2021/11/06 のログ
ご案内:「落第街大通り」に燈上 蛍さんが現れました。<補足:乱入歓迎:【とうじょう ほたる】青交じりの黒髪に紅橙眼の青年/18歳184cm。手に赤い装丁の本を持ち、髪を編み込んでいる。紅い風紀委員の制服に腕章。>
燈上 蛍 >  
──本はずっと閉じられていた。


燈上蛍という本は、今までこの常世島という書架から除かれていた。
災いから遠ざかり、眼を逸らし、歩みを止めていた。

何故かって、己が登場する"お話"では無かったからだ。


そう思って、ずっと本を閉じたままだった。


登場人物はそれぞれが舞台の上にいる。
この赤い本を持った青年は今宵、唐突にスポットライトを浴びせられたが、
数多の落第街の日常の事後処理に駆り出された一人に過ぎない。

日々、落第街はざわついている。



ふいに、青年が顔を上げて月明りすら届かぬような闇より空を見る。

燈上 蛍 >  
そんな闇を焼き尽くすような鉄火の雨。

鉄火の雨の傍らで闇を維持しようと暗躍する篝火たち。

そして片隅で強大な力に慄く、かつて魔法に憧れた青年。


 誰も彼も、それぞれが己の立場で戦っている。


…ここ落第街大通りはまだ、
歓楽街より一般のモノも入り込むかもしれない境目。
闇より、何かがあぶれ出てしまうかもしれない境目。

空を見上げた青年は、そんな零れ落ちた何かの為に、此処に居た。
前線に立つ訳ではなく、ただ静かに。


今空を見上げたのは、以前に感じた炎の気配がしたから。

このありきたりな火の異能を持つ青年は知っていた。
"篝火"のあの黄金色が持つ炎の気配を。

燈上蛍。風紀委員。
この落第街に風紀委員の制服で立つ事が出来る程度には、
戦う術を持っている。何かに対応できる力はある。

燈上 蛍 >  
空から視線を戻し、手元の赤い本へ。
青年は無言で本の頁を捲る。

この本は青年の異能の一部だ。
火という異能は今のこの時世ありきたりではあるが、
故に千差万別の様相を見せる。

彼の異能は、彼岸花を生成し、それを着火剤として、
この本が魔導書のような役割を経て、炎を操ることが出来る。

彼岸花の謂れに、持ち帰ると火事になるというモノがある。
そんな謂れが、青年に因果を宿し、そして異能を芽吹かせた。


火は時に文明を築き、時に災厄を与える。

鉄火の支配者とは、とある怪異と共に戦火の中へ。
篝火とは、奇妙な共闘として闇夜を共に歩いた。
はたまた誰かと出逢い、共闘した。


そんな数頁、この青年の物語は綴られている。

燈上 蛍 >  
今はまだ、こうして再び頁が捲られただけ。
再び物語が始まるか否かは、まだ分からない。

此処にあるのは群像劇の一部。

常世島の日常の一部。



青年は本から眼を離し、闇夜の街を歩いていく。

歩いた後に一つ、赤い彼岸花を落として。

ご案内:「落第街大通り」から燈上 蛍さんが去りました。<補足:乱入歓迎:【とうじょう ほたる】青交じりの黒髪に紅橙眼の青年/18歳184cm。手に赤い装丁の本を持ち、髪を編み込んでいる。紅い風紀委員の制服に腕章。>
ご案内:「落第街大通り」にノーフェイスさんが現れました。<補足:長身の女。フェイクファーのレザーロングコート。 《ソロ》>
ノーフェイス >  
「どうしてこんなところに?」

 口の端に乗せるつもりのない言葉を女はあえてうたいあげた。
 大通りにしゃがみこむその姿はこのあたりに似つかわしくない身なりの良さをしている。
 その視線の先に見下されたものはしかしある意味ではそれ以上に特異なものに見えた。

「レッドスパイダーリリー」

 そっと形がくずれないように柔らかく指先でつまんで拾い上げる。
 みずみずしく咲いている花は脚を広げた蜘蛛の形に見えたがゆえに仇名されていた。

「リコリス、ヒガンバナ…このあたりで咲いているところはなかった筈だけどな~」

 野草や野花が咲くことはあるだろうが、こうまで見事だとつい脚を止めてしまう。
 しばらくその場にとどまりしげしげと観察していた。

ノーフェイス >  
 踏み潰されることなく夜明けまで生き延びたこの花。
 基本的に毒花である品種の筈で、炎にも見えることや、
川辺に咲く姿から不吉の象徴と扱われることも多いと女は記憶していた。
 
「これ、活けたら保つのかな?」

 拾った上でまた捨てることをためらいこの後の処遇にこまる羽目になった。
 しかし女の唇には笑みが浮かんでいた。

「でもまだ決まった家もないしなぁ…
 どうしよう、持ち運べるようにするには、なにか良い手は…」

 持ち帰ると火事になるという逸話はきっと、この不吉な花に喰われないための伝承だ。
 火事…女は過去を想起して体を震わせた。

ノーフェイス >  
 これは誰かが残していったモノだ。
 きっとそこには美しく毒花に彩られた物語があるのかもしれない。
 この花の咲いていた先にいる誰かのことを想像した女は笑みを深めた。

「立体的な形だから少しむずかしいかもしれないけど…
 押し花にしちゃおっか、栞にすれば持ち歩ける!」

 時を経たら再び戦場となるこの街に女は怖気づく様子も見せずに、
不思議な拾い物を胸に鼻歌をうたいながら一時の住処へ戻っていった。
 
「花か、もしこの街に花咲き乱れることがあったらそれは素敵だね」

 彼岸花、切り倒された夾竹桃、物悲しい光景を、女は少し歩いてみてきたが、
それでもこの街もその向こう側もみずみずしく生きていると感じていた。

ご案内:「落第街大通り」からノーフェイスさんが去りました。<補足:長身の女。フェイクファーのレザーロングコート。 《ソロ》>