2022/10/26 のログ
ご案内:「歓楽街 中心部」にノーフェイスさんが現れました。<補足:アップヘア ラウンドグラス 黒フェザーをあしらった白コート レザーパンツ ハイヒールブーツ>
ノーフェイス >
夜など忘れたかのように街が華やぐ。
島が島だ。どこを見ても"若者"と括れる者の割合が非常に多い。
若年のみずみずしい欲望と、その欲望を受け止める溶けた糖蜜のような熱が混ざり合う場所。
人でごった返す中心部に、女はいた。
鼻歌でもうたいそうなほどの軽やかな足取りで、時折すれ違う顔見知りに気安く手を振り声をかける。
だれもかれもが"いいきもち"の街だ。
そんな街の色は、ハロウィン色に染まりつつあった。
当日はまだ先なのに、すでに仮装している者たちもいるし、多くの店の軒先はジャック・オ・ランタンを飾る。
時折耳に聴こえる祭りの予感、各所で起こるテロリズムなど忘れたかのよう。
もう本番を目前に、しかしこうして空いた時間に練り歩いているのは――
ちょっとした探しものだ。
「ん」
不意に奇妙なものとすれ違った。
ふわふわと浮かぶジャック・オ・ランタン。
傍らを通り過ぎた小さな妖精は、浮かれたように上下にスイングしている。
「……スシーラ(あいつ)の仕込みかな。 面白いことを」
一体何を起こしてくれるのやら。
振り仰ぐ。夜空は、生憎曇っていた。星は見えない――それを残念がる顔は見せないが。
ご案内:「歓楽街 中心部」にオダ・エルネストさんが現れました。<補足:黒髪緑色の瞳/日本人離れした容姿/学生服の中も透けて見えるクソダサTシャツの青年>
オダ・エルネスト >
雑踏の中にその男も居た。
これからの祭りに向けてか街はどこか騒がしくて、混じり合うはハロウィンの他にも赤と緑が特徴な冬のイベントカラー。
いい気持ちにつられて、
気持ちのいい男が登場。
「まだ間に合います!
バニーガール、サキュバス、魔法少女の衣装販売!
見てください、前日注文でも職人の手によって見事なフィット感!」
ピンクと白が基調となった魔法少女のコスプレをしたマッシブなボディの青年が可愛らしいポーズをしたかと思えば、
可愛らしくその身を曲げて見せて、見る者によっては吐き気を催す艶ある身のこなし。
青年こそオダ・エルネスト。
今夜は「誰でも着れる!」を謳い文句にしているコスプレ衣装専門店の宣伝のバイトである。
「どうです?この胸筋にも対応した修正技術、簡単にゴムでやってるんじゃありません。
完全縫直しです。
外の製品とは全く品質が違います」
などと肩出し、絶対領域の白ニーソの冒涜的な格好でバイトをしていた。
ふと視界に入った空を仰ぐ女性に声をかけるかと思った。
己の素晴らしい似合い具合に心奪われた存在だな、と謎の勝利を確認した顔をして。
「こんばんは。どうですか一着」
胸の大きなリボンに手を当てて演者のように語る。
ノーフェイス >
声をかけられた。そちらを向く。
名状しがたい存在がそこにいて、思わず目を瞠った。
否、別に眼の前にいたのが名状しがたい出で立ちだったから、というわけではない。
「パン屋さんだ。 Eh-oh~♪」
相好を崩した。手を軽く掲げて、開閉してみせる。
見てみると顔なじみの男だ。
美味しいがコスパが良いかというと悩ましい、そんなパン屋に幾度か足を運んだことがある。
客の一人を覚えてる?とサングラスを下にずらしてみせて、こちらも顔を晒した。
「ずいぶん刺激的な格好してるね。なにか危険なモノと契約しちゃった?
生憎とボクを攫ってくれそうな怪人は、今宵はここにはあらわれなさそうだけれど」
彼が動くたびにひらりと揺らめくスカートの端をちょん、と摘んで。
少しずつ少しずつたくし上げていく――そのたびに放送コードへ肉薄していく大腿筋の輪郭。
「ああ、仮装洋品店なんだ。イイね。なにか買って――
……んー、ソックスをあえてここで切ってるのが――ンン。セクシーだよね。
でもボクとしては満点はあげられないかな」
手を離すと一歩を翻り、背を向けて一歩、二歩。
半身を向けて、気取った仕草で指さした。
「アレが足りないじゃん。こういうの片手落ちっていうんだろ?
さすがにその有様じゃあ、ボクの心はなびかないぜ。
残念だったなぁ――ガーターベルトさえあれば、ね」
嘆かわしげに、首を横に振って溜め息を吐く。
オダ・エルネスト >
「サングラスが似合い過ぎていて分からなかったが、その瞳には見覚えがあるよ」
相手の種族やなんやを見極めるには深淵と言う名の瞳を覗き込むのが手っ取り早い。
この瞳孔には、見覚えがある。
「ここで会ったのも何かの縁、次に来店してもらった際には少しおまけするよ」
魔法少女のスカートの裾を揺らして腰を軽く捻る。
スカートをたくし上げられていくにつれて
外側内筋、内側内筋、大腿直筋、大腿四頭筋の膨らみを会話するように動かして魅せつける。
「……なんだと、私が満点ではないだと」
ショックのあまり、白目でも剥いてそうな顔で空いた口を手を隠す。
「なんということだ……ガーターベルト……!
盲点だった……ッ!!」
注釈しておくと幼児向け作品を元にしているのでセクシーは求められるものではないはずだ。
だが、大人向け衣装ってことでそういうセクシーさが必要だったのではと着る前に店に伝える事は
絶世の美男子として必要だったと悔いた、
ノーフェイス >
「かわった口説き文句だね」
そう珍しい色でもない気がするけれど、と瞬き。
それでも美男子にそう言われれば嬉しそうに口元を緩めてみせるのだ。
「カラダは満点かな。スマートなシェイプを理想とするかは人それぞれではあるけれど。
スプリンターマッスルに食い込むベルトは――こう。
ミドルからローティーンの少女の太腿とはまた違った倒錯的なフェティシズムがあるだろ?」
大真面目に男性の女性装における色気について喧々諤々の様子に、
何やってんだと通りがかる者たちは奇異の目を向けてくるものの、さして気にした様子はない。
「キミのカレもきっと大喜びだ」
くくく、と愉快そうに笑って、改めて歩み寄る。
その顔立ちに張り合うように顎に指をかける。
「……そーんなキミを、よーく捜したよ、パン屋さん」
ずいと顔を寄せ、唇を獰猛に笑ませた。気勢で薄弱な心を呑むようにして。
そんな程度で流される相手とは、最初から思っていない顔。
「最近、ずいぶん面白いことしてたそうじゃない」
オダ・エルネスト >
「そうかな?
よくある口説き文句さ」
諜報活動の基本は相手の顔を覚えること、その中でも生身の人間では代え難い瞳と耳の形を覚えるのは
この男にとっては日常である。
自身の評価は満点、これは当然であるが。
やはり服装でも満点が獲得出来なかったのは自身の視点の切り替えの悪さを悔いる。
しかして、自分が気づけなかった部分を気づいたこの女性に興味を持った。
パン屋の常連客以上の対象になったという訳だ。
「誰も彼もが大喜びになるのは当然だな、
しかし、君の満点が得られなかったのは残念ではあるよ」
残念と言いながら、嬉しそうに笑う。
「……ほう」
よく見れば綺麗な女性だ。
努力の賜物か親から受け継いだ容姿か、どちらにせよ美麗と称してもいいだろうと思った。
「美女に求められるのは光栄だ。
知ってるかもしれないが、オダ。
オダ・エルネストだ。気軽に呼んでくれて構わない」
少し膝を折り視線を合わせて右手を胸に当て、爽やかな笑みで名乗る。
その笑みを崩さぬまま。
「面白いこと……?
大したことじゃない。 風紀のご飯を馳走になっただけだ」
その程度の認識である。
この男としては。自分が周りからどう言われているかはそこまで気にしていないようではある。
ノーフェイス >
「ううん、しらない」
だから、パン屋さん、だった。
ここしばらく、常世学園の各所で目撃された奇人を探すのに、名前は不要だった。
此度、彼がやっているのは間違いなく仮装であり、
見る者によれば目に毒かもしれないが、奇行ではない。
人の目を、よく忍んでいるものだ。などと思った。
「オダ……。 オダエルネスト。
……どっちが名前(ファースト)?」
彼が戴く黒髪のせいもあって、響きに反して曖昧な据わりの悪さを覚えた。
「ああ、名前で呼びたいって意味だけど」
手を離し、両手をポケットに戻す。
片眉を吊り上げた。大仰に戯けるような笑い顔。
「本庁にお呼ばれしてランチなんて、めちゃくちゃおもしろいことだと思うケド。
たとえばほら、コレ」
ひょいと足を進めて、彼の前から隣に。
コートから取り出した携帯端末を取り出すと、そこには、
神父の装いをした男を下方から舐める、画質の悪い画像ファイルが添付されてる。
「これもキミだろ? だいぶキマってるやつ。
画になる男だ……って、あらためてパン屋さん以外のキミに会ってみたくってね。
きょーみ本位だ。お仕事のお邪魔かな? あとで客引きのお手伝いくらいならしようか」
横から彼に視線を送る。手錠をかけにきたわけではない。
ごく個人的な興味でプライベートを求めに来たと放言し、
「……ああ、そういえば。
パンを買いに来たお客さんなボクは、ノーフェイス。
って、名乗ってる。すきによんで」
オダ・エルネスト >
「オダがファーストネームだ。
由来は日本に昔いた第六天魔王のように強い男子たれという事だそうだ。
しかし、こっちではよくオダをファミリーネームと思う人が多いらしいな」
日本では家名として歴史でも有名なので、そう思われるようだとこれまでも同級生と話した際に理解していた。
「私は人から好かれるからな、職権乱用をしてでもご一緒したいと思う子もいたりするのさ」
前髪を軽くかき上げながら、私の罪なのだとか言いたげに笑いつつ携帯端末の画像をみる。
「私だな、画質は悪いが隠しきれないものがあるのだとはっきりと分かる。
なに、問題ない興味津々だった少年たちが興奮して
バニーガール衣装を買ってくれたので幸いにもノルマは達している」
無垢な少年たちは大きな一歩を歩んだ。
騙されたのではない。
性の目覚めがここにもあったと言うだけ。
どのような格好だとしても誇りがあれば恥ずかしくはないと説いた。
「ノーフェイス、少し無骨に思える呼び名だ。
ならば、ノーフェと私は呼ばせていただくとしよう。」
一人頷き納得したところで、
「私は秘密多き男だが、美女に求められては弱いところもある。
さて、先ずは改めて会ってみてどうかな?」
白とピンクの魔法少女衣装に身を包んでいなければイケメンとも言える所作ではある。
動きが隙だらけに見えて、油断がない。どの動きも即反応出来るように四肢の何処かが構えられている。
チャラけているようで常在戦場の身構え。
ノーフェイス >
「エルネストが家名(ファミリー)よりもファーストっぽく聞こえるから、かな」
日本に居ればオダが引っかかり、そうでなければエルネストが引っかかる。
本人にその気はなさそうだが、入り口からリドルを仕掛けられた気分。
何度か口のなかでとなえてみると、満足気にうなずいた。
「網もいいよね……ダイレクトに脚のラインが強調されるものだから。
長くないとキマんないんだけど、きっと今頃励んでるんだろうなぁ」
彼女に着せるのか、或いは――なんて妄想を育ててみる。
フフフ、と愉快そうに笑って。
「通称の愛称で呼ばれるのってなんか新鮮だな。
……そーだな」
難色は示さないものの、眉を跳ね上げて目を瞠る。
そこから、大仰に顎に手を当てて思案顔の後、手を打った。
まぶたを落として、にんまりと笑う。
「じゃあ、ボクはオジーって呼ぶことにするね」
少し迷ったが、そう呼びたい。
稀代の変人が名乗っていた名前だ。
「ん? んー……」
しかし、また考えさせられることになった。
腕を組み組み、顎に手を。探偵役は柄ではないが、至極真面目な横顔を晒して。
「自負の化身、というところかな。
何から何まで無根拠じゃないけど、だからこそキミという存在から……
なんだかよくわからない、なんていうんだろうな?
勢い……、……推進力? ……みたいなのを感じる」
やがてしっくりくる言葉を見つけると、人差し指を立てた。
インスピレーションがそうささやいているのだと。
真っ赤な髪を揺らして、振り向いた。
「キミは完璧な己という存在以外に、恐怖を感じることはあるか?」
オダ・エルネスト >
「オジー……世界の頂点になれる可能性がありそうだ」
聞いたことのない響きだが、悪くはない
魔王だけではなく帝王にもなれそうなパワーを感じなくはない。
良い呼び名だ。
彼女が受けた印象は、出会って間もないだろうがいい線のように思えた。
自身の認識とそこまで乖離はない。
自分という存在が今この時にこの場に居ることが自身こそがベストであるという自負であり根拠だ。
「実に興味深い感想だ」
しかし続いた質問には、単純に感じて思わず何かを試されてるのだろうかと感じ笑い声が漏れる。
「ははッ
なるほど、恐怖か。
質問の前提について少し訂正する必要がある。
私自身に恐怖を感じることはないよ。
自分自身というものほど信頼しているものはない。
恐怖とは『外』にしか存在しないモノだよ」
恐怖とは、『理不尽』であるものだ。
恐怖とは、自分の中からは生まれない。
この男はそう考えている。
―――冗談で自分の才能が怖いとは言うがね、とウィンクして答える。
ノーフェイス >
「キミが恐れるなら、キミ自身くらいかなと思ったんだけど――あてが外れたね」
見る目があるかといわれれば、そうでもないところはある。
誤魔化すように目を閉じてうなりながらも、言葉を反復すると、成る程。
「ふしぎなヤツだ。
ボクは、ニンゲンが感じる恐怖というものを『内』にあるものだと思っている。
目て視て、耳で聴いて、鼻で嗅ぎ、舌で味わい、膚でふれて……心で感じて。
感性でも理論でも弾き出した結論だとね。
ごく、感情的というか、感覚的というか、そういうものだと思ってるんだ。
……だって、理解できて、解釈できれば、言うほど"恐く"ないから」
その時奔る震えはきっと、"恐怖"とは違う概念であろうと、女は言う。
強い興味が、炎の双眸に瞬いた。
「キミってヤツは、厳密に恐怖を定義付けしてるようにきこえたよ。
オジー……キミは、そいつが目の前に現れた時に、
"あ、恐怖だ!"……って理解するワケだろ?」
どんなものかはわからないが。
今度はこちらが覗こうとする。
溢れんばかりに満ち溢れる自信、生命力。
現代を生きるニンゲンのカタチの一例に。
「そのとき、キミは"恐れて"いるのか?
どんな感情で、その逞しい胸の奥を満たすんだい?」
オダ・エルネスト >
「ははは」
軽く笑いながら、近くを翔ぶ小さな妖精に目を向けて左指で宙に円を描く。
「私が自分を恐れるとしたら、完全に同じ私がもう一つ存在する時だよ。
そんな仮定は無意味だから己を恐怖することはないという話さ」
左手に反応してご機嫌な妖精が軽い挨拶程度に戯れる。
「ノーフェの言う事はよく分かる話だ。
人の感情の起源は、内に由来するだろう」
挨拶を済ませた妖精と左指は互いに頭を下げて別れる。
「私の感じる恐怖は、
恐怖とは『理不尽』で抗うことを許さないが、
抗わなければ失われる。
そういう『理不尽』が怖い」
気がつけば『理不尽』は常に人を飲み込むとぼやく。
「だが、『恐怖』は超越しなければならない。
抗えないモノに抗い掴み取る―――
立ち向かい『挑戦』しなければならないモノ」
目を閉じて、一息吐き捨てる。
それは昔のことを思い出してか。
「『恐怖/理不尽』には『怒り』を」
いつもと変わらぬ不敵な笑みを浮かべながら変わらないトーンで口にする。
ノーフェイス >
「あながち有り得ない話でもないと思うけどね?」
冗談めかして笑い、もしも、の話をする。
あの大変容から数十年、異世界という概念がもはや常識として伝わるいまの時代、
よく見たそっくりさんでとどまらない存在が眼の前に現れることもあるだろう。
「理不尽」
言われると、インスピレーションが刺激される。
細めた瞳が幻視しているものは、彼とはきっと違うもののはずだ。
だが、同じような『理不尽』の概念を視ている。
「超克にこそ精神の飛躍は在る。
とはいえ、キミは……自己研鑽の為にそれを行うわけではないようだケド、」
妖精にも礼を払う紳士の言葉に耳を傾けていたが、
ジンテーゼを行おうとした唇が、不意に彼の言葉にぴくり、と止まった。
どこか驚きの、つくった風のない顔で、彼を見据えて……
みずからの顔を手で覆った。ショーウィンドウの硝子に背を預けた。
「フフフ」
掌の上から笑いが溢れる。
「フフフフ、……ふふ、ふ」
愉しそうに肩を震わせて、しばらく感情のふくらみを吐き出している。
ひとくさりそうして、彼の言葉を飲み込み、解釈するだけの時間を啜った後。
手を離す。唇は笑っていた。
「……キミはそこに『怒り』を覚えるのか」
炎の瞳は、睨みつけるような鋭さに激情に宿して、視線で貫こうとさえするほどにみつめていた。
彼の言葉に気分を損ねたわけでも、隔意を覚えたわけでもなかった。
むしろ賞賛の意思があるが、それが彼に伝わるかはわからない。
ただ胸中をぶちやぶりそうな感情のままに、麗貌に歪な笑みを浮かべた。
怒りでも憎しみでもない。
あるとすれば――。
改めて彼のほうに正対した。
大胆不敵に構えながら、どこか張り詰めた緊張感を、化粧のように身にまとって。
「なぁ、オジー」
オダ・エルネスト >
「在ったとしたら、最悪その時考えるさ。
タラレバ恐怖するのは、手詰まりの時だ」
つられるように不敵な笑みを浮かべた。
ノーフェイスの理解に一つ頷いてから言葉にもする。
「それはそうだ。
好き好んでやるやつは居ない」
いつだって突然で、望んでないのにやってくる。
それが『理不尽』だ。
それに対して『怒り』を抱くのは当然のことだ。
少なくともこの男にとっては。
自分の回答が間違ってるとも正しいとも思わない。
強いて言えば、他人から――ノーフェイスを名乗る彼女にとって。
「……お気に召して貰えたようだな」
遊んでいた左手を腰に当てて、どうよと言うかのように正対するように立ち直す。
魔法少女の衣装が可憐に揺れる。
「なんだい、ノーフェ」
ノーフェイス >
みずからの顎に指先を触れる。
わずかにスタンスを開ければ、見上げる必要はなかった。
異様な風体に溢れんばかりの自信、あるいは矜持か。
「いろいろとすっとばして要件から言うと――」
魔法少女の装いの男と、歓楽街中枢の道端で向かい合ってすることではないかもしれないが。
しかしてそれを恥じて眼の前のものを無視するなんてあまりに勿体のないことだ。
「ボクらの『挑戦』に一枚噛まないか。
ちょいとした部活をやってるんだ……いまはまだふたりしかいないんだケド。
比喩的に言えば花の咲かなさそうなところに花を咲かすようなことをしているし、
具体的に言えば全力で悪ふざけとか楽しいことすることを追い求めてる」
顎にふれる指にわずかに力が籠もった。
周囲が何だこいつらという目を向けていようと気にしない。
なんなら、もっと凄いことをしようというのだ。
なにひとつ痛痒もない女だった。
自分が彼と同じ格好をしようがバニーガールになろうが何一つ恥じなかっただろう。
「かつて、いつか」
女からみても、いつか、自らが識らない時の記憶。
「この地球を横断して灼いたという、"黄金の夏"を感じたい」
だけれど、なぜか識っているような感覚をたどるように。
時折現れる、あまりに熱い時間。
「キミというニンゲンが欲するところを識らないから、
メリットとか交渉は、キミに引っ張ってもらうことになるが……、
なんだろう、キミがいてくれるなら、ボクの気が緩まずに済みそうなんだ」
その瞳に宿るのは、青年に対する純粋な――対抗意識だ。
敗けたくないとか、ならば自分は、とか。
獰猛な愉しみだった。試練に挑む者としての、激しい刺激を受けた時の反射的なものだ。
「ちなみにボクは犯罪者だが……どうかな、一緒にやらない?」
欲しいのは、部下じゃない。仲間、とも少し違う。
自分や彼女と同じ、夜に吼えるものが欲しい。
オダ・エルネスト >
面を食らったのは、今度はこちらの番だったというか。
思わず、視線も意識も外して本気で少し笑った。
「くくく、いい……いいじゃないか」
やりたい事が犯罪。
やりたい事のため、咆える。
大いに結構。
「結論から言えば、『犯罪』には手は貸さない」
白い歯が街の光に輝く。
「だが、『挑戦』には手を貸す。
君自身の背景は君の問題だ。
どう成るかはノーフェ自身が決着をつければいい」
自身の顔の前で親指と人差し指を立ててL字を作る。
「詳しく何をするかは知らないが、
すべてを手伝えると言うほど私は無責任じゃない」
その手を前に出して掌を上にして開く。
「面白そうだから、
それでいいなら私は消閑の挑戦者となってもいい」
自分勝手な協力者でいいならばよい。
今この男が求めるものの一つは最高の娯楽である。
ノーフェイス >
「ボクが欲しいのは忠実な手足でも、都合のいい手駒でもない。
キミとボク、そしてアイツは対等で、ノーを言う権利はある。
心に浮かぶ"イイね!"で動いてくれるようなヤツが、イイんだよ」
彼のスタンスを引き受ける。
むずむずする。話していて燃え上がる、期待と悔しさ。
こいつはとってもたのしいヤツだ――それが自分を飛躍させる超克の対象となるやもしれない。
油断ならない女と、負けたくない男がそばにいる。
刺激だ。目を覚ますにはもってこいの。
「そのうえでそんなカオするんだ、色々たのしいコト考えられるヤツなんだろ、キミは?」
みずからのこめかみに、人差し指を押し付けて。
脳に奔る快感の稲妻に身を浸すこと、それが日常を彩る刺激なのだ。
「まず、殺しはやらない。それはボクが始める時に敷いた数少ないルール。
そのうえで、あくまで"ボクは"、反体制のロックなヤツとして。
体制に喧嘩を売って、彼らと遊びたい――から、好き勝手やるし」
手を振り上げた。
差し出された手に、自分の平手を振り下ろし、乾いた音を立てる。
「近く、祭りを開くから、ノりたいようにノってくれ。
その夜を盛り上げることが、ボクの――最初の『挑戦』だ。
馬鹿騒ぎするだけなら犯罪じゃないしな?
――同様に、キミの挑戦にボクが必要な時は、もちろん声をかけてくれ。
"面白そうだったら"、喜んで協力させてもらうから」
その手をきつく握りしめ、握手する。
右手の指先だ。左手よりは柔らかく、そして女としては大きめの掌、長い指。
「よろしく、オジー。
キミは今日から、『夜に吼えるもの』だ」
その部活の名が、複数形になることはない。
確かに複数人が在るからこそ、そうであることに意味がある。
オダ・エルネスト >
燃え盛る情熱、魂の叫び。
彼女は正しく『挑戦者』だと認められる。
握られたに応えるように僅かにチカラを込める。
「――ああ、なるほど。
ノーフェイス、KnownFace、HOWLER IN THE NIGHT《夜に吼えるもの》か」
なんか前に言ったような気がするが、悪くない。
美女の手を握るのは約得、とか思いつつ。
「私の『挑戦』は何時だって刺激的だ。
君の『挑戦』を楽しくしてやろう」
不遜に傲慢にこれから大きな『挑戦』をする挑戦者に、
やってみせろと煽る。
「こちらこそよろしく頼むぜノーフェ」
ノーフェイスの瞳を覗き込んで、一言。
「I don't want to live vaguely.
I want to live.」
――漠然と生きたくはない、好きな人生を生きたい。
「私の好きな昔の映画の名ゼリフってやつだ」
ノーフェイス >
「手にとってくれてたかい?
お客様としての立場がお望みだったなら、お生憎だが――
キミならどっちでも全力で楽しんでくれただろうな」
大胆不敵に。
巨大な荒波を観たならば、サーフボードを担がずにはいられない。
「ところで、オジー……
ボクのほうがスタァで、ボクのほうが女の子にモテるぜ」
挑戦的に笑みを深めた。
この女も随分なナルシズムの権化だ。
でなければスポットライトを浴びようなどとは考えまい。
"対抗心"は、こんなところにも。
「"Every man dies. Not every man really lives."」
数少ない、"真に生きた者"となろうという表明だった。
「やめろよ、こういう返しをしたくなっちゃうんだからな。
おすすめある? 世界が変わる前の――もう歴史資料になってる映画とか。
今度シャワルマでもつまみながら一緒に観よーよ。」
カッコつけるのだってやめられないのだ。
だがそんな格好つけの横、ウィンドウの奥からじろじろと見つめる店主の視線。
大仰に肩を竦めれば、ひょこひょことわざとらしくその場を離れる動き。
「――それじゃ、祭りの当日に!バイトのジャマして悪かった。
今日はこれからもののついでに、世界でもちょいと救っておいて。
魔法少女さん。 Sweet dreams!」
彼の肩に手を置いて、どこまでも高く駆け上がれそうな男におやすみの挨拶。
ぴょんぴょんと落ち着き無い足踏みのまま、群衆に紛れていく。
随分と上機嫌だった。そわつく心も、ぞわつく炎と燃え上がった。
これで憂いなく祭りに臨めよう。
挑戦者であることは、とどのつまり――この上なく、愉しいのだ。
この女は、恐怖や理不尽を前にしても。
オダ・エルネスト >
「完全にお客様になるなら、断るさ。
それに私よりモテるとは面白いことを言う」
聞き捨てならない言葉であった。
「私の魅力に魅せられてしまった女の子に可愛く言われても
悔しくはないな」
少し眉がピクピク震えているので悔しくはないのかもしれないが、完全に気にしている。
完全に自分よりもモテるだと、と気にしていたが呼吸一つで切り替える。
「何、バイトなど最低限の業務責任さえ果たしていれば何も問題はないから気にしなくていい」
全くまた面白そうなやつと知り合っちまったもんだと笑う。
「良い『挑戦』になりそうだ」
魔法少女の男が満足げに彼女が去っていく雑踏を眺めた。
今、ここは気持ちいい街になっている。
ご案内:「歓楽街 中心部」からオダ・エルネストさんが去りました。<補足:黒髪緑色の瞳/日本人離れした容姿/魔法少女っぽいコスプレをして衣装販売の宣伝をしている。>
ご案内:「歓楽街 中心部」からノーフェイスさんが去りました。<補足:アップヘア ラウンドグラス 黒フェザーをあしらった白コート レザーパンツ ハイヒールブーツ>