2022/10/17 のログ
ご案内:「第三教室棟 ロビー」にアリシアさんが現れました。<補足:黒のゴシックドレス/ミニハットカチューシャ/ブーツ(乱入歓迎)>
アリシア >
私は。
どうにも。
この自動販売機という奴が苦手だ。
今もこうして睨んでいる。
こいつはお金を食べるとジュースを吐き出す機械だ。
だがこの前、一万円札を食わせようとしたら拒否された。
こいつにはこいつの事情があるのかもしれない。
だが肩透かしを食うのは私のほうだ。
今日という今日はこいつからジュースを手に入れてみせる。
アリシア >
以前、八百屋で一万円札を出した時に『もっと小さいお金ない?』と言われたな。
カバンに手を突っ込んでミニサイズの一万円札を錬成して渡したら
『ハハ、ナイスジョーク』と苦笑いされたことがある。
(後でそのことを“せんせい”に話したらお金は錬成してはいけないものらしくこっぴどく叱られた)
つまり、こいつも。
小さい額の金しか受け取りたくないのではないか?
“お釣り”は有限だ。
つまり小規模取引を心がけているのだ。
「ハッ! 種は割れたぞ」
五千円札を取り出して自動販売機に食わせようとした。
……拒否された。
「貴様ぁ……! 何が不満だ……ッ!!」
アリシア >
自動販売機に手を当てた。
こいつにはこいつの思うところがあるのだろう。
だが、まずは話を聞かなければならない。
「……何か不満があるのか?」
努めて優しい声をかける。
ここで交渉を焦ってはならない。
こいつは怪異とは違う。話せばわかりあえるはずだ。
「お前にも事情があるのだろう」
自動販売機に柔らかい口調で話す。
「だが……黙っていては伝わらない、分かり合う機会を損失するだけだ」
アリシア >
自動販売機は無言を貫いたままだ。
寡黙な商売人とはまた珍しいタイプの存在だ。
「いいか? 私はな……」
その瞬間。
自動販売機 >
「17時になりました!
学生の皆さん、帰る前に温まっていきませんか?
今なら新発売のハイパー・ココアがお試し価格で登場!
寒くなる前に、ほっと一息……入れよ?」
アリシア >
驚きの余り絶句してしまう。
落としそうになった財布を慌てて手元に引き戻す。
こいつ……女、だったのか!?
硬質な見た目からは想像もつかないポップでキュートな声だ!!
ならば、こっちも対応を変えるべきなのかもしれない!!
ご案内:「第三教室棟 ロビー」にイェリンさんが現れました。<補足:黒のカーディガン/ベージュのハイカット>
アリシア >
「……コホン」
咳払いだ。まずは自分が落ち着こう。
交渉のテーブルにつく者、それは対等なる者だけだ。
「なんだ、その……私はお前のことを誤解していたようだ」
自動販売機の前で左右にゆっくりと歩きながら語りかける。
「一人前のレディー扱いをされなかったことが気に食わなかったんだな?」
「ああ、ああ。それは癇に障っても仕方のないことだ、謝罪しよう」
シニカルに微笑んで肩を竦めて見せる。
「だが……客を無視して新商品の宣伝とはそちらも非礼」
「ここは手打ちとしようじゃないか、なぁ?」
自動販売機は無言を貫いている。
イェリン >
「あれは……」
講義の帰り、ふと立ち寄った自販機にいた先客の姿に少し声が漏れた。
鉄の箱に語り掛ける少女の姿。
講義室で何度か見かけたとある少女によく似ていたけれど、雰囲気は完全に別人のそれ。
「お困りかしら?」
自販機に話しかける女性というのは、存外珍しくないと思う。
国によって違う技術レベルは困惑を招くし、何より異邦からの来訪者が即座に対応するには不親切な事も多い。
何より、かつて自分も同じようにこの箱の前でずいぶんと手をこまねいた事がある。
その時はほかの学生に教えて貰って事なきを得たのだけれど。
それなら、私もあの時の彼女にならおう。困っている人が居るのだから。
自分が人にしてもらった親切は、親切を誰かに繋ぐためにあるのだから。
アリシア >
女性に声をかけられ。
そちらを向く前に自動販売機に一声かける。
「失礼」
と言って声の方へ振り向いた。
黒のカーディガン、夕日を反射する艶やかな黒髪。
目を引く白磁のような肌と蒼を湛えた瞳。
「ああ……この自動販売機が私の金を受け取らないんだ」
「缶詰のジュースが飲みたいだけなのに、どうにも足踏みをしている」
と、さっきから手に持っていた五千円札を見せた。
「事情を聞こうにも彼女は聞く耳を持たない……」
小さく溜息をついて、彼女(自動販売機のほう)を見た。
イェリン >
振り返り、こちらに向いた碧の瞳。
柔らかく揺れる金髪は黒のゴシックドレスとのコントラストもあって引き締まった印象がある。
その手の先には揺れる五千円札。
「彼女……?」
無機物に性別を求める世界からの来訪者だろうかと逡巡していると、
先刻彼女が聞いたであろう音声とは別の宣伝音声が流れて合点がいく。
「ふふっ、話しかけても返事は貰えないのよ。
録音した物を定期的に流しているだけの無人販売だもの」
たまに男の子にもなる。
エナジードリンクを猛烈に勧めてくる、熱血漢のようなバリエーションもあるから。
今年の夏の思い出だ。新入生らしいこの子にとっては来年の思い出になるのかしら。
「あぁ、それね。この子、千円札までしか食べれないのよ」
機械音痴の己も通った道。
語るよりも実践して見せるのが早いかと思い立ち、自分の財布から500円玉を一枚取り出して挿入口に入れる――
「ほらね?」
カタン、と釣銭返却口から先ほど投入した硬貨がそのまま吐き出された。
――なぜ?
アリシア >
衝撃の事実が齎された。
録音した音声を定期的に流しているだけ……?
ノー・インテリジェンスなのか……?
「なん………だと…………?」
戦慄の表情を浮かべているとさらに衝撃の事実が連ねられた。
千円札まで……だと………
「な、何ィ………!?」
自動販売機が500円玉を飲み込んだ!!
そしてそのまま吐き出したー!?
「……やはりこいつは偏食のようだぞ」
腕組みをして自動販売機を睨んだ。
手強い。
イェリン >
「……機嫌が悪かったのかしら」
吐き出された硬貨をそのままもう一度投入口に入れてみる――が、ダメ。
汚れは無い。
お財布の中でも一番綺麗な物を選んで入れたくらいだ。
「故障してるのかしら」
試しに使い時を見失い財布を膨らませていた10円玉を入れてみると、モニターの表示はしっかりと10円分加算された。
そのまま2枚、3枚とドンドン滑り込ませていく。
――120円。すべての飲み物の下のランプが緑に点灯した。
ならばと入れてみた1円玉はやはり500円玉と同様にそのまま吐き出された。
「なるほどね……10円玉しか気に入らないのかしら。
他の子だと500円も使えたのだけど」
吐き出された500円玉を訝し気に見て。
表、裏。何度かひっくり返して試してみるがおかしな所は見つからない。
「そのままボタンを押せば好きなのが買えるわ。折角だし、おごられて頂戴」
大した額ではないけれど、と小さく笑って。
アリシア >
「……知性はないのに機嫌はあるのか…面妖な」
やはりこいつ(自動販売機)にからかわれている気がする。
「10円? あの硬貨か? かなり小さいぞ……」
そんな少額を大量に持っていないと買えないのか。
缶詰のジュースというのは、なかなか難儀なものなのだな。
「……すまない、感謝する」
万感の思いを込めてハイパー・ココアのボタンをプッシュした。
出てきたジュースを手に笑みを浮かべて。
「出た、すごいぞ……熱い」
両手で熱い缶詰を手に、彼女に語りかける。
「私の名前はアリシア・アンダーソンだ。貴女の名前を聞きたい」
「この恩を忘れないためにだ」
そう聞くと、缶詰の上部が無音で斬り飛ばされた。
おっと、ゴミになりそうだから拾おう。
イェリン >
暫くの格闘の甲斐もあって、無事に少女の求める物は手元に転がり落ちてきてくれた。
「いいのよ、私も他の人に教えて貰って使えるようになったんだもの」
「持ちつ持たれつというものよ」
最近知った言葉だ。知ると無性に使いたくなってしまう。
使い方が合っているのかは、実のところ分からないのだけれど。
「私はイェリン。イェリン・オーベリソン。
アンダーソン、というとアリスさんの妹さんかしら?」
アンダーソン、その響きを聞いて引っ掛かりが取れる。
そう、アリス・アンダーソン。
雰囲気や声のトーンこそ違うけれど、彼女の事をよく知っていればいるほど困惑しそうな程に見た目が似通っていた。
それこそ瓜二つ、間違えてしまいそうな程に。
「私も同じのにしようかしら……」
先ほどと同じように10円玉を投入し続けて――12枚。
ハイパー・ココアのボタンを押す。
腰をかがめて手を伸ばした取り出し口には冷たいメロンソーダがあった。
――なぜ?
眼前に沸いた謎に思わず漏れそうになった声を飲み込んで。
疑問を抱えながら口元に手を当てる。もしやと思い、今一度探ってみてもやはりココアは無く。
仕方なしと立ち上がり少女に視線を向けると、その手の中の缶の上部が消えていた。
「――なぜ?」
駄目だった。今度はちゃんと声が漏れた。
賑やかさが引いていく学内で、困惑と共に押し開けたプルタブの小気味良い音がカシュッと響いた。
アリシア >
「持ちつ持たれつ……」
「互助を推奨する語句か、なるほど……ありがたいな」
私も困って自動販売機に話しかけている人がいたら親切にしよう。
そう思った。
「イェリン、イェリン・オーベリソン……」
「アリス? イェリンは姉様(あねさま)のことを知っているのか?」
誇らしげに胸に手を当てて。
「ああ、姉様とは遺伝情報を同じくする姉妹なんだ、私はそのことがとても誇らしい」
ふふん、とそのことを語って陶酔していると。
彼女が押したボタンとは違うジュースを自動販売機は寄越した。
「そいつは相当、へそ曲がりらしい」
そしてイェリンが謎のギミックを作動させて。
ようやく私はこの缶詰の正規の開け方を理解した。
「ああ、いや、違うんだ……」
左手の缶詰上部の構造を理解し、右手の缶詰に再構築した。
改めてココアの缶詰を開封する。ぷし、と気の抜けた音がした。
「これで良し」
左手の缶詰上部は異能を使って消滅させた。
イェリン >
「えぇ、知ってる……と言ってもホントに知ってるだけなのだけど」
「同じ授業で何度か一緒になったくらいだから、
お友達と言える程お話をする機会は無かったのよ」
姉様、そうアリスさんの事を呼ぶアリシアさんは誇らしげで。
あまり表情が豊かではない己の頬が緩む程には愛らしい。
「良く、な……い? いや、良いのかしら。
というよりもさっきどうやって開けたの」
愕然とした。手に持ったメロンソーダを落とさなかった自分を褒めたいくらいに。
『これで良し』
その一言では到底済ませてはいけない事が目の前で起こった。
缶の上部が如何にして切り取られたのか、これはまだ良い。やろうと思えば私もスチール缶くらいなら毟り取れる。
それを引っ付けるでも無く再構築し、余った部分を消滅させて見せたその異能。
目を≠ォ、興味を惹くには十分だった。
アリシア >
「そうなのか……姉様も真面目に授業を受けていたのだな」
「なら私も益々、学業に身を入れねばならない…」
気合を入れ直して、藍色が茜に溶ける空を眺めた。
この空の下のどこかに、姉様もいるんだ。
「うん? 異能を使ったんだ」
ココアを飲んで指先で丸く円を描く。
「まずは缶詰の上部が斬れた、という概念を創り出す」
「その後に斬れた上部を拾って……」
「それから左手の斬れた部分の構造を理解してから」
「右手にある缶詰の上部に錬成して再構築」
「あーっと……それから左手にあるオリジナルの缶詰上部を分解…かな?」
思えば拾う下りは要らなかったかもしれない。
言葉というのは難しいものだ。
「姉様と同じ異能……空論の獣(ジャバウォック)だよ」
イェリン >
「そうね、せっかく学べる場にいるのだもの」
「何に使うのか、なんて思いつかない事も多いけれど無駄にはならないし」
遠い目をするアリシアを見て、遥か遠くの故郷を思う。
学んで、身に着けて、何れは彼らの役に立てる為。
自販機云々では済まされない親切を受けてきたのだから。
「概念を創り出す……」
オウム返し。
己の専門が魔術、それも独自の物だから言わんとする事は分かる。
それを一瞬でこなし、その上で錬成をもこなす事の異常さ。
缶の上で踊る指は、理論づくの魔術よりもよっぽど不可思議な事をして見せた。
「凄いわね……便利だし、なんだってできそう」
「お姉さん、というと家族みんな一緒の異能が使えるのかしら」
アリシア >
「私は一般常識に疎い……」
「そのことを補強しながら、勉強できたら良いと思っている」
まずは自動販売機の使い方を覚えたぞ!
と誇らしげに言って。
「ああ、ワン姉様は私とほぼ同じことができるな」
「スリイ姉様は体は弱く……培養槽の中から出られないが、異能の出力はとても高かった」
「シックス姉様は砂を創り出して自在に使うのがとても上手かった」
それからしばらく沈黙して。
「すまない、言ってはならないことだったようだ」
「どうにか忘れてほしい」
イェリン >
「それなら、これからが楽しみね」
「ここにいるだけで色んな人が居るし、色んな事が起こるもの」
また、一人の常世学園生が自動販売機の使い方をマスターした。
こうして脈々と教え教わり、受け継がれていくこともあるのかもしれない。
「えぇ、分かったわ」
「貴方に自慢の家族がいるって事だけ覚えていれば十分だもの」
他言無用ね、と口元に伸ばした人差し指を当てて。
お口にチャック。子供っぽいジェスチャーだけれども、分かりやすいくらいで丁度いい。
術式、ルーツ、その他もろもろ。
異能や魔術問わず、それらは人によっては只管に隠匿される事が多い。
「私もここに来て二年目だし知らないこともあるけれど、何かあったら頼って貰って大丈夫」
「お金に困ったらアルバイト先にも来てほしいくらい」
人手不足なのよ、と小さく笑って。
アリシア >
「これからか……なるほど、興味深い」
未来のことを想うこと。
それは私のような思考が幼体の者には必要なことだ。
「ああ、ああ……感謝する、イェリン」
「どうにも喋っているうちに見境がなくなってしまう」
自分も口にチャックをするモーションをしてコクコクと二回頷いた。
「助かる、イェリン。ついては……携帯デバイスに通じる連絡先を教えて欲しい」
深刻な表情で。
「……携帯デバイスの使い方は勉強中だ、なんとかしてみせる」
イェリン >
「えぇ」
連絡先を、と言われて取り出したデバイス。
自分の物とずいぶん異なるデザインの物だけれど、何度か繰り返している内に最低限の事は分かるようになってきた所。
見せてもらった画面から連絡先を確認――
「アリシア・アンダーソン……これでどうかしら」
連絡先のリストの一番上、登録された相手にメッセージを送る。
『よろしくね』狼のマークの動くスタンプ。
「届いたかしら?」
アリシア >
「!」
なんと、相手は画面を見ただけで自分の連絡先を確認し、
その上でメッセージを送ってくるという離れ業をして見せた。
なんという技術力……カルチャーパワーの差を感じざるを得ない…!!
「ああ、届いている! ありがとう、イェリン」
こちらもメッセージを送ろうとして。
数秒、躊躇して。
『ありがとう』とウサギが手を振る初期スタンプを送った。
「本当に何から何までありがたい……」
そう言って私は笑顔を見せた。
その日は異邦人街の家に帰って。
ずっと、ずっと。狼のマークのスタンプを見ていた。
イェリン >
自信満々に、内心おっかなびっくりに送ったメッセージが無事届いた事に胸をなでおろして。
「どういたしまして」
これも、先人に倣った言葉。
ただ自分に教えてくれた人は大した事じゃないものと言っていたけれど、そこまでは真似できない。
ありがとう、嬉しそうに言ってくれるだけでお釣りが出るほどに心は温かく。
「それじゃ、またね。アリシアさん」
笑顔に微笑みを返して、小さく手を振る。
異邦人街へと帰る小さな背中を見送って。
少しだけ温くなったメロンソーダは普通に飲むよりもずっと甘く感じた。
ご案内:「第三教室棟 ロビー」からアリシアさんが去りました。<補足:黒のゴシックドレス/ミニハットカチューシャ/ブーツ(乱入歓迎)>
ご案内:「第三教室棟 ロビー」からイェリンさんが去りました。<補足:黒のカーディガン/ベージュのハイカット>