2022/10/18 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に言吹 未生さんが現れました。<補足:表情筋が死んだような、モノクロームの少女。>
言吹 未生 > 悪意の腸腔の如く迷宮めいた闇路の果て。
どうこうしようにも、どうしようもなく、捨て置かれるより他遣る方のない暗穴道のどん詰まり。
その壁面にひずむ亡霊のように、少女は佇む。
先の迷走から、一度は寮へ戻り――夜が明ければ義務のように講義へ足を運び、放課後には真っ直ぐ寮の自室へ戻る。
そのルーティーンに、奇妙な居心地の悪さを覚えたならば、逃避に移るのはかくも早かった。
「……逃げ癖がついちゃった、かな」
随分と飛んだ逃避行であるが。
困った事に、何から逃げているのかもよく分からない。
――否、“直視出来ない”。
言吹 未生 > まったくどうにかしている精神状態だ。
何より深刻なのは、それを――元来の正常な生活人であれば――癒すはずの日常が、平和が、在り得ぬ無言の抗議を以て、己の裡をざわつかせていると言う事だ。
(お前は何をやっている?)
(どうしてこのぬるま湯に浸かっていられる?)
(“わたしたち”はあんなに苦しんだのに)
(報いを もっと早く 酬いを もっと多く)
ぎちりと唇を噛んだ。
肉感の薄いそれは容易く破れ、細い血の河が流れ出す。
「……わかっているさ」
解っているとも。
その為に、目覚めた異能を磨き、呪いをこの身に懐かせ、文字通り血の滲むような努力の果てに、技官へと就いたのだ。
やる事に、成さねばならぬ事に変わりはない。
たとえ“ここがその権能の何ら及ばざる異域であったとて”――。
ご案内:「落第街 路地裏」にノーフェイスさんが現れました。<補足:ラウンドサングラス/ネイビーチェスターコート/オフホワイトニットハイネック/クラップドグレースラックス/スエードシューズ>
ノーフェイス >
「だいじょうぶだって~。
このあたりだったら、めったに人もいないし……」
喜劇が起ころうと、悲劇が起ころうと。
素知らぬ顔で暮らす他人は居る。
曲がり角の向こう――こちらからしたら、そちらが向こう側――から、
連れ合う誰かと軽口を叩きながら姿を表した女は、というと。
「あ」
月明かりも届かぬような闇の奥に認めた、
片側だけの瞳のありように、なんとも間抜けに眼を丸くして。
「――あッ、ちょっと!」
次いで、逃げ去る足音。
曲がり角から覗いたのか否か、唇から赤い筋を零す、
ともすれば"出た"と取れかねぬ姿を見たかで、立ち去っていく連れ合いに女は置いていかれた形になる。
「……なんだよ」
ぱん、とコートの表面に軽く掌を叩きつけて、嘆息した。
色んな"なんだよ"が脳内にひしめくなかで、
少しだけどちらに行くか迷ったあと、珍しく怪訝な顔を浮かべながら、
白黒の亡霊のほうに、ゆっくり歩を進めだす。
「なにやってんの」
言吹 未生 > 好事魔多し。
その魔か、はたまた其に啖われた死霊か。
そんなものを幻視出来たかも知れない少女の有様。
「――やあ、君」
問い掛けには応えず。
それを何ら意に介する事もなく、朱い舌が血河をちろりと干す。
何処となく“まだ足りぬ”と飢え猛る獣のように。
もたれていた壁から背を浮かすのは、理不尽にもべろりと剥がれる影のように。
何よりその白面は。
「会えて嬉しいよ――」
己が裁くべき“社会的秩序を掻き乱すことがだいすきな犯罪者”を前に、恋焦がれるように嗤っていた。
眼帯越しの左眼が、ごろまく雷雲の如く闇中に輝く――。
ノーフェイス >
怪訝に見据えたまま、首を傾ぐ。
深い夜の色の衣の上を、血の色がぬめるように流れた。
思わずみずからの口元に手を運んだが、寂しい口元を慰めるには、
先日"心配"してもらったばかりだ。ため息をひとつ、腕を垂らした。
「うーん」
"代わり"にはなりえないその風体に。
少しばかり不満げに唸りはしつつも。
「…………それはどうも」
微笑んだ。口元だけ。
少しだけ、その物言いは――そっけなかった。
抱きしめるような"犯罪者"の名乗りは見せなかった。
「今日はにゃんにゃん鳴いてるんだな。
犬のおまわりさんはどこ?」
周囲に視線を巡らせた。
どこか、縋られたかのような熱い視線に対して。
口にしたのは意地の悪い待て(ステイ)の意思表示。
言吹 未生 > 「ははっ、人を盛りのついた猫みたいに言わないでくれ」
柳に風と受け流す相手に、陽気に笑ってさえみせる。
否、笑っているのは口元だけだ。
熱にイカれた一方と、涼しげに嘯く一方。その僅かな共通点。
「番犬なら巣に帰ってるよ」多分ね、と付け加えた。
「犬だけあって鼻が利く奴でね。この間も吠えつかれて難渋したものさ。ああ、それとも――」
くてりと首を傾げて見せるも、一つ眼は揺るがず彼女を捉えている。
「彼の方こそを御指名かな? 僕ではお眼鏡に適わない?」
一歩、雲を踏むにも似た足取りで距離を詰める。
それはあたかも、市を彷徨く狂犬のように。
ノーフェイス >
「ン――」
問われると、難しげに視線をさまよわせた。
「"風紀委員会"に、いまのところあんまり期待は持ててない」
その事実こそが不本意ではある。
しかし、向き合う彼女に対して、警察組織の現状を憂うのは意味がない。
眼を伏せて、白い指で髪の毛を背に流す。
「その点で言えば、キミはすごくいい感じだったな。
鋭い牙をぎらぎらさせて、そいつが食い込むことを想像すると――
とても、ワクワクした。 だから、キミはイイ。
ところで、ヤりはじめるまえに言っとくけど」
その指を、顔に。頬に伸ばそうとする。
殺気はない。敵意もない。なかった。
「なにかに怯えて逃げてるような負け犬相手だとさ、
……心がおっ勃たないんだよね。
いまのキミは……そこんとこ、ダイジョーブ?」
片眉を吊り上げて、皮肉の笑みを作った。
いま、おまえが"自分に伍するだけの秩序たり得ているのか"と。
痩せ犬にじゃれつかれたかのよう、どこか煙たがる有り様で、その在り方を問うた。
"本調子ではない"ような、そんな違和感を。翳りを見ていた。
「まさかボクに逃避しようってワケじゃない、んだよな?」
言吹 未生 > 「んっ――」
異音同句。
頬に微かに触れる指先。その感覚に、くすぐったさを覚えてぬるい息を漏らす。
先日、女を昂らせたのとは真逆。明らかな異状。
しかし――蕩尽し切ったような五感の淵が、それらの言葉を捉えた。
“怯えて逃げてるような負け犬” “逃避”
それらは乳海のよすが。
かぎろう己の有様を引き戻す、荒縄の緒。
己にたった一つ残った矜持。それへの侮辱――。
「――ッ」
眼帯奥の狂輝が失せると同時、霞み掛かった一つ眼が、鋭い灰銀の照りを甦らせる。
「っ、わ、な、なん――」
彼我の距離。
近過ぎるそれと、今の状態を認知するや、泡を食って飛び退り。
「……誰が、逃げるって?」
飛び退いておきながら、そんな埒もない返句。
一つ眼に、翳は――今は――ない。
ノーフェイス >
「アレ。 いざって時に腰ひけちゃうタイプ~?」
追うことはしない。
それを茶化すように、炎の色の眼を丸くした。
「……そ。 それでいいんだよ。
かっこつけてくれてなきゃ、ボクとしても物足りない」
両手をポケットに突っ込んで、今度はこちらが壁に背を預けた。
「それがたとえどれだけ孤独でも、過酷でも。
みずから選んで決めた路なら、楽しく笑って生きるコトだ。
そーじゃなきゃ、ボクと対等のステージには立てないよ」
いずれにせよ、ここでやり合うつもりはなかった。
なにせ――
「ギャラリーもいない場所で二人っきりって状況だと、
むしろさっきの距離のがボク的にはしっくり来るんだケド……。
こっち来ない?」
くい、と指を動かして、自分の唇にふれてみせた。流し目でそちらを見据えた。
言吹 未生 > 「…茶化してくれるなよ」
ふいとそっぽを向いて視線を切る。
曖昧だが、先刻の痴態の記憶はある。
悪癖だ。
久しく罪人を罰していないと、度々ああして箍が外れそうになる――。
あるいはそれは、不毛極まりない己が人生に備わった奇種の防衛反応かも知れぬ。
「…君と仲良く並んでカンカンを踊るつもりはないけどね」
たとえどれだけ孤独でも。過酷でも。
歩みを止める事は出来ない。生き残った自身の価値を見失ってしまいそうで。
「ぅっ、」
蠱惑のジェスチャーと視線に、しゃくり上げるように言葉を詰まらせた。
今少し光源が多ければ、白皙に仄かに散った赤みも認められたかも知れないが。
取り戻した――取り戻してくれた――矜持に胸を張り、片手を挙げる。
「――それは、お預けだね」
意趣返しとばかりに不遜に笑う。
袖口の安全鞭から、通電機能を切ったワイヤーがひょうと上方の雑居ビルの手摺へと飛んだ。
手応えと同時、巻取機構によって痩躯は上階へと引き上げられる。
「僕に勝てたならその時は、唇でも何でも奪うがいいさ」
そんな捨て台詞。
格好つけるにも程があるが――張り合いを持つ生き様と言うのも、存外に悪くない気がした。
ノーフェイス >
「隙を見せるのが悪い――でも、ちょっと安心もしてる。
キミが正体をとりもどさず、無様におねだりしてくる感じだったら……
"消えろよ(Fxxk off)!"っておウチに返してたとこだ」
負け犬の居場所は、この落第街にこそ無いのだと。
女はそう、かねがね標榜している。
ましてみずからここに来るのなら、ここほど生きづらい場所はないことも判った上で、であるべきだ。
――あえて、その苦境に立ち、伊達を張ろうとするならば、
"敵"という支えになることがひとつの返礼でもある。
「リスペクトを棄てずに済んだ。
――悪夢は、誰だって見るもの、らしいからね?」
弱さを否定はしない。誰にでもあるものと理解している。
だからこそ、この女は――自分の弱さに溺れる者こそを唾棄し、見放すのだ。
知性と矜持で武装した狂える獣は、餌は渡さず、その在り方の一例を示した。
魘されていたことの盗み聞きも、ここで胸襟を開いておく。
闇の向こうの有り様は、視えていたか。
明言はしないまま、小さな笑い声が立つ。
「……アレ、言ったな? それってば軽口じゃ済まないぜ。
今夜のボクは、そーゆーお楽しみを奪われてるんだからな…?」
追いかけはしない。その気がないなら迫らない。
見上げたままに、口の横に片手を立てて。
「未生」
静かに。
ほんの静かな声でも、夜闇を貫いて過たず届く声で。
「"郷土資料"を扱ってるところにいってごらん。
……いつかの小さなボクがつくった、出来の悪い暗号のヒントがあるぜ」
煙草を銜えて、プラズマライターで火を灯す。
くちうるさい秩序の者に唾する行為。お別れの挨拶がわりだ。
言吹 未生 > 「……ああ、感謝するよ。僕の『敵』でいてくれて」
狂態を――甘えを受け入れてしまう存在であったなら、それはもはや敵ではない。
破滅を呼ぶ、忌むべき魔縁だ。
「…悪夢は無防備な時にしかやって来ないからね、厄介だ」
過ぎた盗み聞きに関しては、咎め立てしない。
それこそ“隙を見せたのが悪い”。
――彼女も悪夢を見るのだろうか?
それを真っ向問う日が来るかは、知れないけれど。
「…八つ当たりは感心しないね」
人を捌け口にしようとした狂種が何を言うのか。
軽口で済まぬなんて言葉にうそ寒さを感じながら。
「――――」
翻す背で聞いたのは、今まさに挑んでいる最中のリドルの解を示す謂。
よもや仕掛け人自身から聞けるとは思わなかったが。
「――感謝する」
二度目の謝意を言葉寡なに残して、小兵の影は夜闇へと融けて行った――。
ノーフェイス >
「Sweet dreams, Kitty?(おやすみ)」
礼には及ばぬと手を振るとともに、遠ざかる気配に背をむけた。
「さってと……さすがにもう待ってないよなー」
今宵のことは、のがした魚の形になるか。
思いがけず出会った獣の牙が、その身を刺し貫くスリルを想起すれば。
彼女が賭けに差し出したものを思えば、愉快そうにフィルタを噛む。
「つぎ会うときは、夢に出てくるような獅子になれているかな……?」
早まる歩調。ここまで昂ぶらせて肩透かしは御免被る。
"敵"としての役割を演じぬいた報酬で、いっぱいに満たされる予感を胸に、
悠然なる歩でその地を踏み踏み、這い寄るかのような静けさで、混沌の街に紛れていく。
ご案内:「落第街 路地裏」から言吹 未生さんが去りました。<補足:表情筋が死んだような、モノクロームの少女。>
ご案内:「落第街 路地裏」からノーフェイスさんが去りました。<補足:ラウンドサングラス/ネイビーチェスターコート/オフホワイトニットハイネック/クラップドグレースラックス/スエードシューズ>