2022/02/25 のログ
セレネ > 適当に周りを散歩して、飽きたら飛んで帰ろうかしらなんて思っていたら。
声を掛けられ、此方に駆けて来る足音を耳が拾った。
その声に聞き覚えはない。歩き出そうとした足を止め、蒼が駆けて来るであろう人物を見る。
陽が落ち暗い中でも映える桃色の髪を揺らし、普通とは些か変わった服に身を包んだ女性。
腕章はない事を見るに、風紀や公安の類ではないらしい。
そもそもこんな場所に人が来るとは思っていなかった。
困惑と、警戒を滲ませながら、努めて平静に、
「あら、こんばんは。
…その、実は少し迷い込んでしまって。」
困った笑みを浮かべては、嘘の理由を述べる。
そんな貴女は何故此処に?と不思議そうに首を傾げてみせた。
真詠 響歌 >
綺麗な人。それにこんな場所に不似合いなお洒落な服。
だけどなんでだろう、不思議とこんな場所が凄く似合う。
見た目の儚さとはちょっと違う。これって寂しさかな?
「お世話になってる人が暫くここを自由に歩いてこいって。
"実験"って言ってたかな」
私も人に会うとは思ってなかったけれど。と、小さく笑って。
察されている通り、私本人は風紀委員でも公安でも無い。
「一人でこんな所いたら危ないよ?」
迷い込んだ。
それは嘘だってすぐに分かる。こんな所、入口だって普通に歩いていたら見つかりっこないし。
それに――凄く良くできた笑顔だったから。
「ここに来て"何を感じるか"を……なんだっけ、言語化?
してこいって言われてきたけど、さっぱりで暇してたんだ。
――お姉さん今落ちて来たよね。怪我とかしてない?」
セレネ > 彼女が己の傍まで来たなら、気付くかもしれないローズの香り。
香水の類のようなキツい香りではなく、自然でふんわりとした優しいもの。
彼女が己の事を綺麗だと、この場が似合うのだと思うのは、
もしかしたらその香りの効果のせいかもしれない。
多かれ少なかれ、香りを嗅いだ人を魅了してしまう代物だから。
「実験?…貴女は何かの被験者なのでしょうか。」
世話になっている人と、実験という単語。
凡そまともな実験ではなさそうだ。
どこまで探っても良さそうか、気になり更に質問を投げかけた。
「えぇ、まぁ…そうですね。
でもそれは貴女も同じでは?」
一人は危ない、それはその通り。
でも、少なくとも同じ女性である彼女も変わらないのではなかろうか。
もしかしたら近くに実験の監視役が居るかもしれないが。
「…気持ちを言語化、だなんて随分と難しい事を言われたのですね。
――え、あ、あぁ。見られていたのですね…これは、お恥ずかしい所を。
えぇ、怪我はしておりませんよ。大丈夫です。有難う御座います。」
彼女は己が屋上から躊躇いなく飛び降りたところを見ていたらしい。
心配するような言葉に礼を述べては、問題ないというように両腕を軽く広げてみせた。
真詠 響歌 >
近くに寄れば甘い香り。香らせるようなのじゃなくて、自然な奴。
五感の内で二つ、視覚と嗅覚と。
その二つで感じる『綺麗』や『甘さ』みたいな物。
それはこの物寂しい灰色の地平に違和感として浮いていたのに、
手の届く距離にあると不思議とその違和感がボヤけて"そういう物"として感じてしまう。
「被験者……なのかな?
魔術とかと違って異能とかってよく分からない事があるでしょ?
その"よく分からない"をちょっとずつ無くしていく為なんだって」
お世話になっているのは事実。
監視対象なんて括りで不自由をしているけれど、処分したりせずに手間暇をかけて生かしてくれている。
そんな人達が"実験"と称して私を自由にして放り出す。それは凡そまともな人のいる表の舞台ではできない事らしい。
「私は大丈夫……かな?
私を死なせないのがオシゴトの人もいるし、今もどこかで見られてると思うから」
だから、大丈夫。
必要に応じていつでも殺せていつでも助けられる。
そんな距離感にちょっとだけ冷たかったりする視線が向けられているから。
「要するに歌詞を書け、って事らしいんだけどね。
感じたままに、思うがままにって」
こんな場所見せられても楽しい歌なんて思いつかないんだけど。
感じる事なんて寂しさや、辛さ。そんな事ばっかり。
それを歌に乗せてしまえば、きっと良くない事になる。
「そう! 見てたけどなんかふわって……凄くない? 魔術とか?
めっちゃ綺麗だった!」
寂しさの中で見かけた一条の光のような月の色。
広げられた腕はどこか神々しいくらい。
セレネ > 彼女が抱くその感覚は、己から離れれば元に戻るし離れなければそのままだ。
空に浮かぶ月が人を魅了するように、己も人を魅了するのだと。気付いたのはごく最近。
「まぁ…確かに?異能も人によって様々あるようですしね。
…となると、貴女も何かしらの異能を持っているという事なのでしょうか。」
此処に来て随分と、様々な異能を持った人々に会って来た。
十人十色、千差万別、一人一人違っていて、それが興味深くもあるけれど。
要は、この実験も不明点を埋めていく為のものらしい。
「成程。…私も自衛の術(すべ)は持っているので問題ないとは思いますが、
危ない目には遭わない方が良いですからね。」
彼女の答えに頷く。監視は充分らしい。
「歌詞。……アーティスト…いや、アイドル?だったりするのです?」
彼女が普通とは違う衣服に身を包んでいるのももしかしたらそういうことなのだろうか。
そういった事には疎いから、少しばかり不安そう。
「えぇ、まぁ…魔術ですね。風の魔術で落下速度を落として着地したのです。
綺麗だなんて、魔術の使用で言われたのは初めてですね。
ふふ、有難う御座います。」
口元に手を添えてクスクスと笑う。
己は大したものではないと思うも、人によってはそうではないみたいだ。
真詠 響歌 >
見上げた空の月は欠けていて。
不完全なそれを見た後だからかな? 目の前の女性の髪や姿は満月のそれのようで。
「歌で人を感動させる、ってあるでしょ? 人の心を動かす歌。
それが私の異能? らしいよ。自覚ないんだけど。
人の心を"共感"させてしまうの。たとえどんな歌詞でもね?」
アーティストとしては何でも異能だなんだで片付けられるのは複雑な話だけど。
かつての落第街で起こった戦争の後に行ったゲリラライブの"平和"を歌う歌。
それは監視役さんの目論見通りに機能したらしい。
アウトローも、違反部活も。"共感"させられていた。
「危ない目に遭いたがるような人なんていないでしょ。
好奇心猫をもなんとやら……って言うし」
「そう! アイドルユニット『EE』の真詠とは私のこと―……
って言っても元、だけどね? 解散したし。今は読モやってたり。」
改めて、今更ながらに名前を名乗る。
容姿からして日本人では無さそう。だから知らないだけだと思いたい。
「へー……魔術ってそんな事もできるんだ。何でもできそう……。
自分のできない事って何か綺麗に見えたり凄い!って思わない?」
魔術の類はからっきし。
そもそも自分の"共感"が異能と呼んでいいのかすら怪しい。
学園で学びこそすれど使えるかどうかで言えばNOだったりする。
セレネ > 己の月色は、時折風に緩く煽られたなびく。
金色ではなく、銀月のような。僅かに青みがかった髪色だ。
「成程…共感、ですか。
使い方によっては多大な影響も与えそうですね、良くも悪くも。」
人の精神に作用する異能だろうか。
どんな歌詞でも、となると確かに危険ではある。
使い方によっては有用な武器となり得るものだろうけれど。
彼女の言葉に興味深そうに頷きながら。
「あぁー…ごめんなさい、私、そういったものに疎くて。
真詠さん、ですね?読モ…可愛らしい方だと思ったらそういう事だったのですか。」
軽く手を叩いて納得した表情。彼女の名前と容姿を覚えて、
己の勉強不足に関しては素直に謝罪。後で調べておかねば。
「どこまでを何でもと取るかにもよりますが、大抵の事は出来ると思いますよ。
魔術は道具と同じですから扱い方によっては便利にもなりますし、凶器にもなり得ます。
――そう言われると、確かにその通りですね。
自分の出来ない事を素直に凄いと思ったり、綺麗に見えたりする。
貴女のその心は、素敵なものだと思います。」
自分が出来ない事に嫉妬を覚える人が多いのに。
彼女のその素直さには、蒼を細めて褒める言葉。
真詠 響歌 >
月明かりを受けて煌めく髪は硝子細工のよう。
「そ、共感。
そんなのが地上波に乗ってたと思うとぞっとするよね」
たはは……と、自嘲するように笑って。
実際に大変な事が起こったのはライブの、配信外のアンコール。
それが私の"危険性"が露呈した瞬間だったりする。
精神に作用する。それも敵意や害意なども無く。
それに気づいた人や、隠蔽したい人が一緒になって私をこの島に連れて来た。
「歌とか、テレビとかあんまり興味ない人だとしょうがないよね。
でも可愛らしいって綺麗な人に言ってもらえると俄然嬉しいね……」
知っている人は知っている。それくらいの物。
実際に学園に通っていても特段騒ぎになるような事も無いし。
「――凶器にも」
それは、凄くすんなり納得できた。
自分の歌だって一緒だ。
喜びも悲しみも伝えられる。人を救う事もあれば殺めることすらある。
その危険性をこの人は、ちゃんと分かっているんだ。
「綺麗な物を綺麗って思えないと歌詞なんて出てこない……なんてね?
えへへ……なんか褒められるの久々でちょっと照れ臭いや」
勿論自分も嫉妬する事はある。
声の伸び、楽器の演奏技術。あらゆる物や場面で歯噛みする事もあった。
それでも、それを凄いと思う情動すら無くなってしまう事の方が怖い。
セレネ > 彼女の髪色は、桃色なのもあってか桜色のようにも思えて。
まだ咲く季節には早いけれど、一足早く桜が見られたような気持ちになった。
「不特定多数がそれを見ているなら…そう、ですね。」
その映像を見て、”共感”してしまった人々がどうなったか。
感情はどうあれ、その後の騒動は想像に難くない。
「なるべく、話題について行けるように見るようにはしてるのですけどね…。
お世辞ではないのですよ?本当にそう思っているのですから。」
綺麗な人だなんて言われると、恥ずかしそうに照れながら。
彼女の納得する言葉に、小さく頷いて、
「素直な言葉の方が伝わりやすいですものね。作詞にしても、普通の言葉にしても。
共感させる異能ならば、余計に伝わってしまいかねませんけれど。」
危険な異能を持っている彼女だが、
こうして話しているだけなら至って普通の子のように思える。
感受性が豊かな、素直な子。そう感じた。
真詠 響歌 >
この桜の髪は衣装に必ず盛り込んでいた深紅のカラーラインと合わせて自分のトレードマークのような物。
「良い方に物事が進んでいる内は誰も気にしなかったんだけどね。
共感者! なんて言って囃し立てられて浮かれてたくらいだし」
それが今では叫喚者。響きは一緒なのにこんなにも違う。
ライブ会場の来場者約3万と5千人。その内の5分の1が同時期に不審死を遂げれば事件にもなる。
「テレビや雑誌だけが話題でもないしね。
それこそ魔術だったり学校の授業だったり、私はそっちが置いて行かれがちだけど」
お世辞は聞き慣れている。
いつぞやにコンビニでチンピラに絡まれている時に助けてくれた"凶刃"もそうだけど、
ストレートに褒めてくれる人の純粋さは水面下で腹の探り合いばっかりしてる芸能界には無い瑞々しさがある。
だから、私も嘘は吐かない。綺麗な物を綺麗と歌いあげるのが私の性。
"ここ"では声の大きさも制限されたりしないとなれば、そりゃもう褒める所は褒めちゃうってもの。
「なるべく感じたままに言葉にしたいって思うのはそこかな。
ちゃんと伝わって欲しい――今となっては伝わりすぎてたみたいだけど。
だから、ここを見て来いって言われてちょっと困ったりしたかな」
『平和』を歌えと指示をされた事はある。
だけれど"ここ"を、この惨状を前に湧き出る思いも言葉も歌にしたいとは思えない。
言語化してこいと言われたけれど、ただただ寂寥感に満たされてしまう。
だからこそ、降り注いだ月の影に駆け出してしまった。
セレネ > トレードマークは自身を覚えてもらうには大切なものになる。
印象一つで良くも悪くも見られるのだから、見目は大事にせねばなるまい。
「あぁ…まぁそういうものですよね。
悪い方向に向いた時初めて重大さに気付くってパターン、かなり多いですし。」
相手の事だけではなく、別の事でも。
気付いて居るのはごく一部で、
警鐘を鳴らしても大多数は目もくれず…気付いた時にはもう手遅れだなんて事は、数え切れない程あった筈だ。
「魔術や講義については得手不得手があったり、そもそも扱えなかったりって人がおりますからね。
お勉強、苦手だったりするのです?」
どちらかというと、己は腹の探り合いをする情報戦の方が長けてはいるけれど。
必要である場所とそうではない場所の区別くらいはつく。
とはいえ、己から出す情報は極端に少ないという癖は抜けないが。
「…私が貴女と同じ立場でも、困ると思います。
だって此処はただ虚しいだけですもの。
だったら、もっと別の場所を見て歌詞にしたいと思ってしまいますね。」
仮にこの場所を歌詞にして、彼女が歌ったとして。
聞いた者に共感される感情は寂寞くらいのものだろう。
悲しい、虚しい、暗い。そんな感情だと思う。
鬱になるとしか思えない。
真詠 響歌 >
「自分の歌で誰かが幸せになってくれてるって思ってたけど、
異能に"作られてた"だけだって気づいたのはショックだったかな。
気づいた時にはもう手遅れだったけど」
事実、警鐘は鳴らされていた。
それに気づけなかったから、今がある。
「使えないなりに勉強するのは面白いけどね。
理屈では分かってるけどさっぱり手に負えない!って感覚今までなかったし。
勉強は……楽しいのだけ得意……かな? 数学がさっぱり」
面白いって思える科目は結構頑張れる。
古文とか、語学とか。数学はさっぱりだ。
「虚しい。……だよね。
貴方に会えたのは良かったって思えるけど、それが無かったら……」
そこまで言った辺りで、携帯が震えた。
表示されたメッセージには見慣れた監視役さんの名前。
今日の担当は別の人のはずなのだけど。
「……?」
内容はすぐに引き返せという類の物。
私が"ここ"で得られる感情は良くない物であると。
初めて会った今日の担当者がそれを意図的に引き起こさせようとしているといった事。
「あー、なるほど?
悲しかったり、暗かったり。そういうのを私に歌わせようって人も居るって事……なのかな?」
それはつまるところ電波に乗せれば幾万に届く危険物を作ろうとしているという事に他ならないんだけど。
目の前の女性を他所に舞い込んだ連絡に独り言ちてしまった。
事実、ただ指示通りに此処をふらふらと歩いていたら言い知れない寂寞を抱えて、
いつかそれを私は形にしてしまっていたかもしれない。
残念ながら、この灰色の荒野の中で綺麗な物を見つけてしまったからそんな感情はすっ飛んでしまったのだけど。
セレネ > 「うーん…確かにそうですね。
異能も自分の力の一つとはいえ、
自分自身が影響を与えた訳じゃないっていうショックは…分かる気がします。」
己は人を魅了してしまう力を持っている。
大体は好意的に見られる程度だが、その魅了のお陰で己は人に良く見られているのでは?と
時折考えてしまうのだ。
「面白いと思ってくれているのは、扱える側としては嬉しいものですね。
魔道具とか、値段は結構張りますが売っている所もありますし
機会があれば覗いてみるのも良いかもしれません。
理数系があまり得意ではないのでしょうか。難しいですものね、数学。」
そっかそっかと彼女の言葉に笑みを浮かべる。
興味を示してくれる人にはついつい手を差し伸べたくなってしまう。
「――?」
彼女の言葉が途切れた。どうやら連絡が入った様子。
「……それ、本当なのだとしたら爆発物を作らせようとしているのと同じですね。」
彼女の独り言が耳に入って来てしまった。
テロ行為になりかねないのを分かっているのだろうか、その人は。
「早めに気付いて良かったですね。
…強い力を持つ人は、利用される事も多いですから。
気を付けて下さいね。」
真詠 響歌 >
「私の異能が形の無い物だからかな。
感動とか、共感とか。異能のせいだって言われるとなんだか実感が無くなっちゃって」
歌が好きだと言ってくれた人の言葉が。
元気になれたと届いた手紙が。
全部、自分の異能が作り出した虚構の想いなんじゃないかって。
「機械も電気も魔法みたいな物だと思うけどね。
音の反響とか分子がどうだ……って言われるとよく分からないなりに学ぶのは楽しいし。
……テスト全部マークシートになったりしない?」
途中式なんかも採点されるから無理だよね、うん。
反対にこの人は勉強の類は得意そう。古文くらいは点数勝てるかな。そもそも履修してないかも知れないけど。
「そんな爆発物は不思議なお姉さんとの邂逅で不発に終わった……めでたしめでたし?」
ちょっとだけ、冷や汗のような嫌な汗が流れそうになっておちゃらけて。
「基本的に異能だったりが人に問題起こさないようにって
風紀委員の人に管理してもらってる立場だから安心しちゃってたなぁ」
強い力、そういわれるとなかなか実感が無いというのも怖い話なんだけど。
「……いつか皆に聴いて!って言える歌が歌えるように、
私もこの異能の事ちゃんと分かって行かないとだ」
あなたにも知ってもらいたいしね、と言ったところで未だ名前を知らず。
すぐに引き返せと言われた手前長居はできないけれど、名前くらいは聞いても大丈夫だろうか。
セレネ > 「…その人の気持ちが本当だという証明は難しいですよね。
そのお気持ち、凄く分かります。
でも、多分、全部が異能のお陰ではない、と思いますよ。」
どう思うかは、彼女次第だが。
そう思わないと己ならきっと潰れてしまう。
蒼を一瞬伏せるが、すぐに上げて。
「それは確かにそうですね。科学も魔法も、原理が分からないと不可思議な物事に見えますし。
…さぁ、それはどうでしょうね?」
マークシート、塗り潰すだけだから簡単だけど、一ヶ所ズレたら大変な事になる。
己にとって日本語は英語と比べると苦手な類。古文は残念、履修していなかった。
「爆発物だけに不発という訳ですか、お上手ですね。」
彼女の言葉には小さく拍手なんてしつつ。
「他者から管理されていると、忘れがちになりますよね。
――そうですね。自分の事を知るのは大事な事です。」
彼女の言葉から己の名を告げていない事に気が付いた。
「私はセレネと申します。」
宜しくお願いしますね、と軽く頭を下げて遅ればせな自己紹介。
真詠 響歌 >
「うん……うんっ」
誰かに声が届くなら。思いが何かを変えられるなら。
か細い線1つだとしてもその為に私は歌える。
成功も失敗も全てが異能に起因する物だとしても、全部が虚像だとは思わない。
「……今季のテストのマークシート、全部②に丸して7割以上取れた科目があったくらいだし?」
案外なんとかなるかもしれない。
なんて言いながら、少しだけ陰った心の曇りを振り払う。
「セレネさんかぁ……綺麗な響きだね。
またどこかで会えたら!」
告げられた名を噛み締めて。
虚ろな心を生み出しかねなかった灰の荒野で出逢った月の色。
穏やかな笑みを浮かべるセレネさんに後ろ手に手を振りながらそこを後にしたのでした。
セレネ > 何度も頷く彼女を見て、蒼を細めた。
案外似た所もあったせいか、彼女に強く共感してしまったらしい。
だが己は彼女の歌声を聴いてはいない。
だから、これは己自身の心から来る気持ちなのだ。
「……それは、何というか。運が良かったですね?」
その言葉には何とも言えない表情を浮かべるしかなかったが。
「有難う御座います。
えぇ、また会えたらお話しましょう。」
偽りの名前とはいえ、褒められるのはそうない。
手を振り立ち去る彼女を己も小さく手を振り返して見送って。
周囲に誰も居ない事を確認すれば、背に隠していた淡い蒼の双翼を出し、
空へと羽ばたいて飛び去るのだった。
ご案内:「落第街 閉鎖区画 跡地」から真詠 響歌さんが去りました。<補足:軍服をモチーフにした白のステージ衣装>