2022/11/20 のログ
ご案内:「歓楽街 燃えるビル群」にパラドックスさんが現れました。<補足:ノースリブジャケットとスキンヘッドが特徴的な男。目が死んでいる。>
ご案内:「歓楽街 燃えるビル群」に追影切人さんが現れました。<補足:風紀委員会警備部の制服、左目に眼帯、左腕の肘先から黒い手袋、22本の無銘刀剣(刀が10本、短刀5本、ナイフ7本)>
パラドックス >
昼下がりの歓楽街。
この島は学園都市の体を成しており特に歓楽街は盛り上がりに乏しい。
それが特に、所謂"オフィス街"に位置する場所なら尚更だ。
勿論、所によっては授業よりも部活動を優先する生徒も少なくはない。
少なからず街とはそういった人間も支えて形をなしていくものだ。
<クォンタムバースト!シュートブラスト!!>
無機質な電子音が響くそこは、今や悲鳴と爆炎が飛び交う戦地と化していた。
ビルは燃え、瓦礫が飛び散り、命が簡単に潰えていく。
まさに災害めいた破壊行動を行っているのは鉄の怪人。
青いレーザーを放つライフルを構え、全身に黒いケーブルを巻き付けたかのような"鉄の怪人"。
全身に赤いデジタル数字を点灯させ、両目のような「0:0」が無慈悲に光る。
その破壊は無差別だ。
容赦なくレーザーライフルから放たれるレーザーがビルを破壊し
生徒の命は瓦礫と爆炎に消えてしまう。そこに差別も区別もない。
ある意味平等ではある中、いち早く歓楽街に駐在している風紀委員とぶつかっていた。
鉄色の装甲が風紀委員の放つ銃弾を弾き、異能から放たれた水の大津波を青い光弾が貫く。
怪人の足止めをする二人の風紀委員は、怪人と互角に戦っていた。
『やるな……だが、応援が来る前にカタを付けてやる』
瓦礫と炎の上。
破壊者と二人の風紀委員が睨み合っている最中だった。
追影切人 > 「……やーーっと、俺の出番かよ…こっちは鬱憤溜まってんだ…”好きにやらせて貰う”が構わねぇよなぁ?」
”上”のクソったれな連中から緊急連絡が、警備の退屈な仕事中の男に迷い込んだのは、昼の少し前。
やっと来たか…と、ばかりに悪態と”確認”を済ませてから、無理矢理警備の仕事を中断して歓楽街へ。
途中、部屋に立ち寄って仕入れた刀剣22本を身に纏う。
ナイフ7本と短刀5本は制服のあちこちに偲ばせ、刀は嵩張るが各所にぶら下げる。
結果的に、左右の腰に2本ずつの4本、腰の後ろに交差するように2本、背中で交差するように2本。
そして、残り2本は抜き身のままで両手に携えて。だが、徒歩では時間が掛かるのは明白だ。
なので、時間短縮として”打ち上げる”方法が採決された。
連絡を受けていた風紀の一人が、特殊な魔術を隻眼の男へと掛ける。「幸運を」と、声を掛ける風紀にハッ!と笑って。
「――俺に幸運なんざねーよ。”凶運”ならあるけどなぁ!!」
同時に、凄まじい速度で、空へと打ち上げられる男の体。
大きな放物線を描く軌道で、連絡があったポイント――睨みあう破壊者と風紀委員達の傍まで男は飛翔し――
「っっっらあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
劈くような声を上げながら、上空から飛来したそいつは、近くの瓦礫を吹き飛ばしながら”着地”するだろう。
パラドックス >
一撃。一撃で決める。
必殺技を放とうと怪人がベルトに触れようとした直前、その存在にいち早く気づいた。
『……!』
何かが"飛来"してくる。
即座にその場を飛び退くと同時の、正面の瓦礫が土煙とともに吹き飛んだ。
視界を覆う煙が晴れる頃には、一人の男がいた。各所に刀剣の類を装備した隻眼の男。
向こう側の風紀委員達の表情が引きつり、一歩引いた。
"後方支援に入ります"、と言い、一般生徒の救援を優先するように動いた。
どうやら、目の前にいるこの男も風紀委員のようだが、普通ではないらしい。
連携をするために動くこともせず、かと言ってその場を信用して任せたという感じではない。
あれは、"巻き込まれないように動いた"と見るべきだ。
『お前……ただの風紀委員ではないな?
まるで決戦兵器だ。まぁ、何者であろうと関係ない』
手に持ったライフルの銃口が、隻眼の男に向けられる。
『お前を含めて、全てを破壊するまでだ』
一体どのような戦力を持っていようと関係ない。
尽く、叩き潰すのみ。怪人の双眸が赤く光り
銃口から青いエネルギー弾が発射させる。
容易く人を蒸発させ、ビルを砕くエネルギー弾。
生身に肉体なら、当たれば一溜まりもない近代兵器の凶弾だが──────。
追影切人 > 「…おいおい、”軌道”がズレてんじゃねぇか…そのまま、勢いでぶった斬ろうとしたのによぉ…。」
予定では、飛来する勢いそのままに破壊者へと不意打ちでぶった斬りをかますつもりだったが。
まぁいい、とばかりに隻眼を両者へと交互に一瞥。風紀の連中の顔が引き攣っても気にしない。
「おぅ、俺に斬り殺されたくなかったらさっさと逃げろや。てめぇらがどうなろうが俺は知らん。」
一応、同じ風紀の所属なのに仲間を仲間とも思っていない台詞を平然と述べて撤退していく風紀二人を興味が失せたようにもう見向きもせず。
両手に刀をだらんと提げた隻眼の男は、そのまま破壊者へと視線を戻した。
「…あぁ?そんなご大層なモンじゃねぇ――俺はただ、テメェをぶった斬りに来ただけだ。」
緩やかに、身を僅かに低くして両手の刀を無造作に構える。
まるで、獰猛な獣が得物に飛び掛る寸前のような、そんな光景で――
「――面白ぇ。テメェが俺を破壊するか、俺がテメェを斬り殺すか…。」
向けられたライフルの銃口。それを見てニィィ…と、無意識に口元が釣り上がる。
…嗚呼、こっちは鬱憤が溜まりに溜まっているのだ。以前の”不完全燃焼”もある。
破壊者の双眸が赤く輝き、青白い強烈なエネルギーが男へと放出される!!
回避するように飛び退くでもなく、武器や何かで防御するでもなく――
「行くぜおらあああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
雄叫びと共に、両手に持った無銘の刀を鋭く豪快に振り下ろす!!!
ただ、それだけ――何の変哲も無い、少し頑丈なだけの刀剣の斬撃が膨大なエネルギーを持つ凶弾と激突。
両手の刀身が一瞬で溶けて砕けるのと引き換えに、真っ向から小細工無しでそれを”ぶった斬った”。
分割された凶弾が、別たれて男を避ける様に後方の別の建物へと着弾、破壊。
同時に、柄だけとなった刀を躊躇無く捨てながら前へ――残り20本。
両手を背中へと回し、次の2本を引き抜きながら、何の能力も魔術も用いず、身体能力”だけ”で瞬時に間合いを詰め。
「次はこっちの番だよなぁあああああああ!!!!!」
戦いに順番もクソも関係ないが、そんな事はどうでもいい、ただの気分だ気分。
間合いを詰めると同時に、身を高速で捻るように遠心力を乗せて――右の刀を用いて横薙ぐ一撃!!
荒削りどころか、剣術の才能すら感じられない力任せの一撃。だが、まともに受ければ”やばい”と思わせる何かがあり――…
パラドックス >
人間一人とっても十人十色。
秩序側に立つ人間の人柄はかくも、其処に立つ理由があるはずだ。
だが、この男が出す肌を斬りつけるような空気感。
『(……違うな)』
これまで出会ったどの風紀委員とも違う。
強いて言うなれば、あの鬼女に近しいものがあるが
あれよりも数段凶悪で、狂犬めいた空気を感じる。
放たれたエネルギー弾を避けようともせず、まっすぐ突っ込んでくる。
まさしく狂犬だ。ただの剣では、防ぐことさえ出来はしない。
"本来なら"、だ。
『何……!?』
刀剣ごとその体を打ち破るはずだったエネルギー弾が"斬れた"。
実質的な相打ちではあるが、エネルギーを切り裂くようななにかがあったのだろうか。
マスクの裏のモニターでは、業物であるが特殊なエネルギーは探知していない。
おそらく、あの武器自体は特別な力はないはずだ。
モニターに照らされていた無表情が、驚愕に引きつる。
その身のこなしも只者ではない。
魔術的なエネルギーを感じない。
単純な身体能力のみで此方に肉薄する。
『くぅ……!?』
予想外のことに一瞬反応が遅れた。
薙ぎ払う一閃に身を逸らすも、その先端が装甲を掠める。
通常兵器だけでは傷つけるのがやっとのはずだが
アーマーの装甲が火花を弾け、"一文字に切り裂かれた"。
中身までは届かずとも、ケーブル類やエネルギーが漏れているのか
断面図からは蒼白いショート電流がバチバチと血のように立ち上がる。
『この力……異能か……!?』
剣術というには粗削りの力任せ。
だが、あらゆる理屈を通り越して説明出来ないこの力があの男の異能だと判断した。
胸部装甲の傷をなぞれば、青白い光に包まれ装甲が徐々に塞がっていく。
スピードこそ大して早くはないが、ドライバーに仕込まれた自己修復機能だ。
戦闘時はほとんどのエネルギーを戦闘に回すため、その機能は微々たるもの。
油断したつもりはないし、連中の戦力が計り知れないのも知っている。
どれだけ覚悟を決めても尚、それを上回り驚愕させられる。
この男の、まともに当たり合うのは危険だ。
『まだお前のような男がいたとはな……!』
驚異的だが、先程のエネルギー弾と相打ちになったと見ると
やはり武器の耐久力そのものは変化しない能力とみた。
ならば、いち早くそれを"消耗させる"ことだ。
鉄が軋むを音を響かせ、構えたライフルを薙ぐようにエネルギー弾を乱射。
狙いを定めず、"面"による制圧射撃だ。さぁ、どうする狂犬……?
追影切人 > 男は、過去から今までの”結果で”秩序側に立っているだけ――本来は混沌や破壊を齎す側だ。
悪評や酷評は枚挙に暇が無く、少なくとも風紀の連中は男を避ける奴も少なくない。
――だが、そんなのは”知ったこっちゃない”。
身も蓋も無い言い方をすれば、この男に【味方】なんぞ居やしないのだ。
居るのは、目の前の破壊者のような【敵】と――そして、それと対峙する【敵の敵】。
つまり、自分以外。何処かの”同類”や他の連中がどう思っているかは知らないが――
(まぁ、どっかの山脈野郎はそれでもヘラヘラ絡んできやがるだろうけどな!!)
もう一人の…おそらく、自分より”タチの悪い”同類のヘラヘラ顔を思い出してイラっと来た。
なら、その苛々はこの破壊者にぶつけるとする。八つ当たり?知らねぇよ!!
「チッ…!やっぱ得物が粗末だとその程度かよ。」
右の豪快な一閃が、横一文字に攻撃を回避した男の纏う装甲を切り裂いた。
手応えはあるにはあったが、斬り続けてきた男はその感触に舌打ちを一つ。
今のはたかが表面をちょっと削った程度…あの装甲の機能を停止させるどころか、その下の生身にすら掠り傷一つ無いだろう。
「異能だぁ……?んなのどうでもいいだろうよ。次はその装甲を完全にぶった斬ってやる。」
男の凶気とも言えるその刃は、異能と言えばその通りだ。
ただし、ただ切れ味が上がるだとかそんな生易しいものでは断じて無い。
”その程度”で終わるならば、仮にも”あの野郎”と並び称されるレベルには到底足りない。
男が装甲の傷痕をなぞると、自己修復機能でもあるのか再生を始めるのを隻眼で眺めて。
「――あぁ?俺”程度”で驚いてんじゃねぇよ…世の中、ぶっ飛んでるのは腐るほど居る。」
俺の身近にも。だからこそ、そいつらを”斬る”為に己はひたすら”刃”を磨くのだ。
善悪も秩序混沌も、法も無法も男にとっては等しく同じ。斬るか斬れないか。
その、馬鹿で下らないくらいのシンプルさが男を【凶刃】として成立させている。
男が、今度はライフルを薙ぐ様に連射――いわゆる面制圧の手札で来た。
流石に、この少し頑丈なだけの”使い捨て”前提の刃物では一方的に消耗させられ――
「――舐めてんのか?オイ…。」
声がスゥ、と冷えていく。右の刀身は、折れてこそいないが刃毀れが酷くボロボロだ。むしろ折れなかっただけ一級品。
健在な左の刀にぎしり、と力を込めて――男の凶気が一気に数段膨れ上がる。
「―――ぶった斬る。」
今度は左の刀を、更に一歩力強く踏み込みながらこれも荒削りで技巧の欠片も無い横薙ぎ。
剣閃が男の面制圧の射撃と激突――残らず全て、一気に切り裂いて方々に霧散させていく。
その余波が男を掠めて、腕や足や肩、脇腹など衣服の一部ごと肌を焼くが全く意に介さず。
――そして、今の面制圧を纏めて一閃で迎撃した左の刀が喪失。構わず、更にまた一歩踏み込んで。
命知らずどころか、少々の被弾や周囲の被害を全く考慮しない、秩序の側とは思えない動き。
まだかろうじて形を保っている右の刀に力を込めて、今度は、大上段から縦に振り――下ろす!!!
瞬間、目に見えない”圧”と共に、凄まじい剛閃が縦一文字に炸裂。
爆撃のような振動と音を響かせながら、男の軌道上にある物を纏めて一刀両断にせんと。
パラドックス >
『狂犬……いや、"狂刃"だな。
その割には己を過小評価しているようだな』
『知っているとも。お前も、この島の連中の強さには驚かされてばかりだ』
出鼻をくじかれて以来、慢心は一切ない。
その強さの由来こそ己が語るべきものでもない。
それらを全て踏みにじった上で破壊しようと画策しているのだからだ。
此方からすればその狂刃、いや凶刃は充分驚異的だ。
モニターに照らされる表情も思わず強張った。
放たれた無数のエネルギーの雨さえ真正面から挑んでくる。
勇敢というものではない。この男は、恐らくそういうタイプだ。
"力任せに正面から言ったほうが早く此方を殺せる"と思っている。
そして、それを実行できる力がある。事実、その身をエネルギー弾に焼かれながら
致命傷を避けるように荒い閃光がエネルギー弾を尽く斬り裂き、真正面────!
<スラッシュ!>
『ハァッ!!』
迎撃。
ライフルが変形し、蒼白い刃を纏ったレーザーブレードに変形する。
正面から力押しするからこそわかりやすい動きだ。
いくら身体能力が高かろうと、獲物は刃。
即ち、"互いの間合い"だ。だからこそのカウンター攻撃。
大ぶりの唐竹割り。振り上げた刃ごと両断せんと、レーザーブレードを振り上げた。互いの体がすれ違う。
蒼白い軌跡を描いて、互いの刃が交差する。刹那、火花を散らしてレーザーブレードが"真っ二つ"。
『ぐおおおッ!?』
立て続けに右腕が大きく火花と小規模な爆発を起こし、装甲に亀裂が入る。
迎え撃って威力を殺しても尚、それごと斬り裂かれた。
裂けたアーマーから蒼白いエネルギーがショートし、中身に達したせいかスキマから鮮血が漏れている。
やられた。だが、まだ腕は動く。致命傷ではない。アーマーの損書率も、まだ許容範囲内だ。
追影切人 > 「昔、調子に乗って鼻っ柱を圧し折られたからなぁ…世の中、上には上が居る…って奴よ。まぁ…。
―――だからといって、俺がここでテメェをぶった斬る事に変わりはねぇよ。」
己が身がどうなろうが、周囲がどうなろうが一切合財関係無い、とばかりに。
その単純明快な愚かさ。破壊を招く男と何が違うのか。
――”何も違わない”。ただ、立場と手段と…あとは信念か。
男の決意に比べれば、この男のモノなんて大して重くも切実でもないけれど。
ただ、『斬る』――その一点、その一念だけは誰にも負けるつもりは無いし曲げもしない。
仮に、男にここで敗れようが斬り尽くして果てるならそれこそ本望だ。
己の生死等さして問題ではない。あるとすれば斬ると決めたモノを斬れないまま逝く事か。
縦一文字の一閃にて、右の刀はその圧力に耐え切れず、その柄まで”粉々”だ。
躊躇無く、腰の後ろに交差するように差していた次の2本の刀剣を抜きながら。
(…イマイチだな。斬り甲斐がある野郎が居るってのに、切れ味が”鈍い”。)
男が弱いとは思わない。むしろコイツが強いのは間違いない。
あるとすれば自分自身。鈍ってやがるな…と、己への憤りすら凶気へと変えていく。
「――アホらしい。この”甘さ”は俺の怠慢だ。微温湯に浸かり過ぎたわ…。」
冷めたような声は自分自身に向けて。新たに両手に携えた刀を握る手に、ぎしり、と力が込められて。
頭の中がスゥ、と冷えていく代わりに男のギアが一段引き上げられる。
周囲の連中?被害?知った事か。俺は『斬る』為にここにこうして存在している。
―目に見えない凶気が増大する。周囲の大気が歪むように軋んで、まだかろうじて形を保つビルを含めた周囲の建造物。
それらが、勝手に亀裂を走らせて時に崩壊していく。
「―――空間抜刀・【鏖魔】」
剣術の欠片も身に付けていない、そんな男が唯一用いる”鞘を用いない抜刀術”。
大仰なくらい、両手の刀を振り被る――そんな構えに対して、歪む凶気が刀身に収束。
「――――刻み殺す!!!!」
瞬間、両手の刀を思い切り振り下ろす!!
歪んだ大気が、男の異能――斬る意志そのものを纏い、縦横無尽に暴れ回る。
破壊者にだけではなく、目に見えない凶刃が周囲全てを刻み落とすべく展開し、地面、建造物、大気そのものを炸裂、斬壊させながら全方位へと放たれる。
――面制圧の意趣返し。どころか逃げる事を許さぬ、とばかりの全方位への【無差別斬撃】。
敵も味方も纏めて斬り殺す、己のみは全て等しく斬り捨て、と言わんばかりの狂気の刃群――!!
パラドックス >
度々口に出す"斬る"という言葉。
強いこだわりがある行為だとするなら、"狂人"と言うべきほかはない。
成る程、先の二人が避難した理由がよく分かる。
コイツは猟犬だ。首輪を繋がれ、秩序のショック療法に用いられるとびっきりの劇薬。
こんなものさえ使いこなそうとする組織の強大さには畏怖さえ抱く。
そして、そんな人間さえ受け入れる学園都市の上の連中。
ここまで強大か、常世学園。右腕の焼くような裂傷の痛みを以て改めて思い知らされる。
だが、それさえ"覚悟の上"だ。
『面白い……だが、お前の行動パターンは理解した』
溢れる血液ごと右手を握り込み
振り返ると同時に腰のホルスターから抜き取るデジタル時計型のメモリ。
それほどの強大な力、既にこの場に4つある。
その内の一つをベルトへと差し込んだ。
<メディック!>
無機質な電子音が響き、新たに刃を握りしめた凶刃と対峙する。
鉄の怪人の周囲に無数のデジタル数字のホログラムが浮かび上がり
その真正面には「9/26」の数字が浮かび上がる。
花咲里 十狼太含む、あの時犠牲になった風紀委員の命日だ。
『────投影』
<リフレクションタイム!>
怪人の全身を緑の光が包み込んだ。
眉を破るように光を払うと、そこには羽織袖のように広がった両腕の装甲。
背中にまるで触手のように伸びるケーブルと、棘のように尖った装甲が特徴的な怪人。
<クォンタムウィズディストピアハント……!>
まるで昆虫めいた姿となった怪人が、赤の双眸を光らせ両腕をクロスさせる。
周囲の被害さえ顧みない縦横無尽の斬撃の応酬。
成る程、この男が初手で投下されなかったのは、この被害を顧みての行動か。
ある程度の避難、破壊されてしまった場所はこれ以上被害が出ようがない。
このような人物を投入するということは、いよいよ本気だということ。
『フンッ!!』
全身に気合いを込めると同時に、背中のケーブルが怪人の全身に突き刺さる。
有ろうことか、その斬撃の数々を"真正面で受け止めた"。
鉄がバターのように斬り裂かれ、肉もカットされる手応え。
そう、凶刃には確かに"人をバラした"感覚が残った。
斬撃が終わる頃にはその怪人にできた亀裂から順に体が崩れていく……。
パラドックス >
……───────"はずだった"。
不意に、全身のデジタル数字が発行すると同時に、断面と亀裂から緑の液体が溢れた。
投影された異能は『薬物を作り出す異能』。あの四人の内唯一の回復能力を持った風紀委員の力だ。
無軌道な力技、此方を斬るということは知っていた。
予測した上で回避できないと見れば、"あえて受けた"のだ。
そして、予め全身に投与したこのクスリが瞬く間に肉体を、装甲を癒着し回復させていく。
『フゥゥゥゥ……!』
咆哮のような吐息とともに、首を回す。
『恐ろしい異能と身体能力だ。
ぶっつけ本番であったが、やはりこの力で正解だったな』
間違いなく一度目の死が其処に迫っていたが、予測することで投与した治癒薬がそれを上回った。
荒々しく、真正面からくることがわからなければ出来なかったが芸当だ。
それ以上に賭けではあったが、"それくらいの覚悟がなければ破壊者とはなり得ない"。
『今度は此方の番だ』
薬物を作り出す力は治癒だけではない。
転じればそれは"毒物"となる。
鉄の袖から伸びる二対の触手からは、どろりと紫の液体が垂れた。
容易ににアスファルトや地面を溶かす、文字通りの溶解液だ。
溶解液を纏った触手が空を切り、鞭のようにしなり凶刃に襲いかかる!
しなる不規則な軌道。触れれば痛み以前に骨まで溶かされる…!
追影切人 > 「―――あぁ?」
空間抜刀の『型』の一つ、【鏖魔】。
その名前の通り、皆殺しにするほど凄まじい斬撃の群れで全方位を大気ごと刻む技だ。
確かに、男の体ごと周囲を全て斬り刻んだ――かと思えば。
「…そもそも、回避も防御もしなかった…成程、そういうカラクリかよクソが。」
馬鹿な男に、それがどういうものかは分からないが、回復に関わる能力なのは何となく理解した。
そもそも、己が身ひとつで破壊者を体現するなら、それくらいの用心はあろう。
「ハッ、面白ぇ。そうでなくちゃ斬り甲斐がねぇわ。」
ぶっつけ本番、という事はある種の賭けだ。そういうのは”面白い”。
少なくとも、安全策でまだるっこしくちまちまやり合うよりよっぽど分かり易い。
男の攻撃は、そのどれもがまともに喰らえば絶命は必至。
だが、その動きそのものはよくよく考えれば単純で力技も多い。
だから、彼のように喰らっても対策があればこのように無意味に終わってしまう。
それでも、楽しそうにニィ、とまた口元に笑みを浮かべながら、また砕け散った刀を放り捨てて。
残りは刀が左右の腰に2本ずつ差した4本と、後は短刀やナイフくらいしかない。
完全に使い捨て前提とはいえ、長期戦になれば明らかに不利なのはこちらだ。
今度は、左腰側の2本から1本だけ抜き出して右手に携える。
「―――ッ!!」
男の新たなる手札。先程見せた驚異的な治癒とはおよそ真逆…いや、能力の応用か。
どろり、とした液体らしきものが垂れ落ちて地面を溶かす…幾ら男とて体は生身だ。
まともに喰らえばそれこそ致命傷となろう。だが、「面白い」とばかりに身を緩やかに低くして飛び込む構え。
しなる鞭のように、軌道が読み辛い溶解液が飛んでくる。
それでも、回避も防御も何だそれは?と、ばかりに前へと飛び込むように距離を詰めて。
だが、溶解液の鞭は無情にも男の体を溶解せんと襲い掛かり――…
…躊躇無く、肘先まで手袋で覆った素手の左手で溶解液を”受け止める”。
即座に手袋が溶け落ち、その左腕も――溶け落ちていくが、よく見ればその腕は肘先から緑色をしている。
「――ハッ、頼んでおいて正解だったって奴か!!」
まるで”植物が寄り合わさって人の腕に擬態していた”かのような左腕。
溶解液をまともに受け止めたせいか、それは溶け落ちてはしまうが…直ぐに”再生”を始めて。
あくまで腕一本に限るが、”再生”手段を持っているのは破壊者だけではない。
そして、その左腕が再び緑色をした擬態の腕を形成しきる前に。溶解液が再び襲ってくる前に。
「――テメェの破壊の意志に俺の斬る意志が負ける訳ねぇだろうがよぉぉ!!!!」
ぎしり、と凶気が再び増大。男の斬る意志に比例して天井知らずに上昇する切断現象。
今は、その上昇も”限度”はあるが――それで十分。コイツを斬るまで持てばいい。
風紀だの秩序だの破壊だのどうでもいい、知るかそんなモン。
何をどう言おうが思われようが、俺とコイツ、意志を貫き通した方が勝つ。
男は背負う者も覚悟もさして無いが、ただ一つ…斬るという意志だけをその身に負って。
「空間抜刀・【渦旋】――!!!」
右手の刀を鋭く円を描くように振るう。生じる螺旋状に渦を巻き、空間を切り裂く凶刃。
溶解液の鞭を斬り、弾き飛ばしながら今度こそ男の五体を螺旋状の斬撃で切り刻まんと。
パラドックス >
しなる触手にこぼれ落ちる溶解液。
この形態の真の強みは回復力ではない、汚染力。
物理的攻撃手段と違って毒物の対処は限られる。
本来なら一対多数を想定した力だが、この男には関係ないようだ。
ある意味鉄砲玉なのだろう。この男がここで敗れたとしても
きっと既に周囲に応援が来ている。あとは雪崩込めば終わりと言うわけだ。
『……哀れだな』
隻眼の男に取っては神経を逆撫でするような憐れみかもしれない。
監視対象などという存在を破壊者は知らない。
だが、秩序のためにこのような扱いをされる人間がいるという事実
いつぞやの風紀委員による落第街の無差別爆撃といい
一枚岩ではないとは言え、忍びない気持ちにされる。
モニターに照らされている破壊者の表情はそんな何とも言えない表情だった。
無論それが、手を抜く理由にはならない。
生憎ここで止まるつもりもない。
先の考えは飽くまで憶測だが、撤退した二人が応援を呼んでいる可能性のが高い。
ならば、これ以上時間を掛けるのは危険だ。終わらせる。
『その左手まで仕込んでまで戦うか、凶刃。
お前の狂気的なまでの意思は天晴だが……お前に私は殺せん』
『私の意志は、ただの破壊行為ではないからだ』
確かに狂人という意味ではこの男の同じだ。
自分がどれだけのことをしているのか、全て承知の上で"決意"した。
自らの時代を救うための、"前に進むための意志"だ。
唸り声とともにベルトをなぞれば、無機質な電子音声が響いた。
『オォォォォ……!』
<クォンタムバースト!ディストピアエンド!>
『ハァァァァァッ!!』
全身に蒼白いエネルギーが渡りきり、背中の触手が緑の霧を吹き出した。
一度吸えば体中の組織を破壊する劇毒の霧。
それを全身に纏い、撒き散らしながら溶解液と蒼白いエネルギーのコントラストさせたドリルキック。
螺旋の斬撃を真正面から衝突する力の本流。
衝撃と衝撃がぶつかり合い、辺りの瓦礫や土煙が荒れ狂い、劇毒の霧が舞う。
拮抗する力。強き意志が激突する──────!
追影切人 > その言葉に激昂するかと思いきや、男は存外に冷静だった。フンッ、と詰まらなそうに鼻を鳴らす。
秩序側に与するつもりは無いが、結局は”飼われている”都合の良い駒の一つに過ぎない。
そんな現状は百も承知で、もどかしい、歯痒い、イラつく、もう何度思った事か。
そもそも”枷”が無ければ、秩序の堅苦しい世界などとっくの昔に放り出してもいよう。
――だが、男にも決意はある。本当にくだらない、利己的で自己満足の極みではあるが。
誰かの為ではない、”己の為に刃を振るう”。昔から、そう生まれた時からそうだった。
「”何処に立っていようが”俺は斬るだけのモノだ。それ以上でも以下でもねぇ…。」
だから、哀れみを向けられようがそんなのはお門違いというものだ。
そもそも、決意で武装した破壊者が哀れみなんぞ抱く方が片腹痛い。
「――テメェが選んだ道に哀れみなんざ必要ねぇだろう。俺も同じだ。俺の道に哀れみとかそういうのはいらねぇんだよ。」
刀身が駄目になった刀の柄を放り捨て、左腰の刀のもう1本を右手で抜く。
左腕はもうほぼ再生を終えている。…この戦闘で初めて、”両手持ち”で一振りの刀を構えながら。
「殺す?俺は『斬る』だけのモンだ。――結果的に殺すだけだ。」
不可能だろうが何だろうが、そんなものは男には全く意味が無いのだから。
出来る・出来ないではなく”やる”。それ以外の選択肢など最初から存在しない。
「だから――あぁ、他の奴らは知らねぇよ。テメェの意志はテメェだけのモンだ。
――それこそ、俺の知った事じゃねぇんだよ…!!!」
単なる破壊者ではない。そうかもしれない――だから?斬る事に変わりは無い。
凶刃に人の心を真に理解する事は出来ない。人の形をしている”だけ”の斬滅の刃。
男が時代を救う為の覚悟ならば、こちらは徹頭徹尾、目の前の誰かを斬り捨てる覚悟を。
それが、どんなに親しくても身近な連中でも、例え世界が終わるとしても”構わない”。
螺旋の斬撃は、男の凄まじいエネルギーと拮抗――いや、こちらが圧されているか。
そもそも、己の時代を背負った男と、ただ自分が斬る為だけの男では”重み”が違う、何もかも。
――だから?そんな細かい事はどうでもいい。”過去”も”未来”も己には必要ない。
「おぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
螺旋の刃が男の蹴りに撃ち抜かれる。凄まじい衝撃で周囲の形ある物が吹き飛ぶ衝撃。
同時、両手で構えた刀に己の意志を込める――重みなんざ知った事か。俺は俺の刃を死ぬまで振るう!!
まともにあの蹴りを喰らえば、男とて死ぬだろう…それでも、避けず、防ぐ事も考えず。
先程と、今の『空間抜刀』とは違う、技もクソも無い純粋な斬る意志を載せたシンプルな――一刀。
それが、男の蹴りと激突し――今度こそ、大規模な力の衝突による余波でこの一角が吹き飛ぶ事になろう。
「がああああああああああああああああ!!!!!?」
拮抗はほんの数秒に満たない時間。男より先に得物が限界を迎え、粉々に砕け散ると同時。
全身に、衝撃と舞い散る劇毒をまともに浴びて背後へと派手に吹き飛んでいく。
パラドックス >
『ぐあああああああああッ!!!!』
螺旋の斬撃、更に重ねて振るわれた一刀。
力と力のぶつかりは巨大な爆発を招き、結果的に互いの体が吹き飛んだ。
ビルの壁に叩きつけられ、瓦礫とともに砕けたアスファルトに叩きつけられる。
全身の痛み、視界が赤く染まっている。切れた額から血が入ったらしい。
『ぐっ……!ハァ…!ハァ…!』
全身から火花を散らし、特にぶつかりあった脚部は裂けている。
肉まで到達した。足の感覚があまり無いが、無理矢理意地だけで立ち上がった。
血を吐き捨て、切れた触手で体を支えて息を切らし立ち上がり、吹き飛んだ凶刃を見据えた。
先程の自己再生を行うほどのエネルギーはチャージできていない。
トドメを差すことは可能だが、これ以上の戦闘継続は危険だ。
それこそ深追いし囲まれたら、奴らの思うツボだ。
『凶刃……命拾いしたな……』
これは最早命というより"物"だ。
人の形をした刃。物なら何時でも破壊できる。
追撃を許さぬように怪人の体が毒霧に包まれれば、その姿は消えてしまった。
怪人が去ったあと、後方支援に入った風紀委員二名が連れてきた増援により
消火活動や監視対象の保護が行われることになるだろう。
撒き散らされた毒物は、学園に登録された生徒の異能と同じものだった為
除去することは簡単だった。土壌汚染などには至らなかったが
今も尚、学園都市に脅威は潜んでいるだろう。
追影切人 > 「クソ…が…!」
螺旋の刃が通用しないのならば、と。斬る意志を瞬間的に高めた小細工無しの一閃で止める。ないし斬る。
だが、結果的には相打ちに近い形で双方ダメージを負い、男はといえば辛うじて残っていた瓦礫の欠片に派手に激突して倒れこんでいた。
その程度なら、すぐにでも立ち上がれるのだが…まともに劇毒を全身に浴びたせいか、体が直ぐには動かない。
(クソが、まともに動くのは左腕…いや、腕が一本動けりゃまだ斬れる…!)
左腕の義手代わりのそれは特殊な為か、劇毒で動きが鈍りながらも何とか動く。
だが、その前に彼が撤退を始める気配を感じ取り、無理矢理に顔を上げて。
「おいコラてめぇ!!まだ勝負は付いて――がはっ!?」
最後まで言い終わらぬ内に喀血。びしゃっ、と赤黒い血液が地面に撒き散らされる。
幾ら超人的な身体能力や、常軌を逸した異能と言える斬る意志を持っていれど。
無敵でもなければ何でもない。体の方が劇毒に負け始めているという事実。
それでも、血反吐を吐きながらゆっくりと起き上がろうとするが…。
「待ちや…が……れ…。」
しかし、そのまま前のめりに倒れこんでしまう。徐々に意識が薄れていく中、猛毒の霧に包まれて撤退していく姿が視界の端に映り。
(また…”不完全燃焼”かよ…!!)
ぎりっ、と歯を食いしばるが急に全身から力が抜けるような感覚。
そろそろ毒の回りが本格的にやばいようだ。遠く、風紀が要請した応援が到着するのをかろうじて意識で察しながら。
「……俺は――じゃ、ねぇ…。」
最早、唇を動かすことすらままならぬ。最後の呟きは、途切れて誰にも聞こえる事無く。
そのままブラックアウトする意識――劇毒は除去されたが、病院には担ぎ込まれる羽目になったであろう。
こうして、凶刃と破壊者の激突は、歓楽街の一角を吹き飛ばす形で一先ずは終結した。
ご案内:「歓楽街 燃えるビル群」からパラドックスさんが去りました。<補足:ノースリブジャケットとスキンヘッドが特徴的な男。目が死んでいる。>
ご案内:「歓楽街 燃えるビル群」から追影切人さんが去りました。<補足:風紀委員会警備部の制服、左目に眼帯、左腕の肘先から黒い手袋、22本の無銘刀剣(刀が10本、短刀5本、ナイフ7本)>