2022/10/23 のログ
ご案内:「配信チャンネル」に北上芹香さんが現れました。<補足:マフラー/ハードなジャケット/白のカットソー/チェックのスカート/ロングブーツ(乱入歓迎)>
北上芹香 >
配信チャンネルを開いた。
タイトルは『SAVE THE WORLD』。
あーあー。こんなTokoTubeに溢れる腐った客引きみてーなタイトルで。
私は。何がしたいのか。
「あー……LOVE&PEACE、#迷走中の北上芹香です」
「知らない人は見てないと思うし、知ってる人は何してんだお前って言いそうですが……」
鼓動が早鐘を打つ。
今からでもおどけたピエロみたいなトークで誤魔化せばいい。
でも………
「皆さん……ちょっと常世島を救ってみませんか」
言ってしまった。
喉が乾く。偽善偽善偽善偽善偽善。
北上芹香 >
「こう………本当…」
前髪を指でいじって。視線が彷徨って。
本当……中途半端で、格好悪い。
「最近、いるじゃないですか。破壊者。第一新聞部が記事書いてから噂になってる」
「一昨日の常世渋谷のテロ騒ぎとか、アレ……」
苦笑いで世界が救えるものか。
前を見ろ、北上芹香。
だいそれたことをするんだ。真っ直ぐ前を見ろ。
「破壊者に対抗するために、みんなで協力しあいませんか」
喉に息が詰まる。
私がこの配信見てたらもう切ってる。
生ぬるい正義感なんてエンタメじゃないからだ。
「教会! 破壊者に壊されたって噂の!」
「復旧作業、続いてるらしいですけど」
「皆さんで力を合わせたら、修繕費とか……って、結局金かーい」
自分ツッコミ。ああ、後でバンドメンバーに怒られる。
北上芹香 >
「でも……買い物終わった後に」
「ああ、財布に小銭があったな、くらいの気持ちで募金した人は」
「間違いなくヒーローです」
ギターを手にしたまま、じっとりとした手汗を拭う。
歌わずに人と向き合うのは、怖いことだ。
私には長所が……歌しかないから。
「偽善、大いに結構」
「みんなでヒーローになっちゃいましょうよ!」
「この街にあるのは、腐敗した一面だけじゃないんだって」
「みんなで街を壊そうとするヤツにNOを突きつけましょうよ」
ぎゅ、と左手で胸の辺りを握る。
「間違えてほしくないのは、戦い方です」
「異能者が一斉にアイツに飛びかかったって風紀委員の邪魔になるんで……」
「私達の戦い方、こう……」
「風紀委員の方に笑顔で接するとか、違反と事故起こさないとか」
「そんなんで良いと思うんですよね……」
鼓動がうるさい。黙れ、黙れ!
北上芹香 >
「常世を守ってるのは風紀委員だけじゃないです」
「私の先輩……生活委員会で直し屋の一人なんですけど」
「今も破壊の痕を正常にしようと戦ってるはずなんです、たった一人で」
目を瞑って考える。
この街が好き。そんなこと、疑う余地もないんだ。
「その先輩の、風紀委員の皆さんの、この島で暮らしてるみんなの未来を守りたいんだ」
「私のちっぽけな魂を賭けて」
ギターを鳴らして。
「もちろん、デカい口叩くだけじゃないですし」
「私には歌うことしかできないなんて甘っちょろいこと言う気もないス」
「私も明日からボランティアやります、破壊者と戦うために、みんなの日常を守ります」
「みんなで明日、変えていきましょー!!」
「みんなで未来、守っていきましょー!!」
「それじゃ歌います───SAVE THE WORLD」
北上芹香 >
アコースティックギターを優しく、メロディアスに奏でる。
旋律だけに甘えていた自分は今日限り。
みんなで横一列に並んで掴んで見せる、平和の道を。
「覚えているかい」
「幼い羽毛に包まれて 殻を破ったあの日を」
「覚えているかい」
「母鳥の愛に守られて 夢を食んだ日々を」
世界平和なんて、ただのフォロワー三桁のワナビが語っていいことなのか?
そんなこと気にしてなんにもしないのが、一番だっせぇ!!
「地に落ちていくのが命か」
「蛇に喰われるだけが定めか」
「それは違う───」
ギターを鳴らして、歌う。
「生きてくんだ! 逆らうんだ!!」
「お前の全てを賭けて!!」
「生きてくんだ! 羽撃たくんだ!!」
「銃爪に指をかけて!!」
今、自分の歌に初めて魂を込めている気がした。
なんだよ、笑うな。私は笑わない。
「一人一人一人一人の手でSAVE THE WORLD!!」
演奏を終えて項垂れた。あーあ、総スカンかな。
北上芹香 >
顔を上げると、画面の隅に視聴者数があった。
それは、今までにない桁になっていた。
北上芹香 > 「は?」
北上芹香 >
みんなでヒーローになろうよ。
そんな気持ちを……
私一人が抱えていたわけじゃなかったんだ。
ご案内:「配信チャンネル」から北上芹香さんが去りました。<補足:マフラー/ハードなジャケット/白のカットソー/チェックのスカート/ロングブーツ(乱入歓迎)>