2020/12/03 のログ

ご案内:「常世寮/女子寮 レイチェルの部屋」にレイチェルさんが現れました。<補足:【待ち合わせ】金髪の長耳少女。眼帯と学園の制服を着用。>
ご案内:「常世寮/女子寮 レイチェルの部屋」に園刃 華霧さんが現れました。<補足:黒いチョーカー デニムパンツ ワンショルダーにしたトップス>
レイチェル >  
―――
――

 
「オレ達にとって、眷属っていうのは――」 

深呼吸した分、ずっとマシだった。
ちゃんと説明しなくちゃいけねぇから、
オレが取り乱してちゃしょうがねぇ。
しょうがねぇだろ……!

「――眷属っていうのは……」

だってのに、全然声が出やがらねぇ。
はっきりと言ってやりたいのに、
オレの口から出た声は随分と弱々しく聞こえた。

はぁ、と。
大きく息をついて、窓から空を見上げた。
よし、今度こそ。

すぅ、と大きく息を吐いて、華霧の方を向いて、
はっきり言ってやる。

「……一生の内、この人だって決めた……死ぬまでのパートナーってことなんだ。
 だから、その……人間でいやぁ……」

いつまで頬に手をやってんだ、オレ。
さっさと手を離して、びしっと指を向けてやる。


「……けっ、結婚と! 変わんねぇんだよ!」

駄目だ、完全に顔真っ赤だな。

一生のパートナー、結婚と変わらねぇ。
だからこそ、華霧からそんな言葉が出た時は思わずドキリとしたし、
随分取り乱してしまった。

今はこいつと親友として付き合うって決めたばかりだったのに、
それを突き崩されるような言葉が華霧の口から出たんだから、当然だ。


……そうして、続く言葉も言わなくちゃならねぇ。

ありがとう、って素直に受け入れられたらどれだけ楽だっただろう。
そうしたら、ずっと一緒に居られるのかな。

でも、違う。

それは違うんだ。少なくとも、今じゃないんだ。
眷属の意味、そいつを理解していない華霧に、それじゃあと言い寄ったら……
それこそ、吸血鬼のことを深く知らない華霧を利用してるみたいじゃねぇか。
そんなの、絶対に許せない。
だから、少なくともちゃんと説明するんだ。

この件で、大事ことは。そう、そうだ。
一度裁断されてめちゃくちゃに散らばっちまったような頭の中の頁を集めて、
言葉を紡いでいく。

「……それに、お前が人間じゃ、なくなっちまう。オレと同じ化け物に、なっちまう」

吸血鬼。血吸いの化け物だ。
勿論、一緒に未来を生きたいってこいつに言った時。
眷属っていう言葉が頭を掠めなかった訳じゃなかった。
それこそ、互いに『なくならないもの』で居られるんだろうな。
それでも、華霧をオレと同じ化け物にしちまうなんて簡単に許されることじゃない。

「眷属になった場合は、な。オレがお前の血なしじゃ駄目なのと同じように……
 お前もオレの血なしじゃ駄目になっちまう」

説明を、淡々と続ける。少し視線は合わせ辛いか、それでもまっすぐあいつを見る。


華霧と一緒に居られない未来を生きる勇気は、ないけど。

それ以上に。

一緒に居るためにそんなことを簡単にしてしまえるような勇気は、もっとない。


「……それでもお前、眷属になるっていうのかよ?
 化け物になっちまっても。
 人間が生きるよりずっと長い間生きることになっちまっても。
 
 それでも……オレと一緒に居る……居て、くれるってのかよ……?」

一緒に居たいに、決まってるだろ。でも。でも。
それは、華霧が本当にそうなることを望んだ時だけだ。

園刃 華霧 >  
なんかレイチェルがあっちこっち忙しない。
一体なんだ
もしかして、悪いこと聞いたかな?

まずったか……?
どうするかな……

相手が口を開くまでの間
こちらはこちらで考える


そして、つっかえつっかえ、レイチェルが口にした言葉

眷属とは
吸血鬼とは

……


ああ、なんだ
それくらい――

「 」

口を開きかける
しかし

「       」

脳裏に ある 言葉が はしる


「ぁ……」


口を、とじる
ああ……まただ
また、アタシは……


「……ぁー……悪ぃ。
 ちょっと、うん……悪かった。
 流石に、考えなし、だったな」

うまく ことばに できない
ちがう
くちに できない
いえない

でも ひとつだけ
ひとつだけ いわないと いけない


「……でも、な……レイチェル。
 アタシは……おまえが、化物、だなんて……欠片も、思ってない。
 それだけは、確かだ」

レイチェル >  
「……分かってくれたなら、それでいいぜ」

ふぅ、と一息。
伝えるべきことは伝えて、それで華霧も分かってくれた。
それなら、それでいいんだ。これでいいんだ。
実際、安心した。安堵の息を吐いて、オレはテーブルへと戻った。
座椅子に座って、微笑んでやる。いつもみたいに。

「食べよっか」

自分でもびっくりするくらい、穏やかな声が出た。
良かった。華霧にはまだ、日常を与えることができそうだ。

でも、最後の言葉にはやっぱり、どうしても返さざるを得なかった。

「……欠片も思ってないか。ありがとな。そういう風に言ってくれると、嬉しいよ」

本当に嬉しかった。
心が、暖かくなった。

「……本当に小さい頃の話だ。
 その時よく遊んでた友達――友達って言っても、うちはよく引っ越してたから、
 いつも友達で居られるのはほんとに僅かな間だったけど――まぁ、友達が居たんだ。
 でもある日、吸血鬼だってことがバレてさ。
 そいつから言われたよ、化物だって……怖いって……気持ち悪いって」

銀色のスプーンを見る。
そこに映っている顔は、しょげていた。
駄目じゃねぇか、バカ。それに、ずっと昔の話だ。
でもって、伝えたいことはそこじゃない。

「だからさ、嬉しいんだ。
 オレ、華霧がそういう風に言ってくれることが。
 こんなオレでも受け入れてくれることが」

華霧の血を吸う時、華霧は当たり前だって言ってくれた。
世間一般的に見てもそうだろうが、オレにとっては余計、
それは当たり前のことじゃなかった。

「眷属の話は、今は忘れてくれていい。
 ごめんな、どうしても説明はしなきゃって……ちょっと必死になりすぎた」

事実、今は落ち着いていた。
笑って、華霧の方を見ることができる。ちょっと心臓はまだ、どくどく言ってるけど。

園刃 華霧 >  
「……うん」

簡単に返事を返す
その間にも

 
「      」
「             」

脳内でいくつもの言葉が弾けて消える
忘れるな
それは忘れてはいけない


そして、いまはきをとりなおして
別のはなしを べつの話に


「へーンなノ。だっテ、吸血鬼だ、なんダっていウ前に……レイチェルはレイチェルだロ?
 そりゃ、別人ニなってリゃキモかったリ、怖カったリするカもしらンけど。」

そこまでいって、ふと考える


「……いや、フリフリドレスのレイチェル、とカだっタら逆に面白いカもしラんな」


ケラケラと笑い出す
いつものへらへらとした笑いで


「ァー……まあ、うん……それは、悪かった、うん。
 ちょっと、また考える」

本当は 眷属のことは レイチェルのことだけでもなく
だからちょっと 焦ってしまったところもあって
だからこそ 反省もする
ああ 本当に うまくいかないものだ

レイチェル >  
「レイチェルはレイチェル、か。小さい頃のオレに聞かせてやりてぇよ」

その時の名は、アマリアだったけど。
この名前のことは、またいずれ話すことになるんだろうか。 

それにしても、何か華霧の様子がおかしい気がした。
気にならないといえば、嘘だ。
前のオレだったら、ちゃんと話してくれって迫ったんだろうけど。
そんなの、華霧を傷つけるだけだ。
だからただ、静かに言葉を待つだけ。

「フリフリだぁ~!? 却下、絶対却下!
 いや、昔は作戦行動の時なんかに着せられたことはあったけど……
 あーいうのは自分から着る気はしねぇ……」

かつてのことを思い出して、げっそりする。
あの時は五代先輩やギルバートと一緒だったな。
あいつら元気してっかなぁ。なんて一瞬考えるけど、
せっかく華霧が目の前に居るんだから思考をさっと払う。

「うん、いいよ。答えはいつだって。
 オレは、お前に眷属になってくれだなんて無理強いしねぇ。
 自由に選択しな。オレは従うだけだ」

重大すぎる決断を、簡単に迫る気にはならなかった。
華霧が眷属になったって、多分それなりに変わらない日常は送れるんだろうけど。
それこそレイチェルはレイチェル、華霧は華霧なんだろう。
でも今はただ、親友として欠け落ちちまった過去の日常、
その一片でも与えられたらと思ってんだ。
こいつの歩幅はそんなに大きくない。
だから、オレも一緒に合わせる。
そうして、隣を歩いていければ、こいつもきっと、もっと笑ってくれる筈だ。
それが、見たかった。

しかし、ドレス。ドレスか……。
そうしてふと、その話を聞いて思い起こすことがあった。

「そういやお前、最近ほんとオシャレしてるよな。
 真琴に着させられてんだろうけど……」

そうして、気になっていたことを問いかける。

「真琴とは、うまくやれてるか……?」

園刃 華霧 >  
「そーかー?
 なら、マコトに見せよう。アイツ絶対大喜びでなんか色々着せるんじゃないか?」


ドレスとかいやだ、というレイチェルをみて楽しそうに笑う
ああ、ほんとうに あいつなら よろこんで
よろこんで……


「あ、あぁ、うん……ありがと」


其処まで言うのが精一杯
多分 同じことを言うことは 二度とないだろう と思いながら

そこに――

「え?あ? マコト?」

急な問いかけ
なんでここで
驚きのまま 少しだけ戸惑う
けれど すぐに立て直して

「うまく……うまく、ねえ……まあ、別に……
 ああいや、嫌がらせみたいに色々押し付けられる、けど……」

でも、それはきっと だから
受け入れるしかない

だから別に うまくやれてないことなど……

レイチェル >  
「……却下」

淡々と一言だけ返した。
着せかえ人形になるつもりはない。

「ああ、いいんだ。気にすんな」

もし、華霧が眷属になるだなんて選択をしなかったとしても。
オレとしては何の憂いもねぇ。

そりゃ、それだけ一緒に居てくれるって気持ちを示してくれんなら、それは嬉しい。
できたらずっとずっと一緒に居たいのも事実だ。

けど、やっぱり。

「もし、お前が選ばなかったとして気にしねぇよ。寧ろ、安心だ。
 眷属なんて無理な関係に頼らなくたって。
 オレ達はきっと、うまくやっていける。だろ?」

それだけは伝えておく。
問いかけ、というよりは伝えておく意味合いが強い言葉だった。
真っ直ぐ、今の想いを届けた。
いつかの病室の時みてぇだな、と思った。


そして。

「真琴のことで、悩んでんじゃねぇかって思ってな。
 あいつ自身の……オレへの想いのことも、あるからさ。
 お前に強く当たってたこともあったんじゃねぇかって……。
 真琴自身、『あの子を傷つけるようなこと言っちゃったかも』だなんて……
 そんなことを、前に言ってたからさ。
 お前自身、付き合い辛さを感じることもあるんじゃねぇかって」

そうして、もう一言だけ付け足す。

「真琴の、お前に対する気持ちをオレは聞いてる。
 お前の悩みを解決する言葉になるか分からねぇけど……それでも、
 きっと今のお前には必要だと思った。伝えても、いいか?」

園刃 華霧 >  
「……ちぇ」

いつか巻き込んでやる、と心に誓う
それはそれとして


「……ああ、うん
 そう、そう、だな……」


少しだけ上の空で返す
うまい方法を
うまいやり方を
見つけなければいけないから

そんなことを考えていると

「……は?」


マコトの きもち?
いや ききたく ない
だって そんなもの
でも れいちぇるが

なに なにを
きかされるの

いやだ

「え、いや……べ、べつ、に……え、と」

しどろもどろの言葉になっていた

レイチェル >  
今回、華霧に送ったメール文を思い出す。
お前のとこ行っていいかって聞いたら、こいつははぐらかすように断ってきた。
どんな理由があるだろうと考えてたけど、もしかして。

「……今回、オレがお前のとこに行くのを拒否したのも、真琴のことが原因なんじゃねぇか?」
 
何となく、そう考えた。
考えすぎかもしれないけれど。

「……真琴はさ、お前のことも、『放っておけない』って言ってたよ」

一言、そう伝えた。
大切なことだ。
もし、居辛さを感じているのなら、素直じゃないあいつの気持ちを代弁してやる
必要があるだろ。

「あいつ、一緒に過ごす内に……お前のことを家族みてぇに感じてるんだよ。
 それだけの気持ちじゃないってのも事実みてぇだけど……それでも。
 あいつの口ぶり、間違いなくその思いも事実だぜ」 

この事実を伝えて、華霧の気持ちがどれだけ楽になるか分からない。
もしかしたら、もう知っている事実なのかもしれない。
でも、オレにできることだけは。とにかく、こいつに施したい。
もしオレの知らないところで苦しんでいるとしたら、それは絶対に嫌だから。
そしてその要因の一つが、オレだとしたら。そんなのは。

園刃 華霧 >  
「…」

れいちぇるの ことばを きく
けれど そんな
そんなの


「……」


そんな、の


「………」


それを レイチェルに きかせるわけには


「…………」


だめ
ことばが でない

レイチェル >  
「……華霧、言いたいことがあったら」

言ってくれ、とは言わない。
それは、かつて水族館でのオレの過ちだ。

「……何を言ってくれても、オレは構わねぇよ」

だから、そうして受け入れる姿勢を持つ。
余裕をもって、彼女の言葉を待つ。
そうして。

「言葉に出さなきゃ、伝わらないこともある。
 分かり合えないこともある」

手元のコップを手に取った。
そこに水を注いで、こくりと喉へと流し込む。


「でも、無理強いはしねぇ。好きにしな」

ゆったりと、ただゆったりと待つ。
一人だけで進んでいこうとするだなんて。
こいつを置いていくのだなんて。
もう、二度としたくねぇ。

だから、その為にも、待つ。
無理に言う必要はないということも、伝えた上で。

レイチェル >  
「でもな。
 オレは、お前が何か言えないままに悩んでるんだったら。
 それを、飲み込みたい。受け入れたいと思ってる。

 それだけは伝えておくぜ。

 何でも、言ってくれていい。言わなくてもいい。
 オレはただ、受け入れるぜ」

本当は、心配で心配で仕方なかった。
だから、この言葉だけは最後に伝えることにした。

園刃 華霧 >  
「あた、し、は……」


口を開く


「あたし、は……ゆる、されない……」


ぼそぼそと、口にする


「あたしは……ふみにじった……」


虚ろに、言葉を継ぐ


「あたしは…… あたしの、かって、で……かって、に……
 まきこんで……そんなことも……わからないで……」


意味もなさない言葉の羅列


「              」


「                   」

園刃 華霧→レイチェル >  
「あたしは、あたしは……
 いちゃ、いけない……の、かも……しれ、ない……」

ぼうぜんと

「あたしは あたしこそが
 ひとでなしの ばけもの なのかも しれない」

レイチェル >  
「……」

ゆっくりと、華霧が紡いだ言葉を、ただ受け入れる。
受け入れて、受け入れて、受け入れて。


「なん……」


ゆるされない、だとか。


「だよ……」


ふみにじった、だとか。


「ゆるされない、だとか!
 ふみにじった、だとか!」

なんだよ、それ。

瞬間、胸の中にどっと、どす黒いものが入り込んできた気がした。
これはオレの感情じゃない。あいつの感情だ。
オレが向き合わなきゃいけないあいつの感情だ。

分かってる、分かってるさ。でも、負けやしねぇ。
オレは、あいつの感情を背負いながら。
それでも、オレの気持ちを絶やしはしない。


「大丈夫だ」


そう口にして、オレは華霧の方へ寄って、
そっと、抱きしめた。
そして、静かに目を閉じた。

「……大丈夫だ」


言葉は優しく、穏やかに。
その手は、あの夜、華霧から血を吸った時のオレの、獣のような手とは違う。
ただ目の前の大切な人の苦しみを、一緒に背負いたいと願う。
そんな、レイチェル・ラムレイの手だった。

ああ、なんてこいつは強い奴なんだろう。
ずっとその気持ちを抱えてたのか。戦っていたのか。

園刃 華霧 >  
「だって あたしは
 あいつから うばった
 しりも しないで
 かるく あつかって」

ぼんやりと うわごとのごとく


「うばったなら かえさないと
 でも あたしには
 なにも かえせない
 もらって ばかり」

ことばが うつろにながれでる


「だいじょうぶ じゃない
 だって まだ
 あたしは なにも……」

そこまで くちにして
ふと じぶんの いまの

「あ……」


ほうようから にげるように
みをよじる

「だめ あたしは
 もう もらっちゃ……」

レイチェル→園刃 華霧 >  
全てを聞いた上で、弱々しく呟く彼女に言葉を返す。
 
「さっきの言葉、お前に返すぜ。
 オレは、お前が化物だなんて、これっぽっちも思っちゃいない」

ぽつりぽつりと、返す。
ただただ静かに、返す。

「華霧はひとでなしなんかじゃない。化物なんかじゃない。
 もし、そう思っちまってんなら……そう信じ込んじまってんなら……」

目は閉じたまま、穏やかに。
静かに。子どもに語り聞かせる、母親のように。

「オレが……お前を人間にしてやる。人間だと、思い出させてやる」

華霧の抱えているもの、虚ろなその苦しみを、抱きしめる。
そうだ、もし華霧が自分自身のことが怖くなっちまったり、
分からなくなっちまってたりしていたとしても、オレが一緒に埋めてやる。

彼女の体温を感じながら、オレは改めてそう決意した。

レイチェル >  
「いいから、貰ってろ。あったけぇだろ」

恐怖に凍える彼女の心を、少しでも暖められたらと思った。
今回ばかりは、身を捩ったって離さない。絶対に、離さない。
離すもんか。

「いいんだ、貰ってばっかりだって、いいんだ。
 それは、奪うこととは全然違う。
 相手が与えたいって思ってるんだったら、そいつを貰ったっていいんだ。
 それは何も悪いことじゃない。
 ……お前の血なしじゃ生きていけない、オレがこんなこと言うのもなんだけど……」

少しばかり、言葉を濁す。
それでも、すぐに次の言葉は出た。
それは、本心だからだ。

「貰ったら返さなきゃいけねぇもんばかりじゃねぇ。
 ただ貰っておけばいいものもある。
 
 オレは今、お前に見返りなんざ求めてねぇよ。
 返さなくていい、返さなくていいんだ。
 
 ただ、貰っておいてくれ。
 
 オレがお前を支えたいって気持ちを。
 苦しみを分かち合いたいって気持ちを。
 お前の傍に居てやりたいって気持ちを。
 
 返すものなんざいらねぇ。
 オレの気持ち、ちゃんと受け取ってくれ。
 それだけで――」


――お前の支えになれる。ただそれだけで、オレは嬉しいんだ。

園刃 華霧 >  
「だ、め……
 レイチェルから、もらうの、は……
 だって だって また あいつが……」


腕の中で 暴れる


「あいつに かえさないと なのに かえせないから
 せめて もう これいじょう きずつけないように
 そうじゃないと そうじゃないと」


うわ言のように繰り返す


「だから だめ
 もらっちゃ だめ
 あたしは もう
 これいじょう     」

ああ、でも その先は 言っては


口を閉じて ただ身を捩る

レイチェル >  
「これ以上、オレから貰えねぇって? 関われねぇって?」

彼女の沈黙の先。
実際の所は分からないが、彼女が考えているだろうことを確認するように問いかける。

「……お前は、それでいいと思ってんの?」

続くその問いかけは、少し声が落ち込みぎみになっちまってたかもしれねぇ。 
頭を振って、言葉を続ける。
 
「……少し前にな。
 真琴には、オレの気持ちをはっきりと伝えたよ。
 オレが、一番大切に思ってるのは華霧だってこと。
 真琴は、それでも良いって言ってた。
 その上で、な。オレがお前にしてやれることはないかって聞いたら……
 その時、あいつがオレに頼んだのは……
 『置いていかないで』って。そんな願いだった。
 たった、一つ。そんな想いだった」

正直、真琴の言葉は言い辛かった。それでも、伝えなきゃいけないと思った。
オレが今からどうしていきたいのか、
改めて伝えなきゃ、華霧はずっと救われない。
そう思ったから。

「伝えたよ。オレは華霧と向き合うけど、
 それでお前のことを置いていくつもりはねえって。
 そんなことはもう、しねえって。
 
 だからな、華霧。あとはオレの問題なんだ。
 オレがどれだけ華霧と、真琴のために向き合えるかなんだ。
 
 華霧が抱える必要はねぇ。お前が返せねぇことで悩んでんなら、
 その分、オレがあいつに与えるさ」

『ごほうび』。
それは、何度か彼女から要求されていることだ。
その全てに、レイチェルは応えている。

何故なら、真琴が傷ついていることだって気づいているから。
そして、真琴のこともこれ以上傷つけたくないからだ。

「だから、大丈夫だ。
 これ以上、華霧が悩む必要はねぇ。
 ……辛い思いさせちまって、ごめんな」

園刃 華霧 >  
だいぶ乱れていた
それでもレイチェルの言葉に
自分を少しとりもどす


「それで、いい。
 あいつが マコトが きずつくくらいなら
 だって あたしは もう十分 もらったから」

すこしだけ動揺をおさめて
冷静に言葉を
本心を告げる

あのとき あの星空の下の
あの瞬間だけで
十分すぎる

だから

「そっか、マコトが、ね。じゃあ安心だ。
 レイチェルが、間違いなく、そうしてくれるなら」

レイチェルがそうしてくれるなら、平気か
よかった
安心だ

「なら、尚更だ。
 アタシじゃなくて、 マコトにあげて
 その方が、きっといい。
 それに。そうじゃないと、約束、守ったことになんないだろ」

へらっと笑う

レイチェル >  
「それは違う。何もかも、間違えてるぜ。華霧」

はっきりと、口にする。少し前なら、
もっと取り乱してたのかもな。

へら、と笑う彼女に対して。
心をへし折られそうになるけれど。
それでも、はっきりと口にする

 
「オレは、お前とまず最初に約束しただろ。

『お前と』一緒に未来を生きる、その約束だ。

忘れちまったか? 

あの星空の下で、言葉を交わしたこと。

夏のことだ。もう随分と昔に感じるけど……

それでも、お前は覚えてくれてるって信じてる」


お前はそれでいいんだろう。
お前は十分だって言うんだろう。


「病室でオレがお前に伝えた言葉、もう全部忘れちまったか?

 オレは、お前と一緒に生きながら、お前の気持ちを探したいんだ

 お前を想う気持ちは。

 この気持ちは、絶対に誰にも負けねぇ。負けてたまるかよって。
 それは、裏を返せばオレの中で、他の誰よりもお前の存在がでけぇってことなんだ」

ごめんな。自分に対する恋ってのが分からないなん言うお前だから、
そう言うんだろうけど。
それ、オレとしちゃ全然ちげぇ。見当違いの言葉なんだわ。


「オレは、真琴の気持ちにもちゃんと寄り添う。置いていくことはしねぇ。
 でも、オレが一番大切にしているものは――」

難しいことだなんて、百も承知だ。けれど。けれど、オレは。
それでも向き合ってみせる。

「――オレが一番に選択したのは、あくまでもお前なんだ、華霧。
 だから、その提案は根っこから、何もかもが違うんだ」

園刃 華霧 >  
「そんなの……忘れちゃ、いないよ。
 全部、全部……」

当然だ
忘れるわけがない
大事な 大事な 話

けれど
覚えてるからこそ


「アタシは、そんな言葉に、甘えて……
 レイチェルを……エイジを……アタシに、縛り付けて……
 都合よく、扱って……」


また、言葉が乱れてきそうで
だけれど、なんとか耐える
散々、教えられてきた、から


「そんなことに……これ以上、付き合わせちゃ……駄目、だ……
 アタシが……アタシの、都合で、アタシに……そんなの、だめ……
 そんな、の……望んで、なかった……はず、なの、に……」

レイチェル >  
「……そうか」

忘れていない、という言葉を聞いて嬉しく思った。
思わず笑みが溢れる。

それにしても、エイジ? エイジって……山本 英治か?

そうか、そういうことか。
オレ以外にお前のことを好きだって言ったのは、あいつ……だったのか。

驚きはした。でも、狼狽えなんかしない。
今のオレは。


「もっと、甘えろよ、バカ華霧……! 全然甘えたりてねぇんだよ……。
 十分なんかじゃねぇだろ、十分な奴が、あんな声出すもんか……」

思わず、少しだけ声を張り上げていた。
ただ、相手は今腕の中だ。大声をぶつけるなんてことはないように。

「縛り付けたって良いだろ、バカ華霧……! もっと縛り付けてみろよ……。
 お前が振りほどこうとしたって、こっちはしがみついてやるくらいさ……」

それでも、しっかりと言葉を伝える。

「華霧の都合……?
 違う、オレの都合だ。
 
 オレが、自分で勝手に、我儘で……
 お前と居ることを選択してるんだ……!

 英治が…… 
 ……お前に好きだって言った奴が居るって知ってて……
 それでも、我儘を押し通そうとしてただけだ。
 ごめんな、それでお前を傷つけちまってるんじゃねぇかって、
 ずっと恐かった。それでも、どうしても止められなかった。
 だって……」

ああ、もう。
親友として、付き合うって。
日常を生きようって、思ったのに。


「だって、自分の気持ちに嘘はもうつきたくねぇんだ……」

でも、華霧がこれだけ伝えてくれてるんだから。
ちゃんと、言葉にしてくれてるんだから。
オレが伝えなきゃ嘘だ。嘘をつくことなんてもうできないだろ。

「オレはお前と一緒に居る時が、一番幸せなんだ……
 だから、十分だとか……付き合わせちゃ駄目だとか……アタシの都合だとか……。
 それは、こっちからしちゃ、全部違うんだよ、華霧。
 お前が悪いなんて感じることは、ねぇんだ」

否定する。それが、オレのルーツであるが故に。
自責の念が彼女を苛んでるってんなら、オレはそいつを。
否定する。抱擁する。

レイチェル >  
そうして、語った後に。最後に、付け加えた。
 
「……都合よく扱ってくれていいんだ。甘えて、縛って、それでいい。
 それでオレは嬉しいんだ。言っただろ、居場所になりたいって」

ああ。もう。

気づけば、涙が出ちまってた。
でもこれは、自分の苦しさよりも。
華霧の苦しさが、伝わってきたからだ。

華霧の肩越しに見えた窓の向こうの星が、滲みながら輝いていた。

園刃 華霧 >  
「ちが、う……あたしは、本当に……十分、だったんだ……
 けど、それが……それが……
 縛り付ける、なんて……だめ、だ……だって、そんな……」


どうして こうなってしまった
あたしは そうならないように
ずっと ずっと うまく やってきた はず だったのに


「そんな、つもりは……
 アタシに、そんな、資格、は……そんな、力は……ない、から……」

人とつながってこなかった自分ができる精一杯
人とわかりあえない自分が許されるギリギリ


「だれ、にも……きたい、されない、ように……
 だれも、がっかり、させない、ように……
 さいしょ、から……なまけ、ものの、いいかげんで、いれば……
 ゆるく、つながって、いられる……から……」


それでいいはずだったのに
それでじゅうぶんだったのに
どうして
どうして

どうして こんなに なってしまったのか
ほら
だから もう
あいてが できて ない


「だから……もう じゅうぶん
 これだけ あれば じゅうぶん だから……
 ほんとうに だいじょうぶ だから」

もう十分に甘えてる
もう十分に貰ってる
もう十分に……

だから こわい
こわく なる
これいじょう もらうのは
だって
レイチェルさんが現れました。<補足:【待ち合わせ】金髪の長耳少女。眼帯と学園の制服を着用。>
ご案内:「常世寮/女子寮 レイチェルの部屋」に園刃 華霧さんが現れました。<補足:黒いチョーカー デニムパンツ ワンショルダーにしたトップス>
レイチェル >  
 
――今宵も星空の下、シンユウ達は。 
 

レイチェル >  
華霧の言葉を、しっかりと受け止める。
受け止めて、じっくり考えた後に、ゆっくりと言葉を返した。

「資格、か。
 一体どんな試験に合格すりゃ、誰かに想われる『資格』が貰えるんだ?
 オレは、そんなもんは……ねぇと思ってる」

華霧の言葉。
ああ、本当なんだろうな。
華霧はきっと、今までのままで満足してたところがあったんだ。
でも。

「でもって力、か。
 力がないってんなら、足りない分を補ってやるさ。
 お前も不完全で、オレも不完全だ。
 だから、補い合えばそれでいいのさ」

別に、それがオレじゃなくったって良いのかもしれねぇけどさ。
ちょっと、そんなことを思った。
けど、こいつはオレの選択で、オレの我儘なんだ。
だから、きちんと伝える。

けれど、苛烈な想いをそのままぶつけることは、しない。
壊れやすいその気持ちを、傷つけないように。
歩幅を合わせて、少しずつ。互いに向き合う時間を噛みしめる。

「……これ以上を貰うのは、怖い?」

ふと、三人で居た頃。あの日々が、脳裏に浮かんだ。
あのアトリエの光景も。

佐伯 貴子と、園刃 華霧と、オレ。
今思っても、素敵なものを貰いすぎていた、と思う。
本当の繋がりってものを知れたのは、きっとあの日々のおかげだ。

でも、素敵なものだからこそ。
手から零れ落ちる時には。
痛みを、伴う。

園刃 華霧 >  
「ちがう、ちがう、ちがう……
 あたしは、あたしは、なにも、なかった
 だから、あたしは、うばいつづけて、きて……
 だから、そんな、いろいろ、もらっていいやつじゃ、ない」

受け取れる資格も
受け入れる力も
そこにはない


「だから、しらないうちに、マコトも、きずつけた
 しってからも、まだ、きずつけた
 だめなんだ、なにをしても、どうしても
 なら――」

最近思っていたこと
解決するのに考えられること


「これいじょう もらわないように しないと
 これいじょう きずつけないように しないと
 これいじょう だいなしに しないように しないと」

うわごとのように、つづけた

レイチェル >  
「それじゃあお前自身は……
 傷ついてばっかりじゃねぇか。
 奪った奴は死ぬまで傷つけられなくちゃいけないってのか?」

何も貰わないで。
傷つけないように。
台無しにしないように。

華霧が口にした言葉を、飲み込んだ。
飲み込んだ上で、口にする。

それはかつて、後輩《キッド》に語った、
レイチェルが持っている一つの考え。
彼女が風紀に居続ける、一つの理由。


間違いを犯した者は、『もらっていいやつじゃない』のか?
本当に?


『─────『犯罪者<ボクら>』は、日常を謳歌する事が許されますか?』


あの時、そう問いかけてきた後輩の言葉が、脳裏を過ぎった。


「もし、もしだ。過去を無いものにして、目を背けて、逃げ続けて。
 全部、放棄して。そんな奴だったら、確かに『もらっていいやつ』
 じゃないのかもしれない。

 でも華霧は、そうじゃねぇだろ。
 奪い続けてきた自分の過去をちゃんと背負って、
 変わろうとしてんだろうが。

 だったら、貰ったって良いんだよ。
 変わろうと戦い続けるなら、貰ったって良いんだよ。
 
 ずっと頑張ってきた華霧には、その資格がある。
 オレはそう信じてる」

実際、そうだ。
華霧はずっとずっと、頑張り続けてきた。
過去を背負って、自分を変えようとしてきたんだ。
誰かから何かを奪った者は、ずっと自分を罰しなきゃいけないのか。
生きる為に奪うしか無かった奴は、晴れ渡る青空を生きられないのか。


「……信じてるから、オレは与えたい」

こいつが自分のことを許せないと思っている分、
オレはこいつのことを許してやりたい。そう思った。

華霧が背負っていたものを感じながら。
やっぱり、涙が止まらなかった。

園刃 華霧 >  
「……」

レイチェルの言葉を飲み込む
ぶれて、こわれかけたものがすこし直る


「そんな、大層なモンじゃないよ。
 教育係をやってたおっさんに『ここじゃそうやってたら生きていけない』って教わって。
 それならどうすればって、のらくら生きることを見て覚えて。
 ……たかが、その程度のことだよ。
 それでも」


それでも、関わってくれた、関わられてしまった……
そういう人間が出てきてしまった
それは 予想外で 予定外で
それでも 嬉しいことでもあった

だから

「そうやって言ってくれるのは、嬉しいし……
 それだけでもう、十分なんだ。本当に。」


そう、それに
そこまで手に入れてしまったから

失うことの恐ろしさを知ってしまった
奪われることの恐ろしさを知ってしまった


「アタシは……
 マコトに 殺されるなら ソレも仕方ないと思ってる
 それだけの 気持ちを 感じた
 今だって きっと」

だからきっと じわじわと 殺しにきているのだろうと
ひと思いなんて 簡単ではなく
長く 苦しむように
それも 受け入れるしかないのだろうと

「だから その前に 少しでも 返しておきたい
 それだけなんだよ」

レイチェル >  
「……なるほどな」

のらくらと。
過去の彼女を思い出す。そう、
『いつも適当なふりして』、だ。
分かってた。トゥルーバイツの一件の時から、それは何となく。
けれど、その深い事情を知ることは今までなかったから、ようやく。
ようやく、彼女のことをちゃんと飲み込むことができ始めた、気がする。


「……ああ、分かったよ。
 お前が十分だって、そう思ってることは。
 ……オレは…………違う、けど。
 オレは……もっと……かぎり、と……一緒に……い、たい……けど」

思わず、声を漏らしてしまった。
彼女の話を聞いていく中で、十分だという言葉を何度も聞けば聞くほど、
自分の中の満たされない気持ちが膨れ上がっていくのを感じる。
抑え込んでいたそれが、胸の熱さと一緒にぽつりぽつりと、言葉となって
紡がれた。頭を振る。しっかりしろ、オレ。


少し身体を離して、華霧の方をじっと見た。

「真琴が抱いてる気持ちは……確かに激しいもんだ。
 けど、あいつがお前のことを大切に思ってる気持ちも、
 確かに本当なんだ。本当の、真琴の気持ちなんだ。

 あいつは嘘つきだけどな、寂しがり屋なんだよ。
 だから、お前と真琴が過ごしてきた時間、
 過ごしてる時間は嘘なんかじゃない。
 
 それに、華霧を殺すだとか殺さないだとか……
 そんなことには、オレがさせねぇ。
 真琴が傷つかないよう、華霧が傷つかないよう、ちゃんと向き合うさ」

力づくで止めるだとか、そういう話じゃなくて。
そんな所まで真琴を追い詰めないように、オレ自身ができることを
するだけだ。

園刃 華霧 >  
「そっか。
 ほんと、悪いなぁ。ありがと」

へらっと笑う
本当に、もったいないぐらい嬉しい

「マコトが、ね……
 そう、か……うん」

マコトの真実を知って、
結果的に彼女に告白して以来、
不思議な関係ができたのは感じていた

ただそれも
手のこんだ復讐のうち、と
そう思っている部分もあった

けれど
レイチェルがそういうのなら…


「じゃあ、頼むな。
 アイツにはやっぱり、レイチェルじゃないと、な」

にっと笑う

「……っと、悪いな妙な話になって」

すっかりもとに戻った顔でいう

レイチェル >  
「……いいよ、別に。
 オレは華霧に苦しい思い、してほしくなかっただけだ」

妙な話になっちまってるのも、オレの責任だ。
オレが、こんな想いを抱いてなければ。
こいつを、傷つけることもなかったんだろうな。


笑ってくれる華霧。
嬉しい。

それは、嬉しい。

けど。


「…………」

暫くの間、言葉が出なかった。

華霧の言葉を受けて、
胸の中でぐるぐると渦巻く熱い想いを押し殺して、
噛み殺して、否定して、何とか穏やかに。
穏やかに、穏やかに、と。


「オレの方は……華霧じゃないと……駄目なんだよ。
 オレが、一番一緒に居たいのは、華霧なんだ。
 血とか、関係なくてな」

色々な言葉が浮かんだが、ようやくそれを紡いだ。
胸がずきずきと傷んでしかたない。
傷んで、今にも胸の中から血が漏れ出てきそうだった。

レイチェル >  
「そこだけは、忘れないでいて欲しい……絶対に」

俯き気味に、何とかそう口にするのが精一杯だった。
たとえ、へらっと笑って返されるとしても。
そうだとしても、伝えない訳にはいかなかった。

ああ、クソ。
華霧はいつも通りで居てくれようとしてんのに。
でも、一番大切な所だ。
改めて、はっきりさせておきたかった。

園刃 華霧 >  
レイチェルの言葉
苦しい思いをしいてほしくない、と
その気持ちは嬉しい

「まあ、おかげさんで枕を……
 ああいや、うん。まあ、ゆっくり寝られるんじゃないかな」

にしし、と笑う

しかし――

「……そう、か。
 そりゃ……うん。
 ありがたい、こと、だな」


アタシじゃないといけない
アタシと一緒にいたい

本当に、ありがたい話だ


「まったく……なにがいいんだか、わかんないけどさ」

へらりと笑う
笑う、が……
それが理解できない自分には、なんとも言えないものを感じる
やはり、どこか壊れた、ろくでなしなんだろうか
やはり、人と関わるべきではないやつなんだろうか

けれど……
初めてしまったものは 続けるしかない

レイチェル >  
「…………」

すぅ、はぁ。
深呼吸をして。


「……分かんない、よな。分かってる。
 オレの気持ち、お前に『分からない』ことは、『分かってる』。
 
 だから、ごめんな。気持ちが『分からない』ことが、
 お前を傷つけるってこと分かってて、それでも……
 またオレの我儘《きもち》、口にしちまった」

これまでの華霧の話を聞いていれば、分かる。分かるようになった。
オレの気持ちを伝えることの、ほんとうの意味を。

彼女が小さく、本当に小さく呟いた言葉を、オレは忘れない。
忘れられない。忘れるもんか。

けれど、気持ちに嘘はつけないし、
何より勘違いしてほしくなかった。だから、ありのままを華霧に伝えた。


「『オレは、華霧と一緒にその気持ちを探したい』。
 
 たとえ……お前が言うみたいに『公平じゃない』としても。
 
 一緒にバカやりながらさ。
 隣に居て。支えて。
 苦しいことも分け合って、一緒に考えて。
 
 二人で悩むくらいは……許して貰えるかな?
 
 ……力に、なりたいんだ」

顔を上げて、今度は、にっと笑ってみせた。
きっと、華霧を安心させられるような穏やかな顔を見せられた……筈だ。
血の呪いなんかに負けてたまるもんか。

もう、あの時のオレじゃない。
こいつと一緒に、歩幅を合わせて。

それはきっと、新しい関係の始まりで。
新しい『シンユウ』の形だ。
園刃 華霧 >  
「ああいや、別にレイチェルを責めてるわけじゃないし。
 そんな謝んなよ。
 むしろ……」

其処まで言いかけて、口を閉じる
そうか、これが悪いのか
傷つけてる、なんて思わせている


「まあ、いいやそれは。うん、でも……
 特別な気持ちを貰ってることは、わかるから……まあ、それだけで十分」

其処でとどめておく。
無限ループに陥っても仕方ない


「ん……いや、許すも許さないも。
 いや、そうか……そうだな。許すよ、レイチェル。」

アタシのことを思えばこそ、のそれ
そうであれば、アタシは応えないといけないのだろう
コレで十分かはわからないが……


「『公平』っていえば……そう、だな。
 『公平』のために、レイチェルにも言わないと、だ。」

ソレは話題にでた相手にも言った言葉
ソレはまだ彼の胸に生きているだろうか


「『一生、答え、でないかもよ?』」


そして
だからこそ
あの言葉が胸に刺さった

――縛り付ける

相手の一生すら縛り付ける言葉だ
そんなことが……いや、いまは、考えるまい
いまは、一回忘れよう

「……」

そして、口をつぐむ

レイチェル >  
華霧の言葉を真剣な表情で聞いた後。
オレは、柔らかく微笑んだ。微笑みが、漏れた。

 
「一生、ね。お前もなかなかでけぇ言葉を使ってくれるじゃねぇか。
 ……ま、オレは人のこと言えねーんだけどさ。
 
 でも、上等じゃねぇか。
 お前がおばあちゃんになっても……
 それが、『一生』になったとしても付き合わせて貰うさ」


だってそれ、裏を返せば、一生お前に付き合ったって良いってことだろ。 
それを許すって、そういうことだろ? だったら。

「だから、いいぜ。それでも。

 華霧の都合でいい、甘えていい、縛り付けてもいい。
 お前の隣に居るのが、オレの望みだ。
 
 だから焦って見つけよう、だなんて思わねぇさ。
 見つける為に、一緒に歩くその道だって、きっと楽しいんだから。
 いや、きっと楽しくしてみせるし、オレも楽しむぜ」

想いを抱きながら、今までこいつと歩いてきた道。
その道は今、新しい『カタチ』を得てきたように思う。
それは、関係を捨てるってことじゃない。確かな前進だ。
桜の花びらが木を離れ、新しい場所を求めて飛び立つするように。

「つまり……
 今この瞬間、オレが求めてるのは『答え』なんかじゃなくて……
 今みたいに、こうして……『お前と一緒に生きてる時間』なんだよ。

 お前と一緒に居られるのが、オレは幸せなんだ。
 勿論、その先で『答え』を一緒に見つけられたら、
 それは一番幸せなことだけどさ」


勿論、唯一の関係になりたい気持ちはある。

大好きだって、何度だって叫んでやりたい。

想いは簡単になくせないし、多分ずっとなくならない。

けど、今それを華霧に強いるのは、違う。
無理やり腕を引っ張っていくなんてのは、違うんだ。
隣に居ながら、同じ歩幅で――

「今は、同じ歩幅で、お前と一緒に今日を生きたい。

 そんじゃま……改めてよろしくな、華霧」

そう口にして、身体を完全に華霧から離すと、
手を差し出した。

華霧からすれば、関係が変わったとか、そんな風には思ってないのかも
しれないけど、オレにとっちゃ随分と大きく変化したもんだ。

役割分担をしてた不器用な『親友』同士の関係が、
不安定ながらも少しずつ『カタチ』を変えていく。
オレは心の奥底で、そう感じていた。

園刃 華霧 >  
「……やれやれ
 ほーんと、なんで引かないんだろうなぁ……」

これだけでかい話をされておいて、
それにずっと付き合う、なんて馬鹿みたいだ

いや、自分もそれをかける、といったことはある
けれど、それは自分で言いだしたことだし、
贖罪だったりなんだりと理由はあった


……いや、それと同じだけの理由が、つまり
なんとなく、見えた気はするが
やはり実感には結びつかない

それを一旦頭から追いやる
今は、とりあえず


「ああ、そうだな。
 よろしく、レイチェル」

差し出された手を握り返した

レイチェル >  

――
―――

 
「くれてやるだけの価値を、好きだって気持ちを、お前に感じてるからさ」

最後に、困ったように笑うレイチェルはそれだけ口にする。
そうして。

 
 「……さ、今度こそ食べようぜ。
 そうだ、常世祭なんだけどさ――」

そう優しく誘って、レイチェルは微笑んだ。
からりと晴れた、青空に浮かぶ太陽のように。



一生答えがでないかもと、そう口にした少女。

なら一生をくれてやると、そう口にした少女。



二人の手は暖かく交わされた。

あの夜のように、美しく瞬く星空の下で。

ご案内:「常世寮/女子寮 レイチェルの部屋」からレイチェルさんが去りました。<補足:【待ち合わせ】金髪の長耳少女。眼帯と学園の制服を着用。>