俺はなんで土下座させてんだよ!?」
ここが上空でよかった。眞人はそう思った。
人に見られる場所でやられていたら眞人の今後の学生生活に大きな影響が出ていたことだろう。
おそばに置いてほしいなどと言われると、どうにも不穏である。
受けて良いものか……?
「……わ、わかった。わかったよ……!」
眞人はそう言うと、シュリクの肩に手をかける。
眞人は《銀の鍵》としてやらなければいけないことがある。
家族を奪った事件の真相を知るため。この学園都市で消息を絶った“師匠”を探すため。
この少女を受け入れてよいのだろうか。そもそもマスターが何をするのかもよくわからない。
彼女が財団の刺客かもしれない。世界の裏側も存在かもしれない。自分の敵かもしれない。
一気にそんな想像があふれ出ては消えていく。
だけど、眞人はそうは言わなかった。
彼女が、自分の“師匠”にその姿がよく似ていたためかもしれない。正確などは違うけれど。
断りきれなかった――いや。
世界の真実を知りたいという思いに、突き動かされた。
あのような優しげな笑みを浮かべる少女が、自分の敵であるはずがない。
「……わかったよ、シュリク」
ぽつりとそう漏らす。
「俺は、お前に話していないことがたくさんある。
お前に全てを明かしてるわけじゃない。だが、俺はお前の敵じゃない。
きっと、お前も俺の敵じゃない。
世界の真実を知りたいっていう気持ちは同じみたいだ、だから……。
――なるよ、そのマスターってのにな」
少女にここまで頭を下げさせている。それほど真剣な願いなのだ。
眞人はそれを断れるほど、大人にはなりきれていなかった。
シュリク > 「しかし、東洋では大事なことをお願いするときはこのようにするべきと書物でありましたので……」
かなり古い書物を参考にしたようだ
しかし、返答を聞けば、心底嬉しそうに――安堵も混じった――笑みを見せた
「ありがとうございます。眞人は私の全力を耐えた術者。マスターとして不足はないと、あれからずっと考えていたのです」
単なる要人警護ならば、マスターに力は必要ない
しかし、<<ゲート>>を調査するともなればマスターにもそれなりの実力が要求される
眞人のしたいこと、シュリクのしたいこと、利害も一致する
これ以上ないほど、マスターとして適任であったのだ
肩に置かれた手を払わずに、潤んだ唇がゆっくりと告げる
「――それでは、マスターの登録をお願いします」
ゆっくりと瞼を閉じ、口を噤む
つまり、そういうことなのだろう
橿原眞人 > 「いつの話だよ! 俺が誤解されるだろうが!」
がくりと肩を落とす。
酷く勘違いされそうな光景であった。
だが、眞人の返答に嬉しそうな顔を見れたのは良かったと、そう思った。
「そ、そうか。俺より強いやつなんかはいくらでもいそうだが……」
あの時の戦いが彼女のお眼鏡に適ったようだ。
マスターとなるにもそれなりの力がいるらしい。確かにそうでなければもう既に彼女にマスターはいただろう。
異世界の「門」を調査するためには、力が必要だ。
そして、この世界の真実に至るためにも力は必要だ。
だからこそ、彼女は眞人を求めたのだろう。
「ああ、登録、登録ね。こういうのはなんだろうな、SFとかだと――」
不意に、彼女が目を閉じで口を噤んだ。
眞人の額に汗が流れる。
「おい、まさか……嘘だろ……」
自分の推測が当たっているのかどうか眞人は悩んだ。
こんな経験などない。いや、これは男女のそれではなくマスターの登録のためのものだ。
そう自分に言い聞かせる。
「……い、いいんだよな? これが登録なんだよな……?」
眞人は息を飲んだ。
最早やるしかない。何でこんな登録方法なのかなど、そういう疑問はすっ飛んでいた。
そして目を瞑り、シュリクに顔を近づける。
その潤んだ幼い唇にゆっくりと口づけた――
シュリク > 「確かに、貴方よりも強い人物は他にもいるでしょう
しかし、貴方は善良なる心も持っている
……あの時、私を助けてくれたように」
最初の出会いはスラムだ。不良に絡まれていたところに、眞人が助けに入ってくれた
あの時は、余計なお世話だとすら思ったが、今は違う
眞人の善良性は、信ずるに値する美徳だ
故に、彼女は信じたのだ
眞人なら、きっと、上手に自分を使ってくれると
力に溺れて、自らを悪用したりしないと
唇は、嘘のように柔らかかった
ふわりと漂う香りは、薔薇
吐息
熱
少女
――味は、ちょっぴり、サンドイッチ
「……登録、完了。ありがとうございます、マスター
これで私、シュリクは貴方の人形です
貴方の手足となり、貴方を森羅万象から護ると誓いましょう」
キスに対する感慨は、ない
あくまで登録のための必要な、儀式のようなもの
ただし、誰に対しても許される口づけではなく
眞人にのみ許された、眞人のための唇だった
橿原眞人 > 柔らかい唇だった。
とても機械のそれとは思えない。
本物の人間。
少女のようだ。
少女の吐息と熱を唇に感じだ。
仄かな、サンドイッチの味を残して。
「……ッ!」
事が終われば、眞人はすぐに口を離した。
髪をかきあげ、顔と頭を押さえる。
その頬は赤い。
「クソッ、なんだってこんな方法なんだよ。ほかになんかこう、あるだろ……!」
悪態をつくようにそう言うのだった。変に赤くなっているのを見られたくはなかった。
シュリクにとってはこれは必要な儀式。特に感慨もなさそうである。
一人自分が変に舞いあがるのは道化のようだ。
「……ああ、これで完了なんだな。ったく、びっくりしたぜ。
貴方のお人形って言われてもな、どうにも実感わかねーよ。
森羅万象から護るって、大げさだな……。
まあ、なんだ……よろしくな、シュリク。」
気恥ずかしげにそう言った。
自分の傍に寄り添う少女は、かつての“師匠”によく似ていた。
シュリク > 「粘膜による接触が、一番識別に役立つのです
遺伝子情報も今ので把握しました。これからはどこにいても、マスターを見つけ出すことが出来ます」
さらりと、怖いことを言った
「まあ、マスターも年頃の男性。くちづけの一度や二度は経験済みでしょうし、そこまで落ち込まなくとも」
さらりと、ひどいことを言った
「ええ、これにて完了です。……これで、私の、私だけの異能……<<再創造>>(リメイク)が発動できるようになりました
ただし、この異能を使うためにはマスターの許可が要りますので、是非、ケータイのアドレスを交代しましょう……」
日が傾く
黄昏色が空を覆い、丁度夕日を背景にシュリクが微笑んだ
その姿は、どこからどう見ても人そのもので
人形、などと言うのを憚れるかもしれない
橿原眞人 > 「……どこにいても?」
どこにいても見つけ出すことができるなどと言われれば少し固まる。
常に見られているということになるのだろうか。
「……うるせえよ」
慰めるようにシュリクに言われ、より肩を落とす。
眞人にとっては初めてである。
相手は人ではなかったが。
「……ああ、言ってた力の開放ってやつか。
マスターになったんだからその辺もあとで聞かせてもらわねえとな。
……なんだが順番が逆になったような感じがあるよな」
アドレスの交換だ、などと言われればそんなことを呟いた。
無論、先程の口づけは儀式的なものであるとはわかっているのだが。
黄昏が島を包もうとする。
夕日を背景にシュリクの姿を見る。
幼い少女の姿。とても機械には見えない。
それはまさしく、人間だった。
「……師匠」
その姿を見て、眞人は小さくそう呟いたのだった。
共に世界の真実を知ろうと誓った者。今は行方の知れないマスター。
シュリクは、よく似ていた。
日が傾く。
もういい時間だ。黄昏が世界を包む頃、二人は静かに階段を下りて行ったのだった――
ご案内:「大時計塔」からシュリクさんが去りました。<補足:真っ白なロングヘア 金の瞳 ややゴスロリチックな服>
ご案内:「大時計塔」から橿原眞人さんが去りました。<補足:制服姿の青年、眼鏡/裏の顔はハッカー《銀の鍵》>