ご案内:「落第街 更地」に紅龍さんが現れました。<補足:防護服を着た大柄の男。大きな拳銃を手にしている。>
ご案内:「落第街 更地」にパラドックスさんが現れました。<補足:ノースリブジャケットとスキンヘッドが特徴的な男。目が死んでいる。>
紅龍 >  
 ――ここ何日かをかけて、落第街に情報を流し、噂を流した。

 『パラドックスに喧嘩売るやつがいるってさ』
 『今日裏通りでやるんだってよ!』
 『ほんとに来るのか? 見に行ってみようぜ』

 数日前から、目的と場所だけを人の口に載せて――やつがほんとに来るかどうかは運しだい。
 先に集まるのは野次馬共。
 巻き込まれるって考えてないのかねえ。

「さて、例の破壊者さんに届くといいが――」

 防護服にヘッドギア、ゴーグルにマスク、両手に二丁のハンドキャノン。
 全身にホルダーと16のマガジン。
 更地のど真ん中。
 腰を下ろすのにちょうどいい、鋼鉄製のコンテナに座って、待ち人が来るのを待ちわびる。
 

パラドックス >  
そんな男の視界に悠然と歩いてくる人影が一つ。
此処数日の破壊活動のうちに、裏の連中が妙な噂を立てていた。
ハッキリ言って、マヌケな噂だ。喧嘩を売られる理由はゴマンとある。
そもそも、無差別な破壊活動をしているのは此処に限っては自分だけではないらしい。
あろうことか、それを行っているのがかの"風紀委員"ときた。

「────愚かな話だ」

時にそれらを制御する組織からは必ず極端な物が生まれる。
良し悪しを判断するのであれば、後者だ。
抑圧に過剰な刺激は反発しか産まない。
此処の連中があの時、ノーフェイスとの戦闘で怯まず
狂気に呑まれてしまうのもわからなくはない。
更地となった砂を蹴り飛ばし、辺り砂埃が舞った。

「お前もそう思うだろうに。破壊者以前に
 この落第街は"圧制者"に苛まれているようだな」

「尤も、たった一人という意味ではシンパシーを感じるが……」

砂埃の向こう側、重武装の男を射抜くように見据える。

「その圧制者はお前ではないようだな。一応、何者か聞いておこうか」

敢えて誘い出された破壊者は、問いかける。

紅龍 >  
 
「――圧政なんてもんは、どこでもあるよな。
 この島はまだマシな方だ、外じゃもっと酷い所はいくらでもある。
 愚か、ってのは同感だけどな」

 だからやってもいい――そんな理屈にはならねえが。
 両手に拳銃を持ったまま、肩を竦めて見せた。

「本当に来てくれるとは思わなかったぜ、パラドックス。
 オレの名前は紅龍《ホンロン》、しがない違反部活の部長なんだが、うちの部員がお前さんの世話になってな。
 ――ああ、別にやり返そうとか、そういうつもりじゃないんだが」

 話ながらタバコを吸おうと思って、マスクまでしていた事を思い出す。
 手の先が彷徨っちまった。

「あー、なんだ。
 ちょいとお前さんと賭けでもしようかと思ってな。
 掛け金はお互いの命。
 報酬は、そうだな――生き残った方が死んだほうの要求に答える、ってのはどうよ」

 どちらかが死ぬのが前提の賭け。
 まあ、素直にのってくれるとは思わんが――。
 

パラドックス >  
「…………」

破壊者は静かに溜息を吐いた。

「全てがそうとは思わないが、私はこの島の連中に……
 風紀委員と公安委員、それ以外に私に喰らいつかんとする者ある種の"敬意"を抱いている」

「如何なる巨悪にも食らいつき仕留める心意気。
 それでいて尚、"秩序"を守らんとする意思だ」

それ等と敵対する破壊者だからこそ抱く念。
勿論この時代を破壊するという決意は一切揺るぎない。
全てが詰め込まれたかのような歪な箱庭。
それを知ってか知らずかなどはどうでもいい。
眼の前の脅威に一致団結する人間の力。
自分の時代にもあった、人の美しさとも言うものだろう。

「だからこそ……」

<クォンタムドライバー……!>

破壊者の腰に、デジタル時計を模した"ベルト"が装着される。

「落胆した。率直な感想だ」

手を下すまでもなく、遠からず滅びる。
小さな事と侮るなかれ。腐敗など、時間をかければ幾らでも"死"に至る。

「だからそうなる前に渡しが手を下してやろう。
 例の風紀委員も、この街も、この島も……」

「そして、お前自身も」

賭けになど応じるはずもない。
何よりも無意味な賭けだ。
"此方は初めから、生命を賭けた上で全てを滅ぼすつもりなのだから"。
胡乱な眼光に、強い決意の炎が宿ると同時に両腕をクロスさせた。
無数のホログラムがデジタル数字となって破壊者の周囲を包み込む。

「……安心しろ、お前を含め全員殺してやる。変身……」

<クォンタムタイム!>

撒き餌にした連中も、今度は逃さない。
全てのデジタル数字が砂となり零れ落ち、破壊者を包み込んだ。
砂を振り払うように現れたのは、全身に黒いコードを身にまとったような"鉄の怪人"。
全身に赤いデジタル数字を蛍光させ、両目の如き「0:0」の数字が男を見据える。

<クォンタムウィズパラドクス……!>

『……フン』

土煙を上げ、怪人が踏み込む。
一足で目前。挨拶代わりと言わんばかりに鉄を砕く鉄拳が突き出された────!

紅龍 >  
 
「は――やっぱダメか。
 悪いな、がっかりさせちまって」

 だろうな――コイツは最初から全てを賭けてここにいる。
 そんなやつ相手には、随分と安い挑発になっちまったか。

「部員をヤられるのは困るんでな、痛い目、見てもらうぜ」

 一息の踏み込み。
 突き出される拳は、破壊者と言うには真っすぐすぎる。
 ――性格が出てんな。
 
 真っすぐな拳を、座ったまま身を反らして避ける。
 それと同時に右手の拳銃を、パラドックスの胸に向けて至近距離で弾く。
 弾頭は小型榴弾。
 当たれば70口径の衝撃と、榴弾の爆発、散乱する小型の破片がオレとヤツの両方を傷付けるだろう。

 同時に、左手の拳銃で、パラドックスの背後を撃つ。
 そこには対外骨格装甲用の戦術地雷が一つ。
 爆心地に居れば、生身なら全身が粉々になるような代物だ。

 当たれば前後で爆風の三明治。
 避けるか、下がるか――
 

パラドックス >  
空を切った拳が伸び切ったところにカウンター気味に放たれた弾丸。
いや、弾丸ではない。怪人の装甲に当たると同時に衝撃と爆風が身を包んだ。
爆炎を払う装甲からバチバチと火花が飛び散り、揺れる全身に眉を顰める。

『くっ……炸裂弾……?いや、爆薬か』

現代兵器の銃弾では対抗できないと踏んだ上で
自傷も顧みない爆弾めいた装備か。
そう考えた矢先に、立て続けに衝撃を装甲が揺らす。
何かが背後で爆発した。地雷か?
思考外の一撃に、怪人の姿は爆煙に包まれるもの……。

『フゥゥゥ……』

唸り声と共に、依然とそこにいた。
確かにダメージは入っているが
その程度で粉微塵になると思われていたなら計算違いだ。
より強大な火力を、一撃を当てるか。或いは装甲を抜く何かがなければ
この怪人の装甲は徐々に回復する。ナノマシンにより自己回復。ただ一人のワンマンアーミー。
怪人に退路などまるで無い。引く気もなく、手に持ったライフルを構える。

『成る程。大した威力だ。だが、残念だったな。
 クォンタムドライバーは常に進化し続けている』

『仲間を連れていたならばまだしも、貴様一人の火力で……』

<スラッシュ!>

蒼白い光刃。ライフルが変形した。
レーザーブレードを構えると同時に、赤の双眸が怪しく光る。

『……私を殺しきれるか……!!』

一人で来たその"蛮勇"、此処で断ち切る。
無数の蒼が軌跡を描く斬撃の応酬。
まともに受ければ簡単に肉体を両断する死の光だ────!

紅龍 >  
 
「ちぃ――直撃でびくともしねえかよ」

 少しは下がる事を見越した地雷の起爆だったが、想像以上にタフだ。
 未来の科学技術ってのはトンデモねえな。

「おいおい気を付けろよ――地雷は一つじゃねえぞ」

 ライフルを構えるのに合わせて、右手のハンドキャノンを投げ捨てる。
 腰から引き抜いたのはさらに巨大なリボルバー、鎮静剤《トランキライザー》。
 六発のうち、初弾は空間干渉弾。
 ヤツが撃ってきたら、真正面から相殺する――つもりだったが。

「――は、来たな」

 早くも『本命』だ。

 レーザーブレードの斬撃、その初撃を左肩から受け止める。
 当然――未来の技術は、現代の最先端を切り裂いて、オレの身体を焼きながら光刃が沈み込む。
 身体を焼き割かれる激痛は、スーツから注射された神経麻酔で緩和される。

「ぐ、お――!」

 ヤツが手ごたえを確信すると同時に、左手の拳銃を捨てて、パラドックスの腕を抱え込んだ。
 そして、オレの方に引き寄せた。

「――捕まえたぜ、パラドックス」

 マスクの下で血が溢れる。
 致命傷一歩手前、って所か――スーツの機能が特製のリンゴジュースを撃ちこんでくる。
 劇的に代謝を活性化し、無理やり命を繋ぐ、マヤから受け取ったトンデモな薬の劣化品だ。

「さあ、よお。
 お話しようぜ――このコンテナの下には、さっきの地雷以上の、戦術地雷が埋まってる。
 オレが精魂尽きて後ろに倒れるか、お前が動けば、掛かっている重量が変わって起爆する。
 オレの装備でも悪けりゃ即死、お前さんの装甲でも、脚くらいは吹き飛ばせるかもな――?」

 そして、鎮静剤の銃口をパラドックスの首筋に押し付ける。
 空間干渉弾がどこまで通じるかはわからんが――それでも可動部の装甲なら抜けるかもしれない。
 まあ、本命は足元の大物なんだが。

「――一度だけ言うぞ。
 うちの部員に手を出すな。
 イエスならオレはこの手を放す。
 吹き飛ぶのはオレだけだ。
 ノーなら、オレと一緒に吹き飛んでもらう――どうだ?
 お互いの装備の耐久試験、やってみるか?」

 賭けでも何でもない、ただの要求。
 それも、相手にその場しのぎで答えられたらただの無駄死に。
 だが――この男は、口先だけの返答はしない。
 そんな確信めいた予感があった。

 お互いマスクの下で表情は視えない。
 だが、オレはこの『ほとんど死ぬだろう』状況で――明らかに上を行く相手を前にして――笑っているらしい。
 

パラドックス >  
『! 捨て身か……!!』

自らレーザーブレードを受けた所に腕を抱え込まれた。
ジリジリと肉体を焼く熱量さえ歯牙に掛けずに
自らが死へと向かうにも関わらずに抑え込んできた。
振り払う前に、互いのマスクがぶつかり合うほど目前。
アーマーで強化された筋力でも、振り払うのが間に合わない。

異能者の類ではない。
此処まで異能の類を一切使わずに、兵器だけで殺しに来ている。
成る程、この男の強さはこれか。ならば捨て身の一撃がまたくるはずだ。
覚悟を決めたその時、放たれたのは──────……。

『何……?』

それは説得めいた言葉だった。
肩透かしにも程がある。いや、何か企んでいるのだろうか。
恐らくそうだ。わざわざ、己を誘い込み、有利な状況を創り上げている。
これだけの装備を何故、打ち倒すために決まっている。
そう思っていたのだが……。

『…………』

数秒の沈黙。そして。

『ふ、ふふ……』

『はははははは……!』

哄笑。鉄のマスクの向こうで、破壊者の笑い声が木霊した。

パラドックス >  
これが、笑わずにいられるか。
本当に能天気ではなったセリフならばただの馬鹿だ。
策を弄していての時間稼ぎならば、これほどの愚問はない。
何よりもこの男は、何もかもを勘違いしている。

『紅龍、とか言ったな。お前の意図は知る気はない。答えなどわかるきっているはずだろうに。
 ……お前の覚悟は見誤っている。捨て身の覚悟は認めよう』

『──────だが、足を止めているお前に私を止めれはしない』

捨て身とは文字通りこの場での終わり。
強大な熱源をマスクの裏のモニターが感知しているが
"それがなんだ"という話だ。例えそれが、男の本命だとしても
破壊者にとっては関係ないそれさえも踏み越えて、前に進む。

未来を目指すものを、停滞するものが止められるものか。

如何なる恥も傷も、救世のためなら悦んで受けよう。
空いている片手で腰のホルスターにセッティングされていた
腕時計型のメモリーを抜き取れば即座にそれをベルトに差し込んだ。

<バトルウォー!>

無機質な電子音声が、周囲に響く。

『私も科学者だ、乗ってやろう。お前の"耐久実験"に』

『────投影』

<リフレクションタイム!>

再び怪人の姿が砂に包まれると同時に、強い衝撃
爆風のような衝撃が砂煙となって周囲に飛び散った。
強烈な鋼の擦り切れる嫌な音と共に、砂が爆ぜればあられたのは"鉄の怪物"というべきもの。
全身に巻き付いていたケーブルが無造作に地面に垂れ
白銀の分厚い装甲が全身を包んでいる。太い手足に、赤い双眸。
両肩に添えたキャノン砲はまさしくして、"兵器"と呼ぶに相応しい。

<クォンタムウィズデストロイハント……!>

『……消えろ、死人』

脚部の装甲が開き上がり、無数のミサイルが無差別に巻き上がる。
周囲の地面に、或いは空中で爆発しその爆風は──────。

紅龍 >   
 
「――盛大な失笑どうも。
 悪いが、殺さずの『約束』しちまってるんでね――!」

 捨て身でもなければ埋められない差がオレ達にはある。
 全てを賭けて背負う者の為に前へすすむ、破壊者の覚悟。
 それを正面から受けるには――命一つじゃちょいと足りない。

「歩む道が違うだけさ――オレは殺さずに仲間を守りてえ。
 ――殺しなんてもんは、もううんざりなんだよッ!」

 誰に叫んだ事もない、心からの声が血反吐と一緒に溢れ出した。
 ――これほどの男だからこそ、目の前の覚悟を背負う男にだからこそ。
 殺し続けてきた自分の、クソったれな半生を叫べたのかもしれない。

「――おう、付き合えよ、色男」

 ――パラドックスが動く。

 情報にあった、モードチェンジか――!

 可動部からずらして、顔面に向けて鎮静剤を弾く。
 .95口径が砲音を鳴らして、衝撃の中、変化した装甲の頭部へと、巨大な弾丸が飛ぶ。
 直撃すれば周囲の空間を円形に削り取る、四次元物理弾薬だ。

「――連れてくぞ、英雄《インシィオン》!」

 変貌した装甲から至近距離でミサイルが迸る――。
 そして変動した重量によって、仕掛けた大型地雷が作動――。

 認識できたのは、足元から吹き上がる閃光。
 そしてオレとヤツの間で連続する爆発と衝撃――。
 そこでオレの意識は消し飛んだ――。
 

パラドックス >  
けたたましい衝撃と閃光に包み込まれた。

『うおおおおおおおおおおおおッ!!!!』

衝撃と呼ぶにも烏滸がましい破壊力が全身に打ち付けられる。
強化された装甲も拉げ、飛び散り火花や電流さえ全て呑み込まれた。
暴力なんて比ではない純粋な熱量、破壊力が銀の装甲を溶かし
装甲を貫く一撃が肉を切り、骨を軋ませる。
永遠に思えるような苦痛の光が晴れる頃には……。

『……ハァッ!!』

土煙と爆煙を振り払い、鉄の怪人は立っていた。
装甲は吹き飛び、全身のコードは千切れボロボロだ。
アーマーが吹き飛んだせいで全身の裂傷はそうだが
火傷の痛みが、熱が全身を蝕んでいる。
それでも尚意識を断たず、歯を食いしばり立っていた。
揺るがぬ決意だけが、破壊者を奮い立たせていた。

ノイズ混じりの赤の双眸が、男を見下ろした。

『……実験は失敗だったな、紅龍』

破壊者は未だ、健在だ。
デストロイハントフォームの武装は破損しているが
トドメを差すには充分だ。肩で息を切らし
黒煙混じりの吐息を吐き出し、手を突き出す。

手首部分が変形し、小型のガトリング砲が飛び出した。
エネルギー弾を乱射する破壊兵器。
壊れかけのモニターには、ボロボロになりながら
眼の前の男が生きていることを知らしめている。
ならばここで、殺す。断線したケーブルを無理矢理繋げ
破損のせいでエネルギーチャージに時間を要するが、充分だ。

充分なはず、だった。

『…………』

複数の反応が近づいてくる。
恐らく彼等の仲間だろうか。
今の状況で連戦は流石に耐えられない。
何処までの怪人は冷静であり、引き際は弁えている。
バチリ、と電流が漏れる足を引きずり、一歩下がった。

『綺麗事だけは何も救えまい。
 夢を見る歳でもあるまいに』

『それは"呪い"だ。お前は何れ、呪い殺される』

ガトリング砲を引っ込め、咳払い。
息を整えると同時に、濃密な死の気配に
脳裏によぎる呪いの余波。忌々しい女の置き土産が、まだ続いている。

『……精々そこで見ていると良い。
 私が破壊する、この島の様子を』

"お前には何も出来はしない"。
守ることさえも、と吐き捨て怪人は姿を消した。

少なくともそれを退かせたのは兵器の強さではなく
彼自身の培ったものと、僅かに"意地"が勝った結果だろう。

紅龍 >  
 ――ヘッドギアに備わった、緊急時用の電気ショックで強制的に意識を引き戻される。

 それでも朦朧とした意識は、辛うじて補助AIの電子音声から、バイタルの状況を把握した。

 ――下半身が丸ごと吹き飛んだ、か。
 コンテナに緩衝材しこたま詰め込んでもこれか。
 出血は――傷口が燃えたお陰で止まってるのか。

 電子音声は、ヤツが健在なのを伝えている。
 が、体は動きそうにない。
 まあ――これで動けたら人間じゃねえか。

 ――それでも、トドメは刺されなかった。

「――が、ぼ」

 ヤツに応えようとしたが、喉から血があふれるだけだ。
 窒息していないだけ幸運か。

 ――ようやく自由になったんだよ、オレ達は。
 ――現実ってもんを只管殺して生きて来たんだ。
 ――だからいいだろ?

 ――少しくらい、綺麗な夢を見たってよ。

 どこかから友軍の信号が近づいてくる。
 あのバカ共が――来るなって言っといたのによ――。

 生きるか死ぬかは、若返った身体と薬の効果がどこまで及ぶか。
 良くて五分、いや、よっぽど分が悪い、か。

 朦朧とする意識が再び闇に落ちる直前。
 多分それは意地だったんだろうと思う。

 震える右手を持ち上げて、親指と人差し指を立て――去っていく男の背中に向けて突き付けた――。

 

ご案内:「落第街 更地」からパラドックスさんが去りました。<補足:ノースリブジャケットとスキンヘッドが特徴的な男。目が死んでいる。>