2021/12/25 のログ
ご案内:「落第街 炊き出し会場」にレイチェルさんが現れました。<補足:金髪の長耳少女。黒のエプロンと三角巾、使い捨ての手袋とマスクを身に着けている。>
レイチェル >  
その日、落第街の一角には見慣れぬ白いテントが張られていた。
普段ならば暗さの目立つその一角には、
周囲を照らし出すライトが設置されている。

テントの内側には長テーブルが置かれ、その上にはコンロが幾つか
並べられていた。

さて、コンロの上に置かれた寸胴鍋を前にして、拳を握る者が一人……。

「よっしゃ、何せ100人前作るんだ。100倍気合入れて作らねーとな!」

使い捨ての手袋をつけた拳を握りしめるレイチェル。
十分な野菜とタンパク質がとれ、
一つの鍋で大量に作ることができる……その点を重視して
本日の炊き出しメニューを考案したのは彼女だった。

無論、調理を行うのはレイチェルだけではない。
一人で調理を行うなど、キャパシティオーバーにも程がある。
他のボランティア生徒にも手伝って貰いながら、
皆で作り上げるのはレイチェルの得意料理――シチューだ。

レイチェル >  
「最初に決めた通り、調理班と場作り班で前半後半交代な」

包丁を手に取りながら、指示を飛ばす。
こういう炊き出しの場で大切なのは、調理班は調理と提供に専念すること。
そして、場作り班を別に作って、炊き出し場の治安とあたたかな雰囲気を守ることだ。
特に、ここは落第街。警備を行う者も含めて、
治安とあたたかな空気作りを行わなければならない。
そこをゴチャ混ぜにしては、中途半端な炊き出しになってしまうだろう。
せっかく炊き出しを行うのだ。ただ腹を満たすだけでなく、
少しでもあたたかな空気作りを、この落第街で行いたい。
レイチェルはそう思っていた。
そうして、この場に集まったボランティアの生徒達もそれは同じだろう。


「という訳で、さっそく……皆頼むぜ!」

早速調理を始めていく。
さて、目の前に積まれるは大量のじゃがいも、そして玉ねぎ、人参……。

包丁を持つ手に力が入る。

「こっちはじゃがいも、そっちは玉ねぎ、お前らは人参だ。
 さっき決めた通り。で、そう肉も忘れんなよ!」

口にしながら、自らも手を動かす。
指示だけしていても仕方がない。一番素早く手を動かす勢いで、
じゃがいもを一口大に切っていく――。

レイチェル >  
炊き出しに参加することに決めたのは――街の明かりが煌めく中、
どうしても暗がりが目立ったからだ。

クリスマスを楽しむ人々が居る中で、
寒さに震える人々が居る。
治安の良くない街で暮らしていたこともあるレイチェルは、
その点には少しばかり敏感だった。

『流石に、こんな大量の野菜切ったことないんですけどォ……!?』

風紀委員の同僚が小さな悲鳴をあげながらも、一生懸命包丁を動かしている。

『……100人前を作る体験なんてそうそうないでしょうよ』

初めて顔を合わせた生活委員が、ふっと笑いながら皮を剥いていく。

「……待ってる奴らが居るんだ。頑張ろうぜ」

不敵に笑うレイチェルも、包丁を動かし続ける――。

調理班が地獄を迎えている中、
場作り班は周囲の人々に呼びかけたり、
寒い中で不安を覚えながらも覗きにやってきた小さな子どもたちに
優しい言葉をかけたりしている。

その様子を見て、レイチェルは安心の笑みを浮かべた。

レイチェル >  
――ここは、誰よりも大切な華霧《あいつ》の育った街で。
――そして、オレが常世学園にやって来た時に、初めて踏んだ地で。

そうして、そうして、そうして。

大切なんだ、とっても。
だからこの街は……表立って支援することはできなくても、
こういった形で手助けできれば……。


少しばかりして、シチューは完成した。
素敵な香りが周囲に広がる。

大勢の人々がやって来る中で、寸胴鍋からシチューを掬い上げて
次々と渡していく。

レイチェル >  
炊き出しの場に現れたのは、何も知らぬ顔ばかりではなかった。
かつて、前線に居た頃――この街によく訪れていた頃。
多くの奴らと顔見知りになった。
そういった人間達もここを訪れていたのだ。

冷たい顔で器を受け取る者が居た。
恥ずかしそうに器を受け取る者が居た。
謝りながら器を受け取る者が居た。
悪態をつきながら器を受け取る者が居た。

そのどれもに、平等に器を渡していく。

出せる分量は限られている。
この一度の炊き出しで満たせるものは、そう多くはないのかもしれない。


それでも、手を拱いて何もしないよりはずっとマシだ。
レイチェルはそう思っていた。

レイチェル >  
『レイチェルさん、交代です~!』

はっと気がつく。
気がつけば、一つ目の鍋が空に近付いていた。
そうして前半戦が終了。
ここからは、調理班と場作り班が交代をして炊き出しを行っていく。

つまり、レイチェルはこの後場作りを行うこととなるのだ。

エプロンを外し、三角巾を取れば、ふぅと一息。

「はぁ……はぁ……ま、マジで疲れるな。
 とりあえず、早速声をかけてくるか……」

と、声をかけようとしたは良いものの。

眼前。落第街の子ども達が、エプロンを脱いだレイチェルを見て
何だか震えている様子を見て、思わず半歩退く。

『レイチェルさん、顔……! 顔……!』

『マジな顔になってるぞお前……!』

「……はっ」

子ども達から見れば――命を狙われているのかと勘違いする程の
鋭い視線を向けてしまっていたのかもしれない。
……余裕がなくなるというのは、実に良くない。

「……わ、悪ぃ悪ぃ。別に怖かねーからさ……」

そう口にして笑顔で近づこうとしてみるも、
一度怯えさせてしまったものはなかなか近寄ろうとしてくれず……。

レイチェル >  
「うっ……」

ここに来て、まさか場作りに失敗しようとは。
こういう時に、誰か助けてくれればと思うが……。


『レイチェルさん、こういう時のためのとっておきが……!』

近くに居た生活委員が、親指を立ててこちらを見てくる。

「……あ? とっておき……?」

ぽん、と渡されたのは茶色の……パーカー……?

『良いからちょっと、こっち来てくださいって!』

言われるがままにそちらへと向かい、パーカーを開いてみれば……

「……は?」

なんと、トナカイを模したパーカーであった。
ご丁寧に、フード部分に赤鼻がついているではないか。

「……マジ? これ着ろって? オレに?」

うんざりした顔でそう口にするレイチェルに対して、
生活委員は変わらぬ笑顔で親指を立てている。


「…………」

パーカーとにらみ合うこと数秒。

そして――

レイチェル >  
背中から感じる、子ども達からの突き刺さるような視線。
やめろってマジで、そういうの弱いんだって。

………。

 
「……しょうがねぇな」

パーカーに袖を通す。
良いだろう、これだって立派な戦いだ。
クリスマス、盛り上げてやろうじゃねぇか。

そうして。

「大丈夫だって、怖くないからさ~っ」

頑張って声をあげながら、子ども達の中に入っていく。
柔らかい声、出せてるのかなぁ。
心配になりつつ、まぁ……何か子どもらも笑顔みたいだし、いっか。


そうして、炊き出しが始まってから時は経ち――
おかわりを求める人の声も絶え――
最後の一掬いを丁度、ラストに待っていた人に渡し終えて。

ようやく、このイベントは幕を閉じるのであった。

レイチェル >  
一緒に働いた皆と労いあいながら、
テントや調理器具の片付けをし、星空を見上げた。
今日の星空はちょっと、曇っていた。
折りたたんだパーカーを手に、一つ息を吐く。
白いもやが、空へと舞い上がっていく。

「クリスマスねぇ……」

クリスマスはもうじき終わる。
もう少しで、日が変わる。
聖夜は、ここまで。

はしゃぎながら帰っていく子ども達に笑顔で手を振りながら。

誰に聞こえるでもなく。

レイチェル >  

「……そうだ。ケーキ、入れといてやるか」

そうして、満足そうに笑みを浮かべてレイチェルは去っていく。


クリスマスに会いたかった、という気持ちがない訳ではない。

でも、別に特別な日に会えなくたっていい。

いつも通り、いつものように。

会えればそれでいい。


特別な日を選ぶんじゃない。

出会った日を、特別にすればいいのだから。


選んだ道を、正解にするように。


レイチェルは前へ前へと、歩いていく。
その足取りは、今まで以上にしっかりとしたものだった。

そうして、夜風を進む。

子ども達に貰った素敵な笑顔と、誰かへのあたたかな想いを抱きしめながら。

ご案内:「落第街 炊き出し会場」からレイチェルさんが去りました。<補足:金髪の長耳少女。黒のエプロンと三角巾、使い捨ての手袋とマスクを身に着けている。>
ご案内:「Free1」にレイチェルさんが現れました。<補足:金髪の長耳少女。黒のエプロンと三角巾、使い捨ての手袋とマスクを身に着けている。>
ご案内:「Free1」からレイチェルさんが去りました。<補足:金髪の長耳少女。黒のエプロンと三角巾、使い捨ての手袋とマスクを身に着けている。>