2022/01/02 のログ
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」に『調香師』さんが現れました。<補足:歓楽街に漂う香りの行先【来店歓迎】>
『調香師』 > 本日の予定は滞りなく
この時期はお客様が少ないので、
それは数年間の統計の結果なので

以前の大掃除で足りないと見做された在庫、
或いは『これいいかも』と思った品を探す為に
分厚い分厚いパンフレットを前に、彼女は座っていたのだった

(...これ、届いた箱の中に入ってたっけ)

新作の香りは試作品と共に送られてきて
紙面を指でなぞりながら、それを香りとして記憶に加えていく

ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」にレイチェルさんが現れました。<補足:金髪の長耳少女。眼帯と学園の制服を着用。>
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」に乱桜 ありすさんが現れました。<補足:むらさきの髪/赤紫の瞳/グレーのパーカー/ジーパン>
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」から乱桜 ありすさんが去りました。<補足:むらさきの髪/赤紫の瞳/グレーのパーカー/ジーパン>
レイチェル >  
「さて、と……」

同僚の一人からオススメされた店。
『Wings Tickle』。
仕事で歓楽街を歩いていた時、香りを漂わせてくる一角が
あったことを覚えていたが、教えて貰った場所へ向かえば
まさにその、香りの発生場所なのだった。
金の髪を夜風に揺らしながら、店内へと足を踏み入れる。

「邪魔するぜ、店は開いてるか?」

なかなかこういった佇まいの店に入ることはない為、
少しばかり緊張はしたが、
それでも好奇心も相まって足を踏み入れることにしたのであった。

腰に手を当て、周囲を見渡す。
電飾やアロマキャンドルは良い。良いのだが、
数多の小瓶や実験道具。そちらに目を奪われた。

「錬金術師の住処だな、こりゃ」

口から出たのは、珍しいものを見た時の驚きと、感心の声色であった。
そして、視線はパンフレットを広げている少女の方へ。

『調香師』 > 扉に掛けられた鈴が揺れると、彼女は辞書の様な本を畳む
視線を正面に、次に顔に合わせる様に上へ

今日のお客様も初めましてなのだろうかな、と
作業机の向こう側に居た彼女は、小走りで貴女の目の前に立つ

「勿論、今日もやってるよ」

見上げる少女は少々堅くも見える笑みを浮かべたまま、そう告げる
錬金術師の棲家ならば。彼女の身体は衣装は、人造生物を思わせる白を帯びていて

そんな彼女がこの部屋の主。それを裏付ける言葉は次の通り

「今日はどんなものを求めて?それとも、今日は何も考えず?
 そのどちらでもようこそ、『Wings Tickle』へ

 私が『調香師』。今日のあなたの為のわたしだよ」

レイチェル >  
「この時期だから、開いてねぇかと心配してきたんだが……
 ちゃんとやってて良かったぜ」

慣れぬ雰囲気に少し緊張していたせいか
少々鋭くなった瞳を店内に走らせていたが、
作業机の向こうからやってきた店員らしき人物を目に留めれば、
目元と頬を少しだけ緩ませた。

さて、ぱっと見たところ少女は――そう、まるで人造人間だ。
表情も含めて、ホムンクルスかアンドロイドか……或いはまた
別の存在か。
何にせよ、純粋な
人間のそれとは少し異なる不思議な空気を感じ取っていた。

「あなたの為のわたし……ねぇ。
 プレゼントに悩んでたら、
 ちょいと友人にこの店をオススメされてね。
 ここ、何でも素敵な香りを作ってくれるんだって?
 ちょいと、香りの専門家に手を借りたくてな。
 頼めるか?」

彼女が紡いだ言葉で、先の違和感が裏付けられる形となった。
ある種の人造物であることは間違い無さそうだ。
とはいえ、レイチェルはそういった違いを気にする性質ではない。
自身もダンピールであるのだし。この常世学園には様々な存在が居て当然なのだ。

上手いことコミュニケーション取れりゃいいが、と。
少しばかり心配はしつつ、笑顔を向けるのであった。

『調香師』 > 「勿論。それは私の出来る事。だから、お手伝いさせてもらえるんだね
 んひひ。だからあなたのお話聞かせて欲しいんだよね
 お友達の事、届けたい気持ち。そういう物から香りを作る

 言葉と香りは似ているからね。読み間違えないようにしないと」

作り笑いに笑う声、それでもその仕草は本心からのもの
すたたと身を引いて、お客様を急かすように一度振り返る

そうして、作業机を挟んでこちら側と向こう側で向き合う様に互いは座る事だろう
机の上に置かれた分厚い本は一度他所に。彼女は隣に置かれた小鍋の中でお茶を煮出し始めたのでした

「まずはね。このプレゼントって、どんな記念の品なのかな
 聞かせて貰っても良いかな。眼帯の人、格好も表情も、今はちょっとお堅いけどさ?」

待ち時間の間、彼女は首を傾け尋ねる

レイチェル >  
「そいつは助かる。
 香りとかの知識は全然ねーもんだからな。
 専門用語並べ立てられたらどうしようかって思ってたけど……
 そういうの聞きながら作ってくれるんだな。
 そいつぁ、いい店だ」

少しばかり装った感じもするが、
そこは気にしない。
彼女は造られた、そういう存在なのだろうし……しかし、
それでもその奥側。
『彼女が選んだ言葉は本物だ』と何となく感じ取ることができた。
つまり、信頼して任せていいってことだ。
言葉も、香りも。


店主に格好と表情がお堅い、と指摘されれば、
少し困ったように頬を掻いて笑う。
今度こそ、自然な笑みが出た。
だからこそ、続く言葉は柔らかく、流暢なものだ。

「記念の品、な。
 悪ぃ、肩透かしになっちまうかもしれねぇが、
 実は記念でも何でもねーんだ。
 普段の気持ちを、
 改めて香りと一緒に伝えたいって思って。
 それだけなんだ。

 で、実は……作って欲しい香りは二つあるんだ。

 一つは……ま、昔からの同僚。で、大切な友人に向けて。
 そいつは画家でな。あと、何にしてもお洒落なもん好きな奴。
 で、こいつにはいつも色々お世話になってんだ。
 オレのことよく考えてくれて、
 そいつ自身が苦しい時でもオレを応援してくれて。
 だから、感謝の気持ちを伝えたい。そう思ってんだ。
 少しでも温かい気持ちになってくれればと思ってんだ。

 ……こんなんでいいのか?」

首をかしげる。香りの専門家がどのようにして
香りを作っていくか、というのはさっぱりだからだ。

『調香師』 > 「ううん。肩透かしになんかならないよ
 寧ろ、あなたの気持ちを知った気がするかも

 淀みなく出てきた言葉。それは日頃から思っていた事
 ずっと考えていた事を今日、形に出来る場所に出会えた
 それが偶然だとしたら、んふふふふふ」

語っていく言葉の途中で、変わらない笑みの表情の中で
両手を口の前に、止まらなくなった笑う声の形

想う巡り合わせとは、私をこんなに嬉しい気持ちにさせてくれるのだと
その態度は言葉よりも表情よりも、随分と雄弁に伝えてくれるものだが

唐突に、音は止まる。その間の挙動不審な姿など、何事も無かった様に続く

「うん。すごく伝わる、伝わり過ぎる位に
 だったら私から付け加えるものはないんだね
 あなたが知っているその人の事を伝えて欲しい
 私はそれに沿うように選び続けるだけでいいかなって

 ...それで。もう一つは?」

前置きがあったのだ。次の感謝もきっと、今まで秘められたもの
今まで伝えたくて仕方のなかったもの、聞かせてくれるのだろうか?

レイチェル >  
「笑うようなこと言ったか?」

困ったように笑う。
不機嫌そうな顔が出ないのは、この場では心を許しているからだ。
変に装っては、きっと良い品は完成しない。
聞き取りの形を作る以上はこの香り、この店主と自分とで
作るものだと。そのように認識していたのである。

「あー……そう、だな。オレのことすげー慕ってくれてる奴。
 昔、喧嘩別れもしたこともあったし、
 色々ゴタゴタがあったけど、今じゃ……
 恋だの愛だのに慣れてねぇオレにアドバイスをくれる友人だ。
 
 後は、そうだな……結構料理なんか好きで、ケーキなんかも
 よく作ってる奴だよ」

そこまで口にして、こんなところかな、と伝える。
そして、もう一つと言われれば。
今度は少し、表情が変わる。

先ほどまでのように流暢なそれではなく、
少しばかり躊躇った様子の後に、紡ぎ出された言葉。

「……もう一つは。
 その、なんつーの……
 一番、大切なやつに渡したいもの……。
 
 ああ、いや! 片思いなんだけどな……。
 そう、恋人とかじゃなくて……。
 今は親友。そう、親友」

焦るように、両手を振りながらそう伝える。
香りを作る為とは言え、これってめちゃくちゃ恥ずかしくないか?
次第に顔が赤くなっていくのをレイチェルは感じていた。
 
「すげーバカで、ふざけてて、それでもちゃんと芯を持って
 誰かの為に動ける奴でさ。
 そいつは自分の為だなんて言うんだけど。
 
 で……
 そいつ、オレ以上に恋だの愛だのってのが分かんない奴でさ。
 
 それから、そう……凄く、孤独を怖がってる奴だ。
 大切なものがなくなるのが怖いって。
 それで、上手いこと踏み出せずに居る奴なんだ。
 
 オレはそいつに、安心を与えたいんだ。
 心から笑っていて欲しいんだ。
 重い気持ちって……思われるかもしれないけど……」

自分でも、よくもまぁこんなに喋れるものだと思ってしまう。
溜め込んでいた想いが、改めて口をついて出てしまうのだ。

「あ、それからそいつ、強い香りは苦手っぽいんだ!
 前に、ちょっとベリー系の香水を試しに
 つけてったら……
 その、なんか……こう、嫌だったみたいで……。
 だから、その……柔らかい感じの香りで……頼めるか?」

店主の顔を見ながらそこまで告げて、
レイチェルは首を傾げた。
不器用に、ただ真っ直ぐに伝えることしかできない自分の言葉。
それでも香りに乗せれば、きっと柔らかく届いてくれるのだろうか。

『調香師』 > 「笑いたくなるような事だよ。それくらい嬉しいんだからね
 そんな大事な気持ちを届けるお仕事を私が『出来る』って言えるなんて、くひひ」

分からないかな?そんな風に首を傾けて
彼女の心、『誰かの為に』との存在意義を、正しく使える場面に恵まれる
それが何事にも代えがたい幸せである。彼女の言葉はそう伝え

次は聞きに回る番だ。長い付き合いを言葉に滲ませる貴女
プライベートでも深い付き合いがある様な...分析は香りの設計図を組み立てていく


続いたお話は、それよりもっとプライベート?
その慕い方は相棒を語る口ぶりとは違った様子を見せる姿を変わらない笑みで向かえていた所で

「強い、香り?」

今度は反対の方向に首が傾く。疑念は香りの事に対して?いや、違う
なんだかそんなお話を、昔に聞いた事がある様な...

レイチェル >  
「へー、そんなもんか……。
 いや、でも分かる気がするな。
 誰かの役に立てるなら、って気持ちはオレにもよく分かる」

店主の嬉しそうな様子を見れば、レイチェルの方も改めて
頬を緩ませる。自分としちゃ、そこまで笑うものではないけれど。
この店主には、
話しているだけで相手の心を癒やす才能があるように
思えた。

そう考えるように、或いはそう口にするように
造られているのだろうけど……
なんて、無粋な考えは次第に思考の隅に追いやられていた。
この店主からは、
やはりきちんとした心を感じ取れる。
少なくともレイチェルはそう感じていた。

「ん、そうだぜ。強い香り。
 何だ、そういうの難しそうか?
 安心できるような香りって、結構強い香りじゃないと
 ダメな感じ……?」

店主が首を傾げるものだから、レイチェルも口元に手をやって
少し考え込む様子を見せる。

『調香師』 > 「ぃや、うん、そう......だね?」

彼女にしては歯切れが悪く。貴女の言葉遣いが伝わったかの様に
彼女が知っている『もしも』がそこにあったなら、その注文の形は正しいのだろうかと

一旦、沸かした紅茶にミルクを注ぐ作業に行動を移す
考えていても体は時間通り、機械が故の利点
ゆっくり混ぜてはティーカップへと。そうして差し出される、ここ暫く続けていたサービスミルクティー

「その人が欲しいのは、本当に安心なのかなって
 安心はあくまで、心の中に来る結果だから

 その人にとって一番心地いい時間が、例えば
 あなたと一緒に元気に過ごす時間だったら...どうかな?」

貴女はその『相手』について、どのくらい知っている?
結局の所、私の考えはただの予想でしかないのだから、
香りに必要な情報は読み取り、必要のない情報は混ぜない
そこを判別するのが、『調香師』としての私の仕事

レイチェル >  
「……どしたよ?」

突然歯切れが悪くなったものだから、思わず
声をかける。

差し出されたサービスミルクティーを見れば、
サンキュー、と小さく返して、一口。
ああ、落ち着く味だ。

「心の中に来る結果……」

言われて、少し目を閉じる。

成程、オレなんかよりずっとそういうことに詳しいのかもな。
そりゃそうか、色んな人間の話、聞いてるだろうしな。
恋だの愛だのを遠ざけてきた自分なんかよりも、ずっと。
そう考えて、納得する。

言葉から作られた柔らかな香り。
それを彼女の為にプレゼントしようなんて思ってたけど。

でも。あいつにとって、
本当に必要なのって。
結果だけが得られる『物』なんかより、やっぱり。
もしかしたら本当に、代えがきかない――

「……オレと一緒に元気に過ごす時間が……
 一番心地いい――『時間』」

彼女の言葉を、繰り返す。
今、そこまでの存在になれている気は、しない。
今ここで語れるものではないが、
大切な人を困らせてしまっている事情が、
幾つもある。
それでも、
そう在れるようにと、願っているのは確かだ。
色々な壁があったとしても。

「そう……だな」

しかしそれでも、
彼女の言葉は胸に刻んでおくべき価値が十二分にあると感じた。
だからこそ、次の言葉は先ほどよりも流暢、というよりも。
しっかりと彼女を見据えて発する。

「悪ぃな店主さん、二つ目の香りは変更だ。
 二つ目の香りは――」

そう、本当に必要なのは――

ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」から『調香師』さんが去りました。<補足:歓楽街に漂う香りの行先【来店歓迎】>
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」からレイチェルさんが去りました。<補足:金髪の長耳少女。眼帯と学園の制服を着用。>
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」に『調香師』さんが現れました。<補足:歓楽街に漂う香りの行先【待合中】>
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」にレイチェルさんが現れました。<補足:金髪の長耳少女。眼帯と学園の制服を着用。>
レイチェル >  
「――香りにして欲しいのは、
 空っぽの結果《あんしん》なんかじゃない」

店主に言われた言葉。
安心感は、心の中に来る『結果』。

プレゼントで大事なのは気持ちだ、なんてよく言うけれど。
目の前の相手が得意とするのは、
相手の伝えたいこと、気持ちから香りを作り上げること。
そんな彼女に香り作りをお願いするとしたら……。


「――もっとあいつのことを知っていきたい。
 
 そして、オレのこともできたら知ってほしい。
 
 少しずつでも良い。一歩一歩、柔らかに……
 
 わくわくするような時間を一緒に過ごす中で」


恋だの愛だの以前に、抱いてる純粋な気持ちを。


「……オレの気持ち、香りにできる?」

上手い言葉なんか使えない。
舌を巻くような表現もできない。

ただただ不器用にストレートに、
そのままを店主に伝えて渡した。

『調香師』 > 向き合うように、惜しげもなく伝えたかった貴女の言葉は
しっかりと切り出されながらも具体性が霞んで捉えさせない

その形がまっすぐな物であると確かに相手に伝える根拠はそう、
目線の射貫いた相手を捕まえる。羞恥を越えて切り出した、裸のままの心の形

(まぶしい人だな。私よりもずっと)

瞬きも出来ず、少女は向き合い続ける格好で時間が過ぎていく
自分がただ口にするよりも深く大きく、そして未熟な意志を抱く貴女を前にして

自分自身は未だ、そんな気持ちを抱えた事なんてないんだと知った
私が■■■に抱く『好き』の気持ちは限定的なだけ。こんなに純粋な形は知らない

「......」

むき出しの『好き』の感情がそこに在る。理屈で飾っていた物よりもずっと強烈に鮮烈に

処理を続ける。沈黙が解けないまま、自分の胸元に手を当てて
この気持ちを私が理解できるのだろうか?
この気持ちを私が理解、してもいいのだろうか?


彼女の吐息の熱は香りを華やかに燻らす

レイチェル >  
相手は瞬きもせず、沈黙が流れる。
こちらはそうも行かず、何度か瞬きをしたり、
少しだけ視線を落としてみたり。

自分から言っちまったことなんだが、
いくらなんでも恥ずかしすぎるんじゃねぇか、これ……。

「……あの」

十二分過ぎるほどの沈黙が流れては消えていった。
改めて彼女の様子を見る。
言葉がない中で彼女の思考を汲み取るのには
限度があったが、それでも。
その姿には何処か見覚えがある気がした。
それはちょうど、あいつに初めて気持ちを伝えた時に似ていて。

「……ごめん」

口から自然に出ていたのは、そんな言葉だった。

「……オレ、どうしても不器用でさ。
 不器用っつーと、なかなか気持ちを伝えられねぇとか、
 素直になれねぇとか。そっちばっか言われてるだろ。 
 
 でも、オレの不器用さは違う。
 オレは自分の気持ちを、
 そのままぶつけるしかできねぇんだ。
 
 器用な奴ってさ、自分の言葉をちゃんと
 綺麗に飾れるじゃねぇか。
 
 格好良く言ってみたり。可愛らしく言ってみたり。
 キザに言ってみたり。遠回しに言ってみたり。
 オレにはそういうのができねぇから……
 
 ……あんたみたいに、あいつみたいに。
 困らせちまうんだろうな」

沈黙のままに胸に手を当てる彼女を見て、
いつの間にかこちらの耳も垂れ下がっていた。

『調香師』 > 「どうして、あやまるの?」

思考より先に口から吹き抜けた言葉は、香りを届けながら
何か私は、悪い事をされたのかな?そんな筈はないじゃないか

「あなたは伝えただけだよ?私にとって、大きすぎるだけで
 うん。困った、私はこれを形に出来るのかな?って

 香りの事は出来る事、その中に『出来ないかもしれない事』なんて
 今まで考えた事がなかったんだよ。そんな仕事に出会えるなんて」

両手を膝に下ろして格好は行儀よく正す
私も貴女に伝えよう。今一番聞いて欲しいお話を

「今、私は『出来ない事』をしようとしてるんだね
 あなた、そんな仕事をさせようとしているんだね

 でもしたい。とてもしたいんだ。持ってきてくれたお仕事
 とっても手探りになると思う、分からない事を何度も確かめるんだと思う
 私を押し出しているそんなあなたが、どうしてそんな風に困っているのか

 分からないな。そんなに悪い事に考えてしまうのかな?」

一言ごとに身を乗り出して、彼女の表情は近付いていく
表情には出ない、それでも彼女には心が備わる
態度に容易く表れる。知りたい、力強い興味の引力のままに

レイチェル >  
「どうしてって、そりゃ……」

彼女の口から出た言葉は、意外なものだった。
困らせてしまっている。
何か傷つけてしまっているのかもしれない。
そんな気持ちから、口から自然に出た言葉だった。

それを、彼女はただ『伝えただけ』と言った。

続く言葉は、
考えてもいなかった事に出会えることへの感謝。
その考え方はとても前向きで、
何処までも輝いているように思えた。
そして、ほんの少しだけ心が救われた気がした。

「……困らせちまったんなら、悪ぃと思っちまうよ。
 あんたはしたい、って言ってくれてるけど……。
 誰かを傷つけるのなんて御免だ。
 あんたみたいにオレと向き合ってくれる奴や、
 大切な奴だったら……尚更だ」

近付いてくる顔。
何となく直視できずに、
顔を逸らして視線を床に落とす。
裸の心を伝えてから、頬は紅潮したまま。

そうだ、誰かが傷ついている姿は……
見たくない。見ていられない。何とかしたい。
それが、この少女に根ざすものだ。

それでも牙は――言葉は、大切な者を困らせ、傷つけることしかできない。

化物《ダンピール》の、深くて大きなジレンマがそこにはあった。

『調香師』 > 「傷ついている?どうして?」

作り物の心を抱く彼女は、時に距離を読み違える
目の前に居る『人の為』ならば。その行動は時に、今までの時間を忘れさせる
今日が『はじめまして』だった事なんてお構いなしに、
彼女の手は、貴女の頬を両手で挟んでは持ち上げようか

独り善がりで傷ついている貴女の目線こそを、逃がしてあげたくはないのだ


「私のこの顔が、傷ついてるって言うんだね
 ぶつけるのは良い、でも相手の事を見る前に勝手に遠ざかる
 そういうのは私、酷い人って呼んであげるんだからね?」

確かに、頬を膨らませた不機嫌には見えたのだろうが...

レイチェル >  
「どうしてって……。……って!?」

視線を逸らしていたその最中、
頬に触れる感覚。


「ちょ、ちょっと待て……」

反射的に抵抗しようとするものの、
彼女の発する言葉が胸に突き刺さる。
少し前にもそう、似たようなことであいつに
心配をかけてしまったことを思い出したのだ。

紫色の二つの輝きが、遠慮がちにそちらに向けられた。

自分の中にある本当の呪い。
その形を今一度掴む。
これこそが一番の、壁。
それを認識したからこそ。

「……悪かったよ」

素直に謝った。
少なくとも、この場における彼女とのやり取りにおいて言えば、
全くもって彼女の言う通りだと思った。
故に観念したようにそう言い放って、
視線を落とした。

『調香師』 > 「傷ついてない、いいね?」

簡易な確認と共に少女の小さな手は離れる
表情の変化といえば相変わらず、その頬の形が落ち着いた程度

「この仕事は簡単じゃない。もう暫く、私はあなたの気持ちを求めてる
 でも傷ついてはいないんだから。そういう風に、あなたは思わないといけないの

 じゃないと。きっと、作った香りを渡す時も、あなたはそんな事を言っちゃいそうな気がするんだ」

違う?彼女は首を傾けて言葉を続ける
通っている間に自分との向き合い方を考えて貰わないと、
貴女のまっすぐさに感化された自分が馬鹿みたいじゃないか

見た目の印象よりも余程、彼女は多感で強引で、その上悪戯好き

「今日のお仕事。両方とも、確かに請けさせてもらうからね?」

そして椅子に座りなおした彼女の目線の色、
澄んだ青には好奇のまたたきの跡も確かに遺されていたのだった

レイチェル >  
「……わ、分かったから離せって」

言葉を放つと同時に、彼女の手が離れる。
今、その無機質な顔の奥に、確かな感情を感じている。

「……思わないといけない、か」

傷跡は、呪いは、未だに深いままで。

それでも、決して忘れない。
想い人がかつて自分を、化物じゃないと否定してくれたこと。

そうして、この場で彼女が自分に渡してくれた数々の言葉。

『でもしたい。とてもしたいんだ――』

『とっても手探りになると思う、
 分からない事を何度も確かめるんだと思う――』

『私を押し出しているそんなあなたが、
 どうしてそんな風に困っているのか――』

自分が、押し出している。
それは思ってもいなかったことで。
全く考えもしなかったことで。
他の言葉も含めて、また少しだけ暗い世界に光が射し込んだ気がした。

「……あんたになら、頼めるよ」

この不器用で不格好な気持ちを、
素敵な香りと共に少しずつ整えていく。

一歩ずつ、一歩ずつ。

それでも希望を持って、確かに前に進みながら。

歩くような速さで。

爪を持つこの手でもいつか、
優しくあの手を繋げるように。

『調香師』 > 「ふふ、頼まれるからね。これはもう、私のお仕事」

彼女は机の中に手を伸ばし、カードを持って戻ってくる
作業机の上で、貴女の前に差し出されたカード

翼のスタンプが1つ、残り空欄は2つ。3回と示したポイントカード

「1回の度に1つ、3つ貯まると『どんな事でも』
 本当にどんな事でもかは、また後日次第だけどね?

 このお店に来てくれた、選んでくれたサービス
 受け取って欲しいな。あなたがまた、来てくれるって約束だからね」

心に抱くその傷跡を、調香師は知らないけれども
そして彼女が心に抱く傷跡を伝えてはいないけれども

このカードはこれからの2人の交点。証として、受け取られる事を望んでいた

レイチェル >  
「そいつはまた、とんでもねぇカードだな?」

カードを少しだけ眺めた後、
笑いながらそれを受け取った。
受け取って欲しいと言われれば、拒む訳にはいかない。

「そうだな、また邪魔するよ。
 プレゼントを渡したいってのが一番だが、
 ここは……ま、居心地のいい店だからな」

そうして、本心を伝える。
香りも、店主の仕事ぶりも。
とても素敵だと思った。

「ああ、そうだ。それから――」

ゆっくり席から立ち上がれば、
クロークを翻して一言。

「――あんたの話もまたいつか、聞かせてくれ」

そう口にすれば、表情を崩した笑みを
ニッと、最後に貴方に見せるのだろう。

『調香師』 > 「うーん。楽しいお話になる自信はないけれどね?
 あなたのそんな表情を、貰えるようなこと。お話しできると良いな」

彼女も次いで、立ち上がる。小走りで回り込んでは入り口を開いて
ひゅうと、路地裏を吹き抜ける風が扉を隔てた向こう側の景色

「またのおこしを!」

そこへ、お客様を見送る為に飛び出した彼女
貴女が帰るその背中を、頭を下げてお見送りしたのでした

ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」からレイチェルさんが去りました。<補足:金髪の長耳少女。眼帯と学園の制服を着用。>
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」から『調香師』さんが去りました。<補足:歓楽街に漂う香りの行先【待合中】>