2015/06/07 - 02:13~18:51 のログ
ご案内:「学生通り」に橿原眞人さんが現れました。<補足:制服姿の青年、眼鏡/表向きは至って真面目な生徒>
橿原眞人 > 電脳世界という電子の世界に入り浸り続けると、現実がどこにあるのかという区別が曖昧になりそうになる。
今ここに立っているこの世界こそが、自分にとっては現実であるはずだ。あくまで、自分が時折没入する電子の世界は現実に存在するものではない。
それは電子の世界だ。この物理的な、現実の世界とは全く異なるものだ。
だけれど、眞人にとってはその電脳世界での日々が、まさしく現実であるように思われたことがあった。
彼の“師匠”は電子の海をまるで生きているように駆け、ほとんどの時間を電子の世界で過ごしていた。
幼い少女の姿のままで、電子の世界で眞人を指導し続けたのだった。
そして、その“師匠”は電子の海の中に消え、消息を絶った。
それからというものの、彼の現実には常に空虚さが伴うようになった。
家族を失い、ただひたすらその事件の追及のために、師匠とともにハッカーの腕を身に着けていった。
眞人は時折思っていた。この電脳世界での出来事が、自分にとっての真に心安らげる場所、現実なのではないかと。
「……師匠が消えてもうかなりの時間が経つ。この学園都市のネットワークのどこかにいるはずなんだ」
眞人は学生街を歩いていた。時刻は19時。下校のピークは去り、人もまばらである。
どこか上の空と言った様子で、イヤホンから耳を突きぬけてくる音楽に僅かに気を向けながら、ぼんやりと学生たちが運営する様々な店を横切って行った。
橿原眞人 > 無気力感。焦燥感。喪失感。
眞人にとって、この現実の世界はそれを埋めてくれるものではなかった。
常世学園で今騒動になっている風紀委員と公安委員の件についても、首を突っ込もうなどとはしていない。
彼の目的は一つだからである。眞人の挑むべきは相手は「常世財団」であったためだ。
21世紀の混迷とともに姿を現し、神の如き手腕でこの学園を作り上げた組織。
多くが謎に包まれた財団が操る現実こそ、ここであろう。
眞人はその財団の掌の上ともいえるこの島で、財団に挑もうとしていた。
世界の真実を知るために。
そして、電子の海の果てに消えた“師匠”を探すために。
眞人が現実を感じられるのは、生を感じられるのは、電脳世界の中においてであった。
《銀の鍵》として、学園の中枢コンピューターにアタックし、彼らのセキュリティと戦う。
世界の真実を探ろうとしているとき、師匠を助け出そうとしているとき、それこそが眞人の現実だった。
虚構と欺瞞に彩られていると眞人が感じているこの現実こそ、ひどくヴァーチャルなものに感じられるのである。
「あ……」
不意に視界の端を小柄な何かが走り、思わず視線を向けるも、すぐに首を横に振る。
ただ、小柄な女子学生が通り過ぎただけであった。眞人の驚いたような表情に彼女は怪訝な顔をしたので、眞人は苦笑いを浮かべながら駆けて少女から離れていく。
何の事はない。“師匠”がそばにいるように思ったからだ。ハッカーの修行をしているとき、いつもそうであったように。
「……どうかしてるな。さっさと帰って、師匠を探さねえと」
最近、独り言が多いと眞人は感じていた。常に傍にいた師匠が、少女がそこにいないからである。
彼に現実を感じさせてくれたその言葉、姿、それらは電子の海の果てに消えた。
気が付けば、視界の端にその影を探してしまっている。
ご案内:「学生通り」に雛元ひよりさんが現れました。<補足:ワンピースの少女、人形を抱いている>
雛元ひより > 蜜柑の様なぬいぐるみを抱いたワンピースの少女が辺りを物珍しげに見渡しながらとてとてと歩いてくる。
見ようによっては迷子のように見えるかもしれない。
橿原眞人 > 家族。
家族であったといえば、そうなのかもしれない。
そんなことを思い、同時にそんなことを口走ればいつものように彼女がからかいのことばをかけたはずだ。
そう想起すれば、より喪失感や焦燥感は増していく。渇望が胸中を支配していくのである。
突発的な“門”の発現による事故――今の時代、そこまで珍しいものでもない。
21世紀の初頭に比べれば落ち着いたのかもしれないが、今でも突如異界の「門」が開き、人が巻き込まれるという事件は起こっている。
珍しい事ではない。この世界では普通のことだ。
それで、家族を失ったとしても、普通の事――
――そうではない。
眞人はそう諦められなかった。この事件は、人によって仕組まれたものだ。そう確信するに至っていた。
理不尽ではないか。神も仏も実在したこの世であるはずなのに、理不尽ではないか。
事件はあまりにもあっさりと片付けられた。眞人の言葉に耳を貸す者もなく。
そして、眞人は出会ったのである。「真実を知ってみないか」という、あの幼き姿の――
「……!?」
はっと息を飲んだ。目の前に現れた影、小柄なそれは、“師匠”によく似ていたように思われた。
だがすぐに、そうではないとわかる。ぬいぐるみを大体ワンピースの少女が歩いてきているにすぎなかった。
どこか珍しそうな様子だ。ここに慣れているようには見えない。
迷子だろうか。普段ならそのまま通り過ぎてしまうこともあるだろう。
「……迷ったの?」
スッと出てきた言葉はそれであった。“師匠”の影を見たためであろうか。
それとも、眞人の人間性が何とか現実との接点を保とうとしたのか。
眞人は歩いてきた少女にそう声をかけた。
雛元ひより > 「えっと……ひよりは迷子じゃないよ? ここの学校に来たばかりだから探検してるんです!」
声を掛けられ困惑した様子を見せつつもえっへん、と腰に手を当て胸を張って言い放つ少女。
子供が背伸びしているようで少し微笑ましく見えるかもしれない。
橿原眞人 > 「……探検って」
思わず笑いが漏れた。
「もう夜も遅いぜ、子供はさっさと寮にでもなんでも帰ったほうがいい」
少々不審な話しかけ方だったろうかと思っていたものの、目の前の少女はそこまで気にはしていなさそうである。
胸を張る姿、まさに子供と言った様子に眞人は口を押えて笑いを堪える。今日日、中々このような少女は見かけられないだろう。
そして、そのせいであろう。眞人の中では完全に目の前の少女は子供として認識されていた。
「この学校に来たばかりならより危ないぜ。君みたいな子供がぶらぶらしてるとな、悪い奴らにどっか連れていかれちまうぞ」
半ば冗談めかしつつ言った物の、完全な嘘でもない。
学生街ならば問題はないが、歓楽街や落第街の近くでは現に起こりうることだ。
雛元ひより > 「ひっ……。」
自分の事をひよりと呼ぶ少女は眞人の言葉に恐怖を覚えたのかぶるっと震えた。
「ひ、ひよりは子供じゃないもん! もう16歳になったんだから!」
と、己の中から恐怖を追い出そうとするかのようにやや大きめな声を出しつつ頬をぷくっと膨らませるのだ。
橿原眞人 > 「あ、ああ、16歳……ハハ、もう少しまともな嘘を吐けよな」
苦笑いしながら、耳をふさいでいたイヤホンを取り、適当にポケットに丸めて入れる。
明らかに自分の話に怯えた様子である。怪談話をされた子供のような反応だ。
だが、その少女から出てきた言葉は驚くべきものだった。少女は16歳だというのだ。
「まあ、その年で背伸びしたいってのはわかるけどなあ。だが16歳はないだろ16歳は……俺と一歳しか違わないっていうのか、えーと、ひよりちゃん?」
明らかに小ばかにしたような口調で眞人は行った。頬を膨らませている16歳など見たことがない。
「へえ、それでその16歳のひよりちゃんは? どこに行きたいわけ? お兄さんが連れて行ってあげようか」
げらげらと笑いそうになりながら眞人は言った。さすがに失礼である。
雛元ひより > ひよりはぐぬぬ……と悔しそうな表情を浮かべ眞人を睨んでいるもののその外見のせいか迫力は微塵も無い。
「ひよりは16歳だもん! 本当だもん!」
精一杯の抗議のアピールであろうか、ぴょんぴょんと跳ねる。
その姿もまた微笑ましいものである。
橿原眞人 > 「わかったわかった、そんなにぴょんぴょん跳ねるなよ、余計に子供っぽく見えるぜ」
ぴょんぴょん跳ねる様子を見て、なだめるようにひよりにどうどうと手を掲げる。
眞人は実のところ困っていた。眞人は彼女を子どもと思っている。上手い対応の仕方がわからないのである。
このまま泣かれたりしても困るなあと眞人は思索する。
子どもをあまりからかっていて風紀の世話になどなりたくはなかった。
「わーった、わーったよ。君は16歳、はい、覚えました……俺は橿原眞人。一年だ。ああ、そうだな……あそこの自動販売機でなんか買ってやるから、機嫌直してくれねえか? そろそろ周りの視線が厳しくなってきたからな……」
そういって近くの自動販売機を指さす。
雛元ひより > 「あうっ……。」
眞人の 子供っぽく見える との言葉にハッと我に返り大人しくなった。
ひよりはひよりで、子供扱いされる事を非常に気にしているのである。
「橿原眞人……まーくん? ひよりは雛元ひより、同じ一年生だよ。オレンジジュースで許してあげる!」
眞人の名前を聞き、変なあだ名で呼びつつも自己紹介をした。
橿原眞人 > 「自覚はあるんだな……」
自分の言葉で落ち着きを取り戻したのを見ると眞人は安堵したように胸をなでおろした。
「ちょっとからかいすぎたな、悪かった」
そう言いながら自動販売機まで歩き出す。
「ま、まーくんって……まあ、なんでもいいが。へえ、一年なのか。その様子じゃほんとにお登りさんって感じだが……何でこの学園に?」
変なあだ名で呼ばれたので怪訝な顔をしつつ、自動販売機でオレンジジュースを購入し、ひよりに渡す。「どうぞこれでお許しを」などと言いながら。
そして、自分は甘そうなコーヒーを買った。
「まあさっきはふざけたけど、あんまり柄の悪いところとかはいかないほうがいいぜ。ここらへんはまあ大丈夫なんだけどな……」
雛元ひより > 「えへへっ♪」
嬉しそうにオレンジジュースをで受け取る。
封を開けずそのまま手の中で転がしながら
「ん~……ひよりは勉強をしに来たの! この学園ならひよりも伸び伸び出来るって先生言ってたから。」
どこか遠いところを見ているような、そんな目で学園に来た理由を語り、眞人の注意には
「柄の悪いところ? うん、分かった気をつけるね!」
にぱーと笑顔で答えた。
橿原眞人 > 「勉強……ま、俺も似たようなもんだ。魔術について勉強しにきたわけだ」
無論、自身がハッカーであるとか、師匠を探しに来ているとか、そんなことを言えるはずもない。
カシュ、と音を立ててコーヒーの蓋を開けると、眞人はそれを飲んでいく。
「……ひより、も?」
その遠いところを見る視線に、何かがあったのだろうということを感じる。
深入りしていいものなのだろうか。彼女の子供っぽい要するからは微妙に判断がし辛い。
「まあ、のびのびっていえばそうかもな……ここにはなんでもいる。人間や妖怪、俺は自称神様にも会ったことがある。いくら世界が変容したからって、こんなおかしい場所は初めてだよ。どんな勉強したって怒られないだろうな」
飲みなよ、とひよりに言う。ぬるくなってしまうから、と。
「……ほんと単純なやつだな。純粋というかなんというか」
はあ、とため息を吐く。すぐに騙されてしまいそうな少女だ。
雛元ひより > 「かみさま!?」
眞人の言葉に目をキラキラと輝かせている。
それまでの憂いすら感じられた視線とはまるでかけ離れた表情だ。
そして促されオレンジジュースの封を開けた。
「??」
眞人のため息には気付かずにこにこしている。褒められたと思っているらしい。
橿原眞人 > 「……ああ、神様だよ。なんか、そういう連中がここには結構いるんだ」
自分が出会ったのは破壊神だとか邪神だとか、そういう者だったが、相手の様子を見ているとそれを明かすのは忍びなく、神様だけにとどめておいた。
「神様、好きなのか? いや、好きっていうと変だけど……ここには本物の神様だっていうやつが結構いるみたいだ。探してみてもいいかもな。連中、きっと目立ちたがり屋だからな」
甘いコーヒーを飲み干す。
「つっても、良い神様ばかりじゃない。神様だっていってすぐに信じてしまったら駄目だ。ここじゃ、何もかも疑ってかからないとな……」
眞人の目が鋭くなる。強い意志、この学園の何もかもを疑うというような、そんな意志を秘めた瞳であった。
「だから褒めてるわけじゃないよ、雛元。危なっかしそうだからなお前。神様だなんだといえばすぐについていきそうだ。いいか、これはマジな話だ。お前が異能を持ってるのかどうか知らないが、危ない目に遭わないようにはしておけよな」
そして、ゴミ箱に向けて空き缶を投げる。それは弧を描いてゴミ箱の中に落ちた。
「ま、もう夜の良い時間だからな。雛元、どこに住んでるんだ?」
雛元ひより > 「かみさま見たこと無いから。」
興味深そうな表情で答える。
そして眞人の真似をしようと一気飲みしたもののむせてしまい、咳き込んでしまった。
「けふっ……まーくんは優しいね。 ひよりはね、あっち! まーくんがそこまで言うならひよりは帰ってあげても良いよ!」
と居住区の方向を指差し、何様のつもりか上から目線で言うのだった。
橿原眞人 > 「まあ……そりゃそうだよな。世界が変容して異能とか魔術が普通になったっていっても……神様は中々ねえよな」
ハハ、と笑っていると、突如ひよりがむせはじめた。
「お、おい馬鹿野郎。そんな一気に飲もうとすんなよ! ほんと心配になるな……最近ぶっそうだってのに」
優しいねと言われると頬をかきながら視線を逸らす。
「そういうのじゃない。ただまあ、知り合いが色々巻き込まれたら嫌だろ。それも、お前みたいな子供がさ……。はいはい、わかったよ。そろそろ帰りましょうぜ、ひよりさん。」
過去を追想するように眞人は言った。眞人が《銀の鍵》として動いているのは、家族を失った事件の真相を知るためと、あのようなことを防ぐためである。
人が何かに巻き込まれて、ひどい目に遭うなど、眞人は当然ながら嫌がっていた。
一方の少女は何やら上から目線の様子。やれやれと肩を竦めつつ、ひよりが指さしたほうを見る。
「ああ、居住区に住んでんのか。なら帰る方向は一緒だな……ま、これも何かの縁だ。飯ぐらいおごってやるよ。何かあったら寝覚めも悪いしな」
そして、帰るぞと彼女に促し、居住区の方へと歩き出したのだった。
雛元ひより > 「むーっ。ひよりは子供じゃないもん!」
再び子供扱いされた事によりぷくーっと当社比10%分多めに頬を膨らませつつも、大人しく眞人の言葉に従い後を付いて歩いていった。
ご案内:「学生通り」から雛元ひよりさんが去りました。<補足:ワンピースの少女、人形を抱いている>
ご案内:「学生通り」から橿原眞人さんが去りました。<補足:制服姿の青年、眼鏡/表向きは至って真面目な生徒>