2021/11/22 のログ
ご案内:「異邦人街」に羽月 柊さんが現れました。<補足:乱入歓迎:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/32歳179cm。右片耳に金のピアスと両手に様々な装飾品。くたびれた白衣。小さな白い竜を2匹連れている。>
羽月 柊 >
一本の木のある場所に、紫髪の男が立っている。
枝からつり下がった籠の中、ログハウスのような小さな家が見える。
指先ほどのメモ用紙のような紙をそこに向かって差し出している。
「これが課題のプリントと来年の教材のリスト。
あぁ、提出は冬眠りが終わってからでかまわん。」
妖精のような小さな住人が、それを受け取っていた。
掠れ交じりの落ち着いた声の男の傍ら、
両肩に乗った白い鳥のような何かがキュイ、と鳴いた。
秋から冬に入る頃。
異邦人街の此処も、寒空に乾いた風が吹き、
枯れ落ちる紅葉の終わった葉が、季節を告げる。
ご案内:「異邦人街」に山本英治さんが現れました。<補足:アフロ/風紀委員の腕章/草臥れたシャツ/緩めのネクタイ/スラックス/防寒ジャケット>
羽月 柊 >
今日此処に羽月柊が来たのは、教師業の一環のようだ。
魔術の他に異世界学や竜語を教えるこの教師は、
異のモノに慣れていることもあってか、
此処異邦人街に良く顔を出す。
教師になってから一年と少し。
目まぐるしく日々は過ぎ、
様々な事柄に関わり、悪戦苦闘しながらも、
今日まで教師としてなんとかやってきたと思う。
教師をしていて思うのは、己1人では教師に成れぬということ。
生徒によって教師は教師足る存在になる。
この常世島では、教師は強権を持つことは無い。
"何かを教えられること"が教師の条件であり、
そこには老若男女問わず、数多の出身のモノに平等に教師に成る権利がある。
それに、生徒会や各委員会の上部にとって彼ら教師の立場は下である。
この常世島では、少々教師という立場は特殊だった。
逆を言えば、だからこそ、この男のようなモノでも教師に成れた。
「…あぁ、じゃあまた、春にな。」
妖精の生徒に課題やらのプリントを届け、
一礼をするとそこから離れ、異の街を歩く。
巨体のリザードマンが隣を通り過ぎ、
翼の生えた誰かの羽音が頭上で聞こえる。
夜行性の誰かが起きて来る頃、はたまた、誰かが眠りにつく。
異邦人街は、眠りを知らず。
山本英治 >
「あれ、羽月さんじゃないか」
ジャケットのポケットに手を突っ込んだままだった手を上げる。
左掌に右拳を当てて挨拶。
「ご無沙汰してます、バチカンから帰ってきました」
そう言ってニカッと白い歯を見せて笑う。
そうか、羽月さんと会うのも随分久しぶりになるのか。
「妖精さんにプリントを届けに?」
オーバーに両手を広げて親愛をアピール。
視界の端にいる、血塗れの親友をできるだけ見ないように。
彼に話しかけた。
羽月 柊 >
「…ん?」
聞き覚えのある声にそちらを向く。
小竜たちが見おぼえのある顔にキュイキュイと鳴声をあげ、
羽月の肩から飛び立ち、山本の元へと寄っていく。
この島で彼の目立つ頭を見たのは久しぶりだった。
「……君か、あぁ、冬眠りをする生徒に来春までの課題をな。」
彼に対する口調は柔らかく。
小竜たちの後を追うように、旧知の"友人"へ歩み寄る。
彼は羽月が教師に成る前からの友人だ。
共に大切な誰かを失い、それでもと時に共に戦い、
言葉を交わし、友として歩いて来た。
己の異能たる胡蝶の夢《レム・カヴェナンター》も、
発現の発端は彼が居た故である。
「随分と久しぶりだが…バチカンか。
あそこは《大変容》以前から色々と技術を蓄えて来た所だが…。
何か目的あってのことか?」
恐らく魔術協会の支部もあるだろう。
この男も訪れたことがあるかもしれない。
山本英治 >
「元気だったか? セイル、フェリア」
相変わらず愛嬌があるねぇ、と笑顔で両手のひらを合わせて笑う。
この小竜たちと会うのも久しぶりだ。
「冬眠りか……心地いい眠りになるといいねぇ…」
ハーっと手に息を吐きかけて。
悴む手を温めてから、差し出した。
「はい、解呪のためにエクソシストを頼りに」
「異能の残響には通用しませんでしたが……」
「呪詛の類でないとわかっただけ前進!ってことで」
握手を求めたまま、小首を傾げて。
「羽月さんにも言ってなかったか……」
「なら俺誰に言ってから出てきたんだっけ…」
一年が過ぎていた。
長い時間が。過ぎていた。
羽月 柊 >
小竜の二匹はちょこんと差し出された手に留まる。
寒空の中、小動物のぬくもりが手を温めてくれるだろう。
それから少しだけ道の端に寄る。
夜の灯が徐々に異邦人の街を照らし出して行く。
「種族的に冬眠り、冬籠りをする生徒はそこそこに居るからな。
ヨキやおこん先生やら、その辺に理解のある教師陣で
作ったプリントを届けていた所だ。」
多少なり教師業も板についたと言った所だろうか。
かの小さな狐の教師はコミュニケーション学を教えているし、
教師としては先輩にあたる。
ヨキ以外の同僚との交流も増え、なんとかやっているようだ。
「…あぁ、なるほど。
まぁあの時はかなりゴタついていたからな…。
マルレーネには、言ってあるんじゃないか?」
一年。
定命の人間にとっては長い時間だ。
異能の残響と聞けば、桃眼を一度伏せる。
とある男の異能、"言霊"によって呪われた眼前の友人。
互いに聞かされたかつて愛したモノの声。
羽月は残響は残らなかったものの、あの日聞いた声は、今でも思い出せてしまう。
「全員退院日もまちまちだったからな。
神代の方は、…まぁ、色んな意味で元気にやっているみたいだが。
それで、『呪詛』の類ではなく『異能の残響』か。
異能は専門外だからなんともだが…
そうなると、"異能抑制"の類などは?」
呪われた友人、呪われてない自分。
強制的な溝を作られた二人。
この世に完全な異能抑制の類はほとんど無いが、
かつて己も含めて周囲に音を消してしまう少女につけられていたように、
存在自体はしているようで。
山本英治 >
「おお、おお。ぬくいぬくい」
微笑んでウリウリ、と竜の顎を撫でる。
可愛らしいが、これでいて高度な知力を持った二匹だ。
決して非礼があってはならない。
でも、可愛らしい。
「すっかりセンセーですね」
「今度、授業に出るかも……なんて」
帰ってくるなり風紀委員の仕事を入れまくっている。
それも、松葉雷覇を探し出すためだ。
自分なりに決着をつけないと。
狂うことも死ぬこともできない。
「そだっけ……マリーさんに言ったっけなぁ…」
「縋るように申請書出して、かっ飛んで行っちまったからなぁ」
小竜のおかげで温まった手を擦って。
「この街には神代先輩の正義も必要ですからね」
分かり合えた。でも、思想は違う。
違った形の正義を神代先輩とは共有している。
「そ、異能制御。でも制御するチャンネルを合わせるのに時間がかかりそうだ」
「エクソシストの方が言うには今、発狂してないのが奇跡ってレベルなんで」
「時間がかかるとかなり苦しいすね」
髪をいじって、羽月さんを見る。
深い紫の髪、桃に染めたような瞳。
「羽月さん……背、伸びました?」
真顔で聞く。全身の筋肉量がだいぶ落ちた俺なりのジョークだった。
……全然面白くはなかったな。
羽月 柊 >
小竜が山本の少し分厚い皮膚の親指に撫でられて擦り寄る。
小さくとも竜。
彼らは羽月本来の稼業である竜研究により"調整"を受けた個体でもある。
知性は成人の人間ほどには十分あり、
この小動物然とした行動も、意図的な部分がそこそこにある。
羽月柊という男が近寄り難い分、
彼ら小竜は緩衝の役目を担っており、同時に竜語の教師でもある。
彼らは彼らの意志で、この男の護衛竜として傍らに居る。
男の歩んだ人生を、傍らで見てきている。
「…センセー、か。皆が居てこそだからな。
日下部のおかげで研究所の方も負担は減らせたから、
教師としての仕事も出来ていると言える。
授業か? まぁ、異世界学ぐらいは…そうだな。」
新しいことを学べば、その分気は紛れるだろうか、そう考えてしまった。
ただまぁ、近代魔術はなんというか、彼のイメージに合わない気がした
「…あの時の君はかなり緊迫した状態だったからな。」
自分の身にもし同じような事が起きていればと思えば、ぞっとする。
彼のように、こうして会話が成立するような状態を保てると思えない。
…自分は、彼より意志薄弱だ。
「そうか……。力になれなくてすまないな。
未だに自分の異能すらまともに扱えん。
俺も異能制御やら抑制を考えて学ぶべきなのかもしれんな…。」
友人に、己が力になれないことのなんと歯がゆいことか。
研究の徒故に、専門外の事柄には疎い。
己に遅ればせながら発現した異能も、未だに扱いきれない。
「ん? …さっきまで小さな生徒を相手にしていたから
そう見えたんじゃないか?」
ジョークをやんわりとはぐらかした。
山本英治 >
「……確かに、教師あっての生徒。生徒あっての教師」
「異世界学……良いねぇ、単位が取れればなお良い」
魔術かぁ……という顔をした。
ライター代わりになればと初級火炎魔術を覚えようとしたことがあった。
結果として火の粉が散っただけに留まり、
その火の粉は己の髪を焼いたに留まったのだ。
「……今もですよ」
「立ってるのが精一杯! 漢、クライマックスです」
視界の隅にいる血塗れの未来の幻影に背を向けた。
決してアレと視線を合わせてはならない。
「羽月さんが謝ることはないですよ」
「異能制御は俺だってなっちゃいない」
「俺にできるのは……異能を使って暴れることだけで」
「今はそれすら難しい」
手のひらで謝罪のポーズを取った。
「いや本当すいません」
「日本語のジョークどうやったっけ……元々上手いほうじゃないんだけどなぁ…」
ムムウ、と唸って腕組みをした。
白い息を吐いて。
「羽月さん、今日の分のカフェインは摂取しました?」
「近くに異世界産の風変わりな豆を使ったコーヒーを出す店を知ってるんですよ」
羽月 柊 >
「真面目に受ければ単位は出るぞ?
選択科目だから申請手続きは必要だがな。」
意外と火を扱う術は初級であるが難しい。
基礎の基礎である。
そこで向き不向きが分かるとも言える。
火は出力の加減でそれこそライターの火から火事にまでなる故に、
魔力制御の基礎にはうってつけなのである。
かつて常世学園の生徒だったこの男も
最初の頃は火すら安易には扱えない生徒ではあった。
年月を経て、今でこそ呼吸するように扱えるが。
「……そうか。
いや、下手に強がられるよりは、良いことだな。」
素直に辛いと言ってくれた方が良い。
言葉を選ぶことが出来る、加減をすることが出来る。
彼の置かれている状況を理解出来てしまうからこそ、
そう言ってくれた方がありがたかった。
"今は異能を使うことすら難しい"
異能を使えば残響の引き金になる。
「とりあえず不意に異能を使わない対策は…。
日ノ岡あかねの使っていた類の制御チョーカーぐらいは
学園に申請すればすぐに貰えるとは思うが。」
異能制御、抑制というのでふと思い出す。
今はこの男も学園の人間、手順や申請の手助けも出来ることだろう。
はぐらかしたジョークに悩む彼に、少し苦笑する。
親しい山本であるからこそ分かるぐらいの微細な変化だが。
珈琲の店を勧められれば、日常に戻るように頷く。
「珈琲の中に星が煌めく店なら、知っているが、
君が知っている店か…違ったなら、君のお勧めを知るのも良さそうだな。」
そう言って、案内してもらえるだろうかと。
山本英治 >
「そう? じゃあ出ちゃおうかな……」
「毎週、羽月さんとも会えますしね」
ニヒヒと笑って。
これからは毎日を精一杯生きよう。
授業に出て、友達と笑って。
その時が来る前に、悔いが一つでも減るように。
「羽月さんの前で強がったってしょうがねぇや」
「お互い、死ぬ気でブラオと戦った仲だしなぁ」
次に異能を使えば、どうなるかわからない。
それでも、必要になれば。
俺は躊躇うことなく戦いの力を使うだろう。
「あれは周波数を合わせるのが大変なんすよ」
「時間をかけて、個人の力を抑制するもの…というのが」
「まぁ、ブラックギアスと呼ばれていた頃の制御装置の仕様だったんです」
今はどうかはわからない。
でも、簡単に何もかも上手くいくようにも思えなかった。
「ああ、行きましょう」
「フルーティな香りの豆もあれば、チョコレートみたいな香りの豆もある」
「きっと羽月さんも気に入るものがありますよ」
二人で歩いて、喫茶店へ。
そこでコーヒーを二人分、積もる話をたくさん。
こんな冬の日があってもいい。
羽月 柊 >
「居眠りはしてくれるなよ?
セイルとフェリアは居眠りには厳しいからな。」
友の笑みに、そんな冗談を言う。
歩いてすれ違う異邦の誰か。
とある龍を切欠に出逢った彼らは、
この異邦人街を気兼ねすることなく歩く。
「それもそうだがな…。
俺だったらそれでも強がってしまいそうだ。
もしくは、誰の前にも出れなくなるか………。
だから、素直に言える君が、少し羨ましいとも言える。」
それは多分、30を越えて、積み重ねてしまった故の歪み。
相手の状態が分かっていて、
励ましになるかもわからない言葉だ、と思う。
「ブラックギアス……まぁ、あれがきちんと出来ていれば、
異能疾患などというのも無いだろうからな。
試してみるには良いかもしれんが…。」
"異能疾患"という言葉。異能を病とすること。
発現した異能の全てが便利で使えるモノとは限らない証左の言葉。
この男の不随意的なコピー能力もまた、
一歩間違えば踏み込みかねないほど。
異能抑制があれひとつでどうにかなるものなら、この世はもっと気楽なのだろう。
「…あぁ、良いな。
甘い珈琲は嫌いじゃあない。」
そう言って、二人は喫茶へ入っていく。
彼らはこの異邦人街の中で、人間だった。
流れる時には逆らえず、定命故に歩みを止められず。
故に、今日彼らが再会したのは、新たな物語の幕開けかもしれない。
ご案内:「異邦人街」から羽月 柊さんが去りました。<補足:乱入歓迎:【はづき しゅう】深紫の長髪に桃眼の男/32歳179cm。右片耳に金のピアスと両手に様々な装飾品。くたびれた白衣。小さな白い竜を2匹連れている。>
ご案内:「異邦人街」から山本英治さんが去りました。<補足:アフロ/風紀委員の腕章/草臥れたシャツ/緩めのネクタイ/スラックス/防寒ジャケット>