2015/06/12 - 22:03~03:27 のログ
ご案内:「第二演習場」に橿原眞人さんが現れました。<補足:制服姿の青年、眼鏡/裏の顔はハッカー《銀の鍵》>
橿原眞人 > ――第二演習場。
この常世学園で、合法的に攻撃的な異能や魔術の使用が許された実習区の、実習施設。
授業や自習のために使われる場所であり、不可解な力を制御するために日々研鑽を積む学生がいる場所である。
そこに、眞人はいた。

「……ロボットにしちゃ古風だよな」
男子寮のポストに入っていた手紙を見る。
そこには、以前スラムで出会ったシュリクという機械の少女からの誘いの内容が書かれていた。
といっても、浮いた話ではない。この間の話の続きがしたいということだった。
「まあたしかに……魔術が当然じゃない時代? 世界? から来たんなら不思議に思うのかもしれねえな……」
演習場の椅子に座り、アイスココアを飲みながら彼女を待つ。

ご案内:「第二演習場」にシュリクさんが現れました。<補足:真っ白なロングヘア 金の瞳 ややゴスロリチックな服>
シュリク > ――ややすると、黒いゴシックドレスを揺らして、白髪の少女がやってくる
もう6月に入り気温も上昇した頃に、全身を真っ黒で覆っているのは傍目から見れば暑苦しいかもしれない

「お待たせしました。――この学園の男性は、皆、予定より早めに来るものなのですか?」
シュリクが指定した時間は午後14時
一秒も遅れずぴったりにやってきたシュリクより早いということは、早めに来ていた計算になる

「矛海先生も、予定より早く来ましたし」
矛海とは、つい先日、第一演習場で実践訓練を行った
その際にも手紙を使い呼び出したのだが、何故か彼は空気椅子の格好をして待っていたのだった

橿原眞人 > 「……そういうもんなんだよ。待たせたら嫌だろ」
時計を見れば14時ちょうど。なるほどピッタリである。
眞人は15分ほど前からここに居たので彼女の言うとおりになる。
「日本人はな、早めにくる奴が多いんだ」
そう言いながら眞人は立ち上がった。

「まあ、そんなことはいいんだ。でも何でここなんだよ? 話しするだけなら別にこんな場所でなくてもいいだろ」
何故このような場所で待ち合わせたのか。そのことを尋ねる。

シュリク > 「優しいのですね」
くすっと笑う仕草は、普通の少女のようで機械には見えないだろう
……どこか最初に会った時より、雰囲気が柔らかくなっている印象を持つかもしれない
「聞いています、だから、苦労するんですよね。日本人は
でも、美徳だと思います。ぜひ継続を」
頷いて、向かい合う

「いえ、ここでしたら『どんなことがあっても』大丈夫でしょう?
……念には念を、ということです。確かめたいこともありますし」
近づき、眞人を見上げる
およそ10歳ほどの少女として作られたシュリクにとって、平均身長の眞人でも十分背が高かった

「……貴方と話してから幾日か過ぎましたが、確かに、どうやら貴方の言うとおりだったようです
魔法は、はるか昔から、実在している……文献も残っていました
ちなみに、貴方が魔術を使うようになってからどれくらいが経つのですか?」

橿原眞人 > 「そんなんじゃないよ……」
優しいと言われると少し顔を背ける。
「何か変わったな、あんた」
最初に出会ったときは、確かに機械的な反応であった。
しかし、今は眞人の言葉に反応して笑みさえ浮かべている。
本物の少女のようだ。彼女がいた時代のことなどはよくわからないが、遥か昔にこのような技術があったとは、中々信じられない。この全てがありえてしまうような世界においても。

「……『どんなことがあっても?』 ま、待てよ、何する気だよ……!」
いきなり不穏なことを言われ怪訝な顔をする。
「はあ、まあなんでもいいんだが……俺が答えられるようなことならな」
シュリクは幼い少女の姿をしている。必然的に眞人が見下ろす形になる。

「そうだろ。魔術は昔から存在してたんだ。異能もな。
 俺にとってはそれがもう常識だし、生まれた時からそうだった。
 だからそんなに不思議でもないんだ。
 ああ、そうだな……ちゃんと使うようになったのはここに来てからだから、一年も経ってない」
そういって、自分の改造したタブレットを見せる。
「魔術っていっても、俺のはちょっと特殊だからな。魔導書を電子化した上で使ってるから」

シュリク > 変わったと言われれば、目を丸くした
「そう、でしょうか。……だとしたら、きっとみなさんのおかげでしょう
ここは、本当にいろんな人がいます。私も良い刺激をたくさん受けました」
そう語るシュリクはどこか嬉しそうで、人によってはそれを、成長と呼ぶのかもしれない

「それは後に分かることですよ、それよりまず、お話がしたいので……
いきなり襲い掛かるようなことはしないので、ご安心を」
流石にそこまで無礼ではありません、と付け加え、話を続ける

「私の時代では、魔法は異なる世界から齎されたものという認識でした
魔法とは世界のバランスを崩す力であり、その力に対向するため、私達は異能という力を用いた
……ですが、考えてみれば異能自体も魔法のようなもの
源流をたどれば、もしかするとどこか一つで交わっているのかもしれませんね」
瞼を閉じ、自らの過去を精査するように
「ええ、それはこの間見ました。……なるほど、まだ日が浅いのですね」
理解したように頷くと、コクンと首を傾げて
「ということは、魔術はだれにでも使えるものになったのですか?」

橿原眞人 > 「あ、ああ。いきなりじゃなくても襲われたらこまるんだが……」
だがどうも相手は真剣なようだ。こちらも真剣に話を聞くことにした。
彼女の話からすれば異邦人とは違うのだろうが、状況としては似たようなものだろう。
きっと、わからないことだらけである。

そして、彼女の質問に答え始める。
「ああ、誰でもというと多少語弊はあるかもしれないが……基本的にはそうだな。
 勉強さえすれば使えることになってる。だから授業もあるわけだ。
 学問として大系だっているわけだ。
 まあ実際には異能と魔術との区別も難しいやつもあるらしいが……。
 あんたの言うとおりだ。基本的には誰でも使えるものだぜ、魔術は。
 21世紀の混乱以前は、普通の人間は魔術も異能も、架空のものだと思ってたらしい。
 だが今じゃ普通に存在するものだ。魔術ってのは、この世界で普通のものだぜ」

シュリク > 「それは保障しかねます」
きっぱりと言った。――すなわち、遅かれ早かれ戦う意志があるということだ
敵意のようなものを出している雰囲気はないが、完全に気を許している素振りもない
ただ、機械が嘘をつくとは考えにくいだろう、いきなり襲うことはない、という言葉は信用しても良さそうだ

「……。そう、ですか」
その返答を聞くと、少しだけ、――寂しそうに、眞人の側を離れる
認めたくない真実と向き合った子供
離れ際にシュリクの顔を見れば、そんなイメージが浮かぶかもしれない

「確かに、魔術は昔から有るようです」
離れながら、先ほど言ったことを繰り返す
「ですが」
彼我の距離はおよそ30m程
そこで踵を返し、再び眞人に向き合う
「私は、まだ、それを認めたくない――と、どうやら思っているようです」
自らの常識を覆された
完全なる機械であるならば、データを更新するだけで済む話
だが、どうやら、厄介なことに――


――普通の機械では、なかったようだ

「見せてください、魔術というものを。そして、納得させてください
人間は魔術とともに歩み、誰もが使える力であるということを
それも――脅威を、払拭できるほどに」

空気が、反転した
間延びした空気は、もうどこにもない
だらりと両腕を垂らすシュリクの姿は、明らかに、闘う意志をその瞳に宿していた

橿原眞人 > 「……な、なんで?」
保障しかねますと言われ思わず身構える。
ただ、確かに今すぐ襲い掛かるようなことはしないようだ。
眞人の頭には疑問符が浮かぶ。

そして、シュリクは眞人の言葉を聞いた後に、傍を離れていく。
その表情に、寂しげな色を眞人は見て取った。
話を聞いていれば、彼女とにとって魔術は世界を乱すものであったらしい。
それが世界の当然になっていた、となれば確かにショックだろう。
とはいえ、眞人をはそれを想像することしかできない。
実感として、得られるわけではないのだ。

「ああ、わかってくれたようで何よりだ。飲み込むのは難しいかもしれねえが、これが現状だ。
 そういうわけだから――あ?」
ショックは受けたらしいが理解してくれたらしい。これが異文化のコミュニケーションに繋がるのだろうかなどと思っていたところに、彼女の言葉である。
『それを認めたくないと思っている』
返ってきた言葉はそんなことばだった。

「――お、おい。いきなり何言ってやがる!
 俺はあんたと戦う理由なんて……!
 チッ!
 ぶん殴って、わからせてくれってことかよ……!」

彼女の常識はわからない。眞人にとっては、異能も魔術も、自身がこの世に生まれ出でてから存在した、当然のものだ。
だが、彼女がいっているのは当然かもしれない。
21世紀以前の普通の人間は、魔術や異能、異世界、それらの存在を、それらの力を見るまで信じることはなかったのだ。
ならば、彼女もそう思っているのだろう。自信を納得させるために。

「女の子の姿のやつと戦うのは気が引けるんだけどな!」

眞人はそう叫び、タブレット――《電子魔導書》を構える。
既にその画面は淡い光に包まれている。
一変した空気の中で、眞人がタブレットに指を滑らせる。

「なら、来てみな。現代式の魔術を、見せてやるぜ!
 あんたが納得するようにな!」

シュリク > 「――ありがとうございます」
一度だけ、微笑んだ
最初に見せた微笑みと寸分変わらぬ、年頃の少女の笑み
眞人が瞬きをすれば、そこには、感情のない機械が立っていた

そして
もう一度まばたきをすれば、もうそこにシュリクはいなかった
空気が灼ける音
不自然に、抉れた地面
普通の人間には、捉えることが出来ないスピード
――上空だ!

「――はぁっ!!」
拳だ
拳がまるで落雷のように、眞人に降り注ぐ
いささかの躊躇もなく放たれた拳は、まるでこれぐらいはどうにかしてみろ、とでも言わんかの如く
「躱されること」を前提とした、遠慮のない一撃――
魔術も異能もない、純粋な、個人スペックによる拳打!

橿原眞人 > 「俺みたいな一般人に、あんまり期待するなよな!」
年頃の少女のような笑みを見れば、今が戦いの場であるということを忘れそうになる。
しかしすぐに眞人は現実に引き戻された。
瞬きをしたころには、既にシュリクはその気配を機械に変えた。
もう一つ瞬きをしたころには、彼女はもう目の前から消えていた。

「……あの跳躍かよ!」
初めてであった時に見た跳躍。あれがなされたのだ。
瞬間の内に、彼女は上空へと飛んだのだ。
眞人は空を見上げてそれを確認し、タブレットを操作する。
「本気じゃないよなと思ったが――そんなのは聞いてくれそうにねえな!」

ここ数日で、眞人は魔術の勉強を行った。
高次のものではないが、電子化した魔導書の数は多い。
それらを全て駆使しなければ、目の前の少女を納得させることはできないようだ。
「――開錠! 『偽典・倭文祭文註抄集成』より……天鳥船!」

眞人が叫ぶ。タブレットの画面にはいくつもの文字列が溢れていた。
英数字、漢字、その他未知の言語――それらが、一つ一つ、乗り越えるべきセキュリティとして眞人に立ちはだかる。
それを解除するにはとても時間がかかる。そう、それが呪文の詠唱に相当するものだった。
しかし、眞人が開錠と叫び、鍵を回す所作を行っただけで、それらの段階が全て「門」のように開かれていくのだ。
本来必要な呪文や儀式、電子魔術であっても必要なそれを、己の異能である《銀の鍵》と組み合わせることで、全て触れるだけで解除してしまうのだ。

そして、結果として、魔術が発動する。
「……よしっ!」
魔術の素人が、普通なら間に合わないような魔術の執行をやってのけた。
魔法円が出現し、眞人の体宙に舞、シュリクの攻撃を回避する。天鳥船。天孫降臨でタケミカヅチと共に降臨した神だ。
その神の名を持った魔術は、術者を飛翔させる。

「さあ、今度はこっちからだ!」
眞人は叫ぶ。
「――開錠! 常世神の糸!」
以前、シュリクを助けたそれだ。
魔法円から無数の、非常に硬い糸が飛び出し、シュリクを絡め取ろうと、凄まじいスピードで向かっていく。

シュリク > 瞬間、凄まじい轟音と共に、土煙が巻き起こった
どれほどの力を込めたのだろうか、直撃すれば明らかに人体など木っ端微塵になることが予想されるだろう、
おびただしい土煙がシュリクを完全に包む

――ほう、飛行の魔術ですか
土煙の中からでも、機械仕掛けの瞳は確実に眞人を捉える
人間としては不自然な空中浮遊、なるほどあれが魔術かと納得をした
一つ不可解なのが、魔術施行の疾さだ
魔術というのは、詠唱による時間のロスがあることは、前々から知っていた
それがもしあの機械端末を通すことにより、限りなくゼロに近づいているのだとすれば
――厄介ですね

続けざまに魔術を放つ様子に、眞人が詠唱によって長く動きを止めることはないだろうと判断した
液晶より飛び出るは、自らを救った白い糸
――広角が、釣り上がる

糸が、対象を確かに絡めとった感触を眞人は感じただろう
ただし、土煙によりその姿は見えず、判別はつかない
――瞬間、轟、と炎が土煙から広がり、糸を伝って眞人へと一直線に伸びた

橿原眞人 > 「チッ、半端ねえ……! あんなのに当たったら一瞬であの世行きだ!」

眞人の体は宙に浮いていた。とはいえ、この魔術も完全なものではない。
ここは現実世界だ。眞人が得意とする電脳世界ではない。
電子魔導書の場合、その魔力は魔導書を構成する文字から主に供給される。
眞人自体の魔力ではない。元々普通の魔術からすれば異端ともいえるものだ。
一つの術式をそう長い時間使えるわけではない。
土煙の中からシュリクの目が光るのが見えた。次が来る。

「クッ……! 逆効果か!」
常世神の糸は確かにシュリクを捕えたようだ。
だが、そのシュリクが今どうなっているのか、土煙で判断が憑かない。
そのときである。眞人が出した糸を伝うようにして炎が伸びてきた。
鋼鉄より硬い糸。だが糸は糸だ。
勢いよくそれは燃え上がり、眞人へと向かってくる。
「こいつは不味い……施錠! 魔術を解除だ!」
眞人があるコードを打ち込み、再びモニターの前で鍵を閉める動作を行う。
炎が眞人を焼き尽くす寸前のところで何とか糸は消え去った。眞人の服が少し熱気で焦げただけだ。

「まだ天鳥船は生きている――なら、こちらから仕掛ける。
 怪我するんじゃねえぞ、シュリク!」
そう叫び、眞人は次の術式を打ち込み始める。
その間にも、眞人の体は素早く土煙の中のシュリクへと向かう。

「――開錠! 『偽典・倭文祭文註抄集成』より……倭文神の太刀!」
モニターに新たな文字が現れる。それは和歌であった。
『このたちは わがにはあらず あめにます しとりのかみの たまひしたちなり』
かつて、悪しき星神を誅したとされる倭文神の太刀。それを呼び出す魔術だ。もちろん、そう名付けられただけのものであり、本物ではない。
眞人は自分の前に現れ五芒星に近い魔法円の中から、一振りの太刀を抜き出す。
相手は機械だ。それに本気で向かってくることを期待している。
ならそれに応えるのみだ。魔力を帯びた剣を構え、土煙を払うように振り、その中にいると思われるシュリクへと剣を振るう。

シュリク > 「――<<嗤う灼熱>>(ラフィングフレア)の威力は如何でしょうか」

土煙から声がする
糸は――完全に焼き切れている、炎の異能だ
糸を断てば延焼する炎が途切れ、散り散りに堕ちていった

――成る程、自由意志で廃棄することも出来る、と
昇りゆく炎が眞人を捉えられなかったことを知れば、眞人の出方を土煙の中から伺う
――一直線に飛び上がり、首を貫くことも考えたが、今はそれよりも、眞人の魔術を知りたかった
空を飛ぶ魔術、糸を出す魔術、どちらも言ってしまえば間接的な魔術だ
――そろそろ、直接的な攻撃魔法が来る
内蔵された戦闘データが、眞人の行動パターンを予測し、そのデータが正しいかどうかを検証する

「……なる、ほど」
見えたのは、一振りの剣。特に大きなわけでもない、行ってしまえば何の変哲もない太刀だ
しかし、わざわざ魔術を使ってそのようなものを召喚する意味もなく――
「っ!!」
そのまま眞人が宙で太刀を振るえば、魔の波動が刃となって一直線にシュリクへと伸びる!
すかさず地面を思いっきり蹴り上げ、上空へと退避した

煙が晴れると、そこには大きなクレーターがあった
……拳の一撃によるものだ
「なるほど、遠距離の攻撃手段もあるということですね」
ぱちり、とシュリクの左腕に雷が纏う

橿原眞人 > 「俺にとっては魔術もプログラムの一種だ。そういうのは得意なんでね、組み替えたりもできるってわけさ。
 危うく燃やされるところだったぜ。可愛い顔して怖いな、シュリク」

眞人の魔術で生み出した太刀の一撃はシュリクに躱された。
一筋縄ではいかないようだ。
躱されたと見るや、眞人はすぐさまその場を離れる。
眞人はシュリクの力について情報は特に得ていない。今のところわかるのは、とんでもない怪力と、炎を操るということぐらいだ。
「一つ聞いておきたいんだが、それは魔術じゃないんだな? あんたの機能なのか?」

拳で打った一撃で宙に舞う。何ともアナログな方法だ。空を飛ぶ方法などいくらでもありそうなものだ。
それゆえに、その体を持ち上げてしまうほどの一撃は恐ろしい。
眞人は倭文神の太刀を構え、地面に降り立つ。
すると、今度はシュリクの左腕に雷が纏われた。
想像されるのは当然雷電の一撃だ。

「……見かけによらず、力メインらしいな」
眞人はタブレットに指を走らせ、術式を準備しはじめる。
そして、シュリクを地で見上げながらその太刀の切っ先を向けた。

シュリク > 「――可愛いは、余計です」
少し、頬を染めた
やはりどこか少女らしさが抜けないというか、感情のようなものが見え隠れしている
故に、やりづらく感じるかもしれない

大きく後方に下がったことにより、彼我の距離は開戦と同じ程に戻る
所謂、仕切り直しだ
「私が魔術などという胡乱な力を使うはずがないでしょう。
……まあ、それに関しては、この戦いが終わったら教えてあげます」

空をとぶ方法。――なくもない
ただし、それには、「あるもの」が必要なわけで
「……ひとつ、警告しておきましょう」
徐々に雷が荒々しく、吠える
時折周囲の岩を砕くその雷は、相当なまでの出力で、腕に巻き付いているのが不思議なほどだ

「……今から使う異能は、山を崩します。――それを知った上で、対処してください」
切っ先を此方に向ける眞人に対し、涼しい顔で、むしろ警鐘を鳴らした
「わざと」脚をかがめて、跳躍の姿勢を取る
雷は既に場を削るほど響いており、そして、

「―――――<<雷神の鉄拳>>(ライトニングブレイカー)―――――!!!!」

地面を抉って、眞人へと飛びかかる――!!!

橿原眞人 > 「……そ、そこはもっと、ロボっぽく反応してくれよ」
変に頬を染められてしまうと非常にやりづらい。
このような反応が返ってくるとは思わなかった。
「ほんとに、人間みたいだな」

太刀を構える。雷電の一撃なら、対処のしようはある。
「そうかよ。ならそれを教えてもらえるようにするためにも、ガンバらねえとな!」
不敵な笑みを浮かべる。別に戦闘が好きなわけではないのだが、彼も男だ。
こういう戦いは嫌でも気持ちが昂る。
だが――

「は? 警告?」
警告という言葉に怪訝な顔をする。
当然、注意はする。あの一撃も相当に痛そうだ。
雷電が吼える。バチバチと高圧と思われる電流が蠢いている。
だが、どうにも彼女がいいたいのはそのレベルではなかったようだ。
既に見てわかるように、恐ろしい威力だ。だが、岩を砕く、というようなものならまだ、わかる。
そういう異能を持った奴もいるだろう。
しかし――

「はあ!? おい、ちょっと待てよ!!! 何が山を崩すだよ!
 涼しい顔していうんじゃねえ! おい待て、そんなの対処できるわけ……!
 ちょっと!!!!」
山を崩す。軽く、そんなことを言われた。
そんな力に耐えられる奴等そうそういないだろう。眞人の叫びもむなしく、既にシュリクは準備に入っていた。
足を屈めて、跳躍の姿勢を取る。時間はない。
そして、彼女は飛んだ。
神の雷の如き煌めきをその腕に秘めて――!

「くっそおおおお!!」

どうする。どうする。眞人は自問するがそんな時間はない。
今から逃げてもおそらくは間に合わない。あの威力だ。たとえ避けたとしても、死ぬかもしれない。
眞人の手の内にある魔術で、あれに対抗できるものはない。
全ての希望は断たれていた。

「またこういうのかよッ!! ……やるしかねえか!! オイ、あんたも覚悟しておけよ!!」

眞人はそう叫んだ。そして彼女が飛来する刹那、タブレットを操作する。
そこに、一つのコードを入力する。対象は、タブレットに入れられた全ての電子魔導書。
そのコードは、狂わせるもの。魔術を狂わせ、暴走させるもの。
そして――

「――全ての魔導書、全ての術式、全てを今解放する! 全開錠!!」

魔導書が危険な光を放った。あらゆる攻撃魔法が。あらゆる防御魔法が、暴れ狂う。
タブレットから危険な光が溢れだし、あらゆる炎、水、氷、雷、剣、糸が、眞人を無数に囲む魔法円から飛び出し、シュリクへと向かう。
電子化された術式が実体化し、狂った魔術が発現する。電子魔導書ならではのものだ。
そして、あらゆる防御魔法が眞人を包む、防御壁が眞人を守り、常世神の糸が眞人に巻き付いて繭を作り、身を守る。その他さまざまな術が眞人を守る。
やがて――

――大地を裂き、空を歪めるような巨大なエネルギー同士が衝突する!

シュリク > 「ロボっぽく、とはなんでしょう? 勝手にステレオタイプに当て嵌めないでいただけませんか」
何故か、眞人の言うことに腹が立った
腹が立つ、なんていう感情は初めてだったので、内心、自分でも驚いた
人間とロボットの境界線が、わからなくなりつつあるのかもしれない

「――ええ、生き残っていれば、ですが……」
不穏だ。言葉が全くを持って不穏
一応此処は演習場であり、死に直結するような行為は禁止のはず、だが……

「今の私に出せる、最大戦力です
これを発動した後に貴方が生き残っていれば、その時は、認めましょう
魔術は、正しくこの地に伝わっているのだと!」

雷とは、古くは神鳴とも書いた
天より生じ、凄まじい音と共に地上へと降り注ぐそれを見て、人々は神の怒りだと畏れた
また、更に古くへ遡れば雷自体が神であるともされたこともあった
神代の時代より現代に至るまで畏れられてきた力こそ雷であり
シュリクの纏うそれは、確かに神の如き力を誇っていた
故に、人々は畏怖を持って、その異能を雷神の鉄拳と名づけた

あらゆる魔術が、シュリクへと向かう
あらゆる魔術が、眞人を護る

神が、吠える
炎が
  水が
    雷が
      剣が
        糸が
呑み込まれ
     巻き込まれ
渦を巻く



白い光が、中天を覆った




――――――
――――
――

「……大丈夫、ですか?」
少女は、殆ど服を失っていた
焼け焦げたゴシックドレスは、かろうじて大事な箇所を護るだけにとどまっており
見ようと思えば、どの角度からでも見放題だ
そんなボロボロの姿で、ボロボロの青年に、手を差し伸べた

橿原眞人 > 結局どうなったのか、眞人にはよくわからなかった。
ただ、自分に向かってくる眩いほどの輝きが、ひどく美しいものであったのを覚えている。
神鳴る響きを轟かせながら、それは来た。
眞人が行った、全ての魔術の全開放。
たとえそれを以てしても、受け止めきれるかどうかわからない。
天を轟かす雷鳴を見て。
可憐にこちらへと向かってくる少女を見て。
綺麗だなと眞人は思った。一体、このような力をどうして人は必要としたのか。
彼女を生み出したものは、一体何のために――いや。
そのような思考は全て瞬時に消え去った。
ただ、眞人の瞳には、眩い輝きがあった。力と力がぶつかり合う姿。
そんな神の輝きを見ながら、眞人はその意識を手放した――



――そして。
「ごほ、えほっ、お、おお……あ、ああ、生きて、生きてたのか……」
意識が戻った眞人は、ボロボロになった状態で倒れ伏していた。
幾重にも眞人を守った魔術の防壁は、なんとか眞人の命を神の雷から護ったのであった。
「ク、クソ、聞いてねえぞ。もう少しでほんとに死んでた……な、なんてロボ娘だ……ひでえ……!」
むせこみながらのばされた手をありがとう、と言いながら取った。
その時である。
「あ、ああ、なんとか……うおっ――!?」

そこで眞人が目にしたのはボロボロになったシュリクの姿。
ほとんど全裸の少女の姿だった。機械とは聞いていたものの、人間の少女にしか見えない。
眞人は倒れていたので下から色々見えてしまったのだった。しばらく呆然となりながら、目を瞑り、すまんと言いながら、手を取りなおした。

シュリク > 「ええ、貴方の魔術は、貴方をまさしく護りました
今の私に出せる全力をもってしても、貴方を殺せなかった
――認めざるをえないでしょうね。魔術は、この世界に定着していることを」

ふう、と溜息をつきつつも、どこか清々しい心地がした
胸のうちにあったモヤが漸く晴れたような、そんな、心地

「……なにが、でしょう……?」
急に目を瞑りだす眞人に首を傾げる
少しぐらいのご褒美は、勇者に与えられるべきだ

「さて、終わりましたし異能についてや、先ほどの魔術についての話も聞きたいところですが……
流石に、お互いぼろぼろすぎますね」

真っ黒焦げになった眞人の様子にクスッと笑いながら

「どうしましょう、話はまた今度にします?」

橿原眞人 > 「そうかよ……いてて、まあ納得してくれてよかった。
 その調子で魔術否定しまくっててもこの世界で良い事ねえからな。
 ああ、何とか修理できそうだな……」

シュリクは何とか納得してくれたようだ。かなり痛い代償だったが。
タブレットを確認すれば、なんとか修理は出来そうな様子だった。中のデータも無事だろう。

「い、いやその、すまねえ……服、破れちゃったな……」
相手は幼い少女の姿をしているんだぞと自身に言い聞かせながら、目を反らす。
今彼女を見ればどこを見ても肌は見えてしまう。
「とりあえず、これを着といてくれ。俺が誤解されちまうからな……」
そういって自分の制服の上着をシュリクの肩にかけんとする。サイズ的には大きいだろうが、今はそのほうがいいはずだ。

「……そうだな。今はとても話せるような体じゃねえ。
 何笑ってんだよ。お前だって同じようなもんなんだぞ……!
 オーケー、話はまたこんどだ。こんな格好で話してたら俺が疑われちまうよ」

冗談めかすように笑う。

シュリク > シュリクには些か大きすぎるジャケットだ
しかしそれでも、全裸よりは遥かに良くて
「ありがとうございます、洗って、返しますので」
と、頭を下げた。頭を下げるから、ジャケットの隙間から見えてはいけないものが見えるのだが

「そうですね、では、また頃合いになりましたら手紙を送りますので
その時まで、また
今日は、ありがとうございました」
再び頭を下げて、その場を去っていった――

ご案内:「第二演習場」からシュリクさんが去りました。<補足:真っ白なロングヘア 金の瞳 ややゴスロリチックな服>
橿原眞人 > 「ああ、まあそんな。適当でいいよ適当で。いや、やめろ、頭下げなくていいから!!!」
顔を真っ赤にしていう眞人であった。こういう常識もこの機械人形のシュリクには必要だろうなと眞人は思った。

「オーケー、そうしてくれ。まあメールでもいいと思うんだが……。
 それじゃあな、服は早く着替えろよ!」
そうして去っていくシュリクを眺めた。
「いったた、あいつほんとに本気でやりやがって……死ぬかと思った。
 体中が痛いな、さすがに今日は休むか……。
 大変な一日だったぜ……」
一人呟きながら、演習場を後にした。

ご案内:「第二演習場」から橿原眞人さんが去りました。<補足:制服姿の青年、眼鏡/裏の顔はハッカー《銀の鍵》>